二次電池の充電受入れ限界検知方法及びその装置
【課題】二次電池の充電が可能な充電受入れ限界時の充電率を検知する二次電池の充電受入れ限界検知方法及びその装置を提供する。
【解決手段】本実施形態の充電受入れ限界検知方法は、ステップS3で温度測定値Tmが温度閾値Ttより大きく、ステップS4で電圧測定値Vmが電圧閾値Vtより大きく、ステップS11で電圧超過率RVが電圧超過率閾値Rtより大きく、かつステップS12で平均電流Iaが所定の電流閾値範囲内であると判定すると、ステップS13で充電受入れ限界の条件を満たしている条件成立経過時間tcを算出する。そして、ステップS15で条件成立継続時間tcが所定の継続時間閾値ttより長いと判定すると、ステップS16で充電受入れ限界時のSOCを設定する。
【解決手段】本実施形態の充電受入れ限界検知方法は、ステップS3で温度測定値Tmが温度閾値Ttより大きく、ステップS4で電圧測定値Vmが電圧閾値Vtより大きく、ステップS11で電圧超過率RVが電圧超過率閾値Rtより大きく、かつステップS12で平均電流Iaが所定の電流閾値範囲内であると判定すると、ステップS13で充電受入れ限界の条件を満たしている条件成立経過時間tcを算出する。そして、ステップS15で条件成立継続時間tcが所定の継続時間閾値ttより長いと判定すると、ステップS16で充電受入れ限界時のSOCを設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の充電可能な充電率の上限である充電受入れ限界時充電率を検知する二次電池の充電受入れ限界検知方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二次電池(バッテリ)に対するニーズは、近年ますます高まっており、例えば自動車の分野では、二次電池から電源供給を受けて動作する電気機器が多く搭載されるようになるのに伴って、車載用二次電池に対する要求も高くなっている。二次電池に対する要求として、例えば、二次電池を常時使用可能な状態に維持することが求められる。このような要求を満たすために、例えば、二次電池の状態監視を行う装置等が従来より開発されている。
【0003】
二次電池の状態監視の一例として、特許文献1では、二次電池の過渡変化を異なる3つの時定数の成分に分けて近似することで、二次電池の開回路電圧及び残容量を推定する方法が開示されている。このように、二次電池の充電率(SOC:State of Charge)や劣化度(SOH:State of Health)を検知する技術については、従来より多く知られている。さらに、二次電池のSOCを維持するために、例えば車載用二次電池では、オルタネータによる充電を制御する技術が知られている。
【0004】
二次電池では、充電可能な電気容量に上限があり、この上限のSOCを充電受入れ限界時のSOCという。充電受入れ限界時のSOCを有する二次電池に対し、さらに充電を継続してもほとんど充電されることはなく、エネルギーを無駄に消費することになる。また、自動車においては、エンジンへの負荷を不必要に増大させることになり、燃費を低下させてしまう。
【0005】
そこで、このような不必要な充電を回避して燃費を向上させるために、従来より二次電池に対し充電制御が行われている。一般的に従来の充電制御では、SOCが所定の値になるよう、あるいは所定の範囲内になるよう、二次電池の充電を制御する。この充電制御を行う条件となるSOCの値あるいは範囲は、事前に設定された一定値あるいは一定範囲に固定されている。
【0006】
従来の充電制御の方法を、図3を用いて説明する。図3では、従来の充電制御方法を説明するために、充電制御を行ったときのSOCの推移の一例を示している。バッテリの充電率の制御では、SOCが所定の充電制御範囲(図3に示す上限SOC1と下限SOC2との間の範囲)に維持されるように充電電流を制御している(部分充電率制御)。このような充電制御を行うことにより、上限SOC1以上で充電を行うといった不要な発電をなくすことができ、エンジンへの負荷を軽減して燃費を改善することができる。また、バッテリのSOCが下限SOC2以下とならないように充電が行われることから、バッテリの充電状態を適切な状態に維持することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2005−106615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、二次電池は、製品毎にバラツキがあったり劣化状態が異なることから、充電受入れ限界時のSOCも、製品毎に異なったり、劣化状態によって異なってくる。二次電池は、劣化が進むにつれて容量が小さくなっていくため、充電受入れ限界時のSOCも低下していく。そのため、充電制御を行う条件となるSOCの値あるいは範囲が固定されていると、充電受入れ限界時のSOCが低下するのに伴って、充電制御が可能なSOCの範囲も狭くなっていく。また、二次電池の劣化がさらに進むと、充電制御ができなくなってしまうおそれもある。そこで、充電受入れ限界時のSOCを検知して充電制御を行う条件を調整していくのがよいが、充電受入れ限界時のSOCを検知する方法が、従来知られていなかった。
【0009】
図3に示すように、従来のバッテリの充電制御では、充電制御範囲の上限SOC1及び下限SOC2を一定値に固定している。これに対し、バッテリの充電可能な上限のSOC、すなわち充電受入れ限界時のSOCは、図4(a)に例示するように、バッテリの劣化とともに低下していく。図4は、バッテリの充電受入れ限界時のSOCの経時的な変化の一例を示す説明図である。ここで、符号51、52は、それぞれ充電受入れ限界時のSOC、充電可能な充電制御範囲を示している。
【0010】
充電受入れ限界時のSOCの低下は、バッテリの電極板にサルフェーション(硫酸鉛の結晶)が生成され、これが長期間使用する間に硬質化して分解されなくなることによって起こる。分解されないサルフェーションが電極板に増加していくと、電極板の充放電面積が減少し、充電受入れ限界時のSOCの低下につながる。
【0011】
充電受入れ限界時のSOCが図4(a)に示すように低下していくと、予め設定された充電制御範囲の上限SOC1までバッテリを充電することはできず、それより低い充電受入れ限界時のSOC51が充電可能な上限となる。その結果、充電制御範囲52は、下限SOC2以上かつ充電受入れ限界時のSOC51以下となり、制御可能な範囲が狭くなってしまう。
【0012】
バッテリの劣化がさらに進行すると、図4(b)に例示するように、充電受入れ限界時のSOC51は充電制御範囲の下限SOC2より小さくなってしまう。このような状態では、充電制御範囲を確保することはできず、バッテリを常時充電することになってしまう。その結果、エンジンの燃費改善を図ることはできなくなる。バッテリの劣化が進行しても充電制御範囲を確保して充電制御が行えるようにするためには、劣化とともに低下する充電受入れ限界時のSOC51を検知し、それをもとに、図4(c)に例示するように、充電制御範囲を適切に調整していく必要がある。
【0013】
本発明はこれらの問題を解決するためになされたものであり、二次電池の充電が可能な充電受入れ限界時の充電率を検知する二次電池の充電受入れ限界検知方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の二次電池の充電受入れ限界検知方法の第1の態様は、二次電池の充電可能な充電率の上限である充電受入れ限界時の充電率を所定周期の周期動作時点毎に検知する二次電池の充電受入れ限界検知方法であって、前記周期動作時点に達すると、前記二次電池の電圧、電流、及び温度を測定し、前記電流測定値をもとに前記二次電池の充電率を算出し、前記電流測定値の所定期間における平均値に相当する平均電流を算出し、前記電圧測定値が所定の期間に所定の電圧閾値より大きくなる割合を示す電圧超過率を算出し、前記温度測定値が所定の温度閾値より大きく、前記電圧測定値が前記電圧閾値より大きく、前記平均電流が所定の電流閾値範囲内であり、かつ前記電圧超過率が所定の電圧超過率閾値より大きい、の条件を満たすと判定すると、前記条件を継続して満たしている条件成立継続時間を算出し、前記条件成立継続時間が所定の継続時間閾値より長いと判定すると、前記充電率を前記充電受入れ限界時の充電率に設定することを特徴とする。
【0015】
本発明の二次電池の充電受入れ限界検知方法の他の態様は、所定の重み係数をW(0<W<1)とするとき、前記平均電流Iaは、前回の周期動作時点で算出された前記平均電流Ia’と前記電流測定値Imから、次式
Ia=Ia’×(1−W)+Im×W
で算出されることを特徴とする。
【0016】
本発明の二次電池の充電受入れ限界検知方法の他の態様は、1ビットデータである電圧超過判定値とn(2以上の自然数)ビットからなるnビットデータをm(2以上の自然数)個用い、前記電圧超過判定値の値を、前記電圧測定値が前記電圧閾値より大きいとき1、それ以外のとき0に設定し、第1の前記nビットデータを1ビット分だけ右にシフトして左端の先頭ビットに前記電圧超過判定値の値を設定し、前記第1のnビットデータのすべてのビットに前記電圧超過判定値の値が設定されると、第2の前記nビットデータを1ビット分だけ右にシフトし、前記第2のnビットデータの先頭ビットに前記第1のnビットデータの値が1のビット数が所定個数以上のとき1、それ以外のとき0を設定し、前記第1のnビットデータのすべてのビットの値を0にクリアし、以下同様にして第mのnビットデータのすべてのビットに値が設定されると、前記第mのnビットデータの値が1のビット数の割合を前記電圧超過率に設定することを特徴とする。
【0017】
本発明の二次電池の充電受入れ限界検知方法の他の態様は、前記充電率がそれ以前に設定された前記充電受入れ限界時の充電率より大きいと判定すると、前記充電率を前記充電受入れ限界時の充電率に設定することを特徴とする。
【0018】
本発明の二次電池の充電受入れ限界検知装置の第1の態様は、二次電池の充電可能な充電率の上限である充電受入れ限界時の充電率を所定周期の周期動作時点毎に検知する二次電池の充電受入れ限界検知装置であって、前記二次電池の電圧を測定する電圧センサ、電流を測定する電流センサ、及び温度を測定する温度センサを具備する状態検知センサ部と、記憶部と、前記電流センサで測定された電流測定値と前記記憶部に保存された前回の周期動作時点で算出された前回の充電率とから前記周期動作時点での充電率を算出する充電率算出手段と、所定の充電受入れ限界条件を判定してこれを満たすと前記充電受入れ限界時の充電率を出力する充電受入れ限界算出手段と、を有する演算処理部と、を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明の二次電池の充電受入れ限界検知装置の他の態様は、前記充電受入れ限界算出手段は、前記電圧測定値が所定の期間に所定の電圧閾値より大きくなる割合を示す電圧超過率を算出し、前記充電受入れ限界条件として、前記温度測定値が所定の温度閾値より大きく、前記電圧測定値が前記電圧閾値より大きく、前記平均電流が所定の電流閾値範囲内であり、かつ前記電圧超過率が所定の電圧超過率閾値より大きい、の条件を満たしていると判定すると、前記条件を継続して満たしている条件成立継続時間を算出し、前記条件成立継続時間が所定の継続時間閾値より長いと判定すると、前記充電率を充電受入れ限界時の充電率に設定することを特徴とする。
【0020】
本発明の二次電池の充電受入れ限界検知装置の他の態様は、前記演算処理部は、さらに、前記充電受入れ限界算出手段で算出された充電受入れ限界時の充電率をもとに、前記二次電池に対する充電制御範囲を算出する充電制御範囲算出手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、二次電池の充電が可能な充電受入れ限界時の充電率を検知する二次電池の充電受入れ限界検知方法及びその装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る二次電池の充電受入れ限界検知方法を説明するための流れ図である。
【図2】第1実施形態の充電受入れ限界検知装置の構成を示すブロック図である。
【図3】従来の充電制御方法を説明するための説明図である。
【図4】二次電池の充電受入れ限界を説明するための説明図である。
【図5】電圧超過率の算出に用いるデータのメモリ構造の一例を示す説明図である。
【図6】周期を10msとしたときの電圧変化の一例を模式的に示すグラフである。
【図7】SOCをパラメータとしたときの電圧測定値対電流測定値の変化を示すグラフである。
【図8】SOCが約95%のときの電圧測定値対電流測定値の変化を示すグラフである。
【図9】充電受入れ限界に近い状態での電流測定値と平均電流Ia(重み係数W=0.002)の変化を示すグラフである。
【図10】充電受入れ限界に近い状態での電流測定値と平均電流Ia(重み係数W=0.01)の変化を示すグラフである。
【図11】バッテリ10が充電可能な状態での電流測定値と平均電流Ia(重み係数W=0.002)の変化を示すグラフである。
【図12】電圧測定値、電流測定値、SOC、平均電流、及び充電受入れ限界時のSOCの経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の好ましい実施の形態における二次電池の充電受入れ限界検知方法及びその装置について、図面を参照して詳細に説明する。なお、同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。以下では、自動車に搭載される二次電池(バッテリ)を例に本発明の実施形態を説明するが、これに限定されず、充電制御が行われるいずれの二次電池であってもよい。
【0024】
本発明は、バッテリの充電受入れ限界時のSOCを検知する二次電池の充電受入れ限界検知方法及びその装置を提供するものである。また、本発明の別の目的として、検知した充電受入れ限界時のSOCを用いて好適な充電制御範囲を設定する二次電池の充電受入れ限界検知方法及びその装置を提供するものである。
【0025】
本発明の第1の実施の形態に係る二次電池の充電受入れ限界検知方法及びその装置を、図1、図2を用いて以下に説明する。図1は、第1実施形態の充電受入れ限界検知方法を説明するための流れ図であり、図2は、第1実施形態の充電受入れ限界検知装置の構成を示すブロック図である。
【0026】
本実施形態の充電受入れ限界検知装置100は、図2に示すように、状態検知センサ部110と、演算処理部120と、記憶部130を備えている。状態検知センサ部110は、バッテリ10のそれぞれ電圧を測定する電圧センサ111、電流を測定する電流センサ112、及び温度を測定する温度センサ113を備えている。充電受入れ限界検知装置100は、例えばバッテリ10を備えるバッテリ電源システム1内に設けられる。バッテリ10には、発電機(オルタネータ)20と負荷30が接続されており、負荷30に対し必要な電流を供給する一方、発電機20によって充電される構成となっている。
【0027】
演算処理部120は、SOC算出手段121、充電受入れ限界算出手段122、及び充電制御範囲算出手段123を有している。SOC算出手段121は、電流センサ112で測定された電流測定値をもとに、バッテリ10の充電率(SOC)を算出する。充電受入れ限界算出手段122は、本実施形態の充電受入れ限界検知方法を用いて、バッテリ10の充電受入れ限界の条件を満たすときのSOCを算出する。さらに、充電制御範囲算出手段123は、充電受入れ限界算出手段122で算出した充電受入れ限界時のSOCをもとに、バッテリ10に対する充電制御範囲を算出する。
【0028】
本実施形態の充電受入れ限界検知方法では、充電受入れ限界の条件として、以下のものを設けている。
(1)バッテリ10の温度が所定の温度閾値より大きい
(2)バッテリ10の電圧が所定の電圧閾値より大きい
(3)バッテリ10の平均電流が所定の電流閾値範囲内
(4)電圧超過率が所定の電圧超過率閾値より大きい
(5)上記(1)〜(4)の条件成立継続時間が所定の継続時間閾値より長い
上記の各閾値は、事前に記憶部130に記憶されており、これを読み込んで条件成立の判定に用いることができる。
【0029】
充電受入れ限界検知装置100は、起動されたときの起動状態から所定の周期で継続的に動作する走行状態に移行すると、各周期動作時点で状態検知センサ部110を用いてバッテリ10の電圧、電流、及び温度を測定する。また、演算処理部120は、本実施形態の充電受入れ限界検知方法に従って、各周期動作時点で上記の測定値を用いてバッテリ10の充電受入れ限界が成立するときのSOCを算出する。
【0030】
本実施形態の充電受入れ限界検知方法による処理の流れを、図1を用いて以下に説明する。充電受入れ限界検知装置100が走行状態にあるときは、演算処理部120において、以下に説明する処理が所定の周期td(例えば10ms)の周期動作時点で定期的に実行される。まず、ステップS1において、状態検知センサ部110の各センサでバッテリ10の温度測定値Tm、電圧測定値Vm、及び電流測定値Imが取得される。
【0031】
ステップS2では、SOC算出手段121を用いて、バッテリ10のSOCが最新の値に更新される。電流測定値Imが正のときを充電電流とし負のときを放電電流とするとき、SOCの更新は、例えば周期tdの間に電流Imが充放電されるとしたときの容量を、前回の周期動作時点で算出されたSOCに加算することで行うことができる。
【0032】
ステップS3では、温度測定値Tmが温度閾値Ttより大きいかを判定する。温度測定値Tmが温度閾値Tt以下の低温状態では、バッテリ10の充電をほとんど行うことができない。そこで、温度測定値Tmが温度閾値Tt以下のときは、充電受入れ限界を判定するための条件を満たしていないと判定してステップS14に進む。一方、温度測定値Tmが温度閾値Ttより大きいときは、充電受入れ限界の別の条件を判定するためにステップS4に進む。温度閾値Ttは、例えば0℃とすることができる。
【0033】
ステップS4では、電圧測定値Vmが電圧閾値Vtより大きいかを判定する。発明者は、バッテリ10の充電率SOCが、充電受入れ限界に近い状態にあるときは、電圧測定値Vmが14Vに近い値、あるいはそれ以上となることを見出した。そこで、電圧閾値Vtに14Vに近い値を設定し、電圧測定値Vmがそれ以下のときはステップS9の処理を行う一方、電圧測定値Vmが電圧閾値Vtより大きいときは、充電受入れ限界の別の条件を判定するために次のステップS5に進む。電圧閾値Vtは、例えば13.5Vとすることができる。
【0034】
ステップS5では、バッテリ10の平均電流Iaの算出方法を選択するために、前回の周期動作時点で算出した平均電流(Ia’とする)が所定の電流閾値Itより大きいか否かを判定する。平均電流Iaは、ステップS1で取得した電流測定値Imを、それまでの周期動作時点毎に取得した電流測定値と所定の方法で平均化した平均値である。
【0035】
充電受入れ限界検知装置100が走行状態になった直後の平均電流Iaの算出では、それ以前の周期動作時点で算出した平均電流Ia’がないため、別の算出方法を用いる必要がある。そこで、走行状態になった直後の平均電流Iaの算出か否かを判定できるようにするために、走行状態になる前の起動状態のときに平均電流Iaに所定の初期値を設定しておく。この初期値は、電流測定値Imに比べて十分大きい値(桁が大きい値)とする。 また、電流閾値Itには、電流測定値Imに比べて十分大きく、かつ平均電流Iaの初期値より小さい値(平均電流Iaの初期値より小さくこれに近い値)を設定する。
【0036】
平均電流Iaの初期値及び電流閾値Itを上記のように設定しておくことにより、走行状態になった直後の処理では、ステップS5の条件を満たしてステップS6における平均電流Iaの算出が行われる。また、走行状態になった直後の第1回目の周期動作時点で、ステップS3またはステップS4の条件を満たさず、2回目以降の周期動作時点でステップS3及びステップS4の条件を初めて満たしてステップS5に進んだときも、ステップS5の条件を満たしてステップS6における平均電流Iaの算出が行われる。一方、ステップS5の条件を満たさないときは、次にステップS7に進んで別の算出式による平均電流Iaの算出が行われる。
【0037】
ステップS6では、次式により平均電流Iaが算出される。
Ia=Im (1)
また、ステップS7では、次式により平均電流Iaが算出される。
Ia=Ia’×(1−W)+Im×W (2)
ここで、Wは重み係数(0<W<1)を表す。また、式(2)の右辺のIa’は、前回の周期動作時点で算出した平均電流を表す。式(1)は、電流閾値Itより大きい場合に用いられ、電流閾値It以下の場合は式(2)を用いて平均電流Iaの算出が行われる。
【0038】
式(2)を用いた平均電流Iaの算出方法では、平均電流Iaを算出するのに、それまでに取得した電流測定値Imを保存しておく必要はなく、前回の周期動作時点で算出した平均電流Ia’のみを記憶部130に保存しておけばよい。式(2)では、重み係数Wを適切に設定することにより、好ましい平均電流Iaが得られる。式(2)を用いて平均電流Iaを算出することで、必要なメモリ容量が大幅に低減される。
【0039】
ステップS6またはステップS7で平均電流Iaが算出されると、次にステップS8に進み、ステップS4で電圧測定値Vmが電圧閾値Vtより大きいと判定されたことに対応して、電圧超過判定値JVに1を設定する。一方、ステップS4で電圧測定値Vmが電圧閾値Vt以下と判定されたときは、ステップS9で電圧超過判定値JVに0を設定する。電圧超過判定値JVは、0または1の値を持つ1ビットのデータとする。ステップS8またはステップS9で電圧超過判定値JVに1または0が設定されると、次にステップS10に進む。
【0040】
ステップS10では、ステップS8またはステップS9で設定された電圧超過判定値JVを用いて、電圧超過率RVを算出する。電圧超過率を算出する方法を、図5を用いて説明する。図5は、電圧超過判定値JVの値から電圧超過率RVを算出するのに必要となるデータを、少ない容量で記憶部130に記憶させるようにしたメモリ構造の一例を示している。ここでは、電圧超過率算出用データを記憶させるのに、n(自然数)ビットのデータを3個(第1〜第3のnビットデータDT1〜DT3)用いている。nの値として、例えば10とすることができる。
【0041】
第1のnビットデータDT1は、電圧超過判定値JVの値を保存するのに用いている。nビットデータDT1のデータを1ビットだけ右シフトした後、最新の電圧超過判定値JVの値を先頭(左端)のビットに設定する。そして、nビット分(n周期分)の電圧超過判定値JVの値が設定されると、nビットのうち値が1のビット数が所定個数以上あるかを判定する。その結果、値1のビットが所定個数以上あるときは、第2のnビットデータDT2のデータを1ビットだけ右シフトした後、先頭のビットに判定値1を設定する。一方、値1のビットが所定個数未満のときは、同様に右シフトした後先頭のビットに判定値0を設定する。その後、第1のnビットデータDT1の全ビットの値を0にクリアする。なお、上記の所定個数として、nが10のときは、例えば8とすることができる。
【0042】
上記のようにして、第2のnビットデータDT2に1または0の判定値が設定され、nビット分(n×n周期分)の判定値が設定されると、次に第2のnビットデータDT2に対して、nビットのうち値1のビット数が所定個数以上あるかを判定する。その結果、値1のビットが所定個数以上あるときは、第3のnビットデータDT3のデータを1ビットだけ右シフトした後、先頭のビットに判定値1を設定する。一方、値1のビットが所定個数未満のときは、同様に右シフトした後先頭のビットに判定値0を設定する。その後、第2のnビットデータDT1の全ビットの値を0にクリアする。なお、ここでも上記の所定個数として、nが10のときに例えば8とすることができる。
【0043】
上記のように設定された第3のnビットデータDT3は、電圧超過率RVの算出に用いられる。第1〜第3のnビットデータDT1〜DT3は、充電受入れ限界検知装置100が走行状態に移行する前にすべて0にクリアされている。そして、第3のnビットデータDT3のnビットすべてに判定値1または0が設定されるまでは、電圧超過率RVの値を0とする。第3のnビットデータDT3のnビットすべて(n×n×n周期分)に判定値が設定されると、電圧超過率RVの値を算出する。電圧超過率RVは、第3のnビットデータDT3のnビットのうち、値が1のビット数の割合として算出される。一例として、nが10のとき、値1のビットが8個あるときは、電圧超過率RVの値は80%となる。なお、第3のnビットデータDT3のnビットすべてに判定値が設定された後は、1ビットだけ右シフトしたときに最後尾(右端)のビットのデータが廃棄される。
【0044】
上記のように、3つのnビットデータDT1〜DT3を用いることで、n×n×n周期分の電圧超過判定値JVの情報を用いて電圧超過率RVを算出することが可能となる。また、n×n×n周期分の電圧超過判定値JVの情報を記憶部130に保存するのに、3nビット分のメモリを必要とするだけであり、必要なメモリ容量を大幅に低減することが可能となる。
【0045】
nを10とし、周期tdを10msとしたときの電圧変化の一例を、模式的に図6に示す。この場合には、30ビットのメモリを用いて10s(10ms×10×10×10)間の電圧測定値Vmから電圧超過率(図6に示す斜線部分の割合)を算出することができる。なお、ここでは、3つのnビットデータDT1〜DT3を用いているが、これに限定されず、nビットデータの個数を増加または減少させることができる。また、それに伴ってビット数nを減少または増加させることで、上記実施形態と同程度の電圧超過判定値JVの情報量を記憶部130に保存させるようにすることも可能である。
【0046】
ステップS10で電圧超過率RVが算出されると、ステップS11において、電圧超過率RVが電圧超過率閾値Rtより大きいか否かを判定する。その結果、電圧超過率RVが電圧超過率閾値Rtより大きいと判定されると次のステップS12に進む一方、圧超過率RVが電圧超過率閾値Rt以下と判定されるとステップS14に進む。
【0047】
ステップS12では、平均電流Iaが所定の電流閾値範囲内を満たしているかを判定する。ここでは、平均電流Iaが0に近い値となっているかを判定しており、具体的には、負の閾値It1と正の閾値It2を用いて行っている。すなわち、平均電流IaがIt1より大きくかつIt2より小さい電流閾値範囲内であるときに充電受入れ限界の条件を満たしていると判定してステップS13に進み、それ以外のときは充電受入れ限界の条件を満たしていないと判定してステップS14に進む。
【0048】
ステップS13では、充電受入れ限界の条件を満たしてからの経過時間、すなわち条件成立継続時間tcを、tc=tc’+tdで更新する。ここで、右辺のtc’は、前回の周期動作時点で更新された条件成立継続時間である。一方、ステップS14に進んだ場合には、条件成立継続時間tcを0にクリアする。なお、条件成立継続時間tcも、充電受入れ限界検知装置100が走行状態に移行する前に0にクリアしておく。ステップS13で条件成立継続時間tcが更新された後はステップS15に進み、ステップS14で条件成立継続時間tcが0にクリアされた後は、ステップS17に進む。
【0049】
ステップS15では、条件成立継続時間tcが所定の継続時間閾値ttより長いかを判定している。条件成立継続時間tcが所定の継続時間閾値ttより長いと判定されるとステップS16に進み、それ以外のときはステップS17に進む。ステップS16では、充電受入れ限界の条件をすべて満たしたことで、ステップS2で更新したSOCを充電受入れ限界時のSOCに設定し、次にステップS19に進む。
【0050】
一方、いずれかの充電受入れ限界の条件を満たしていないと判定されてステップS17に進むと、ステップS2で更新された最新SOCとそれまでに設定されている充電受入れ限界時のSOCとを比較し、最新SOCがそれまでの充電受入れ限界時のSOCより大きいと判定されるとステップS18に進み、それ以外のときはステップS19に進む。ステップS18では、ステップS2で更新された最新のSOCを充電受入れ限界時のSOCに設定し、次にステップS19に進む。
【0051】
上記のステップS17及びS18の処理は、充電受入れ限界検知装置100による充電受入れ限界時のSOCの周期的な更新が一旦停止され、その後再び再開されたときにSOCがそれ以前より増加している場合には、充電受入れ限界時のSOCを無条件に更新させるようにしたものである。すなわち、ステップS2で更新された最新SOCが前回算出した充電受入れ限界時充電率より大きいときは、充電受入れ限界の条件の成否にかかわらず、充電受入れ限界時のSOCを最新のSOCで更新する。これにより、SOCが増加したときは直ちに充電受入れ限界時の充電率を更新させることが可能となる。
【0052】
ステップS19では、ステップS16またはS18で設定された充電受入れ限界時のSOC、あるいは前回の周期動作時点までに設定された充電受入れ限界時のSOCを用いて、バッテリ10の充電制御範囲を算出する。充電制御範囲は、制御範囲の上限を充電受入れ限界時のSOCとし、それから所定の充電率を減算したものを下限として設定することができる。また、設定された充電制御範囲とステップS2で更新されたSOCから、充電可能容量及び放電可能容量を算出することも可能である。
【0053】
図1に示した本実施形態の充電受入れ限界検知方法の処理の流れにおいて、充電受入れ限界の成立条件として、ステップS4で電圧測定値Vmに対する条件を判定し、ステップS12で平均電流に対する条件を判定している。これは、バッテリ10の電圧及び電流が、SOCによって図7、8に示すような変化を示すことに基づいている。図7は、SOCをパラメータとしたときの電圧測定値対電流測定値の変化を示しており、SOCが30〜50%、50〜80%、80〜90%、及び90〜100%のときの電圧測定値対電流測定値の変化を、それぞれ符号61、62、63、及び64で示している。また図8は、SOCが約95%のときの電圧測定値対電流測定値の変化を示している。
【0054】
図7、8に示すように、バッテリ10のSOCが充電受入れ限界(SOCが90〜1000%)に近づくと、電圧が14Vに近いかそれ以上となり、電流の絶対値が略10A以下になることがわかる。これより、電圧閾値Vtを例えば13.5Vに設定するのが好ましい。
【0055】
また、ステップS7で算出する平均電流Iaとその算出に用いる重み係数Wについて、図9、10、11に示す一例を用いて以下に説明する。図9は、バッテリ10が充電受入れ限界に近い状態で測定した電流測定値Imと、これを重み係数W=0.002として式(2)で算出した平均電流Iaの変化を示す。同様に、図10は、重み係数W=0.01としたときの平均電流Iaの変化を示している。また、図11は、バッテリ10が充電可能な状態で測定した電流測定値Imと、これを重み係数W=0.002として式(2)で算出した平均電流Iaの変化を示す。
【0056】
図9、10より、バッテリ10が充電受入れ限界に近い状態にあるときは、平均電流は0Aに近い値を示すことがわかる。また、図11より、バッテリ10が充電可能な状態にあるときは、充電受入れ限界に近い状態のときに比べて、平均電流が大きくなることがわかる。これより、電流閾値範囲It1〜It2を例えば−1A〜1Aとするのがよい。一方、図10に示す重み係数W=0.01としたときは、平均電流Iaが安定しないことがわかる。これより、重み係数Wを0.002程度とするのが好ましい。
【0057】
本実施形態のバッテリ10の充電受入れ限界検知方法及び充電受入れ限界検知装置を用いて充電受入れ限界時のSOCを算出する一例を、図12を用いて以下に説明する。図12は、バッテリ10の電圧測定値Vm、電流測定値Im、SOC、平均電流Ia、及び充電受入れ限界時のSOCの経時変化を示すグラフである。
【0058】
図12では、横軸の時間t=t1の時点で充電受入れ限界の条件を満たし、これが時間t2の時点を経由して時間t3まで継続する一例を示している。時間t1から時間t2までの継続時間が継続時間閾値ttに等しくなっており、時間t2の時点から時間t3の時点まで充電受入れ限界時のSOCが更新される。充電受入れ限界時のSOCは、時間t2〜t3の各時点でそのときのSOCに変更されている。
【0059】
上記説明の実施形態に示すように、本発明の充電受入れ限界検知方法及びその装置によれば、二次電池の充電が可能な充電受入れ限界の時点における充電率を検知することが可能となり、これにより劣化状態の二次電池でも、その時の状態に応じて充電制御範囲を好適に調整することが可能となる。また、充電制御範囲から、二次電池の現在の充電可能容量や放電可能容量を計算することも可能となる。さらに、充電受入れ限界時の充電率の算出に必要となるメモリ容量を大幅に低減することができ、本発明の充電受入れ限界検知装置を低コストで提供することが可能となる。
【0060】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係る二次電池の充電受入れ限界検知方法及びその装置の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における二次電池の充電受入れ限界検知方法及びその装置の細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 電源システム
10 バッテリ
20 発電機
30 負荷
100 充電受入れ限界検知装置
110 状態検知センサ部
111 電圧センサ
112 電流センサ
113 温度センサ
120 演算処理部
121 SOC算出手段
122 充電受入れ限界算出手段
123 充電制御範囲算出手段
130 記憶部
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の充電可能な充電率の上限である充電受入れ限界時充電率を検知する二次電池の充電受入れ限界検知方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二次電池(バッテリ)に対するニーズは、近年ますます高まっており、例えば自動車の分野では、二次電池から電源供給を受けて動作する電気機器が多く搭載されるようになるのに伴って、車載用二次電池に対する要求も高くなっている。二次電池に対する要求として、例えば、二次電池を常時使用可能な状態に維持することが求められる。このような要求を満たすために、例えば、二次電池の状態監視を行う装置等が従来より開発されている。
【0003】
二次電池の状態監視の一例として、特許文献1では、二次電池の過渡変化を異なる3つの時定数の成分に分けて近似することで、二次電池の開回路電圧及び残容量を推定する方法が開示されている。このように、二次電池の充電率(SOC:State of Charge)や劣化度(SOH:State of Health)を検知する技術については、従来より多く知られている。さらに、二次電池のSOCを維持するために、例えば車載用二次電池では、オルタネータによる充電を制御する技術が知られている。
【0004】
二次電池では、充電可能な電気容量に上限があり、この上限のSOCを充電受入れ限界時のSOCという。充電受入れ限界時のSOCを有する二次電池に対し、さらに充電を継続してもほとんど充電されることはなく、エネルギーを無駄に消費することになる。また、自動車においては、エンジンへの負荷を不必要に増大させることになり、燃費を低下させてしまう。
【0005】
そこで、このような不必要な充電を回避して燃費を向上させるために、従来より二次電池に対し充電制御が行われている。一般的に従来の充電制御では、SOCが所定の値になるよう、あるいは所定の範囲内になるよう、二次電池の充電を制御する。この充電制御を行う条件となるSOCの値あるいは範囲は、事前に設定された一定値あるいは一定範囲に固定されている。
【0006】
従来の充電制御の方法を、図3を用いて説明する。図3では、従来の充電制御方法を説明するために、充電制御を行ったときのSOCの推移の一例を示している。バッテリの充電率の制御では、SOCが所定の充電制御範囲(図3に示す上限SOC1と下限SOC2との間の範囲)に維持されるように充電電流を制御している(部分充電率制御)。このような充電制御を行うことにより、上限SOC1以上で充電を行うといった不要な発電をなくすことができ、エンジンへの負荷を軽減して燃費を改善することができる。また、バッテリのSOCが下限SOC2以下とならないように充電が行われることから、バッテリの充電状態を適切な状態に維持することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2005−106615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、二次電池は、製品毎にバラツキがあったり劣化状態が異なることから、充電受入れ限界時のSOCも、製品毎に異なったり、劣化状態によって異なってくる。二次電池は、劣化が進むにつれて容量が小さくなっていくため、充電受入れ限界時のSOCも低下していく。そのため、充電制御を行う条件となるSOCの値あるいは範囲が固定されていると、充電受入れ限界時のSOCが低下するのに伴って、充電制御が可能なSOCの範囲も狭くなっていく。また、二次電池の劣化がさらに進むと、充電制御ができなくなってしまうおそれもある。そこで、充電受入れ限界時のSOCを検知して充電制御を行う条件を調整していくのがよいが、充電受入れ限界時のSOCを検知する方法が、従来知られていなかった。
【0009】
図3に示すように、従来のバッテリの充電制御では、充電制御範囲の上限SOC1及び下限SOC2を一定値に固定している。これに対し、バッテリの充電可能な上限のSOC、すなわち充電受入れ限界時のSOCは、図4(a)に例示するように、バッテリの劣化とともに低下していく。図4は、バッテリの充電受入れ限界時のSOCの経時的な変化の一例を示す説明図である。ここで、符号51、52は、それぞれ充電受入れ限界時のSOC、充電可能な充電制御範囲を示している。
【0010】
充電受入れ限界時のSOCの低下は、バッテリの電極板にサルフェーション(硫酸鉛の結晶)が生成され、これが長期間使用する間に硬質化して分解されなくなることによって起こる。分解されないサルフェーションが電極板に増加していくと、電極板の充放電面積が減少し、充電受入れ限界時のSOCの低下につながる。
【0011】
充電受入れ限界時のSOCが図4(a)に示すように低下していくと、予め設定された充電制御範囲の上限SOC1までバッテリを充電することはできず、それより低い充電受入れ限界時のSOC51が充電可能な上限となる。その結果、充電制御範囲52は、下限SOC2以上かつ充電受入れ限界時のSOC51以下となり、制御可能な範囲が狭くなってしまう。
【0012】
バッテリの劣化がさらに進行すると、図4(b)に例示するように、充電受入れ限界時のSOC51は充電制御範囲の下限SOC2より小さくなってしまう。このような状態では、充電制御範囲を確保することはできず、バッテリを常時充電することになってしまう。その結果、エンジンの燃費改善を図ることはできなくなる。バッテリの劣化が進行しても充電制御範囲を確保して充電制御が行えるようにするためには、劣化とともに低下する充電受入れ限界時のSOC51を検知し、それをもとに、図4(c)に例示するように、充電制御範囲を適切に調整していく必要がある。
【0013】
本発明はこれらの問題を解決するためになされたものであり、二次電池の充電が可能な充電受入れ限界時の充電率を検知する二次電池の充電受入れ限界検知方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の二次電池の充電受入れ限界検知方法の第1の態様は、二次電池の充電可能な充電率の上限である充電受入れ限界時の充電率を所定周期の周期動作時点毎に検知する二次電池の充電受入れ限界検知方法であって、前記周期動作時点に達すると、前記二次電池の電圧、電流、及び温度を測定し、前記電流測定値をもとに前記二次電池の充電率を算出し、前記電流測定値の所定期間における平均値に相当する平均電流を算出し、前記電圧測定値が所定の期間に所定の電圧閾値より大きくなる割合を示す電圧超過率を算出し、前記温度測定値が所定の温度閾値より大きく、前記電圧測定値が前記電圧閾値より大きく、前記平均電流が所定の電流閾値範囲内であり、かつ前記電圧超過率が所定の電圧超過率閾値より大きい、の条件を満たすと判定すると、前記条件を継続して満たしている条件成立継続時間を算出し、前記条件成立継続時間が所定の継続時間閾値より長いと判定すると、前記充電率を前記充電受入れ限界時の充電率に設定することを特徴とする。
【0015】
本発明の二次電池の充電受入れ限界検知方法の他の態様は、所定の重み係数をW(0<W<1)とするとき、前記平均電流Iaは、前回の周期動作時点で算出された前記平均電流Ia’と前記電流測定値Imから、次式
Ia=Ia’×(1−W)+Im×W
で算出されることを特徴とする。
【0016】
本発明の二次電池の充電受入れ限界検知方法の他の態様は、1ビットデータである電圧超過判定値とn(2以上の自然数)ビットからなるnビットデータをm(2以上の自然数)個用い、前記電圧超過判定値の値を、前記電圧測定値が前記電圧閾値より大きいとき1、それ以外のとき0に設定し、第1の前記nビットデータを1ビット分だけ右にシフトして左端の先頭ビットに前記電圧超過判定値の値を設定し、前記第1のnビットデータのすべてのビットに前記電圧超過判定値の値が設定されると、第2の前記nビットデータを1ビット分だけ右にシフトし、前記第2のnビットデータの先頭ビットに前記第1のnビットデータの値が1のビット数が所定個数以上のとき1、それ以外のとき0を設定し、前記第1のnビットデータのすべてのビットの値を0にクリアし、以下同様にして第mのnビットデータのすべてのビットに値が設定されると、前記第mのnビットデータの値が1のビット数の割合を前記電圧超過率に設定することを特徴とする。
【0017】
本発明の二次電池の充電受入れ限界検知方法の他の態様は、前記充電率がそれ以前に設定された前記充電受入れ限界時の充電率より大きいと判定すると、前記充電率を前記充電受入れ限界時の充電率に設定することを特徴とする。
【0018】
本発明の二次電池の充電受入れ限界検知装置の第1の態様は、二次電池の充電可能な充電率の上限である充電受入れ限界時の充電率を所定周期の周期動作時点毎に検知する二次電池の充電受入れ限界検知装置であって、前記二次電池の電圧を測定する電圧センサ、電流を測定する電流センサ、及び温度を測定する温度センサを具備する状態検知センサ部と、記憶部と、前記電流センサで測定された電流測定値と前記記憶部に保存された前回の周期動作時点で算出された前回の充電率とから前記周期動作時点での充電率を算出する充電率算出手段と、所定の充電受入れ限界条件を判定してこれを満たすと前記充電受入れ限界時の充電率を出力する充電受入れ限界算出手段と、を有する演算処理部と、を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明の二次電池の充電受入れ限界検知装置の他の態様は、前記充電受入れ限界算出手段は、前記電圧測定値が所定の期間に所定の電圧閾値より大きくなる割合を示す電圧超過率を算出し、前記充電受入れ限界条件として、前記温度測定値が所定の温度閾値より大きく、前記電圧測定値が前記電圧閾値より大きく、前記平均電流が所定の電流閾値範囲内であり、かつ前記電圧超過率が所定の電圧超過率閾値より大きい、の条件を満たしていると判定すると、前記条件を継続して満たしている条件成立継続時間を算出し、前記条件成立継続時間が所定の継続時間閾値より長いと判定すると、前記充電率を充電受入れ限界時の充電率に設定することを特徴とする。
【0020】
本発明の二次電池の充電受入れ限界検知装置の他の態様は、前記演算処理部は、さらに、前記充電受入れ限界算出手段で算出された充電受入れ限界時の充電率をもとに、前記二次電池に対する充電制御範囲を算出する充電制御範囲算出手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、二次電池の充電が可能な充電受入れ限界時の充電率を検知する二次電池の充電受入れ限界検知方法及びその装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る二次電池の充電受入れ限界検知方法を説明するための流れ図である。
【図2】第1実施形態の充電受入れ限界検知装置の構成を示すブロック図である。
【図3】従来の充電制御方法を説明するための説明図である。
【図4】二次電池の充電受入れ限界を説明するための説明図である。
【図5】電圧超過率の算出に用いるデータのメモリ構造の一例を示す説明図である。
【図6】周期を10msとしたときの電圧変化の一例を模式的に示すグラフである。
【図7】SOCをパラメータとしたときの電圧測定値対電流測定値の変化を示すグラフである。
【図8】SOCが約95%のときの電圧測定値対電流測定値の変化を示すグラフである。
【図9】充電受入れ限界に近い状態での電流測定値と平均電流Ia(重み係数W=0.002)の変化を示すグラフである。
【図10】充電受入れ限界に近い状態での電流測定値と平均電流Ia(重み係数W=0.01)の変化を示すグラフである。
【図11】バッテリ10が充電可能な状態での電流測定値と平均電流Ia(重み係数W=0.002)の変化を示すグラフである。
【図12】電圧測定値、電流測定値、SOC、平均電流、及び充電受入れ限界時のSOCの経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の好ましい実施の形態における二次電池の充電受入れ限界検知方法及びその装置について、図面を参照して詳細に説明する。なお、同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。以下では、自動車に搭載される二次電池(バッテリ)を例に本発明の実施形態を説明するが、これに限定されず、充電制御が行われるいずれの二次電池であってもよい。
【0024】
本発明は、バッテリの充電受入れ限界時のSOCを検知する二次電池の充電受入れ限界検知方法及びその装置を提供するものである。また、本発明の別の目的として、検知した充電受入れ限界時のSOCを用いて好適な充電制御範囲を設定する二次電池の充電受入れ限界検知方法及びその装置を提供するものである。
【0025】
本発明の第1の実施の形態に係る二次電池の充電受入れ限界検知方法及びその装置を、図1、図2を用いて以下に説明する。図1は、第1実施形態の充電受入れ限界検知方法を説明するための流れ図であり、図2は、第1実施形態の充電受入れ限界検知装置の構成を示すブロック図である。
【0026】
本実施形態の充電受入れ限界検知装置100は、図2に示すように、状態検知センサ部110と、演算処理部120と、記憶部130を備えている。状態検知センサ部110は、バッテリ10のそれぞれ電圧を測定する電圧センサ111、電流を測定する電流センサ112、及び温度を測定する温度センサ113を備えている。充電受入れ限界検知装置100は、例えばバッテリ10を備えるバッテリ電源システム1内に設けられる。バッテリ10には、発電機(オルタネータ)20と負荷30が接続されており、負荷30に対し必要な電流を供給する一方、発電機20によって充電される構成となっている。
【0027】
演算処理部120は、SOC算出手段121、充電受入れ限界算出手段122、及び充電制御範囲算出手段123を有している。SOC算出手段121は、電流センサ112で測定された電流測定値をもとに、バッテリ10の充電率(SOC)を算出する。充電受入れ限界算出手段122は、本実施形態の充電受入れ限界検知方法を用いて、バッテリ10の充電受入れ限界の条件を満たすときのSOCを算出する。さらに、充電制御範囲算出手段123は、充電受入れ限界算出手段122で算出した充電受入れ限界時のSOCをもとに、バッテリ10に対する充電制御範囲を算出する。
【0028】
本実施形態の充電受入れ限界検知方法では、充電受入れ限界の条件として、以下のものを設けている。
(1)バッテリ10の温度が所定の温度閾値より大きい
(2)バッテリ10の電圧が所定の電圧閾値より大きい
(3)バッテリ10の平均電流が所定の電流閾値範囲内
(4)電圧超過率が所定の電圧超過率閾値より大きい
(5)上記(1)〜(4)の条件成立継続時間が所定の継続時間閾値より長い
上記の各閾値は、事前に記憶部130に記憶されており、これを読み込んで条件成立の判定に用いることができる。
【0029】
充電受入れ限界検知装置100は、起動されたときの起動状態から所定の周期で継続的に動作する走行状態に移行すると、各周期動作時点で状態検知センサ部110を用いてバッテリ10の電圧、電流、及び温度を測定する。また、演算処理部120は、本実施形態の充電受入れ限界検知方法に従って、各周期動作時点で上記の測定値を用いてバッテリ10の充電受入れ限界が成立するときのSOCを算出する。
【0030】
本実施形態の充電受入れ限界検知方法による処理の流れを、図1を用いて以下に説明する。充電受入れ限界検知装置100が走行状態にあるときは、演算処理部120において、以下に説明する処理が所定の周期td(例えば10ms)の周期動作時点で定期的に実行される。まず、ステップS1において、状態検知センサ部110の各センサでバッテリ10の温度測定値Tm、電圧測定値Vm、及び電流測定値Imが取得される。
【0031】
ステップS2では、SOC算出手段121を用いて、バッテリ10のSOCが最新の値に更新される。電流測定値Imが正のときを充電電流とし負のときを放電電流とするとき、SOCの更新は、例えば周期tdの間に電流Imが充放電されるとしたときの容量を、前回の周期動作時点で算出されたSOCに加算することで行うことができる。
【0032】
ステップS3では、温度測定値Tmが温度閾値Ttより大きいかを判定する。温度測定値Tmが温度閾値Tt以下の低温状態では、バッテリ10の充電をほとんど行うことができない。そこで、温度測定値Tmが温度閾値Tt以下のときは、充電受入れ限界を判定するための条件を満たしていないと判定してステップS14に進む。一方、温度測定値Tmが温度閾値Ttより大きいときは、充電受入れ限界の別の条件を判定するためにステップS4に進む。温度閾値Ttは、例えば0℃とすることができる。
【0033】
ステップS4では、電圧測定値Vmが電圧閾値Vtより大きいかを判定する。発明者は、バッテリ10の充電率SOCが、充電受入れ限界に近い状態にあるときは、電圧測定値Vmが14Vに近い値、あるいはそれ以上となることを見出した。そこで、電圧閾値Vtに14Vに近い値を設定し、電圧測定値Vmがそれ以下のときはステップS9の処理を行う一方、電圧測定値Vmが電圧閾値Vtより大きいときは、充電受入れ限界の別の条件を判定するために次のステップS5に進む。電圧閾値Vtは、例えば13.5Vとすることができる。
【0034】
ステップS5では、バッテリ10の平均電流Iaの算出方法を選択するために、前回の周期動作時点で算出した平均電流(Ia’とする)が所定の電流閾値Itより大きいか否かを判定する。平均電流Iaは、ステップS1で取得した電流測定値Imを、それまでの周期動作時点毎に取得した電流測定値と所定の方法で平均化した平均値である。
【0035】
充電受入れ限界検知装置100が走行状態になった直後の平均電流Iaの算出では、それ以前の周期動作時点で算出した平均電流Ia’がないため、別の算出方法を用いる必要がある。そこで、走行状態になった直後の平均電流Iaの算出か否かを判定できるようにするために、走行状態になる前の起動状態のときに平均電流Iaに所定の初期値を設定しておく。この初期値は、電流測定値Imに比べて十分大きい値(桁が大きい値)とする。 また、電流閾値Itには、電流測定値Imに比べて十分大きく、かつ平均電流Iaの初期値より小さい値(平均電流Iaの初期値より小さくこれに近い値)を設定する。
【0036】
平均電流Iaの初期値及び電流閾値Itを上記のように設定しておくことにより、走行状態になった直後の処理では、ステップS5の条件を満たしてステップS6における平均電流Iaの算出が行われる。また、走行状態になった直後の第1回目の周期動作時点で、ステップS3またはステップS4の条件を満たさず、2回目以降の周期動作時点でステップS3及びステップS4の条件を初めて満たしてステップS5に進んだときも、ステップS5の条件を満たしてステップS6における平均電流Iaの算出が行われる。一方、ステップS5の条件を満たさないときは、次にステップS7に進んで別の算出式による平均電流Iaの算出が行われる。
【0037】
ステップS6では、次式により平均電流Iaが算出される。
Ia=Im (1)
また、ステップS7では、次式により平均電流Iaが算出される。
Ia=Ia’×(1−W)+Im×W (2)
ここで、Wは重み係数(0<W<1)を表す。また、式(2)の右辺のIa’は、前回の周期動作時点で算出した平均電流を表す。式(1)は、電流閾値Itより大きい場合に用いられ、電流閾値It以下の場合は式(2)を用いて平均電流Iaの算出が行われる。
【0038】
式(2)を用いた平均電流Iaの算出方法では、平均電流Iaを算出するのに、それまでに取得した電流測定値Imを保存しておく必要はなく、前回の周期動作時点で算出した平均電流Ia’のみを記憶部130に保存しておけばよい。式(2)では、重み係数Wを適切に設定することにより、好ましい平均電流Iaが得られる。式(2)を用いて平均電流Iaを算出することで、必要なメモリ容量が大幅に低減される。
【0039】
ステップS6またはステップS7で平均電流Iaが算出されると、次にステップS8に進み、ステップS4で電圧測定値Vmが電圧閾値Vtより大きいと判定されたことに対応して、電圧超過判定値JVに1を設定する。一方、ステップS4で電圧測定値Vmが電圧閾値Vt以下と判定されたときは、ステップS9で電圧超過判定値JVに0を設定する。電圧超過判定値JVは、0または1の値を持つ1ビットのデータとする。ステップS8またはステップS9で電圧超過判定値JVに1または0が設定されると、次にステップS10に進む。
【0040】
ステップS10では、ステップS8またはステップS9で設定された電圧超過判定値JVを用いて、電圧超過率RVを算出する。電圧超過率を算出する方法を、図5を用いて説明する。図5は、電圧超過判定値JVの値から電圧超過率RVを算出するのに必要となるデータを、少ない容量で記憶部130に記憶させるようにしたメモリ構造の一例を示している。ここでは、電圧超過率算出用データを記憶させるのに、n(自然数)ビットのデータを3個(第1〜第3のnビットデータDT1〜DT3)用いている。nの値として、例えば10とすることができる。
【0041】
第1のnビットデータDT1は、電圧超過判定値JVの値を保存するのに用いている。nビットデータDT1のデータを1ビットだけ右シフトした後、最新の電圧超過判定値JVの値を先頭(左端)のビットに設定する。そして、nビット分(n周期分)の電圧超過判定値JVの値が設定されると、nビットのうち値が1のビット数が所定個数以上あるかを判定する。その結果、値1のビットが所定個数以上あるときは、第2のnビットデータDT2のデータを1ビットだけ右シフトした後、先頭のビットに判定値1を設定する。一方、値1のビットが所定個数未満のときは、同様に右シフトした後先頭のビットに判定値0を設定する。その後、第1のnビットデータDT1の全ビットの値を0にクリアする。なお、上記の所定個数として、nが10のときは、例えば8とすることができる。
【0042】
上記のようにして、第2のnビットデータDT2に1または0の判定値が設定され、nビット分(n×n周期分)の判定値が設定されると、次に第2のnビットデータDT2に対して、nビットのうち値1のビット数が所定個数以上あるかを判定する。その結果、値1のビットが所定個数以上あるときは、第3のnビットデータDT3のデータを1ビットだけ右シフトした後、先頭のビットに判定値1を設定する。一方、値1のビットが所定個数未満のときは、同様に右シフトした後先頭のビットに判定値0を設定する。その後、第2のnビットデータDT1の全ビットの値を0にクリアする。なお、ここでも上記の所定個数として、nが10のときに例えば8とすることができる。
【0043】
上記のように設定された第3のnビットデータDT3は、電圧超過率RVの算出に用いられる。第1〜第3のnビットデータDT1〜DT3は、充電受入れ限界検知装置100が走行状態に移行する前にすべて0にクリアされている。そして、第3のnビットデータDT3のnビットすべてに判定値1または0が設定されるまでは、電圧超過率RVの値を0とする。第3のnビットデータDT3のnビットすべて(n×n×n周期分)に判定値が設定されると、電圧超過率RVの値を算出する。電圧超過率RVは、第3のnビットデータDT3のnビットのうち、値が1のビット数の割合として算出される。一例として、nが10のとき、値1のビットが8個あるときは、電圧超過率RVの値は80%となる。なお、第3のnビットデータDT3のnビットすべてに判定値が設定された後は、1ビットだけ右シフトしたときに最後尾(右端)のビットのデータが廃棄される。
【0044】
上記のように、3つのnビットデータDT1〜DT3を用いることで、n×n×n周期分の電圧超過判定値JVの情報を用いて電圧超過率RVを算出することが可能となる。また、n×n×n周期分の電圧超過判定値JVの情報を記憶部130に保存するのに、3nビット分のメモリを必要とするだけであり、必要なメモリ容量を大幅に低減することが可能となる。
【0045】
nを10とし、周期tdを10msとしたときの電圧変化の一例を、模式的に図6に示す。この場合には、30ビットのメモリを用いて10s(10ms×10×10×10)間の電圧測定値Vmから電圧超過率(図6に示す斜線部分の割合)を算出することができる。なお、ここでは、3つのnビットデータDT1〜DT3を用いているが、これに限定されず、nビットデータの個数を増加または減少させることができる。また、それに伴ってビット数nを減少または増加させることで、上記実施形態と同程度の電圧超過判定値JVの情報量を記憶部130に保存させるようにすることも可能である。
【0046】
ステップS10で電圧超過率RVが算出されると、ステップS11において、電圧超過率RVが電圧超過率閾値Rtより大きいか否かを判定する。その結果、電圧超過率RVが電圧超過率閾値Rtより大きいと判定されると次のステップS12に進む一方、圧超過率RVが電圧超過率閾値Rt以下と判定されるとステップS14に進む。
【0047】
ステップS12では、平均電流Iaが所定の電流閾値範囲内を満たしているかを判定する。ここでは、平均電流Iaが0に近い値となっているかを判定しており、具体的には、負の閾値It1と正の閾値It2を用いて行っている。すなわち、平均電流IaがIt1より大きくかつIt2より小さい電流閾値範囲内であるときに充電受入れ限界の条件を満たしていると判定してステップS13に進み、それ以外のときは充電受入れ限界の条件を満たしていないと判定してステップS14に進む。
【0048】
ステップS13では、充電受入れ限界の条件を満たしてからの経過時間、すなわち条件成立継続時間tcを、tc=tc’+tdで更新する。ここで、右辺のtc’は、前回の周期動作時点で更新された条件成立継続時間である。一方、ステップS14に進んだ場合には、条件成立継続時間tcを0にクリアする。なお、条件成立継続時間tcも、充電受入れ限界検知装置100が走行状態に移行する前に0にクリアしておく。ステップS13で条件成立継続時間tcが更新された後はステップS15に進み、ステップS14で条件成立継続時間tcが0にクリアされた後は、ステップS17に進む。
【0049】
ステップS15では、条件成立継続時間tcが所定の継続時間閾値ttより長いかを判定している。条件成立継続時間tcが所定の継続時間閾値ttより長いと判定されるとステップS16に進み、それ以外のときはステップS17に進む。ステップS16では、充電受入れ限界の条件をすべて満たしたことで、ステップS2で更新したSOCを充電受入れ限界時のSOCに設定し、次にステップS19に進む。
【0050】
一方、いずれかの充電受入れ限界の条件を満たしていないと判定されてステップS17に進むと、ステップS2で更新された最新SOCとそれまでに設定されている充電受入れ限界時のSOCとを比較し、最新SOCがそれまでの充電受入れ限界時のSOCより大きいと判定されるとステップS18に進み、それ以外のときはステップS19に進む。ステップS18では、ステップS2で更新された最新のSOCを充電受入れ限界時のSOCに設定し、次にステップS19に進む。
【0051】
上記のステップS17及びS18の処理は、充電受入れ限界検知装置100による充電受入れ限界時のSOCの周期的な更新が一旦停止され、その後再び再開されたときにSOCがそれ以前より増加している場合には、充電受入れ限界時のSOCを無条件に更新させるようにしたものである。すなわち、ステップS2で更新された最新SOCが前回算出した充電受入れ限界時充電率より大きいときは、充電受入れ限界の条件の成否にかかわらず、充電受入れ限界時のSOCを最新のSOCで更新する。これにより、SOCが増加したときは直ちに充電受入れ限界時の充電率を更新させることが可能となる。
【0052】
ステップS19では、ステップS16またはS18で設定された充電受入れ限界時のSOC、あるいは前回の周期動作時点までに設定された充電受入れ限界時のSOCを用いて、バッテリ10の充電制御範囲を算出する。充電制御範囲は、制御範囲の上限を充電受入れ限界時のSOCとし、それから所定の充電率を減算したものを下限として設定することができる。また、設定された充電制御範囲とステップS2で更新されたSOCから、充電可能容量及び放電可能容量を算出することも可能である。
【0053】
図1に示した本実施形態の充電受入れ限界検知方法の処理の流れにおいて、充電受入れ限界の成立条件として、ステップS4で電圧測定値Vmに対する条件を判定し、ステップS12で平均電流に対する条件を判定している。これは、バッテリ10の電圧及び電流が、SOCによって図7、8に示すような変化を示すことに基づいている。図7は、SOCをパラメータとしたときの電圧測定値対電流測定値の変化を示しており、SOCが30〜50%、50〜80%、80〜90%、及び90〜100%のときの電圧測定値対電流測定値の変化を、それぞれ符号61、62、63、及び64で示している。また図8は、SOCが約95%のときの電圧測定値対電流測定値の変化を示している。
【0054】
図7、8に示すように、バッテリ10のSOCが充電受入れ限界(SOCが90〜1000%)に近づくと、電圧が14Vに近いかそれ以上となり、電流の絶対値が略10A以下になることがわかる。これより、電圧閾値Vtを例えば13.5Vに設定するのが好ましい。
【0055】
また、ステップS7で算出する平均電流Iaとその算出に用いる重み係数Wについて、図9、10、11に示す一例を用いて以下に説明する。図9は、バッテリ10が充電受入れ限界に近い状態で測定した電流測定値Imと、これを重み係数W=0.002として式(2)で算出した平均電流Iaの変化を示す。同様に、図10は、重み係数W=0.01としたときの平均電流Iaの変化を示している。また、図11は、バッテリ10が充電可能な状態で測定した電流測定値Imと、これを重み係数W=0.002として式(2)で算出した平均電流Iaの変化を示す。
【0056】
図9、10より、バッテリ10が充電受入れ限界に近い状態にあるときは、平均電流は0Aに近い値を示すことがわかる。また、図11より、バッテリ10が充電可能な状態にあるときは、充電受入れ限界に近い状態のときに比べて、平均電流が大きくなることがわかる。これより、電流閾値範囲It1〜It2を例えば−1A〜1Aとするのがよい。一方、図10に示す重み係数W=0.01としたときは、平均電流Iaが安定しないことがわかる。これより、重み係数Wを0.002程度とするのが好ましい。
【0057】
本実施形態のバッテリ10の充電受入れ限界検知方法及び充電受入れ限界検知装置を用いて充電受入れ限界時のSOCを算出する一例を、図12を用いて以下に説明する。図12は、バッテリ10の電圧測定値Vm、電流測定値Im、SOC、平均電流Ia、及び充電受入れ限界時のSOCの経時変化を示すグラフである。
【0058】
図12では、横軸の時間t=t1の時点で充電受入れ限界の条件を満たし、これが時間t2の時点を経由して時間t3まで継続する一例を示している。時間t1から時間t2までの継続時間が継続時間閾値ttに等しくなっており、時間t2の時点から時間t3の時点まで充電受入れ限界時のSOCが更新される。充電受入れ限界時のSOCは、時間t2〜t3の各時点でそのときのSOCに変更されている。
【0059】
上記説明の実施形態に示すように、本発明の充電受入れ限界検知方法及びその装置によれば、二次電池の充電が可能な充電受入れ限界の時点における充電率を検知することが可能となり、これにより劣化状態の二次電池でも、その時の状態に応じて充電制御範囲を好適に調整することが可能となる。また、充電制御範囲から、二次電池の現在の充電可能容量や放電可能容量を計算することも可能となる。さらに、充電受入れ限界時の充電率の算出に必要となるメモリ容量を大幅に低減することができ、本発明の充電受入れ限界検知装置を低コストで提供することが可能となる。
【0060】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係る二次電池の充電受入れ限界検知方法及びその装置の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における二次電池の充電受入れ限界検知方法及びその装置の細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 電源システム
10 バッテリ
20 発電機
30 負荷
100 充電受入れ限界検知装置
110 状態検知センサ部
111 電圧センサ
112 電流センサ
113 温度センサ
120 演算処理部
121 SOC算出手段
122 充電受入れ限界算出手段
123 充電制御範囲算出手段
130 記憶部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の充電可能な充電率の上限である充電受入れ限界時の充電率を所定周期の周期動作時点毎に検知する二次電池の充電受入れ限界検知方法であって、
前記周期動作時点に達すると、
前記二次電池の電圧、電流、及び温度を測定し、
前記電流測定値をもとに前記二次電池の充電率を算出し、
前記電流測定値の所定期間における平均値に相当する平均電流を算出し、
前記電圧測定値が所定の期間に所定の電圧閾値より大きくなる割合を示す電圧超過率を算出し、
前記温度測定値が所定の温度閾値より大きく、前記電圧測定値が前記電圧閾値より大きく、前記平均電流が所定の電流閾値範囲内であり、かつ前記電圧超過率が所定の電圧超過率閾値より大きい、の条件を満たすと判定すると、前記条件を継続して満たしている条件成立継続時間を算出し、
前記条件成立継続時間が所定の継続時間閾値より長いと判定すると、前記充電率を前記充電受入れ限界時の充電率に設定する
ことを特徴とする二次電池の充電受入れ限界検知方法。
【請求項2】
所定の重み係数をW(0<W<1)とするとき、前記平均電流Iaは、前回の周期動作時点で算出された前記平均電流Ia’と前記電流測定値Imから、次式
Ia=Ia’×(1−W)+Im×W
で算出される
ことを特徴とする請求項1に記載の二次電池の充電受入れ限界検知方法。
【請求項3】
1ビットデータである電圧超過判定値とn(2以上の自然数)ビットからなるnビットデータをm(2以上の自然数)個用い、
前記電圧超過判定値の値を、前記電圧測定値が前記電圧閾値より大きいとき1、それ以外のとき0に設定し、
第1の前記nビットデータを1ビット分だけ右にシフトして左端の先頭ビットに前記電圧超過判定値の値を設定し、
前記第1のnビットデータのすべてのビットに前記電圧超過判定値の値が設定されると、第2の前記nビットデータを1ビット分だけ右にシフトし、前記第2のnビットデータの先頭ビットに前記第1のnビットデータの値が1のビット数が所定個数以上のとき1、それ以外のとき0を設定し、前記第1のnビットデータのすべてのビットの値を0にクリアし、
以下同様にして第mのnビットデータのすべてのビットに値が設定されると、前記第mのnビットデータの値が1のビット数の割合を前記電圧超過率に設定する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の二次電池の充電受入れ限界検知方法。
【請求項4】
前記充電率がそれ以前に設定された前記充電受入れ限界時の充電率より大きいと判定すると、前記充電率を前記充電受入れ限界時の充電率に設定する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の二次電池の充電受入れ限界検知方法。
【請求項5】
二次電池の充電可能な充電率の上限である充電受入れ限界時の充電率を所定周期の周期動作時点毎に検知する二次電池の充電受入れ限界検知装置であって、
前記二次電池の電圧を測定する電圧センサ、電流を測定する電流センサ、及び温度を測定する温度センサを具備する状態検知センサ部と、
記憶部と、
前記電流センサで測定された電流測定値と前記記憶部に保存された前回の周期動作時点で算出された前回の充電率とから前記周期動作時点での充電率を算出する充電率算出手段と、所定の充電受入れ限界条件を判定してこれを満たすと前記充電受入れ限界時の充電率を出力する充電受入れ限界算出手段と、を有する演算処理部と、を備える
ことを特徴とする二次電池の充電受入れ限界検知装置。
【請求項6】
前記充電受入れ限界算出手段は、
前記電圧測定値が所定の期間に所定の電圧閾値より大きくなる割合を示す電圧超過率を算出し、
前記充電受入れ限界条件として、前記温度測定値が所定の温度閾値より大きく、前記電圧測定値が前記電圧閾値より大きく、前記平均電流が所定の電流閾値範囲内であり、かつ前記電圧超過率が所定の電圧超過率閾値より大きい、の条件を満たしていると判定すると、前記条件を継続して満たしている条件成立継続時間を算出し、
前記条件成立継続時間が所定の継続時間閾値より長いと判定すると、前記充電率を充電受入れ限界時の充電率に設定する
ことを特徴とする請求項5に記載の二次電池の充電受入れ限界検知装置。
【請求項7】
前記演算処理部は、さらに、
前記充電受入れ限界算出手段で算出された充電受入れ限界時の充電率をもとに、前記二次電池に対する充電制御範囲を算出する充電制御範囲算出手段を有する
ことを特徴とする請求項5または6に記載の二次電池の充電受入れ限界検知装置。
【請求項1】
二次電池の充電可能な充電率の上限である充電受入れ限界時の充電率を所定周期の周期動作時点毎に検知する二次電池の充電受入れ限界検知方法であって、
前記周期動作時点に達すると、
前記二次電池の電圧、電流、及び温度を測定し、
前記電流測定値をもとに前記二次電池の充電率を算出し、
前記電流測定値の所定期間における平均値に相当する平均電流を算出し、
前記電圧測定値が所定の期間に所定の電圧閾値より大きくなる割合を示す電圧超過率を算出し、
前記温度測定値が所定の温度閾値より大きく、前記電圧測定値が前記電圧閾値より大きく、前記平均電流が所定の電流閾値範囲内であり、かつ前記電圧超過率が所定の電圧超過率閾値より大きい、の条件を満たすと判定すると、前記条件を継続して満たしている条件成立継続時間を算出し、
前記条件成立継続時間が所定の継続時間閾値より長いと判定すると、前記充電率を前記充電受入れ限界時の充電率に設定する
ことを特徴とする二次電池の充電受入れ限界検知方法。
【請求項2】
所定の重み係数をW(0<W<1)とするとき、前記平均電流Iaは、前回の周期動作時点で算出された前記平均電流Ia’と前記電流測定値Imから、次式
Ia=Ia’×(1−W)+Im×W
で算出される
ことを特徴とする請求項1に記載の二次電池の充電受入れ限界検知方法。
【請求項3】
1ビットデータである電圧超過判定値とn(2以上の自然数)ビットからなるnビットデータをm(2以上の自然数)個用い、
前記電圧超過判定値の値を、前記電圧測定値が前記電圧閾値より大きいとき1、それ以外のとき0に設定し、
第1の前記nビットデータを1ビット分だけ右にシフトして左端の先頭ビットに前記電圧超過判定値の値を設定し、
前記第1のnビットデータのすべてのビットに前記電圧超過判定値の値が設定されると、第2の前記nビットデータを1ビット分だけ右にシフトし、前記第2のnビットデータの先頭ビットに前記第1のnビットデータの値が1のビット数が所定個数以上のとき1、それ以外のとき0を設定し、前記第1のnビットデータのすべてのビットの値を0にクリアし、
以下同様にして第mのnビットデータのすべてのビットに値が設定されると、前記第mのnビットデータの値が1のビット数の割合を前記電圧超過率に設定する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の二次電池の充電受入れ限界検知方法。
【請求項4】
前記充電率がそれ以前に設定された前記充電受入れ限界時の充電率より大きいと判定すると、前記充電率を前記充電受入れ限界時の充電率に設定する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の二次電池の充電受入れ限界検知方法。
【請求項5】
二次電池の充電可能な充電率の上限である充電受入れ限界時の充電率を所定周期の周期動作時点毎に検知する二次電池の充電受入れ限界検知装置であって、
前記二次電池の電圧を測定する電圧センサ、電流を測定する電流センサ、及び温度を測定する温度センサを具備する状態検知センサ部と、
記憶部と、
前記電流センサで測定された電流測定値と前記記憶部に保存された前回の周期動作時点で算出された前回の充電率とから前記周期動作時点での充電率を算出する充電率算出手段と、所定の充電受入れ限界条件を判定してこれを満たすと前記充電受入れ限界時の充電率を出力する充電受入れ限界算出手段と、を有する演算処理部と、を備える
ことを特徴とする二次電池の充電受入れ限界検知装置。
【請求項6】
前記充電受入れ限界算出手段は、
前記電圧測定値が所定の期間に所定の電圧閾値より大きくなる割合を示す電圧超過率を算出し、
前記充電受入れ限界条件として、前記温度測定値が所定の温度閾値より大きく、前記電圧測定値が前記電圧閾値より大きく、前記平均電流が所定の電流閾値範囲内であり、かつ前記電圧超過率が所定の電圧超過率閾値より大きい、の条件を満たしていると判定すると、前記条件を継続して満たしている条件成立継続時間を算出し、
前記条件成立継続時間が所定の継続時間閾値より長いと判定すると、前記充電率を充電受入れ限界時の充電率に設定する
ことを特徴とする請求項5に記載の二次電池の充電受入れ限界検知装置。
【請求項7】
前記演算処理部は、さらに、
前記充電受入れ限界算出手段で算出された充電受入れ限界時の充電率をもとに、前記二次電池に対する充電制御範囲を算出する充電制御範囲算出手段を有する
ことを特徴とする請求項5または6に記載の二次電池の充電受入れ限界検知装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−163789(P2011−163789A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23733(P2010−23733)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】
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