説明

人工藻、人工藻場およびその造成方法

【課題】 特に、小規模の河川、池あるいは湖沼に適用して好適で、簡易な構造で取扱い性が良く、藻場機能として優れた生物増殖機能を有する新しい人工藻、人工藻場およびその造成方法を提供する。
【解決手段】 重錘を兼ねる基体1と、基体1に係留された索条体2と、索条体2に取り付けられた炭素繊維からなる単糸開繊接触枝4と、索条体の上部に取付けた浮体3からなり、水中に投下する如くなした人工藻10、水深より低い全高を有する人工藻10を密集して水中に投下した藻場およびその造成方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、漁礁あるいは水環境浄化に寄与する人工藻、人工藻場またその造成方法に係り、特に、比較的水深の浅い河川、池あるいは湖沼に用いるに適したものに関する。
【0002】
【従来の技術】水棲動物特に魚類の生育環境の回復あるいは水質浄化に寄与するものとして、各種人工漁礁(底置型、浮型など)、また、一種の人工漁礁でもある、水中食物連鎖の根幹となる藻場を人工的に形成した人工藻場については現在まで数多くの提案がなされている。
【0003】例えば、特開平8-23820号公報に記載された可動漁礁は浮上部と底置型の漁礁部と浮上部から垂下される着藻網からなるものであるが、古タイヤを用いたかなり大がかりものであり、比較的小さな河川、池あるいは湖沼に適用するには困難が伴う上、いわゆる、藻類が繁茂した藻場としての機能は小さいとおもわれる。さらには、この可動漁礁を設置した水域では水上交通が阻害される問題もある。
【0004】また、特開平8-266184号公報には、生物親和性に優れた炭素繊維を結束して藻様に揺動できるようにした人工藻場が提案されている。しかし、ここでは炭素繊維はストランドとして用いられているため、食物連鎖の根幹を形成する各種微生物あるいは微小動物の増殖が必ずしも十分ではない。また、この技術においては、各種結束炭素繊維ストランドを多数本並置し、これを水面上の浮体で支持するものであるから構造が複雑になり、また、藻場造成作業の際困難を伴う上、水上交通を阻害する問題もある。
【0005】さらに、特開平9-107843号公報では、水草や藻などが付着する付着用部材をコンクリートブロックに取付けた人工漁礁において、付着用部材として炭素繊維紐状体を網状に構成し、各交点を比重の小さいブロック状樹脂塊で固定したものが提案されている。このものも、特開平8-266184号公報に記載のものと同様炭素繊維を用いてはいるが紐状体として用いているため前記の通り、付着材としては、各種微生物あるいは微小動物の増殖が必ずしも十分ではない。また、コンクリートブロックに網状部材を取付けているため取扱いが困難であり、また、藻場の造成作業も必ずしも容易ではない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、以上述べたごとき各種従来技術の問題を解決したものであって、簡易な構造で取扱い性が良く、藻場機能として優れた生物増殖性能を有する新しい人工藻、人工藻場およびその造成方法を提供するものあり、特に、小規模の河川、池あるいは湖沼に適用して好適なものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決する手段として、本発明の人工藻は、重錘を兼ねる基体と、該基体に係留された索条体と、該索条体に取り付けられた炭素繊維からなる単糸開繊接触枝と、前記索条体の上部に取付けた浮体からなり、水中に投下する如くなしたことを特徴とし、また、人工藻場は、水深より低い全高を有する前記人工藻を多数密集して水中に沈設し、水上交通を可能となしたことを特徴とし、さらに人工藻場の造成方法においては、水深より低い全高を有する前記人工藻を水面より投下して人工藻場を形成し、水上交通を可能としたことを特徴とする。
【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る人工藻の一実施形態の模式的斜視図であり、水中で浮力で自立した状態を示している。図2は、図1の人工藻に用いる単糸開繊接触枝の説明図、図3は、本発明の人工藻場およびその造成方法の説明図、図4は本発明に係る他の実施形態の人工藻の使用方法の説明図であり、水中で浮力で自立した状態を示している。
【0009】図1において、1は、重錘を兼ねる基体である。基体1は、かまぼこ状に凸に膨らんだ形で、水底と基体1の間に多少の空間が形成されるようになされ、また、基体1には複数の通水孔1aが形成される。
【0010】2は、基体1に係留された索条体であり、炭素繊維から形成されるロープが好適に用いられる。炭素繊維からなる索条体2は、強度、耐久性とともに生物親和性が良好で環境親和性もあり好ましい。
【0011】3は、索条体2の上端部に取付具3aを介して取付けられた球状の浮体であり、比重が水より小さい材質を用いたもの、あるいは、中空のものなど任意の浮体を用いることができる。
【0012】4は、索条体2に間隔を持って取付けられた炭素繊維からなる単糸開繊接触枝であり、索条体2を幹と見たとき張出す枝のように取付けられる。この単糸開繊接触枝4は、市販の炭素繊維から作られ、図2に示すように、極細の単糸を多数本サイジング剤で固めた炭素繊維の糸条を複数本まとめ糸条束となし、所定の長さに切断したもののサイジング剤を除去してその一端を接着剤などで固め(図2の4a参照)、他端の自由端からこの糸条束の単糸を傘状にさばいたもの(本発明にいう単糸開繊)である。
【0013】次に、この人工藻を用いた藻場およびその造成方法について述べる。図3に示したように、本発明の人工藻10を用いて藻場を造成する際は、藻場を造成する河川、池あるいは湖沼などの水深より低い全高を有する人工藻を予め用意し、水面に浮かんだ船(図示せず)から順次人工藻を投下し、人工藻を密集して沈設し藻場を形成する。水中に投下された各人工藻10は、重錘あるいはアンカーの働きをする基体1の重みで沈降するとともに浮体3の浮力で水中では垂直方向に自立した状態で林立して人工藻場を構成する。
【0014】基体1には通水孔1aを形成しているので、人工藻10の沈降の際通水孔1aから水が抜けるようになり、基体1が揺れたり、踊ったりすることなく直下に沈降するので位置が決めやすい。また、沈設した後は、水底と基体1の間に形成される空間に水中の幼生などが入り込むための入口ともなる。
【0015】さて、水中に投下され、自立し、林立して藻場を形成する人工藻10の単糸開繊接触枝4は、前述の如く炭素繊維を単糸に開繊したものであるが、この単糸開繊接触枝4は、従来の各種接触材とは異なり、バクテリアあるいは微生物の付着性が格段に優れていることが実験的に確かめられている。同じ炭素繊維であっても単糸レベルに開繊されていないものとの比較において各種微生物の付着量および質(活性)において顕著な差を生じる。
【0016】従って、水中での食物連鎖の基礎である各種微生物が、この接触枝4に付着、包括され、これに伴いより上位の捕食者である各水棲動物の食物連鎖が完成し、魚類の繁殖、増殖が促進される。また、同時に、各種微生物(活性汚泥)の働きにより水中の汚濁物質の分解が行われ、環境浄化に寄与する。また、この炭素繊維の単糸開繊接触枝は、水棲動物に限らず、日光の届く水深であれば、植物の生育基盤ともなり、各種藻類、水生植物の成長、繁茂も促進し、人工藻場が自然の藻場に変容するのである。
【0017】なお、人工藻場の基本的構成材である炭素繊維の単糸開繊接触枝を形成する炭素繊維の糸条束の長さは、10〜30cmが好ましく、これより短いと水中での単繊維の広がり、揺動が十分でなく、水中微生物が付着しにくい。また、これより長いと単糸の開繊が難しい上取扱いが困難である。
【0018】また、単糸の本数についていえば、単糸総計48000〜192000本の糸条束が使用でき、あまり本数が少ないと十分な容量の水中微生物を付着させることができず、また、あまりに多いと単糸開繊が難しい上その取扱いも困難になる。
【0019】さらに、単糸の太さについていえば、単糸が細いほど容積あたりの水中微生物の付着面積は大きく取れるが単糸に開繊した場合の強度、剛性が不足し形態維持能力に欠ける。また、太すぎると表面積が不足し、傘状(あるいは海月状)に開繊することが困難になる。通常市販の炭素繊維を使用できるが、単糸径としては3〜10μmが好ましい。
【0020】単糸開繊接触枝の形態についていえば、水中で傘状の形態を維持し、各構成単糸が広がりを持っておれば良いので必ずしも各単糸が完全にさばけて、単糸一本一本が離隔している必要はなく、多少複数の単糸が束となっていても実用上は問題がない、むしろ、強度上はある程度の単糸が固まってさばけている方が好ましい。
【0021】また、単糸開繊の方法としては、例えば、一端が閉じられ他端が開口した筒状の耐熱容器を用い、一端を結束した炭素繊維の糸条束の結束部を容器の閉鎖端に保持し、自由端側からガスバーナで炙り、糸条束のサイジング剤を焼き取るとともに高温ガスで開繊する方法を取ることができる。
【0022】なお、人工藻の作用の上で各単糸の水中での揺動が微生物の付着に大きな効果をもたらすので人工藻があたかも自然藻が水中で揺れ動くごとき動きをする必要があり、このためには単糸開繊接触枝を保持する索条体自体も柔軟性のあるものが望ましい。
【0023】以上説明の人工藻にあっては、浮体3を索条体2の上端部に固定し、人工藻10の全高(水中で自立した際の高さ)を一定にしたものを示し、また、これを用いた人工藻場およびその造成方法を説明した。しかし、人工藻場を造成する水域の水深が変化している場合は、異なる全高の人工藻を準備する必要が生じる。しかし、多くの種類の全高の人工藻を準備し、藻場を造成することは煩瑣であり、経済的でもない。
【0024】このような場合は、図4に示すように、人工藻11の索条体20に浮体30を着脱自在に取付けるようにし、人工藻11の投下地点の水深に応じて、浮体30の取付位置を変えて人工藻の全高を変更して投下すれば良い。図4(a)は、全高を示し、(b)は中位の高さ、また(c)は低位の高さを例示する。この場合、索条体20としては図4に示すように浮体取付部で折れ曲るよう柔軟な材質のものを用いる。
【0025】なお、図4は、水中自立した場合の人工藻11の形態を模式的に示したものであり、図1のものと同一の機能名称のものは同じ符号で示した。また、図4では、浮体30の索条体20への取付方法については詳細を略したが、浮体30の取付部材30aを索条体20にクランプする方法あるいは取付部材30aに取付環を形成し、これをスライドさせる方式など任意の手段を採用できる。
【0026】なお、本発明の人工藻の基体材質としては、表面を燻した瓦(素焼きを表面保護したもの)が、製造性、環境親和性、経済性などを加味し好ましいものである。上述の実施形態の説明においては基体形状としてかまぼこ型のものを示した。このように水底で何らかの閉鎖空間を形成すれば、水中の幼生の保護スペースとして機能し、好適であるが、基体の形状はこれに限るものではなく、皿型、お椀型あるいは中空ブロック型など、沈降性が良く、重錘あるいはアンカー機能を有し、索条体を係留できるものであれば良い。
【0027】索条体としては、炭素繊維のものを示したが、これに限らず、場合によっては他の天然素材あるいは人工素材を用いることもでき、耐久性に優り、環境親和性の高いものであれば任意の材料、構造のものを用いることができるが、前述の通り水中での円滑な揺動が可能なように柔軟性のあるものが望ましい。
【0028】浮体についていえば、その材質あるいは構造、形状に特に制約はないが、長期にわたって使用する以上、耐久性に優れ、環境親和性の良いものが好ましく、たとえば、表面を耐水コーティングした木材あるいは木炭などを用いれば、耐久性にも優れ、耐用期限後放置しても環境を汚染せず好ましい。
【0029】また、人力投入の場合、基体の大きさ、重量と浮体の大きさ、浮力などは、人工藻全体としての取扱い性と、適度の沈降速度と、水中での自立保持性を勘案して定める。基体重量と浮体の浮力の差すなわち重錘機能としての大きさは、単糸開繊接触枝を含む人工藻の索条体の部分の水中重量あるいは水中での水の流れの有無などを考慮して適宜定める。機械投入の場合は、人工藻の大きさ、重さを考慮する必要は小さいが、逆に、投入装置との取合い、把持部分の構造に配慮する必要がある。
【0030】
【発明の効果】本発明によれば、本発明の人工藻は、重錘を兼ねる基体と、該基体に係留された索条体と、該索条体に取り付けられた炭素繊維からなる単糸開繊接触枝と、前記索条体の上部に取付けた浮体からなり、水中に投下する如くなしたことを特徴とし、また、人工藻場は、水深より低い全高を有する前記人工藻を多数密集して水中に沈設し、水上交通を可能となしたことを特徴とし、さらに人工藻場の造成方法においては、水深より低い全高を有する前記人工藻を水面より投下して人工藻場を形成し、水上交通を可能としたことを特徴としているので、比較的小規模で能力の高い人工藻場を容易に造成でき、また、人工藻場として食物連鎖の形成能力(生物環境整備)および水環境改善能力に優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る人工藻の一実施形態の模式的斜視図である。
【図2】図1の人工藻に用いる単糸開繊接触枝の説明図である。
【図3】本発明の人工藻場およびその造成方法の説明図である。
【図4】本発明に係る他の実施形態の人工藻の使用方法の説明図である。
【符号の説明】
1 基体
2、20 索条体
3、30 浮体
4 単糸開繊接触枝
10、11 人工藻

【特許請求の範囲】
【請求項1】重錘を兼ねる基体と、該基体に係留された索条体と、該索条体に取り付けられた炭素繊維からなる単糸開繊接触枝と、前記索条体の上部に取付けた浮体からなり、水中に投下する如くなしたことを特徴とする人工藻。
【請求項2】前記基体が、通水孔を有する皿状の燻し瓦である請求項1に記載の人工藻。
【請求項3】前記索条体に前記浮体を着脱自在に取付け、前記浮体の取付位置を可変となした請求項1または2に記載の人工藻。
【請求項4】前記索条体が炭素繊維からなる請求項1、2または3に記載の人工藻。
【請求項5】水深より低い全高を有する請求項1、2、3または4に記載の人工藻を多数密集して水中に沈設し、水上交通を可能となしたことを特徴とする人工藻場。
【請求項6】水深より低い全高を有する請求項1、2、3または4に記載の人工藻を水面より投下して水上交通を可能とした人工藻場を形成することを特徴とする人工藻場の造成方法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【公開番号】特開2000−228928(P2000−228928A)
【公開日】平成12年8月22日(2000.8.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−33381
【出願日】平成11年2月10日(1999.2.10)
【出願人】(398037206)協同組合ぐんま環境技術コンソーシアム (2)
【Fターム(参考)】