説明

低級オレフィンの製造方法

【解決手段】本発明の低級オレフィンの製造方法では、ジメチルエーテルを含む原料ガスと希釈ガスとからなり、総量中におけるスチームの割合が5〜30vol%の範囲であるフィードガスを、オレフィン製造反応器内に導入し、ゼオライト触媒に接触させて、C2〜C5オレフィンを含む炭化水素生成物を製造し、得られた炭化水素生成物からプロピレン等を分離して回収し、前記炭化水素生成物からプロピレン等を分離した残分の少なくとも一部を、前記希釈ガスの少なくとも一部として用いる。
【効果】本発明によれば、ゼオライト触媒の一時失活までの時間が長く、触媒の永久失活が少なく、経済的に、高いプロピレン選択率で、ジメチルエーテルを含む原料から低級オレフィンを収率よく製造する方法を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジメチルエーテルを含む原料ガスから、ゼオライト触媒を用いて低級オレフィンを製造する方法であって、ゼオライト触媒の失活を抑制するとともに、再生したゼオライト触媒の失活をも効果的に抑制し得る低級オレフィンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ジメチルエーテル、またはジメチルエーテルとメタノールとの混合物を、ゼオライト触媒に接触させて脱水反応を行い、エチレン、プロピレンを含む低級オレフィンに転化する方法が知られている。
【0003】
この方法では、ジメチルエーテルを含む原料ガスをゼオライトに供給しながら継続的に脱水反応を行っていくが、析出した炭素質がゼオライトの細孔表面に経時的に付着して、反応に対して有効に作用する活性点が被毒されるため、ゼオライト触媒が次第に失活する(一時失活)という問題がある。したがって、活性が低下したゼオライト触媒を再生して、活性を回復させる操作を繰り返す必要がある。
【0004】
このため、低級オレフィンの生産効率およびコストの点から、経時的な触媒活性の低下を抑制して、ゼオライト触媒の寿命を向上させることが検討されてきた。
ここで、問題となる失活には先述した一時失活の他に、後述するように永久失活がある。一時失活は、炭素質の蓄積による触媒活性点の被毒であり、空気焼成により再生が可能である。一方、永久失活は、スチームや熱への暴露を原因とした脱アルミニウムによる活性点の消失であり、不可逆的構造変化のため再生は不可能である。
【0005】
メタノールおよびジメチルエーテル(DME)からゼオライト触媒の存在下に低級オレフィンを製造する際においては、
メタノール→ジメチルエーテル→オレフィン→芳香族化合物→炭素質
という経路で逐次的に反応が進行して炭素質が生成すると考えられる。このような反応による炭素質の生成を抑制し、また、熱損傷による触媒の劣化を抑制するためには、触媒層の過度な温度上昇を防ぐことが望ましく、反応熱の除去が効果的である。また、反応熱の除去は、装置を安全に運転する観点からも重要である。このため、触媒層の温度上昇を低減させるために、種々の方法が提案されている。
【0006】
たとえば、低級オレフィンを製造する反応器に導入する前に、予めメタノールをジメチルエーテルに転化する反応器を設置し、反応を二段階に分割することで触媒層温度の上昇を低減する方法が採用されている。また、原料ガス中に希釈ガスを添加して温度上昇を低減させる方法も採用されており、例えば特許文献1には、希釈ガスとして、水素、ヘリウ
ム、窒素、二酸化炭素、C1〜C7飽和炭化水素をメタノール原料に対して2〜20倍量添加する例が示されている。
【0007】
原料ガスを希釈して、原料ガス分圧を低減させると、触媒層の温度上昇を抑制できるだけではなく、生成したオレフィンがさらに逐次的に反応するのを抑制でき、低級オレフィンの収率向上にも寄与する場合があることが知られており、希釈ガスとして多量のスチームを用いる方法が広く採用されている。商業プロセスにおいては、オレフィン製造反応器の後段に、分離プロセスを配置する必要があるが、スチームは他の希釈ガスに比べて分離が容易であり、また、原料ガスの脱水反応によって水が副生することから、リサイクルして使用できることも、スチームを希釈ガスとして使用する需要の要因である。例えば特許文献2には、フィード中のスチーム分圧40〜80vol%として低級オレフィンの製造
を行うことが記載されている。
【0008】
しかしながら、高濃度のスチームの添加では、炭素質の析出が緩和され、ゼオライト触媒の一時失活までの時間は延びるものの、再生後に十分な触媒活性・寿命が得られないという問題がある。これは、触媒の活性点を形成している骨格アルミニウムがスチームの存在によってゼオライト骨格構造から脱離し、再生不可能な失活(永久失活)が引き起こされているためと考えられる。
【0009】
さらには、先述のように低級オレフィンを製造する反応器の前段に設置したメタノールからジメチルエーテルに転化する反応器で生成したスチームに加え、希釈ガスとして更なるスチームを添加する場合には、スチームを発生させるために多大な蒸発エネルギーを必要とするためプロセス全体の熱効率が低下する。また、スチームの発生設備が必要となるため装置構成が複雑になりプロセス建設コストが上昇する。装置の運転が複雑化するといった問題も有している。
【0010】
また、炭素質の析出による触媒の一時失活を抑制するその他の方法として、触媒の改良も検討されている。たとえば、ZSM−5中のSi/Al比を増大させるか、塩基性の金属を担持して酸点の一部を被毒することにより、触媒上の活性点の密度を小さくする方法が知られている。
【0011】
しかしながら、これらのいずれの方法を採用しても、経時的な触媒上への炭素質の析出による活性低下(一時失活)は避けられず、定期的に炭素を燃焼除去させて触媒を再生する必要がある。
【0012】
このような状況において、触媒上への炭素質析出を抑制してゼオライト触媒の一時失活までの時間を長くするとともに、触媒の永久失活が少なく、再生後の触媒が十分な活性を長時間保持し、しかも低コストで低級オレフィン、特にプロピレンを収率よく製造できるような、ジメチルエーテルを含む原料から低級オレフィンを製造する方法の出現が強く望まれていた。
【0013】
本願出願人は、ジメチルエーテルを含む原料ガス中に二酸化炭素を添加することにより、蓄積炭素量を減少させる方法をすでに提案している(特許文献3参照)。この方法では、炭酸ガスによる析出炭素質のガス化により、触媒上への炭素質の蓄積が低減されるものと考えられ、触媒の永久失活を促進することなく、触媒上への炭素質の析出を抑制し、触媒の再生周期の長期化を達成している。
【0014】
そして、さらなる鋭意研究の結果、希釈ガスにリサイクルガスを用い、しかも触媒層に流通させるフィードガス中のスチーム量と、C4および/またはC5オレフィン量を仔細に制御することにより、触媒上への炭素質の析出による一時失活を効果的に抑制し、脱アルミニウムによる永久失活も低減させることができ、経済的に、プロピレンの収率よく低級オレフィンを製造し得ることを見出して、本発明を完成するに至った。
【特許文献1】米国特許第4083888号公報
【特許文献2】特表2003−535069号公報
【特許文献3】特開2005−104912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、触媒上への炭素質析出を抑制してゼオライト触媒の一時失活までの時間を長くするとともに、触媒の永久失活を抑制して、経済的に、低級オレフィン、特にプロピレンを収率よく製造でき、水のリサイクル量を低減してプロセスの熱効率を高め、かつ水の
リサイクルとスチーム発生に関する設備の削除あるいは大幅な小型化および運転操作の簡略化を可能とする、ジメチルエーテルを含む原料から低級オレフィンを製造する方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の低級オレフィンの製造方法は、ジメチルエーテルを含む原料ガスと希釈ガスとからなり、総量中におけるスチームの割合が5〜30vol%の範囲であるフィードガスを、オレフィン製造反応器内に導入し、原料ガスを反応器内でゼオライト触媒に接触させて、C2〜C5オレフィンを含む炭化水素生成物を製造し、得られた炭化水素生成物から、プロピレンおよび必要に応じてエチレンを分離して回収し、前記炭化水素生成物からプロピレンおよび必要に応じてエチレンを分離した残分の少なくとも一部を、前記希釈ガスの少なくとも一部として用いることを特徴としている。
【0017】
本発明の低級オレフィンの製造方法では、直列、並列、またはこれらを組み合わせた形式で接続された、複数のオレフィン製造反応器を用いることが好ましい。
本発明の低級オレフィンの製造方法では、前記原料ガスが、ジメチルエーテルとメタノールとを含むガスであることが好ましい。
【0018】
本発明の低級オレフィンの製造方法では、前記原料ガス中のジメチルエーテルとメタノールのモル分率(ジメチルエーテル:メタノール)が、6:0〜6:5の範囲であることが好ましい。
【0019】
本発明の低級オレフィンの製造方法では、前記希釈ガスが、前記炭化水素生成物からプロピレンおよび必要に応じてエチレンを分離した残分に由来するC4および/またはC5オレフィンを含み、 前記原料ガス中のメタノールおよびジメチルエーテルの総量に対する、前記希釈ガス中のC4および/またはC5オレフィンの総量の割合が、炭素基準のモル比で0.3〜5.0であり、かつ、前記オレフィン製造反応器に導入する原料ガスに対するスチームを除いた希釈ガスの割合(スチームを除いた希釈ガスのモル数/原料ガスの炭素基準のモル数)が、0.2〜5.0の範囲であることが好ましい。
【0020】
本発明の低級オレフィンの製造方法では、前記ゼオライト触媒が、MFI構造を有することが好ましい。
本発明の低級オレフィンの製造方法では、前記ゼオライト触媒中のケイ素とアルミニウムの原子比(Si/Al)がモル比で50〜300の範囲であることが好ましい。
【0021】
また、本発明の低級オレフィンの製造方法では、前記ゼオライト触媒が、アルカリ土類金属Mを含み、ゼオライト触媒中のアルカリ土類金属Mとアルミニウムの原子比(M/Al)がモル比で0.5以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の低級オレフィンの製造方法によれば、触媒上への炭素質析出を抑制してゼオライト触媒の一時失活までの時間を長くするとともに、触媒の永久失活が少なく、経済的に、高いプロピレン選択率で、ジメチルエーテルを含む原料から低級オレフィンを収率よく製造することができる。さらに、水のリサイクル量を低減することでプロセスの熱効率が高まり、水のリサイクルとスチーム発生に関する設備の削除あるいは大幅な小型化および運転操作の簡略化を達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の低級オレフィンの製造方法においては、ジメチルエーテルを含む原料ガスを、
オレフィン製造反応器中でゼオライト触媒に接触させてC2〜C5オレフィンを含む炭化水素生成物に転化する。
【0024】
本発明で用いられる原料ガスは、ジメチルエーテルを含むガスであればよく、反応成分としてジメチルエーテルのみを含むものであってもよく、ジメチルエーテルとメタノールとを含むものであってもよい。このような原料ガスとしては、メタノールからジメチルエーテルを製造する場合に粗生成物として得られる、メタノールおよびジメチルエーテルを含むガスをそのまま用いることも好ましい。
【0025】
本発明で用いる原料ガスは、原料ガス中のジメチルエーテルとメタノールのモル分率(ジメチルエーテル:メタノール)が、6:0〜6:5の範囲であることが好ましい。
本発明においては、触媒として、ジメチルエーテルを低級オレフィンに転化し得るゼオライト触媒をいずれも用いることができるが、ZSM−5などのMFI構造を有するゼオライト触媒が好ましく用いられる。なお、ゼオライトには、その結晶構造中にシリカおよびアルミナ以外のほかの酸化物などを含んでいてもよい。また、本発明で用いるゼオライト触媒は、触媒中のケイ素とアルミニウムの原子比(Si/Al)がモル比で50〜300、好ましくは50〜200の範囲内にあるのが好ましい。
【0026】
また、本発明で用いるゼオライト触媒は、カルシウム、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属Mを含み、触媒中の該アルカリ土類金属Mとアルミニウムの原子比(M/Al)がモル比で0.5以上、好ましくは0.75〜15、より好ましくは2〜8であることが望ましい。このようなアルカリ土類金属Mを含むゼオライト触媒は、公知の方法で調製することができ、たとえば、特開2005−138000号に記載の方法により好適に調製することができる。
【0027】
ここで、原子比Si/AlおよびM/Alは、例えば原子吸光分析法や誘導結合型プラズマ発光分析法などのような従来の分析法により求めるか、あるいはそのゼオライトの合成に使用したシリコン含有化合物とアルミニウム含有化合物との化学量論比、あるいはアルカリ土類金属Mを含有する化合物とアルミニウム含有化合物との化学量論比により求めることができる。
【0028】
ジメチルエーテル、またはジメチルエーテルおよびメタノールを、低級オレフィンに転化する反応は、ゼオライト触媒が充填されたオレフィン製造反応器内に、原料ガスを希釈ガスとともに導入し、原料ガスをゼオライト触媒に接触させることにより行う。オレフィン製造反応器は、固定床、移動床、または流動床のいずれであってもよい。
【0029】
本発明においては、フィードガス中、すなわちオレフィン製造反応器内に導入する全ガス状成分中において、スチームの割合が5〜30vol%、好ましくは8〜25vol%の範囲であることが望ましい。このようなフィードガス中のスチーム量は、スチームを含む希釈ガスを用いる従来公知の方法と比較して格段に少ないものではあるが、ゼオライト触媒の表面に炭素が析出するのを抑制するという効果を十分に発揮することができ、しかもスチームによるゼオライト触媒の永久失活を効果的に抑制することができる。
【0030】
本発明で用いるオレフィン製造反応器は、単独であっても複数であってもよい。オレフィン製造反応器を複数用いる場合には、オレフィン製造反応器を直列、並列、またはこれらを組み合わせた形式で接続して用いることができ、たとえば、反応器を直列して用い、原料ガスを多段処理することができる。
【0031】
本発明において、フィードガスは、原料ガスと希釈ガスとの合計を意味する。本発明において、原料ガスと希釈ガスとは、あらかじめ混合してフィードガスとしてオレフィン製
造反応器内に導入してもよく、また、それぞれ別個に導入してもよい。本発明においては、オレフィン製造反応器へのガス導入口が複数ある場合、または複数のオレフィン製造反応器を組み合わせて用いる場合には、反応系全体に導入されるガス状成分の総計がフィードガスである。
【0032】
オレフィン製造反応器を複数用いる場合においては、反応系全体に導入されるフィードガス中のスチームの割合が5〜30vol%の範囲にあればよく、個々のオレフィン製造反応器に導入されるフィードガス中のスチームの割合は特に限定されるものではないが、好ましくは、各反応器内に導入されるフィードガス中のスチームの割合が5〜30vol%の範囲にあるのが望ましい。
【0033】
本発明において、直列に接続された複数のオレフィン製造反応器を用いて低級オレフィンを製造する場合、好ましくは、ジメチルエーテルを含む原料ガスを各反応器に分割して導入するとともに、最上流の反応器に希釈ガスを導入して、各反応器内で原料ガスをゼオライト触媒に接触させて、C2〜C5オレフィンを含む炭化水素生成物に転化させる。ここで、上流の反応器で得た炭化水素生成物を下流の反応器に順次導入し、最下流の反応器から得られる炭化水素生成物から、プロピレンおよび必要に応じてエチレンを分離して回収し、プロピレンおよび必要に応じてエチレンを分離した残分の少なくとも一部を、前記希釈ガスの少なくとも一部として用いることができる。このとき、各反応器に導入する全原料ガスと希釈ガスとの総量(フィードガス)に対して、該総量中に含まれるスチームの割合が5〜30vol%の範囲であるのが好ましい。
【0034】
ここで、図2の概略フローに示すように、直列に接続された2段のオレフィン製造反応器を用いて低級オレフィンの製造を行う場合であって、最上流のオレフィン製造反応器1にジメチルエーテルなどの原料ガス(1)およびリサイクルガスである希釈ガス(3)を供給し、該反応器1で得られたC2〜C5オレフィンを含む炭化水素生成物を全量下流の反応器2に導入するとともに、該下流の反応器2には原料ガス(2)を別途追加供給する反応系では、(1)、(2)、(3)の合計が本発明におけるフィードガスに相当する。このとき、反応器1で得られた炭化水素生成物は、ジメチルエーテル(またはジメチルエーテルおよびメタノール)からC2〜C5オレフィンが得られる脱水反応で副成するスチームを含むため、反応器2へ導入するスチームを新たに追加することなく、反応器1および反応器2のそれぞれについて見た場合のフィードガスについても、総量中のスチームの割合を5〜30vol%に容易に制御することができる。
【0035】
また、図3の概略フローに示すような、並列に接続された2機のオレフィン製造反応器を用いて低級オレフィンの製造を行う場合では、オレフィン製造反応器1’および2’に、それぞれ、ジメチルエーテルなどの原料ガス(1’)または(2’)と、リサイクルガスである希釈ガス(3’)を供給し、各反応器で得られたC2〜C5オレフィンを含む炭化水素生成物を下流の分離精製系に導入してプロピレン(またはエチレンおよびプロピレン)を分離し、分離した残分の少なくとも一部を希釈ガス(3’)とする。このとき本発明で定義するフィードガスは、原料ガス(1’)、(2’)および 希釈ガス(3’)の総
計である。図3のフローにおいては炭化水素生成物の分離精製を一括して行っているが、オレフィン製造反応器を並列に複数用いる系では、それぞれのオレフィン製造反応器から得られる各炭化水素生成物の分離精製を、別個に行ってもよい。
【0036】
本発明において、オレフィン製造反応器を複数用いる場合、各反応器における反応条件、触媒の種類および量、フィードガスの供給量、フィードガス中の原料ガスと希釈ガスとの割合などは、所望の製品生産量などに応じて選択すればよく、各オレフィン製造反応器で異なっていてもよい。
【0037】
本発明では、オレフィン製造反応器内において、原料ガスとゼオライト触媒との接触が行われ、C2〜C5オレフィンを含む炭化水素生成物がオレフィン製造反応器から得られる。
【0038】
オレフィン製造反応器への原料ガスおよび希釈ガスの供給速度、ガス圧力および反応温度などの反応条件は、所望の低級オレフィンの収量および触媒寿命などを考慮して適宜設定される。本発明では、ゼオライトの種類と反応条件とを適切に設定することにより、導入した原料ガスの55%以上(炭素換算)を最終的にプロピレンに転化することができる。原料ガスは、低級オレフィンの収率およびゼオライト触媒の寿命などの点から、そのWHSV(重量時間空間速度)が0.025〜5h-1となるように流量を設定することが好ましく、より好ましくは0.1〜3h-1である。
【0039】
反応時の圧力としては、原料ガスの分圧として0.005〜1.5MPaであることが好ましく、より好ましくは0.02〜1.0MPaである。また、反応温度は、好ましくは350〜750℃、より好ましくは400〜650℃である。
【0040】
得られた炭化水素生成物からは、エチレンおよびプロピレン、またはプロピレンのみを製品として分離し回収する。本発明では、所望により、炭化水素生成物からエチレンおよび/またはプロピレン以外の成分をも分離・回収してもよい。炭化水素生成物からのエチレンおよび/またはプロピレンの分離・回収は、公知の方法で行うことができ、例えば、分留により行うことができる。
【0041】
炭化水素生成物からエチレンおよび/またはプロピレンを分離した残分は、メタン等の軽質パラフィンや、C4およびC5オレフィン、芳香族化合物を含む。本発明では、この残分の少なくとも一部を、前述した希釈ガスの少なくとも一部として用いる。すなわち、本発明では、炭化水素生成物からプロピレンおよび必要に応じてエチレンを分離した残分を、そのままリサイクルして、希釈ガスとしてオレフィン製造反応器内に導入してもよく、残分の一部を分離して用いてもよい。炭化水素生成物からプロピレンのみを分離・回収する場合には、残分中のエチレンはそのままリサイクルして希釈ガスとして用いてもよく、また、二量化するなど炭素数4以上の炭化水素に転化して、希釈ガスの一部として用いて
もよい。
【0042】
また、本発明においては、希釈ガスの全量が、炭化水素生成物からプロピレンおよび必要に応じてエチレンを分離した残分に由来してもよく、残分とその他のガスとを含んでいてもよい。本発明では、好ましくは、リサイクルガス、すなわち炭化水素生成物からプロピレンおよび必要に応じてエチレンを分離した残分に由来する成分を、希釈ガスの50vol%以上、好ましくは60〜90vol%程度の割合で含む希釈ガスを用いるのが好ましい。本発明では、スチーム量とC4および/またはC5オレフィン量を仔細に制御した希釈ガスを使用するため、スチームによる原料ガスの希釈を最小限に抑えて水のリサイクル量を低減させることができ、プロセスの熱効率が高められ経済的である。
【0043】
本発明において、希釈ガスは、フィードガス総量中におけるスチームの割合が5〜30vol%となるよう、原料ガスの成分および量に応じて用いられればよいが、好ましくは、原料ガスに対するスチームを除いた希釈ガスの割合が、スチームを除いた希釈ガスのモル数/原料ガスの炭素基準のモル数で0.2〜5.0の範囲となる量で用いられるのが望ましい。また、原料ガス中のメタノールおよびジメチルエーテルの総量に対する、希釈ガス中のC4およびC5オレフィンの総量(希釈ガス中のC4およびC5オレフィンの総量/原料ガス中のメタノールおよびジメチルエーテルの総量)が、好ましくは炭素基準のモル比で0.3〜5.0の範囲にあるのが望ましい。原料ガスと希釈ガスとがこのような関係を満たすフィードガスを用いると、多量のスチームを添加しなくてもゼオライト触媒の表面
への炭素質の析出が効果的に抑制され、触媒の一時失活までの使用時間を延ばすことができ、しかもゼオライト触媒から骨格構造中のアルミニウムが脱離することによる永久失活を効果的に抑制することができる。
【0044】
このような本発明の低級オレフィンの製造方法では、一時失活したゼオライト触媒を再生処理した際に、ゼオライト触媒が初回使用時と同等の高い触媒活性を示し、しかも再生後においてもゼオライト触媒の表面への炭素質の析出が効果的に抑制され、長時間連続して低級オレフィンの製造を行うことができる。プロピレン選択率は、単位時間に反応系全体で得られる炭化水素生成物全量(炭素基準)中の、プロピレン生成量の割合を意味する。すなわち、炭化水素生成物中のプロピレン選択率は、下記式で表すことができる。
【0045】
【数1】

【0046】
ただし本発明において、炭化水素生成物はオレフィン製造反応器出口から得られる留分の総量を意味するため、「全炭化水素生成物」には反応で得られた成分と、未反応または本反応において不活性の成分の両方が含まれる。このため上記式で得られるプロピレン選択率は厳密に反応で得られた低級オレフィン中におけるプロピレンの選択率ではなく、反応で生成した低級オレフィン中のプロピレン選択率はさらに高いものである。
【0047】
実施例
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
なお、本実施例および比較例において、触媒寿命は、反応開始から原料であるジメチルエーテルの転化率が0になるまでの時間として測定し、ジメチルエーテルと窒素ガスとを1:1で用いた混合ガスをフィードガスとした場合(比較例1)における新品(初回使用時)ゼオライト触媒使用時の触媒寿命時間を1.00とした時の相対値として表した。
【実施例1】
【0049】
<ゼオライト触媒の調製>
9.50gのA1(NO33・9H2Oと、10.92gのCa(CH3COO)2・H2Oとからなるゼオライト原料液を750gの水に溶かし、これに、水333g中に500gのキャタロイドSi−30水ガラス(触媒化成工業製)を溶かした溶液と、6質量%NaOH水溶液177.5gと、21.3質量%臭化テトラプロピルアンモニウム水溶液317.6gと、ゼオライト種結晶として平均粒子径0.5μmのアンモニウム型のMFI構造ゼオライト(Zeolyst社製、Si/Al原子比は70)15.0g(種結晶を添加せずに合成したゼオライト触媒量の10質量%に相当する量)とを攪拌しながら加えて、水性ゲル混合物を得た。
【0050】
次いで、この水性ゲル混合物を3Lオートクレーブ容器に入れ、自己圧力下で、160℃で18時間攪拌して水熱合成を行った。
水熱合成による白色固体生成物を濾過・水洗した後、120℃で5時間乾燥し、空気中で520℃で10時間焼成した。
【0051】
焼成したものを0.6N塩酸中へ浸漬させ、室温で24時間攪拌させてゼオライトの型をプロトン型とした。
その後、生成物を濾過・水洗の後、120℃で5時間乾燥し、空気中で520℃で10時間焼成して、プロトン型アルカリ土類金属含有MFI構造ゼオライト触媒を得た。
【0052】
得られたゼオライト触媒中におけるSi/Al原子比は100、Ca/Al原子比は3.7、比表面積は320m2/g、平均粒子径は1.5μmであった。
<低級オレフィンの製造>
上記で調製した触媒を充填した固定床流通式反応器に、原料ガスであるジメチルエーテル(DME)と、窒素、スチームおよびイソブテンからなる希釈ガスとを合流した、表1に示す成分からなるフィードガスを導入し、連続的にオレフィン製造反応を行った。反応条件は、常圧、反応温度530℃とし、触媒単位量に対する単位時間あたりの原料のジメチルエーテル供給量比である重量基準空間速度(WHSV)を9.5g-DME/(1g-触媒・時間)とした。ここで希釈ガスは、オレフィン成分に相当するイソブテンと、低級オレフィンを製造する反応に不活性である成分に相当する窒素ガスと、スチームとを含む模擬リサイクルガスである。
【0053】
反応器からの出口ガスは、ガスクロマトグラフにより成分分析した。また、一時失活までの触媒寿命を、触媒調製後の新品の触媒を用い、イソブテンおよびスチームを含まないフィードガスを導入した後述する比較例1の触媒寿命を1としたときの相対寿命で表した

【0054】
結果を表1に示す。
【実施例2】
【0055】
実施例1で使用し、触媒寿命となった触媒を、空気気流中において550℃で10時間焼成し、触媒の再生を行い、得られた再生触媒を用いたことの他は、実施例1と同様にして低級オレフィンの製造を行った。結果を表1に示す。
【0056】
比較例1
実施例1において、フィードガスとして、原料ガスであるジメチルエーテル50vol%、希釈ガスとして窒素50vol%の混合ガスを用い、実施例1と同様にして低級オレフィンの製造及び反応器出口ガスの成分分析を行った。結果を表1に示す。
【0057】
比較例2
比較例1で使用し、触媒寿命となった触媒を、空気気流中において550℃で10時間焼成し、触媒の再生を行い、得られた再生触媒を用いたことの他は、比較例1と同様にして低級オレフィンの製造を行った。結果を表1に示す。
【0058】
比較例3
実施例1において、フィードガスとして、原料ガスであるジメチルエーテル42vol%、希釈ガスとして窒素34vol%およびイソブテン24vol%を含む混合ガスを用い、実施例1と同様にして低級オレフィンの製造及び反応器出口ガスの成分分析を行った。結果を表1に示す。
【0059】
比較例4
比較例3で使用し、触媒寿命となった触媒を、空気気流中において550℃で10時間焼成し、触媒の再生を行い、得られた再生触媒を用いたことの他は、比較例3と同様にして低級オレフィンの製造を行った。結果を表1に示す。
【0060】
比較例5
実施例1において、フィードガスとして、原料ガスであるジメチルエーテル25vol%、希釈ガスとして窒素50vol%およびスチーム25vol%を含む混合ガスを用い、実施例1と同様にして低級オレフィンの製造及び反応器出口ガスの成分分析を行った。結果を表1に示す。
【0061】
比較例6
比較例5で使用し、触媒寿命となった触媒を、空気気流中において550℃で10時間焼成し、触媒の再生を行い、得られた再生触媒を用いたことの他は、比較例5と同様にして低級オレフィンの製造を行った。結果を表1に示す。
【0062】
比較例7
実施例1において、フィードガスとして、原料ガスであるジメチルエーテル33vol%、希釈ガスとして窒素32vol%およびスチーム35vol%を含む混合ガスを用い、実施例1と同様にして低級オレフィンの製造及び反応器出口ガスの成分分析を行った。結果を表1に示す。
【0063】
比較例8
比較例7で使用し、触媒寿命となった触媒を、空気気流中において550℃で10時間焼成し、触媒の再生を行い、得られた再生触媒を用いたことの他は、比較例7と同様にして低級オレフィンの製造を行った。結果を表1に示す。
【0064】
以上の実施例および比較例より、
原料ガスを窒素のみで希釈した比較例1と、スチームで希釈した比較例5との比較で、スチームで原料ガスを希釈した場合には触媒寿命(炭素質の析出による一時失活までの時間)が大幅に増大することがわかる。また、スチーム添加濃度をさらに多くした比較例7では触媒寿命がさらに増大することから、触媒寿命はスチーム濃度に比例して増大することが分かる。一方、比較例1と2、比較例5と6、比較例7と8の結果より、フィードガス中のスチーム濃度を30vol%以上にすると、再生触媒が失活するまでの時間が急激に短期化しており、高濃度のスチームの存在によりゼオライト触媒の骨格構造からAlが不可逆的に脱離して活性点が減少する永久失活を生じることが示されている。 これに対して、実施例1および2より、フィードガス中のスチーム量およびC4オレフィン量を特
定の範囲とした本発明では、初回使用時の触媒の寿命を大幅に長期化させるとともに、再生触媒を用いた場合にも初回使用時と同等の触媒寿命を示しており、永久失活をほとんど生じることなく一時失活までの時間を大幅に長期化できることが示されている。
【0065】
原料ガスをC4オレフィンであるイソブテンで希釈した比較例3においても、スチーム添加の場合と同様に触媒寿命が増大し、触媒再生後の比較例4についても寿命の短期化は確
認されていない。しかし、実施例1と比較例3の相対寿命、実施例2と比較例4の相対寿命を各々比較した場合には、実施例1および実施例2の相対寿命の方が大きく、イソブテンにスチームが適当量加わった希釈ガスを利用する方が、触媒の相対寿命の延命効果がある。
【0066】
更に、実施例1および2では、希釈ガスとして多量のスチームを使用しなくて済むため、水のリサイクル量を低減させることによりプロセスの熱効率を高め、かつ水のリサイクルとスチーム発生に関する設備の削除あるいは大幅な小型化が達成できることから運転コストや建設コストを大幅に低減することができる。
【0067】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、オレフィン製造反応器を1機用いた場合の、実施の態様の概略図を示す。
【図2】図2は、直列に接続された2つのオレフィン製造反応器を用いた場合の、実施の態様の概略図を示す。
【図3】図3は、並列に接続された2つのオレフィン製造反応器を用いた場合の、実施の態様の概略図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジメチルエーテルを含む原料ガスと希釈ガスとからなり、総量中におけるスチームの割合が5〜30vol%の範囲であるフィードガスを、オレフィン製造反応器内に導入し、
原料ガスを反応器内でゼオライト触媒に接触させて、C2〜C5オレフィンを含む炭化水素生成物を製造し、
得られた炭化水素生成物から、プロピレンおよび必要に応じてエチレンを分離して回収し、
前記炭化水素生成物からプロピレンおよび必要に応じてエチレンを分離した残分の少なくとも一部を、前記希釈ガスの少なくとも一部として用いることを特徴とする低級オレフィンの製造方法。
【請求項2】
直列、並列、またはこれらを組み合わせた形式で接続された、複数のオレフィン製造反応器を用いることを特徴とする請求項1に記載の低級オレフィンの製造方法。
【請求項3】
前記原料ガスが、ジメチルエーテルとメタノールとを含むガスであることを特徴とする請求項1または2に記載の低級オレフィンの製造方法。
【請求項4】
前記原料ガス中のジメチルエーテルとメタノールのモル分率(ジメチルエーテル:メタノール)が、6:0〜6:5の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の低級オレフィンの製造方法。
【請求項5】
前記希釈ガスが、前記炭化水素生成物からプロピレンおよび必要に応じてエチレンを分離した残分に由来するC4および/またはC5オレフィンを含み、
前記原料ガス中のメタノールおよびジメチルエーテルの総量に対する、前記希釈ガス中のC4および/またはC5オレフィンの総量の割合が、炭素基準のモル比で0.3〜5.0であり、かつ、
前記オレフィン製造反応器に導入する原料ガスに対するスチームを除いた希釈ガスの割合(スチームを除いた希釈ガスのモル数/原料ガスの炭素基準のモル数)が、0.2〜5.0の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の低級オレフィンの製造方法。
【請求項6】
前記ゼオライト触媒が、MFI構造を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の低級オレフィンの製造方法。
【請求項7】
前記ゼオライト触媒中のケイ素とアルミニウムの原子比(Si/Al)がモル比で50〜300の範囲であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の低級オレフィンの製造方法。
【請求項8】
前記ゼオライト触媒が、アルカリ土類金属Mを含み、ゼオライト触媒中のアルカリ土類金属Mとアルミニウムの原子比(M/Al)がモル比で0.5以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の低級オレフィンの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−137769(P2007−137769A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−329106(P2005−329106)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【Fターム(参考)】