説明

作業用走行車

【課題】 ステアリングハンドルの旋回操作に応じて、旋回内側のサイドクラッチを自動的に切り動作させる作業用走行車において、ステアリングハンドルの操作荷重を軽減すると共に、ステアリング連動機構の配置を最適化する。
【解決手段】 サイドクラッチ10の操作アーム21を、ステアリング連動機構27を介して前輪操向機構23に連繋することにより、ステアリングハンドル22の旋回操作に応じて、旋回内側のサイドクラッチ10を自動的に切り動作させる走行機体1において、ステアリング連動機構27の中間部に、リンク機構からなるステアリング荷重軽減作用部27cを介設して、ステアリング連動機構27の後半部27bを前半部27aに対して機体外側に偏倚させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用田植機などの作業用走行車に関し、特に、ステアリングハンドルの旋回操作に応じて、旋回内側のサイドクラッチを自動的に切り動作させる作業用走行車に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリングハンドルの旋回操作に応じて、旋回内側のサイドクラッチを自動的に切り動作させる作業用走行車が知られている(特許文献1参照)。この種の作業用走行車は、ステアリングハンドルの操作に応じて、左右の前輪を操向させる前輪操向機構と、リヤアクスルケースに内装された左右のサイドクラッチとを備えると共に、各サイドクラッチの操作アームを、ステアリング連動機構を介して前輪操向機構に連繋している。
【特許文献1】特開2003−81127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載のものでは、ステアリング連動機構を左右一対の連結ロッドで構成し、この連結ロッドにより、各サイドクラッチの操作アームを前輪操向機構に直接連繋しているため、サイドクラッチの操作荷重がステアリングハンドルに直接的に作用し、ステアリングハンドルの操作性が低下する惧れがある。また、このような構成では、連結ロッドの配置に自由度がないため、機種によっては、操向された前輪の内端が連結ロッドに干渉したり、機体底部に配置された部材に連結ロッドが干渉するといった問題が生じる可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、ステアリングハンドルの操作に応じて、左右の前輪を操向させる前輪操向機構と、リヤアクスルケースに内装された左右のサイドクラッチとを備えると共に、各サイドクラッチの操作アームを、ステアリング連動機構を介して前記前輪操向機構に連繋することにより、前記ステアリングハンドルの旋回操作に応じて、旋回内側のサイドクラッチを自動的に切り動作させる作業用走行車において、前記ステアリング連動機構の中間部に、リンク機構からなるステアリング荷重軽減作用部を介設して、前記ステアリング連動機構の後半部を前半部に対して機体外側に偏倚させたことを特徴とする。このように構成すれば、ステアリングハンドルの操作荷重を軽減できるだけでなく、ステアリング連動機構の後半部を機体外側に偏倚させて、機体底部に配置された部材との干渉を回避することができる。また、換言すれば、ステアリング連動機構の前半部を後半部に対して機体内側に偏倚させることができるので、前輪との干渉も回避できる。
また、前記リンク機構の回動中心を、前記操作アームの回動中心よりも機体外側に配置したことを特徴とする。このように構成すれば、リンク機構のアーム比を大きくできるので、ステアリングハンドルの操作荷重を更に軽減できる。
また、前記ステアリング連動機構の中間部に、前記サイドクラッチのステアリング連動を解除する連動解除機構を設けると共に、該連動解除機構を、前輪回動軌跡内端よりも機体内側に配置したことを特徴とする。このように構成すれば、サイドクラッチのステアリング連動を解除することが可能になるだけでなく、連動解除機構と前輪の干渉を回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
次に、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。図面において、1は乗用田植機の走行機体であって、該走行機体1の後部には、昇降リンク機構2を介して植付部3が連結されており、走行機体1自体には、少なくとも、機体前部に搭載されるエンジン4と、エンジン4の動力を変速するミッションケース5と、ミッションケース5の左右両側にフロントアクスルケース6を介して設けられる前輪7と、リヤアクスルケース8の左右両側に設けられる後輪9とが具備されている。
【0006】
ミッションケース5で変速された動力は、フロントアクスルケース6を介して左右の前輪7に伝動されると共に、リヤアクスルケース8を介して左右の後輪9に伝動され、更には、植付部3にも伝動される。リヤアクスルケース8の内部には、ミッションケース5から入力した動力を分岐し、左右の後輪9にそれぞれ伝動する左右の後輪動力伝動経路が構成されている。左右の後輪動力伝動経路には、それぞれサイドクラッチ10が介設されており、その入り/切り動作にもとづいて、左右の後輪9に対する動力伝動が個別に断続される。
【0007】
本実施形態のサイドクラッチ10は、湿式多板クラッチであり、上流側伝動軸11にスプライン嵌合する内筒部材12と、内筒部材12の外周に設けられる止め輪13及び複数の円盤14と、下流側伝動軸15に一体的に結合される外筒部材16と、外筒部材16の内周に設けられる止め輪17及び複数の円盤18と、内筒部材12と外筒部材16の間に介装され、内筒部材12を離間方向に付勢するバネ19と、内筒部材12の一端位置から下方に延出し、ケース外に突出するシフタ軸20と、シフタ軸20の下端から機体外側方向に延出する操作アーム21とを備えて構成されている。
【0008】
円盤14、18は、止め輪13、17間で交互に重合されると共に、常時はバネ19の付勢力で圧縮されている。これにより、円盤14、18間の摩擦力で内筒部材12と外筒部材16が一体回動し、上流側伝動軸11の回転が下流側伝動軸15に伝動される。一方、操作アーム21を前方に引き操作すると、シフタ軸20がバネ19に抗して内筒部材12を押す。これにより、円盤14、18間に滑りが発生し、上流側伝動軸11から下流側伝動軸15への動力伝動が断たれる。
【0009】
左右の前輪7は、フロントアクスルケース6に操向自在に設けられ、ステアリングハンドル22の操作に応じて操向動作される。前輪7を操向させる前輪操向機構23は、ステアリングハンドル22の操作に応じて回動するステアリング軸24と、ステアリング軸24に一体的に設けられるピットマンアーム25と、ピットマンアーム25を左右の前輪7に連繋させる左右一対のロッド26とを備えて構成されている。
【0010】
本発明においては、各サイドクラッチ10の操作アーム21を、左右一対のステアリング連動機構27を介して前輪操向機構23に連繋することにより、ステアリングハンドル22の旋回操作に応じて、旋回内側のサイドクラッチ10を自動的に切り動作させる。ステアリング連動機構27は、前端部が前輪操向機構23に連繋される前半部27aと、後端部が操作アーム21に連繋される後半部27bと、前半部27aと後半部27bを連繋させるステアリング荷重軽減作用部27cとを備えて構成されている。
【0011】
前記ステアリング軸24の下端部には、左右方向に延出する連動プレート28が一体的に設けられており、その左右両端部には、ステアリング軸24を中心とする円弧状の長孔28aが形成されている。ステアリング連動機構27の前半部27aは、前後方向を向く第一連結ロッド29で構成されており、その前端部には、連動プレート28の長孔28aに遊嵌するピン29aが設けられている。つまり、ステアリングハンドル22を左旋回操作すると、左側の第一連結ロッド29が後方に押され、右旋回操作すると、右側の第一連結ロッド29が後方に押される構成となっている。
【0012】
ステアリング連動機構27の後半部27bは、前後方向を向く第二連結ロッド30で構成されており、その後端部は、ピン30aを介して、サイドクラッチ10の操作アーム21に連繋されている。
【0013】
ステアリング荷重軽減作用部27cは、リンク機構からなり、例えば、左右方向を向く連結アーム31で構成される。連結アーム31は、機体底部から下方に延出する支軸31aを中心として前後に回動するように構成されており、支軸31aの機体内側で第一連結ロッド29の後端部に連結されると共に、支軸31aの機体外側で第二連結ロッド30の前端部に連結されている。
【0014】
すなわち、ステアリングハンドル22を左旋回操作に応じて、左側の第一連結ロッド29が後方に押されると、左側の連結アーム31が回動して左側の第二連結ロッド30を前方に引くことにより、左側サイドクラッチ10の操作アーム21が引かれ、左側後輪9への動力伝動が断たれる。また、ステアリングハンドル22を右旋回操作に応じて、右側の第一連結ロッド29が後方に押されると、右側の連結アーム31が回動して右側の第二連結ロッド30を前方に引くことにより、右側サイドクラッチ10の操作アーム21が引かれ、右側後輪9への動力伝動が断たれる。このとき、連結アーム31における第一アーム長(回動中心から第一連結ロッド連結点までの長さ)を、第二アーム長(回動中心から第二連結ロッド連結点までの長さ)よりも長くすることにより、ステアリング操作荷重を軽減することが可能になる。
【0015】
上記のような構成によれば、ステアリング連動機構27の中間部に、リンク機構からなるステアリング荷重軽減作用部27cを介設して、ステアリング連動機構27の後半部27bを前半部27aに対して機体外側に偏倚させることができるので、ステアリングハンドル22の操作荷重を軽減できるだけでなく、ステアリング連動機構27の後半部27bが機体底部に配置された部材と干渉することを回避できる。また、換言すれば、ステアリング連動機構27の前半部27aを後半部27bに対して機体内側に偏倚させることができるので、前輪7との干渉も回避できる。
【0016】
本実施形態では、サイドクラッチ10の操作アーム21を、アーム回動中心に対して機体外側範囲で回動させると共に、連結アーム31の回動中心を、操作アーム21の回動中心よりも機体外側に配置している。このようにすると、連結アーム31のアーム比(第一アーム長/第二アーム長)を大きくし、ステアリングハンドル22の操作荷重を更に軽減することが可能になる。また、本実施形態では、連結アーム31の回動支点を、側面視において前輪回動軌跡よりも後方に配置しているので、連結アーム31と前輪7の干渉も確実に回避することができる。
【0017】
次に、サイドクラッチ10のステアリング連動を解除する連動解除機構32について説明する。連動解除機構32は、ステアリング連動でサイドクラッチ10が切られたとき、駆動力不足で走行不能となった場合に操作され、この操作に応じてサイドクラッチ10のステアリング連動を解除するように構成されている。具体的には、連動解除時に踏込み操作されるペダル33と、解除ペダル33の踏込み操作に応動する側面視逆L字状の解除アーム34と、解除ペダル踏込み時に解除アーム34で前方に引かれる左右一対の解除ロッド35とを備えて構成されており、左側解除ロッド35の後端部は、左側連結アーム31の内端部に連繋され、右側解除ロッド35の後端部は、右側連結アーム31の内端部に連繋されている。
【0018】
すなわち、ステアリングハンドル22を旋回操作に応じて、左右いずれかの連結アーム31が回動した状態で解除ペダル33を踏込み操作すると、解除アーム34を介して解除ロッド35が前方に引かれ、連結アーム31がクラッチ入り側に戻される。これにより、サイドクラッチ10のステアリング連動を一時的に解除することができる。尚、解除アーム34と解除ロッド35の間には、ステアリング連動時における解除ロッド35の動きを許容する融通手段が介設され、連結アーム31と第一連結ロッド29の間には、連動解除時における連結アーム31の動きを許容する融通手段が介設されるものとする。
【0019】
また、本実施形態においては、ステアリング連動機構27の中間部に連動解除機構32を設けるにあたり、連動解除機構32を、前輪回動軌跡内端よりも機体内側に配置しているので、連動解除機構32と前輪7の干渉も回避することができる。
【0020】
叙述の如く構成された本実施形態の走行機体1は、ステアリングハンドル22の操作に応じて、左右の前輪7を操向させる前輪操向機構23と、リヤアクスルケース8に内装された左右のサイドクラッチ10とを備えると共に、各サイドクラッチ10の操作アーム21を、ステアリング連動機構27を介して前輪操向機構23に連繋することにより、ステアリングハンドル22の旋回操作に応じて、旋回内側のサイドクラッチ10を自動的に切り動作させるものであるが、ステアリング連動機構27の中間部に、リンク機構からなるステアリング荷重軽減作用部27cを介設して、ステアリング連動機構27の後半部27bを前半部27aに対して機体外側に偏倚させたので、ステアリングハンドル22の操作荷重を軽減できるだけでなく、ステアリング連動機構27の後半部27bを機体外側に偏倚させて、機体底部に配置された部材との干渉を回避することができる。また、換言すれば、ステアリング連動機構27の前半部27aを後半部27bに対して機体内側に偏倚させることができるので、前輪7との干渉も回避できる。
【0021】
また、ステアリング荷重軽減作用部27cのアーム回動中心を、操作アーム21の回動中心よりも機体外側に配置したので、ステアリング荷重軽減作用部27cのアーム比を大きくして、ステアリングハンドル22の操作荷重を更に軽減することができる。
【0022】
また、ステアリング連動機構27の中間部に、サイドクラッチ10のステアリング連動を解除する連動解除機構32を設けると共に、該連動解除機構32を、前輪回動軌跡内端よりも機体内側に配置したので、サイドクラッチ10のステアリング連動を必要に応じて解除することが可能になるだけでなく、連動解除機構32と前輪7の干渉を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】乗用田植機の全体側面図である。
【図2】ステアリング連動機構を示す乗用田植機の全体側面図である。
【図3】ステアリング連動機構を示す乗用田植機の要部側面図である。
【図4】ステアリング連動機構を示す乗用田植機の全体平面図である。
【図5】ステアリング連動機構を示す乗用田植機の要部平面図である。
【図6】ステアリング連動機構を示す乗用田植機の全体背面図である。
【図7】ステアリング連動機構を示す乗用田植機の要部背面図である。
【図8】サイドクラッチを示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 走行機体
7 前輪
8 リヤアクスルケース
9 後輪
10 サイドクラッチ
21 操作アーム
22 ステアリングハンドル
23 前輪操向機構
27 ステアリング連動機構
27a 前半部
27b 後半部
27c ステアリング荷重軽減作用部
29 第一連結ロッド
30 第二連結ロッド
31 連結アーム
32 連動解除機構
33 解除ペダル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングハンドルの操作に応じて、左右の前輪を操向させる前輪操向機構と、リヤアクスルケースに内装された左右のサイドクラッチとを備えると共に、各サイドクラッチの操作アームを、ステアリング連動機構を介して前記前輪操向機構に連繋することにより、前記ステアリングハンドルの旋回操作に応じて、旋回内側のサイドクラッチを自動的に切り動作させる作業用走行車において、
前記ステアリング連動機構の中間部に、リンク機構からなるステアリング荷重軽減作用部を介設して、前記ステアリング連動機構の後半部を前半部に対して機体外側に偏倚させたことを特徴とする作業用走行車。
【請求項2】
前記リンク機構の回動中心を、前記操作アームの回動中心よりも機体外側に配置したことを特徴とする請求項1記載の作業用走行車。
【請求項3】
前記ステアリング連動機構の中間部に、前記サイドクラッチのステアリング連動を解除する連動解除機構を設けると共に、該連動解除機構を、前輪回動軌跡内端よりも機体内側に配置したことを特徴とする請求項1又は2記載の作業用走行車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−69429(P2006−69429A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−257083(P2004−257083)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】