説明

作業車両

【課題】傾斜検出手段の検出結果に基づき、水平方向に対して走行機体を予め定めた所定の左右傾斜角で保持する傾斜制御を実行する作業車両において、左右旋回走行時に傾斜制御が実行されることによる不具合を除去するとともに、走行速度が高速の場合でも、オペレータが傾斜制御の応答遅れを感じない、或いは感じ難い作業車両を提供する。
【解決手段】制御部は、操向レバーの左右の各揺動範囲における中立位置に近い側を非規制範囲とするとともに中立位置から遠い側を規制範囲とし、操作位置検出手段によって操向レバーが左右何れかの規制範囲に揺動されたことが検出された場合には、傾斜制御の実行を停止する一方で、前記操作位置検出手段によって操向レバーが左右何れかの非規制範囲に揺動されたことが検出された場合には、傾斜制御の実行を継続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、走行機体の左右傾斜制御を行う作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
左右一対の走行装置によって支持された走行機体を該左右の走行装置に対して左右傾斜作動させる傾斜駆動手段と、該走行機体の左右傾斜を検出する傾斜検出手段とを備え、該傾斜検出手段の検出結果に基づき、前記傾斜駆動手段によって、水平方向に対して走行機体を予め定めた所定の左右傾斜角で保持する傾斜制御を実行する制御部を設けた作業車両が従来公知であり、該構成によれば、起伏がある場所を走行する場合でも、走行機体を水平方向に対して所定の左右傾斜角で保持させることができる。
【0003】
さらにこれを改良したものとして、傾斜制御の実行中、走行機体が左右旋回した際には、該傾斜制御の実行を停止するように制御部を構成し、直進走行時と比べて比較的不安定な左右旋回時に、傾斜制御を行うことに起因して、走行機体が不安定になることを効率的に防止する特許文献1に示す作業車両が開発され、公知になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7−32645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記文献の作業車両では、高速走行時、走行機体の走行方向の微調整を目的として、操向レバーを左右方向に少量揺動させた際でも、走行機体が左右旋回中であると認識されれば、傾斜制御が停止されるが、近年、走行速度は増加傾斜にあり、走行機体の走行方向の微調整を行う度に傾斜制御の実行が停止されると、起伏のある走行面を高速で走行している際に、それに追従して、走行機体が、左右の走行機体に対して、感度良く、左右に傾斜せず、オペレータが走行機体の左右傾斜保持に関して、応答遅れを感じる場合がある。
本発明は、傾斜検出手段の検出結果に基づき、水平方向に対して走行機体を予め定めた所定の左右傾斜角で保持する傾斜制御を実行する作業車両において、左右旋回走行時に傾斜制御が実行されることによる不具合を除去するとともに、走行速度が高速の場合でも、オペレータが傾斜制御の応答遅れを感じない、或いは感じ難い作業車両を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、第1に、左右一対の走行装置1,1によって支持された走行機体2を該左右の走行装置1,1に対して左右傾斜作動させる傾斜駆動手段31,31と、該走行機体2の左右傾斜を検出する傾斜検出手段74とを備え、該傾斜検出手段74の検出結果に基づき、前記傾斜駆動手段31,31によって、水平方向に対して走行機体2を予め定めた所定の左右傾斜角で保持する傾斜制御を実行する制御部73を設けた作業車両であって、中立位置Nからの左右揺動によって操向操作を行う操向レバー66と、該操向レバー66の中立位置Nからの左右揺動位置を検出する操作位置検出手段77を設け、前記制御部73は、操向レバー66の左右の各揺動範囲における中立位置Nに近い側を非規制範囲とするとともに中立位置Nから遠い側を規制範囲とし、前記操作位置検出手段77によって操向レバー66が左右何れかの規制範囲に揺動されたことが検出された場合には、傾斜制御の実行を停止する一方で、前記操作位置検出手段77によって操向レバー66が左右何れかの非規制範囲に揺動されたことが検出された場合には、傾斜制御の実行を継続することを特徴としている。
【0007】
第2に、前記制御部73は、前記操作位置検出手段77によって、操向レバー66が左右何れかの規制範囲に揺動されたことが検出された場合には、操向レバー66の揺動側に走行機体2を操向作動させる旋回制御を行う一方で、前記操作位置検出手段77によって、操向レバー66が左右何れかの非規制範囲に揺動されたことが検出された場合には、操向レバー66の揺動側に旋回制御時よりも小さい所定角度分、走行機体2を操向作動させる方向修正制御を行うことを特徴としている。
【0008】
第3に、非規制範囲では規制範囲よりも軽い操作力で左右揺動操作を行うことが可能なように前記操向レバー66を構成したことを特徴としている。
【0009】
第4に、前記制御部73は、前記操作位置検出手段77によって、操向レバー66が左右何れかの非規制範囲に揺動されたことが検出された場合には、揺動側の走行装置1を、非揺動側の走行装置1よりも遅い駆動速度に減速させる減速旋回制御を行う一方で、前記操作位置検出手段77によって、操向レバー66が左右何れかの規制範囲に揺動されたことが検出された場合には、揺動側の走行装置1を制動させるブレーキ旋回制御を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
上記構成によれば、操向レバーの左右の各揺動範囲における中立位置に近い側を非規制範囲とするとともに中立位置から遠い側を規制範囲とし、操向レバーが左右何れかの非規制範囲に揺動操作された場合には、傾斜制御の実行が継続される一方で、操向レバーが左右何れかの規制範囲に揺動操作された場合には、傾斜制御の実行が停止される。このため、近年走行速度が高速化されている作業車両において、高速走行時、走行機体の走行方向の微調整を目的として、操向レバーを左右方向に少量揺動させる度に傾斜制御の実行が停止され、オペレータが走行機体の左右傾斜保持の応答遅れを感じるような事態を、未然に防止できるとともに、走行機体を左右旋回させる目的で、操向レバーを左右方向に大きく揺動させた場合には、傾斜制御の実行が停止され、安定的に走行機体を左右旋回作動させることが可能になる。
【0011】
具体的には、前記操作位置検出手段によって、操向レバーが左右何れかの規制範囲に揺動されたことが検出された場合には、走行機体を操向作動させる旋回制御を行う一方で、前記操作位置検出手段によって、操向レバーが左右何れかの非規制範囲に揺動されたことが検出された場合には、操向レバーの揺動側に旋回制御時よりも小さい所定角度分、走行機体を操向作動させる方向修正制御を行えば、走行機体を大きく左右旋回させる場合にのみ、傾斜制御の実行が停止されるので、オペレータが傾斜制御の実行停止によって応答遅れの感じることを、より効率的に防止できる。
【0012】
また、非規制範囲では規制範囲よりも軽い操作力で左右揺動操作を行うことが可能なように前記操向レバーを構成すれば、中立位置から、強い操作力が必要な範囲まで操向レバーを左右揺動させた場合に、初めて、傾斜制御の実行が停止されるため、オペレータに違和感を与えること無く、必要に応じてスムーズに、傾斜制御の実行を停止させることが可能になる。
【0013】
さらに、前記操作位置検出手段によって、操向レバーが左右何れかの非規制範囲に揺動されたことが検出された場合には、揺動側の走行装置を、非揺動側の走行装置よりも遅い駆動速度に減速させる減速旋回制御を行う一方で、前記操作位置検出手段によって、操向レバーが左右何れかの規制範囲に揺動されたことが検出された場合には、揺動側の走行装置を制動させるブレーキ旋回制御を行えば、走行機体を大きく左右旋回させる場合にのみ、傾斜制御の実行が停止されるので、オペレータが傾斜制御の実行停止によって応答遅れの感じることを、より効率的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用した自脱式のコンバインの全体側面図である。
【図2】(A)は走行機体を下降させた際のクローラ式走行装置の側面図であり、(B)は走行機体を上昇させた際のクローラ式走行装置の側面図である。
【図3】本コンバインの走行系の動力伝動構成を示す概念図である。
【図4】本コンバインに搭載された油圧装置の構成を示す油圧回路図である。
【図5】キャビン内の操縦部の平面図である。
【図6】マルチレバーの左右傾斜角に応じた作動状態を示す説明図である。
【図7】操作パネルの平面図である。
【図8】制御部のブロック図である。
【図9】制御部が行う水平自動制御の処理フロー図である。
【図10】傾き判定のサブルーチンの処理フロー図である。
【図11】バルブ作動のサブルーチンの処理フロー図である。
【図12】制御部が行う水平自動制御の別実施形態を示す処理フロー図である。
【図13】制御部が行う水平自動制御の別実施形態を示す処理フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明を適用した自脱式のコンバインの全体側面図である。作業車両の一種であるコンバインは、左右一対のクローラ式走行装置(走行装置)1,1によって支持された走行機体2と、走行機体2の前部に昇降自在に連結された前処理部3とを備えている。
【0016】
前処理部3は、圃場の穀稈の刈取作業を行うとともに、刈取った穀稈を走行機体2側に後方搬送するように構成されており、該前処理部3は、走行機体2の前部下端側と、前処理部3との間に設けられた油圧シリンダである昇降シリンダ4の伸縮によって、昇降駆動される。
【0017】
走行機体2は、左右のクローラ走行装置1,1によって支持される前後方向の機体フレーム2a上における左側半部に図示しない脱穀装置を設置し、機体フレーム2a上の前部右側に操縦部6(図5参照)を覆うキャビン7を立設し、該キャビン7の後方にグレンタンク8を設けることにより構成されている。
【0018】
本コンバインは、圃場において、下降させた前処理部3を刈取・搬送駆動させ、且つ脱穀装置を脱穀・選別駆動させた状態で、左右のクローラ式走行装置1,1によって走行機体2を前進走行させることにより、圃場の刈取作業を行う。
【0019】
具体的には、前処理部3で刈取られた穀稈が後方搬送され、走行機体2の脱穀装置側に渡される。脱穀装置側に渡された穀稈は、脱穀処理されて排藁となり、そのまま或いは切断処理されて、走行機体2の後端部から機外に排出される一方で、脱穀装置で脱穀処理された処理物は、脱穀装置内で起風される後方斜め上方の選別風によって、籾等の穀粒と、藁屑等の排出物とに選別される。前記選別された排出物は、走行機体2の後端部から機外に排出され、前記選別された穀粒はグレンタンク8に搬送・収納される。
【0020】
グレンタンク8内の穀粒は、走行機体2に左右旋回可能且つ昇降可能に設けられたオーガ9によって、機外に排出される。ちなみに、オーガ9は、走行機体2の後端部右側に設置された上下方向の縦筒11と、縦筒11の上端部に基端部が支持されて直線状に延びる排出筒12とから構成されている。排出筒12は縦筒11に上下揺動自在に支持され、縦筒11の上端側と排出筒12の基端側との間には、油圧シリンダであるオーガ昇降シリンダ13が設けられている。
【0021】
そして、オーガ9は、縦筒11が自身の軸回りに回動されることによって左右旋回されるとともに、オーガ昇降シリンダ13の伸縮により縦筒11を上下揺動させることにより、昇降される。この左右旋回及び昇降によって所定位置に位置した排出筒12の先端部(オーガ9の先端部)から、グレンタンク8内の穀粒を排出可能なように、グレンタンク8内、縦筒11内及び排出筒12内には、穀粒を搬送する搬送ラセン8a,11a,12aが設置されている。
【0022】
図2(A)は走行機体を下降させた際のクローラ式走行装置の側面図であり、(B)は走行機体を上昇させた際のクローラ式走行装置の側面図である。各クローラ式走行装置1は、前後方向の走行フレーム1aと、該走行フレーム1aの下部に遊転状態で支持された前後複数の転輪14と、該走行フレーム1aの後端部上側に遊転状態で支持されたアイドラ輪16と、該走行フレーム1aの前端部上側に配置された駆動輪である駆動スプロケット17と、該走行フレーム1aの中途部上側に配置された上部転輪18と、該走行フレーム1aの中途部下側に配置された可動転輪19と、アイドラ輪16と駆動スプロケット17とに巻き回されて環状をなす合成樹脂製のクローラ21とを備えている。
【0023】
複数の転輪14と上部転輪18と可動転輪19とは、環状のクローラ21に内側から接し、クローラ21が緩むのを防止している。駆動スプロケット17及び上部転輪18は、走行機体2側に回転自在に支持され、特に該駆動スプロケット17は、走行機体2側のエンジン動力が伝動されることによって、回転駆動されるように構成されおり、この駆動スプロケット17の正転又は逆転方向への回転によって、クローラ式走行装置1が前進側又は後進側に走行駆動される。
【0024】
また、可動転輪19は、走行フレーム1aの中途部下方側に突出して上下揺動するように、該走行フレーム1aに取付支持された支持アーム22の先端部に回転自在に取付けられ、これによって可動転輪19の上下動が許容され、この可動転輪19の上下動によって、クローラ21のテンションを安定して維持させることが容易になる。
【0025】
該構成の左右のクローラ式走行装置1,1と、走行機体2の機体フレーム2aとの間には、走行機体2の支持側箇所を昇降させる昇降機構23が設けられている。言換えると、走行機体2は、左右一対の昇降機構23によって、左右のクローラ式走行装置1,1に昇降可能に支持されている。
【0026】
このため、左右一方側の昇降機構23の昇降高さを、他方側の昇降機構23の昇降高さに対して、変位させることにより、走行機体2を、左右のクローラ式走行装置1,1に対して、左右傾斜させることが可能になる。
【0027】
具体的には、昇降機構23が、走行機体2を走行フレーム1aに載置状態で昇降自在に連結する前後一対のリンク24,26と、前後一方側(図示する例では後側)のリンク26と一体で前後揺動する主動アーム27と、前後他方側のリンク24と一体で前後揺動する従動アーム28と、主動アーム27と従動アーム28とを連結する前後方向の連結ロッド29と、伸縮作動によって主動アーム27を前後揺動駆動させる油圧シリンダである水平シリンダ31とを備えている。
【0028】
水平シリンダ31は機体フレーム2aと主動アーム27との間に架渡され、この水平シリンダ31の伸縮作動により、主動アーム27及び従動アーム28が前後揺動され、これに伴って前後のリンク24,26が一体で上下揺動され、走行機体2の昇降機構23側箇所が、左右のクローラ式走行装置1,1に対して、昇降駆動される。すなわち、左右のクローラ式走行装置1,1に個別に設けられた水平シリンダ31,31は、走行機体2を左右のクローラ式走行装置1,1に対して左右傾斜させる傾斜駆動手段を構成している。ちなみに、昇降機構23による走行機体2の昇降の際、走行機体2側に設置された駆動スプロケット17及び上部転輪18は、走行機体2と一体で、クローラ式走行装置1に対して昇降される。
【0029】
図3は、本コンバインの走行系の動力伝動構成を示す概念図である。キャビン7の後部下方に配設されたエンジン32は、左右のクローラ式走行装置1,1と、前処理部3と、脱穀装置と、オーガ9等とを、駆動させる。この内に、左右のクローラ式走行装置1,1には、HST33及びトランスミッション34を介して、エンジン動力が伝動される。
【0030】
具体的には、HSTポンプ33a及びHSTモータ33bからなるHST33によって無段階で変速されたエンジン動力は、ミッションケース36内のトランスミッション34に入力される、このトランスミッション34に入力された動力によって、左右のクローラ式走行装置1,1が駆動される。
【0031】
トランスミッション34は、HST33からの変速動力がギヤ伝動される走行軸37と、走行軸37の動力が伝動される副変速機構38と、副変速機構38の動力が伝動される分岐軸39と、分岐軸39の動力がギヤ伝動される中間軸41及び旋回機構42と、旋回機構42の動力及び分岐軸39の動力が入力される切換機構43と、切換機構43を介して分岐軸39又は旋回機構42の何れか一の動力が伝動される切換軸44と、中間軸41の左右にそれぞれ遊転自在に設けられた左右一対の筒状伝動軸46,46と、左右の筒状伝動軸46,46に中間軸の41動力を各別に断続伝動する左右一対のサイドクラッチ47,47と、左右の筒状伝動軸46,46に切換軸44の動力を各別に断続伝動する左右一対の駆動クラッチ48,48と、左右の筒状伝動軸46,46の動力がそれぞれギヤ伝動される左右一対のドライブシャフト49,49とを備え、この左右のドライブシャフト49,49には、それぞれ上述した駆動スプロケット17,17が一体回転するように、取付固定されており、このドライブシャフト49,49によって、左右のクローラ式走行装置1,1が前進側又は後進側に走行駆動される。
【0032】
上記副変速機構38は、走行軸37に遊転自在に支持された大径の高速ギヤ38aと、走行軸37に遊転自在に支持された小径の低速ギヤ38bと、走行軸37の動力を高速ギヤ38a又は低速ギヤ38bの何れに伝動するかを切換えるシフタ部材38cとを備えている。そして、該副変速機構38は、高速ギヤ38aに走行軸37の動力を伝動することにより、分岐軸39に高速動力をギヤ伝動する高速状態への切換を行う一方で、低速ギヤ38bに走行軸37の動力を伝動することにより、分岐軸39に低速動力をギヤ伝動する低速状態への切換を行う。
【0033】
上記旋回機構42は、旋回用伝動軸51と、分岐軸39の動力を旋回用伝動軸51に断続伝動する油圧式の減速ターンクラッチ42aと、該旋回用伝動軸51に制動力を伝えてブレーキをかける油圧式のブレーキターンクラッチ42bとを備え、このブレーキターンクラッチ42b及び減速ターンクラッチ42aは、一方を接続状態とする場合には他方が切断状態となるように構成されている。
【0034】
そして、該旋回機構42は、減速ターンクラッチ42aを接続作動(ブレーキターンクラッチ42bを切断作動)させることにより、旋回用伝動軸51の伝動下流側にエンジンからの動力(具体的には、分岐軸39の動力)を伝動する伝動状態に切換えられる一方で、減速ターンクラッチ42aを切断作動(ブレーキターンクラッチ42bを接続作動)させることにより、旋回用伝動軸51の伝動下流側を制動させる制動状態に切換えられる。
【0035】
上記切換機構43は、前記切換軸44に遊転自在に支持され且つ旋回用伝動軸51の動力が常時ギヤ伝動される減速旋回ギヤ43aと、前記切換軸44に遊転自在に支持され且つ分岐軸39の動力が常時ギヤ伝動されるスピン旋回ギヤ43bと、減速旋回ギヤ43a又はスピン旋回ギヤ43bの何れか一の動力を切換軸44に伝動するシフタ部材43cとを備えている。
【0036】
そして、切換機構43は、減速旋回ギヤ43aの動力が切換軸44に伝動されるようにシフタ部材を43c切換えることによって、左右の駆動クラッチ48,48に、旋回機構42からの動力又は制動力を伝える減速旋回状態への切換を行う一方で、スピン旋回ギヤ43bの動力が切換軸44に伝動されるようにシフタ部材43cを切換えることによって、左右の駆動クラッチ48,48に、分岐軸39からの動力を反転して伝動するスピン旋回状態への切換を行う。
【0037】
すなわち、分岐軸39から切換機構43を介して切換軸44に伝動される動力と、分岐軸39から旋回機構42及び切換機構43を介して切換軸44に伝動される動力とは、駆動クラッチ48を介して、クローラ式走行装置1に断続伝動される。
【0038】
上記構成のトランスミッション34によって、左右一対のクローラ式走行装置1,1を有する走行機体2は、1種類の直進モードと、3種類の旋回モードとを有する。
【0039】
まず、直進モード(直進制御)では、左右の各駆動クラッチ48を切断作動させ、左右の各サイドクラッチ47を接続作動させる。これによって、走行機体2は、直進走行される。
【0040】
また、旋回モードの1つ目である減速旋回モード(減速旋回制御)では、左右のサイドクラッチ47,47の旋回側を切断状態に切換える一方で非旋回側を接続状態に維持し、左右の駆動クラッチ48,48の旋回側を接続状態に切換える一方で非旋回側を切断状態に切換え、旋回機構42を伝動状態に切換えるとともに、切換機構43を減速旋回状態に切換える。これによって、駆動クラッチ48からの動力が伝動される旋回側のクローラ式走行装置1の駆動速度が、サイドクラッチ47からの動力が伝動される非旋回側のクローラ式走行装置1よりも遅い速度で駆動され(遅い速度に減速され)、走行機体2が旋回側に旋回走行される。
【0041】
また、旋回モードの2つ目であるブレーキ旋回モード(ブレーキ旋回制御)では、左右のサイドクラッチ47,47の旋回側を切断状態に切換える一方で非旋回側を接続状態に維持し、左右の駆動クラッチ48,48の旋回側を接続状態に切換える一方で非旋回側を切断状態に切換え、旋回機構42を制動状態に切換えるとともに、切換機構43を減速旋回状態に切換える。これによって、旋回側のクローラ式走行装置1に旋回機構42側からの制動力が伝えられ、ブレーキがかかって停止又は減速され、以上により、該旋回側のクローラ式走行装置1は、サイドクラッチ47からの動力が伝動される非旋回側のクローラ式走行装置よりも遅い駆動速度になるか、或いは停止され、走行機体2が旋回側に旋回走行される。
【0042】
さらに、旋回モードの3つ目であるスピン旋回モード(スピン旋回制御)では、左右のサイドクラッチ47,47の旋回側を切断状態に切換える一方で非旋回側を接続状態に維持し、左右の駆動クラッチ48,48の旋回側を接続状態に切換える一方で非旋回側を切断状態に切換え、切換機構43をスピン旋回状態に切換える。これによって、左右のクローラ式走行装置1,1の旋回側が非旋回側に対して逆方向に駆動され、走行機体2がその場で、スピン旋回される。
【0043】
図4は、本コンバインに搭載された油圧装置の構成を示す油圧回路図である。本コンバインでは、キャビン7の前部下方側に収納された油圧装置52によって、昇降シリンダ4、オーガ昇降シリンダ13及び左右の水平シリンダ31,31の伸縮が制御されるとともに、減速ターンクラッチ42a、左右のサイドクラッチ47,47及び左右の駆動クラッチ48,48の断続が制御される。
【0044】
具体的には、油圧装置52は、オイルタンク53からの作動油を圧送する油圧ポンプ54と、昇降シリンダ4への作動油の供給・排出を行う電磁弁である昇降バルブ56と、減速ターンクラッチ42aへの作動油の供給・排出を行う電磁弁である減速ターンバルブ57と、左右の水平シリンダ31,31への作動油の供給・排出を個別に行う一対の電磁弁である水平バルブ58.58と、一対の駆動クラッチ48,48への作動油の供給・排出を個別に行う電磁式の比例制御弁である一対の駆動バルブ59,59と、オーガ昇降シリンダ13への作動油の供給・排出を行う電磁弁であるオーガ昇降バルブ61と、左右のサイドクラッチ47,47を断続させる単一の油圧式のサイドクラッチシリンダ62を作動させる電磁弁であるサイドクラッチバルブ63とを備えている。
【0045】
上記油圧ポンプ54は、エンジン動力によって駆動され、オイルタンク53からの作動油を、昇降バルブ56、減速ターンバルブ57、水平バルブ58、駆動バルブ59、オーガ昇降バルブ61及びサイドクラッチバルブ63側等に圧送する。
【0046】
上記昇降バルブ56は、昇降シリンダ4の伸長作動によって前処理部3を上昇させるように、該昇降シリンダ4の伸長室4aに油圧ポンプ54からの作動油を供給する流路を形成する上昇位置と、昇降シリンダ4の縮小作動によって前処理部3を下降させるように、該昇降シリンダ4の伸長室4a内の作動油をオイルタンク53に排出する流路を形成する下降位置と、昇降シリンダ4の伸縮作動停止によって前処理部3の昇降が停止されるように、該昇降シリンダ4への作動油の供給・排出を停止させる停止位置とに位置切換可能に構成されている。
【0047】
上記減速ターンバルブ57は、減速ターンクラッチ42aが接続作動するように、油圧ポンプ54からの作動油を減速ターンクラッチ42aに供給する流路を形成する接続位置と、減速ターンクラッチ42aが切断作動するように、減速ターンクラッチ42a内の作動油をオイルタンク53に排出する流路を形成する切断位置とに位置切換可能に構成されている。
【0048】
上記一対の各水平バルブ58は、水平シリンダ31の伸長作動によって、走行機体3の該水平シリンダ31側を上昇させるように、該水平シリンダ31の伸長室31aに油圧ポンプ54からの作動油を供給する流路を形成するとともに該水平シリンダ31の縮小室31b内の作動油をオイルタンク53に排出する流路を形成する上昇位置と、水平シリンダ31の縮小作動によって、走行機体3の該水平シリンダ31側を下降させるように、該水平シリンダ31の縮小室31bに油圧ポンプ54からの作動油を供給する流路を形成するとともに該水平シリンダ31の伸長室31a内の作動油をオイルタンク53に排出する流路を形成する下降位置と、水平シリンダ31の伸長停止によって走行機体3の該水平シリンダ31側の昇降が停止されるように、該水平シリンダ31への作動油の供給・排出を停止させる停止位置とに位置切換可能に構成されている。
【0049】
上記一対の各駆動バルブ59は、駆動クラッチ48が接続作動するように、油圧ポンプ54からの作動油を該駆動クラッチ48に供給する流路を形成する接続位置と、駆動クラッチ48が切断作動するように、該駆動クラッチ48内の作動油をオイルタンク53に排出する流路を形成する切断位置とに位置切換可能に構成されている。
【0050】
なお、駆動バルブ59は、比例制御弁となっているため、駆動クラッチ48の断続状態を段階的に切換えることが可能であり、これにより、切換軸44の動力を、どれくらいの割合、ドライブシャフト49に伝動するかを、細かく変更調整できる。
【0051】
上記オーガ昇降バルブ61は、オーガ昇降シリンダ13の伸長作動によってオーガ9を上昇させるように、該オーガ昇降シリンダ13の伸長室13aに油圧ポンプ54からの作動油を供給する流路を形成する上昇位置と、オーガ昇降シリンダ13の縮小作動によってオーガ9を下降させるように、該オーガ昇降シリンダ13の伸長室13a内の作動油をオイルタンク53に排出する流路を形成する下降位置と、オーガ昇降シリンダ13の伸縮作動停止によってオーガ13の昇降が停止されるように、該オーガ昇降シリンダ13への作動油の供給・排出を停止させる停止位置とに位置切換可能に構成されている。
【0052】
上記サイドクラッチバルブ63は、左側のサイドクラッチ47が切断され且つ右側のサイドクラッチ47が接続されるようにサイドクラッチシリンダ62を作動させる流路を形成する左旋回位置と、左側のサイドクラッチ47が接続され且つ右側のサイドクラッチ47が切断されるようにサイドクラッチシリンダ62を作動させる流路を形成する右旋回位置と、左右の両サイドクラッチ47,47を接続させるようにサイドクラッチシリンダ62を作動させる流路を形成する直進位置とに位置切換可能に構成されている。
【0053】
図5は、キャビン内の操縦部の平面図である。キャビン7内の操縦部6は、オペレータが着座する座席64と、座席64の前方に配置されたマルチレバー(操向レバー)66と、平面視座席64を挟んで乗降口6aの反対側に配置された主変速レバー67と、主変速レバー67の外側側方に配置された副変速レバー68と、主変速レバー67の後方に配置された操作パネル69とを備えている。
【0054】
上記主変速レバー67は、上述のHST33をニュートラルとする揺動位置を中立位置とし、該中立位置において左右一方側(図示する例では右側)に傾斜させることによって、中立位置から前方に揺動可能になる一方で、該中立位置において左右他方側に傾斜させることによって、中立位置から後方に揺動可能になる。そして、主変速レバー67を、中立位置から前方に揺動することによって、前進走行側にHST33を増速作動させる一方で、主変速レバー67を、中立位置から後方に揺動することによって、後進走行側にHST33を増速作動させる。
【0055】
上記副変速レバー68は、前後揺動によって、上述した副変速機構38の高速状態への切換又は低速状態への切換を行う。
【0056】
上記マルチレバー66は、前後揺動操可能且つ左右揺動操作可能に操縦部6に取付支持されている。そして、該マルチレバー66を中立位置から前後揺動させることによって、前処理部3の昇降操作を行うとともに、マルチレバー66を中立位置から左右揺動させることによって、走行機体2を左右旋回させる操向操作を行う。
【0057】
図6は、マルチレバーの左右傾斜角に応じた作動状態を示す説明図である。マルチレバー66は、中立位置Nから左右何れかの最倒し位置Eまで揺動させると、該マルチレバー66の操作位置(左右傾斜角)が、ブレーキ切位置P1→旋回作動位置P2→デテント位置P3→切換位置P4の順に変位し、最後に最倒し位置Eに達する。言換えると、マルチレバー66の左右の揺動範囲には、中立位置Nから近い順に、ブレーキ切位置P1と、旋回作動位置P2と、デテント位置P3と、切換位置P4と、最倒し位置Eとがそれぞれ設けられている。ちなみに、これ以降の説明では、切換機構43は減速旋回状態に切換えられているものとする。
【0058】
マルチレバー66が中立位置Nとブレーキ切位置P1の間に揺動されている際には、減速ターンクラッチ42aを介して旋回機構42が制動状態になるとともに、サイドクラッチシリンダ62を介して両サイドクラッチ47,47が接続状態(直進状態)になる。
【0059】
マルチレバー66がブレーキ切位置P1と旋回作動位置P2の間に揺動されている際には、減速ターンクラッチ42aを介して旋回機構42が伝動状態になるとともに、サイドクラッチシリンダ62を介して両サイドクラッチ47,47が接続状態(直進状態)になる。
【0060】
マルチレバー66が旋回作動位置P2と切換位置P4の間に揺動されている際には、減速ターンクラッチ42aを介して旋回機構42が伝動状態になるとともに、左右のサイドクラッチシリンダ62を介して、マルチレバー66の揺動側(旋回側)のサイドクラッチ47が切断状態に切換えられ且つマルチレバー66の非揺動側(非旋回側)が接続状態に切換えられ、上述の減速旋回モードになる。
【0061】
マルチレバー66が切換位置P4と最倒し位置Eの間に揺動されている際には、減速ターンクラッチ42aを介して旋回機構42が制動状態になるとともに、サイドクラッチシリンダ62を介して、マルチレバー66の揺動側(旋回側)のサイドクラッチ47が切断状態に切換えられ且つマルチレバー66の非揺動側(非旋回側)が接続状態に切換えられ、上述のブレーキ旋回モードになる。
【0062】
すなわち、切換位置P4よりも中立位置N寄りの範囲は、前記減速旋回制御によって走行機体2を左右旋回させる減速旋回範囲になるとともに、切換位置P4よりも最倒し位置E寄りの範囲は、前記ブレーキ旋回制御によって走行機体2を左右旋回させるブレーキ旋回範囲になるように、本コンバインが構成されている。
【0063】
また、デテント位置P3よりも中立位置N寄り範囲である軽操作範囲は、デテント位置P3よりも最倒し置E寄り範囲である重操作範囲に比べて、軽い操作力で、マルチレバー66を左右揺動させることができるように、該マルチレバー66は操縦部6に支持されている。
【0064】
ちなみに、減速旋回制御時及びブレーキ旋回制御時には、上述したように、旋回側の駆動クラッチ48が接続状態になり、非旋回側の駆動クラッチ48が切断状態になるが、この旋回側の駆動クラッチ48が、マルチレバー66の左右揺動位置が中立位置Nから離れる程(マルチレバー66の左右傾斜角が大きくなる程)、より低速な動力を旋回側のクローラ式走行装置1に伝動するように作動し(駆動バルブ59の圧力を上昇させ)、これによって、非旋回側のクローラ式走行装置1との速度差が広がり、旋回時の走行方向の変更角(操舵角)も大きくなっていく。
【0065】
すなわち、マルチレバー66の左右傾斜角が大きい程、大きな操舵角で、走行機体2が操向作動され、この左右傾斜角の増加に伴う操舵角の増加の割合は、デテント位置P3から中立位置Nまでの範囲よりも、デテント位置P3から最倒し位置Eまでの範囲の方が、大きくなるように設定されている。
【0066】
これによって、中立位置Nに近い側である左右の軽操作範囲は、マルチレバー66が該範囲に揺動された場合に、走行機体2の走行方向の微調整を行う方向修正制御を実行する方向修正範囲となる一方で、中立位置Nから遠い側である左右の重操作範囲は、マルチレバー66が該範囲に揺動された場合に、走行機体2を大きく左右旋回させる旋回制御を実行する旋回範囲となるように、本コンバインは構成されている。ちなみに、旋回制御の実行中、上述した減速旋回モードよりも、前記ブレーキ旋回モードの方が、さらに大きな操舵角で、急激に、走行機体2を操向作動させる。
【0067】
図7は、操作パネルの平面図である。操作パネル69には、前処理部3及び脱穀装置へのエンジン動力の断続を行う作業機クラッチの断続操作を行う断続操作具である作業機クラッチスイッチ71と、傾斜制御の一種である水平自動制御の入切操作を行う入切操作具である水平自動スイッチ72とが設けられている。
【0068】
ちなみに、傾斜制御時には、左右の昇降機構23,23によって、前記走行機体2が左右のクローラ式走行装置1,1に対して左右傾斜作動(ローリング作動)され、圃場面や路上面の凹凸や傾きに関係無く、該走行機体2が水平方向に対して予め定めた所定の左右傾斜角で保持される。特に、傾斜制御の一種である水平自動制御の実行時は、該予め定めた所定の傾斜角が0度になり、走行機体2が、走行面の傾きに関係無く、左右方向において水平に保持される。
【0069】
この傾斜制御は、本コンバインに搭載されたマイコン等からなる制御部(図8参照)73によって、実行される。ちなみに、この制御部73によって、図6に示す走行機体2の操向作動を制御してもよいし、この制御部73とは別に設けたマイコン等によって、該操向作動を制御してもよいし、リレー回路やセンサ等を組合わることによって、該操向作動の制御を行ってもよい。
【0070】
図8は、制御部のブロック図である。制御部73の入力側には、上述の作業機クラッチスイッチ71及び水平自動スイッチ72の他、水平方向に対する走行機体2の左右傾斜角を検出する傾斜センサ(傾斜検出手段)74と、上述した分岐軸39の回転数を検知することによって走行機体2の走行速度を検出する走行速度検出手段である車速センサ76と、マルチレバー66の左右傾斜角を検知することによって左右揺動位置を検出する操作位置検出手段であるマルチレバーポテンショ77とが接続されている。
【0071】
制御部73の出力側には、右側のクローラ式走行装置1に設置された水平シリンダ31を伸縮させる水平バルブ58を上昇位置に切換えることにより、走行機体2の右側を上昇させるソレノイドである水平バルブ右上げ手段78と、該水平バルブ58を下降位置に切換えることにより、走行機体2の右側を下降させるソレノイドである水平バルブ右下げ手段79と、左側のクローラ式走行装置1に設置された水平シリンダ31を伸縮させる水平バルブ58を上昇位置に切換えることにより、走行機体2の左側を上昇させるソレノイドである水平バルブ左上げ手段81と、該水平バルブ58を下降位置に切換えることにより、走行機体2の左側を下降させるソレノイドである水平バルブ左下げ手段82とが接続されている。
【0072】
この制御部73は、水平自動制御の実行中、走行機体2が操向作動している際には、水平自動制御の実行を所定条件下で規制する。具体的には、操向操作中のマルチレバー66がデテント位置P3よりも中立位置N寄り範囲である非規制範囲に揺動させている際には、水平自動制御の実行を継続する一方で、操向操作中のマルチレバー66がデテント位置P3よりも最倒し位置EN寄り範囲である規制範囲に揺動させている際には、水平自動制御の実行を停止するように制御部73を構成している。
【0073】
すなわち、同一範囲に設定された方向修正範囲及び軽操作範囲は、水平自動制御の実行を規制しない非規制範囲に設定されるとともに、同一範囲に設定された旋回範囲及び重操作範囲は、水平自動制御の実行を規制する規制範囲に設定される。
【0074】
図9は、制御部が行う水平自動制御の処理フロー図である。制御部73は、処理が開始されると、ステップS1に進む。ステップS1は水平自動スイッチ72の入切検出を行い、入操作されている際には、水平自動制御の実行中、或いは実行可能な状態であるものとして、ステップS2に進む。ステップS2では、作業機クラッチスイッチ71の入切検知によって作業機クラッチの断続検出を行い、前処理部3及び脱穀装置へのエンジン動力の伝動が接続されている際には、刈取・脱穀作業中であるものとして、ステップS3に進む。
【0075】
ステップS3では、マルチレバーポテンショ77によって、マルチレバー66の左右操作位置を検出し、マルチレバー66が左右何れかの非規制範囲又は中立位置Nに位置していれば、走行機体2が直進走行しているか、或いは走行機体2の走行方向を微調整しているものと識別し、ステップS4に進む一方で、マルチレバー66が左右何れかの規制範囲に位置していれば、走行機体2が大きく左右旋回されているものと識別し、ステップS5に進む。
【0076】
ステップS4では、操向作動が走行方向の微調整であり、走行機体2が左右傾斜作動可能な程度に安定しているため、傾斜制御の実行を継続すべく、傾き判定のサブルーチンを実行し、このサブルーチンが終了すると、ステップS1に処理を戻す。一方、ステップS5では、大きく左右旋回された走行機体2が左右傾斜作動可能な程度には安定していないものと判断し、傾斜制御の実行を一時的に停止するため、バルブ停止のサブルーチンを実行し、このサブルーチンが終了すると、ステップS1に処理を戻す。ちなみに、バルブ停止のサブルーチンでは、一対の各水平バルブ58,58を停止位置に切換えた状態で保持させ、左右の水平シリンダ31,31の伸縮を停止させる。
【0077】
また、ステップS1において、水平自動スイッチ72が入操作されている際には、水平自動制御の実行が停止されているものとして、ステップS5に進む。また、ステップS2において、作業機クラッチスイッチ71の入切検知より、前処理部3及び脱穀装置へのエンジン動力の伝動が切断されている際には、刈取・脱穀作業が行われていないものとして、ステップS5に進む。ちなみに、脱穀作業中に水平自動制御を行うことにより、圃場面の凹凸や傾き関係無く、脱穀装置は略水平に保持され、脱穀・選別作業を効率的に行うことが可能になる。
【0078】
図10は、傾き判定のサブルーチンの処理フロー図である。制御部73は、傾き判定のサブルーチンの処理が開始されると、ステップS11に処理を進める。ステップS11では、車速センサ76によって走行機体2の走行速度を検出し、走行速度が予め定めた所定速度である閾値速度Xよりも遅い場合には、ステップS12に進む一方で、走行速度が閾値速度X以上に高速な場合には、ステップS13に進む。
【0079】
ステップS12では、傾き検知不感帯値に低値xを代入し、ステップS14に進む一方で、ステップS13では、傾き検知不感帯値に高値yを代入し、ステップS14に進む。ちなみに、低値xは、高値yに比べて、低い値に設定されている。ステップS14では、傾斜センサ74によって、走行機体2の水平方向の対する左右傾斜角を検出し、この検出された左右傾斜角が、前記傾き検知不感帯値以上の場合には、ステップS15に進む。
【0080】
ステップS15では、作動バルブ決定のサブルーチンを実行し、該サブルーチンの処理が終了すると、ステップS16に進む。
【0081】
作動バルブ決定のサブルーチンでは、走行機体2の左右傾斜状態に基づき、走行機体2の左右傾斜を水平にさせるために、左右何れかの水平シリンダ31,31を作動させるかを選定するとともに、該選定された水平シリンダ31を伸長又は縮小の何れかに作動させるかの決定を行う。例えば、走行機体3が、左右一方側に下降傾斜している場合には、該一方側のクローラ式走行装置1に配された水平シリンダ31の伸長作動させるか、或いは他方側のクローラ式走行装置1の水平シリンダ31を縮小作動させる。ちなみに、この決定の際には、走行機体2が可能な限り低重心となるように考慮してもよい。
【0082】
ステップS16では、作動バルブ決定のサブルーチン実行による決定事項に基づいて、バルブを作動させるバルブ作動のサブルーチンを実行し、この処理が終了すると、この傾き判定のサブルーチン処理を終了させる。
【0083】
ステップS14において、走行機体2の水平方向の対する左右傾斜角が前記傾き検知不感帯値よりも小さい場合には、ステップS17に進む。ステップS17では、走行機体2の水平方向に対する左右傾斜角が、傾き検知不感帯値よりも小さい値になっており、略水平状態と判断できるため、上述したバルブ停止のサブルーチンを実行し、走行機体2の左右傾斜作動を停止し、この傾き判定のサブルーチン処理を終了させる。
【0084】
以上のように、走行機体2の水平方向に対する左右傾斜角が、傾き検知不感帯値よりも小さい場合には、走行機体2の左右傾斜作動を停止させ、走行機体2の水平方向に対する左右傾斜角が、傾き検知不感帯値以上である場合には、走行機体2の左右傾斜作動を停止させるため、略水平に近い状態で、左右傾斜作動を繰返すことにより走行機体2が振動するハンチングの発生を効率的に防止可能になる。
【0085】
さらに、走行速度が閾値速度Xよりも遅い場合には、傾き検知不感帯値に低値xが代入され、走行速度が閾値速度X以上に高速な場合には、傾き検知不感帯値に高値yが代入されるため、走行速度が高速走行している際には、傾き検知不感帯値が大きくなり、それ以上に走行機体2が左右傾斜しない限り、走行機体2が左右傾斜作動しなくなるため、より効率的にハンチングを防止できる。
【0086】
図11は、バルブ作動のサブルーチンの処理フロー図である。制御部73は、バルブ作動のサブルーチンの処理が開始されると、ステップS21に処理を進める。ステップS21では、車速センサ76によって走行速度を検出し、検出された走行速度が閾値速度Xよりも遅い場合には、ステップS22に進み、閾値速度X以上に高速の場合には、ステップS23に進む。ちなみに、同図に示す閾値速度Xは、図10に示す閾値速度Xと同一に設定されているが、両者を異なる値に設定してもよい。
【0087】
ステップS22では、水平シリンダ31を伸長させて走行機体2の対応側を連続的に上昇させる時間である上げON時間と、水平シリンダ31を縮小させて走行機体2の対応側を連続的に下降させる時間である下げON時間とを、共に、時間aに設定し、ステップS24に進む。ステップS23では、上げON時間を時間bに設定するとともに、下げON時間を時間cに設定し、ステップS24に進む。ちなみに、時間aよりも時間bは短く、時間bよりも時間cは短く設定されている。
【0088】
ステップS24では、制御部73に内臓されたタイマであるバルブ作動タイマが0になってカウントが終了しているか否かのチェックを行い、カウントが終了していれば、ステップS25に進み、カウントが終了していなければ、ステップS26に進む。ステップS25では、バルブ作動タイマに時間aを設定し、0までのカウントダウンを再び開始し、ステップS26に進む。
【0089】
ステップS26では、作動バルブ決定のサブルーチンの確認を行い、該作動バルブ決定によって選別された水平シリンダ31の作動方向が走行機体2を上昇させる側に決定されている場合には、ステップS27に進む。ステップS27では、前記バルブ作動タイマが、カウントダウンによって、時間aから前記上げON時間を減算した値よりも短い時間以下になっていない場合、ステップS28に進む。ステップS28では、上述のソレノイド78,79,81,82によって、前記選定された水平シリンダ31を伸長作動させ、このバルブ作動のサブルーチンを終了させる。ステップS27において、前記バルブ作動タイマが、カウントダウンによって、時間aから前記上げON時間を減算した時間以下になっている場合、水平シリンダ31を伸長作動させず、このバルブ作動のサブルーチンが終了される。
【0090】
ステップS26において、前記作動バルブ決定のサブルーチンによって選別された水平シリンダ31の作動方向が走行機体2を下降させる側に決定されている場合には、ステップS29に進む。ステップS29では、前記バルブ作動タイマが、カウントダウンによって、時間aから前記下げON時間を減算した時間以下になっていない場合、ステップS30に処理を進める。ステップS30では、上述のソレノイド78,79,81,82によって、前記選定された水平シリンダ31を縮小作動させ、このバルブ作動のサブルーチンを終了させる。ステップS29において、前記バルブ作動タイマが、カウントダウンによって、時間aから前記下げON時間を減算した時間以下になっている場合、水平シリンダ31を縮小作動されず、このバルブ作動のサブルーチンが終了される。
【0091】
図9に示すメインルーチンが繰返し実行されるため、走行機体2の左右傾斜作動時には、このバルブ作動のサブルーチンも繰返し実行される。そして、バルブ作動のサブルーチンの繰返し実行では、ステップS24及びステップS25によって、時間a経過毎にバルブ作動タイマが時間aからのカウントダウンが開始される。
【0092】
この時間a内において、走行機体2の対応箇所を上昇させる場合には、上げON時間経過前までは、前記選定された水平シリンダ31が伸長作動され、上げON時間経過後は、前記選定された水平シリンダ31の伸長作動が停止される。一方、この時間a内において、走行機体2の対応箇所を下降させる場合には、下げON時間経過前までは、前記選定された水平シリンダ31が縮小作動され、下げON時間経過後は、前記選定された水平シリンダ31の縮小作動が停止される。
【0093】
そして、走行機体3が閾値速度Xよりも遅い速度で走行している際には、上げON時間及び下げON時間が共に時間aにセットされるため、傾斜制御中における走行機体2の左右傾斜作動時、対応する水平シリンダは連続駆動される。
【0094】
一方、走行機体3が閾値速度X以上の速度で走行している際には、時間aよりも短い時間である時間bが上げON時間になるとともに、時間aよりも短い時間である時間cが下げON時間になる。このため、傾斜制御中における走行機体2の左右傾斜作動時、対応する水平シリンダは間欠駆動される。具体的には、伸長時には一周囲中b/aだけ水平シリンダ31が駆動され、縮小時には一周囲中c/aだけ水平シリンダ31が駆動される。
【0095】
すなわち、走行速度が閾値速度以上に高速になると、傾斜制御時における走行機体2の左右傾斜作動の駆動スピードが低くなり、これによって、高速走行時の前記ハンチングを、さらに効率的に防止可能になる。
【0096】
次に、図12に基づき、本発明の別実施形態について、上述の例と異なる点を説明する。
図12は、制御部が行う水平自動制御の別実施形態を示す処理フロー図である。同図のステップS3の処理内容に示されている通り、軽操作範囲が非規制範囲に設定されるとともに、重操作範囲が規制範囲に設定されている。
【0097】
なお、図1乃至11に示す例では、軽操作範囲が方向修正範囲と同一範囲に設定され、重操作範囲が旋回範囲と同一範囲に設定されているため、結果として、図12に示す制御内容は、図9に示すものと同一になる。
【0098】
次に、図13に基づき、本発明の別実施形態について、上述の例と異なる点を説明する。
図13は、制御部が行う水平自動制御の別実施形態を示す処理フロー図である。同図のステップS3の処理内容に示されている通り、減速旋回範囲が非規制範囲に設定されるとともに、ブレーキ旋回範囲が規制範囲に設定されている。
【符号の説明】
【0099】
1 クローラ式走行装置(走行装置)
1a 走行フレーム
2 走行機体
2a 機体フレーム
3 前処理部
4 昇降シリンダ(油圧シリンダ)
4a 伸長室
6 操縦部
7 キャビン
8 グレンタンク
8a 搬送ラセン
9 オーガ
11 縦筒
11a 搬送ラセン
12 排出筒
12a 搬送ラセン
13 オーガ昇降シリンダ(油圧シリンダ)
13a 伸長室
14 転輪
16 アイドラ輪
17 駆動スプロケット(駆動輪)
18 上部転輪(転輪)
19 可動転輪(転輪)
21 クローラ
22 支持アーム
23 昇降機構
24 リンク
26 リンク
27 主動アーム
28 従動アーム
29 連結ロッド
31 水平シリンダ(傾斜駆動手段,油圧シリンダ)
31a 伸長室
31b 縮小室
32 エンジン
33 HST(油圧式無段階変速装置)
34 トランスミッション
36 ミッションケース
37 走行軸
38 副変速機構
38a 高速ギヤ
38b 低速ギヤ
38c シフタ部材
39 分岐軸
41 中間軸
42 旋回機構
42a 減速ターンクラッチ
42b ブレーキターンクラッチ
43 切換機構
43a 減速旋回ギヤ
43b スピン旋回ギヤ
43c シフタ部材
44 切換軸
46 筒状伝動軸
47 サイドクラッチ
48 駆動クラッチ
49 ドライブシャフト
51 旋回用伝動軸
52 油圧装置
53 オイルタンク
54 油圧ポンプ
56 昇降バルブ(電磁弁)
57 減速ターンバルブ(電磁弁)
58 水平バルブ(電磁弁)
59 駆動バルブ(比例制御弁)
61 オーガ昇降バルブ(電磁弁)
62 サイドクラッチシリンダ
63 サイドクラッチバルブ(電磁弁)
64 座席
66 マルチレバー(操向レバー)
67 主変速レバー
68 副変速レバー
69 操作パネル
71 作業機クラッチスイッチ(断続操作具)
72 水平自動スイッチ(入切操作具)
73 制御部(マイコン)
74 傾斜センサ(傾斜検出手段)
76 車速センサ(走行速度検出手段,回転センサ)
77 マルチレバーポテンショ(操作位置検出手段)
78 水平バルブ右上げ手段(ソレノイド)
79 水平バルブ右下げ手段(ソレノイド)
81 水平バルブ左上げ手段(ソレノイド)
82 水平バルブ左下げ手段(ソレノイド)
E 最倒し位置
N 中立位置
P1 ブレーキ切位置
P2 旋回作動位置
P3 デテント位置
P4 切換位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の走行装置(1),(1)によって支持された走行機体(2)を該左右の走行装置(1),(1)に対して左右傾斜作動させる傾斜駆動手段(31),(31)と、該走行機体(2)の左右傾斜を検出する傾斜検出手段(74)とを備え、該傾斜検出手段(74)の検出結果に基づき、前記傾斜駆動手段(31),(31)によって、水平方向に対して走行機体(2)を予め定めた所定の左右傾斜角で保持する傾斜制御を実行する制御部(73)を設けた作業車両であって、中立位置(N)からの左右揺動によって操向操作を行う操向レバー(66)と、該操向レバー(66)の中立位置(N)からの左右揺動位置を検出する操作位置検出手段(77)を設け、前記制御部(73)は、操向レバー(66)の左右の各揺動範囲における中立位置(N)に近い側を非規制範囲とするとともに中立位置(N)から遠い側を規制範囲とし、前記操作位置検出手段(77)によって操向レバー(66)が左右何れかの規制範囲に揺動されたことが検出された場合には、傾斜制御の実行を停止する一方で、前記操作位置検出手段(77)によって操向レバー(66)が左右何れかの非規制範囲に揺動されたことが検出された場合には、傾斜制御の実行を継続する作業車両。
【請求項2】
前記制御部(73)は、前記操作位置検出手段(77)によって、操向レバー(66)が左右何れかの規制範囲に揺動されたことが検出された場合には、操向レバー(66)の揺動側に走行機体(2)を操向作動させる旋回制御を行う一方で、前記操作位置検出手段(77)によって、操向レバー(66)が左右何れかの非規制範囲に揺動されたことが検出された場合には、操向レバー(66)の揺動側に旋回制御時よりも小さい所定角度分、走行機体(2)を操向作動させる方向修正制御を行う請求項1記載の作業車両。
【請求項3】
非規制範囲では規制範囲よりも軽い操作力で左右揺動操作を行うことが可能なように前記操向レバー(66)を構成した請求項1記載の作業車両。
【請求項4】
前記制御部(73)は、前記操作位置検出手段(77)によって、操向レバー(66)が左右何れかの非規制範囲に揺動されたことが検出された場合には、揺動側の走行装置(1)を、非揺動側の走行装置(1)よりも遅い駆動速度に減速させる減速旋回制御を行う一方で、前記操作位置検出手段(77)によって、操向レバー(66)が左右何れかの規制範囲に揺動されたことが検出された場合には、揺動側の走行装置(1)を制動させるブレーキ旋回制御を行う請求項1記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−200243(P2012−200243A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70749(P2011−70749)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】