説明

便器洗浄方法及び便器洗浄装置

【課題】排水管からの臭気の戻りを防止することができる便器洗浄方法及び装置を提供する。
【解決手段】洋風便器1を洗浄するときには、弁22が所定時間開弁し、水道水圧によってリム3へ洗浄水が供給され、鉢面に付着した汚れがトラップ部へ洗い落とされる(第1回リム洗浄)。リム3への給水開始から所定時間経過すると、弁22が閉弁する。この弁22の閉弁後、又は閉弁と略同時に、弁23が所定時間開弁し、ジェットノズル5から水が噴出してトラップ部にサイホンが誘起され、汚水が排水管へ排出される(第1回サイホン)。その後、第2回リム洗浄及び第2回サイホンが実行され、次いでトラップ水が貯溜される。第1回サイホン及び第2回サイホンにおいて、ジェット用の弁23の開弁時間(ジェット時間)tを0.6〜1.1秒とし、この際の流量を16〜19L/minとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋風便器に洗浄水を供給する便器洗浄方法及び装置に係り、特に該洋風便器がサイホンジェット式洋風便器である場合に採用される便器洗浄装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、ロータンクやハイタンクなどのタンクを設置せず、水道水の水圧によって洗浄水を洋風便器に供給する便器洗浄方法及び装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
I. 従来用いられてきた洋風便器は、便器本体の後部上面にロータンクを設置し、該ロータンク内の水をリム等へ供給するロータンク式のものが多い。
【0003】
このロータンク式洋風便器は、ロータンクの分だけ後方に出張るところから、近年、ロータンクを省略し、水道水圧によって洗浄水を給水することにより洋風便器の後方出張りを著しく小さくした洋風便器が急速に普及しつつある。この水道水圧による便器洗浄装置にあっては、便鉢内から汚物やペーパーを強力に排出するために、便器のトラップ部にジェット孔から水を噴出させてサイホン排出水流を形成するサイホンジェット式洗浄方式が採用されている。
【0004】
II. 実開平6−30280号には、この水道直圧式のサイホンジェット式洗浄方式の便器洗浄装置において、リム給水工程→ジェット給水工程→リム給水工程→ジェット給水工程→リム給水工程の5工程にて便器洗浄すること、最初のジェット給水工程を0.3〜0.5秒とすることが記載されている(第0027段落及び図3)。
【0005】
この実開平6−30280号公報の便器洗浄方法及び装置にあっては、同号公報0023〜0030段落の通り、最初のリム給水により、汚物が細分化し同時に封水面が上昇する(0023段落)。この後の第1回目の0.3〜0.5秒のジェット給水により、トラップ排水路内は完全なサイホン状態となる(0026段落)。
【0006】
次に第2回目のリム給水を行うと、サイホン作用を持続しながら、ボウル部(鉢部)の洗浄が行われる(0027段落)。
【0007】
次に第2回目のジェット給水を行うと、これによりサイホン作用では排出できない非常に軽い物質を吹き飛ばしながら汚物・汚水がトラップ排水路へ押し込まれる。
【0008】
その後の第3回目のリム給水により、ボウル部に封水が溜まる(0030段落)。
【特許文献1】実開平6−30280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
リム給水とジェット給水とを順次に行う従来の便器洗浄方法にあっては、ジェット給水してサイホンを形成した後、このサイホンが停止する頃に、排水管内の臭気がトイレルームに拡散してくることがあった。この現象は、トイレ室内の気圧が排水管内の気圧よりも大きく低下する場合に生じ易い。
【0010】
本発明は、かかる排水管からの臭気の戻りを防止することができる便器洗浄方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の便器洗浄方法は、便鉢のリムに水道水圧によって給水するリム給水工程と、トラップ部に臨んだジェット孔に水道水圧によって給水するジェット給水工程と、その後、トラップ水を溜めるトラップ水給水工程と、を有する便器洗浄方法において、該ジェット給水工程においてトラップ水の水切れが生じない程度の弱いサイホン流を形成することを特徴とするものである。
【0012】
請求項2の便器洗浄方法は、請求項1において、該リム給水工程及びジェット給水工程よりなる洗浄サイクルを複数回繰り返すことを特徴とするものである。
【0013】
請求項3の便器洗浄方法は、請求項1又は2において、該ジェット給水工程において0.6〜1.1秒にわたって流量16〜19L/minにて給水を行うことを特徴とするものである。
【0014】
請求項4の便器洗浄装置は、便鉢のリムに水道水圧によって給水するリム給水手段と、トラップ部に臨んだジェット孔に水道水圧によって給水するジェット給水手段と、を有する便器洗浄装置において、該ジェット給水手段は、トラップ水の水切れが生じない程度の弱いサイホン流を形成させるものであることを特徴とするものである。
【0015】
請求項5の便器洗浄装置は、請求項4において、該ジェット給水手段は、0.6〜1.1秒にわたって流量16〜19L/minにて給水を行うものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の便器洗浄方法及び装置は、ジェット給水時にトラップ水の水切れが生じない程度のサイホン流を形成するようにしたものである。このようにトラップ水の水切れが生じない(即ち、常に、トラップの水の流れ方向の少なくとも一部にあっては、該流水方向と垂直な断面が水で満たされている)ので、排水管内とトイレ室内とは十分にトラップ水によって隔絶され、臭気のトイレ室内への戻りが防止される。
【0017】
本発明では、サイホン流が弱いので、便器の基本性能によっては洗浄が不十分になるおそれがある。そこで、本発明では、リム給水工程及びジェット給水工程よりなる洗浄サイクルを複数回繰り返し、便器を十分に洗浄することが好ましい。
【0018】
本発明では、ジェット給水を0.6〜1.1秒間にわたって且つ流量を16〜19L/minにして行うことが好ましい。このように比較的小さい流量にて所要時間ジェット給水することにより、トラップ水が水切れしない程度の弱いサイホン流を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。図1(a)は実施の形態に係る便器洗浄装置を備えた洋風便器設備の斜視図、図1(b)はその電動弁ユニットの正面図、図2はこの便器設備の概略的な縦断面図、図3は洗浄水の給水タイミングチャート、図4はジェット流量とサイホン特性等との関係図である。
【0020】
陶器製の洋風便器1は、前部に鉢部2を備え、この鉢部2の上部内周にリム3が設けられている。このリム3へはリムノズル4を介して洗浄水が供給される。このリムノズル4は、洋風便器1の正面向って左側にのみ配置されており、所謂「片側給水方式」となっている。このリムノズル4から水がリム3に供給されることにより、鉢面には旋回流が形成される。
【0021】
鉢部2のトラップ部6には、該トラップ部6にサイホン排出流を誘起するための水(ジェット水)を噴出するジェットノズル5が設けられている。このトラップ部6は、鉢部2の底部から斜め上方に立ち上がる上昇部6aと、該上昇部6aに連なり、下方に立ち下がる立下部6bとを有しており、この立下部6bが排水ソケット7を介して排水管8に連なっている。このトラップ構造自体は周知のものである。
【0022】
洋風便器1の後部上面に便座ボックス(図示略)が設置されている。この便座ボックスに対し便座及び便蓋(いずれも図示略)が起倒回動しうるように支持されている。
【0023】
トイレルームの壁面には給水管の末端が突出しており、この給水管の末端に止水栓10が取り付けられている。この止水栓10は給水ホース11を介して洋風便器1の後部に設置されたストレーナ12に接続されている。このストレーナ12を通過した水は電動弁ユニット20の弁装置22,23へ供給可能とされている。
【0024】
電動弁ユニット20は、内部に配置された弁装置22,23をモータ21で駆動し、リムノズル給水配管24又はジェットノズル給水配管25へ水を給水する。
【0025】
なお、停電時にも便器を使用できるようにするために、モータ21の回転軸に手動式の洗浄ハンドル28が取り付けられている。
【0026】
この電動弁ユニット20には、リムノズル用給水配管24内及びジェットノズル用給水配管25内の負圧をブレークするためのバキュームブレーカ26,27が設けられている。このバキュームブレーカ26,27は、該給水配管24又は25内に負圧が生じたときに開弁して該給水配管24又は25内を大気に連通させるよう構成されている。
【0027】
これらの弁装置22,23は図示しない制御器によって制御される。この制御器へは、洋風便器1の使用者の検知信号及びリモコン(図示略)のフラッシュスイッチ信号が入力され、これらの信号に基づいて弁装置22,23が作動される。
【0028】
以下、この便器洗浄装置の作動について説明する。なお、以下、弁装置22,23を単に弁22,23ということがある。
【0029】
図3を参照して便器洗浄パターンについて説明する。
【0030】
用便(大便)後に洋風便器1を洗浄するときには、弁22が所定時間開弁し、水道水圧によってリム3へ洗浄水が供給され、鉢面に付着した汚れがトラップ部へ洗い落とされる(第1回リム洗浄)。
【0031】
リム3への給水開始から所定時間経過すると、弁22が閉弁する。この弁22の閉弁後、又は閉弁と略同時に、弁23が所定時間開弁し、ジェットノズル5から水が噴出してトラップ部にサイホンが誘起され、汚水が排水管へ排出される(第1回サイホン)。その後、弁23が閉弁し、再度弁22が所定時間開弁し、第2回リム洗浄が行われる。次いで、弁22の閉弁後、又は閉弁と略同時に、弁23が所定時間開弁し、ジェットノズル5から水が噴出してトラップ部にサイホンが誘起され、汚水が排水管へ排出される(第2回サイホン)。その後、弁23が閉弁し、次いで弁22が再度所要時間開弁し、トラップ水が貯溜される。
【0032】
この実施の形態では、第1回サイホン及び第2回サイホンにおいて、ジェット用の弁23の開弁時間(ジェット時間)tを0.6〜1.1秒とし、この際の流量を16〜19L/minとする。これにより、トラップ水の水切れが生じない程度の弱いサイホンが形成され、排水管8と便鉢2内との水封による隔絶が維持され、排水管8からの臭気の戻りが防止される。但し、ジェット給水工程において一時的に破封されたとしても、ジェット水は空気を巻き込みながら排水管へ流入されるため、臭気の戻りが生じることはない。
【0033】
ジェット給水工程におけるサイホン流は、便鉢2内に水が残留する程度に弱い。特に、この実施の形態では、ジェット給水工程において便鉢2内に残留している水の量は、ジェット給水工程の終了後に行われるリム給水工程において便鉢2内に瞬時に給水されることによって該便鉢2と該トラップ部6とを水封する程度の水量である。このため、ジェット給水工程の終了後のリム給水工程においてすぐに便鉢2とトラップ部6とが水封されることとなり、排水管8からの臭気の戻りが防止される。
【0034】
なお、ジェット給水工程において便鉢2内に残留している水の量は、ジェット給水工程の終了時に該便鉢2と該トラップ部6とを水封する程度の水量であることがより好ましく、この場合、ジェット給水工程の終了時に排水管8からの臭気の戻りが確実に防止される。
【0035】
この実施の形態では、1回のジェット給水におけるサイホン流は弱くても、ジェット給水を2回行うことから、十分な洗浄性能を確保することができる。
【0036】
図4は、このジェット時間t及びジェット流量と臭気戻り状況及びサイホン特性との関係を示している。図示の通り、ジェット流量が16L/minを下回るとサイホンが形成されないか又は弱すぎ、汚物排出不良となる。ジェット時間tが0.6秒よりも短いと、流量を増大させても同様にサイホンが不良となる。ジェット時間tが1.1秒を超えると、ジェット流量を19L/min以下としても臭気が戻り易くなる。
【0037】
ジェット時間tを0.6〜1.1秒とし、ジェット流量を16〜19L/minとした場合には、汚物排出動作は順調であり、臭気の戻りも確実に防止される。
【0038】
なお、第1回及び第2回リム洗浄時の洗浄時間は3.5〜5.7秒が好適であり、第3回目のリム給水(トラップ水貯溜工程)の開弁時間も3.5〜5.7秒が好適である。これら第1回、第2回のリム洗浄及び第3回のリム給水の流量は、ジェット洗浄時の流量と同じである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a)図は実施の形態に係る便器洗浄装置を備えた洋風便器設備の斜視図、(b)はその電動弁ユニットの構成図である。
【図2】図1の便器の縦断面図である。
【図3】実施の形態に係る便器洗浄タイミングチャートである。
【図4】ジェット時間及び流量とサイホン特性及び臭気戻りとの関係図である。
【符号の説明】
【0040】
1 洋風便器
2 鉢部
3 リム
4 リムノズル
5 ジェットノズル
12 ストレーナ
20 電動弁ユニット
22,23 弁装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便鉢のリムに水道水圧によって給水するリム給水工程と、
トラップ部に臨んだジェット孔に水道水圧によって給水するジェット給水工程と、
その後、トラップ水を溜めるトラップ水給水工程と、
を有する便器洗浄方法において、
該ジェット給水工程においてトラップ水の水切れが生じない程度の弱いサイホン流を形成することを特徴とする便器洗浄方法。
【請求項2】
請求項1において、該リム給水工程及びジェット給水工程よりなる洗浄サイクルを複数回繰り返すことを特徴とする便器洗浄方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、該ジェット給水工程において0.6〜1.1秒にわたって流量16〜19L/minにて給水を行うことを特徴とする便器洗浄方法。
【請求項4】
便鉢のリムに水道水圧によって給水するリム給水手段と、
トラップ部に臨んだジェット孔に水道水圧によって給水するジェット給水手段と、
を有する便器洗浄装置において、
該ジェット給水手段は、トラップ水の水切れが生じない程度の弱いサイホン流を形成させるものであることを特徴とする便器洗浄装置。
【請求項5】
請求項4において、該ジェット給水手段は、0.6〜1.1秒にわたって流量16〜19L/minにて給水を行うものであることを特徴とする便器洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−45775(P2006−45775A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−223943(P2004−223943)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】