説明

充填材の作製方法及びその充填材、並びに地盤孔の埋め戻し方法

【課題】地盤に形成された孔を埋めるにあたり、周辺地盤に与える悪影響が少なく、かつ、孔への充填性に優れた充填材の作製方法及びその充填材、並びにその充填材を用いた地盤孔の埋め戻し方法を提供する。
【解決手段】充填材の作製方法は、高炉セメントと、ベントナイトと、水とを同時に混合する、又は高炉セメントとベントナイトとを混合した混合物に、水を混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤に形成された孔を埋める際に孔に充填する充填材に係り、特に、環境を配慮し、かつ孔長の長い孔に適用可能な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地質調査等により地盤に削孔された試掘孔は、調査終了後に孔内に充填材を充填して試掘前の状態に復帰させる必要があり、従来より、かかる充填材としてセメントが使用されている(例えば、特許文献1)。
しかしながら、従来よりセメントには六価クロムが含まれることが知られており、セメントの種類や、削孔対象となった地盤の地質条件によっては、土壌環境基準を上回る六価クロムの量が地盤へ溶出することが確認されている(非特許文献1)。さらに、セメントは、その種類によって高アルカリ性(PH値:12.5〜13.5)を有し、試掘孔周辺の地下水を汚染するおそれがある。
【0003】
このように地盤に形成された孔を埋めるために充填する充填材としてセメントを使用する場合には、地下環境に悪影響を与えるおそれがある。
そこで、これに対処するために充填材に使用されるセメントの配合比率を減少させる対策が考えられる。
【0004】
例えば、特許文献2には、充填材の構成材料として、セメントや水の他にベントナイトを用い、セメントと水とを混合したセメントミルクと、ベントナイトと水とを混合したベントナイトミルクとを別々に作液し、セメントミルクとベントナイトミルクを混合して充填材を調製し、この充填材をトンネルの覆工背面等に生じた地盤空洞部に充填する方法が開示されている。
【0005】
この充填材の配合によれば、セメントの配合比率を減少させることができるとともに、そのアルカリ性も低減できると考えられる。ベントナイトのPH値は11程度であり、セメントと比べてその値が低いからである。
【特許文献1】特開2002−97628号公報
【非特許文献1】国土交通省 セメント系固化処理土検討委員会、”セメント系固化処理土に関する検討 最終報告書(案)”、平成15年6月30日、[online]、[平成20年3月27日検索]、<URL:http://www.mlit.go.jp/tec/kankyou/kurom/pdf/hokoku.pdf>
【特許文献2】特開2000−54794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、試掘孔に充填材を充填する際には、試掘孔の孔内に充填材を充填するための注入管を、その先端が孔内下部に到達するまで挿入し、充填材を充填しながら段階的に引き上げていく。
しかしながら、特許文献2に記載されるような作製方法で充填材を作製すると、充填材の粘性がセメントミルクの状態よりはるかに増大してしまう。このため、充填材を充填すべき試掘孔が地下深部まで削孔されている場合(例えば、孔長500m程度)には、ポンプにより注入管を通じて試掘孔の下部まで充填材を圧送することは困難である。
また、このように作製された充填材はゲル化してしまうので、その取り扱いが不便である。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、地盤に形成された孔を埋めるにあたり、周辺地盤に与える悪影響が少なく、孔への充填性に優れた充填材の作製方法及びその充填材、並びにその充填材を用いた地盤孔の埋め戻し方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は、地盤に形成された孔を埋めるために充填する充填材の作製方法であって、
高炉セメントと、ベントナイトと、水とを同時に混合することを特徴とする(第1の発明)。
【0009】
本発明の充填材の作製方法によれば、ベントナイトをその構成材料をして配合することにより、六価クロムを含有するセメントの配合比率を低減できる。
また、セメントの中でも比較的六価クロムの溶出が比較的少なく、PH値が12程度と比較的低いアルカリ性を有する高炉セメントを用いているので、より一層周辺地盤や地下水へ与える悪影響を低減することができる。
また、高炉セメントと、ベントナイトと、水とを同時に混合することで、特許文献2に記載されるように作製された充填材と比べて、充填材の流動性を向上させることができるとともに、混合後にゲル化してしまうのを防止できる。
これにより、充填材を、地下深部まで削孔された孔長の長い地盤の孔に充填することが可能になるとともに、充填材の取り扱いが容易になることから作業効率の向上に寄与する。
【0010】
第2の発明は、地盤に形成された孔を埋めるために充填する充填材の作製方法であって、高炉セメントとベントナイトとを混合した混合物に、水を混合することを特徴とする。
本発明の充填材の作製方法によっても、第1の発明と同様の効果を得ることができる。
【0011】
第3の発明は、地盤に形成された孔を埋めるために充填する充填材であって、高炉セメントと、ベントナイトと、水とを同時に混合してなることを特徴とする。
【0012】
第4の発明は、地盤に形成された孔を埋めるために充填する充填材であって、高炉セメントとベントナイトとを混合した混合物に、水を混合してなることを特徴とする。
【0013】
第5の発明は、地盤孔の埋め戻し方法であって、第3又は第4の発明の充填材を、地盤の孔に充填することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、地盤に形成された孔を埋めるにあたり、周辺地盤に与える悪影響が少なく、かつ、孔への充填性に優れた充填材の作製方法及びその充填材、並びにその充填材を用いた地盤孔の埋め戻し方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい一実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る地盤に形成された孔を埋めるために充填する充填材の作製方法を示し、同図(a)は第1の作製方法、同図(b)は第2の作製方法である。
【0016】
図1(a)の第1の作製方法では、高炉セメントと、ベントナイトと、水とを同時に混合し、図1(b)の第2の作製方法では、高炉セメントとベントナイトとを混合した混合物に、水を混合する。このように、本実施形態に係る充填材の作製は、第1又は第2のどちらの作製方法で作製してもよい。例えば、市販のセメントミキサー20に上記の手順で各材料を投入して混練することで、簡便に充填材を作製することができる。
【0017】
図2は、充填材を構成する各材料の配合の一例を示す表である。
図2に示すように、充填材を1m当り作製するのに、例えば、高炉セメントB種を385kg、ベントナイトを130kg、水を121kg使用する。
【0018】
図3は、地盤に形成された孔への充填材の充填手順を示す工程図である。
図3に示すように、先ず、充填材10を孔内に注入するための注入管12を、その先端が孔底付近に到達するように挿入し、泥水14を循環させて孔内を洗浄する(工程S10)。
次に、第1又は第2の作製方法で作製した充填材10をセメンチングポンプ16から注入管12に圧送し、充填材10を孔底から所定の区間まで充填する(工程S20)。
その後、注入管12を、その先端が充填材10の充填されてない位置まで揚管する(工程S30)。ここで、注入管12内に充填材10が残らないように、セメンチングポンプ16から泥水14を後押し注入することが好ましい。そして、充填材10を所定時間養生することにより硬化させる。
さらに、硬化した充填材10の上部に工程S20と同じ要領で充填材10を所定の区間充填し、工程S20と同じ要領で注入管12を揚管する(工程S40)。
このように充填材10の充填と、注入管12の揚管とを繰り返しながら充填材10を孔内全域に充填し、養生硬化させることにより、地盤に形成された孔への充填材10の充填が完了する(工程S50)。
【0019】
次に、本実施形態の作製方法により作製した充填材(以下、発明充填材という)と、上記特許文献2に記載の作製方法により作製した充填材(以下、比較充填材という)とについて流動性に関する試験を夫々行い、それら試験結果について比較検討を行ったので、以下にその詳細について説明する。
【0020】
図4は、本試験に用いた充填材の構成材料を示す表である。
図4に示すように、発明充填材及び比較充填材とも構成材料として、セメントに高炉セメントB種、細骨材に君津産陸砂(5mmカット)及び再生微粉末、ベントナイトに立花マテリアル社製TB−300、混和剤にソイルセメント用超遅延剤(日本製紙社製、ジオリター10)、水に水道水を使用した。
【0021】
図5は、本試験に用いた充填材の構成材料の配合を示す表である。
図5に示すように、発明充填材及び比較充填材ともに単位量当たりの充填材の構成材料として、水を768kgと、セメントを260kgと、ベントナイトを125kgと、細骨材を250kgとを用いることにより、水セメント比(W/C)を295%、砂セメント比(S/C)を0.96、混和剤の添加率を1.0%の配合からなる充填材を作製した。
【0022】
図6は、本試験対象の各充填材の作製方法の詳細を説明するための図であり、同図(a)は発明充填材の作製方法、同図(b)は比較充填材の作製方法を示す。
図6(a)に示すように、発明充填材は、水に、セメントとベントナイトと混和剤と細骨材との混合物を混ぜ、270秒間ハンドミキサー18で混練することにより作製した。
一方、図6(b)に示すように、比較充填材は、セメントと混和剤と細骨材とを30秒間空練りした後水を加えて60秒間練混ぜ、その後掻き落して更に120秒間練り混ぜてセメントミルクを作製するとともに、ベントナイトと水とを180秒間練り混ぜ、7分静置してベントナイトミルクを作成し、これらセメントミルクとベントナイトミルクとを90秒間練混ぜることにより作製した。
【0023】
そして、このように作製した発明充填材と比較充填材とについて、フレッシュ時の流動性を検証するための試験として、フロー試験及びロート試験を行った。
なお、フロー試験としては、日本道路公団規格であるシリンダー法(JHS A 313)による測定を行った。ロート試験としては、P漏斗による方法(プレパックドコンクリートの注入モルタルの流動性試験方法;JSCE−F521−1999)、及びJ14漏斗による方法(充てんモルタルの流動性試験方法;JSCE−F541−1999)を行った。
【0024】
図7は、フロー試験及びロート試験の試験結果を示す表である。
図7に示すように、発明充填材と比較充填材のどちらについても、充填材作製後から時間が経過するにつれて、フロー試験ではシリンダーフロー値が減少し、ロート試験ではP漏斗及びJ14漏斗ともに流下時間が増加する傾向を示す。
しかしながら、その値については、フロー試験ではシリンダーフロー値が、発明充填材が比較充填材の2.5倍と広がりが大きく、またロート試験ではP漏斗及びJ14漏斗ともに流下時間が短く、比較充填材よりも発明充填材の方が、流動性が高いことが確認できた。
【0025】
以上、説明したように地盤に形成された孔を埋めるために充填する充填材の作製方法によれば、高炉セメントと、ベントナイトと、水とを同時に混合する、又は、高炉セメントとベントナイトとを混合した混合物に、水を混合することにより、ベントナイトをその構成材料をして配合することから、六価クロムを含有するセメントの配合比率を低減できる。
【0026】
また、セメントの中でも比較的六価クロムの溶出が比較的少なく、PH値が12程度と比較的低いアルカリ性を有する高炉セメントを用いているので、より一層周辺地盤や地下水へ与える悪影響を低減することができる。
【0027】
また、高炉セメントと、ベントナイトと、水とを同時に混合することで、特許文献2に記載されるように作製された充填材(比較充填材)と比べて、充填材の流動性を向上させることができるとともに、混合後にゲル化してしまうのを防止できる。
【0028】
これにより、充填材を、地下深部まで削孔された孔長の長い地盤の孔に充填することが可能になるとともに、充填材の取り扱いが容易になることから作業効率の向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施形態に係る地盤に形成された孔を埋めるために充填する充填材の作製方法を示し、同図(a)は第1の作製方法、同図(b)は第2の作製方法である。
【図2】充填材を構成する各材料の配合の一例を示す表である。
【図3】地盤に形成された孔への充填材の充填手順を示す工程図である。
【図4】本試験に用いた充填材の構成材料を示す表である。
【図5】本試験に用いた充填材の構成材料の配合を示す表である。
【図6】本試験対象の各充填材の作製方法の詳細を説明するための図であり、同図(a)は発明充填材の作製方法、同図(b)は比較充填材の作製方法を示す。
【図7】フロー試験及びロート試験の試験結果を示す表である。
【符号の説明】
【0030】
10 充填材
12 注入管
14 泥水
16 セメンチングポンプ
18 ハンドミキサー
20 セメントミキサー
S10,S20,S30,S40,S50 工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に形成された孔を埋めるために充填する充填材の作製方法であって、
高炉セメントと、ベントナイトと、水とを同時に混合することを特徴とする充填材の作製方法。
【請求項2】
地盤に形成された孔を埋めるために充填する充填材の作製方法であって、
高炉セメントとベントナイトとを混合した混合物に、水を混合することを特徴とする充填材の作製方法。
【請求項3】
地盤に形成された孔を埋めるために充填する充填材であって、
高炉セメントと、ベントナイトと、水とを同時に混合してなることを特徴とする充填材。
【請求項4】
地盤に形成された孔を埋めるために充填する充填材であって、
高炉セメントとベントナイトとを混合した混合物に、水を混合してなることを特徴とする充填材。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の充填材を、地盤の孔に充填することを特徴とする地盤孔の埋め戻し方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−249954(P2009−249954A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100718(P2008−100718)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】