説明

光半導体装置の製造方法

【課題】光半導体素子の樹脂封止を一括して行うことができる光半導体素子封止用シートを用いて、可視領域の発光量の低下を抑制し、かつ、紫外線による劣化を抑制して耐久性に優れる光半導体装置を簡便に製造する方法、及び該製造方法に用いる光半導体素子封止用シートを提供すること。
【解決手段】樹脂シート1と、該樹脂シート1中に不連続に充填されてなる複数の樹脂層2と、該樹脂層2中に充填されてなる樹脂層3とを含んでなる光半導体素子封止用シートであって、前記樹脂層2が紫外線吸収剤を含有し、前記樹脂層3が蛍光体を含有し、その一端がシート表面に露出してなる光半導体素子封止用シートを用いて、前記樹脂層3と基板5に搭載された複数の光半導体素子4とを対向させて、該素子を前記樹脂層3内に埋設することを特徴とする、光半導体装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光半導体装置の製造方法に関する。さらに詳しくは、例えば、発光ダイオードや半導体レーザー等の発光素子を光半導体素子封止用シートで一括封止する工程を含む光半導体装置の製造方法、及び該製造方法に用いる光半導体素子封止用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、白色で発行する発光ダイオード(LED)は、その高輝度化により、低消費電力、長寿命、小型軽量の光源として、車載照明や街路灯等への用途に需要が高まっている。一般的に、白色LEDの白色化には3種類の態様があり、赤色、緑色、青色のLED素子を同時点灯することにより白色化する態様、青色LEDと青色波長で励起する黄色の蛍光体により青色と黄色を混色して白色化する態様、及び紫外線LEDにより、赤色、緑色、青色の3色の蛍光体を励起させて白色化する態様がある。
【0003】
これらのなかでも、3色の蛍光体を励起させて白色を得る場合、紫外線が放射されることによりLED封止樹脂の劣化が問題となる。これに対して、LED素子表面に紫外線吸収層を被覆することにより、紫外線によるLED封止樹脂の劣化を抑えることが報告されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、紫外線が人体に及ぼす影響を抑制する観点から、特許文献2には、LED封止樹脂の外周に紫外線吸収剤を含有した透明樹脂を被着する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2006−310771号公報
【特許文献2】特開2005−317881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、紫外線吸収層が被覆されたLED素子は、赤色、緑色、青色の3色の蛍光体を紫外線LEDにより励起させて白色化を得るシステムにおいては、蛍光体を励起する紫外線がカットされるため、発光量が極端に小さくなる。また、LED封止樹脂の外周に紫外線吸収剤を含有した層を配置させると、半導体装置の吸湿性や強度が低下しやすく耐久性に劣り、さらに、紫外線吸収剤含有層の配置方法がLED封止樹脂への蒸着である場合には、作業工程が増加することにより生産性が悪くなるという問題もある。
【0006】
また、LEDの高輝度化に伴い、従来用いられてきたエポキシ系の封止樹脂は耐熱性に劣ることから、シリコーン系の封止樹脂が多用されるようになってきたが、シリコーン系樹脂は基板やLED素子との接着力が弱く、半導体装置の耐久性が問題となる。
【0007】
本発明の課題は、光半導体素子の樹脂封止を一括して行うことができる光半導体素子封止用シートを用いて、可視領域の発光量の低下を抑制し、かつ、紫外線による劣化を抑制して耐久性に優れる光半導体装置を簡便に製造する方法、及び該製造方法に用いる光半導体素子封止用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決する為に検討を重ねた結果、接着性に優れる樹脂シートAに、蛍光体を含有する樹脂層Cを包囲し、該樹脂層Cを透過して蛍光体の励起に使用されなかった紫外線を吸収する樹脂層Bが複数、不連続に埋め込まれている光半導体素子封止用シートを用いることにより、光半導体素子を前記樹脂層C内に一括して埋設させることができ、可視領域の発光量を維持したまま、紫外線による劣化を抑制し、耐久性に優れる光半導体装置を簡便に製造することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、
〔1〕 樹脂シートAと、該樹脂シートA中に不連続に充填されてなる複数の樹脂層Bと、該樹脂層B中に充填されてなる樹脂層Cとを含んでなる光半導体素子封止用シートであって、前記樹脂層Bが紫外線吸収剤を含有し、前記樹脂層Cが蛍光体を含有し、その一端がシート表面に露出してなる光半導体素子封止用シートを用いて、前記樹脂層Cと基板に搭載された複数の光半導体素子とを対向させて、該素子を前記樹脂層C内に埋設することを特徴とする、光半導体装置の製造方法、ならびに
〔2〕 前記〔1〕記載の製造方法に用いる、光半導体素子封止用シート
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法により、一括して光半導体素子を埋設させることができ、可視領域の発光量の低下を抑制し、かつ、紫外線による劣化を抑制して耐久性に優れる光半導体装置を簡便に得ることができる。従って、得られた光半導体装置は長寿命化を達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の光半導体装置の製造方法は、光半導体素子封止用シートを用いて光半導体素子(以下、LED素子と記載する)を封止するが、前記シートが、耐久性に優れる樹脂シートA、紫外線吸収剤を含有する樹脂層B及び蛍光体を含有する樹脂層Cにより構成され、樹脂層Cを包囲する樹脂層Bが複数、樹脂シートA内に不連続に埋め込まれていることに大きな特徴を有する。
【0012】
従来、紫外線による劣化を抑制する技術としては、紫外線吸収剤をLED素子に接する樹脂層に含有させる方法や、紫外線吸収剤を含有する樹脂層をLED封止樹脂の外周に配置する方法が挙げられる。しかしながら、紫外線吸収剤を含有した層が、LED素子と接する場合には、LED素子からの十分な励起光が得られず発光量が減少し、一方、LED素子から離れるほど、LED素子と該樹脂層の間に存在する樹脂が紫外線照射によって劣化する。
【0013】
本発明における光半導体素子封止用シートは、紫外線吸収剤を含有する樹脂層Bを、蛍光体を含有する樹脂層C、即ち、蛍光体の励起が行われる樹脂層の外周に存在させることにより、蛍光体の励起に必要な紫外線量を減少させることがないため発光量が減少することもなく、また、樹脂層Cを透過した紫外線(励起に用いられなかった紫外線)は、速やかに樹脂層Bにおいて紫外線吸収剤により吸収されるため、紫外線による樹脂劣化を抑制することができるのである。
【0014】
また、本発明における光半導体素子封止用シートは、樹脂層CがLED素子と対向するように、即ち、LED素子が存在する位置に合わせて、樹脂シートAに不連続に設けられた凹部に樹脂層Bが充填され、該樹脂層Bに新たに設けられた凹部に樹脂層Cが充填されている。従って、かかるシートを用いることにより、LED素子は樹脂層C内に埋設され、LED素子が存在しない基板には樹脂シートAが接することになる。樹脂シートAには接着性に優れる樹脂を使用するため、本発明における光半導体素子封止用シートは耐久性にも優れることになる。なお、本明細書において、「不連続」とは、各LED素子を埋設する樹脂層Cが注入されている複数の樹脂層Bが、それぞれ独立して存在する状態のことを意味する。
【0015】
樹脂シートAを構成する樹脂としては、従来から光半導体素子封止用シートに用いられる樹脂であって、LED素子を外力から守るための強度と基板との接着性を有するものであれば特に限定はない。また、耐光性及び耐熱性に関する機能については、樹脂層B又は樹脂層Cが保持しているために、樹脂シートAを構成する樹脂には特に限定がない。
【0016】
樹脂シートAは、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、芳香族ポリアミド、ポリカルボジイミド、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、トリアセチルセルロース等の樹脂を熱硬化することで得られる。これらのなかでも、接着性の観点から、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂からなるシートが好ましく、エポキシ樹脂からなるシートがより好ましい。なお、各樹脂は市販されているものを使用してもよいし、別途、製造したものを使用してもよい。
【0017】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型やビスフェノールF型などのビスフェノール型、ノボラック型、含窒素環型、脂環型、芳香族型やそれらの変性型などが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、透明性及び接着性の観点から、ビスフェノールA型及び脂環型が好ましい。
【0018】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、150〜8,000が好ましく、150〜7,000がより好ましい。なお、2種以上のエポキシ樹脂を用いる場合には、各樹脂のエポキシ当量が前記範囲内であることが望ましいが、前記範囲外のものが一部含まれていてもよく、エポキシ樹脂全体のエポキシ当量として、加重平均エポキシ当量が前記範囲内に含まれていればよい。
【0019】
エポキシ樹脂を硬化させる際には、硬化剤や硬化促進剤を使用してもよい。
【0020】
硬化剤としては、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物系、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、ジエチルアミン等のアミン系、ポリアミド系やフェノール系などの硬化剤が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
硬化剤の含有量は、使用する硬化剤の種類やエポキシ樹脂のエポキシ当量などに応じて適宜決定することができるが、成形後のシートに十分な強度を得る観点から、例えば、酸無水物系硬化剤の場合は、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して、0.9〜1.2当量が好ましく、1.0〜1.1当量がより好ましい。
【0022】
硬化促進剤としては、イミダゾール系やリン系化合物などが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
硬化促進剤の含有量は、促進効果などに応じて適宜決定することができるが、成形時に短時間で硬化させる観点から、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.8〜2.0重量部が好ましく、1.0〜1.5重量部がより好ましい。
【0024】
また、樹脂シートAには、劣化防止の観点から、酸化防止剤、変性剤、界面活性剤、染料、顔料、変色防止剤等の添加剤が含有されてもよい。
【0025】
酸化防止剤としては、ヒドロキシクエン酸(HCA)、チアミン二リン酸(TPP)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)等のラジカルトラップ剤が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
樹脂シートAは、例えば、前記樹脂及び添加剤等の原料をトルエン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトンなどの有機溶剤に好ましくは30〜60重量%の濃度になるように溶解して樹脂溶液を調製し、例えば、表面をシリコーン処理した離型シート(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)セパレータ)の上にキャスティング、スピンコーティング、ロールコーティングなどの方法により、適当な厚さに製膜し、さらに、硬化反応を進行させず、溶媒の除去が可能な程度の温度で乾燥させて得られる。製膜した樹脂溶液を乾燥させる温度は、樹脂や溶媒の種類によって異なるため一概には決定できないが、80〜140℃が好ましく、100〜140℃がより好ましい。なお、80〜100℃で低温乾燥後に、120〜140℃で追乾燥してもよい。また、加熱乾燥後の該樹脂シートの厚さは、白色化の観点から、100〜1000μmが好ましく、100〜500μmがより好ましい。なお、得られた樹脂シートは、複数枚、好ましくは2〜4枚を積層して、80〜100℃において熱プレスすることにより、1枚のシートとして成形することもできる。
【0027】
樹脂シートAの接着性は、基板との剥離性の観点から、1.0〜5kg/m2が好ましく、1.5〜2kg/m2がより好ましい。
【0028】
樹脂層Bを構成する樹脂としては、従来から光半導体素子封止用シートに用いられる樹脂であれば特に限定はないが、液状、固体等、いずれの形状のものであってもよい。また、樹脂シートAが有する強度と接着性に関しては、樹脂層Bを構成する樹脂には特に限定がない。
【0029】
樹脂層Bを構成する樹脂の好適例としては、シリコーン樹脂、熱可塑性ポリイミド、ヘテロシロキサン等が挙げられる。これらのなかでも、耐光性の観点から、シリコーン樹脂、熱可塑性ポリイミドがより好ましい。なお、各樹脂は市販されているものを使用してもよいし、別途、製造したものを使用してもよい。
【0030】
シリコーン樹脂としては、ポリシロキサンの架橋数により、ゲル状物、エラストマー、硬化物等のシリコーン樹脂が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、応力緩和の観点から、ゲル状物、エラストマーが好ましい。
【0031】
樹脂層Bを構成する樹脂の軟化点は、電極ワイヤーの劣化抑制及びチップ周囲のボイド発生の抑制の観点から、100〜150℃が好ましく、120〜140℃がより好ましい。ガラス転移点は、電極ワイヤーの劣化抑制及びチップ周囲のボイド発生の抑制の観点から、100〜200℃が好ましく、120〜160℃がより好ましい。
【0032】
樹脂層Bには、紫外線吸収剤が含有される。
【0033】
紫外線吸収剤としては、特に限定はなく、公知の紫外線吸収剤を用いることができるが、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系等の有機化合物や、紫外域に吸収のあるZnO、TiO2等の無機粒子が好ましい。
【0034】
ベンゾフェノン系の紫外線吸収剤としては、2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシベンゾフェノン、2,2'-ジヒドロキシ-4,4'-ジメトキシベンゾフェノン、2,2'4,4'-テトラヒドロキシベンゾフェノン等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、LEDの紫外波長を吸収する観点から、2,2'-ジヒドロキシ-4,4'-ジメトキシベンゾフェノンが好ましい。
【0035】
ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤としては、2-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、LEDの紫外波長を吸収する観点から、2-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0036】
紫外線吸収剤の紫外吸収スペクトルは、好ましくは400nm以下、より好ましくは250〜400nmの波長領域である。なお、本明細書において、紫外吸収スペクトルは、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0037】
樹脂層Bにおける紫外線吸収剤の含有量は、樹脂層Bを構成する樹脂100重量部に対して、5〜40重量部が好ましく、5〜20重量部がより好ましい。
【0038】
樹脂層Bは、例えば、前記樹脂及び紫外線吸収剤をトルエン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトンなどの有機溶剤に好ましくは5〜30重量%の濃度になるように溶解して樹脂溶液として用いてもよいし、あるいは、前記樹脂がゲル状またはエラストマーである場合には、樹脂に紫外線吸収剤を添加して混合することにより得られる樹脂混合物として用いてもよい。
【0039】
かくして得られた樹脂層Bは、樹脂シートAに予め凹部を形成した後に、該凹部に注入して埋め込む。
【0040】
樹脂シートAに凹部を形成する方法としては、半硬化状態の樹脂シートAの上に、所望の凹部と同じ体積を有する凸部が対向させるLED素子の位置に合わせて搭載された離型シートを積層して、好ましくは80〜160℃で加圧成形した後に、該離型シートを剥離する方法等が挙げられ、本発明においては、例えば、樹脂シートA上にPETセパレータ(MRX188、ダイヤホイル社製)を積層して150℃で10秒間加圧成形した後、PETセパレータを剥離することにより、凹部が形成された樹脂シートAを得ることができる。
【0041】
樹脂層Bを樹脂シートAの凹部に注入した後は、樹脂層Bを乾燥させる必要がある。乾燥温度は、樹脂や溶媒の種類によって異なるため一概には決定できないが、25〜100℃が好ましく、25〜80℃がより好ましい。本発明における光半導体素子封止用シート中の樹脂層Bの厚さは、紫外線吸収の観点から、3〜50μmが好ましく、20〜40μmがより好ましい。なお、本発明における光半導体素子封止用シート中の各樹脂層の厚さは、樹脂シートA、樹脂層B、樹脂層Cが全て存在する断面における厚さのことを言う。
【0042】
樹脂層Cを構成する樹脂としては、従来から光半導体素子封止用シートに用いられる樹脂であれば特に限定はなく、液状、固体等、いずれの形状のものであってもよい。また、樹脂シートAが有する強度と接着性に関しては、樹脂層Cを構成する樹脂には特に限定がない。
【0043】
樹脂層Cを構成する樹脂の具体例としては、前述の樹脂層Bと同様の樹脂が挙げられ、耐光性の観点から、シリコーン樹脂、ヘテロシロキサン、熱可塑性ポリイミドが好ましい。なお、各樹脂は市販されているものを使用してもよいし、別途、製造したものを使用してもよい。
【0044】
樹脂層Cを構成する樹脂の軟化点は、電極ワイヤーの劣化抑制及びチップ周囲のボイド発生の抑制の観点から、100〜150℃が好ましく、120〜140℃がより好ましい。ガラス転移点は、電極ワイヤーの劣化抑制及びチップ周囲のボイド発生の抑制の観点から、100〜200℃が好ましく、120〜160℃がより好ましい。
【0045】
樹脂層Cには、蛍光体が含有される。
【0046】
蛍光体としては、紫外線により励起される蛍光体であれば特に限定はなく、蛍光体としては、発光する蛍光スペクトルが好ましくは500〜600nm、より好ましくは510〜600nmの波長領域であることが望ましい。また、発光量を減少させない観点から、蛍光体の蛍光スペクトルは、前述の紫外線吸収剤の紫外吸収スペクトルと同一波長領域を有さないことが好ましく、両スペクトルは、重複する波長領域を有さず全く異なる領域であることがより好ましい。なお、本明細書において、蛍光スペクトルは、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0047】
樹脂層Cにおける蛍光体の含有量は、樹脂層Cを構成する樹脂100重量部に対して、10〜30重量部が好ましく、15〜25重量部がより好ましい。
【0048】
樹脂層Cは、例えば、前記樹脂及び蛍光体をトルエン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトンなどの有機溶剤に好ましくは10〜30重量%の濃度になるように溶解して樹脂溶液として用いてもよいし、あるいは、前記樹脂がゲル状またはエラストマーである場合には、樹脂に蛍光体を添加して混合することにより得られる樹脂混合物として用いてもよい。
【0049】
かくして得られた樹脂層Cは、樹脂層Bに予め凹部を形成した後に、該凹部に注入して埋め込む。なお、樹脂層Bを樹脂シートAに埋め込む際に、上記の方法で予め樹脂層Cを埋め込んだ樹脂層Bを樹脂シートAに埋め込んでもよいが、本発明においては、樹脂シートAの凹部に樹脂層Bを注入後、さらに樹脂層Cを注入する方法が好ましい。
【0050】
樹脂層Bに樹脂層Cを注入するための凹部を形成する方法としては、前述の樹脂シートAに凹部を形成する方法と同じ方法を用いることができ、例えば、樹脂シートAに埋め込まれている樹脂層Bの上に、PETセパレータ(MRX100、三菱化学ポリエステルフィルム社製)を積層して、100℃で10秒間加圧成形した後、PETセパレータを剥離することにより、樹脂層Bに凹部を形成することができる。
【0051】
樹脂層Cを樹脂層Bの凹部に注入した後は、樹脂層Cを乾燥させる必要がある。乾燥温度は、樹脂や溶媒の種類によって異なるため一概には決定できないが、25〜100℃が好ましく、25〜80℃がより好ましい。本発明における光半導体素子封止用シート中の樹脂層Cの厚さは、電極ワイヤーの劣化抑制及びチップ周囲のボイド発生の抑制の観点から、80〜150μmが好ましく、100〜120μmがより好ましい。
【0052】
かくして、発光量を維持したまま、紫外線による劣化を抑制し、耐久性に優れる光半導体素子封止用シートが得られる。
【0053】
本発明の光半導体装置の製造方法は、上記の光半導体素子封止用シートを用いて、一括して簡便に光半導体素子を封止する。具体的には、LED素子が搭載された基板の上に、上記の光半導体素子封止用シートを積層して、ラミネータ等を用いて貼り合わせることにより、光半導体装置を製造することができる。
【0054】
本発明に用いられるLED素子は、400nm以下の発光スペクトルを有するLED素子であれば、特に限定されない。例えば、NS360C-2AA(発光スペクトル:365nm、NITRIDE SEMICONDUCTORS社製)等の市販品が好適に使用できる。
【0055】
LED素子が搭載される基板も特に限定されないが、例えば、ガラス−エポキシ基板に銅配線を積層したリジッド基板、ポリイミドフィルム上に銅配線を積層したフレキシブル基板などが挙げられ、平板や凹凸板などの適宜な形態のものを用いることができる。
【0056】
当該基板へのLED素子の搭載方法としては、発光面に電極が配置されたLED素子を搭載するのに好適なフェイスアップ搭載法、発光面とは逆の面に電極が配置されたLED素子を搭載するのに好適なフリップリップ搭載法などが挙げられる。
【0057】
ラミネータ等を用いて加熱圧着により本発明における光半導体素子封止用シートを溶融し、基板に貼り合わせる場合、好ましくは70〜250℃、より好ましくは100〜200℃で加熱し、好ましくは0.1〜10MPa、より好ましくは0.5〜5MPaで加圧することが好ましい。ラミネータを用いる場合の回転数は、100〜2000r/minが好ましく、500〜1000r/minがより好ましい。
【0058】
本発明の製造方法により得られる光半導体装置は、LED素子の封止を封止シートを用いて一括で行うことができるため、より簡便に作製することができ、また、前記シートが、発光量を減少せずに過剰な紫外線をカットし、また、基板に接する部分が接着性に優れるという特徴を有することから、紫外線による劣化を抑制し、耐久性に優れるため、長寿命化を達成できる。
【0059】
本発明の製造方法により得られる光半導体装置は、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、また、好ましくは90%以下の紫外線(例えば、波長領域350〜500nm)の照射を抑制することができる。
【実施例】
【0060】
封止用シート製造例1
(第1層の調製)
エポキシ当量7500のビスフェノールA型のエポキシ樹脂(エピコートEP1256B40、ジャパンエポキシレジン社製)50重量部、エポキシ当量260の脂環型のエポキシ樹脂(EHPE3150、ダイセル化学社製)30重量部、4-メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(硬化剤、MH-700、新日本理化社製)20重量部、2-メチルイミダゾール(硬化促進剤、四国化成社製)1.2重量部、サンコウエポクリーン(酸化防止剤、HCA、Sanko corp.)1重量部、K-NOX-BHT(酸化防止剤、共同ケミカル社製)1重量部、及びTPP-R(酸化防止剤、共同薬品社製)1重量部を、メチルエチルケトンに50重量%濃度になるように添加して、40℃で1時間攪拌することにより、塗工用エポキシ樹脂溶液を調製した。
【0061】
得られた塗工用樹脂溶液をポリエチレンテレフタレートからなるセパレータ(三菱化学ポリエステルフィルム社製、厚さ50μm)の上に、100μmの厚みになるように塗布し、100℃で1分間、さらに140℃で1分間乾燥して、半硬化状態の1枚のベースシートを得た。さらに、同様にして3枚のベースシートを作製し、合計4枚のベースシートを100℃にて熱ラミネートし、第1層として400μm厚のエポキシ樹脂からなるエポキシ樹脂シートA1を得た。
【0062】
(第2層用の樹脂の調製)
ポリジメチルシロキサンを主成分とするシリコーンエラストマー(Elastosil RT601、旭ワッカー社製)100重量部に対して、紫外線吸収剤として、300〜400nmの紫外吸収スペクトルを有するZnOの粉末(堺化学社製)を10、20又は40重量部を添加、分散して、第2層用の樹脂B1-1〜B1-3を得た。
【0063】
(第3層用の樹脂の調製)
ポリジメチルシロキサンを主成分とするシリコーンエラストマー(Elastosil RT601、旭ワッカー社製)100重量部に対して、380〜400nmの励起波長で励起することのできる蛍光体(サイアロン、発光スペクトル:596nm)20重量部を添加、分散して、第3層用の樹脂C1を得た。
【0064】
(シート成形)
得られた樹脂シートA1の上に、シリコーン離型処理したPETセパレータ(MRX188、ダイヤホイル社製)を積層して、150℃で10秒圧着後、PETセパレータを剥離して凹部を形成した。その後、第2層用の樹脂B1-1〜B1-3を前記凹部に厚み:200μmとなるようにそれぞれ注入し、室温(25℃)で半日硬化させた。
【0065】
次に、硬化した第2層用の樹脂B1-1〜B1-3の上に、シリコーン離型処理したPETセパレータ(MRX100、三菱化学ポリエステルフィルム社製)を積層して、100℃で10秒圧着後、PETセパレータを剥離して凹部(深さ:120μm)を形成した。その後、第3層用の樹脂C1を注入し、室温(25℃)で硬化させて、一体型封止用シートA1〜A3を得た。得られたシートの物性を表1に示す。なお、各シート断面(厚み400μm)における第2層の厚さは40μmであり、第3層の厚さは120μmであった。
【0066】
封止用シート製造例2
紫外線吸収剤として、ZnOの粉末を10、20又は40重量部を添加するのに代えて、270〜400nmの紫外吸収スペクトルを有するベンゾフェノン系の紫外線吸収剤「SB107」(2,2'-ジヒドロキシ-4,4'-ジメトキシベンゾフェノン、シプロ化成社製)を5、10又は20重量部添加する以外は、封止用シート製造例1と同様にして、一体型封止用シートB1〜B3を得た。得られたシートの物性を表1に示す。
【0067】
封止用シート製造例3
紫外線吸収剤として、ZnOの粉末を10、20又は40重量部を添加するのに代えて、250〜400nmの紫外吸収スペクトルを有するベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤「SB707」(2-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、シプロ化成社製)を5、10又は20重量部添加する以外は、封止用シート製造例1と同様にして、一体型封止用シートC1〜C3を得た。得られたシートの物性を表1に示す。
【0068】
封止用シート製造例4
紫外線吸収剤として、ZnOの粉末を10、20又は40重量部、第2層に添加するのに代えて、250〜400nmの紫外吸収スペクトルを有するベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤「SB707」(2-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、シプロ化成社製)を合わせて10重量部、第1層を構成する各ベースシートに添加する以外は、封止用シート製造例1と同様にして、一体型封止用シートD1を得た。得られたシートの物性を表1に示す。なお、第1層の各ベースシートに含有される紫外線吸収剤は全て同じ量である必要はなく、合計して上記の含有量で第1層に含有されればよい。
【0069】
封止用シート製造例6
紫外線吸収剤として、ZnOの粉末を10、20又は40重量部を添加するのに代えて、何も添加しない以外は、封止用シート製造例1と同様にして、一体型封止用シートE1を得た。得られたシートの物性を表1に示す。
【0070】
実施例1〜9及び比較例1
次に、得られた封止用シートを用いて、光半導体装置を製造する。即ち、表1に示す封止用シートをLED素子(発光スペクトル:395nm、CREE社製)が搭載されている基板に、第3層がLED素子に接触するように積層し、真空ラミネータ(V130、ニチゴーモートン社製)を用いて160℃、真空引き60秒、プレス240秒、0.5MPaで加圧成型し、実施例1〜9及び比較例1の光半導体装置を得た。
【0071】
得られたLED装置の特性を以下の試験例1〜2の方法に従って調べた。結果を表1に示す。
【0072】
〔試験例1〕(発光性)
各実施例及び比較例のLED装置に50mAの電流を流し、電流を流した直後の発光量を瞬間マルチ測光システム(MCPD-3000、大塚電子社製)により測定し、350〜500nm、及び500〜750nmの波長領域における発光量を測定し、積分値として算出した。一方、一体型封止用シートE1を用いて、実施例1と同様に製造したLED装置(以下、参考装置という)においても、上記と同様にして発光量を測定した(350〜500nm:1.07a.u.、500〜750nm:1.02a.u.)。得られた積分値を用いて、下記の式に従って、各波長領域における吸収率をそれぞれ算出し、発光性を評価した。なお、350〜500nmの波長領域における吸収率が40%以上であり、500〜750nmの波長領域における吸収率が80%以下であるものが、発光性が良好と判断した。
吸収率(%)=(参考装置の発光量積分値−実施例又は比較例の発光量積分値/参考装置の発光量積分値)×100
【0073】
〔試験例2〕(紫外線劣化)
各実施例及び比較例のLED装置に200mAの電流を流し、試験開始直後の発光量を瞬間マルチ測光システム(MCPD3000、大塚電子社製)を用いて測定した。その後、電流を流した状態で放置し、72時間経過後の発光量を同様にして測定し、下記の式に従って発光量の残存率を算出し、紫外線劣化を評価した。なお、発光量の残存率が80%以上のものが紫外線による劣化が少ないと判断した。
発光量の残存率(%)=(72時間経過後の発光量/試験開始直後の発光量)×100
【0074】
【表1】

【0075】
以上の結果より、実施例のLED装置は比較例のLED装置に比べて、連続使用後の発光量の残存率が高いことから、封止樹脂外層に与えるダメージが小さいことが分かる。また、ZnOの粉末やベンゾフェノール系の紫外線吸収剤の場合には、含有濃度が増加するに伴い吸収率が増加していることが分かる。なお、ZnOの粉末が40重量部、ベンゾフェノール系の紫外線吸収剤が20重量部、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤が20重量部添加されている場合には、紫外領域だけではなく、可視領域の吸収率も増加していることから、可視領域の発光量を調整する観点からは、紫外線吸収剤の添加量を調整することが必要であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の製造方法によって得られた光半導体装置は、紫外線による劣化が抑制されることから耐久性に優れるため、例えば、車載照明や街路灯等に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1は、本発明における光半導体素子封止用シートを用いて、光半導体素子を封止する前の一実施態様を示す図である。
【図2】図2は、本発明における光半導体素子封止用シートを用いて、光半導体素子を封止した後の一実施態様を示す図である。
【符号の説明】
【0078】
1 樹脂シートA
2 樹脂層B
3 樹脂層C
4 光半導体素子
5 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂シートAと、該樹脂シートA中に不連続に充填されてなる複数の樹脂層Bと、該樹脂層B中に充填されてなる樹脂層Cとを含んでなる光半導体素子封止用シートであって、前記樹脂層Bが紫外線吸収剤を含有し、前記樹脂層Cが蛍光体を含有し、その一端がシート表面に露出してなる光半導体素子封止用シートを用いて、前記樹脂層Cと基板に搭載された複数の光半導体素子とを対向させて、該素子を前記樹脂層C内に埋設することを特徴とする、光半導体装置の製造方法。
【請求項2】
紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール系有機化合物、ベンゾフェノン系有機化合物、ZnO、及びTiO2からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
蛍光体の蛍光スペクトルと紫外線吸収剤の吸収スペクトルが、重複するスペクトル領域を有さない、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
樹脂層Bがシリコーン樹脂、熱可塑性ポリイミド、及びヘテロシロキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる、請求項1〜3いずれか記載の製造方法。
【請求項5】
樹脂層Cがシリコーン樹脂、ヘテロシロキサン、及び熱可塑性ポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる、請求項1〜4いずれか記載の製造方法。
【請求項6】
樹脂シートAがエポキシ樹脂からなる、請求項1〜5いずれか記載の製造方法。
【請求項7】
350〜500nmの波長を有する紫外線の照射を50%以上抑制する、請求項1〜6いずれか記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか記載の製造方法に用いる、光半導体素子封止用シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−99784(P2009−99784A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270203(P2007−270203)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】