説明

光学材料用組成物

【課題】本発明は、光学デバイスにおける反射防止膜などとして使用するのに適した、硬化時の膜収縮が少なく、塗布面状が良好で、耐湿性および密着性に優れ、高温条件下においても屈折率変化の小さい、低屈折率膜の形成が可能な光学材料用組成物を提供することを目的とする。さらに、本発明は、該光学材料組成物を用いて製造される反射防止膜、および該反射防止膜を有する光学デバイスを提供することも目的とする。
【解決手段】下記平均組成式(1)(R1SiO1.5x(R2SiO1.5y(式(1)中、R1は、重合性基を表す。R2は、非重合性基を表す。xは2.0〜14.0の数を表し、yは2.0〜14.0の数を表す。ただし、x+y=8〜16を満たす。なお、複数のR1およびR2は、同一であっても異なっていてもよい。)で表され、1種または2種以上のかご状シルセスキオキサン化合物から構成されるシルセスキオキサン類、より得られる重合体を含有する光学材料用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学材料用組成物に関し、さらに詳しくは、光学デバイスにおける反射防止膜などとして有用な、適当な均一な厚さを有する低屈折率膜が形成可能な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示パネル、冷陰極線管パネル、プラズマディスプレー等の各種表示パネルおよび電荷結合素子(CCD)や相補形金属酸化膜半導体(CMOS)イメージセンサなどの固体撮像素子、太陽電池パネル等の光学デバイス、更には薄膜トランジスタや単結晶薄膜シリコン太陽電池を作製するためのレーザアニール時やフォトレジスト工程において、外光の映りを防止し、集光率を向上させ、さらに画質を向上させるために、反射防止膜が使用されている。
【0003】
この反射防止膜としては、例えば、反射防止の光学理論に基づいて、基板上に金属酸化物等からなる高屈折率層と低屈折率層とを積層させた複層構成のもの、または、有機フッ素化合物や無機化合物等の低屈折率層のみを設けた単層構成のものがある。どちらの層構成でも、耐擦傷性、塗工性、および耐久性に優れた硬化膜からなる低屈折率材料が望まれている。特に、イメージセンサといった光学デバイスなどの反射防止膜として使用する場合は、200℃以上の高温条件下に反射防止膜が長時間曝されるため、高い耐熱性と高温条件下における屈折率の経時安定性とが要求される。
【0004】
現在までに種々の低屈折率材料が提案されている。例えば、特許文献1では、アルコキシシランの加水分解縮合物を使用して、低屈折率材料の作製を行っている。また、特許文献2では、反射防止膜形成用組成物として、かご状シルセスキオキサンの重合体を所定量含む組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−21036号公報
【特許文献2】特開2008−214455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されるようなアルコキシシランの加水分解縮合物を使用する場合、膜形成時の焼成の際に、加水分解縮合物に残存するシラノール基間などで反応が進行してしまい、膜収縮が進行しクラックなどが発生することがあり、成膜加工性が悪い。また、残存するシラノール基のために水分などを吸着しやすく、結果として、屈折率が経時的に変化してしまうという問題もある。さらには、得られる膜の屈折率は実用上必ずしも満足いくレベルではなく、さらなる低屈折率化が必要である。
【0007】
また、本発明者らが、特許文献2にて具体的に開示してあるH2C=CH−Si(O0.5)3ユニット8個からなるような、すべてのケイ素原子に炭素−炭素二重結合を有するかご状シルセスキオキサンより得られる重合体を用いて膜を作製し、得られた膜を200℃以上の高温条件に曝したところ、屈折率が経時的に変化してしまうという問題があることを見出した。上述したように、イメージセンサなどの光学デイバスの反射防止膜として使用するためには高温条件下における屈折率の優れた経時安定性が要求されるため、さらなる改良が必要であった。また、得られた膜と基板との密着性も十分ではなく、さらに、得られる膜の耐湿性に関しても更なる改良が必要であった。
【0008】
そこで、本発明は、上記実情に鑑みて、光学デバイスにおける反射防止膜などとして使用するのに適した、硬化時の膜収縮が少なく、塗布面状が良好で、耐湿性および密着性に優れ、高温条件下においても屈折率変化の小さい、低屈折率膜の形成が可能な光学材料用組成物を提供することを目的とする。さらに、本発明は、該光学材料組成物を用いて製造される反射防止膜、および該反射防止膜を有する光学デバイスを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、従来技術について鋭意検討を行った結果、かご状シルセスキオキサンより構成され、所定の平均組成を満たすシルセスキオキサン類より得られる重合体を使用することによって、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の上記目的は、下記の手段より達成されることが見出された。
<1> 下記平均組成式(1)
(R1SiO1.5x(R2SiO1.5y 式(1)
(式(1)中、R1は、重合性基を表す。R2は、非重合性基を表す。xは2.0〜14.0の数を表し、yは2.0〜14.0の数を表す。ただし、x+y=8.0〜16.0を満たす。なお、複数のR1およびR2は、同一であっても異なっていてもよい。)で表され、1種または2種以上のかご状シルセスキオキサン化合物から構成されるシルセスキオキサン類、より得られる重合体を含有する光学材料用組成物。
【0011】
<2> 前記かご状シルセスキオキサン化合物が、下記式(2)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物である、<1>に記載の光学材料用組成物。
(RSiO1.5a 式(2)
(式(2)中、Rは、それぞれ独立に、重合性基または非重合性基を表す。aは8、10、12、14または16の整数を表す。ただし、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。)
<3> 前記シルセスキオキサン類が、下記一般式(Q−1)〜一般式(Q−7)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物からなる群から選ばれる1種または複数種のかご状シルセスキオキサン化合物から構成される、<2>に記載の光学材料用組成物。
【0012】
【化1】

【0013】
【化2】

【0014】
(一般式(Q−1)〜一般式(Q−7)中、Rは、それぞれ独立に、重合性基または非重合性基を表す。)
<4> 前記シルセスキオキサン類が、式(1)においてxが2.0≦x≦6.0の範囲の数を表し、yが2.0≦y≦6.0の範囲の数を表し、x+y=8を満たし、上記一般式(Q−6)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物より構成されるシルセスキオキサン類である、<3>に記載の光学材料用組成物。
【0015】
<5> 前記かご状シルセスキオキサン化合物として、少なくとも3つの重合性基と、少なくとも3つの非重合性基とを有するかご状シルセスキオキサン化合物(A)を含む、<1>〜<4>のいずれかに記載の光学材料用組成物。
<6> 化合物(A)が、シルセスキオキサン類全量に対して、10モル%以上含まれる、<5>に記載の光学材料用組成物。
<7> 前記重合体中の重合性基の含有量が、ケイ素原子に結合した全有機基中、10〜90モル%である、<1>〜<6>のいずれかに記載の光学材料用組成物。
<8> 前記重合体の重量平均分子量が1万〜50万である、<1>〜<7>のいずれかに記載の光学材料用組成物。
【0016】
<9> 前記重合体を製造する際に、連鎖移動定数(Cx)が0<Cx≦5.0×104の範囲の溶媒を用いる、<1>〜<8>のいずれかに記載の光学材料用組成物。
<10> かご状シルセスキオキサン化合物を主成分とする重合体で、重合性官能基を有しており、前記重合性官能基がケイ素原子に結合した全有機基中、10〜90モル%である重合体を含有する光学材料用組成物。
【0017】
<11> さらに空孔形成剤を含有する、<1>〜<10>のいずれかに記載の光学材料用組成物。
<12> 前記空孔形成剤が、ポリスチレン、ポリアルキレンオキシド、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリアクリル酸、ポリメタクリレート、ポリメタクリル酸、ポリアセタール、およびポリペルオキシドからなる群より選ばれる少なくとも1種である、<11>に記載の光学材料用組成物。
<13> 前記空孔形成剤が、熱重量分析(窒素気流下、昇温速度20℃/min)において50%重量減少温度が180〜350℃を示す空孔形成剤である、<11>または<12>に記載の光学材料用組成物。
<14> 前記空孔形成剤のポリスチレン換算数平均分子量が100〜50000である、<11>〜<13>のいずれかに記載の光学材料用組成物。
【0018】
<15> <1>〜<14>のいずれかに記載の光学材料用組成物を用いて得られる膜。
<16> 屈折率が1.34以下である<15>に記載の膜。
<17> 膜密度が0.7〜1.25g/cm3である、<15>または<16>に記載の膜。
<18> 反射防止膜として用いられる<15>〜<17>のいずれかに記載の膜。
<19> <15>〜<18>のいずれかに記載の膜を有する光学デバイス。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、光学デバイスにおける反射防止膜などとして使用するのに適した、硬化時の膜収縮が少なく、塗布面状が良好で、耐湿性および密着性に優れ、高温条件下においても屈折率変化の小さい、低屈折率膜の形成が可能な光学材料用組成物を提供することができる。さらに、本発明によれば、該光学材料組成物を用いて製造される反射防止膜、および該反射防止膜を有する光学デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の光学材料用組成物、およびその組成物より得られる膜について詳細に記述する。
本発明の光学材料用組成物は、後述する平均組成式を満たし、1種または複数種(2種以上)のかご状シルセスキオキサン化合物から構成されるシルセスキオキサン類の重合体を含有する。この組成物は、所定数の重合性基を有する重合体を含有する点に特徴がある。この重合体は、上述した従来技術中のH2C=CH−Si(O0.5)3ユニット8個からなるかご状シルセスキオキサンより得られる重合体と比較して、より少ない重合性基を有する。そのため、硬膜後に残存する重合性基の数が少なく、結果として得られた膜を高温環境下に曝しても膜内での官能基間の反応が抑制され、屈折率の変化が抑制される。さらに、組成物に含まれる重合体は、従来技術と比較してより少ない重合性基を含むシルセスキオキサン類の重合により製造されるため、各繰り返し単位間での結合数がより少なく、溶液中または膜中での重合体自体のモビリティが高く、結果としてより小さな空隙を多数有する膜を製造することができる。
なお、本発明の光学材料用組成物がさらに空孔形成剤を含んでいる場合は、従来の膜材料よりも低屈折率性を示し、かつ、硬膜時に膜べりの少ない膜を製造することができる。つまり、得られる膜は、従来から困難とされていた低屈折率性と成膜加工性との両立を、高いレベルで達成することができる。
まず、組成物に含まれる重合体の原料であるシルセスキオキサン類について説明する。その後、該シルセスキオキサン類から製造される重合体、およびその製造方法について詳述する。
【0021】
<シルセスキオキサン類>
本発明で使用される重合体の原料であるシルセスキオキサン類は、平均組成式(1)
(R1SiO1.5x(R2SiO1.5y 式(1)
(式(1)中、R1は、重合性基を表す。R2は、非重合性基を表す。xは2.0〜14.0の数を表し(2.0≦x≦14.0)、yは2.0〜14.0の数を表す(2.0≦y≦14.0)。ただし、x+y=8〜16を満たす。なお、複数のR1およびR2は、同一であっても異なっていてもよい。)で表され、1種または複数種のかご状シルセスキオキサン化合物から構成される。
【0022】
シルセスキオキサンとは、各ケイ素原子が3個の酸素原子と結合し、各酸素原子が2個のケイ素原子と結合している構造(RSiO1.5、珪素原子数に対する酸素原子数が1.5)を有する化合物である。より具体的には、RSiO1.5ユニットが別のRSiO1.5ユニットにおける酸素原子を共有して他のユニットに連結している。なお、カゴ状構造は、共有結合した原子で形成された複数の環によって容積が定まり、容積内に位置する点は環を通過せずには容積から離れることができないような構造を指す。
本発明のシルセスキオキサン類は、1種または複数種のかご状シルセスキオキサン化合物から構成されるため、結果として得られる重合体を用いた膜がより低屈折率となると共に、優れた耐熱性、耐湿性などを示す。なお、複数種(2種以上)のかご状シルセスキオキサン化合物を使用する場合は、同じかご形状の化合物を2種使用してもよいし、異なるかご形状の化合物をそれぞれ1種ずつ使用してもよい。
【0023】
式(1)中、R1は、重合性基を表す。重合性基としては、特に限定されず、ラジカル重合性基またはカチオン重合性基などが挙げられる。より具体的には、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリル基、ビニルオキシ基などのカチオン重合性基や、アルケニル基、アルキニル基、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ビニルエーテル、ビニルエステルなどのラジカル重合性基が好ましい。なかでも、合成が容易であり、重合反応が良好に進行する点から、ラジカル重合性基が好ましく、アルケニル基またはアルキニル基がより好ましい。
【0024】
なお、アルケニル基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、ケイ素原子含有基の任意の位置に2重結合を有する基が挙げられる。なかでも、炭素数1〜12が好ましく、さらに炭素数1〜6が好ましい。例えば、ビニル基、アリル基などが挙げられ、重合制御性の容易さ、機械強度の観点から、ビニル基が好ましい。
アルキニル基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、ケイ素原子含有基の任意の位置に3重結合を有する基が挙げられる。なかでも、炭素数1〜12が好ましく、さらに炭素数1〜6が好ましい。重合制御性の容易さの観点から、エチニル基が好ましい。
【0025】
2は、非重合性基を表す。非重合性基とは、上述した重合性を有さない基を指し、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、ケイ素原子含有基、またはそれらを組み合わせた基などが挙げられる。なかでも、得られる膜が優れた低屈折率性および耐熱性を示す点から、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基などが好ましい。
【0026】
アルキル基は、置換基を有していてもよく、好ましくは炭素数1〜20の直鎖または分岐アルキル基である。アルキル鎖中に酸素原子、硫黄原子、窒素原子、ハロゲン原子を有していてもよい。アルキル基の具体的としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−オクタデシル基などの直鎖アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基、ネオペンチル基、2−エチルヘキシル基などの分岐アルキル基などが挙げられる。
なお、アルキル基の好ましい態様の一つとして、得られる膜がより低屈折率性を示す点から、フッ素原子を有するアルキル基(フッ素化アルキル基)が好ましい。フッ素化アルキル基とは、アルキル基の水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたものが挙げられる。具体的には、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基などが挙げられる。
【0027】
シクロアルキル基は、置換基を有していてもよく、好ましくは炭素数3〜20のシクロアルキル基であり、多環でもよく、環内に酸素原子を有していてもよい。具体的には、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などが挙げられる。
【0028】
アリール基は、置換基を有していてもよく、好ましくは炭素数6〜14のアリール基であり、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0029】
アラルキル基は、置換基を有していてもよく、好ましくは炭素数7〜20のアラルキル基であり、例えば、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基が挙げられる。
【0030】
アルコキシ基としては、置換基を有していてもよく、好ましくは炭素数1〜20のアルコキシ基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基などが挙げられる。
【0031】
ケイ素原子含有基は、ケイ素が含有されていれば特に制限されないが、一般式(3)で表される基が好ましい。
*−L1−Si−(R20)3 (3)
一般式(3)中、*はケイ素原子との結合位置を表す。L1はアルキレン基、−O−、−S−、−Si(R21)(R22)−、−N(R23)−または、これらを組み合わせた2価の連結基を表す。L1は、アルキレン基、−O−または、これらを組み合わせた2価の連結基が好ましい。
アルキレン基としては、炭素数1〜12が好ましく、炭素数1〜6がより好ましい。R21、R22、R23およびR20は、それぞれ独立にアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアルコキシ基を表す。R21、R22、R23およびR20で表されるアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基の定義は、上述の定義と同じであり、好ましくはメチル基、エチル基、ブチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
ケイ素原子含有基としては、シリルオキシ基(トリメチルシリルオキシ、トリエチルシリルオキシ、t−ブチルジメチルシリルオキシ)が好ましい。
【0032】
式(1)中、xは2.0〜14.0の数を表し、得られる膜がより優れた低屈折率性、耐熱性、耐光性、および硬化性を示す点より、xは2.5以上が好ましく、3.0以上がより好ましく、また、xは11.5以下が好ましく、10.0以下がより好ましく、9.5以下がさらに好ましく、5.0以下が特に好ましく、4.5以下が最も好ましい。
式(1)中、yは2.0〜14.0の数を表し、得られる膜がより優れた低屈折率性、耐熱性および塗布性を示す点より、yは3.0以上が好ましく、5.5以上がより好ましく、また、yは12.0以下が好ましく、11.5以下がより好ましく、10.0以下がさらに好ましく、9.5以下が特に好ましく、7.5以下がより好ましく、5.0以下が最も好ましい。
【0033】
式(1)中、x+y=8〜16を満たし、得られる膜がより優れた低屈折率、耐熱性、吸湿性、および保存安定性を示す点より、x+y=8〜14が好ましく、x+y=8〜12がより好ましく、x+y=8〜10がさらに好ましい。
さらに、式(1)中、xとyとの比(x/y)は0.2≦x/y≦2.5を満たすことが好ましく、得られる膜がより優れた低屈折率性、耐熱性、および機械強度を示す点より、0.2≦x/y≦2.0がより好ましく、0.3≦x/y≦2.0がさらに好ましい。
【0034】
<かご状シルセスキオキサン化合物>
上述した平均組成式(1)を満たすシルセスキオキサン類は、1種または複数種のかご状シルセスキオキサン化合物から構成される。
かご状シルセスキオキサン化合物としては、m個のRSi(O0.5)3ユニットが、その酸素原子を共有しながら他のRSi(O0.5)3ユニットと互いに連結することで形成されるカゴ型構造を含む化合物であれば、特に限定されない。
なかでも、得られる膜がより優れた低屈折率性および耐熱性を示す点より、下記式(2)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物が好ましい。
(RSiO1.5a 式(2)
【0035】
式(2)中、Rは、それぞれ独立に、重合性基または非重合性基を表す。重合性基および非重合性基の定義は、上述の通りである。ただし、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。
式(2)中、aは8、10、12、14または16の整数を表す。なかでも、得られる膜がより優れた低屈折率性および耐熱性を示す点より、aが8または10であることが好ましく、更に重合制御性の観点から、8がより好ましい。
【0036】
上記かご状シルセスキオキサン化合物の好適態様としては、下記一般式(Q−1)〜一般式(Q−7)で表される化合物が挙げられる。なかでも、入手性、重合制御性、溶解性の観点から、一般式(Q−6)で表される化合物が最も好ましい。
【0037】
【化3】

【0038】
【化4】

【0039】
上記一般式(Q−1)〜一般式(Q−7)中、Rは、それぞれ独立に、重合性基または非重合性基を表す。
【0040】
<シルセスキオキサン類の好適態様>
シルセスキオキサン類の好適態様の一つとして、得られる膜がより優れた低屈折率性および耐熱性を示す点から、式(1)においてxが2.0≦x≦6.0の範囲の数を表し(好ましくは3.0≦x≦4.5)、yが2.0≦y≦6.0の範囲の数を表し(好ましくは3.5≦y≦5.0)、x+y=8を表し、上記一般式(Q−6)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物より構成されるシルセスキオキサン類が挙げられる。
該シルセスキオキサン類は、1種または2種以上の上記一般式(Q−6)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物(T8型)より構成される。例えば、3つの重合性基および5つの非重合性基を有するかご状シルセスキオキサン化合物と、4つの重合性基および4つの非重合性基を有するかご状シルセスキオキサン化合物との混合物であってもよい。
【0041】
シルセスキオキサン類の他の好適態様として、式(1)においてxが2.0≦x≦8.0の範囲の数を表し(好ましくは3.0≦x≦4.5)、yが2.0≦y≦8.0の範囲の数を表し(好ましくは5.5≦y≦7.0)、x+y=10を表し、上記一般式(Q−2)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物および/または一般式(Q−7)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物より構成されるシルセスキオキサン類が挙げられる。
該シルセスキオキサン類は、1種または2種以上の、上記一般式(Q−2)または一般式(Q−7)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物(T10型)より構成される。
【0042】
シルセスキオキサン類の他の好適態様として、式(1)においてxが2.0≦x≦10.0の範囲の数を表し(好ましくは3.0≦x≦5.0)、yが2.0≦y≦10.0の範囲の数を表し(好ましくは7.0≦y≦9.0)、x+y=12を表し、上記一般式(Q−1)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物および/または一般式(Q−3)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物より構成されるシルセスキオキサン類が挙げられる。
該シルセスキオキサン類は、1種または2種以上の、上記一般式(Q−1)または一般式(Q−3)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物(T12型)より構成される。
【0043】
シルセスキオキサン類の他の好適態様として、式(1)においてxが2.0≦x≦12.0の範囲の数を表し、yが2.0≦y≦12.0の範囲の数を表し、x+y=14を表し、上記一般式(Q−4)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物より構成されるシルセスキオキサン類が挙げられる。
該シルセスキオキサン類は、1種または2種以上の上記一般式(Q−4)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物(T14型)より構成される。
【0044】
シルセスキオキサン類のその他の好適態様の一つとして、少なくとも3つの重合性基と、少なくとも3つの非重合性基とを有するかご状シルセスキオキサン化合物(A)を含むシルセスキオキサン類が挙げられる。すなわち、該化合物(A)は、式(2)中のRのうち少なくとも3つが重合性基を表し、さらにRのうち少なくとも3つが非重合性基を表す化合物である。該化合物(A)を含有することにより、より低屈折率で耐熱性に優れる硬化膜を得ることができる。
【0045】
かご状シルセスキオキサン化合物(A)は、少なくとも3つの重合性基と、少なくとも3つの非重合性基とを有していればよく、3つ以上の重合性基と3つ以上の非重合性基を有していてもよい。
化合物(A)の構造は特に限定されないが、上述した一般式(Q−1)〜一般式(Q−7)で表される化合物であることが好ましい。
例えば、一般式(Q−6)で表される化合物においては、3〜5つの重合性基と3〜5つの非重合性基を有し、両者の総数が8である化合物が化合物(A)に該当する。
また、一般式(Q−2)または一般式(Q−7)で表される化合物においては、3〜7つの重合性基と3〜7つの非重合性基とを有し、両者の総数が10である化合物が化合物(A)に該当する。
また、一般式(Q−4)で表される化合物においては、3〜11つの重合性基と3〜11つの非重合性基とを有し、両者の総数が14である化合物が化合物(A)に該当する。
【0046】
全シルセスキオキサン類中における上記した化合物(A)の含有量は、特に制限されないが、得られる膜の諸特性がより優れる点より、シルセスキオキサン類全量に対して、10モル%以上であることが好ましく、20〜100モル%であることがより好ましく、60〜100モル%以上であることがさらに好ましい。特に、シルセスキオキサン類が化合物(A)のみによって構成され、他のかご状シルセスキオキサン化合物を実質的に含有しないことが好ましい。
【0047】
上述したシルセスキオキサン類は、通常、かご状シルセスキオキサン化合物から構成されるが、本発明の効果を損なわない範囲であれば、他のポリシロキサン化合物(ラダー型シルセスキオキサン化合物など)を含んでいてもよい。
【0048】
以下に、シルセスキオキサン類の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。なお、表1中の置換基比率は、式(1)中のx/yに該当する。
【0049】
【表1】

【0050】
本発明で使用されるかご状シルセスキオキサン化合物は、アルドリッチ、Hybrid Plastics社から購入できるものを使用してもよいし、Polymers, 20, 67-85, 2008, Journal of Inorganic and Organometallic Polymers, 11(3), 123-154, 2001, Journal of Organometallic Chemistry, 542, 141-183, 1997, Journal of Macromolecular Science A. Chemistry, 44(7), 659-664, 2007, Chem. Rev., 95, 1409-1430, 1995, Journal of Inorganic and Organometallic Polymers, 11(3), 155-164, 2001, Dalton Transactions, 36-39, 2008, Macromolecules, 37(23), 8517-8522, 2004, Chem. Mater.,8, 1250-1259, 1996などに記載の公知の方法で合成してもよい。
【0051】
<シルセスキオキサン類の重合体>
以下に、上述したシルセスキオキサン類を原料として得られる重合体の物性値、およびその製造方法について詳述する。
【0052】
重合体の重量平均分子量(M)は特に限定されないが、1.0×104〜50×104であることが好ましく、3.5×104〜40×104であることがより好ましく、5.0×104〜35×104であることが最も好ましい。
重合体の数平均分子量(M)は特に限定されないが、1.5×104〜35×104であることが好ましく、1.5×104〜20×104であることがより好ましく、2.5×104〜15×104であることが最も好ましい。
重合体のZ+1平均分子量(MZ+1)は特に限定されないが、1.5×104〜65×104であることが好ましく、2.5×104〜50×104であることがより好ましく、3.5×104〜35×104であることが最も好ましい。
上記範囲の重量平均分子量および数平均分子量に設定することにより、有機溶媒に対する溶解性およびフィルターろ過性が向上し、保存時のパーティクルの発生が抑制でき、塗布膜の面状が改善された、低屈折率である膜を形成することができる。
【0053】
有機溶媒に対する溶解性、フィルターろ過性、および塗布膜面状の観点から、重合体は分子量300万以上の成分を実質的に含まないことが好ましく、200万以上の成分を実質的に含まないことがより好ましく、100万以上の成分を含まないことが最も好ましい。
【0054】
重合体には、かご状シルセスキオキサン化合物由来の未反応の重合性基が残存していることが好ましく、かご状シルセスキオキサン化合物由来の重合性基のうち、10〜90モル%が未反応で残存していることが好ましく、20〜90モル%が未反応で残存していることが好ましく、30〜90モル%が未反応で残存していることが最も好ましい。上記範囲内であれば、得られる膜の耐熱性、硬化性、機械強度がより向上する。
これらについては、1H−NMRスペクトル等から定量することができる。
【0055】
上述した重合体は、かご状シルセスキオキサン化合物を主成分とする重合体である。該重合体中、重合性基の含有量は特に限定されないが、ケイ素原子に結合した全有機基中、好ましくは10〜90モル%であり、より好ましくは10〜50モル%であり、さらに好ましくは10〜25モル%である。上記範囲内であれば、得られる膜の耐熱性、機械強度がより向上する。
【0056】
なお、重合体中、かご状シルセスキオキサン構造が、10〜100質量%含まれていることが好ましく、20〜100質量%含まれていることがより好ましい。上記範囲内であれば、得られる膜の耐熱性、低屈折率性、および透明性がより向上する。
【0057】
<重合体の製造方法>
重合体を製造するための方法としては特に制限されないが、例えば、重合性基の重合反応、ハイドロシリレーション反応が挙げられる。
重合性基の重合反応としてはどのような重合反応でもよいが、例えば、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、開環重合、重縮合、重付加、付加縮合、遷移金属触媒重合などが挙げられる。
【0058】
ハイドロシリレーション反応は、例えば、上記のかご状シルセスキオキサン化合物と、それに加えて、分子内に2個以上のSiH基を含む化合物(例えばビス(ジメチルシリル)エタン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンなど)を有機溶媒(例えばトルエン、キシレンなど)に溶解し、触媒(例えば、Platinum(0)-1,3-divinyl-1,1,3,3- tetramethyl disiloxane complexなど)を添加して20〜200℃で加熱する、などの方法で行うことができる。
【0059】
上記重合体を製造するための方法としては、重合性基を介した重合反応が好ましく、ラジカル重合が最も好ましい。合成方法としては、上記シルセスキオキサン類および開始剤を溶媒に溶解させ、加熱することにより重合を行う一括重合法、シルセスキオキサン類を溶媒に溶解させ加熱し、開始剤の溶液を1〜10時間かけて滴下して加える滴下重合法(連続添加)、開始剤を複数回分割して加える分割添加重合法(分割添加)などが挙げられる。膜強度および分子量再現性がより改善される点で、分割添加および連続添加が好ましい。
【0060】
重合反応の反応温度は、通常0℃〜200℃であり、好ましくは40℃〜170℃、さらに好ましくは80℃〜160℃である。
また、酸素による重合開始剤の不活性化を抑制するために不活性ガス雰囲気下(例えば、窒素、アルゴン等)で反応させることが好ましい。反応時の酸素濃度は、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下、特に好ましくは20ppm以下である。
【0061】
重合時の反応液中のシルセスキオキサン類の濃度は、反応液全質量に対して、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが更に好ましく、10質量%以下が最も好ましい。上記濃度範囲に設定することにより、ゲル化成分などの不純物の生成を抑制することができる。
【0062】
上記重合反応で使用する溶媒は、シルセスキオキサン類が必要な濃度で溶解可能であり、かつ得られる重合体から形成される膜の特性に悪影響を与えないものであればどのようなものを使用してもよい。以下の記述において、例えば、エステル系溶媒とは分子内にエステル基を有する溶媒のことである。
溶媒としては、例えば、特開2008−218639号公報の段落番号[0038]に記載の溶媒を用いることができる。
これらの中でより好ましい溶媒は、エステル系溶媒、エーテル系溶媒および芳香族炭化水素系溶媒であり、具体的には、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸ヘキシル、プロピオン酸メチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、トルエン、キシレン、メシチレン、t−ブチルベンゼンが好ましく、特に好ましくは酢酸エチル、酢酸ブチル、ジフェニルエーテル、アニソール、メシチレン、t−ブチルベンゼンである。これらは単独でも2種以上を混合して用いてもよい。
反応時に重合開始剤を分解させるのに必要な温度まで反応液を加温できるために、溶媒の沸点は65℃以上であることが好ましい。
【0063】
上記溶媒のなかでも、得られる重合体の重合制御がし易く、かつ、得られる膜の諸特性がより優れる点から、連鎖移動定数(Cx)が0<Cx≦5.0×104である溶媒を使用することが特に好ましい。
また、溶媒の好ましいSP(溶媒度パラメータ)値としては、得られる重合体の重合制御がし易く、かつ、得られる膜の諸特性がより優れる点から、10〜25(MPa1/2)が好ましく、15〜25(MPa1/2)がより好ましい。ここで、SP値は、例えば、Polymer Handbook Fourth Edition Volume2(A John Wiley&Sons, Inc., Publication)J. BRANDRUP, E. H. IMMERGUT and E. A. GRULKE(1999) p.675〜714に記載の方法を用いて得られる値である。
【0064】
シルセスキオキサン類の重合反応は、非金属の重合開始剤の存在下で行うことが好ましい。例えば、加熱によって炭素ラジカルや酸素ラジカル等の遊離ラジカルを発生して活性を示す重合開始剤の存在下で重合することができる。
重合開始剤としては、特に、有機過酸化物または有機アゾ系化合物が好ましく用いられる。有機過酸化物および有機アゾ系化合物としては、特開2008−239685号公報の段落番号[0033]〜[0035]に記載の化合物を使用することができる。
【0065】
重合開始剤としては、試薬自体の安全性および重合反応の分子量再現性から、有機アゾ系化合物が好ましく、なかでも重合体中に有害なシアノが取り込まれないV−601などのアゾエステル化合物が好ましい。
重合開始剤の10時間半減期温度は、100℃以下であることが好ましい。10時間半減期温度が100℃以下であれば、重合開始剤を反応終了時に残存しないようにすることが容易である。
重合開始剤は1種のみ、または2種以上を混合して用いてもよい。
重合開始剤の使用量はモノマー1モルに対して、好ましくは0.0001〜2モル、より好ましくは0.003〜1モル、特に好ましくは0.001〜0.5モルである。
【0066】
シルセスキオキサン類の重合反応を行った反応液をそのまま塗布液として用いてもよいが、反応終了後、精製処理を実施することが好ましい。精製の方法としては、水洗や適切な溶媒を組み合わせることにより残留単量体やオリゴマー成分を除去する液々抽出法、特定の分子量以下のもののみを抽出除去する限外ろ過、遠心分離処理、カラムクロマトグラフィー等の溶液状態での精製方法や、重合体溶液を貧溶媒へ滴下することで重合体を貧溶媒中に凝固させ、残留単量体等を除去する再沈澱法や、ろ別した重合体スラリーを貧溶媒で洗浄する等の固体状態での精製方法など通常の方法を適用できる。
例えば、上記重合体が難溶または不溶の溶媒(貧溶媒)を、該反応溶液の10倍以下の体積量、好ましくは10〜5倍の体積量で、重合体含有溶液に接触させることにより重合体を固体として析出させる。重合体溶液からの沈殿または再沈殿操作の際に用いる溶媒(沈殿または再沈殿溶媒)としては、該重合体の貧溶媒であればよく、重合体の種類に応じて、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、ニトロ化合物、エーテル、ケトン、エステル、カーボネート、アルコール、カルボン酸、水、これらの溶媒を含む混合溶媒等の中から適宜選択して使用できる。これらの中でも、沈殿または再沈殿溶媒として、少なくともアルコール(特に、メタノールなど)または水を含む溶媒が好ましい。
【0067】
シルセスキオキサン類の重合体およびその製造工程において、必要以上の重合を抑制するために重合禁止剤を添加してもよい。重合禁止剤の例としては、4−メトキシフェノール、2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール、カテコールなどが挙げられる。
【0068】
<光学材料用組成物>
本発明の光学材料用組成物には、上述した所定の平均組成式で表されるシルセスキオキサン類から得られる重合体が含有される。なお、本発明の組成物は、重合体が溶媒(例えば、有機溶媒)に溶解した溶液であってもよいし、重合体を含む固形物であってもよい。
本発明の組成物は、種々の用途に用いることができ、その目的に応じて重合体の含有量や添加する添加剤などの種類が決められる。用途としては、例えば、膜(例えば、絶縁膜)を製造するためや、低屈折率膜、低屈折率材料、ガス吸着材料、レジスト材料などが挙げられる。
【0069】
組成物中における上記重合体の含有量は、特に限定されないが、後述する膜形成に使用する場合には、全固形分に対して、50質量%以上であることが好ましく、更に好ましくは60質量%以上であり、最も好ましくは70質量%以上である。最大値としては100質量%である。固形分中のこれらの含量が大きいほど、塗布面状が改善した膜を形成することができる。なお、固形分とは、後述する膜を構成する固形成分を意味し、溶媒などは含まれない。
【0070】
本発明の組成物は、溶媒を含有していてもよい。つまり、重合体を適当な溶媒に溶解させて、支持体上に塗布して使用することが好ましい。
溶媒としては、25℃で重合体を5質量%以上溶解する溶媒が好ましく、10質量%以上がより好ましい。具体的には、特開2008−214454号公報の段落番号[0044]に記載の溶媒を使用することができる。
上記の中でも、好ましい溶媒としてはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレンカーボネート、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、メチルイソブチルケトン、キシレン、メシチレン、ジイソプロピルベンゼンを挙げることができる。
【0071】
組成物が溶媒を含む場合、組成物中の全固形分濃度は、組成物全量に対して、好ましくは1〜30質量%であり、使用目的に応じて適宜調整される。上記範囲内であれば、塗膜の膜厚が適当な範囲となり、塗布液の保存安定性もより優れるものとなる。
【0072】
組成物には、重合開始剤が含まれていてもよい。特に、組成物を低温で硬膜する必要がある場合は、重合開始剤は含んでいることが好ましい。その場合の重合開始剤の種類は特に制限されない。また、放射線により重合を引きおこす開始剤を使用することもできる。
【0073】
組成物中には、不純物としての金属含量が充分に少ないことが好ましい。組成物中の金属濃度はICP−MS法等により高感度に測定可能であり、その場合の遷移金属以外の金属含有量は好ましくは300ppm以下、より好ましくは100ppm以下である。
【0074】
<添加剤>
更に、組成物には、組成物を用いて得られる膜の特性(耐熱性、誘電率、機械強度、塗布性、密着性等)を損なわない範囲で、ラジカル発生剤、コロイド状シリカ、界面活性剤、密着剤、空孔形成剤などの添加剤を添加してもよい。
【0075】
<コロイド状シリカ>
組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、いかなるコロイド状シリカを含有していてもよい。例えば、高純度の無水ケイ酸を親水性有機溶媒または水に分散した分散液であり、通常、平均粒径5〜30nm、好ましくは10〜20nm、固形分濃度が5〜40質量%程度のものである。
【0076】
<界面活性剤>
組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、いかなる界面活性剤を含有していてもよい。例えば、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤などが挙げられ、さらにシリコーン系界面活性剤、含フッ素系界面活性剤、ポリアルキレンオキシド系界面活性剤、アクリル系界面活性剤が挙げられる。使用する界面活性剤は、一種類のみでもよいし、二種類以上を併用してもよい。界面活性剤としては、シリコーン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、含フッ素系界面活性剤、アクリル系界面活性剤が好ましく、特にシリコーン系界面活性剤が好ましい。
【0077】
本発明で使用する界面活性剤の添加量は、組成物全量に対して、0.01質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上0.5質量%以下であることが更に好ましい。
【0078】
なお、シリコーン系界面活性剤とは、少なくとも1原子のSi原子を含む界面活性剤である。シリコーン系界面活性剤としては、いかなるシリコーン系界面活性剤でもよく、アルキレンオキシドおよびジメチルシロキサンを含む構造であることが好ましい。下記化学式を含む構造であることが更に好ましい。
【0079】
【化5】

【0080】
上記式中Rは水素原子または炭素原子数1〜5のアルキル基であり、xは1〜20の整数であり、m、nはそれぞれ独立に2〜100の整数である。複数のRは同じでも異なっていてもよい。
【0081】
シリコーン系界面活性剤としては、例えばBYK306、BYK307(ビックケミー社製)、SH7PA、SH21PA、SH28PA、SH30PA(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製)、TroysolS366(トロイケミカル社製)等を挙げることができる。
【0082】
ノニオン系界面活性剤としては、いかなるノニオン系界面活性剤でもよい。例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアリールエーテル類、ポリオキシエチレンジアルキルエステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、脂肪酸変性ポリオキシエチレン類、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体等を挙げることができる。
【0083】
含フッ素系界面活性剤としては、いかなる含フッ素系界面活性剤でもよい。例えば、パーフルオルオクチルポリエチレンオキシド、パーフルオルデシルポリエチレンオキシド、パーフルオルドデシルポリエチレンオキシド、PF656(OMNOVA社製)、PF6320(OMNOVA社製)等を挙げることができる。
【0084】
アクリル系界面活性剤としては、いかなるアクリル系界面活性剤でもよい。例えば、(メタ)アクリル酸系共重合体等が挙げられる。
【0085】
<密着促進剤>
組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、いかなる密着促進剤を含有していてもよい。密着促進剤としては、例えば、3−グリシジロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノグリシジロキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。他には、特開2008−243945号公報の段落番号[0048]に記載の化合物が使用される。
密着促進剤の好ましい使用量は、特に制限されないが、通常、組成物中の全固形分に対して、10質量%以下、特に0.05〜5質量%であることが好ましい。
【0086】
<空孔形成剤>
本発明では、膜の機械強度の許す範囲内で、空孔形成因子を使用して膜を多孔質化し、低屈折率化を図ることができる。空孔形成因子となる空孔形成剤としては特に限定されないが、非金属化合物が好適に用いられ、塗布液で使用される溶剤との溶解性、絶縁膜用樹脂またはその前駆体との相溶性を同時に満たすことが必要である。
空孔形成剤としてはポリマーも使用することができる。空孔形成剤として使用できるポリマーとしては、例えば、ポリビニル芳香族化合物(ポリスチレン、ポリビニルピリジン、ハロゲン化ポリビニル芳香族化合物など)、ポリアクリロニトリル、ポリアルキレンオキシド(ポリエチレンオキシドおよびポリプロピレンオキシドなど)、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリシロキサン、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム、ポリウレタン、ポリメタクリレート(ポリメチルメタクリレートなど)またはポリメタクリル酸、ポリアクリレート(ポリメチルアクリレートなど)およびポリアクリル酸、ポリジエン(ポリブタジエンおよびポリイソプレンなど)、ポリビニルクロライド、ポリアセタール、およびアミンキャップドアルキレンオキシド、その他、ポリフェニレンオキシド、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリテトラヒドロフラン、ポリシクロヘキシルエチレン、ポリエチルオキサゾリン、ポリビニルピリジン、ポリカプロラクトン等であってもよい。
【0087】
なかでも、得られる膜がより低屈折率になること、硬化後の膜面状が均一であること、および濁りなく透明であることから、ポリスチレン、ポリアルキレンオキシド、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリアクリル酸、ポリメタクリレート、ポリメタクリル酸、ポリアセタール、またはポリペルオキシドが好ましく、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリアルキレンオキシド、ポリアセタールが特に好ましい。
【0088】
ポリスチレンとしては、例えば、アニオン性重合ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、未置換および置換ポリスチレン(例えば、ポリ(Cx−メチルスチレン))が挙げられ、未置換ポリスチレンが好ましい。
ポリメタクリレートとしては、3級エステルを有するポリメタクリレートが好ましい。ポリメタクリレートの具体例としては、例えば、下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0089】
【化6】

【0090】
ポリアルキレンオキシドとしては、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシドアルキルエーテル、ポリエチレンオキシドアルキルエステル、ポリプロピレンオキシド、ポリプロピレンオキシドアルキルエーテル、ポリプロピレンオキシドアルキルエステル、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド共重合体、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドアルキルエーテル、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドアルキルエステル、ポリブチレンオキシドなどが挙げられる。
ポリアセタールとしては、ホルムアルデヒドの単独重合によって得られる、いわゆるポリアセタールホモポリマーであっても、トリオキサンと環状エーテルおよび/または環状ホルマール化合物の重合によって得られるポリアセタールコポリマーであっても、ジビニルエーテルとジオールの重合によって得られるポリアセタールコポリマーの何れであってもよい。ポリアセタールの具体例としては、例えば、下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0091】
【化7】

【0092】
空孔形成剤の沸点または分解温度として、熱重量分析(窒素気流下,昇温速度20℃/min)における50%重量減少温度が、得られる膜がより低屈折率になること、硬化時の膜収縮が抑制される点から、好ましくは180〜350℃、より好ましくは200〜300℃である。
空孔形成剤のポリスチレン換算数平均分子量としては特に制限されないが、膜中での相分離を抑制し、透明で凹凸の無い膜を得られる点から、好ましくは100〜50,000、より好ましくは100〜30,000、特に好ましくは150〜2,5000である。
空孔形成剤の添加量は特に限定されないが、組成物の全固形分に対して、好ましくは0.5〜50質量%、より好ましくは1.0〜40質量%、特に好ましくは5.0〜30質量%である。
【0093】
組成物の製造方法は特に限定されず、溶媒を含む場合、所定量の重合体を溶媒に添加して、攪拌することにより得られる。
【0094】
上記の組成物はフィルターろ過により、不溶物、ゲル状成分等を除いてから膜形成に用いることが好ましい。その際に用いるフィルターの孔径は0.05〜2.0μmが好ましく、孔径0.05〜1.0μmがより好ましく、孔径孔径0.05〜0.5μmが最も好ましい。フィルターの材質はポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロンが好ましく、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンおよびナイロンがより好ましい。
【0095】
<膜製造方法>
本発明の光学材料用組成物は、上記のように種々の用途に用いることができる。例えば、その用途としては、反射防止膜を作製するために使用できる。
本発明の光学材料用組成物を使用して得られる反射防止膜の製造方法は特に限定されないが、例えば、光学材料用組成物をスピンコーティング法、ローラーコーティング法、ディップコーティング法、スキャン法、スプレー法、バー塗布法等の任意の方法により、シリコンウエハ、SiO2ウエハ、SiNウエハ、ガラス、プラスチックフィルム、マイクロレンズなどの基板に塗布した後、溶媒を必要に応じて加熱処理で除去して塗膜を形成し、硬膜処理を施すことにより形成することができる。
【0096】
基板に塗布する方法としては、スピンコーティング法、スキャン法が好ましい。特に好ましくは、スピンコーティング法である。スピンコーティング法については、市販の装置を使用できる。例えば、クリーントラックシリーズ(東京エレクトロン製)、D-スピンシリーズ(大日本スクリーン製)、SSシリーズあるいはCSシリーズ(東京応化工業製)等が好ましく使用できる。
【0097】
スピンコート条件としてはいずれの回転速度でもよいが、膜の面内均一性の観点より、300mmシリコン基板においては1300rpm程度の回転速度が好ましい。また組成物溶液の吐出方法においては、回転する基板上に組成物溶液を吐出する動的吐出、静止した基板上へ組成物溶液を吐出する静的吐出のいずれでもよいが、膜の面内均一性の観点より、動的吐出が好ましい。また、組成物の消費量を抑制する観点より、予備的に組成物の主溶媒のみを基板上に吐出して液膜を形成した後、その上から組成物を吐出するという方法を用いることもできる。スピンコート時間については特に制限はないが、スループットの観点から180秒以内が好ましい。また、基板の搬送の観点より、基板エッジ部の膜を残存させないための処理(エッジリンス、バックリンス)をすることも好ましい。
【0098】
熱処理の方法は、特に限定されないが、一般的に使用されているホットプレート加熱、ファーネス炉を使用した加熱方法、RTP(Rapid Thermal Processor)等によるキセノンランプを使用した光照射加熱等を適用することができる。好ましくは、ホットプレート加熱、ファーネスを使用した加熱方法である。ホットプレートとしては市販の装置を好ましく使用でき、クリーントラックシリーズ(東京エレクトロン製)、D-スピンシリーズ(大日本スクリーン製)、SSシリーズあるいはCSシリーズ(東京応化工業製)等が好ましく使用できる。ファーネスとしては、Cxシリーズ(東京エレクトロン製)等が好ましく使用できる。
【0099】
硬膜処理とは、基板上の組成物を硬化し、膜に溶媒耐性などを与えることを意味する。硬膜の方法としては、加熱処理(焼成)することが好ましい。例えば、重合体中に残存する重合性基の後加熱時の重合反応が利用できる。この後加熱処理の条件は、好ましくは100〜600℃、より好ましくは200〜500℃、特に好ましくは200℃〜450℃で、好ましくは1分〜3時間、より好ましくは1分〜2時間、特に好ましくは1分〜1時間の範囲である。後加熱処理は数回に分けて行ってもよい。
【0100】
また、本発明では加熱処理ではなく、光照射や放射線照射などの高エネルギー線を照射することで、重合体中に残存する重合性基間の重合反応を起こして硬膜してもよい。高エネルギー線とは、電子線、紫外線、X線などが挙げられるが、特にこれらの方法に限定されるものではない。
【0101】
膜厚は、乾燥膜厚として、1回塗りで厚さ0.05〜1.5μm程度、2回塗りでは厚さ0.1〜3μm程度の塗膜を形成することができる。
カゴ構造が焼成時に分解しないために、組成物および膜の製造中にSi原子に求核攻撃する基(水酸基、シラノール基など)が実質的に存在しないことが好ましい。
【0102】
<光学材料用組成物を用いて得られる膜>
上述した光学材料用組成物を用いて得られる膜は、優れた低屈折率性を示す。具体的には、硬化膜の屈折率(波長633nm、測定温度25℃)は、1.34以下であることが好ましく、1.27〜1.34であることがより好ましく、1,27〜1.33であることが特に好ましい。上記範囲内であれば、後述する反射防止膜として有用である。
【0103】
光学材料用組成物を用いて得られる膜は、膜内に多数の空孔を有しているため、優れた低屈折率性を示す。具体的には、得られる膜の膜密度が、0.7〜1.25g/cm3、好ましくは0.7〜1.2g/cm3、さらに好ましくは0.8〜1.2g/cm3である。膜密度が0.7g/cm3未満では、得られる膜の機械的強度が劣る場合があり、一方、1.25g/cm3を超えると、耐熱性に劣る場合がある。なお、膜密度の測定は、X線反射率法(XRR)など公知の測定装置により実施できる。
【0104】
光学材料用組成物を用いて得られる膜は、高温条件下にて、屈折率の変化が小さく、優れた耐熱性を示す。具体的には、得られた膜を200℃以上の高温条件下に2時間放置した際の、放置前と放置後の屈折率(波長633nm)の変化値(放置後の屈折率―放置前の屈折率)が0.006未満であることが好ましく、0.004未満であることがより好ましく、0.002未満であることが特に好ましい。
【0105】
光学材料用組成物を用いて得られる膜は、高温多湿環境下にて、屈折率の変化が小さく、優れた耐熱性を示す。具体的には、得られた膜を110℃、湿度95%にて12時間放置した際の、放置前と放置後の屈折率(波長633nm)の変化値(放置後の屈折率―放置前の屈折率)が0.01以下であることが好ましい。
また、上記光学材料用組成物を用いて得られる膜は、該膜が形成される基板との密着性に優れる。
【0106】
<反射防止膜>
上述した本発明の光学材料用組成物を用いて得られる膜の好適な使用態様として、反射防止膜が挙げられる。特に、光学デバイス(例えば、イメージセンサ用マイクロレンズ、プラズマディスプレイパネル、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスなど)用の反射防止膜として好適である。
反射防止膜として使用した場合の反射率は低いほど好ましい。具体的には、450〜650nmの波長領域での鏡面平均反射率が3%以下であることが好ましく、2%以下であることがさらに好ましく、1%以下であることが最も好ましい。なお、下限値は小さければ小さいほど好ましく0である。
反射防止膜のヘイズは、3%以下であることが好ましく、1%以下であることがさらに好ましく、0.5%以下であることが最も好ましい。なお、下限値は小さければ小さいほど好ましく0である。
【0107】
上述した膜を単層型の反射防止膜として用いる場合には、透明基板の屈折率をnGとすると、反射防止膜の屈折率nは√nG、すなわち透明基板の屈折率に対して1/2乗であることが好ましい。例えば、光学ガラスの屈折率は1.47〜1.92(波長633nm、測定温度25℃)であるので、その光学ガラス上に形成される単層の反射防止膜のnは1.21〜1.38であることが好ましい。なお、その際の反射防止膜の膜厚は10nm〜10μmであることが好ましい。
【0108】
上述した膜を、多層型の反射防止膜として用いる場合には、該膜を低屈折率層として使用し、例えば、その膜の下に、高屈折率層、ハードコート層、及び透明基板を含むことができる。このとき、基板の上に、ハードコート層を設けずに、直接、高屈折率層を形成してもよい。また、高屈折率層と低屈折率層の間、または、高屈折率層とハードコート層の間に、さらに中屈折率層を設けてもよい。
以下に、多層型の場合の各層について詳述する。
【0109】
(1)低屈折率層
低屈折率層は、上述のように本発明の光学材料用組成物を硬化して得られる硬化膜から構成される。低屈折率層の屈折率及び厚さについて説明する。
【0110】
(i)屈折率
本発明の光学材料用組成物を硬化して得られる硬化膜の屈折率(波長633nm、測定温度25℃)、即ち、低屈折率膜の屈折率を1.34以下とすることが好ましい。この理由は、低屈折率膜の屈折率が1.34を超えると、高屈折率膜と組み合わせた場合に、反射防止効果が著しく低下する場合があるためである。
従って、低屈折率膜の屈折率を1.33以下とするのがより好ましく、1.32以下とするのがさらに好ましい。尚、低屈折率膜を複数層設ける場合には、そのうちの少なくとも一層が上述した範囲内の屈折率の値を有していればよい。
【0111】
また、低屈折率層を設ける場合、より優れた反射防止効果が得られることから、高屈折率層との間の屈折率差を0.05以上の値とするのが好ましい。低屈折率層と、高屈折率層との間の屈折率差が0.05未満の値となると、これらの反射防止膜層での相乗効果が得られず、却って反射防止効果が低下する場合がある。従って、低屈折率層と、高屈折率層との間の屈折率差を0.1〜0.8の範囲内の値とするのがより好ましく、0.15〜0.7の範囲内の値とするのがさらに好ましい。
【0112】
(ii)厚さ
低屈折率層の厚さについても特に制限されるものではないが、例えば、20〜300nmであることが好ましい。低屈折率層の厚さが20nm未満となると、下地としての高屈折率膜に対する密着力が低下する場合があり、一方、厚さが300nmを超えると、光干渉が生じて反射防止効果が低下する場合がある。従って、低屈折率層の厚さを20〜250nmとするのがより好ましく、20〜200nmとするのがさらに好ましい。尚、より高い反射防止性を得るために、低屈折率層を複数層設けて多層構造とする場合には、その合計した厚さを20〜300nmとすればよい。
【0113】
(2)高屈折率層
高屈折率層を形成するための硬化性組成物としては、特に制限されるものでないが、膜形成成分として、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、アルキド系樹脂、シアネート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、シロキサン樹脂等の一種単独又は二種以上の組み合わせを含むことが好ましい。これらの樹脂であれば、高屈折率層として、強固な薄膜を形成することができ、結果として、反射防止膜の耐擦傷性を著しく向上させることができる。
しかしながら、通常、これらの樹脂単独での屈折率は1.45〜1.62であり、高い反射防止性能を得るには十分で無い場合がある。そのため、高屈折率の無機粒子、例えば金属酸化物粒子を配合することにより、屈折率1.70〜2.20とすることが好ましい。また、硬化形態としては、熱硬化、紫外線硬化、電子線硬化できる硬化性組成物を用いることができるが、より好適には生産性の良好な紫外線硬化性組成物が用いられる。
【0114】
高屈折率層の厚さは特に制限されないが、例えば、20〜30,000nmであることが好ましい。高屈折率層の厚さが20nm未満となると、低屈折率層と組み合わせた場合に、反射防止効果や基板に対する密着力が低下する場合があり、一方、厚さが30,000nmを超えると、光干渉が生じて逆に反射防止効果が低下する場合がある。従って、高屈折率層の厚さを20〜1,000nmとするのがより好ましく、50〜500nmとするのがさらに好ましい。また、より高い反射防止性を得るために、高屈折率層を複数層設けて多層構造とする場合には、その合計した厚さを20〜30,000nmとすればよい。尚、高屈折率層と基板との間にハードコート層を設ける場合には、高屈折率層の厚さを20〜300nmとすることができる。
【0115】
(3)ハードコート層
本発明の反射防止膜に用いるハードコート層の構成材料については特に制限されるものでない。このような材料としては、シロキサン樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の一種単独又は二種以上の組み合わせを挙げることができる。
【0116】
また、ハードコート層の厚さについても特に制限されるものではないが、1〜50μmとするのが好ましく、5〜10μmとするのがより好ましい。ハードコート層の厚さが1μm未満となると、反射防止膜の基板に対する密着力を向上させることができない場合があり、一方、厚さが50μmを超えると、均一に形成するのが困難となる場合がある。
【0117】
(4)基板
本発明の反射防止膜に用いる基板の種類は特に制限されるものではないが、例えば、ガラス、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、トリアセチルセルロース樹脂(TAC)等からなる透明基板およびシリコンウエハを挙げることができる。これらの基板を含む反射防止膜とすることにより、カメラのレンズ部、テレビ(CRT)の画面表示部、液晶表示装置におけるカラーフィルターあるいは撮影素子等の広範な反射防止膜の利用分野において、優れた反射防止効果を得ることができる。
【0118】
本発明の光学材料用組成物を使用して得られる膜は、光学デバイス用の表面保護膜、位相差膜としても用いることができる。
【実施例】
【0119】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により制約されるものではない。
【0120】
以下のGPC測定は、Waters2695およびShodex製GPCカラムKF−805L(カラム3本を直結)を使用し、カラム温度40℃、試料濃度0.5質量%のテロラヒドロフラン溶液を50μl注入し、溶出溶媒としてテトラヒドロフランを毎分1mlの流量でフローさせ、RI検出装置(Waters2414)およびUV検出装置(Waters2996)にて試料ピークを検出することでおこなった。MおよびMは標準ポリスチレンを用いて作製した検量線を用いて計算した。
【0121】
<化合物I−12の合成>
電子グレード濃塩酸2000g、n-ブタノール12L、イオン交換水4000gの混合溶液を10℃に冷却し、これにビニルトリエトキシシラン840gとメチルトリエトキシシラン786gの混合溶液を20分間かけて滴下した。その後更に、25℃で18時間攪拌した。析出した結晶を濾取し、電子グレードメタノール300mLで洗浄した。洗浄後、結晶をテトラヒドロフラン4000mLに溶解し、攪拌しながら電子グレードメタノール4000mL、続いてイオン交換水8000mLを滴下した。析出した結晶を濾取、乾燥して白色固体の目的物(化合物I−12)105gを得た。1H−NMR測定(300 MHz, CDCl3)の結果、6.08〜5.88および0.28〜0.18 ppmに多重線が観測され、この積分比からビニル/メチル比=3.9/4.1と算出された。式(1)においては、xが3.9、yが4.1であり、x+y=8.0であった。なお、得られるシルセスキオキサン類は、一般式(Q−6)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物の混合物であった。
【0122】
<化合物I−13の合成>
電子グレード濃塩酸136g、n-ブタノール1L、イオン交換水395gの混合溶液を10℃に冷却し、これにビニルトリエトキシシラン78.3gとメチルトリエトキシシラン73.3gの混合溶液を15分間かけて滴下した。その後更に、25℃で18時 間攪拌した。析出した結晶を濾取し、電子グレードメタノール100mLで洗浄した。洗浄後、結晶をテトラヒドロフラン500mLに溶解し、攪拌しながら電子グレードメタノール200mL、続いてイオン交換水200mLを滴下した。析出した結晶を濾取、乾燥して白色固体の目的物(化合物I−k)7.8gを得た。1H−NMR測定(300 MHz, CDCl3)の結果、6.08〜5.88および0.28〜0.18 ppmに多重線が観測され、この積分比からビニル/メチル比=4.0/4.0と算出された。式(1)においては、xが4.0、yが4.0であり、x+y=8.0であった。
ガスクロマトグラフィーで分析した結果(分析条件:SE−30キャピラリカラム、注入温度160℃、100℃で2分間保持後8℃/分で260℃まで昇温、検出器FID)、得られたシルセスキオキサン類はビニル/メチル比が4/4の一般式(6)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物を主成分とする混合物(x/y(モル%):8/0(1%)、7/1(2%)、6/2(11%)、5/3(22%)、4/4(28%)、3/5(22%)、2/6(11%)、1/7(3%))であることがわかった。なお、得られるシルセスキオキサン類は、上記のように一般式(Q−6)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物の混合物であった。
また、かご状シルセスキオキサン化合物(A)の含有量は、全シルセスキオキサン類に対して、72モル%であった。
【0123】
<化合物I−14の合成>
電子グレード濃塩酸2000g、n-ブタノール12L、イオン交換水4000gの混合溶液を10℃に冷却し、これにビニルトリエトキシシラン944gとメチルトリエトキシシラン688gの混合溶液を20分間かけて滴下した。その後更に、25℃で18時間攪拌した。析出した結晶を濾取し、電子グレードメタノール300mLで洗浄した。洗浄後、結晶をテトラヒドロフラン1500mLに溶解し、攪拌しながら電子グレードメタノール1500mL、続いてイオン交換水1500mLを滴下した。析出した結晶を濾取、乾燥して白色固体の目的物(化合物I−14)108gを得た。1H−NMR測定(300 MHz, CDCl3)の結果、6.08〜5.88および0.28〜0.18 ppmに多重線が観測され、この積分比からビニル/メチル比=4.4/3.6と算出された。式(1)においては、xが4.4、yが3.6であり、x+y=8.0であった。なお、得られるシルセスキオキサン類は、一般式(Q−6)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物の混合物であった。
【0124】
<化合物I−25の合成>
電子グレード濃塩酸271g、n-ブタノール1238g、イオン交換水541gの混合溶液を10℃に冷却し、これにビニルトリエトキシシラン120gとプロピルトリメトキシシラン120gの混合溶液を10分間かけて滴下した。その後更に、25℃で18時間攪拌した。析出した結晶を濾取し、電子グレードメタノール100mLで洗浄した。洗浄後、結晶をテトラヒドロフラン200mLに溶解し、攪拌しながら電子グレードメタノール217mL、続いてイオン交換水344mLを滴下した。析出した結晶を濾取、乾燥して白色固体の目的物(化合物I−25)7gを得た。1H−NMR測定(300 MHz, CDCl3)の結果、6.13〜5.84、1.54〜1.43、1.26〜0.90および0.73〜0.60ppmに多重線が観測され、ビニル/プロピル比=4.0/4.0と算出された。式(1)においては、xが4.0、yが4.0であり、x+y=8.0であった。なお、得られるシルセスキオキサン類は、一般式(Q−6)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物の混合物であった。
【0125】
<化合物I−27の合成>
電子グレード濃塩酸800g、n-ブタノール3700g、イオン交換水1600gの混合溶液を10℃に冷却し、これにビニルトリエトキシシラン360gとエチルトリメトキシシラン284gの混合溶液を10分間かけて滴下した。その後更に、25℃で18時間攪拌した。析出した結晶を濾取し、電子グレードメタノール100mLで洗浄した。洗浄後、結晶をテトラヒドロフラン400mLに溶解し、攪拌しながら電子グレードメタノール400mL、続いてイオン交換水800mLを滴下した。析出した結晶を濾取、乾燥して白色固体の目的物(化合物I−27)31gを得た。1H−NMR測定(300 MHz, CDCl3) の結果、6.13〜5.85、1.03〜0.97および0.69〜0.60ppmに多重線が観測され、ビニル/エチル比=4.3/3.7と算出された。式(1)においては、xが4.3、yが3.7であり、x+y=8.0であった。なお、得られるシルセスキオキサン類は、一般式(Q−6)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物の混合物であった。
【0126】
上記製造例を参照して、上記表1に記載の他の化合物Iも同様に合成した。
なお、化合物I−4のシルセスキオキサン類は一般式(Q−2)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物の混合物であり、化合物I−31のシルセスキオキサン類は一般式(Q−7)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物の混合物であった。
また、化合物I−1〜化合物I−3のシルセスキオキサン類はそれぞれ一般式(Q−1)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物の混合物であり、化合物I−5のシルセスキオキサン類は一般式(Q−3)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物の混合物であった。
また、化合物I−6のシルセスキオキサン類は、一般式(Q−4)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物の混合物であった。
また、化合物I−7のシルセスキオキサン類は、一般式(Q−5)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物の混合物であった。
さらに、化合物I−8〜化合物I−11、および化合物I−15〜化合物I−30のシルセスキオキサン類は、一般式(Q−6)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物の混合物であった。
【0127】
以下に、上記で合成したシルセスキオキサン類(化合物I)を用いた重合体(樹脂A)の合成方法について詳述する。
【0128】
<樹脂A−13の合成>
上記で合成した化合物(I−13)5gを、クロロベンゼン132gに加えた。得られた溶液を窒素気流中、内温132℃で加熱還流しながら、重合開始剤として和光純薬工業社製V−601(10時間半減温度66℃)0.2gをクロロベンゼン80gに溶解させた溶液31mlを310分かけて滴下した。滴下終了後、更に1時間加熱還流した。反応液を室温まで冷却後、反応液に電子グレードメタノール340mL、イオン交換水34mLを加え、析出した固体を濾取し、電子グレードメタノール10mLで洗浄した。洗浄後、固体をテトラヒドロフラン40gに溶解し、攪拌しながらイオン交換水8gを滴下した。1時間攪拌した後、デカンテーションで上澄みを捨て、電子グレードメタノール20gを加えた。析出した固体を濾取、乾燥して白色固体の目的物(樹脂A−13)1.9gを得た。
得られた樹脂をGPCで分析すると、M=23.2×104、M=10.9×104であった。固形物中には未反応の化合物(I−13)は1質量%以下であり、分子量300万以上の成分は観測されなかった。重クロロホルムを測定溶媒として、1H−NMRスペクトルを測定したところ、メチル基由来のプロトンピーク(−0.5〜0.5ppm)と、ビニル基が重合して生成したアルキル基由来のプロトンピーク(0.5〜3.0ppm)と、残存したビニル基のプロトンピーク(4.9〜6.8ppm)が4.5/1.7/1.8の積分比率で観察された。該積分比率より、樹脂中の重合性基の含有量は、樹脂中のケイ素原子に結合した全有機基に対して22.5モル%であった。
【0129】
<樹脂A−12の合成>
上記で合成した化合物(I−12)80gを、クロロベンゼン2112gに加えた。得られた溶液を窒素気流中、内温120℃で加熱還流しながら、重合開始剤として和光純薬工業社製V−601(10時間半減温度66℃)500mgをクロロベンゼン200gに溶解させた溶液398mlを265.3分かけて滴下した。滴下終了後、反応液を室温まで冷却後、反応液に電子グレードメタノール5200g、イオン交換水520mLを加え、析出した固体を濾取し、電子グレードメタノール100mLで洗浄し減圧下12時間乾燥した。固体をテトラヒドロフラン825gに溶解し、攪拌しながらイオン交換水110g、電子グレードメタノール110gを滴下し、析出固体を濾取、乾燥した。同様の操作を3回繰り返し白色固体の目的物(樹脂A−12)31gを得た。
得られた樹脂をGPCで分析すると、M=19.3×104、M=7.85×104であった。固形物中には未反応の化合物(I−12)は1質量%以下であり、分子量300万以上の成分は観測されなかった。重クロロホルムを測定溶媒として、1H−NMRスペクトルを測定したところ、メチル基由来のプロトンピーク(−0.5〜0.5ppm)と、ビニル基が重合して生成したアルキル基由来のプロトンピーク(0.5〜3.0ppm)と、残存したビニル基のプロトンピーク(4.9〜6.8ppm)が3.5/2.8/1.7の積分比率で観察された。該積分比率より、樹脂中の重合性基の含有量は、樹脂中のケイ素原子に結合した全有機基に対して21.3モル%であった。
【0130】
<樹脂A−25の合成>
化合物(I−25)4gをクロロベンゼン106gに加えた。得られた溶液を窒素気流中、内温120℃で加熱還流しながら、重合開始剤として和光純薬工業社製V−601(10時間半減温度66℃)500mgをクロロベンゼン200gに溶解させた溶液15.95mlを200分かけて滴下した。滴下終了後、反応液を室温まで冷却後、反応液に電子グレードメタノール200ml、イオン交換水20mLを加え、析出した固体を濾取し、電子グレードメタノール50mLで洗浄し減圧下12時間乾燥した。固体をテトラヒドロフラン75gに溶解し、攪拌しながらイオン交換水9gを滴下し、析出固体を濾取、乾燥して白色固体の目的物(樹脂A−25)1.0gを得た。
得られた樹脂をGPCで分析すると、M=22.3×104、M=8.23×104であった。固形物中には未反応の化合物(I−25)は1質量%以下であり、分子量300万以上の成分は観測されなかった。重クロロホルムを測定溶媒として、H−NMRスペクトルを測定したところ、プロピル基由来のプロトンピークと、ビニル基が重合して生成したアルキル基由来のプロトンピーク(0.5〜3.0ppm)と、残存したビニル基のプロトンピーク(4.9〜6.8ppm)が4.0/2.6/1.4の積分比率で観察された。該積分比率より、樹脂中の重合性基の含有量は、樹脂中のケイ素原子に結合した全有機基に対して17.5モル%であった。
【0131】
上記の製造例を参照して、その他の樹脂A−1〜A−33を合成した。なお、それぞれの樹脂の合成に使用したシルセスキオキサンの種類および組成、ならびに、重量平均分子量および数平均分子量を表2に示す。
表中の略語は以下の通りである。
BA:酢酸ブチル
DPE:ジフェニルエーテル
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
TBB:t−ブチルベンゼン
CYHEX:シクロヘキサノン
CB:クロロベンゼン
THF:テトラヒドロフラン
V−601:和光純薬製Dimethyl 2,2'-azobis(2-methylpropionate)
V−65:和光純薬製2,2'-Azobis(2.4-dimethylvaleronitrile)
VR−110:和光純薬製2,2'-azobis(2,4,4-trimethylpentane)
V−40:和光純薬製1,1'-Azobis(cyclohexane-1-carbonitrile)
DCP:Dicumyl Peroxide
【0132】
【表2】

【0133】
<比較例樹脂R−1の合成>
1,3,5,7,9,11,13,15-Octaethenyl-pentacyclo[9.5.1.13,9.15,15.17,13]octasiloxane(カゴ構造:一般式(Q‐6)、8つの置換基Rが全てビニル基の化合物、x=8、y=0)(化合物I−R1)50gを電子グレード酢酸ブチル1320gに加えた。得られた溶液を窒素気流中120℃に加熱し、重合開始剤として和光純薬工業社製V−601(10時間半減温度66℃)0.47gと2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール113mgとを電子グレード酢酸ブチル235mlに溶解させた溶液50.4mlを80分かけて滴下した。滴下終了後、更に1時間120℃にて攪拌した。攪拌終了後、反応液に電子グレードメタノール3L、イオン交換水3Lを加え、析出した固体を濾取し、電子グレードメタノール100mLで洗浄した。洗浄後、固体をテトラヒドロフラン724gに溶解し、攪拌しながら電子グレードメタノール50g続いて水150gを滴下した。1時間攪拌した後、デカンテーションで上澄みを捨て、電子グレードメタノール200gを加えた。析出した固体を濾取、乾燥して白色固体の目的物(樹脂R−1)17.7gを得た。
得られた樹脂をGPCで分析すると、M=8.7×104、M=5.4×104であった。固形物中には未反応の化合物(I−R1)は2質量%以下であり、分子量300万以上の成分は観測されなかった。重クロロホルムを測定溶媒として、1H−NMRスペクトルを測定したところ、ビニル基が重合して生成したアルキル基由来のプロトンピーク(0.2〜3.0ppm)と、残存したビニル基のプロトンピーク(4.9〜6.8ppm)が2.6/5.4の積分比率で観察された。
【0134】
<比較例樹脂R−2の合成>
比較例樹脂R−1と同様にして、dodecavinyl-heptacyclo[13.9.1.13,13.15,11.17,21.19,19.117,23]dodecasiloxane(カゴ構造:一般式(Q‐1)、12つの置換基Rが全てビニル基の化合物、x=12、y=0)から比較例樹脂R−2(M=17.8×104、M=9.99×104)を合成した。
【0135】
<組成物の調製>
上記で得られた樹脂を下記表3に示すように溶媒に溶解させ、それぞれについて固形分濃度8質量%の溶液を調製した。得られた溶液を0.2μmのテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過した後、スピンコート法で4インチシリコンウエハ上に塗布し、ホットプレート上にて100℃で2分間、基板を予備乾燥し、膜厚400nmの塗布膜を形成させた。
【0136】
得られた塗布膜を以下の次の何れかの方法で硬化を実施した。
(1)加熱
大気下、ホットプレートで220℃、5分間加熱した。
(2)UV照射
ウシオ電機社製誘電体バリア放電方式エキシマランプUER20−172を用い、窒素気流下、220℃のホットプレート上で172nmの波長光100mJ/cm2を5分間照射した。
【0137】
得られた硬化膜について下記の方法で評価した。結果を表3に示す。
表3中において、界面活性剤の含有量は、組成物(塗布液)全量に対する質量%を表す。一方、密着組成剤の含有量は、組成物(塗布液)中の全固形物に対する重量%で表される。なお、界面活性剤としては、BYK307(ビックケミー社製)、PF6320(OMNOVA社製)を用いた。密着促進剤としては、GPTMS:3−グリシジロキシプロピルトリメトキシシラン、MPMDMS:1−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランを用いた。
【0138】
<塗布面状>
目視によって、ストリエーションやブツなどの面状荒れの発生が確認されたものを×、確認されないものを○とした。
【0139】
<屈折率>
ウーラム社製分光エリプソメーター(VASE)を用いてシリコンウエハ上にて、波長633nmで測定した値を用いた。
【0140】
<耐熱性>
大気下ホットプレートで220℃下にて2時間加熱を行い、試験前後の屈折率変化が0.002未満の場合を◎、0.002以上0.004未満の場合を○、0.004以上0.006未満の場合を△、0.006以上の場合を×とした。なお、実用上の観点から、×が含まれていないことが必要である。
【0141】
<密着性>
ダイヤモンドペンにて膜表面に3mm角のマス目を5×5個けがき、3M製スコッチテープ(No.610)を全てのマス目をカバーし、かつ気泡が入らないように留意して貼り付けた。その後、垂直にはがしSi基板に対する密着性テストを実施した。25マス中1マスでも剥がれたものを×、剥がれが無いものを○と表記した。
【0142】
【表3】

【0143】
表3の結果より、本発明の光学材料用組成物を使用した場合、加熱、UV照射などの硬化方法により、屈折率が低く、高温条件下における屈折率の経時安定性に優れ、かつ、密着性に優れる膜が得られることが確認された。特に、実施例10〜14において、より優れた低屈折率性および耐熱性を示す膜が得られた。
一方、式(1)を満たさないシルセスキオキサン類の重合体を使用した場合、得られた膜の屈折率は比較的高く、また、耐熱性および密着性に関しても劣っていた。
【0144】
<耐湿性>
温度110℃、湿度95%にて12時間放置し、試験前後の屈折率変化を測定した。実施例9、10、11、12、13、14、15、および16はすべて屈折率変化が0.01未満でOKであったが、比較例1および2は屈折率変化が0.01以上でありNGであった。
【0145】
<密度>
密度に関して以下の評価も行った。
X線反射率法(XRR)を用いて、得られた硬化膜の膜密度を測定した。実施例12、13、14、および15は、それぞれ0.87g/cm3、0.92g/cm3、0.98g/cm3、1.15g/cm3であり、比較例1および2はそれぞれ1.35g/cm3、1.29g/cm3であった。
【0146】
以下に、空孔形成剤を使用した場合の実施例について詳述する。
【0147】
<樹脂B−1の合成>
窒素気流下、PGMEA4gを3つ口フラスコに入れ、これを80℃に加熱した。次に、この反応液に、1−エチル−シクロペンチルメタクリレート10g、開始剤V−601(和光純薬製)0.379gをPGMEA36gに溶解させた溶液を2時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに80℃で1時間反応させた。反応液を放冷後、メタノール500mlに10分かけて滴下し、析出した粉体をろ取、乾燥して、樹脂(B−1)5,83gを得た。
得られた樹脂をGPCで分析すると、M=16200、M=9800であった。熱重量分析(TA Instruments社SDT Q600を使用、窒素流量100ml/min, 20℃/minで昇温)の結果、50%重量減少温度が228℃であった。
上記の製造例を参照して、樹脂B−2〜B−4を合成した。
【0148】
【化8】

【0149】
<樹脂B−5の合成>
シクロヘキサンジメタノール3.6g、ブタンジオールジビニルエーテル3.6gをテトラヒドロフラン5mLに溶解し、そこにパラトルエンスルホン酸ピリジン塩100mgを加え、室温で4時間撹拌した。撹拌終了後、トリエチルアミン0.5mLを加え、メタノール100mLを反応溶液に加え、30分間撹拌した。撹拌終了後、2層に分かれた上層を除去し、下層を減圧乾燥することで、透明粘性液体の樹脂(B−5)2.8gを得た。得られた樹脂をGPCで分析すると、M=14000、M=3500であった。熱重量分析(TA Instruments社SDT Q600を使用、窒素流量100ml/min, 20℃/minで昇温)の結果、50%重量減少温度が241℃であった。
上記の製造例を参照して、ポリアセタールB−6〜B−8を合成した。
【0150】
【化9】

【0151】
上記で合成した樹脂(B−1)〜(B−8)、及び、アルドリッチ社製のポリアルキレングリコール(B−9)〜(B−13)のポリスチレン換算数平均分子量、および熱重量分析における50%重量減少温度を表4に示す。
【0152】
【表4】

【0153】
<組成物の調製>
上記で得られた樹脂および空孔形成剤を下記表5に示すように溶媒に溶解させ、それぞれについて固形分濃度8質量%の溶液を調製した。得られた溶液を0.2μmのテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過した後、スピンコート法で4インチシリコンウエハ上に塗布し、ホットプレート上にて100℃で2分間、基板を予備乾燥し、膜厚400nmの塗布膜を形成させた。
【0154】
得られた塗布膜を以下の次の何れかの方法で硬化を実施した。
(1)加熱
大気下、ホットプレートで220℃、5分間加熱した。
(2)UV照射
ウシオ電機社製誘電体バリア放電方式エキシマランプUER20−172を用い、窒素気流下、220℃のホットプレート上で172nmの波長光100mJ/cm2を5分間照射した。
【0155】
得られた硬化膜について下記の方法で評価した。結果を表5に示す。
表5中において、界面活性剤の含有量は、組成物(塗布液)全量に対する質量%を表す。一方、密着促進剤および空孔形成剤の含有量は、組成物(塗布液)中の全固形物に対する重量%で表される。なお、界面活性剤としては、PF6320(OMNOVA社製)を用いた。密着促進剤としては、GPTMS:3−グリシジロキシプロピルトリメトキシシランを用いた。
【0156】
<硬膜時の膜減り率>
ウーラム社製分光エリプソメーター(VASE)を用いて予備乾燥後の膜厚および、硬膜後の膜厚を測定し、下式により算出した。
膜減り率(%)=(予備乾燥後膜厚−硬膜後膜厚)/予備乾燥後膜厚×100
膜減り率が2.0%未満の場合を○、2.0%以上の場合を×とした。
【0157】
<塗布面状>
目視によって、ストリエーションやブツなどの面状荒れの発生が確認されたものを×、確認されないものを○とした。
【0158】
【表5】

【0159】
上記結果から分かるように、本発明に係る光学材料用組成物にさらに空孔形成剤を使用した場合、より低い屈折率を示す膜が得られることが分かった。なお、得られる膜においては、硬化時における膜べりが少なく、実用上非常に優れていることが分かった。
【0160】
以下に、本発明に係る光学材料組成物より得られる膜を反射防止膜に応用した実施例について詳述する。
【0161】
<反射率>
反射率は分光光度計(日本分光(株)製)を用いて、入射角5°における450〜650nmの鏡面平均反射率(%)を測定した。
【0162】
〔反射防止膜の製造1〕
実施例12、実施例13、実施例14、および比較例1に記載の組成物の固形分濃度を4質量%に変更した溶液を調製した。得られた溶液を0.2μmのテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過した後、スピンコート法で厚さ1mmのスライドガラス上に塗布し、ホットプレート上にて100℃で2分間、基板を予備乾燥した。さらに、ホットプレート上にて220℃で5分間加熱し、膜厚200nmの塗布膜を形成させた。
上記で調製した実施例12、実施例13、実施例14、および比較例1に記載の組成物を使用した場合の反射率を測定した結果、それぞれ得られた反射率(%)は0.5%、0.5%、0.6%、および3.5%であった。
【0163】
〔反射防止膜の製造2〕
ラサ工業社製 RASA TIをシリコンウエハ上にスピンコートして、350℃で焼成することにより、膜厚60nm、屈折率2.0の膜を形成した。この上に、実施例12の組成物を濃度調整して、焼成後の膜厚が膜厚20nmになるように塗布し、ホットプレート上にて100℃で2分間、ついで220℃にて5分間基板を加熱して多層型の反射防止膜を形成した。
比較例として実施例12の組成物の代わりに比較例1の組成物を用いて、同様の操作を行い、多層型の反射防止膜を形成した。
反射率を測定した結果、実施例12の組成物を用いると1.8%、比較例1の組成物を用いると4.4%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記平均組成式(1)
(R1SiO1.5x(R2SiO1.5y 式(1)
(式(1)中、R1は、重合性基を表す。R2は、非重合性基を表す。xは2.0〜14.0の数を表し、yは2.0〜14.0の数を表す。ただし、x+y=8.0〜16.0を満たす。なお、複数のR1およびR2は、同一であっても異なっていてもよい。)で表され、1種または2種以上のかご状シルセスキオキサン化合物から構成されるシルセスキオキサン類、より得られる重合体を含有する光学材料用組成物。
【請求項2】
前記かご状シルセスキオキサン化合物が、下記式(2)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物である、請求項1に記載の光学材料用組成物。
(RSiO1.5a 式(2)
(式(2)中、Rは、それぞれ独立に、重合性基または非重合性基を表す。aは8、10、12、14または16の整数を表す。ただし、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項3】
前記シルセスキオキサン類が、下記一般式(Q−1)〜一般式(Q−7)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物からなる群から選ばれる1種または複数種のかご状シルセスキオキサン化合物から構成される、請求項2に記載の光学材料用組成物。
【化1】


【化2】


(一般式(Q−1)〜一般式(Q−7)中、Rは、それぞれ独立に、重合性基または非重合性基を表す。)
【請求項4】
前記シルセスキオキサン類が、式(1)においてxが2.0≦x≦6.0の範囲の数を表し、yが2.0≦y≦6.0の範囲の数を表し、x+y=8を満たし、上記一般式(Q−6)で表されるかご状シルセスキオキサン化合物より構成されるシルセスキオキサン類である、請求項3に記載の光学材料用組成物。
【請求項5】
前記かご状シルセスキオキサン化合物として、少なくとも3つの重合性基と、少なくとも3つの非重合性基とを有するかご状シルセスキオキサン化合物(A)を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の光学材料用組成物。
【請求項6】
前記化合物(A)が、シルセスキオキサン類全量に対して、10モル%以上含まれる、請求項5に記載の光学材料用組成物。
【請求項7】
前記重合体の重量平均分子量が1万〜50万である、請求項1〜6のいずれかに記載の光学材料用組成物。
【請求項8】
さらに空孔形成剤を含有する、請求項1〜7のいずれかに記載の光学材料用組成物。
【請求項9】
前記空孔形成剤が、ポリスチレン、ポリアルキレンオキシド、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリカプロラクタム、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリアクリル酸、ポリメタクリレート、ポリメタクリル酸、ポリアセタール、およびポリペルオキシドからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項8に記載の光学材料用組成物。
【請求項10】
前記空孔形成剤が、熱重量分析(窒素気流下、昇温速度20℃/min)において50%重量減少温度が180〜350℃を示す空孔形成剤である、請求項8または9に記載の光学材料用組成物。
【請求項11】
前記空孔形成剤のポリスチレン換算数平均分子量が100〜50000である、請求項8〜10のいずれかに記載の光学材料用組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の光学材料用組成物を用いて得られる膜。
【請求項13】
屈折率が1.34以下である請求項12に記載の膜。
【請求項14】
膜密度が0.7〜1.25g/cm3である、請求項12または13に記載の膜。
【請求項15】
反射防止膜として用いられる請求項12〜14のいずれかに記載の膜。
【請求項16】
請求項12〜15のいずれかに記載の膜を有する光学デバイス。

【公開番号】特開2011−84672(P2011−84672A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239462(P2009−239462)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】