光学素子の製造方法および光学素子
【課題】 切削加工により光学素子あるいは金型を製作する際、隣接する2つの加工面21の境界部22に段差を形成可能な光学素子の製造方法および光学素子を提供すること。
【解決手段】 回転軸11および回転軸11の軸線方向に交差する方向に突出した刃部12を備えたフライカッター10を回転軸10の軸線周りに回転させながら、切り込み方向および送り方向にフライカッター10と光学素子形成用の基材20とを相対移動させて、素子面を形成するための加工面21を形成する。加工面21の境界部22では、境界部22に対して回転軸11を直交する方向に向かせて隣接する2つの加工面21のうち、低い方の加工面21側を切削する。
【解決手段】 回転軸11および回転軸11の軸線方向に交差する方向に突出した刃部12を備えたフライカッター10を回転軸10の軸線周りに回転させながら、切り込み方向および送り方向にフライカッター10と光学素子形成用の基材20とを相対移動させて、素子面を形成するための加工面21を形成する。加工面21の境界部22では、境界部22に対して回転軸11を直交する方向に向かせて隣接する2つの加工面21のうち、低い方の加工面21側を切削する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子を構成する光学材料、あるいは光学素子を成形するための金型を構成する金型材料などの光学素子形成用の基材に切削加工あるいは研削加工を施して光学素子を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フライカット方式の超精密加工機については、光学素子を構成する光学材料、あるいは光学素子を成形するための金型を構成する金型材料などの加工にも適用が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなフライカット方式の超精密加工機では、図14に示すように、切削工具として、回転軸11から軸線方向に交差する方向に突出した刃部12を備えたフライカッター10が用いられ、回転軸11を軸線周りに回転させながら、軸線方向と交差する方向の切り込み方向および送り方向に切削工具と基材20とを相対移動させて加工面21を形成する。
【特許文献1】特開2004−219494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、光学素子として、図15(a)に示すように、隣接する2つの加工面21の境界部22が段差になっている光学素子が求められており、このような光学素子をフライカット方式で製造すると、図15(a)において円Aで囲った領域を図15(b)に拡大して示すように、加工面21の境界部22に、フライカッター10の刃先の回転半径に相当する丸みをもった形状、すなわち、隅がだれた形状になってしまう。例えば、段差の高さを数10μmに形成したい場合、一般的なフライカッター10の回転半径は数mmであるため、数100μmのぼやけが生じてしまう。このような形状は、通常の機械部品であれば、大きな問題点とならない場合でも、光学素子の場合、境界部22に入射した光が損失となってしまうので好ましくない。このような問題は、回転軸から円盤状あるいは円柱状の砥石が刃部として突出した研削工具による加工でも同様に発生する。
【0005】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、切削加工により光学素子あるいは金型を製作する際、隣接する2つの加工面の境界部に段差を形成可能な光学素子の製造方法、および光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明では、隣接する素子面同士の境界部に段差が形成された光学素子の製造方法において、回転軸および該回転軸から側方に向けて突出した刃部を備えた工具を前記回転軸の軸線周りに回転させながら切り込み方向および送り方向に前記工具と光学素子形成用の基材とを相対移動させて、前記素子面を形成するための加工面を形成するとともに、前記境界部では、当該境界部に対して前記回転軸を直交する方向に向かせて隣接する2つの加工面のうち、低い方の加工面側を切削あるいは研削することを特徴とする。
【0007】
本発明では、加工面を加工する際には、工具と基材とを相対移動させて基材を切削あるいは研削するが、境界部を形成する際には、工具の回転軸を境界部に対して直交する方向に向かせる。このため、境界部の形状を刃部の形状によって高い精度で制御でき、段差については側面壁が直立した形状に形成することができる。それ故、光学素子の場合、段差を形成でき、境界領域に入射した光が損失や迷光を発生することを回避できる。
【0008】
本発明において、前記工具は、フライカッターである。この場合、前記フライカッターは、例えば、前記刃部を送り方向からみたとき刃先が矩形の平フライカッターである。このように構成すると、刃部の直線的な側面で境界部を加工できるので、段部の側面壁をほぼ垂直に加工できる。また、本発明において、前記フライカッターとしては、前記刃部を送り方向からみたとき刃先が円形の外丸フライカッターを用いてもよい。
【0009】
本発明は、前記工具としては、前記回転軸から円盤状あるいは円柱状の砥石が前記刃部として突出した研削工具を用いて加工する場合にも適用できる。
【0010】
本発明は、前記工具と前記基材との相対位置を前記切り込み方向で連続的に変化させて前記加工面を曲面に加工する場合にも適用することができる。
【0011】
本発明において、前記加工面が周方向に複数、配列されている場合、当該複数の加工面を形成する際、前記送り方向を前記基材上の所定位置から放射状に設定することが好ましい。このように構成すると、加工面を切削加工する際には、境界部に対して回転軸が交差する方向に向き、境界部付近を切削する際には、境界部に対して回転軸が直交する方向に向き、かつ、送り方向は境界部と平行となる。従って、境界部の形状を刃部の形状によって高い精度で制御できる。また、中心領域は多重切削されることになるので、平滑面に仕上げることができ、かかる領域は、光学素子では光軸付近であるので、光学素子の特性を向上することができる。
【0012】
本発明において、前記複数の加工面は周方向に配列され、前記複数の加工面を形成する際、前記送り方向を前記基材上の所定位置を中心とする円弧状に設定してもよい。
【0013】
本発明において、前記工具による加工は、円柱座標系で表された条件により制御されることが好ましい。このように構成すると、直交座標系よりも加工の際のプログラミングが容易である。
【0014】
本発明において、前記基材は、前記光学素子を構成する光学材料、あるいは前記光学素子を成形するための金型材料である。但し、段差の形状などに対して高い精度が求められる場合には、光学素子を構成する光学材料を基材として切削し、光学素子を製造することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、加工面を加工する際には、工具と基材とを相対移動させて基材を切削するが、境界部を形成する際には、工具の回転軸を境界部に対して直交する方向に向かせる。このため、境界部の形状を刃部の形状によって高い精度で制御でき、段差については側面壁が直立した形状に形成することができる。それ故、光学素子の場合、段差を形成でき、境界領域に入射した光が損失や迷光を発生することを回避できる。刃先が矩形の平フライカッターや同等形状の研削工具の場合、刃先幅を小さくするほど光の損失が少なくなり、刃先が円形の外丸フライカッターや同等形状の研削工具の場合、刃先Rを小さくするほど光の損失が少なくなる。刃先が矩形の工具の刃先幅は20μm以下が好ましく、10μm以下であればさらに好ましい。刃先が円形の工具の場合、刃先Rは0.2mm以下が好ましく、0.1mm以下であればさらに好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
[実施の形態1]
図1(a)、(b)はそれぞれ、本発明が適用される光学素子の説明図およびこの光学素子の各加工面(素子面)同士の境界部域に形成された段差の断面図である。図2は平フライカッターの説明図である。図3は、本発明の実施の形態1に係る加工方法(光学素子の製造方法)を示す説明図である。図4は、本形態の加工方法で用いた円柱座標系の説明図である。図5は、本形態の加工方法において境界部を加工する際の説明図である。図6は、図5に示す方法で加工しているときの断面図である。
【0018】
本形態では、回転軸から側方に向けて刃部が突出して外周加工を行う工具としてフライカッターを用い、このフライカッターにより光学素子用の基材を切削して、図1(a)に示すように、円形の凹曲面内に4つの加工面21(素子面)が周方向に配列され、かつ、4つの加工面21の境界部22が1点に交差している光学素子(レンズ)を製造する例を説明する。
【0019】
ここで、4つの加工面21(分割レンズ面/素子面)は、各々異なる曲面で形成され、図1(b)に示すように、境界部22は段差になっている。
【0020】
このような光学素子を製造するにあたって、本形態では、図2に示すフライカッター10(平フライカッター)で樹脂などの光学材料をレンズ形状に切削する。フライカッター10は、回転軸11からその軸線に直交する方向に矩形の刃部12が突出しており、高速回転させると円筒面の軌跡を描く。
【0021】
このようなフライカッター10を備えた加工機は、図3に矢印X、Y、Zで示す3軸の送り機構を備え、かつ、矢印A、B、Cで示す回転機構を有している。以下、矢印A、B、Cで示すX軸周り、Y軸周り、Z軸周りの回転機構をA軸、B軸、C軸と称する。なお、本形態の加工は、フライカッター10と基材20と相対移動させればよいので、矢印X、Y、Zで示す送り機構、および矢印A、B、Cで示す回転機構はそれぞれ、フライカッター10側あるいは基材20側のうちの最適な方に構成されている。
【0022】
このような加工機で基材20に加工を行うには、まず、フライカッター10を矢印Aで示すように軸線周りに回転させながら、Y軸(切り込み方向)による基材20への切り込みを行う。また、Z軸(送り方向)による送りにより、加工面21を切削していく。その際、Y軸、Z軸を同時に動かすことで、所定の曲面を備えた各分割レンズ面を作成する。
【0023】
本形態では、境界部22の交点を原点とし、送り方向を基材20上の放射状に設定して基材20を切削した後、送り方向の角度位置を順次、切り換えていく。
【0024】
本形態の加工機の加工プログラムでは、座標系として、図4に示すように、境界部22の交点を原点とし、光学素子の中心(光軸)を基準軸とした円柱座標系(Rw、θw、Yw)を用いる。従って、加工点は、θw一定の条件でRwに対応するYwを考える。
【0025】
このような制御の下、加工面21に対する1回の送りが終了した後、Y軸移動により、フライカッター10を基材20から逃がした後、B軸回転によるステップオーバを行い、上記の切削を繰り返す。
【0026】
ここで、面粗さの上限許容値をHmax、交点からの最大半径をrmax、θw方向の最大傾斜角をφmax(>0)とすると、B軸回転ピッチBp「rad」は以下の式
Bp<(Hmax)/((rmax)*Tan(φmax)) ・・式(a)
により定める。
【0027】
このような加工方法では、加工面21を切削加工する際には、境界部22に対して回転軸11が交差する方向の向きとし、境界部22付近を切削する際には、図5に示すように、境界部22に対して回転軸11が直交する方向の向きとし、かつ、Z軸(送り方向)は境界部22と平行とする。この状態で、隣接する2つの加工面21のうち、低い方の加工面21側を切削する。その際、段差とフライカッター10とが干渉しないように、すなわち、段差を形成すべき領域に切削が施されないように、図6に示すように、段差の隅とフライカッター10の角を合わせたB軸角度またはX軸位置の座標を設定する。
【0028】
このように本形態では、加工面21を加工する際には、フライカッター10と基材20とを切り込み方向および送り方向に相対移動させて基材20を切削するが、境界部22を加工する際には、回転軸11を直交する方向に向かせ、かつ、Z軸(送り方向)を境界部22と平行に設定し、隣接する2つの加工面21のうち、低い方の加工面21側を切削する。このため、境界部22の形状は、刃部12の形状と同一となり、高い精度で制御できるので、段差については側面壁が直立した形状に形成することができる。それ故、光学素子では、段差を、隅がだれていない、段差面がほぼ直立した鋭い形状をもって形成できるので、境界部22の幅が狭い。それ故、境界部22に入射した光が損失や迷光を発生することを回避できる。
【0029】
また、本形態では、境界部22の交点を中心に送り方向を基材20上の放射状に設定して基材20を切削するため、光学素子の中心領域は何度も切削され、平滑面となる。ここで、境界部22の交点付近は、光学素子の光軸中心であり、この領域の面精度が高いので、光学特性の高い光学素子を製造することができる。
【0030】
[実施の形態2]
図7は、本発明の実施の形態2に係る加工方法(光学素子の製造方法)を示す説明図である。図8は、本形態の加工方法において回転軸11を傾けた様子を示す説明図である。
【0031】
実施の形態1に係る方法では、θw方向の傾斜角φmaxが大きくなると面粗さHmaxが大きくなる傾向にあるので、このような場合には、図7を参照して以下に説明する方法を採用すればよい。なお、本形態でも、実施の形態1と同様、図2に示すフライカッター10を使用する。また、本形態でも、実施の形態1と同様、図7に示すように、矢印X、Y、Zで示す3軸の送り機構を備え、かつ、矢印A、B、Cで示す回転機構を有している。
【0032】
本形態では、面粗さの許容上限値をHmax、θw方向の断面曲線の最小曲率半径ρmin(>0)としたとき、フライカッター10の刃幅Lとして以下の条件
L<2*√(2*(Hmax)*(ρmin)−(Hmax)2) ・・式(b)
を満たすものを選定する。また、本形態でも、実施の形態1と同様、境界部22の交点を原点とし、送り方向を基材20上の放射状に設定して基材20を研削した後、送り方向の角度位置を順次、切り換えておく。さらに、図7に示すように、基材20とフライカッター10とをX軸を斜めに傾けた状態で配置する。
【0033】
そして、Y軸移動による切り込みを行うとともに、Z軸移動による送りを行う。そのとき、X軸、Y軸、Z軸、C軸を同時に動かすことで、曲面からなる加工面21を作成する。
【0034】
ここで、C軸は、図8に示すように、加工形状のθw方向の傾斜角に合わせ回転させる。X軸はC軸回転による刃先ズレΔXの補正に用いる。また、Y軸はC軸回転による刃先ズレΔYの補正も行う。
【0035】
このようにして加工面21を形成した後、Y軸移動により、フライカッター10を基材20から逃がした後、B軸回転によるステップオーバを行う。
【0036】
また、境界部22付近では、境界部22に対して回転軸11を直交する方向に向かせ、かつ、Z軸(送り方向)を境界部22と平行に設定し、隣接する2つの加工面21のうち、低い方の加工面21側を切削する。
【0037】
以上の繰り返しにより、放射状の4つの加工面21を形成するとともに、放射状に延びた4つの境界部22(段差)の形成を行う。
【0038】
このように本形態でも、実施の形態1と同様、境界部22を加工する際には、回転軸11を直交する方向に向かせ、かつ、Z軸(送り方向)を境界部22と平行に設定し、隣接する2つの加工面21のうち、低い方の加工面21側を切削する。このため、境界部22の形状は、刃部12の形状と同一となり、高い精度で制御できるので、段差については側面壁が直立した形状に形成することができる。
【0039】
また、本形態によれば、B軸回転ピッチと面粗さの関与は小さく、面粗さは、前記した式(b)で表される。なお、B軸回転ピッチは刃幅Lを最大限活用できる値を取れば良い。
【0040】
[実施の形態3]
境界部22付近の形状誤差が許容される場合、切削工具としては、図9に示すように、送り方向からみたとき刃部12の形状が円形のフライカッター10(外丸フライカッター)を用いてもよい。フライカッター10は円弧状の刃先を持ち、高速回転させると円環体の軌跡を描く。このような丸フライカッター10を用いる場合も、フライカッター10と基材20とは、図3に示すように配置する。
【0041】
ここで、境界部22のぼやけの幅の許容限界値をdmax、段差の最大値をtmaxとすればフライカッター10の切れ刃曲率半径Rcとして下式
Rc<((dmax)2+(tmax)2)/(2*(tmax))・・・式(c)
を満たすものを選定すれば良い。
【0042】
このような加工機で基材20に加工を行うには、まず、フライカッター10を矢印Aで示すように回転させながら、Y軸(切り込み方向)への移動により切り込みを行う。また、Z軸(送り方向)への移動による送りにより、加工面21を切削していく。その際、Y軸、Z軸を同時に動かすことで、所定の曲面を備えた各分割レンズ面を作成する。
【0043】
また、加工点の法線とフライカッター10が描く円環体上の点の法線が一致するように図9に示すように、工作物座標系における工具基準点の座標(X、Y、Z)を指示する。その際、X軸は上記による刃先ズレΔXの補正に用いる。また、Y軸は刃先ズレΔYの補正も行う。
【0044】
このようにして加工面21を形成した後、Y軸移動により、フライカッター10を基材20から逃がした後、B軸回転によるステップオーバを行う。ここで、加工面21が球面のときは、B軸回転ピッチBp[Bp(rad)]は以下の式により定める。
【0045】
面粗さの上限許容値をHmax、交点からの最大半径をrmax、フライカッター10の切れ刃曲率半径をRc、球面半径をρとすると、B軸回転ピッチBpは、下式
Bp<(2/(rmax))*√(2*(Hmax)/(1/(ρ−Rc)+1/Rc))
・・・式(d)
で示す値に設定される。
【0046】
また、本形態でも、実施の形態1、2と同様、境界部22付近では、境界部22に対して回転軸11を直交する方向に向かせ、かつ、Z軸(送り方向)を境界部22と平行に設定し、隣接する2つの加工面21のうち、低い方の加工面21側を切削する。
【0047】
以上の繰り返しにより、放射状の4つの加工面21を形成するとともに、放射状に延びた4つの境界部22(段差)の形成を行う。
【0048】
このように本形態でも、実施の形態1と同様、境界部22を加工する際には、回転軸11を直交する方向に向かせ、かつ、Z軸(送り方向)を境界部22と平行に設定し、隣接する2つの加工面21のうち、低い方の加工面21側を切削する。このため、境界部22の形状は、刃部12の形状と同一となり、高い精度で制御できるので、段差につく円弧を無視できる程度の幅に形成することができる。それ故、光学素子の場合、境界部22に入射した光が損失や迷光を発生することを回避できる。
【0049】
また、本形態ではC軸回転が不要であり、かつ、面粗さも実施の形態1より良好な面が得られる。
【0050】
[実施の形態4]
図10は、本発明の実施の形態4に係る加工方法(光学素子の製造方法)を示す説明図である。
【0051】
実施の形態1に対して、以下の変更を行えば、図10に示すような、境界部22の交点を中心とした円弧状の切削が可能である。すなわち、B軸回転により始点におけるフライカッター10の刃部12を境界部22に合わせる。ここで、段差における低い面から加工面21に対する切削加工を始める場合には、境界部22に対して回転軸11を直交する方向に向かせ、段差の隅とフライカッター10の刃部12の角部とが合うようにB軸角度またはX軸位置の座標を指示する。
【0052】
次に、Y軸移動による切込みを行うとともに、B軸回転による送りを行う。その結果、送り方向は、基材20上の所定位置を中心とする円弧状に設定されるので、ツールマークは円弧状に形成される。その際、Y軸、Z軸を同時に動かすことで加工面21を曲面とする。なお、本形態でも、座標系として境界部22の交点を原点、光学素子の中心位置を基準軸とした円柱座標系(Rw、θw、Yw)を考える。従って、加工点はRw一定の条件でθwに対応するYwを考える。
【0053】
次に、B軸回転により終点においては、フライカッター10の刃部12を境界部22に合わせる。ここで、連続した面形状が段差の低い方で終わる場合、段差の隅とフライカッター10の角を合わせたB軸角度またはX軸位置の座標を指示する。
【0054】
このようにして1つの加工面21に対する加工が終了した後、Y軸移動により、フライカッター10を基材20から逃がした後、B軸回転によるステップオーバを行い、上記の切削を繰り返す。
【0055】
このように本形態でも、加工面21を加工する際には、フライカッター10と基材20とを相対移動させて基材20を切削するが、境界部22を形成する際には、フライカッター10の回転軸11を境界部22に対して直交する方向に向かせる。このため、境界部22の形状を刃部12の形状によって高い精度で制御でき、段差については側面壁がほぼ直立した形状に形成することができる。それ故、光学素子の場合、段差を、隅がだれていない、段差面がほぼ直立した鋭い形状をもって形成でき、境界部22に入射した光が損失や迷光を発生することを回避できる。
【0056】
[その他の加工方法]
なお、上記形態では、図1(a)に示すように、円形の凹曲面内に4つの加工面21(素子面)が周方向に配列され、かつ、4つの加工面21の境界部22が1点に交差している光学素子(レンズ)を製造する例を説明したが、図11(a)に示すように、円板の一方の面に、平坦な加工面21(素子面)が周方向に多数、配列され、かつ、多数の加工面21の境界部22が1点に交差している光学素子(透過屈折型偏向板)を製造する場合に本発明を適用してもよい。また、図11(a)において段差を設けているが、境界部となる段差をなくした傾斜面で形成しても良いし、さらには、図11(b)に示すように、加工面21が球面のように加工する場合に適用してもよい。また、図15を参照して説明したような形状した光学素子(レンズ)に適用してもよい。
【0057】
また、上記形態では、フライカッター10で樹脂などの光学材料をレンズ形状に切削する例を説明したが、フライカッター10で金型用の金属材料を切削して、光学素子を成形するための金型の製作に本発明を適用してもよい。
【0058】
さらに、上記形態では、フライカッター10として、長方形の刃部12を備えたものを用いたが、求められる段差の形状によっては、図12に示すように、台形の刃部12を備えたフライカッター10を用いてもよい。
【0059】
さらにまた、本発明は、フライカッター10に代えて、図13に示すように、回転軸11′から円盤状あるいは円柱状の砥石12′が刃部として突出した研削工具10′を用いた研削加工に適用してもよい。
【0060】
ここで、刃先が矩形の平フライカッターや同等形状の研削工具の場合、刃先幅を小さくするほど光の損失が少なくなり、刃先が円形の外丸フライカッターや同等形状の研削工具の場合、刃先Rを小さくするほど光の損失が少なくなる。刃先が矩形の工具の刃先幅は20μm以下が好ましく、10μm以下であればさらに好ましい。刃先が円形の工具の場合、刃先Rは0.2mm以下が好ましく、0.1mm以下であればさらに好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】(a)、(b)はそれぞれ、本発明が適用される光学素子の説明図およびこの光学素子の各加工面(素子面)同士の境界部域に形成された段差の断面図である。
【図2】平フライカッターの説明図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る加工方法(光学素子の製造方法)を示す説明図である。
【図4】円柱座標系の説明図である。
【図5】図3に示す加工方法において境界部を加工する際の説明図である。
【図6】図5に示す方法で加工しているときの断面図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る加工方法(光学素子の製造方法)を示す説明図である。
【図8】図7に示す加工方法において回転軸を傾けた様子を示す説明図である。
【図9】本発明の実施の形態3に係る加工方法(光学素子の製造方法)を示す説明図である。
【図10】本発明の実施の形態4に係る加工方法(光学素子の製造方法)を示す説明図である。
【図11】加工面の境界領域が段差になっている別の光学素子の説明図である。
【図12】別の平フライカッターの説明図である。
【図13】本発明に係る光学素子の製造方法において、工具として研削工具を用いた場合の説明図である。
【図14】フライカット方式の説明図である。
【図15】従来の加工方法(光学素子の製造方法)の問題点を示す説明図である。
【符号の説明】
【0062】
10 フライカッター
10′ 研削工具
11、11′ 回転軸
12 刃部
12′ 砥石(刃部)
20 基材
21 加工面
22 境界部
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子を構成する光学材料、あるいは光学素子を成形するための金型を構成する金型材料などの光学素子形成用の基材に切削加工あるいは研削加工を施して光学素子を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フライカット方式の超精密加工機については、光学素子を構成する光学材料、あるいは光学素子を成形するための金型を構成する金型材料などの加工にも適用が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなフライカット方式の超精密加工機では、図14に示すように、切削工具として、回転軸11から軸線方向に交差する方向に突出した刃部12を備えたフライカッター10が用いられ、回転軸11を軸線周りに回転させながら、軸線方向と交差する方向の切り込み方向および送り方向に切削工具と基材20とを相対移動させて加工面21を形成する。
【特許文献1】特開2004−219494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、光学素子として、図15(a)に示すように、隣接する2つの加工面21の境界部22が段差になっている光学素子が求められており、このような光学素子をフライカット方式で製造すると、図15(a)において円Aで囲った領域を図15(b)に拡大して示すように、加工面21の境界部22に、フライカッター10の刃先の回転半径に相当する丸みをもった形状、すなわち、隅がだれた形状になってしまう。例えば、段差の高さを数10μmに形成したい場合、一般的なフライカッター10の回転半径は数mmであるため、数100μmのぼやけが生じてしまう。このような形状は、通常の機械部品であれば、大きな問題点とならない場合でも、光学素子の場合、境界部22に入射した光が損失となってしまうので好ましくない。このような問題は、回転軸から円盤状あるいは円柱状の砥石が刃部として突出した研削工具による加工でも同様に発生する。
【0005】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、切削加工により光学素子あるいは金型を製作する際、隣接する2つの加工面の境界部に段差を形成可能な光学素子の製造方法、および光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明では、隣接する素子面同士の境界部に段差が形成された光学素子の製造方法において、回転軸および該回転軸から側方に向けて突出した刃部を備えた工具を前記回転軸の軸線周りに回転させながら切り込み方向および送り方向に前記工具と光学素子形成用の基材とを相対移動させて、前記素子面を形成するための加工面を形成するとともに、前記境界部では、当該境界部に対して前記回転軸を直交する方向に向かせて隣接する2つの加工面のうち、低い方の加工面側を切削あるいは研削することを特徴とする。
【0007】
本発明では、加工面を加工する際には、工具と基材とを相対移動させて基材を切削あるいは研削するが、境界部を形成する際には、工具の回転軸を境界部に対して直交する方向に向かせる。このため、境界部の形状を刃部の形状によって高い精度で制御でき、段差については側面壁が直立した形状に形成することができる。それ故、光学素子の場合、段差を形成でき、境界領域に入射した光が損失や迷光を発生することを回避できる。
【0008】
本発明において、前記工具は、フライカッターである。この場合、前記フライカッターは、例えば、前記刃部を送り方向からみたとき刃先が矩形の平フライカッターである。このように構成すると、刃部の直線的な側面で境界部を加工できるので、段部の側面壁をほぼ垂直に加工できる。また、本発明において、前記フライカッターとしては、前記刃部を送り方向からみたとき刃先が円形の外丸フライカッターを用いてもよい。
【0009】
本発明は、前記工具としては、前記回転軸から円盤状あるいは円柱状の砥石が前記刃部として突出した研削工具を用いて加工する場合にも適用できる。
【0010】
本発明は、前記工具と前記基材との相対位置を前記切り込み方向で連続的に変化させて前記加工面を曲面に加工する場合にも適用することができる。
【0011】
本発明において、前記加工面が周方向に複数、配列されている場合、当該複数の加工面を形成する際、前記送り方向を前記基材上の所定位置から放射状に設定することが好ましい。このように構成すると、加工面を切削加工する際には、境界部に対して回転軸が交差する方向に向き、境界部付近を切削する際には、境界部に対して回転軸が直交する方向に向き、かつ、送り方向は境界部と平行となる。従って、境界部の形状を刃部の形状によって高い精度で制御できる。また、中心領域は多重切削されることになるので、平滑面に仕上げることができ、かかる領域は、光学素子では光軸付近であるので、光学素子の特性を向上することができる。
【0012】
本発明において、前記複数の加工面は周方向に配列され、前記複数の加工面を形成する際、前記送り方向を前記基材上の所定位置を中心とする円弧状に設定してもよい。
【0013】
本発明において、前記工具による加工は、円柱座標系で表された条件により制御されることが好ましい。このように構成すると、直交座標系よりも加工の際のプログラミングが容易である。
【0014】
本発明において、前記基材は、前記光学素子を構成する光学材料、あるいは前記光学素子を成形するための金型材料である。但し、段差の形状などに対して高い精度が求められる場合には、光学素子を構成する光学材料を基材として切削し、光学素子を製造することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、加工面を加工する際には、工具と基材とを相対移動させて基材を切削するが、境界部を形成する際には、工具の回転軸を境界部に対して直交する方向に向かせる。このため、境界部の形状を刃部の形状によって高い精度で制御でき、段差については側面壁が直立した形状に形成することができる。それ故、光学素子の場合、段差を形成でき、境界領域に入射した光が損失や迷光を発生することを回避できる。刃先が矩形の平フライカッターや同等形状の研削工具の場合、刃先幅を小さくするほど光の損失が少なくなり、刃先が円形の外丸フライカッターや同等形状の研削工具の場合、刃先Rを小さくするほど光の損失が少なくなる。刃先が矩形の工具の刃先幅は20μm以下が好ましく、10μm以下であればさらに好ましい。刃先が円形の工具の場合、刃先Rは0.2mm以下が好ましく、0.1mm以下であればさらに好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
[実施の形態1]
図1(a)、(b)はそれぞれ、本発明が適用される光学素子の説明図およびこの光学素子の各加工面(素子面)同士の境界部域に形成された段差の断面図である。図2は平フライカッターの説明図である。図3は、本発明の実施の形態1に係る加工方法(光学素子の製造方法)を示す説明図である。図4は、本形態の加工方法で用いた円柱座標系の説明図である。図5は、本形態の加工方法において境界部を加工する際の説明図である。図6は、図5に示す方法で加工しているときの断面図である。
【0018】
本形態では、回転軸から側方に向けて刃部が突出して外周加工を行う工具としてフライカッターを用い、このフライカッターにより光学素子用の基材を切削して、図1(a)に示すように、円形の凹曲面内に4つの加工面21(素子面)が周方向に配列され、かつ、4つの加工面21の境界部22が1点に交差している光学素子(レンズ)を製造する例を説明する。
【0019】
ここで、4つの加工面21(分割レンズ面/素子面)は、各々異なる曲面で形成され、図1(b)に示すように、境界部22は段差になっている。
【0020】
このような光学素子を製造するにあたって、本形態では、図2に示すフライカッター10(平フライカッター)で樹脂などの光学材料をレンズ形状に切削する。フライカッター10は、回転軸11からその軸線に直交する方向に矩形の刃部12が突出しており、高速回転させると円筒面の軌跡を描く。
【0021】
このようなフライカッター10を備えた加工機は、図3に矢印X、Y、Zで示す3軸の送り機構を備え、かつ、矢印A、B、Cで示す回転機構を有している。以下、矢印A、B、Cで示すX軸周り、Y軸周り、Z軸周りの回転機構をA軸、B軸、C軸と称する。なお、本形態の加工は、フライカッター10と基材20と相対移動させればよいので、矢印X、Y、Zで示す送り機構、および矢印A、B、Cで示す回転機構はそれぞれ、フライカッター10側あるいは基材20側のうちの最適な方に構成されている。
【0022】
このような加工機で基材20に加工を行うには、まず、フライカッター10を矢印Aで示すように軸線周りに回転させながら、Y軸(切り込み方向)による基材20への切り込みを行う。また、Z軸(送り方向)による送りにより、加工面21を切削していく。その際、Y軸、Z軸を同時に動かすことで、所定の曲面を備えた各分割レンズ面を作成する。
【0023】
本形態では、境界部22の交点を原点とし、送り方向を基材20上の放射状に設定して基材20を切削した後、送り方向の角度位置を順次、切り換えていく。
【0024】
本形態の加工機の加工プログラムでは、座標系として、図4に示すように、境界部22の交点を原点とし、光学素子の中心(光軸)を基準軸とした円柱座標系(Rw、θw、Yw)を用いる。従って、加工点は、θw一定の条件でRwに対応するYwを考える。
【0025】
このような制御の下、加工面21に対する1回の送りが終了した後、Y軸移動により、フライカッター10を基材20から逃がした後、B軸回転によるステップオーバを行い、上記の切削を繰り返す。
【0026】
ここで、面粗さの上限許容値をHmax、交点からの最大半径をrmax、θw方向の最大傾斜角をφmax(>0)とすると、B軸回転ピッチBp「rad」は以下の式
Bp<(Hmax)/((rmax)*Tan(φmax)) ・・式(a)
により定める。
【0027】
このような加工方法では、加工面21を切削加工する際には、境界部22に対して回転軸11が交差する方向の向きとし、境界部22付近を切削する際には、図5に示すように、境界部22に対して回転軸11が直交する方向の向きとし、かつ、Z軸(送り方向)は境界部22と平行とする。この状態で、隣接する2つの加工面21のうち、低い方の加工面21側を切削する。その際、段差とフライカッター10とが干渉しないように、すなわち、段差を形成すべき領域に切削が施されないように、図6に示すように、段差の隅とフライカッター10の角を合わせたB軸角度またはX軸位置の座標を設定する。
【0028】
このように本形態では、加工面21を加工する際には、フライカッター10と基材20とを切り込み方向および送り方向に相対移動させて基材20を切削するが、境界部22を加工する際には、回転軸11を直交する方向に向かせ、かつ、Z軸(送り方向)を境界部22と平行に設定し、隣接する2つの加工面21のうち、低い方の加工面21側を切削する。このため、境界部22の形状は、刃部12の形状と同一となり、高い精度で制御できるので、段差については側面壁が直立した形状に形成することができる。それ故、光学素子では、段差を、隅がだれていない、段差面がほぼ直立した鋭い形状をもって形成できるので、境界部22の幅が狭い。それ故、境界部22に入射した光が損失や迷光を発生することを回避できる。
【0029】
また、本形態では、境界部22の交点を中心に送り方向を基材20上の放射状に設定して基材20を切削するため、光学素子の中心領域は何度も切削され、平滑面となる。ここで、境界部22の交点付近は、光学素子の光軸中心であり、この領域の面精度が高いので、光学特性の高い光学素子を製造することができる。
【0030】
[実施の形態2]
図7は、本発明の実施の形態2に係る加工方法(光学素子の製造方法)を示す説明図である。図8は、本形態の加工方法において回転軸11を傾けた様子を示す説明図である。
【0031】
実施の形態1に係る方法では、θw方向の傾斜角φmaxが大きくなると面粗さHmaxが大きくなる傾向にあるので、このような場合には、図7を参照して以下に説明する方法を採用すればよい。なお、本形態でも、実施の形態1と同様、図2に示すフライカッター10を使用する。また、本形態でも、実施の形態1と同様、図7に示すように、矢印X、Y、Zで示す3軸の送り機構を備え、かつ、矢印A、B、Cで示す回転機構を有している。
【0032】
本形態では、面粗さの許容上限値をHmax、θw方向の断面曲線の最小曲率半径ρmin(>0)としたとき、フライカッター10の刃幅Lとして以下の条件
L<2*√(2*(Hmax)*(ρmin)−(Hmax)2) ・・式(b)
を満たすものを選定する。また、本形態でも、実施の形態1と同様、境界部22の交点を原点とし、送り方向を基材20上の放射状に設定して基材20を研削した後、送り方向の角度位置を順次、切り換えておく。さらに、図7に示すように、基材20とフライカッター10とをX軸を斜めに傾けた状態で配置する。
【0033】
そして、Y軸移動による切り込みを行うとともに、Z軸移動による送りを行う。そのとき、X軸、Y軸、Z軸、C軸を同時に動かすことで、曲面からなる加工面21を作成する。
【0034】
ここで、C軸は、図8に示すように、加工形状のθw方向の傾斜角に合わせ回転させる。X軸はC軸回転による刃先ズレΔXの補正に用いる。また、Y軸はC軸回転による刃先ズレΔYの補正も行う。
【0035】
このようにして加工面21を形成した後、Y軸移動により、フライカッター10を基材20から逃がした後、B軸回転によるステップオーバを行う。
【0036】
また、境界部22付近では、境界部22に対して回転軸11を直交する方向に向かせ、かつ、Z軸(送り方向)を境界部22と平行に設定し、隣接する2つの加工面21のうち、低い方の加工面21側を切削する。
【0037】
以上の繰り返しにより、放射状の4つの加工面21を形成するとともに、放射状に延びた4つの境界部22(段差)の形成を行う。
【0038】
このように本形態でも、実施の形態1と同様、境界部22を加工する際には、回転軸11を直交する方向に向かせ、かつ、Z軸(送り方向)を境界部22と平行に設定し、隣接する2つの加工面21のうち、低い方の加工面21側を切削する。このため、境界部22の形状は、刃部12の形状と同一となり、高い精度で制御できるので、段差については側面壁が直立した形状に形成することができる。
【0039】
また、本形態によれば、B軸回転ピッチと面粗さの関与は小さく、面粗さは、前記した式(b)で表される。なお、B軸回転ピッチは刃幅Lを最大限活用できる値を取れば良い。
【0040】
[実施の形態3]
境界部22付近の形状誤差が許容される場合、切削工具としては、図9に示すように、送り方向からみたとき刃部12の形状が円形のフライカッター10(外丸フライカッター)を用いてもよい。フライカッター10は円弧状の刃先を持ち、高速回転させると円環体の軌跡を描く。このような丸フライカッター10を用いる場合も、フライカッター10と基材20とは、図3に示すように配置する。
【0041】
ここで、境界部22のぼやけの幅の許容限界値をdmax、段差の最大値をtmaxとすればフライカッター10の切れ刃曲率半径Rcとして下式
Rc<((dmax)2+(tmax)2)/(2*(tmax))・・・式(c)
を満たすものを選定すれば良い。
【0042】
このような加工機で基材20に加工を行うには、まず、フライカッター10を矢印Aで示すように回転させながら、Y軸(切り込み方向)への移動により切り込みを行う。また、Z軸(送り方向)への移動による送りにより、加工面21を切削していく。その際、Y軸、Z軸を同時に動かすことで、所定の曲面を備えた各分割レンズ面を作成する。
【0043】
また、加工点の法線とフライカッター10が描く円環体上の点の法線が一致するように図9に示すように、工作物座標系における工具基準点の座標(X、Y、Z)を指示する。その際、X軸は上記による刃先ズレΔXの補正に用いる。また、Y軸は刃先ズレΔYの補正も行う。
【0044】
このようにして加工面21を形成した後、Y軸移動により、フライカッター10を基材20から逃がした後、B軸回転によるステップオーバを行う。ここで、加工面21が球面のときは、B軸回転ピッチBp[Bp(rad)]は以下の式により定める。
【0045】
面粗さの上限許容値をHmax、交点からの最大半径をrmax、フライカッター10の切れ刃曲率半径をRc、球面半径をρとすると、B軸回転ピッチBpは、下式
Bp<(2/(rmax))*√(2*(Hmax)/(1/(ρ−Rc)+1/Rc))
・・・式(d)
で示す値に設定される。
【0046】
また、本形態でも、実施の形態1、2と同様、境界部22付近では、境界部22に対して回転軸11を直交する方向に向かせ、かつ、Z軸(送り方向)を境界部22と平行に設定し、隣接する2つの加工面21のうち、低い方の加工面21側を切削する。
【0047】
以上の繰り返しにより、放射状の4つの加工面21を形成するとともに、放射状に延びた4つの境界部22(段差)の形成を行う。
【0048】
このように本形態でも、実施の形態1と同様、境界部22を加工する際には、回転軸11を直交する方向に向かせ、かつ、Z軸(送り方向)を境界部22と平行に設定し、隣接する2つの加工面21のうち、低い方の加工面21側を切削する。このため、境界部22の形状は、刃部12の形状と同一となり、高い精度で制御できるので、段差につく円弧を無視できる程度の幅に形成することができる。それ故、光学素子の場合、境界部22に入射した光が損失や迷光を発生することを回避できる。
【0049】
また、本形態ではC軸回転が不要であり、かつ、面粗さも実施の形態1より良好な面が得られる。
【0050】
[実施の形態4]
図10は、本発明の実施の形態4に係る加工方法(光学素子の製造方法)を示す説明図である。
【0051】
実施の形態1に対して、以下の変更を行えば、図10に示すような、境界部22の交点を中心とした円弧状の切削が可能である。すなわち、B軸回転により始点におけるフライカッター10の刃部12を境界部22に合わせる。ここで、段差における低い面から加工面21に対する切削加工を始める場合には、境界部22に対して回転軸11を直交する方向に向かせ、段差の隅とフライカッター10の刃部12の角部とが合うようにB軸角度またはX軸位置の座標を指示する。
【0052】
次に、Y軸移動による切込みを行うとともに、B軸回転による送りを行う。その結果、送り方向は、基材20上の所定位置を中心とする円弧状に設定されるので、ツールマークは円弧状に形成される。その際、Y軸、Z軸を同時に動かすことで加工面21を曲面とする。なお、本形態でも、座標系として境界部22の交点を原点、光学素子の中心位置を基準軸とした円柱座標系(Rw、θw、Yw)を考える。従って、加工点はRw一定の条件でθwに対応するYwを考える。
【0053】
次に、B軸回転により終点においては、フライカッター10の刃部12を境界部22に合わせる。ここで、連続した面形状が段差の低い方で終わる場合、段差の隅とフライカッター10の角を合わせたB軸角度またはX軸位置の座標を指示する。
【0054】
このようにして1つの加工面21に対する加工が終了した後、Y軸移動により、フライカッター10を基材20から逃がした後、B軸回転によるステップオーバを行い、上記の切削を繰り返す。
【0055】
このように本形態でも、加工面21を加工する際には、フライカッター10と基材20とを相対移動させて基材20を切削するが、境界部22を形成する際には、フライカッター10の回転軸11を境界部22に対して直交する方向に向かせる。このため、境界部22の形状を刃部12の形状によって高い精度で制御でき、段差については側面壁がほぼ直立した形状に形成することができる。それ故、光学素子の場合、段差を、隅がだれていない、段差面がほぼ直立した鋭い形状をもって形成でき、境界部22に入射した光が損失や迷光を発生することを回避できる。
【0056】
[その他の加工方法]
なお、上記形態では、図1(a)に示すように、円形の凹曲面内に4つの加工面21(素子面)が周方向に配列され、かつ、4つの加工面21の境界部22が1点に交差している光学素子(レンズ)を製造する例を説明したが、図11(a)に示すように、円板の一方の面に、平坦な加工面21(素子面)が周方向に多数、配列され、かつ、多数の加工面21の境界部22が1点に交差している光学素子(透過屈折型偏向板)を製造する場合に本発明を適用してもよい。また、図11(a)において段差を設けているが、境界部となる段差をなくした傾斜面で形成しても良いし、さらには、図11(b)に示すように、加工面21が球面のように加工する場合に適用してもよい。また、図15を参照して説明したような形状した光学素子(レンズ)に適用してもよい。
【0057】
また、上記形態では、フライカッター10で樹脂などの光学材料をレンズ形状に切削する例を説明したが、フライカッター10で金型用の金属材料を切削して、光学素子を成形するための金型の製作に本発明を適用してもよい。
【0058】
さらに、上記形態では、フライカッター10として、長方形の刃部12を備えたものを用いたが、求められる段差の形状によっては、図12に示すように、台形の刃部12を備えたフライカッター10を用いてもよい。
【0059】
さらにまた、本発明は、フライカッター10に代えて、図13に示すように、回転軸11′から円盤状あるいは円柱状の砥石12′が刃部として突出した研削工具10′を用いた研削加工に適用してもよい。
【0060】
ここで、刃先が矩形の平フライカッターや同等形状の研削工具の場合、刃先幅を小さくするほど光の損失が少なくなり、刃先が円形の外丸フライカッターや同等形状の研削工具の場合、刃先Rを小さくするほど光の損失が少なくなる。刃先が矩形の工具の刃先幅は20μm以下が好ましく、10μm以下であればさらに好ましい。刃先が円形の工具の場合、刃先Rは0.2mm以下が好ましく、0.1mm以下であればさらに好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】(a)、(b)はそれぞれ、本発明が適用される光学素子の説明図およびこの光学素子の各加工面(素子面)同士の境界部域に形成された段差の断面図である。
【図2】平フライカッターの説明図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る加工方法(光学素子の製造方法)を示す説明図である。
【図4】円柱座標系の説明図である。
【図5】図3に示す加工方法において境界部を加工する際の説明図である。
【図6】図5に示す方法で加工しているときの断面図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係る加工方法(光学素子の製造方法)を示す説明図である。
【図8】図7に示す加工方法において回転軸を傾けた様子を示す説明図である。
【図9】本発明の実施の形態3に係る加工方法(光学素子の製造方法)を示す説明図である。
【図10】本発明の実施の形態4に係る加工方法(光学素子の製造方法)を示す説明図である。
【図11】加工面の境界領域が段差になっている別の光学素子の説明図である。
【図12】別の平フライカッターの説明図である。
【図13】本発明に係る光学素子の製造方法において、工具として研削工具を用いた場合の説明図である。
【図14】フライカット方式の説明図である。
【図15】従来の加工方法(光学素子の製造方法)の問題点を示す説明図である。
【符号の説明】
【0062】
10 フライカッター
10′ 研削工具
11、11′ 回転軸
12 刃部
12′ 砥石(刃部)
20 基材
21 加工面
22 境界部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する素子面同士の境界部に段差が形成された光学素子の製造方法において、
回転軸および該回転軸から側方に向けて突出した刃部を備えた工具を前記回転軸の軸線周りに回転させながら切り込み方向および送り方向に前記工具と光学素子形成用の基材とを相対移動させて、前記素子面を形成するための加工面を形成するとともに、
前記境界部では、当該境界部に対して前記回転軸を直交する方向に向かせて隣接する2つの加工面のうち、低い方の加工面側を切削あるいは研削することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記工具は、フライカッターであることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、前記フライカッターは、前記刃部を送り方向からみたとき刃先が矩形の平フライカッターであることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項4】
請求項2において、前記フライカッターは、前記刃部を送り方向からみたとき刃先が円形の外丸フライカッターであることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1において、前記工具は、前記回転軸から円盤状あるいは円柱状の砥石が前記刃部として突出した研削工具であることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、前記工具と前記基材との相対位置を前記切り込み方向で連続的に変化させて前記加工面を曲面に加工することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、前記加工面が周方向に複数、配列され、当該複数の加工面を形成する際、前記送り方向を前記基材上の所定位置から放射状に設定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、前記加工面が周方向に複数、配列され、当該複数の加工面を形成する際、前記送り方向を前記基材上の所定位置を中心とする円弧状に設定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項9】
請求項7または8において、前記工具による加工は、円柱座標系で表された条件により制御されることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかにおいて、前記基材は、前記光学素子を構成する光学材料であることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし9のいずれかにおいて、前記基材は、前記光学素子を成形するための金型材料であることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに規定する方法を用いて製造されたことを特徴とする光学素子。
【請求項1】
隣接する素子面同士の境界部に段差が形成された光学素子の製造方法において、
回転軸および該回転軸から側方に向けて突出した刃部を備えた工具を前記回転軸の軸線周りに回転させながら切り込み方向および送り方向に前記工具と光学素子形成用の基材とを相対移動させて、前記素子面を形成するための加工面を形成するとともに、
前記境界部では、当該境界部に対して前記回転軸を直交する方向に向かせて隣接する2つの加工面のうち、低い方の加工面側を切削あるいは研削することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記工具は、フライカッターであることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、前記フライカッターは、前記刃部を送り方向からみたとき刃先が矩形の平フライカッターであることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項4】
請求項2において、前記フライカッターは、前記刃部を送り方向からみたとき刃先が円形の外丸フライカッターであることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1において、前記工具は、前記回転軸から円盤状あるいは円柱状の砥石が前記刃部として突出した研削工具であることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、前記工具と前記基材との相対位置を前記切り込み方向で連続的に変化させて前記加工面を曲面に加工することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、前記加工面が周方向に複数、配列され、当該複数の加工面を形成する際、前記送り方向を前記基材上の所定位置から放射状に設定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、前記加工面が周方向に複数、配列され、当該複数の加工面を形成する際、前記送り方向を前記基材上の所定位置を中心とする円弧状に設定することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項9】
請求項7または8において、前記工具による加工は、円柱座標系で表された条件により制御されることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかにおいて、前記基材は、前記光学素子を構成する光学材料であることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし9のいずれかにおいて、前記基材は、前記光学素子を成形するための金型材料であることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに規定する方法を用いて製造されたことを特徴とする光学素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−334767(P2006−334767A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−165979(P2005−165979)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【Fターム(参考)】
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