説明

光学素子制御装置

【課題】ポテンショメータにより検出される位置(出力値)に基づいて所定の制御対象(光学素子)をモータで駆動して所定の目標位置に設定した場合に、周囲温度に応じてモータを駆動するための制御パラーメータを変更することにより、動力伝達機構のガタや周囲温度にかかわらず制御対象を予定した目標位置に適切に設定できるようにした光学素子制御装置を提供する。
【解決手段】フィルタユニットのターレット板を回転駆動するモータ28には、ポテンショメータにより得られる位置信号の値P、目標位置P0、ゲインαとして、
V=α(P0−P)
により求められる駆動電圧VがCPU100により印加される。CPU100は温度センサ106により検出される周囲温度に応じてゲインαの値を変更し、ターレット板の実際の停止位置を予定した目標位置に正確に一致させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学素子制御装置に係り、特にテレビカメラ等に使用される光学素子をモータで駆動する光学素子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、テレビカメラ等の光学系の光路上に複数種のフィルタを切替可能に挿入するための駆動機構を具備したフィルタユニットが知られている。例えば、フィルタユニットは、複数のフィルタが配置された円盤状のターレット板と、カメラの光学系の光路上に挿入するフィルタを切り替えるためにターレット板を電動で回動させるためのモータと、ターレット板の回転位置を検出するポテンショメータと、ターレット板とモータとの間及びターレット板とポテンショメータとの間を動力伝達可能に連結する動力伝達機構等を備えている(特許文献1参照)。ターレット板の各フィルタを光路上に挿入する場合のターレット板の位置は光路上に挿入するフィルタに対応して事前に決められており、フィルタを切り替える場合、光路上に挿入するフィルタに対応して決められた位置を目標位置として、ポテンショメータにより検出されるターレット板の現在位置がその目標位置に一致するようにターレット板の位置がモータの駆動によってフィードバック制御されるようになっている。
【特許文献1】特開平09−093485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記のターレット板のような光学系に配置される光学素子に関する制御対象をモータやポテンショメータなどの位置検出器を使用して制御する場合に、モータや位置検出器は制御対象にギヤ等の動力伝達機構を介して連結されるのが一般的である。このような動力伝達機構は、構成部品の余裕寸法等の積み重ねによりガタを有しているおり、位置検出器により検出される位置に基づいて制御対象を所定の目標位置に設定した場合であっても制御対象の実際の位置が予定した目標位置からガタの範囲内でずれるという事態が生じる。
【0004】
一方、制御対象をモータで駆動する場合に、負荷(トルク)は、周囲温度によって変動し、一般的に温度が高い程、負荷が小さく、温度が低い程、負荷が大きくなる傾向がある。
【0005】
装置の使用環境を狭い温度範囲に制限すれば温度による負荷の変動が小さいため、製品出荷時等においてモータを制御するための制御パラメータ(比例制御の比例ゲイン等)を調整することによって上記のようなガタの範囲内でのずれを低減することができる。しかしながら、使用環境の温度範囲が広い場合には、温度による負荷の変動が大きく、ガタの範囲内でのずれが大きくなる。例えば、制御対象をモータで駆動して所定の目標位置に停止させる場合に、常温では制御対象が目標位置にほぼ正確に停止する場合であっても、温度が高くなると負荷が小さくなるため、制御対象が目標位置で停止せずに目標位置を超過し、ガタの範囲内で目標位置から大きくずれる傾向がある。一方、温度が低くなると負荷が大きくなるため、制御対象が目標位置に到達せずに、ガタの範囲内で目標位置から大きくずれるという傾向がある。
【0006】
また、動力伝達機構の構成部品の構成上、制御対象の駆動方向、即ち、モータの回転方向によって作動に差が生じ、一方の駆動方向に対してはほぼ正確に制御対象が目標位置で停止するのに対して、他方の駆動方向に対しては目標位置から大きなずれが生じるという場合もある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、位置検出器により検出される位置(出力値)に基づいて所定の制御対象(光学素子)をモータで駆動して所定の目標位置に設定した場合に、動力伝達機構のガタや周囲温度にかかわらず制御対象を予定した目標位置に適切に設定できるようにした光学素子制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の光学素子制御装置は、光学系に配置される所定の光学素子の位置を、該光学素子と動力伝達機構を介して連結された位置検出手段により検出し、該検出した位置に基づいて、前記光学素子を所定の目標位置にモータで駆動する光学素子制御装置において、前記光学素子及びモータの周囲温度を検出する温度検出手段と、前記光学素子を前記モータで駆動して所定の目標位置で停止させる場合において、前記位置検出手段の現在位置を示す値が前記目標位置を示す値となる位置で前記光学素子を停止させたときに、前記光学素子が実際に停止する位置と前記目標位置とのずれを低減させるように、前記温度検出手段により検出された周囲温度に基づいて、前記モータの回転速度又はトルクに関連する制御パラメータを変更し、該制御パラメータを用いて前記モータを駆動するモータ駆動手段と、を備えたことを特徴としている。
【0009】
請求項2に記載の光学素子制御装置は、請求項1に記載の発明において、前記モータ駆動手段は、前記目標位置を示す値をP0、前記位置検出手段の現在位置を示す値をP、ゲインをαとして、前記モータに印加する駆動電圧Vを、次式、
V=α(P0−P)
により求めるものとし、前記制御パラメータとしてゲインαを前記温度検出手段により検出された周囲温度に基づいて変更することを特徴としている。
【0010】
請求項3に記載の光学素子制御装置は、請求項1又は2に記載の発明において、前記モータ駆動手段は、前記制御パラメータを前記モータの回転方向に応じて変更することを特徴としている。
【0011】
請求項4に記載の光学素子制御装置は、請求項1、2、又は、3に記載の発明において、前記モータ駆動手段は、前記光学素子及びモータの周囲温度を複数の温度範囲に分割し、各温度範囲ごとに前記制御パラメータを変更すると共に、前記温度検出手段により検出された周囲温度が属する温度範囲に応じて前記制御パラメータを変更すること特徴としている。
【0012】
請求項5に記載の光学素子制御装置は、請求項1、2、3、又は、4に記載の発明において、前記光学素子は、複数種のフィルタが設置されたターレット板であって、前記光学系の光路上に挿入するフィルタを切り替えるためのターレット板であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、位置検出器により検出される位置に基づいて所定の制御対象(光学素子)をモータで駆動して所定の目標位置に設定した場合に、動力伝達機構のガタや周囲温度にかかわらず制御対象を予定した目標位置に適切に設定することようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る光学素子制御装置を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0015】
図1(A)、(B)は、本発明が適用されるフィルタユニット装置の外観を示した図であり、そのフィルタユニットがテレビカメラ内部に設置されている状態を示した上面図及び側面図である。
【0016】
同図に示すテレビカメラ10は、例えば、取材などで使用される肩乗せタイプのENGカメラであり、カメラ本体12と撮影レンズ14とから構成されている。カメラ本体12の筐体前面には開口部が形成されると共に、その周辺部に雌型レンズマウント部が形成されている。その雌型レンズマウント部に撮影レンズ14の後端部に形成された雄型レンズマウント部を装着することによって、カメラ本体12に撮影レンズ14を着脱可能に装着することができるようになっている。カメラ本体12に装着された撮影レンズ14には、前面側から被写体光が入射し、その被写体光は撮影レンズ14の鏡胴内部の各種光学素子からなる光学系を通過した後、撮影レンズ14の後面側からカメラ本体12の筐体内部へと導かれる。そして、詳細を後述するフィルタユニット16のフィルタを通過した後、図示しない色分解プリズム光学系及び撮像素子へと導かれるようになっている。
【0017】
フィルタユニット16は、カメラ本体12の筐体内において、撮影レンズ14が装着される上記開口部に設置され、撮影レンズ14の後面から出射した被写体光が通過する位置にNDフィルタ等のフィルタを配置する。フィルタユニット16には、後述のように各種フィルタを保持する2枚のターレット板が前後に重ねて設けられており、各種部材を支持するための本体18(筐体)、ターレット板をマニュアルで回転させるための第1ツマミ24及び第2ツマミ26、ターレット板を電動で駆動するための第1モータ28及び第2モータ30、回路が設けられる回路基板22を支持する支持板20等が設けられている。尚、本体18はカメラ本体12の筐体内側に固定され、フィルタユニット16の構成部材はカメラ本体12の筐体内部に配置されるが、第1ツマミ24及び第2ツマミ26は、カメラ本体12の筐体前面の外側に配置されるようになっている。
【0018】
図2(A)、(B)、(C)は、上記フィルタユニット16の構成を示した正面図、側面図、及び、背面図である。これらの図に示すようにフィルタユニット16は、2枚にターレット板(第1ターレット板32及び第2ターレット板34)を備えており、第1ターレット板32が前側(被写体側)に配置され、その背後(撮像素子側)に第2ターレット板34が重ねて配置されている。
【0019】
第1ターレット板32には、4カ所にフィルタ32A、32B、32C、32D(同図(A)参照。但し、フィルタ32Dは不図示)が取り付けられ、第2ターレット板34には、4カ所にフィルタ34A、34B、34C、34D(同図(C)参照。但し、フィルタ34Dは不図示)が取り付けられている。各フィルタ32A〜32D、34A〜34Dは、撮影レンズ14の光学系を通過した後、撮像素子に入射する前の被写体光に対して所定の光学作用を与えるもので、例えば、フィルタ32A〜32Dとして、透過率の異なるNDフィルタ(減光フィルタ)が取り付けられ、フィルタ34A〜34Dとして、IRフィルタ(赤外カットフィルタ)、PLフィルタ(偏光フィルタ)、カラーフィルタ等の各種フィルタの中から所定の種類の4つのフィルタが取り付けられている。但し、各フィルタ32A〜32D、34A〜34Dとしてどのような種類のフィルタを取り付けてもよく、このような構成に限らない。
【0020】
第1ターレット板32及び第2ターレット板34は、同図(B)に示すように本体18の背面板92に固定されたピン90に回動自在に支持されている。そして、撮影レンズ14の後面から出射された被写体光が通過する光路上(光軸Oの位置)に、第1ターレット板32及び第2ターレット板34の各々のいずれか1つのフィルタが配置されると共に、第1ターレット板32及び第2ターレット板34の各々を回転させることにより、光路上に配置するフィルタを切り替えることができるようになっている。同図(A)、(C)においては、光路上に第1ターレット板32のフィルタ32Aが配置され、第2ターレット板34のフィルタ34Aが配置された状態が示されている。
【0021】
第1ターレット板32及び第2ターレット板34の回動は、各々、第1ツマミ24及び第2ツマミ26のマニュアル操作と、第1モータ28及び第2モータ30の駆動によって行われるようになっている。
【0022】
まず、第1ターレット板32を第1モータ28で回動させる機構について説明すると、同図(B)に示すように本体18の背面に支持板46が離間して設置され、その支持板46に第1モータ28が固定されている。そして、第1モータ28の回転軸が支持板46に形成された孔を挿通した状態で配置され、その回転軸の先端部にギヤ48が取り付けられている。
【0023】
また、支持板46には、第1ターレット板32の位置(回転位置)を検出するための第1ポテンショメータ40が固定されており、その回転軸が支持板46に形成された孔を挿通した状態で配置されると共に、先端部にギヤ50が取り付けられている。そして、このギヤ50は、第1モータ28の回転軸に取り付けられているギヤ48に噛合されている。
【0024】
更に、本体18の背面板92には孔が形成され、その孔を挿通した状態で回転軸52がベアリングによって回動自在に支持されている。回転軸52の後端側には上記ギヤ50が固定され、回転軸52の前端側にはギヤ54が設けられている。
【0025】
一方、第1ターレット板32の中心部にはギヤ56が設けられている。また、本体18の筐体前面内側には同図(A)に示すようにギヤ58及びギヤ60が噛合した状態で回動自在に支持されており、ギヤ58がギヤ54に噛合し、ギヤ60がギヤ56に噛合している。
【0026】
以上の構成によれば、第1モータ28が駆動され、その回転軸が回動すると、その回転力がギヤ48及びギヤ50を介して回転軸52に伝達され、回転軸52が回動する。そして、回転軸52が回動すると、その回転力がギヤ54、ギヤ58、ギヤ60、及び、ギヤ56を介して第1ターレット板32に伝達され、第1ターレット板32が回動する。
【0027】
また、第1ポテンショメータ40の回転軸は回転軸52と共に回動するため、これと連動して回動する第1ターレット板32の回転位置が第1ポテンショメータ40の出力信号により検出される。
【0028】
続いて、第2ターレット板34を第2モータ30で回動させる機構に説明すると、同図(B)に示すように上記第1モータ28と同様に第2モータ30が支持板46に固定されている。そして、第2モータ30の回転軸が支持板46に形成された孔を挿通した状態で配置され、その回転軸の先端部にギヤ70が取り付けられている。
【0029】
また、支持板46には、第2ターレット板34の位置(回転位置)を検出するための第2ポテンショメータ42が固定されており、その回転軸が支持板46に形成された孔を挿通した状態で配置されると共に、先端部にギヤ72が取り付けられている。そして、このギヤ72は、第2モータ30の回転軸に取り付けられているギヤ70に噛合されている。
【0030】
更に、本体18の背面板92には孔が形成され、その孔を挿通した状態で回転軸74がベアリングによって回動自在に支持されている。回転軸74の後端側には上記ギヤ72が固定され、回転軸74の中央付近にギヤ76が固定されている。尚、回転軸74の先端部には第2ツマミ26が取り付けられている。
【0031】
一方、第2ターレット板34の中心部にはギヤ78が設けられている。また、本体18の筐体背面内側には同図(C)に示すようにギヤ80及びギヤ82が噛合した状態で回動自在に支持されており、ギヤ80がギヤ76に噛合し、ギヤ82がギヤ78に噛合している。
【0032】
以上の構成によれば、第2モータ30が駆動され、その回転軸が回動すると、その回転力がギヤ70及びギヤ72を介して回転軸74に伝達され、回転軸74が回動する。そして、回転軸74が回動すると、その回転力がギヤ76、ギヤ80、ギヤ82、及び、ギヤ78を介して第2ターレット板34に伝達され、第2ターレット板34が回動する。
【0033】
また、第2ポテンショメータ42の回転軸は回転軸74と共に回動するため、これと連動して回動する第2ターレット板34の回転位置が第2ポテンショメータ42の出力信号により検出される。
【0034】
次に、第1ターレット板32を第1ツマミ24のマニュアル操作で回動させる機構について説明すると、第1ツマミ24は、回転軸74の外側に嵌挿される中空の回転軸62に取り付けられている。尚、回転軸62は、回転軸74に対して回動可能に設けられている。そして、回転軸62の後端側にはギヤ64が取り付けられている。
【0035】
一方、本体18の筐体前面内側には同図(A)に示すようにギヤ66が回動自在に支持されており、このギヤ66がギヤ64及びギヤ60に噛合している。
【0036】
以上の構成によれば、第1ツマミ24がマニュアル操作により回動操作されると、回転軸62が回動し、その回転力がギヤ64、ギヤ66、ギヤ60、及び、ギヤ56を介して第1ターレット板32に伝達され、第1ターレット板32が回動する。
【0037】
続いて、第2ターレット板34を第2ツマミ26のマニュアル操作で回動させる機構について説明すると、第2ツマミ26は、回転軸74の先端部に取り付けられており、第2ツマミ26がマニュアル操作により回動操作されると、回転軸74が回動するようになっている。従って、第2ターレット板34を第2モータ30で回動させる場合と同様に、第2ツマミ26が回動操作されて回転軸74が回動すると、その回転力がギヤ76、ギヤ80、ギヤ82、及び、ギヤ78を介して第2ターレット板34に伝達され、第2ターレット板34が回動する。
【0038】
ここで、第1ターレット板32及び第2ターレット板34の外周部には同図(A)、(C)に示すように円弧状のクリック溝96、96、96、96、98、98、98、98が形成されている。一方、本体18の筐体の前面内側及び背面内側にクリックバネが取り付けられている。尚、クリックバネは同図(C)に示すように本体18の筐体背面内側に取り付けられるクリックバネ94のみを示し、筐体前面内側に取り付けられるクリックバネは図示を省略する。
【0039】
クリックバネ94は、その先端部94Aが円弧状に形成されており、先端部94Aが第2ターレット板34の外周部に圧接されるように付勢されている。そして、このクリックバネ94が第2ターレット板34のクリック溝98、98、98、98の各々に嵌合したときの第2ターレット板34の4カ所の位置(回転位置)において、4つのフィルタ34A〜34Dの各々が光路上の適切な位置(光軸Oに対して適切な位置)となるように各フィルタ34A〜34D、各クリック溝98、及び、クリックバネ94の先端部94Aの位置が調整されている。
【0040】
これによれば、操作者が第2ツマミ26をマニュアル操作により回動操作して第2ターレット板34を回動させた場合に、クリックバネ94の先端部94Aが、いずれかのクリック溝98に嵌合すると、操作者は、そのことをクリック感によって検知することができる。そして、第2ターレット板34を1回転させる間の4カ所の位置においてクリック感を感じる位置があり、そのいずれかの位置で第2ツマミ26の操作を停止することによって、フィルタ34A〜34Dのうち所望のフィルタを光路上の適切な位置に設定することができることができるようになっている。
【0041】
尚、本体18の筐体前面内側に取り付けられる図示しないクリックバネも上記クリックバネ94と同様に構成され、クリックバネ94が第2ターレット板34に対して行う作用と同様の作用を第1ターレット板32に行う。
【0042】
次に、以上のごとく構成されたフィルタユニット16におけるモータ制御について説明する。上記第1ターレット板32及び第2ターレット板34を第1モータ28及び第2モータ30で回動させる場合において、第1モータ28及び第2モータ30に対するモータ制御は図1に示した支持板20に設置された回路基板22の回路によって行われるようになっている。このとき第1モータ28及び第2モータ30に対するモータ制御はいずれも同様の制御処理によって行われるようになっており、以下では第1モータ28に対するモータ制御を例にして説明する。
【0043】
図2に示したように、第1モータ28によって回動する第1ターレット板32の位置は、第1ポテンショメータ40によって検出されるようになっており、図3に示すように第1モータ28(第1ターレット板32)の制御回路は、CPU100、第1モータ28(以下、単にモータ28)、第1ポテンショメータ40(以下、単にポテンショメータ40)、及び、温度センサ106から構成されている。
【0044】
CPU100からモータ28には、後述のようにCPU100の処理により設定されるデジタル値の駆動信号がD/A変換されてアナログ電圧の駆動信号として与えられる。
【0045】
ポテンショメータ40からは第1ターレット板32の現在位置(現在の回転位置)を示すアナログ電圧の位置信号が出力され、そのポテンショメータ40から出力されたアナログ電圧の位置信号がA/D変換されてデジタル値の位置信号としてCPU100に入力される。
【0046】
温度センサ106は、例えば、図1の回路基板22に設けられており、フィルタユニット16の周囲温度(環境温度)を検出するものである。その温度センサ106からはフィルタユニット16の周囲温度を示すアナログ電圧の温度信号が出力され、温度センサ106から出力されたアナログ電圧の温度信号がA/D変換されてデジタル値の温度信号としてCPU100に入力される。
【0047】
一方、第1ターレット板32の各フィルタ32A〜32Dを光路上に設定した場合の第1ターレット板32の位置(回転位置)、即ち、ポテンショメータ40からCPU100に入力される位置信号の値は事前に決められており、例えば、各フィルタ32A〜32Dを光路上に設定した場合にポテンショメータ40からCPU100に入力される位置信号の値をPA、PB、PC、PDとする。また、ポテンショメータ40からCPU100に入力される第1ターレット板32の現在位置を示す値をPとする。
【0048】
また、CPU100には、光路上に設定(挿入)するフィルタ(以下、“有効にするフィルタ”という)が外部から指定されるようになっており、そのフィルタを光路上に設定する場合には、上記PA、PB、PC、PDのうち、有効にするフィルタに対応する位置信号の値を目標位置の値P0とする。尚、有効にするフィルタのCPU100への指定は、図示しない操作部(カメラ本体12等に設けられた操作部)によってユーザが所望のフィルタを有効にするフィルタとして選択することによってその操作部から与えられ、または、カメラ本体12に搭載された回路での自動の判断によって有効にするフィルタが選択されてその回路から与えられるようになっている。
【0049】
CPU100は、上記のようにして目標位置の値P0を設定すると、次式(1)により求められる値(電圧値)Vの駆動信号をモータ28に出力する。
【0050】
V=α(P0−P) …(1)
ただし、Pは、ポテンショメータ40からCPU100に入力される第1ターレット板32の現在位置を示す位置信号の値(現在位置の値)、αはゲイン(比例ゲイン)を示す。
【0051】
上式(1)の駆動信号の値Vは、モータ28の回転速度に関係しており、負荷トルクが一定であるとすると、駆動信号の値Vが0のときにモータ28が停止するのに対して、駆動信号の値Vが大きくなるほど、モータ28の回転速度が速くなる。
【0052】
これによれば、現在位置の値Pが目標位置の値P0に近づくようにモータ28が駆動され、それらの値の差(P0−P)が小さくなると共に、差(P0−P)が大きい程、モータ28の回転速度が速くなるように作用し、差(P0−P)が小さくなるにつれてモータ28の回転速度が徐々に減速されていく。そして、現在位置の値Pが目標位置の値P0に一致し、差(P0−P)が0となると、モータ28に与えられる駆動信号の値Vが0となり、モータ28の回転が停止する。
【0053】
ところで、モータ28の回転速度は、負荷トルクの大きさによって変動し、負荷トルクは温度によって変動する。例えば、図2(B)に示した回転軸52の回転や、第1ターレット板32のピンに対する回転は、塗布されているグリスの温度特性によって回り易さが変動し、温度が高い程、回り易く、温度が低い程、回り難くなる。
【0054】
図4は、モータ28に与える駆動信号の値Vを一定とした場合のモータ28の回転速度と周囲温度との関係を示した図である。同図が示すように周囲温度が高くなる程、モータ28の回転速度が速くなり、周囲温度が低くなる程、モータ28の回転速度が遅くなる。
【0055】
一方、図2に示したように第1ターレット板32とポテンショメータ40(第1ポテンショメータ40)との間は、ギヤ等の動力伝達機構の構成部材を介して連結されており、これらの部材の余裕寸法等の積み重ねによりガタを有している。従って、上記のようにCPU100において目標位置の値P0を設定してモータ28を駆動し、現在位置の値Pがその目標位置に値P0に一致する位置でモータ28の回転を停止させたとしても、ガタの範囲で第1ターレット板32の実際の停止位置にばらつき(誤差)が生じる。
【0056】
もし、負荷トルクが一定であれば、上式(1)のゲインαを調整することによって、現在位置の値Pが目標位置の値P0に一致する位置でモータ28の回転を停止させれば、第1ターレット板32を予定した目標位置に大きな誤差なく停止させることができる。特に、図2で示したように、各フィルタ32A〜32Dを光路上に設定するために予め決められた位置(予定した目標位置)に第1ターレット板32を設定すれば、第1ターレット板32の外周部に設けられたクリック溝96、96、96、96に図示しないクリックバネ(クリックバネ94に相当)の先端部が係合して位置決めが行われるようになっている。そのため、第1ターレット板32が予定した目標位置から多少のずれを生じて停止するようなことがあってもクリックバネの付勢力によってクリックバネの先端部がクリック溝に係合する位置に第1ターレット板32が変位し、予定した目標位置に適切に位置決めされる。
【0057】
しかしながら、負荷トルクの大きさは上記のように温度によって変動し、また、フィルタユニット16を使用する環境として想定する周囲温度の範囲が大きい場合には、ゲインαをある温度範囲で適切な値に設定したとしても、他の温度範囲では、第1ターレット板32の実際の停止位置がクリックバネとクリック溝が係合されないほど、予定した目標位置に対してガタの範囲内で大きくずれる場合がある。
【0058】
例えば、周囲温度が高い場合には、図4に示したようにモータ28及び第1ターレット板32の回転速度が速くなるため、予定した目標位置で停止せずに目標位置を超過し、ガタの範囲内で大きくずれた位置で停止する可能性がある。逆に周囲温度が低い場合には、モータ28及び第1ターレット板32の回転速度が遅いため、予定した目標位置に到達せずに、ガタの範囲内で大きくずれた位置で停止する可能性がある。
【0059】
そこで、CPU100は、温度センサ106により入力される温度信号により第1ターレット板32の駆動機構の周囲温度を監視し、周囲温度に応じて上式(1)のゲインαを変更してモータ28を制御している。
【0060】
例えば、図5に示すように常温設定値、高温設定値として例えば0度と40度を設定し、フィルタユニット16(テレビカメラ10)を使用可能な温度範囲を0度未満の低温範囲、0度以上で40度未満の常温範囲、40度以上の高温範囲の3つの温度範囲に分ける。そして、周囲温度が高温範囲の場合にはゲインαをα1に設定し、常温範囲の場合にはゲインαをα2に設定し、低温範囲の場合にはゲインαをα3に設定する(但し、α1<α2<α3)。これによって、各温度範囲において、第1ターレット板32を目標位置に適切に停止させることができる適切なゲインαの値を設定することができ、第1ターレット板32が予定した目標位置から大きくずれるという不具合が解消される。
【0061】
例えば、上式(1)において目標位置の値P0と現在位置の値Pと差(P0−P)が一定であるものとすると、ゲインαを小さくすると、モータ28に印加される駆動電圧Vが小さくなり、モータ28の出力トルクが減少し、モータ28の回転速度が遅くなる。逆にゲインαを大きくすれば、モータ28の回転速度が速くなる。
【0062】
従って、負荷トルクが小さくなる高温範囲では常温範囲のときよりもゲインαを小さくすることによってモータ28の回転速度(即ち、第1ターレット板32の回転速度)の上昇を抑止しして、予定した目標位置をガタの範囲内で超過する大きなずれを防止することができる。逆に、負荷トルクが大きくなる低温範囲では常温範囲のときよりもゲインαを大きくすることによってモータ28の回転速度(即ち、第1ターレット板32の回転速度)の低減を抑止しして、予定した目標位置までガタの範囲内で到達しない大きなずれを防止することができる。
【0063】
図6は、CPU100のおける上式(1)のゲインαの設定に関する処理手順を示したフローチャートである。まず、CPU100は温度センサ106から温度信号を取得し、現在の周囲温度を検出する。そして、その温度が高温設定値(40度)以上か否か、即ち、高温範囲か否かを判定する(ステップS10)。YESと判定した場合には、ゲインαを高温範囲での値α1に設定する(ステップS12)。
【0064】
ステップS10においてNOと判定した場合には、続いて、常温設定値(0度)以上か否か、即ち、常温範囲か否かを判定する(ステップS14)。YESと判定した場合には、ゲインαを常温範囲での値α2に設定する(ステップS16)。
【0065】
ステップS14においてNOと判定した場合には低温範囲であることからゲインαを低温範囲での値α3に設定する(ステップS18)。
【0066】
以上の処理を適宜繰り返し、周囲温度に応じて上式(1)のゲインαの値を変更し、モータ28への駆動信号の値Vを算出する。
【0067】
尚、上記では、第1ターレット板32を第1モータ28で制御する制御回路での処理について説明したが、第2ターレット板34を第2モータ30で制御する制御回路においても同様の処理が行われる。
【0068】
また、上記実施の形態では、モータ28の回転方向、即ち、第1ターレット板32の駆動方向(回転方向)に関係なくゲインαの値を周囲温度のみに応じて変更するようにしたが、駆動機構の構成部品の構成上、モータ28の回転方向によって負荷トルク等が異なる場合があるため、モータ28の回転方向によってゲインαの値を変更するようにしてもよい。即ち、上式(1)において目標位置の値P0と現在位置の値Pとの差(P0−P)が正の値の場合と負の値の場合とでゲインαとして設定される値α1、α2、α3を異なる値に設定するようにしてもよい。
【0069】
また、上記実施の形態では、常温設定値と高温設定値として0度と40度を設定し、温度範囲を0度(常温設定値)未満の低温範囲、0度(常温設定値)以上で40度(高温設定値)未満の常温範囲、40度(高温設定値)以上の高温範囲の3つの温度範囲に分けた場合を示したが、常温設定値や高温設定値は、装置の特性に応じて好適な値に設定すればよく、0度と40度に設定する場合に限らない。また、温度範囲は3つに分ける場合に限らず、2つ又は4つ以上に分け、各温度範囲で適切なゲインαを設定するようにしてもよい。
【0070】
また、上記実施の形態では、第1ターレット板32又は第2ターレット板34を制御対象としてモータで駆動する制御回路について説明したが、本発明は、カメラなどに使用される任意の光学系に用いられる任意の光学素子をポテンショメータで検出される位置に基づいてモータで制御する制御回路(制御装置)に適用することができる。例えば、フォーカスレンズやズームレンズ等のレンズ、絞りなどの光学素子を制御対象とし、それらの制御対象の位置をポテンショメータで検出すると共に、ポテンショメータで検出された位置に基づいて制御対象を所定の目標位置にモータで駆動するような場合に本発明を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】図1(A)、(B)は、本発明が適用されるフィルタユニット装置の外観を示した図であり、そのフィルタユニットがテレビカメラ内部に設置されている状態を示した上面図及び側面図である。
【図2】図2(A)、(B)、(C)は、フィルタユニットの構成を示した正面図、側面図、及び、背面図である。
【図3】図3は、モータ制御回路の構成を示したブロックである。
【図4】図4は、モータの回転速度と周囲温度との関係を示した図である。
【図5】図5は、周囲温度に対するモータ制御に関する制御パラメータ(比例ゲイン)の設定例を示した説明図である。
【図6】図6は、モータ(ターレット板)の制御回路におけるCPUの処理手順を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0072】
10…テレビカメラ、12…カメラ本体、14…撮影レンズ、16…フィルタユニット、18…本体、20、46…支持板、22…回路基板、24…第1ツマミ、26…第2ツマミ、28…第1モータ、30…第2モータ、32…第1ターレット板、34…第2ターレット板、32A〜32D、34A〜34D…フィルタ、40…第1ポテンショメータ、42…第2ポテンショメータ、48、50、54、56、66、70、72、76、78、80、82…ギヤ、52、62、74…回転軸、90…ピン、92…背面板、94…クリックバネ、96、98…クリック溝、100…CPU、106…温度センサ、O…光軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学系に配置される所定の光学素子の位置を、該光学素子と動力伝達機構を介して連結された位置検出手段により検出し、該検出した位置に基づいて、前記光学素子を所定の目標位置にモータで駆動する光学素子制御装置において、
前記光学素子及びモータの周囲温度を検出する温度検出手段と、
前記光学素子を前記モータで駆動して所定の目標位置で停止させる場合において、前記位置検出手段の現在位置を示す値が前記目標位置を示す値となる位置で前記光学素子を停止させたときに、前記光学素子が実際に停止する位置と前記目標位置とのずれを低減させるように、前記温度検出手段により検出された周囲温度に基づいて、前記モータの回転速度又はトルクに関連する制御パラメータを変更し、該制御パラメータを用いて前記モータを駆動するモータ駆動手段と、
を備えたことを特徴とする光学素子制御装置。
【請求項2】
前記モータ駆動手段は、前記目標位置を示す値をP0、前記位置検出手段の現在位置を示す値をP、ゲインをαとして、前記モータに印加する駆動電圧Vを、次式、
V=α(P0−P)
により求めるものとし、前記制御パラメータとしてゲインαを前記温度検出手段により検出された周囲温度に基づいて変更することを特徴とする請求項1の光学素子制御装置。
【請求項3】
前記モータ駆動手段は、前記制御パラメータを前記モータの回転方向に応じて変更することを特徴とする請求項1又は2の光学素子制御装置。
【請求項4】
前記モータ駆動手段は、前記光学素子及びモータの周囲温度を複数の温度範囲に分割し、各温度範囲ごとに前記制御パラメータを変更すると共に、前記温度検出手段により検出された周囲温度が属する温度範囲に応じて前記制御パラメータを変更すること特徴とする請求項1、2、又は、3の光学素子制御装置。
【請求項5】
前記光学素子は、複数種のフィルタが設置されたターレット板であって、前記光学系の光路上に挿入するフィルタを切り替えるためのターレット板であることを特徴とする請求項1、2、3、又は、4の光学素子制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−171616(P2010−171616A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11093(P2009−11093)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】