説明

光学素子及び光ヘッド装置

【課題】回折格子に樹脂層の形成された光学素子において良好な特性を得る。
【解決手段】光を透過する光学部材と、前記光学部材の表面に形成された第1の樹脂層と、前記第1の樹脂層の上に形成された第2の樹脂層と、を有し、前記第1の樹脂層には、フレネルレンズ形状となる回折格子が形成されており、前記回折格子の中心部の高さは、前記回折格子の高部よりも低く、底部よりも高く形成されていることを特徴とする光学素子を提供することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子及び光ヘッド装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ディスクとして、Blu−ray(商品名、以下、BD)、DVD、CDが幅広く普及している。これらBD、DVD、CDは、記録及び再生等に用いられる光の波長等が異なっている。具体的には、BDは、基板の厚さ(カバー層の厚さ)が0.1mmの情報記録媒体に、波長405nmの光源から出射された光をNA(開口数)が0.85の対物レンズにより集光させることにより情報の記録及び再生を行う。DVDは、基板の厚さ(カバー層の厚さ)が0.6mmの情報記録媒体に、波長660nmの光源から出射された光をNAが0.65の対物レンズにより集光させることにより情報の記録及び再生を行う。CDは、基板の厚さ(カバー層の厚さ)が1.2mmの情報記録媒体に、波長785nmの光源から出射された光をNAが、0.45の対物レンズにより集光し、情報の記録及び再生を行う。
【0003】
上述したBD、DVD、CDにおける光ディスクにおいて、1つの対物レンズにより各々の光ディスクに使用する波長の光を集光することを考えた場合、各々の光ディスクのカバー層の厚さの違いに起因する球面収差を補正し、各光ディスクへの良好な集光特性が得られることが必要となる。また、各々の光の光軸方向に平行に移動する対物レンズが、光ディスクの表面と接触することを防ぐため、対物レンズと光ディスクとの間に一定の距離を確保しつつ、各光ディスクへの良好な集光特性が得られるようにする必要がある。
【0004】
このような問題に対応するため、特許文献1及び2に示されるように、レンズ形状の部材のレンズ面表面に回折格子を形成することにより、複数の波長の光に対し異なる回折作用を生じさせる複合光学素子が開示されている。また、1つの光学素子を用いて3つの異なる規格の光ディスクにおける情報の記録及び再生を行う光ピックアップ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−52787号公報
【特許文献2】国際公開第2007/145120号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1及び2に記載されている複合光学素子を作製する際、ガラス等のレンズ形状の部材の表面に、樹脂材料等からなる第1の樹脂層を形成し、更に、第1の樹脂層の上に樹脂材料等からなる第2の樹脂層を形成する。第1の樹脂層及び第2の樹脂層は紫外線硬化材料又は熱硬化材料により形成されており、第1の樹脂層の表面の所定の領域には回折格子が形成されている。
【0007】
回折格子は第1の樹脂層の表面に形成されているが、第1の樹脂層上に第2の樹脂層を形成する際、第1の樹脂層の表面形状に依存して第2の樹脂層の表面に凹凸が生じてしまう。このように第2の樹脂層の表面に凹凸が生じると、所望の光学的特性を得ることができない。
【0008】
本発明は、上記点を鑑みてなされたものであり、表面に回折格子を有するものの上に樹脂層が形成された光学素子において、樹脂層の表面を滑らかな形状で形成することができ、良好な特性の光学素子を提供することを目的とし、更には、この光学素子を用いることにより良好な特性の光ヘッド装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、光を透過する光学部材と、前記光学部材の表面に形成された第1の樹脂層と、前記第1の樹脂層の上に形成された第2の樹脂層と、を有し、前記第1の樹脂層には、フレネルレンズ形状となる回折格子が形成されており、前記回折格子の中心部の高さは、前記回折格子の高部よりも低く、底部よりも高く形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、光を透過する光学部材と、前記光学部材の表面に形成された第1の樹脂層と、前記第1の樹脂層の上に形成された第2の樹脂層と、を有し、前記第1の樹脂層の所定の領域には、フレネルレンズ形状となる回折格子が形成されており、前記回折格子の形成されていない領域の第1の樹脂層の高さは、前記回折格子の高部よりも低く、底部よりも高く形成されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、前記回折格子は、前記第1の樹脂層の所定の領域に形成されており、前記回折格子の中心部の高さは、前記回折格子の高部よりも低く、底部よりも高く形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、光を透過する光学部材と、前記光学部材の表面に形成された樹脂層と、を有し、前記光学部材の表面には、フレネルレンズ形状となる回折格子が形成されており、前記回折格子の中心部の高さは、前記回折格子の高部よりも低く、底部よりも高く形成されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、光を透過する光学部材と、前記光学部材の表面に形成された樹脂層と、を有し、前記光学部材の表面の所定の領域には、フレネルレンズ形状となる回折格子が形成されており、前記回折格子の形成されていない領域の前記光学部材の高さは、前記回折格子の高部よりも低く、底部よりも高く形成されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、前記回折格子は、前記光学部材の表面の所定の領域に形成されており、前記回折格子の中心部の高さは、前記回折格子の高部よりも低く、底部よりも高く形成されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、前記回折格子の中心部の高さd4は、前記回折格子の前記底部から前記高部までの高さをd3とした場合に、高さd3の40%以上、80%以下であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、前記回折格子の形成されていない領域の前記第1の樹脂層または前記光学部材の高さd1は、前記回折格子の前記底部から前記高部までの高さをd3とした場合に、高さd3の30%以上、70%以下であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、前記樹脂層または前記第2の樹脂層は、紫外線硬化樹脂、または、熱硬化樹脂により形成されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、前記樹脂層または前記第2の樹脂層は、金型により前記樹脂層または前記第2の樹脂層を形成する樹脂材料を固定した後、硬化させることにより形成されるものであることを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、前記光学部材は、曲面形状を有し光学的に作用する単レンズであることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、前記光学部材は、光を透過するガラス基板または樹脂基板であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、405nm波長帯の光、660nm波長帯の光および785nm波長帯の光を出射する光源と、前記光源から出射された各々の波長帯の光を各々の波長帯の光に対応した光ディスクの情報記録面に集光させる前記記載の光学素子と、前記光ディスクの情報記録面において反射された信号光を検出するための光検出器と、を有する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、回折格子上に形成された樹脂層の表面を滑らかな形状で形成することができ、良好な光学的特性が得られる光学素子を提供できる。また、この光学素子を用いることにより、特性の良好な光ヘッド装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】形成しようとする光学素子の説明図
【図2】実際に形成される光学素子の説明図
【図3】光学素子の表面形状の説明図
【図4】第1の実施の形態における光学素子の説明図
【図5】第1の実施の形態における光学素子の製造方法の工程図(1)
【図6】第1の実施の形態における光学素子の製造方法の工程図(2)
【図7】光学素子の周辺領域の高さの説明図
【図8】第1の樹脂層の高さと第2の樹脂層の高さの相関図
【図9】第1の実施の形態における中心部の高さを低くした光学素子の説明図
【図10】中心部の高さを低くした光学素子の第1の樹脂層の表面の説明図
【図11】中心部の高さを低くした光学素子の第2の樹脂層の表面の説明図
【図12】図9に示す光学素子における第2の樹脂層の表面の形状図
【図13】第1の実施の形態における中心部を凹とした光学素子の説明図
【図14】図13に示す光学素子における第2の樹脂層の表面の形状図
【図15】第1の樹脂層の中心部の高さの比率(d4/d3)と発生収差との相関図
【図16】第1の実施の形態における中心部の高さを低くした別の光学素子の説明図
【図17】第1の実施の形態における光学素子の構造図
【図18】第1の実施の形態における光学素子の中心部分の拡大図
【図19】第1の実施の形態における光学素子の周辺部分の拡大図
【図20】第1の実施の形態における他の光学素子の構造図
【図21】第2の実施の形態における光ヘッド装置の構成図
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を実施するための形態について、以下に説明する。尚、同じ部材等については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0025】
〔第1の実施の形態〕
最初に、回折格子が形成されているものの上に、更に樹脂層を形成した場合、樹脂層の表面に凹凸が発生することについて、図1及び図2に基づき説明する。図1に示すようなガラス等のレンズ形状の光学部材10の上に、表面に所定の形状のフレネルレンズ形状となるブレーズ状の回折格子を有する第1の樹脂層20を形成し、更に、第1の樹脂層20上に第2の樹脂層30を形成した光学素子を実際に作製した場合、図2に示すように第2の樹脂層30の表面には凹凸が発生する。即ち、図1に示すような所望の表面形状とは異なり、図2に示すように第2の樹脂層30の表面には凹凸が形成される。このような第2の樹脂層30の表面に凹凸が形成されてしまうと、所望の光学的な特性を得ることができない。
【0026】
図3は、図2に示す第2の樹脂層30の表面における凹凸の状態を示すものであり、第2の樹脂層30の理想の表面形状に対する実際の表面形状のズレ量を示すものである。図3においては、理想の形状と一致するラインを3Aに示し、半径方向において理想の表面形状に対する高さのズレ量を3Bに示す。図2に示すように、第1の樹脂層20の表面には、中心から半径1.2mmまでの領域には回折格子が形成されており(この領域を回折格子が形成される領域21とする)、半径が1.2mmから1.5mmまでの周辺となる周辺領域22では回折格子は形成されておらず滑らかな形状となっている。第2の樹脂層30の表面に発生する凹凸は、中心部分において生じる凸部31と、回折格子と回折格子の形成されていない周辺となる領域との境界部分に生じる凸部32が特に高く、このような高い凸部31及び32が発生すると、光学的特性が変化し所望の特性を得ることができない。
【0027】
このように、第2の樹脂層30の表面に発生する凸部31及び32の高さが高くなる理由としては、樹脂材料を硬化させる際の収縮が原因であるものと考えられる。即ち、第2の樹脂層30を形成するために用いた樹脂材料は、紫外線照射により硬化する材料であり、硬化する際に所定の収縮率で収縮する。
【0028】
このため、第1の樹脂層20の表面における回折格子の中心部分のように格子高さの高い部分が広い領域に形成されている場合、第1の樹脂層20上の硬化させる前の樹脂材料の表面の高さが均一であっても、回折格子の中心部分では他の回折格子の形成されている領域よりも樹脂材料は薄くなる。よって、同じ収縮率で樹脂材料が収縮した場合、厚さの薄い部分は収縮量が小さく、厚さの厚い部分は収縮量が大きい。従って、第1の樹脂層20の表面に形成される回折格子において、比較的面積が広く高さの高い中心部分では、樹脂材料の収縮量が少なく、第2の樹脂層30の表面に凸部31が発生するものと考えられる。
【0029】
また、第1の樹脂層20において、回折格子が形成されない周辺領域22の高さが、回折格子の高さの高い端部、即ち高部と同じ高さである場合、第1の樹脂層20上において、硬化させる前の樹脂材料の表面の高さが均一であっても、樹脂材料は周辺領域22よりも回折格子の形成される領域21に多く入り込む。即ち、第2の樹脂層30を形成する樹脂材料は、周辺領域22上では薄く、回折格子の形成される領域21上では厚くなる。よって、同じ収縮率で樹脂材料が収縮した場合、回折格子の形成される領域21の収縮量は、回折格子の形成されない周辺領域22よりも大きいため、回折格子が形成される領域21と回折格子の形成されない周辺領域22との間の第2の樹脂層30の表面には凸部32が発生するものと考えられる。
【0030】
以上のように、第2の樹脂層30の表面に生じる凸部31及び32は、第1の樹脂層20における回折格子の形状に起因して生じるものと考えられる。
【0031】
(光学素子)
次に、本実施の形態における光学素子について説明する。本実施の形態における光学素子では、図4に示すように、第1の樹脂層20の表面に形成される回折格子120の中心部125の高さは、回折格子120の高部123と底部124との高さの平均と、同じか或いは、これに近い値となるように形成されている。また、第1の樹脂層20の回折格子120の形成されない周辺領域127における高さは、回折格子120の高部123と底部124の高さの平均と、同じか或いは、これに近い値となるように形成されている。
【0032】
尚、本実施の形態における光学素子では、第1の樹脂層20の表面に形成される回折格子120は、フレネルレンズ形状となるブレーズ状のものであって輪体状に形成されている。また、回折格子120の高部123と底部124との高さの平均を回折格子120の平均高さと記載する場合がある。また、回折格子120の高部123とは、第1の樹脂層20の表面に形成される回折格子120において、光学部材10の表面から離れた端部、又は、これらの端部を結ぶ線を意味するものであり、回折格子120の底部124とは、第1の樹脂層20の表面に形成される回折格子120において、光学部材10の表面に近い端部、又は、これらの端部を結ぶ線を意味するものである。
【0033】
また、本実施の形態における光学素子では、特に、説明のない限り光学部材10はガラスまたはプラスチック等で形成されており、第1の樹脂層20及び第2の樹脂層30は、紫外線硬化材料、又は、熱硬化材料により形成されている。尚、本実施の形態における光学素子では、第2の樹脂層30には硬化による収縮率が高さ方向に3.5%の紫外線硬化樹脂を用いている。また、本実施の形態における光学素子においては、光学部材10、第1の樹脂層20、第2の樹脂層30の各々の波長における屈折率は、表1に示されるものを用いている。
【0034】
【表1】

次に、図5及び図6に基づき、本実施の形態における光学素子の作製方法について説明する。本実施の形態における光学素子は、最初に、光学部材10をレンズ形状等の所定の形状に形成する。その後、図5(a)に示すように、第1の樹脂層20を形成するための金型151の表面に、第1の樹脂層20となる紫外線硬化樹脂からなる樹脂材料152を滴下する。次に、図5(b)に示すように、金型151に滴下された樹脂材料152上に光学部材10をのせる。次に、図5(c)に示すように、石英型153と金型151により光学部材10をプレスして、紫外線154を照射し樹脂材料152を硬化させ第1の樹脂層20を形成する。この後、図5(d)に示すように、石英型153及び金型151から外すことにより、光学部材10の表面に第1の樹脂材料20が形成されたものが作製される。
【0035】
次に、図6(a)に示すように、第2の樹脂層30を形成するための金型155の表面に、第2の樹脂層30となる紫外線硬化樹脂からなる樹脂材料156を滴下する。次に、図6(b)に示すように、金型155に滴下された樹脂材料156上に第1の樹脂層20が形成されている光学部材10を第1の樹脂層20が樹脂材料156側となるようにのせる。次に、図6(c)に示すように、石英型157と金型155により光学部材10をプレスして、紫外線158を照射し樹脂材料156を硬化させ第2の樹脂層30を形成する。この後、図6(d)に示すように、石英型157及び金型155から外すことにより、本実施の形態における光学素子が作製される。
【0036】
(周辺部の高さ)
次に、第1の樹脂層20の回折格子の平均高さに対し周辺部の高さを変えた場合における第2の樹脂層30の表面状態について説明する。尚、説明等の便宜上、光学部材10として平板状のガラス基板210を用いた場合について説明するが、ガラス基板210以外の樹脂基板等であっても、光を透過する材料であれば同様である。
【0037】
図7には、ガラス基板210上に、第1の樹脂層220及び第2の樹脂層230が形成されており、第1の樹脂層220の表面の所定の領域には回折格子221が形成されている光学素子が各々示されている。これらの光学素子は、回折格子221が形成されていない周辺領域227の高さを変えて第1の樹脂層220が形成されており、第1の樹脂層220上に形成される第2の樹脂層230の表面状態が示される。尚、図7においては、回折格子221の高部223と底部224との平均の高さの位置を破線7Aで示し、破線7Aで示される回折格子221の平均高さに対する第1の樹脂層220の周辺領域227の高さをd1とする。また、第2の樹脂層230の表面において対応する部分の高さをd2とする。尚、各樹脂層は図5、図6と同じ手順で硬化させている。
【0038】
図7(a)は、第1の樹脂層220の表面において、周辺領域227の高さd1が−12.2μmとなるように、即ち、周辺領域227の高さが回折格子221の底部223と同じ高さとなるように形成したものであり、この場合では第2の樹脂層230の表面における高さd2は−0.45μmとなる。
【0039】
また、図7(b)は、第1の樹脂層220の表面において、周辺領域227の高さd1が5.0μmとなるように形成したものであり、この場合では第2の樹脂層230の表面における高さd2は0.15μmとなる。
【0040】
また、図7(c)は、第1の樹脂層220の表面において、周辺領域227の高さd1が0.7μmとなるように形成したものであり、この場合では第2の樹脂層230の表面における高さd2は0.04μmとなる。尚、図7(c)は、高さd1及びd2は小さいため、図面においては記載が省略されている。
【0041】
図8は、高さd1と高さd2との関係を示すものである。図7(a)における関係を点8Aに、図7(b)における関係を点8Bに、図7(c)における関係を点8Cに示す。第2の樹脂層230を形成する樹脂材料は、前述のとおり硬化させた場合の収縮率が3.5%であり、高さ方向に収縮するものとして、対応する高さd1と高さd2の関係を破線8Dにより示すと、点8A、点8B、点8Cは、破線8Dに近い位置に存在している。
【0042】
このことから、第2の樹脂層230の表面に発生する凹凸は、第2の樹脂層230を形成する際の樹脂材料の硬化による収縮に起因して生じることが確認される。従って、第1の樹脂層220において形成される周辺領域227の高さを、回折格子221における平均高さと同じか或いは、これに近い値とすることにより、第2の樹脂層230における表面の凹凸をなくすこと又は、小さくすることが可能である。即ち、第1の樹脂層220において回折格子221が形成されていない周辺領域227における高さを回折格子221の高部223から底部224までの高さの範囲で形成することにより、第2の樹脂層230における表面の凹凸を小さくすることが可能であり、周辺領域227における高さを回折格子221における高部223と底部224の平均の高さに近づけることにより、第2の樹脂層230における表面の凹凸を殆どなくすことが可能である。尚、高さd1は、後述する理由により、高部223と底部224の平均の高さを中心として、回折格子221の高部223と底部224との高さの±20%範囲で形成されていることが、より好ましい。
【0043】
このことは、ガラス基板210をレンズ形状の光学部材10に代えた場合においても同様であると考えられる。尚、上記説明においては、第1の樹脂層220は第1の樹脂層20に、第2の樹脂層230は第2の樹脂層30に相当する。
【0044】
(中心部の高さ)
次に、第1の樹脂層220における回折格子221の中心部の高さを変えた場合の第2の樹脂層230の表面状態について説明する。具体的には、図9に示すように、第1の樹脂層220における回折格子221の底部224から高部223までの高さをd3とし、回折格子221の中心部225の高さ、即ち、回折格子221の底部224を結ぶ線から中心部分225の最も高いところの高さをd4とする。尚、高さd3を回折格子221の高さ等と記載する場合があり、高さd4を回折格子221の中心部225の高さ等と記載する場合がある。
【0045】
図10は、中心部225の高さd4を変えた場合における第1の樹脂層220の表面形状を示す。図10に示すように、同一のレンズ面となる曲線の切断位置を変えることにより、中心部225の高さd4を変える場合では、中心部分225が形成される範囲の面積も変化する。即ち、中心部225の高さd4を低くすることにより、中心部分225が形成される領域の面積は狭くなる。また、このように曲線の切断位置を変えることにより、中心部225の高さd4を低くする場合には、曲線形状を変化させることなく中心部225の高さを変化させることができるため、回折効率をロスすることなく所望の光学特性を得ることができる。尚、図10及び図11においては、高さd4は高さd3に対する比率、即ち、d4/d3により表わされている。
【0046】
図11は、図10に示されるように第1の樹脂層220が各々の形状で形成されているものについて、第2の樹脂層230を形成した場合における第2の樹脂層220の表面形状を示す。図に示されるように、中心部225の高さd4を低くするに伴い、第2の樹脂層230の表面における中心部分の高さは徐々に低くなり、中心部225の高さd4が60%の場合に、第2の樹脂層230の中心部分における高さは0に近い値となる。
【0047】
例えば、図9に示す光学素子において、中心部225の高さd4が回折格子221の高さd3の半分となるように形成した場合(中心部225の高さd4が50%の場合、即ち、d4/d3が50%の場合)には、図12に示すように、第2の樹脂層230の中心部分の表面における凹凸の高さは0.1μm以下となり、目立った凹凸は形成されない。このように、高さd4を回折格子221の高部223よりも低く、底部224よりも高く形成することにより、第2の樹脂層230の中心部に形成される凹凸を小さくすることができ、滑らかな表面形状で形成することができる。
【0048】
ところで、図13に示すように、第1の樹脂層220の中心部225aが凹形状となるように形成した構造の光学素子において、中心部225aの最も低い位置の高さが回折格子221の底部224の高さと等しい場合には、図14に示すように、第2の樹脂層230の中心部分の表面には、約0.4μmの凹部が形成される。このことから、中心部225aの形状を反転させ中心部225を凸形状となるように形成した場合には、第2の樹脂層230の中心部分の表面には、この凹部を反転させた形状に近似した凸部が形成されるものと推察される。このように中心部225の高さが、底部224の高さと同じである場合や、高部223の高さと同じである場合には、第2の樹脂層230の中心部分の表面には、大きな凹部や凸部が形成されるものと考えられる。尚、図11は、シミュレーションの結果であり、図12及び図14は、実測した結果である。
【0049】
また、図15は、回折格子221の高さd3に対する中心部分225の高さd4と発生する収差との関係を計算した結果である。この結果に基づくならば、発生収差を20mλ以下にしようとした場合、高さd4に対する高さd3の比率、即ち、d4/d3が40%以上、80%以下の範囲となるように形成することが好ましい。この範囲は、d4/d3の値が、60%を中心として±20%の範囲にある。この±20%となる範囲の幅については、高さd1の範囲の場合についても同様に適用されるものと考えられる。尚、図15に基づくならば、より好ましくは、発生収差は、10mλ以下が好ましく、d4/d3を55%以上、75%以下の範囲となるように形成することが好ましい。
【0050】
上記説明では、第1の樹脂層220のおける中心領域225の高さd4を低くすると、中心部分225となる範囲の面積が狭くなる場合について説明したが、図16に示すように、中心領域225の高さd4を低くしても中心部分225となる範囲の面積が変化しない場合についても同様であると考えられる。
【0051】
以上より、本実施の形態における光学素子では、表面の所定の領域に回折格子が形成されている第1の樹脂層220の上に第2の樹脂層230を形成しても、第2の樹脂層230の表面に凹凸が発生することなく、表面を滑らかな形状で形成することができる。このように第2の樹脂層230の表面を滑らかな形状で形成することにより、所望の良好な光学特性を得ることができる。
【0052】
図17は、レンズ形状の光学部材10を用いた本実施の形態における光学素子をより詳細に示すものである。光学部材10としては、球面レンズ、非球面レンズ等の形状が挙げられる。本実施の形態における光学素子は、前述したように、レンズ形状の光学部材10の表面に第1の樹脂層20及び第2の樹脂層30が形成されているものであり、第1の樹脂層20の表面には、フレネルレンズ形状となるブレーズ状の回折格子120が形成されている。回折格子120は、図18に示すように、回折格子120の高さd3は25μmとなるように形成されており、回折格子120の中心部125における高さd4は16μmとなるように形成されており、d4/d3は64%となるように形成されている。また、第1の樹脂層20において回折格子120と回折格子120が形成されない周辺領域127との間では、図19に示すように、回折格子120の高部123と底部124との高さの平均と同じ高さとなるように第1の樹脂層20の周辺領域127が形成されている。尚、図18は、図17において一点鎖線17Aにより囲まれた領域の拡大図であり、図19は、図17において一点鎖線17Bにより囲まれた領域の拡大図である。
【0053】
本実施の形態では、第1の樹脂層30等の表面にブレーズ形状の回折格子を形成した場合について説明したが、ブレーズ形状を複数の段数を有する階段状で形成した回折格子についても同様に適用することができる。
【0054】
また、本実施の形態では、レンズ等の光学部材10に表面に回折格子の形成された第1の樹脂層20が形成されている場合について説明したが、表面に回折格子が形成された光学部材において、回折格子の形成されている面上に、第2の樹脂層30に相当する樹脂層を形成した光学素子についても同様に適用することができる。
【0055】
例えば、図20に示すように、ガラスまたは樹脂材料の表面に回折格子が形成された光学部材260の回折格子が形成されている面に第2の樹脂層30と同様の樹脂層270を形成したものであってもよい。
【0056】
〔第2の実施の形態〕
次に、第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第1の実施の形態における光学素子を有する光ヘッド装置である。
【0057】
図21に基づき本実施の形態における光ヘッド装置について説明する。本実施の形態における光ヘッド装置は、光ディスク310の記録及び再生を行うための光ヘッド装置であり、3種類の異なる波長の光に対応したものである。具体的には、光ディスク310として、BD、DVD、CDの3種類の光ディスクに対応するものであり、それぞれ、405nm波長帯、660nm波長帯、785nm波長帯の光に対応したものである。
【0058】
本実施の形態における光ヘッド装置は、405nm波長帯である波長λの光を発する第1のレーザ光源311、660nm波長帯である波長λの光を発する第2のレーザ光源312、785nm波長帯である波長λの光を発する第3のレーザ光源313、第1のビームスプリッタ314、第2のビームスプリッタ315、第3のビームスプリッタ316、コリメータレンズ317、光学素子318、第4のビームスプリッタ319、第5のビームスプリッタ320、第1のフォトディテクタ321、第2のフォトディテクタ322、第3のフォトディテクタ323、1/4波長板330を有している。尚、これらのビームスプリッタは、偏光ビームスプリッタ、ダイクロイックプリズムなどが用いられる。
【0059】
光学素子318は、対物レンズ機能を有する第1の実施の形態における光学素子が用いられる。また、コリメータレンズ317は、光軸に平行に移動することにより光学素子318に入射する各々の波長の光の発散角を調節することができるものが備えられてもよい。コリメータレンズ317の移動には不図示のステッピングモーター等が用いられる。具体的には、各々の光源からの位置とコリメータレンズ317までの物体側主点の距離をsとし、コリメータレンズ317の像側主点とコリメータレンズ317の像側主点とコリメータレンズ317による結像位置の距離をsとし、コリメータレンズ317の焦点距離をfとした場合に、数1に記載された式が成立する。数1における式において、sの値によってコリメータレンズ317に入射する光の発散角が定まるため、所望の発散角となるように、sの値、fの値を定めることができる。
【0060】
【数1】

本実施の形態において、第1のレーザ光源311より発せられた波長λの光は、第1のビームスプリッタ314、第2のビームスプリッタ315及び第3のビームスプリッタ316を直進し、コリメータレンズ317を介し、対物レンズである光学素子318により集光され、光ディスク310の情報記録面に照射される。この際、再生される光ディスク310は、波長λの光に対応した第1の光ディスクであるBDである。この後、光ディスク310の情報記録面において反射された光は、光学素子318及びコリメータレンズ317を透過した後、第3のビームスプリッタ316により偏向され、更に、第4のビームスプリッタ319及び第5のビームスプリッタ320を直進した後、第1のフォトディテクタ321に入射し、光ディスク310の情報記録面に記録された信号が電気信号に変換され検出される。尚、コリメータレンズ317と光学素子318との間の光路中には、光の波長に対して1/4となる位相差を与える1/4波長板330が備えられている。更に光路中に光学素子318に入射する各波長の光の開口数を制御する不図示の開口制限素子が備えられていてもよい。
【0061】
また、第2のレーザ光源312より発せられた波長λの光は、第1のビームスプリッタ314において偏向された後、第2のビームスプリッタ315及び第3のビームスプリッタ316を直進し、コリメータレンズ317を介し、対物レンズである光学素子318により集光され、光ディスク310の情報記録面に照射される。この際、再生される光ディスク310は、波長λの光に対応した第2の光ディスクであるDVDである。この後、光ディスク310の情報記録面において反射された光は、光学素子318及びコリメータレンズ317を透過した後、第3のビームスプリッタ316により偏向され、更に、第4のビームスプリッタ319を直進した後、第5のビームスプリッタ320により偏向されて、第2のフォトディテクタ322に入射し、光ディスク310の情報記録面に記録された信号が電気信号に変換され検出される。
【0062】
また、第3のレーザ光源313より発せられた波長λの光は、第2のビームスプリッタ315において偏向された後、第3のビームスプリッタ316を直進し、コリメータレンズ317を介し、対物レンズである光学素子318により集光され、光ディスク310の情報記録面に照射される。この際、再生される光ディスク310は、波長λの光に対応した第3の光ディスクであるCDである。この後、光ディスク310の情報記録面において反射された光は、光学素子318及びコリメータレンズ317を透過した後、第3のビームスプリッタ316により偏向され、更に、第4のビームスプリッタ319により偏向されて、第3のフォトディテクタ323に入射し、光ディスク310の情報記録面に記録された信号が電気信号に変換され検出される。
【0063】
以上より、本実施の形態は、3つの異なる波長のレーザ光源、即ち、波長λの光を発する第1のレーザ光源311、波長λの光を発する第2のレーザ光源312、波長λの光を発する第3のレーザ光源313を有し、各々の光源から発射する光に対応した光ディスクの情報記録面に記録されている情報を検出することができる。
【0064】
以上、本発明の実施に係る形態について説明したが、上記内容は、発明の内容を限定するものではない。
【符号の説明】
【0065】
10 光学部材
20 第1の樹脂層
30 第2の樹脂層
31 凸部
32 凸部
120 回折格子
123 高部(回折格子)
124 底部(回折格子)
125 中心部
127 周辺領域
210 透明基板
220 第1の樹脂層
221 回折格子
223 高部(回折格子)
224 底部(回折格子)
225 中心部
227 周辺領域
230 第2の樹脂層
310 光ディスク
311 第1のレーザ光源
312 第2のレーザ光源
313 第3のレーザ光源
314 第1のビームスプリッタ
315 第2のビームスプリッタ
316 第3のビームスプリッタ
317 コリメータレンズ
318 光学素子(対物レンズ)
319 第4のビームスプリッタ
320 第5のビームスプリッタ
321 第1のフォトディテクタ
322 第2のフォトディテクタ
323 第3のフォトディテクタ
330 1/4波長板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を透過する光学部材と、
前記光学部材の表面に形成された第1の樹脂層と、
前記第1の樹脂層の上に形成された第2の樹脂層と、を有し、
前記第1の樹脂層には、フレネルレンズ形状となる回折格子が形成されており、
前記回折格子の中心部の高さは、前記回折格子の高部よりも低く、底部よりも高く形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
光を透過する光学部材と、
前記光学部材の表面に形成された第1の樹脂層と、
前記第1の樹脂層の上に形成された第2の樹脂層と、を有し、
前記第1の樹脂層の所定の領域には、フレネルレンズ形状となる回折格子が形成されており、
前記回折格子の形成されていない領域の第1の樹脂層の高さは、前記回折格子の高部よりも低く、底部よりも高く形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項3】
前記回折格子は、前記第1の樹脂層の所定の領域に形成されており、
前記回折格子の中心部の高さは、前記回折格子の高部よりも低く、底部よりも高く形成されていることを特徴とする請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
光を透過する光学部材と、
前記光学部材の表面に形成された樹脂層と、を有し、
前記光学部材の表面には、フレネルレンズ形状となる回折格子が形成されており、
前記回折格子の中心部の高さは、前記回折格子の高部よりも低く、底部よりも高く形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項5】
光を透過する光学部材と、
前記光学部材の表面に形成された樹脂層と、を有し、
前記光学部材の表面の所定の領域には、フレネルレンズ形状となる回折格子が形成されており、
前記回折格子の形成されていない領域の前記光学部材の高さは、前記回折格子の高部よりも低く、底部よりも高く形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項6】
前記回折格子は、前記光学部材の表面の所定の領域に形成されており、
前記回折格子の中心部の高さは、前記回折格子の高部よりも低く、底部よりも高く形成されていることを特徴とする請求項5に記載の光学素子。
【請求項7】
前記回折格子の中心部の高さd4は、前記回折格子の前記底部から前記高部までの高さをd3とした場合に、高さd3の40%以上、80%以下であることを特徴とする請求項1、3、4、6のいずれかに記載の光学素子。
【請求項8】
前記回折格子の形成されていない領域の前記第1の樹脂層または前記光学部材の高さd1は、前記回折格子の前記底部から前記高部までの高さをd3とした場合に、高さd3の30%以上、70%以下であることを特徴とする請求項2、3、5、6のいずれかに記載の光学素子。
【請求項9】
前記樹脂層または前記第2の樹脂層は、紫外線硬化樹脂、または、熱硬化樹脂により形成されていることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の光学素子。
【請求項10】
前記樹脂層または前記第2の樹脂層は、金型により前記樹脂層または前記第2の樹脂層を形成する樹脂材料を固定した後、硬化させることにより形成されるものであることを特徴とする請求項9に記載の光学素子。
【請求項11】
前記光学部材は、曲面形状を有し光学的に作用する単レンズであることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の光学素子。
【請求項12】
前記光学部材は、光を透過するガラス基板または樹脂基板であることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の光学素子。
【請求項13】
405nm波長帯の光、660nm波長帯の光および785nm波長帯の光を出射する光源と、
前記光源から出射された各々の波長帯の光を各々の波長帯の光に対応した光ディスクの情報記録面に集光させる請求項1から11のいずれかに記載の光学素子と、
前記光ディスクの情報記録面において反射された信号光を検出するための光検出器と、を有する光ヘッド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−243377(P2012−243377A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116136(P2011−116136)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】