説明

光硬化性組成物、その色素増感型太陽電池用シーリング材としての使用、色素増感型太陽電池及びその製造方法

【課題】耐ヨウ素性及び耐溶剤性に優れ、導電性基板に接着し、プラスチックフィルムタイプの色素増感型太陽電池にも対応可能なフレキシブル性を持ち、かつスクリーン印刷可能な光硬化性組成物、及び該光硬化性組成物を用いて電解液を封止した色素増感型太陽電池を提供する。
【解決手段】イソボルニルアクリレート及びアルキル基の炭素数が4〜18のアルキル(メタ)アクリレートを含むモノマー成分、飽和熱可塑性エラストマー、並びに光重合開始剤を含有する光硬化性組成物であって、イソボルニルアクリレートとアルキル(メタ)アクリレートとの重量比が20:80〜70:30であり、温度20℃、剪断速度1sec−1の条件下で測定した粘度が5〜4000Pa・sである光硬化性組成物、該光硬化性組成物をシーリング材として用いて電解液を封止した色素増感型太陽電池、及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性組成物に関し、さらに詳しくは、色素増感型太陽電池における電解液のシーリング材として優れた特性を示す光硬化性組成物に関する。さらに、本発明は、2枚の導電性基板を該光硬化性組成物から形成されたシーリング層を介して接着させ、両導電性基板間の隙間に電解液を封入した構造の色素増感型太陽電池とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感型太陽電池は、従来の太陽電池のようにシリコン半導体を使用せず、色素を用いて太陽光から電気を取り出す新しい太陽電池である。色素増感型太陽電池は、低コストで製造することができることに加えて、プラスチックフィルム基板を用いることにより薄型化や屈曲性の付与が可能なこと、様々な色素分子を使用することによりカラフルな太陽電池を作製することができること、自動車や衣類、カーテンなどに簡単に装着できることなど、多彩な特徴を有している。
【0003】
近年、色素増感型太陽電池の実用化に向けて、エネルギー変換効率の向上に関する研究開発が進められているが、実用化を進める上で、電解液を封入するのに適したシーリング材の開発が欠かせない重要課題のひとつとなっている。色素増感型太陽電池は、一般に、2枚の導電性基板間に電解液を封入した構造を有している。電解液の封入には、シーリング材が用いられるため、シーリング材の封止性や電解液に対する耐性の向上が、色素増感型太陽電池の信頼性と耐久性を高める上で不可欠である。
【0004】
より具体的に説明すると、色素増感型太陽電池は、図1に示すような構造を有している。図1は、色素増感型太陽電池の基本構造を示す断面図である。ガラスまたはプラスチックフィルムからなる透明基板1の片面に、透明導電膜2が形成されており、該透明導電膜2の上に、二酸化チタン粒子などの金属酸化物半導体粒子を焼き付けた金属酸化物半導体層4が形成されている。金属酸化物半導体層4は、通常、多孔質構造を有しており、その表面及び多孔質構造の内部に多数の色素3が吸着されている。
【0005】
上記の「透明基板/透明導電膜/色素を吸着した金属酸化物半導体膜」の層構成を有する導電性基板(作用電極基板)に対向して、基板8上に導電膜(導電層)7を形成した「導電膜/基板」の層構成を有する導電性基板(対極基板)が配置されている。両導電性基板は、各導電膜側で対向して、これらの導電性基板の周辺部に枠状に設けられたシーリング層6を介して配置されている。シーリング層は、一般に、シーリング材により形成されているが、固体のスペーサーが用いられたり、固体のスペーサーと接着剤とが併用されることがある。シーリング層6により形成された両導電性基板間の隙間に、様々な方法により電解液5を封入する。電解液5としては、一般に、有機溶媒に電解質を溶解した溶液が用いられている。このような電解液としては、例えば、ヨウ素とヨウ化リチウムとを含有するアセトニトリル/エチレンカーボネート混合溶液が代表的なものである。
【0006】
色素増感型太陽電池に光を当てると、先ず、色素3が光を吸収して、電子を放出する。電子は、金属酸化物半導体層4に素早く移動し、そこから透明導電膜2を伝わり、さらに回路9及び11を経て、対極の導電膜7に伝わる。対極の導電膜7に伝わった電子は、電解液中の三ヨウ化物イオン(I)を還元して、ヨウ化物イオン(I)に変換する。ヨウ化物イオンは、色素3上で再び酸化されて三ヨウ化物イオンとなる。このサイクルを繰り返すことにより、電流が流れる。回路9及び11を負荷(例えば、モーター、照明機器)10に接続すれば、電気エネルギーを取り出すことができる。充放電過程で電荷輸送に関与する電解質としては、ヨウ素/ヨウ素化合物の組み合わせ以外にも、様々なレドックス系を用いることができるが、同様の酸化−還元反応のサイクルが繰り返される。
【0007】
シーリング層の封止性が悪いと、電解液が漏れやすくなる。初期の封止性が良好であっても、シーリング層の電解液に対する耐性が不十分であると、経時により電解液によって膨潤したり、電解質との反応によって劣化したりする。その結果、電解液が漏れたり、電解質濃度が低下したりするため、色素増感型太陽電池の信頼性と耐久性が著しく低下する。
【0008】
色素増感型太陽電池の基本原理や構造については、例えば、特許第2664194号公報(特許文献1)及び特公平8−15097号公報(特許文献2)に詳細な開示がある。電解液の封止方法について、特許文献1には、合成樹脂やガラスなどの電気絶縁材料からなる枠を用いて封止する方法が記載されている。特許文献2には、シーラントとして、シリコン接着剤、ポリエチレン及びエポキシ樹脂を用いることが記載されている。
【0009】
特開2000−30767号公報(特許文献3)には、色素増感型太陽電池の電解液注入用開口部をシリコン樹脂やエポキシ樹脂で封止する方法が記載されている。特開2000−150005号公報(特許文献4)には、色素増感型半導体電極が形成されたチタン基板と、白金が蒸着されたITO薄膜の付いたガラス基板とを、スペーサー(ポリエステルフィルム)を介して張り合わせ、その隙間にヨウ素電解液をいれ、周囲にエポキシ樹脂を塗布し硬化させて接合したことが記載されている。特開2000−294814号公報(特許文献5)には、色素増感型太陽電池の電極間の4辺の端部にスペーサー(ポリテトラフルオロエチレンシート)を挟み、注入口2箇所を残し周囲をエポキシ接着剤でシールしたことが記載されている。
【0010】
しかし、固体のスペーサーは、2枚の導電性基板間に圧縮された状態で配置されているため、経時により弾力性が損なわれて、シールとしての信頼性が低下しやすい。シリコン樹脂やエポキシ樹脂などのシーラントは、色素増感型太陽電池の電解液により侵されやすく、長期間にわたって電解液と接触することにより、膨潤したり、劣化したりして、電解液が漏れることがある。
【0011】
特開2000−186114号公報(特許文献6)には、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体またはそのアイオノマーを太陽電池素子封止材料として使用することが提案されている。同様に、特開2001−144313号公報(特許文献7)には、エチレン−極性モノマー共重合体にカップリング剤を配合した樹脂組成物を太陽電池素子封止材料として使用することが提案されている。
【0012】
特許文献6及び7に開示されている封止方法は、樹脂材料を押出成形またはプレス成形によりシートに成形し、次いで、該シートを所定形状に打抜き加工し、そして、打抜き加工品を樹脂材料の溶融温度に加熱して基板に圧着させるというものである。特許文献6及び7には、太陽電池モジュールとして、シリコン、ガリウム−砒素、銅−インジウム−セレンなどの半導体を用いたものが開示されているだけであって、電解液を用いる湿式太陽電池である色素増感型太陽電池については記載されていない。
【0013】
特許文献6及び7に開示されているアイオノマーの如き樹脂材料は、シーリング材として使用するために、予め所定形状に打抜き加工する必要がある。該樹脂材料は、固体でかつ溶剤に難溶性であることから、スクリーン印刷などのパターン印刷技術により導電性基板上に塗工してシーリングパターンを形成することができない。そのため、該樹脂材料を使用する方法は、製造工程が多く、打抜き加工による歩留まりの低下もある。
【0014】
さらに、該樹脂材料の打抜き加工品を基板に接着させるには、樹脂材料の溶融温度にまで加熱する必要がある。色素増感型太陽電池における導電性基板の封止は、各導電性基板の導電膜側で行われるが、作用電極基板の導電膜上には、色素を吸着した金属酸化物半導体膜が存在している。色素増感型太陽電池に使用する色素は、必ずしも高度の耐熱性を有するものだけではないので、封止加工の際の加熱により色素が劣化もしくは破壊されないようにする必要があり、実際上、製造が困難である。色素増感型太陽電池では、電解質としてヨウ素/ヨウ素化合物の組み合わせが用いられることが多い。ヨウ素は、電解液中ではヨウ素イオンの形で存在しているが、金属イオンで架橋したアイオノマーなどの樹脂材料は、ヨウ素イオンと反応するため、ヨウ素イオン濃度が低下するおそれがある。
【0015】
特開2004−311036号公報(特許文献8)には、少なくとも1つ以上の(メタ)アクリレート基を有するイソプレン重合体を主成分とする色素増感型太陽電池用封止組成物が開示されている。特許文献8には、該封止組成物に、希釈剤としてイソボルニルアクリレートを添加することや、光重合開始剤を添加することが記載されている。そのため、該封止組成物は、導電性基板上に所望の形状に塗布し、光硬化させることができる。しかし、該封止組成物は、光硬化後にも、イソプレンに由来する炭素−炭素二重結合が主鎖中に存在するため、この二重結合と電解液中のヨウ素が反応して、ヨウ素濃度の低下による色素増感型太陽電池の性能低下や封止層の接着性低下が生じるおそれがある。
【0016】
特開2005−154528号公報(特許文献9)には、炭素数18〜25の鎖状脂肪族単官能(メタ)アクリレート100重量部、イソボルニル(メタ)アクリレート5〜10重量部、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体5〜30重量部、及びラジカル開始剤1〜10重量部からなる硬化性組成物が開示されている。特許文献9には、該硬化性組成物を色素増感型太陽電池などの封止剤に適用することが記載されている。しかし、該硬化性組成物は、粘度が高く、かつ、チキソトロピー化剤の添加が困難であるため、スクリーン印刷などのパターン印刷技術を適用して、導電性基板上に所望の形状のシーリングパターンを形成することが困難である。
【0017】
【特許文献1】特許第2664194号公報
【特許文献2】特公平8−15097号公報
【特許文献3】特開2000−30767号公報
【特許文献4】特開2000−150005号公報
【特許文献5】特開2000−294814号公報
【特許文献6】特開2000−186114号公報
【特許文献7】特開2001−144313号公報
【特許文献8】特開2004−311036号公報
【特許文献9】特開2005−154528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の課題は、色素増感型太陽電池の電解液を封止するのに適した光硬化性組成物を提供することにある。特に、本発明の課題は、ITO蒸着基板などの導電性基板に対する密着性(接着性)と色素増感型太陽電池の電解液に対する耐性に優れ、プラスチックフィルムタイプの色素増感型太陽電池にも対応可能なフレキシブル性を示し、しかもスクリーン印刷などのパターン印刷技術の適用が容易な光硬化性組成物を提供することにある。
【0019】
本発明の他の課題は、封止性と電解液に対する耐性に優れ、パターン印刷技術での適用が容易な光硬化性組成物を、電解液を封入するためのシーリング材として用いた色素増感型太陽電池及びその製造方法を提供することにある。
【0020】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、イソボルニルアクリレート及びアルキル基の炭素数が4〜18のアルキル(メタ)アクリレートを含むモノマー成分、飽和熱可塑性エラストマー、並びに光重合開始剤を含有する光硬化性組成物に想到した。本発明の光硬化性組成物は、スクリーン印刷適性に優れ、導電性基板に対する接着性に優れ、色素増感型太陽電池の電解液に対する耐性に優れ、さらには、それによって形成されたシーリング層のフレキシブル性にも優れている。
【0021】
本発明者らは、多くの(メタ)アクリレートの中でも、イソボルニルアクリレートが、電解液に含まれるヨウ素などの電解質や溶剤に対する耐性に優れた硬化物を与えることを見出したが、該硬化物は、硬くて脆く、しかもITO蒸着基板などの導電性基板に対する接着性が不十分であることが判明した。そこで、イソボルニルアクリレートと他の(メタ)アクリレートとの組み合わせについて検討を行ったところ、他の(メタ)アクリレートとして、アルキル基の炭素数が4〜18のアルキル(メタ)アクリレートを特定割合で組み合わせて用いることにより、電解質に対する耐性を損なうことなく、硬化物の柔軟性が発現し、導電性基板に対する接着性も向上することを見出した。
【0022】
従来、特開2005−154528号公報(特許文献9)には、モノマー成分として、イソボルニルアクリレートと炭素数18〜25の鎖状脂肪族単官能(メタ)アクリレートモノマーとを組み合わせて用いた硬化性組成物が提案されている。しかし、該硬化性組成物は、鎖状脂肪族単官能(メタ)アクリレートにおける鎖状脂肪族基の炭素数が比較的大きく、しかも該鎖状脂肪族単官能(メタ)アクリレートの含有割合が大きいため、粘度がかなり大きくなり、かつ、チキソトロピー化剤の添加が困難であるため、スクリーン印刷などのパターン印刷技術を適用して、導電性基板上に所望の形状のシーリングパターンを形成することが困難であることが判明した。
【0023】
したがって、本発明の光硬化性組成物が前記の如き優れた諸特性を有することは、当業者といえども予測できないことであった。本発明の光硬化性組成物は、電離放射線を照射することにより、加熱することなく硬化させることができるため、色素増感型太陽電池の色素を劣化させることがない。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
かくして、本発明によれば、イソボルニルアクリレート及びアルキル基の炭素数が4〜18のアルキル(メタ)アクリレートを含むモノマー成分、飽和熱可塑性エラストマー、並びに光重合開始剤を含有する光硬化性組成物であって、
(a)イソボルニルアクリレートとアルキル基の炭素数が4〜18のアルキル(メタ)アクリレートとの重量比が20:80〜70:30の範囲内であり、
(b)飽和熱可塑性エラストマーの割合が、該モノマー成分100重量部に対して、1〜40重量部の範囲内であり、
(c)光重合開始剤の割合が、該モノマー成分100重量部に対して、0.1〜10重量部の範囲内であり、かつ、
(d)温度20℃、剪断速度1sec−1の条件下で測定した粘度が5〜4000Pa・sの範囲内にある
ことを特徴とする光硬化性組成物が提供される。
【0025】
また、本発明によれば、該光硬化性組成物の色素増感型太陽電池用シーリング材としての使用が提供される。さらに、本発明によれば、「透明基板/透明導電膜/色素を吸着した金属酸化物半導体膜」の層構成を有する導電性基板及び「導電膜/基板」の層構成を有する導電性基板を、各導電膜側で対向させて、両導電性基板の周辺部に枠状に設けたシーリング層を介して配置し、該シーリング層によって形成された両導電性基板間の隙間に電解液を封入した構造を有する色素増感型太陽電池において、該シーリング層が、前記光硬化性組成物の硬化物により形成されていることを特徴とする色素増感型太陽電池が提供される。
【0026】
さらにまた、本発明によれば、下記工程1乃至4:
(1)「透明基板/透明導電膜/色素を吸着した金属酸化物半導体膜」の層構成を有する導電性基板及び「導電膜/基板」の層構成を有する導電性基板のいずれか一方の導電性基板(A)の導電膜側の周辺部に、前記光硬化性組成物をスクリーン印刷により塗布して、枠状の光硬化性組成物層を形成する工程1;
(2)導電性基板(A)の上に、他方の導電性基板(B)を、各導電膜側で対向させて、該光硬化性組成物層を介して配置する工程2;
(3)電離放射線を照射して、該光硬化性組成物を硬化させる工程3;及び
(4)該光硬化性組成物の硬化物からなるシーリング層により形成された両導電性基板間の隙間に電解液を封入する工程4;
を含むことを特徴とする色素増感型太陽電池の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、色素増感型太陽電池の電解液を封止するのに適した光硬化性組成物が提供される。本発明の光硬化性組成物は、ITO蒸着基板などの導電性基板に対する接着性と色素増感型太陽電池の電解液に対する耐性に優れ、プラスチックフィルムタイプの色素増感型太陽電池にも対応可能なフレキシブル性を示し、しかもスクリーン印刷などのパターン印刷技術の適用が容易である。
【0028】
本発明の光硬化性組成物を色素増感型太陽電池のシーリング材として用いることにより、色素を劣化させることなく、封止性と電解液に対する耐性に優れ、フレキシブル性を示すシーリング層を有する色素増感型太陽電池を提供することができる。本発明の色素増感型太陽電池は、電解液の漏洩や電解質濃度の低下が抑制されているため、信頼性と耐久性が顕著に向上したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明では、イソボルニルアクリレートとアルキル基の炭素数が4〜18のアルキル(メタ)アクリレートを含むモノマー成分を使用する。アルキル基の炭素数が4〜18のアルキル(メタ)アクリレートとは、アルキル基の炭素数が4〜18であるアクリレートまたはメタクリレートもしくはこれらの混合物を意味する。すなわち、本発明において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及び/またはメタクリレートを意味する。
【0030】
本発明で使用するアルキル(メタ)アクリレートは、単官能(メタ)アクリレートである。アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基の炭素数が4未満であると、その沸点が低すぎるため、低温で使用する必要があり、製造条件が制限される。アルキル基の炭素数が4未満であると、シーリング層を形成する硬化物の柔軟性が十分ではなくなるおそれもある。他方、アルキル基の炭素数が18を超えると、光硬化性組成物の粘度が高くなりすぎて、スクリーン印刷が困難になる。
【0031】
アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基の炭素数は、18以下であるが、17以下であっても、導電性基板に対する接着性やシーリング材としての信頼性が低下することはない。アルキル基の炭素数は、好ましくは6〜18、より好ましくは8〜18である。アルキル基の炭素数が6〜17、さらには8〜12であっても、シーリング材として優れた諸特性を発揮することができる。
【0032】
本発明で使用するアルキル基の炭素数が4〜18のアルキル(メタ)アクリレートには、例えば、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、イソデシルアクリレート、n−ラウリルアクリレート、n−ステアリルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソミスチルアクリレート、イソステアリルアクリレートなどのアクリレート類;n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、n−ラウリルメタクリレート、n−ステアリルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、イソミスチルメタクリレート、イソステアリルメタクリレートなどのメタクリレート類;が含まれる。これらの中でも、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、イソノニルアクリレート、及びステアリルアクリレートなどのアクリレート類が好ましい。以下、アルキル基の炭素数が4〜18のアルキル(メタ)アクリレートを、単に「アルキル(メタ)アクリレート」と呼ぶ。
【0033】
イソボルニルアクリレートとアルキル(メタ)アクリレートとの重量比は、20:80〜70:30の範囲内である。イソボルニルアクリレートの重量比が大きすぎる場合には、硬化物の性状が硬くて脆くなる。イソボルニルアクリレートの重量比が小さすぎると、硬化物の導電性基板に対する接着性が低下したり、その性状が柔らかくなりすぎたりする。シーリング層を構成する硬化物の接着性と柔軟性とを高度にバランスさせる観点からは、モノマー成分中のイソボルニルアクリレートとアルキル(メタ)アクリレートとの重量比を、好ましくは30:70〜60:40、より好ましくは40:60〜60:40の範囲内とする。
【0034】
本発明の光硬化性組成物には、モノマー成分として、イソボルニルアクリレートとアルキル(メタ)アクリレートに加えて、所望により少量の多官能(メタ)アクリレートを含有させてもよい。多官能(メタ)アクリレートを含有させることにより、光硬化性組成物から形成されたシーリング層の耐溶剤性がさらに向上する。多官能(メタ)アクリレートとは、二官能以上の多官能アクリレート及び/またはメタクリレートを意味する。
【0035】
多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレートなどのジアクリレート類;1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、1,10−デカンジオールジメタクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレートなどのジメタクリレート類;トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどのトリアクリレート類;トリメチロールエタントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどのトリメタクリレート類;ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ポリメチロールプロパンポリアクリレートなどの四官能以上のアクリレート類;が挙げられる。これらの多官能(メタ)アクリレートの中でも、ジアクリレート類やジメタクリレート類などの二官能(メタ)アクリレートが好ましい。
【0036】
多官能(メタ)アクリレートは、イソボルニルアクリレート及びアルキル(メタ)アクリレートからなるモノマー成分100重量部に対して、10重量部までの割合で添加する。多官能(メタ)アクリレートを使用する場合には、その添加割合は、前記モノマー成分100重量部に対して、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.1〜7重量部、特に好ましくは0.3〜5重量部である。多官能(メタ)アクリレートの添加割合が過小であると、耐溶剤性の改善効果が少なく、過大であると、接着強度が低下したり、硬化物の柔軟性が低下したりする。
【0037】
本発明で使用する飽和熱可塑性エラストマーとは、主鎖及び側鎖に炭素−炭素二重結合などの反応性の不飽和結合を実質的に含有しない未架橋エラストマーを意味する。ただし、飽和熱可塑性エラストマーは、芳香族環を有するものであってもよい。本発明の光硬化性組成物に飽和熱可塑性エラストマーを含有させることにより、スクリーン印刷に適した粘度に調整する。
【0038】
前記モノマー成分のみでは、粘度が低すぎるため、スクリーン印刷適性を有する光硬化性組成物を得ることができない。そこで、本発明者らが検討した結果、飽和熱可塑性エラストマーを添加することにより、スクリーン印刷適性に優れ、しかも長期使用の際に要求される電解液に対する高度の耐性(例えば、高度の耐ヨウ素性と耐溶剤性)を示すシーリング材となる光硬化性組成物の得られることを見出した。
【0039】
本発明で使用する飽和熱可塑性エラストマーとしては、スチレン−共役ジエン共重合体の水素添加物、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、及び2−エチルヘキシルアクリレート単位の含有量が50重量%以上のポリアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種の飽和熱可塑性エラストマーが好ましい。これらの中でも、スチレン−共役ジエン共重合体の水素添加物及び2−エチルヘキシルアクリレート単位の含有量が50重量%以上のポリアクリレートがより好ましい。
【0040】
スチレン−共役ジエン共重合体の水素添加物としては、水添スチレン−ブタジエン共重合体、及び水添スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体が好ましい。2−エチルヘキシルアクリレート単位の含有量が50重量%以上のポリアクリレートとしては、2−エチルヘキシルアクリレート単位の含有量が70重量%以上、さらには90重量%以上のポリアクリレートが特に好ましい。
【0041】
飽和熱可塑性エラストマーは、イソボルニルアクリレートとアルキル(メタ)アクリレートとからなるモノマー成分100重量部に対して、1〜40重量部、好ましくは3〜35重量部、より好ましくは5〜30重量部の割合で使用する。飽和熱可塑性エラストマーの割合が過小であると、硬化物の可撓性が不足し、過大であると、光硬化性組成物の粘度が高くなりすぎて、スクリーン印刷などによるパターン印刷技術を適用することが困難になる。
【0042】
本発明では、前記モノマー成分を光重合により硬化させるために、光重合開始剤を使用する。本発明で使用する光重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、m−クロロアセトフェノン、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、4−ジアルキルアセトフェノンなどのアセトフェノン類;ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;ミヒラーケトンなどのミヒラーケトン類;ベンジル、ベンジルメチルエーテルなどのベンジル類;ベンゾイン、2−メチルベンゾインなどのベンゾイン類;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテルなどのベンゾインエーテル類;ベンジルジメチルケタールなどのベンジルジメチルケタール類;チオキサントンなどのチオキサントン類;プロピオフェノン、アントラキノン、アセトイン、ブチロイン、トルオイン、ベンゾイルベンゾエート、α−アシロキシムエステル;などのカルボニル化合物を挙げることができる。
【0043】
光重合開始剤としては、上記カルボニル化合物以外に、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、ジフェニルジスルフィドなどの硫黄化合物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイドなどの過酸化物;が挙げられる。さらに、光重合開始剤として、フェニルグリオキシレート類;ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシドなどのアシルホスフィンオキシド類;有機色素系化合物、鉄−フタロシアニン系化合物などが挙げられる。
【0044】
これらの光重合開始剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。光重合開始剤として、これらの中でも、ベンゾイン類、アセトフェノン類、及びアシルホスフィンオキシド類が好ましく、アシルホスフィンオキシド類が特に好ましい。
【0045】
色素増感型太陽電池の作用電極基板上に形成された透明導電膜(「透明電極」ともいう)は、紫外線をカットする場合があるので、光硬化性組成物を色素増感型太陽電池用シーリング材として用いる場合には、好ましくは400nm付近または400nm以上の波長領域で光の吸収がある光重合開始剤を使用するのが望ましい。このような光重合開始剤としては、アシルホスフィンオキシド類が好ましい。
【0046】
光重合開始剤は、イソボルニルアクリレートとアルキル(メタ)アクリレートとからなるモノマー成分100重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜8重量部、より好ましくは0.5〜5重量部の割合で用いられる。光重合開始剤の割合が過小であると、硬化に時間を要し、過大であると、硬化物の接着強度が低下する。
【0047】
本発明の光硬化性組成物の粘度は、温度20℃と剪断速度1sec−1の条件下で測定したとき、5〜4000Pa・s、好ましくは10〜3500Pa・s、より好ましくは20〜2000Pa・sの範囲内にある。光硬化性組成物の粘度は、多くの場合30〜1500Pa・sの範囲内で、特に良好なスクリーン印刷適性を得ることができる。光硬化性組成物の粘度が低すぎると、スクリーン印刷適性が不十分となり、所望の厚みを有するシーリングパターンを形成することが困難になる。他方、光硬化性組成物の粘度が高すぎると、スクリーン印刷すること自体が困難または不可能になる。
【0048】
本発明の光硬化性組成物の粘度を調整するために、充填剤を添加することができる。本発明で使用する充填剤は、主としてチキソトロピー性を付与する役割を果たすものである。チキソトロピー化剤として作用する充填剤としては、ステアリン酸アマイドなどの有機ゲル化剤;ヒュームドシリカ、アエロジル、沈降性炭酸カルシウム、ベントナイトなどの無機系チキソトロピー化剤;などが挙げられるが、これらに限定されない。充填剤としては、光硬化性組成物に適正なチキソトロピー性を付与するものであれば、無機充填剤であっても、有機充填剤であってもよい。
【0049】
無機充填剤としては、シーリング層の表面平滑性の観点からは、一次粒子の平均径が100nm以下の微粒子を用いるのが好ましく、40nm以下のものを用いるのがより好ましい。防湿性の観点からは、表面を疎水化処理した無機充填剤を用いるのが好ましい。具体的には、表面をメチル基などの有機基で覆って疎水化したシリカ(例えば、日本アエロジル社製、アエロジルR972)を挙げることができる。
【0050】
充填剤は、イソボルニルアクリレート及びアルキル(メタ)アクリレートからなるモノマー成分100重量部に対して、40重量部までの範囲で使用することが好ましい。充填剤を使用する場合、その割合は、前記モノマー成分100重量部に対して、好ましくは1〜40重量部、より好ましくは3〜30重量部、特に好ましくは5〜25重量部である。充填剤を上記範囲内で添加することにより、スクリーン印刷適性を調整することが好ましい。充填剤の割合が過小であると、未添加の場合と差がなく、過大であると、粘度が高くなりすぎて、スクリーン印刷適性が低下傾向を示す。
【0051】
前記飽和熱可塑性エラストマーは、本発明で使用するモノマー成分に対する溶解性が良好である。本発明の光硬化性組成物の特性を低下させない範囲内で、モノマー成分に対する溶解性が低いポリマーを添加すると、充填剤を加えなくてもチキソトロピー性を付与できる場合がある。通常は、前記の如き無機充填剤を添加して、適度のチキソトロピー性を付与することが好ましい。
【0052】
本発明の光硬化性組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内で、必要に応じて各種添加剤(その他の添加剤)を配合することができる。その他の添加剤としては、例えば、耐熱性を付与するために多官能オリゴマーなどの架橋剤;低温柔軟性を付与するためにフタル酸エステルなどの可塑剤;界面活性剤、吸油性樹脂、有機顔料、無機顔料、安定剤、シランカップリング剤、スペーサー粒子などを適宜適量で添加することができる。光硬化性組成物を光の届きにくい部位に塗布したり、厚手の塗布を行ったりする場合には、硬化反応を十分に進行させるために、有機過酸化物などの熱重合開始剤を添加してもよい。熱重合開始剤を添加した場合には、電離放射線の照射と同時または照射の前後に、加熱工程を配置することが好ましい。
【0053】
本発明の光硬化性組成物は、各成分を、サンドミル、ディスパー、コロイドミルなどの混合装置で撹拌分散させることにより調製することができる。本発明の光硬化性組成物は、常温でペースト状を呈し、適度の粘度を有するため、塗工法により所望の箇所に塗布することができる。本発明の光硬化性組成物をパターン状に塗布するには、スクリーン印刷法を適用することができる。本発明の光硬化性組成物は、プラスチックフィルムに対する接着性に優れるため、プラスチックフィルム基板を用いた色素増感型太陽電池のシーリング材として有用である。
【0054】
本発明の光硬化性組成物は、被着体に塗付した後、得られた塗膜に電離放射線を照射することにより硬化させることができる。電離放射線としては、紫外線、電子線(ベータ線)、ガンマ線、アルファ線が好ましく、紫外線及び電子線がより好ましい。電離放射線を照射するには、それぞれの線源を発生する装置を用いればよい。例えば、電子線を照射するには、通常20〜2000kVの電子線加速器から取り出される加速電子線を照射する。電子線は、加速電圧によって浸透する深さが変わる。電子線は、加速電圧が高いほど、塗膜中に深く浸透する。電子線の照射線量は、通常1〜300kGy、好ましくは5〜200kGy程度であるが、硬化塗膜が得られる限りにおいて、この範囲に限定されない。
【0055】
紫外線を照射するには、殺菌灯、紫外用蛍光灯、カーボンアーク、キセノンランプ、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、無電極ランプなどのUV照射装置を用いて、波長200〜400nmを含む光を照射する。UV照射装置のランプ出力は、発光長1cm当りの出力ワット数(W/cm)で表示する。単位長当りのワット数が大きくなれば、発生する紫外線強度が大きくなる。ランプ出力は、通常30〜300W/cmの範囲から選択される。発光長は、通常40〜2500mmの範囲から選ばれる。紫外線の照射エネルギーは、通常0.1〜10J/cm、好ましくは0.5〜5J/cmであるが、硬化塗膜が得られる限りにおいて、この範囲に限定されない。
【0056】
硬化塗膜を形成するに際し、酸素による重合禁止効果を除去する必要がある場合には、電離放射線の照射処理を、窒素ガス、炭酸ガス、希ガスなどの不活性ガス雰囲気下とすることが好ましい。
【0057】
本発明の光硬化性組成物は、色素増感型太陽電池用シーリング材として好ましい諸特性を有している。色素増感型太陽電池としては、前記した図1に示す基本的構造を有するものを挙げることができる。
【0058】
透明基板としては、ガラス板やプラスチックフィルムが用いられる。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが代表的なものであるが、透明で耐熱性のある他のフィルムも使用することができる。透明導電膜(透明電極)としては、95%酸化インジウムと5%酸化スズからなる化合物を基板に薄く焼き付けたITO膜が代表的なものである。この他、透明導電膜としては、酸化スズにフッ素をドーピングした膜(FTO)が知られている。対極基板も、これと同様の導電性基板を用いることができるが、これに限定されない。例えば、対極基板として、ガラスなどの透明基板を用いても、該基板上に白金を蒸着して導電膜を形成すると、導電性基板全体の透明性が低下することがある。
【0059】
金属酸化物半導体としては、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、亜鉛、インジウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステンなどの酸化物が挙げられるが、これらの中でも二酸化チタンが代表的なものである。二酸化チタンは、例えば、直径が10〜30nmという超微粒子が好ましく、それによって、色素を吸着させるのに適した広大な比表面積を有する二酸化チタン膜を形成することができる。
【0060】
色素としては、ルテニウム錯体〔RuL(NCS)、L=4,4′−ジカルボキシ−2,2′−ビピリジン〕、ポルフィリン系色素、シアニン系色素、C60誘導体、スチリルベンゾチアゾリウムプロピルスルフォネート(BTS)、植物の色素などが挙げられる。
【0061】
電解液は、一般に、電解質を有機溶剤に溶解した溶液である。このような電解液としては、例えば、ヨウ素とヨウ化リチウムとを含有するアセトニトリル/エチレンカーボネート溶液が代表的なものである。電解質としては、ヨウ素/ヨウ素化合物、臭素/臭素化合物などの酸化還元対(レドックス系)が用いられているが、これらの中でも、ヨウ素/ヨウ素化合物の組み合わせが汎用されている。
【0062】
電解質を溶解または分散させる有機溶剤としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ポリエチレングリコール(例えば、PEG#220)、アセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、これらの2種以上の混合物などが用いられている。電解液には、電解質に加えて、増粘剤(例えば、PEG#600)、粘性を低下させてイオンの拡散を円滑にする常温溶融塩(1−プロピルー2,3−ジメチルイミダゾリウムイオダイド)、逆電流を防ぎ開放起電力を高める4−tert−ブチルピリジンなどの各種添加剤を含有させてもよい。
【0063】
本発明の光硬化性組成物を用いて色素増感型太陽電池を作製するには、下記工程1乃至4:
(1)「透明基板/透明導電膜/色素を吸着した金属酸化物半導体膜」の層構成を有する導電性基板及び「導電膜/基板」の層構成を有する導電性基板のいずれか一方の導電性基板(A)の導電膜側の周辺部に、本発明の光硬化性組成物をスクリーン印刷により塗布して、枠状の光硬化性組成物層を形成する工程1;
(2)導電性基板(A)の上に、他方の導電性基板(B)を、各導電膜側で対向させて、該光硬化性組成物層を介して配置する工程2;
(3)電離放射線を照射して、該光硬化性組成物を硬化させる工程3;及び
(4)該光硬化性組成物の硬化物からなるシーリング層により形成された両導電性基板間の隙間に電解液を封入する工程4;
を採用することが好ましい。
【0064】
光硬化性組成物の塗布厚みは、電解液の所望の厚みに応じて適宜調整することができるが、通常は5〜100μm、多くの場合5〜30μm程度である。導電性基板上に光硬化性組成物を塗布する際のパターンとしては、環状、長方形、矩形など、色素増感型太陽電池の形状に合わせたものとする。
【0065】
シーリング層の一部に開口部を設けるか、あるいは基板の一部に開口部を設けて、シーリング層により形成された両導電性基板間の隙間に電解液を注入する。開口部(電解液注入孔)は、同じ光硬化性組成物または他の常温硬化性接着剤などを用いて封止する。これによって、電解液を両導電性基板間に封入することができる。ガラス基板の場合には、その端部(シーリング層の内側)に電解液の液溜めを設けて、その中に電解液を入れておき、シーリング層により形成された両導電性基板間の隙間に、毛管現象を利用して電解液を注入させてもよい。
【0066】
上記製造方法によって、「透明基板/透明導電膜/色素を吸着した金属酸化物半導体膜」の層構成を有する導電性基板及び「導電膜/基板」の層構成を有する導電性基板を、各導電膜側で対向させて、両導電性基板の周辺部に枠状に設けたシーリング層を介して配置し、該シーリング層によって形成された両導電性基板間の隙間に電解液を封入した構造を有する色素増感型太陽電池において、該シーリング層が、本発明の光硬化性組成物の硬化物により形成されている色素増感型太陽電池を得ることができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明について、実施例及び比較例を挙げてより詳細に説明する。諸特性の測定法は、次のとおりである。
【0068】
(1)粘度
光硬化性組成物の粘度は、温度20℃、剪断速度1sec−1の条件下で測定した。
【0069】
(2)スクリーン印刷適性
光硬化性組成物を用いてスクリーン印刷を行い、下記の基準でスクリーン印刷適性を評価した。
A: 円滑かつ連続的にスクリーン印刷を行うことができ、所望の厚みの塗膜を形成することができる。
B: スクリーン印刷を行うことができるが、連続的な印刷がやや困難な傾向が見られる。
C: スクリーン印刷を行うことができるが、かなり困難である。
D: スクリーン印刷が不可能。
【0070】
(3)糸切れ性
5mmφのガラス棒の先端を光硬化性組成物の表面に付け、50mm/secの速度でガラス棒を該表面から離していき、糸を引いている光硬化性組成物が切れる距離を測定し、以下の基準で評価した。
A: 距離が50mm以内である。
B: 距離が50mm超過80mm以内である。
C: 距離が80mmを超える。
D: 測定不能
【0071】
(4)耐溶剤性
光硬化性組成物を、ITO−PET(ITO蒸着PETフィルム;株式会社トービ製、商品名「OTEC−110」)のITO面上に、厚さ100μmに塗布し、次いで、塗膜上に剥離フィルムをラミネート後、高圧水銀灯(270mW/cm)で5秒間照射した。剥離フィルムを剥がし、ITO−PET/硬化塗膜を、電解液(プロピレンカーボネートに、ヨウ素0.5M、ヨウ化リチウム0.1M、及び4−tert−ブチルピリジン0.5Mを溶解させた電解液)中に、40℃で24時間浸漬させた。その後、ITO−PET/硬化塗膜を取り出し、硬化塗膜の形状を目視で観察し、以下の基準で評価した。
A: 硬化塗膜が元の形状を維持している。
B: 硬化塗膜が元の形状を維持していない。
【0072】
(5)耐ヨウ素性
前記(4)の耐溶剤性の評価時に、ヨウ素による硬化塗膜の着色状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
A: 硬化塗膜に殆ど着色がない。
B: 硬化塗膜に僅かな着色が見られる。
C: 硬化塗膜の全面に着色が見られる。
【0073】
(6)密着性
前記(4)の耐溶剤性の評価時に、ITO−PETからの硬化塗膜の剥離の有無を観察し、以下の基準で評価した。
A: 硬化塗膜の剥離がなく、ITO−PETのITOに対する密着性に優れている。
B: 硬化塗膜の一部または全面的に剥離が見られる。
【0074】
[実施例1]
1.光硬化性組成物の調製
イソボルニルアクリレート(共栄社化学製、商品名「ライトアクリレートIB−XA」)70重量部とステアリルアクリレート(共栄社化学製、商品名「ライトアクリレートS−A」)30重量部とからなるモノマー成分100重量部に対して、光重合開始剤としてビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、商品名「イルガキュア819」)1重量部、充填剤として疎水化シリカ(日本アエロジル製、商品名「アエロジルR972」、平均粒径16nm)15重量部、及び飽和熱可塑性エラストマーとしてポリアクリレート(2−エチルヘキシルアクリレート含有量90重量%以上;ノーテープ工業製、品番4580)15重量部を加えて、高速攪拌機で攪拌分散した。攪拌分散後、透明なペーストとして光硬化性組成物が得られた。
【0075】
2.光硬化性組成物の評価
得られた光硬化性組成物を、ITO−PET(ITO蒸着PETフィルム;株式会社トービ製、商品名「OTEC−110」)のITO面上に厚さ100μmに塗布し、次いで、塗膜上に剥離フィルムをラミネート後、高圧水銀灯(270mW/cm)で5秒間照射した。剥離フィルムを剥がし、ITO−PET/硬化塗膜を、電解液(プロピレンカーボネートに、ヨウ素0.5M、ヨウ化リチウム0.1M、及び4−tert−ブチルピリジン0.5Mを溶解させた電解液)中に、40℃で24時間浸漬させた。その後、ITO−PET/硬化塗膜を取り出して、硬化塗膜の形状、着色状態、密着性を観察した。結果を表1に示す。
【0076】
表1の結果から明らかなように、該光硬化性組成物は、スクリーン印刷可能な範囲内の粘度を有し、スクリーン印刷適性に優れ、良好な糸切れ性を示し、加えて、硬化塗膜の耐溶剤性及び耐ヨウ素性も良好であった。硬化塗膜のITO−PETへの密着性は、電解液に40℃で24時間浸漬後、剥離することなく良好であった。
【0077】
3.色素増感型太陽電池の作製
前記で調製した光硬化性組成物を使用して、下記のようにして色素増感型太陽電池を作製した。ITO−PETのITO面上に二酸化チタンペースト(ペクセルテクノロジーズ社製、商品名「PECC01」)を塗布し、150℃の温度で5分間焼成して、二酸化チタン膜を形成した。光増感色素(ペクセルテクノロジーズ社製、商品名「PECD03」)をエタノールに溶解させ、このエタノール溶液に、二酸化チタン膜を形成したITO−PETを入れ、80℃の温度で12時間放置した。
【0078】
前記で調製した光硬化性組成物を、二酸化チタン膜の外周部にスクリーン印刷により塗布した。塗膜の厚みは、約10μmであった。次に、予め電解液注入孔をあけておいたITO−PETを対極として貼り合わせた。この際、各プラスチックフィルム基板のITO面同士が対向するようにした。塗膜に1J/cmの照射エネルギーで紫外線を当て、光硬化性組成物を硬化させた。電解液注入孔から電解液(ペクセルテクノロジーズ社製、商品名「PECE−02−01」)を入れ、電解液注入孔を常温硬化性の接着樹脂で封止し、色素増感型太陽電池を作製した。このように作製した色素増感型太陽電池は、室温(25℃)で30日間放置したところ、電解液が漏洩することなく良好な封止性を示した。
【0079】
[実施例2〜8]
表1に示す配合処方に変えたこと以外は、実施例1と同様にして光硬化性組成物を調製し、評価し、そして、色素増感型太陽電池を作製した。結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
(脚注)
A: イソボルニルアクリレート(共栄社化学製、商品名「ライトアクリレートIB−XA」)
B: 2−エチルヘキシルアクリレート(日本触媒製)
C: ラウリルアクリレート(共栄社化学製、商品名「ライトアクリレートL−A」)
D: イソノニルアクリレート(日本触媒製)
E: ステアリルアクリレート(共栄社化学製、商品名「ライトアクリレートS−A」)
F: ジメチロール−トリシクロデカンジアクリレート(共栄社化学製、商品名「ライトアクリレートDCP−A」)
G: ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製、商品名「イルガキュア819」)
H: 疎水化シリカ(日本アエロジル製、商品名「アエロジルR974」)
I: 疎水化シリカ(日本アエロジル製、商品名「アエロジルR976s」)
J: 水添スチレン−ブタジエン共重合体(JSR製、商品名「ダイナロン1320P」)
K: 水添スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(クレイトンポリマージャパン製、商品名「クレイトンG1657」)
L: ポリアクリレート(2−エチルヘキシルアクリレート含有量90重量%以上;(三洋化成工業製、商品名「ポリシックAH−60」)
M: ポリアクリレート(2−エチルヘキシルアクリレート含有量90重量%以上;ノーテープ工業製、商品名「4580」)
N: 亜鉛イオン架橋エチレン−メタクリル酸共重合体(三井・デュポンケミカル製、商品名「ハイミラン1652」)
O: アクリル変性ポリブタジエン(日本曹達製、商品名「TE−2000」)
P: スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(カネカ製、商品名「シブスター073T」)
【0082】
[比較例1]
アイオノマーである亜鉛イオン架橋エチレン−メタクリル酸共重合体(三井・デュポンケミカル製、商品名「ハイミラン1652」)を加熱押出し塗工して厚さ100μmのシートを作製し、得られたシートをITO−PET(株式会社トービ製、商品名「OTEC−110」)のITO面上に120℃で加熱接着させた。これを、電解液(プロピレンカーボネートに、ヨウ素0.5M、ヨウ化リチウム0.1M、及び4−tert−ブチルピリジン0.5Mを溶解させた電解液)に、40℃で24時間浸漬させた。その結果、耐溶剤性及び耐ヨウ素性は良好な結果が得られた。しかし、アイオノマーは、固体であり、スクリーン印刷などによるパターン塗工を行うことができない。ITO−PETのITO面に対する密着性は、電解液に40℃で24時間浸漬後、剥離することなく良好であった。結果を表2に示す。
【0083】
[比較例2〜5]
表2に示す配合処方に変えたこと以外は、実施例1と同様にして光硬化性組成物を調製し、評価し、そして、色素増感型太陽電池を作製した。結果を表2に示す。比較例2〜4の光重合性組成物は、透明なペーストであったが、比較例5の光重合性組成物は、不透明なペーストであった。
【0084】
表2に示すように、比較例2及び3の光重合性組成物は、スクリーン印刷可能な範囲内の粘度を有しており、スクリーン印刷適性に優れ、良好な糸切れ性を示しており、硬化塗膜の耐溶剤性及び耐ヨウ素性も良好であった。しかし、ITO−PETのITO面に対する硬化塗膜の密着性は、電解液に40℃で24時間浸漬後に剥離していることから、劣悪であった。
【0085】
比較例4の光重合性組成物は、スクリーン印刷可能な範囲内の粘度を有しており、スクリーン印刷適性を有し、糸切れ性も良好であったが、硬化塗膜の耐ヨウ素性は低い結果であった。その理由は、不飽和のアクリル変性ポリブタジエンを含有しているためと考えることができる。硬化塗膜のITO−PETへの密着性は、電解液に40℃で24時間浸漬後、剥離することなく良好であった。
【0086】
比較例5の光重合性組成物は、粘度が高すぎるため、スクリーン印刷適性に劣るものであった。硬化塗膜の耐溶剤性及び耐ヨウ素性は、良好であった。硬化塗膜のITO−PETへの密着性は、電解液に40℃で24時間浸漬後、剥離することなく良好であった。
【0087】
【表2】

【0088】
(脚注)使用した各成分は、表1の脚注と同じである。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の光硬化性組成物は、封止性、被着物に対する密着性、耐薬品性などが要求されるシーリング材をはじめとする各種用途に利用することができる。本発明の光硬化性組成物は、色素増感型太陽電池用シーリング材として特に好適に利用することができる。本発明の光硬化性組成物により電解液を封入した色素増感型太陽電池は、信頼性及び耐久性に優れており、新しい太陽電池としての用途に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】色素増感型太陽電池の基本構造を示す断面略図である。
【符号の説明】
【0091】
1 透明基板
2 透明導電膜
3 色素
4 金属酸化物半導体層
5 電解液
6 シーリング層
7 導電膜
8 基板
9 回路
10 負荷
11 回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソボルニルアクリレート及びアルキル基の炭素数が4〜18のアルキル(メタ)アクリレートを含むモノマー成分、飽和熱可塑性エラストマー、並びに光重合開始剤を含有する光硬化性組成物であって、
(a)イソボルニルアクリレートとアルキル基の炭素数が4〜18のアルキル(メタ)アクリレートとの重量比が20:80〜70:30の範囲内であり、
(b)飽和熱可塑性エラストマーの割合が、該モノマー成分100重量部に対して、1〜40重量部の範囲内であり、
(c)光重合開始剤の割合が、該モノマー成分100重量部に対して、0.1〜10重量部の範囲内であり、かつ、
(d)温度20℃、剪断速度1sec−1の条件下で測定した粘度が5〜4000Pa・sの範囲内にある
ことを特徴とする光硬化性組成物。
【請求項2】
多官能(メタ)アクリレートを、該モノマー成分100重量部に対して、10重量部までの割合でさらに含有する請求項1記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
充填剤を、該モノマー成分100重量部に対して、40重量部までの割合でさらに含有する請求項1または2記載の光硬化性組成物。
【請求項4】
前記充填剤が、その表面を疎水化処理した無機充填剤である請求項3記載の光硬化性組成物。
【請求項5】
前記飽和熱可塑性エラストマーが、スチレン−共役ジエン共重合体の水素添加物、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、及び2−エチルヘキシルアクリレート単位の含有量が50重量%以上のポリアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種の飽和熱可塑性エラストマーである請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光硬化性組成物の色素増感型太陽電池用シーリング材としての使用。
【請求項7】
「透明基板/透明導電膜/色素を吸着した金属酸化物半導体膜」の層構成を有する導電性基板及び「導電膜/基板」の層構成を有する導電性基板を、各導電膜側で対向させて、両導電性基板の周辺部に枠状に設けたシーリング層を介して配置し、該シーリング層によって形成された両導電性基板間の隙間に電解液を封入した構造を有する色素増感型太陽電池において、該シーリング層が、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光硬化性組成物の硬化物により形成されていることを特徴とする色素増感型太陽電池。
【請求項8】
下記工程1乃至4:
(1)「透明基板/透明導電膜/色素を吸着した金属酸化物半導体膜」の層構成を有する導電性基板及び「導電膜/基板」の層構成を有する導電性基板のいずれか一方の導電性基板(A)の導電膜側の周辺部に、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光硬化性組成物をスクリーン印刷により塗布して、枠状の光硬化性組成物層を形成する工程1;
(2)導電性基板(A)の上に、他方の導電性基板(B)を、各導電膜側で対向させて、該光硬化性組成物層を介して配置する工程2;
(3)電離放射線を照射して、該光硬化性組成物を硬化させる工程3;及び
(4)該光硬化性組成物の硬化物からなるシーリング層により形成された両導電性基板間の隙間に電解液を封入する工程4;
を含むことを特徴とする色素増感型太陽電池の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−106822(P2007−106822A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−297578(P2005−297578)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(000004020)ニチバン株式会社 (80)
【Fターム(参考)】