説明

光電式エンコーダ

【課題】レンズ光学系を用いた光電式エンコーダのレンズの倍率収差による信号検出効率低下を防止する。
【解決手段】メインスケール20、22と受光素子32、35の間にレンズ光学系(40、42)が配設された光電式エンコーダにおいて、受光素子32上の光学格子31又は受光素子アレイ34の受光素子35を、レンズ40の歪曲収差による像の周期に合わせて配置して、周期の異なる格子像を信号として検出できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メインスケール上の光学格子によって生じた明暗の縞を、前記メインスケールと相対移動する、インデックス格子と受光素子を組み合わせた受光部、又は、受光素子が格子状に配設された受光素子アレイによって検出するようにされた光電式エンコーダに係り、特に、メインスケールと受光素子の間にレンズ光学系が配設された光電式エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、図1に示すような光電式エンコーダが使用されている。図において、20は、例えばその表面(図では下面)に所定ピッチPのスケール(光学)格子21が形成された透過型のメインスケール、30は受光部であり、所定ピッチQのインデックス(光学)格子31と受光素子32が組み合わされている。インデックス格子31は、例えば透明なインデックススケール33上(図では下側)に形成されている。
【0003】
図1の構成では、インデックス格子31が形成されたインデックススケール33と受光素子32とが個別部品であるため、それらを組み立てる必要がある。又、方向弁別(A相、B相)のために複数の受光素子が必要であるが、光感度特性や温度特性を揃えるために、素子を選別しなければならない。
【0004】
そこで、特許文献1に記載されているように、図2に示す如く、所定ピッチQのインデックス格子と受光素子が一体化され、受光素子35自体が格子状に配設された受光素子アレイ34を受光部に使用した透過型の光電式エンコーダが提案されている。
【0005】
このような受光素子アレイ34の採用は、小型化や信号安定性の向上といった、多くの利点がある。
【0006】
しかしながら、メインスケール20の格子ピッチPにより、受光側の格子ピッチQも決定されてしまうため、ピッチPとは異なる格子ピッチを持つメインスケールに対応しようとすると、それに併せて受光部側を作り換えなければならない。又、メインスケール20のスケール格子21の面から、その格子ピッチPと光波長λによって決まる距離にしか明暗の縞が生じないため、受光素子アレイ34の採用/不採用に拘わらず、ギャップが変動した場合の信号出力の低下が大きいという問題がある。
【0007】
このような問題点を解決するべく、図3に示す如く、メインスケール20と例えば受光素子アレイ34の間に、レンズ40、及び、必要に応じてテレセントリック絞りとしてのアパーチャ42からなるレンズ光学系(テレセントリック光学系)を挿入して、図4に示す如く、レンズ40とメインスケール20のスケール格子21及び受光素子アレイ34上の受光素子35間の距離a、bを調整することにより、倍率設定ができるようにすることが考えられる。このようにして、光源10(図3参照)から出た光が、メインスケール20のスケール格子21を通過してレンズ40に入射し、該レンズ40から出た光のうち、該レンズ40の焦点に設けられたアパーチャ42を通過する光軸に沿ったものだけが、受光素子アレイ34に到達し、スケール格子21のイメージ像を形成するようにすることができる。
【0008】
図3に示すテレセントリック光学系は、メインスケール20と受光素子アレイ34との距離(ギャップ)が変動しても、レンズ40とアパーチャ42と受光素子アレイ34の位置関係が変動しなければ、受光素子34上に結像される像の倍率変動を抑えることができるという優れた効果を有する。又、アパーチャ42の大きさは、メインスケール20上に備えられた光学格子の周期を解像するように最適に調整することで、高周波ノイズをカットすることも可能である。
【0009】
【特許文献1】特許第2610624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、このアパーチャ42の径が小さいほど、この倍率変動を抑える効果は大きくなるが、反面、分解能が低くなり、同時に受光素子アレイ34に到達する光パワーが小さくなってしまうという問題がある。従来では、この受光素子アレイ34に到達する光パワーを高めるために光源10へ流す電流を増やして光量を増やすという対策を講じていた。このため外乱光の影響でオフセット成分が増え、更に発熱量も増えるという問題が発生していた。
【0011】
又、前記のように光電式エンコーダにレンズ光学系を用いた場合、レンズ40の歪曲収差(デストーション)により、レンズの外側と内側で倍率が異なってしまい、図5(A)に示すような等ピッチの格子パターン上に、レンズ40が樽型収差を有する場合は、図5(B)に示すような像が投影され、レンズ40が糸巻型収差を有する場合は、図5(C)に示すような像が投影されることになる。このため、図5(A)に示した受光素子のピッチと、位置により異なるピッチの格子像を受光することになり、受光素子ピッチと異なる周期の像はオフセット成分として作用するため、信号検出効率の低下につながるという問題点も有していた。
【0012】
歪曲収差を小さくするためには、レンズ40の中央部のみを使用すればよいが、視野が狭くなる。広い視野を確保し、収差を小さくするには、図6に示す如く、レンズ径の大きいレンズ40を使用する必要があり、焦点距離fが長いため、光学系全体が大きくなり、小型化に支障を来たすという問題点を有していた。
【0013】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、レンズ光学系を用いた光電式エンコーダの信号検出効率を改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、メインスケールと受光素子の間にレンズ光学系が配設された光電式エンコーダにおいて、受光素子上の光学格子又は受光素子アレイの受光素子を、レンズまたは複数のレンズで構成される組レンズの歪曲収差による像の周期に合わせて配置することにより、前記課題を解決したものである。
【0015】
又、前記受光素子を、透過型メインスケールを挟んで、光源の反対側に配設したものである。
【0016】
あるいは、前記受光素子を、反射型メインスケールに対して、光源と同じ側に配設したものである。
【0017】
又、前記レンズ光学系が、前記光学格子と同方向に長いスリット形状のアパーチャを含むようにしたものである。
【0018】
あるいは、前記レンズ光学系が、前記光学格子と同方向に複数配置されたアパーチャを含むようにしたものである。
【発明の効果】
【0019】
従来、光学式エンコーダのレンズとしては、収差のより小さいもの、例えば、非球面レンズやアクロマティックレンズ、組レンズを使い、歪曲の少ない像を正確に矩形状に形成されたインデックス格子又は受光素子アレイに照射するように構成していた。しかし、このようなレンズは一般的に高価である。本発明では、インデックス格子又は受光素子アレイの受光素子ピッチを変更することにより、レンズの歪曲収差に拘わらず、受光素子のピッチと同じピッチの格子像を受光することが可能となる。従って、歪曲収差のあるレンズでもそのまま利用できるようになり、受光光量を増やして信号検出効率を上げることができる。これにより、大型レンズの中心のみを用いる必要が無くなり、小型レンズを用いて、光電式エンコーダを小型化することが可能となる。又、収差の比較的大きいレンズを用いる方が、このレンズの歪曲収差にインデックス格子又は受光素子のピッチを合わせることが比較的容易である。従って、平凸レンズ、ボールレンズ、GRINレンズ等の安価で歪曲収差の大きなレンズを用いることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0021】
本発明の第1実施形態は、図が複雑になるのを防ぐためインデックススケールを省略した図7(A)に示す如く、インデックス格子31と受光素子32が別体とされた受光部30を有する光電式エンコーダにおいて、インデックススケール33上のインデックス格子31を、図7(B)に示す如く、レンズ40の歪曲収差(ここでは樽型収差)に合わせて樽型に配置したものである。
【0022】
このように、レンズ40の歪曲収差に合わせて、インデックス格子31を配置することで、位置により周期の異なる干渉縞を信号として検出できるため、信号検出効率を改善することができる。又、レンズ40も小径で良い。
【0023】
次に、図3及び図4に示した如く、インデックス格子と受光素子が一体化され、受光素子35自体が格子状に配設された受光素子アレイ34を備えた光電式エンコーダに適用した本発明の第2実施形態を図8(A)に示す。
【0024】
本実施形態においては、レンズ40の歪曲収差(ここでは糸巻型)に合わせて、図8(B)に示す如く、受光素子アレイ34の受光素子35を糸巻型に配置しているので、位置により周期の異なる干渉縞を信号として検出できるため、信号検出効率を改善することができる。又、レンズ40も小径で良い。
【0025】
更に、前記アパーチャ42の形状を、図9(A)に示すスリットタイプの如く、メインスケールの光学格子と同方向に細長いスリット形状にすることで、測定軸方向に対する解像度を維持したまま、受光素子アレイ34に到達する光パワーを増加させることが可能である。従って、従来より光源10の光を効率良く利用することが可能となるので、光源10へ流す電流を低く抑え、更に発熱量も抑えることが可能となり、測定精度向上に寄与する。あるいは、図9(B)に示すマルチアパーチャタイプの如く、アパーチャ42をメインスケールの光学格子と同方向に複数配置することでも同様な効果を得ることが可能である。
【0026】
又、レンズの歪曲収差に合わせてインデックス格子又は受光素子アレイの受光素子を配置する際に、厳密にレンズの歪曲収差に合わせることが理想的であるが、それが難しい場合は、レンズの使用する範囲における歪曲収差の平均値maveを算出して、この平均値に基づいて図10に示す如く、インデックス格子又は受光素子アレイの受光素子を配置するようにしてもよい。この場合でも受光素子の出力信号の低下を、ある程度軽減可能である。
【0027】
前記第1、第2実施形態においては、いずれも、本発明が、受光素子が、透過型メインスケール20を挟んで光源10の反対側に配設された透過型エンコーダに適用されていたが、本発明の適用対象はこれに限定されず、図11(斜視図)及び図12(側面図)に示す如く、受光素子(図では受光素子アレイ34)が、反射型メインスケール22に対して、光源(図ではLED12)と同じ側に配設された反射型エンコーダにも、同様に適用可能である。
【0028】
イメージ面での像の倍率は、スケール〜レンズ間距離aと、レンズ〜受光素子間距離bの比で表わされる(m=b/a)が、反射型の場合、図13に示す如く、スケールのトラック方向位置によって、aの距離が異なるため、図14(A)のようなメインスケールパターンに対し、図14(B)のような格子像ができる。従って、受光素子アレイ34の格子パターンも、図14(B)に合わせる。
【0029】
前記実施形態においては、いずれもアパーチャ42が設けられていたので、ギャップ変動の影響を低減して、安定性に優れた信号を得ることができる。なお、アパーチャ42が必要無い時には省略することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】従来の光電式エンコーダの一例の構成を示す断面図
【図2】同じく他の例の構成を示す断面図
【図3】レンズ光学系を用いた光電式エンコーダの構成例を示す斜視図
【図4】図3に示した光電式エンコーダの問題点を示す断面図
【図5】同じく格子パターンと格子像の関係の例を示す平面図
【図6】同じくレンズと格子パターンの関係を示す平面図
【図7】本発明の第1実施形態の構成を示す(A)断面図及び(B)平面図
【図8】本発明の第2実施形態の構成を示す(A)断面図及び(B)平面図
【図9】アパーチャの変形例を示す斜視図
【図10】受光素子配置の変形例の原理を説明する図
【図11】本発明の他の適用対象である反射型エンコーダの構成を示す斜視図
【図12】同じく側面図
【図13】同じく本発明を適用するための原理を示す側面図
【図14】同じく格子パターンと格子像の関係の例を示す平面図
【符号の説明】
【0031】
10、12…光源
20…(透過型)メインスケール
21…スケール格子
22…(反射型)メインスケール
30…受光部
31…インデックス格子
32、35…受光素子
33…インデックススケール
34…受光素子アレイ
40…レンズ
42…アパーチャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインスケールと受光素子の間にレンズ光学系が配設された光電式エンコーダにおいて、
受光素子上の光学格子又は受光素子アレイの受光素子を、レンズまたは複数のレンズで構成される組レンズの歪曲収差による像の周期に合わせて配置したことを特徴とする光電式エンコーダ。
【請求項2】
前記受光素子が、透過型メインスケールを挟んで、光源の反対側に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の光電式エンコーダ。
【請求項3】
前記受光素子が、反射型メインスケールに対して、光源と同じ側に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の光電式エンコーダ。
【請求項4】
前記レンズ光学系が、前記光学格子と同方向に長いスリット形状のアパーチャを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光電式エンコーダ。
【請求項5】
前記レンズ光学系が、前記光学格子と同方向に複数配置されたアパーチャを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光電式エンコーダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−133082(P2006−133082A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−322561(P2004−322561)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】