説明

処置用内視鏡

【課題】生体壁全層の切除等を行う際に、高周波電極や観察窓が切除対象に対して振らつくことなく、安全かつ円滑に切除処置等を行うことができ、また、生体壁の表面側の状態だけでなく、裏面側の血管の走行状態等も観察しながら安全に切除処置等を行うことができる処置用内視鏡を提供すること。
【解決手段】可撓性の挿入部1の先端近傍の領域に断面形状が偏平な可撓性偏平部2が設けられて、可撓性偏平部2の先端部分に観察窓3が側方に向けて偏平面2a側に配置されると共に、導電線案内管6内に軸線方向に進退自在に挿通された導電線7が導電線案内管6の出口開口6aから偏平面2aに沿って高周波電極7Aとして可撓性偏平部2の先端部分まで延出して露出配置され、導電線7の先端が可撓性偏平部2の先端付近に連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は処置用内視鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡においては一般に、遠隔操作により湾曲自在な湾曲部が挿入部の先端付近に設けられて、湾曲部の先端側に観察窓と処置具突出口等が配置されている。ただし、処置用内視鏡では、湾曲部の先端側と基端側の双方に観察窓と処置具突出口を配置して、処置能力を高めたもの等もある(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−223053
【特許文献2】特開2005−95590
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の処置用内視鏡を用いた手術の進歩は目ざましく、粘膜切開術や粘膜剥離術等がごく当たり前のように実施されるようになり、最近では、胃壁等のような生体壁全層の切除を行う試みもなされている。
【0005】
しかし、特許文献1に記載されているような従来の処置用内視鏡で生体壁全層の切除を行おうとすると、切除中に処置具の切開電極が振らついたり内視鏡の観察窓位置が切除部位に対して振らついたりして、安定した状態で切除処置を行うことができない場合がある。
【0006】
また、生体壁全層を切除する場合には、生体壁の表面側の状態だけでなく、生体壁の裏面側の血管の走行状態等にも気を配って切除を行う必要があるが、従来の処置用内視鏡ではそのような機能が得られない。
【0007】
本発明は、生体壁全層の切除等を行う際に、高周波電極や観察窓が切除対象に対して振らつくことなく、安全かつ円滑に切除処置等を行うことができ、また、生体壁の表面側の状態だけでなく、裏面側の血管の走行状態等も観察しながら安全に切除処置等を行うことができる処置用内視鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の処置用内視鏡は、可撓性の挿入部の先端近傍の領域に断面形状が偏平な可撓性偏平部が設けられて、可撓性偏平部の先端部分に観察窓が側方に向けて偏平面側に配置されると共に、遠隔操作により湾曲自在な湾曲部が可撓性偏平部の近傍後方位置に設けられ、挿入部内に挿通配置された導電線案内管の出口開口が可撓性偏平部の基端側に配置されて、導電線案内管内に軸線方向に進退自在に挿通された導電線が導電線案内管の出口開口から偏平面に沿って高周波電極として可撓性偏平部の先端部分まで延出して露出配置され、導電線の先端が可撓性偏平部の先端付近に連結されて、導電線を基端側から牽引操作することにより可撓性偏平部が弓状に湾曲して高周波電極が弦状になるものである。
【0009】
なお、可撓性偏平部が湾曲部より小さな曲率半径で湾曲するようにするとよい。また、可撓性偏平部の基端部付近に第2の観察窓が設けられていてもよく、第2の観察窓が斜め前方に向けて配置されていてもよい。
【0010】
また、可撓性偏平部の高周波電極が面している偏平面に、横方向に溝が形成されていると可撓性偏平部が円滑に湾曲し、可撓性偏平部の先端付近の領域が可撓性のない硬質部になっていてもよい。そして、導電線案内管の出口開口が、可撓性偏平部の基端付近の領域に対し並列に並んで配置された半管部の先端部分に配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、導電線が基端側から牽引操作されると可撓性偏平部が弓状に湾曲して高周波電極が弦状になるので、高周波電極に高周波電流を通電することにより、生体壁全層の切除等を行う際に、高周波電極や観察窓が切除対象に対して振らつくことなく、安全かつ円滑に切除処置等を行うことができ、また、可撓性偏平部の先端に配置された観察窓を通して、生体壁の裏面側の血管の走行状態等を観察しながら安全に切除処置等を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施例に係る処置用内視鏡の挿入部の先端側部分の斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係る処置用内視鏡の挿入部の先端部分の側面部分断面図である。
【図3】本発明の第1の実施例に係る処置用内視鏡の全体構成図である。
【図4】本発明の第1の実施例に係る処置用内視鏡に用いられるビデオプロセッサ側の装置の略示図である。
【図5】本発明の第1の実施例に係る処置用内視鏡に用いられるビデオプロセッサ側のモニタ画面の変形例の略示図である。
【図6】本発明の第1の実施例に係る処置用内視鏡に用いられるビデオプロセッサ側の装置の変形例の略示図である。
【図7】本発明の第1の実施例に係る処置用内視鏡の使用状態を示す略示図である。
【図8】本発明の第2の実施例に係る処置用内視鏡の挿入部の先端側部分の側面図である。
【図9】本発明の第3の実施例に係る処置用内視鏡の挿入部の先端側部分の側面図である。
【図10】本発明の第4の実施例に係る処置用内視鏡の挿入部の先端側部分の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図1は、本発明の第1の実施例に係る処置用内視鏡の先端側部分の斜視図、図2は側面部分断面図である。
【0014】
可撓性の挿入部1の先端近傍の領域には、断面形状が偏平な可撓性偏平部2が設けられている。可撓性偏平部2の先端部分には、観察窓3と照明窓4が側方(即ち、偏平面2aが面する方向)に向けて偏平面2a側に配置されている。図2に示される4Aは、照明窓4の裏側に配置されたライトガイドファイババンドルの射出端部である。
【0015】
可撓性偏平部2は、例えば円形の断面形状をなす挿入部1を略半円状に切り削いだ断面形状に形成されていて、その長さは例えば数cm程度である。挿入部1全体の長さは例えば50cm〜1.5m程度である。
【0016】
可撓性偏平部2は、例えば可撓性のマルチルーメンチューブの先端面を塞ぐことにより形成することができるが、軟質プラスチック材のモールド品又はその他のものから形成しても差し支えない。
【0017】
可撓性偏平部2の先端付近の観察窓3と照明窓4が配置されている領域は可撓性のない硬質部になっているが、可撓性偏平部2のその他の領域は偏平面2aの方向に容易に湾曲させることができる可撓性を有している。
【0018】
可撓性偏平部2の近傍後方位置、即ち、可撓性偏平部2の基端側に隣接する挿入部1の領域には、挿入部1の基端側からの遠隔操作により湾曲自在な湾曲部5が設けられている。湾曲部5の長さは例えば数cm〜10数cm程度であり、可撓性偏平部2の方が湾曲部5より小さな曲率半径で湾曲することができる。
【0019】
挿入部1内には、電気絶縁性チューブ等からなる導電線案内管6が湾曲全長にわたって挿通配置されていて、その導電線案内管6の出口開口6aが、可撓性偏平部2の偏平面2aに沿う向きに可撓性偏平部2の基端側に配置されている。
【0020】
導電線案内管6の出口開口6aと並んで可撓性偏平部2の基端部に隣接する位置には、第2の観察窓13と照明窓14が、偏平面2aが面する方向に合わせて斜め前方に向けて配置されている。
【0021】
導電線案内管6内には、導電線7が軸線方向に進退自在に挿通されている。導電線7は、導電線案内管6の出口開口6aから可撓性偏平部2の偏平面2aに沿って可撓性偏平部2の先端部分まで延出配置されている。
【0022】
導電線7は、可撓性偏平部2の偏平面2aに沿う露出部分(即ち、内視鏡外部に露出している部分)が電気絶縁被覆等が施されていない線状の高周波電極7Aになっていて、高周波電極7Aの先端(即ち、導電線7の最先端部)は可撓性偏平部2の先端付近に連結固定されている。
【0023】
ただし、高周波電極7Aの先端を可撓性偏平部2の先端に着脱自在に連結してもよく、そのようにすれば、高周波電極7Aが高周波処置への使用で劣化した場合等に交換できるようにすることができる。
【0024】
上述のような構成により、導電線7が基端側から牽引操作されると、図2に二点鎖線で示されるように可撓性偏平部2が偏平面2aが面する方向に弓状に湾曲して高周波電極7Aが弓の弦のような状態になり、高周波電極7Aで生体壁等を高周波切開することができる。導電線7の牽引操作が解除されると、可撓性偏平部2は自己の弾性により元の真っ直ぐに近い状態に戻る。
【0025】
図3は、処置用内視鏡の全体構成を示しており、挿入部1の基端に連結された操作部90には、湾曲部3を遠隔操作するための湾曲操作ノブ91や、観察窓3及び第2の観察窓13を通して撮像される観察像についての制御を行うための観察像制御ボタン93等が配置されている。99は、後述するビデオプロセッサに接続するためのコネクタ部である。
【0026】
95は、導電線7を軸線方向に進退操作するための導電線操作レバーである。その機構の構造は、公知の鉗子起上操作機構等と変わりがないものを利用することができるので、詳細な説明は省略する。
【0027】
96は、図示されていない高周波電源コードを接続するための接続端子であり、導電線7と電気的に常につながっている。したがって、導電線7を経由して高周波電極7Aに高周波電流を任意に通電することができる。
【0028】
図4は、内視鏡観察像等を制御するためのビデオプロセッサ100と内視鏡観察像を表示するためのモニタ101等を示しており、観察窓3を通して得られた内視鏡観察像121がモニタ101に大きく表示されて、その内視鏡観察像中に、第2の観察窓13を通して得られた内視鏡観察像141が表示される。いわゆるピクチャー・イン・ピクチャーである。151は、その画像に関するデータ等を表示するためのサブ表示領域である。
【0029】
ただし、図5に示されるように、観察窓3を通して得られた内視鏡観察像121と第2の観察窓13を通して得られた内視鏡観察像141を一つのモニタ101中に同じ大きさに表示しても差し支えない。
【0030】
また、図6に示されるように、観察窓3を通して得られた内視鏡観察像121と第2の観察窓13を通して得られた内視鏡観察像141を、別のモニタ101,201に並べて表示してもよい。
【0031】
図7は、本実施例に係る処置用内視鏡を用いて行われる胃壁500の全層切除処置の一例を示しており、図示されていない内視鏡用高周波メス等で胃壁500に小さく形成された穿孔501に可撓性偏平部2を途中まで差し込んで、導電線7を基端側から牽引操作することにより、高周波電極7Aが弓の弦状になって可撓性偏平部2が湾曲した状態になる。
【0032】
そこで、高周波電極7Aに高周波電流を通電することにより、高周波電極7Aと接触する胃壁500が高周波焼灼により切断され、切断箇所を移動させていくことにより胃壁500の全層切除を行うことができる。
【0033】
その際に、高周波電極7Aが弓の弦状になった状態を保って振らつかず、また、可撓性偏平部2の先端に設けられた観察窓3等も高周波電極7Aと機械的に固定された状態になることにより、切除対象部位に対して振らつかない。したがって、切除部位を常に確実に観察しながら安全かつ円滑に切除処置を行うことができる。
【0034】
そして、可撓性偏平部2の基端に設けられている第2の観察窓13を通して、胃壁500の表面側の状態を観察することができるだけでなく、可撓性偏平部2の先端に設けられている観察窓3を通して、胃壁500の裏面側の血管の走行状態等も観察しながら安全に切除処置等を行うことができる。
【0035】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、例えば、図8に示される第2の実施例のように、可撓性偏平部2の高周波電極7Aが面している側の偏平面2aに、横方向(即ち、可撓性偏平部2の長手方向に対し直交する方向)に適宜の数の溝2gが形成されていてもよい。このように構成することにより、可撓性偏平部2がよりスムーズに湾曲する。
【0036】
また、図9に示される第3の実施例のように、可撓性偏平部7の先端付近の領域が可撓性のない硬質部2Hになっていてもよい。このように構成することにより、可撓性偏平部2の湾曲形状が「く」の字状になり、その結果、高周波電極7Aの振らつきがより小さくなる。
【0037】
なお、可撓性偏平部2の先端部分の観察窓3の周辺領域には可撓性のない硬質部ができてしまうものであるが、この実施例では硬質部2Hを積極的に長く形成したものであり、硬直した部材を適宜内装させることで任意の長さの硬質部2Hを形成することができる。
【0038】
また、図10に示される第4の実施例のように、断面形状が半円形の半管部1xを、可撓性偏平部2の基端付近の領域に対し並列に並ぶように挿入部1の外装部分から前方に延出配置して、導電線案内管6の出口開口6aをその半管部1xの先端部分に配置してもよい。
【0039】
このように構成することにより、可撓性偏平部2に対する高周波電極7Aの長さを短く形成することができ、症例等に応じて安定した切開を行うことができる場合がある。
【0040】
なお、本発明は多様な実施態様をとることができ、例えば、図9及び図10に示される第3及び第4の実施例の可撓性偏平部2に、図8に示される第2の実施例の溝2gと同様の溝を形成すれば、可撓性偏平部2が振らつきなく安定した状態によりスムーズに湾曲する。
【符号の説明】
【0041】
1 挿入部
1x 半管部
2 可撓性偏平部
2a 偏平面
2g 溝
2H 硬質部
3 観察窓
5 湾曲部
6 導電線案内管
6a 出口開口
7 導電線
7A 高周波電極
13 第2の観察窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性の挿入部の先端近傍の領域に断面形状が偏平な可撓性偏平部が設けられて、
上記可撓性偏平部の先端部分に観察窓が側方に向けて偏平面側に配置されると共に、
遠隔操作により湾曲自在な湾曲部が上記可撓性偏平部の近傍後方位置に設けられ、
上記挿入部内に挿通配置された導電線案内管の出口開口が上記可撓性偏平部の基端側に配置されて、
上記導電線案内管内に軸線方向に進退自在に挿通された導電線が上記導電線案内管の出口開口から上記偏平面に沿って高周波電極として上記可撓性偏平部の先端部分まで延出して露出配置され、
上記導電線の先端が上記可撓性偏平部の先端付近に連結されて、
上記導電線を基端側から牽引操作することにより上記可撓性偏平部が弓状に湾曲して上記高周波電極が弦状になることを特徴とする処置用内視鏡。
【請求項2】
上記可撓性偏平部が上記湾曲部より小さな曲率半径で湾曲する請求項1記載の処置用内視鏡。
【請求項3】
上記可撓性偏平部の基端部付近に第2の観察窓が設けられている請求項1又は2記載の処置用内視鏡。
【請求項4】
上記第2の観察窓が斜め前方に向けて配置されている請求項3記載の処置用内視鏡。
【請求項5】
上記可撓性偏平部の上記高周波電極が面している偏平面に、横方向に溝が形成されている請求項1ないし4のいずれかの項に記載の処置用内視鏡。
【請求項6】
上記可撓性偏平部の先端付近の領域が可撓性のない硬質部になっている請求項1ないし5のいずれかの項に記載の処置用内視鏡。
【請求項7】
上記導電線案内管の出口開口が、上記可撓性偏平部の基端付近の領域に対し並列に並んで配置された半管部の先端部分に配置されている請求項1又は2記載の処置用内視鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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