説明

刃具位置決定装置及び刃具位置決定方法

【課題】より簡単に且つ高精度に刃具位置を決定できる刃具位置決定技術を提供することを課題とする。
【解決手段】(a)において、治具25の壁26に、工具の中心軸に直交する方向にねじ21を回すツール38が挿入される穴27が設けられ、ポケット17に、刃具16を押出すばね31が収納されている。
【効果】(b)において、ねじ21をツール38で緩めると、ばね31が刃具16を押出し、刃先19が治具25の穴24の面41に当たる。刃先19が面41に当たった状態で刃具16をねじ21で固定する。治具25に対し工具が正確に位置決めされ、治具25はミクロン単位の製作公差で製作される。面41に刃先19を当てて刃具位置を決めるので高精度な刃具位置が得られる。より簡単に且つ高精度に刃具位置を決定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具に保持させた刃具の位置を決める刃具位置決定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
中ぐり加工は、中ぐり棒に取付けた刃具で、ワークに設けた穴の内周を切削する加工法である。この加工法では、加工前に、予め設定した目標径に刃先が位置するようにしてから、刃具を固定する。そのため、要求される穴の仕上がり内径が変わると、目標径も変えなくてはならないので、目標径が変わる度に目標径に刃先が合うように刃具位置を決める必要がある。
【0003】
従来、目標径に刃先が合うように刃具位置を決める技術として各種の刃具位置決定技術が提案されている(例えば、特許文献1(図1)参照。)。
【0004】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図7は従来の技術の基本構成を説明する図であり、(a)において、工具100の先端に、刃具位置決定装置101を介して刃具102が取付けられている。刃具位置決定装置101は、工具100に設けた穴103に嵌められ内周面に雌ねじ部104を有するナット105と、工具100に設けた穴106に嵌められナット105の雌ねじ部104に噛合う雄ねじ部107を外周面に備えるカートリッジ108と、このカートリッジ108の後部に配置された隔壁109に複数の皿ばね111及び座金112を介して設けられカートリッジ108内部に設けたねじ穴113にねじ込んでいるボルト114とからなる。加えて、カートリッジ108の先端に、締結部材115で刃具102が止められ、カートリッジ108の後端に、工具100に設けたキー溝116に嵌るキー部117が設けられている。
【0005】
刃先118の位置を変えるには、先ずボルト114を緩める。ボルト114を緩めると、座金112が隔壁109から離れ、同時にカートリッジ108が隔壁109から離れる。カートリッジ108が隔壁109から離れた状態で、ナット105のスパナ掛け部119にスパナを掛け、スパナでナット105を回してナット105を微小距離だけ移動させる。次にナット105の鍔部121を工具100のナット受け面122に当てた状態で、ボルト114を締める。その結果、(b)に示されるように、刃先118の位置が(a)に比べて長さL1だけ移動したことになる。上記の作業手順によれば、目標径に刃先118が合うように刃具102の位置を決めることができる。
【0006】
刃先118の位置が目標径に設定された後、試し加工を実施して実際の加工径を確認する。加工径が目標径と異なる場合には、調整前の加工径から必要移動量を算出し、スパナでナット105を回して刃先118の位置を移動させる。そして、再度試し加工を実施して実際の加工径を確認する。
【0007】
しかし、刃具位置決定装置101では、刃先位置決定後の試し加工で、加工径が目標径と異なる場合、刃先位置を移動させて再度試し加工を実施することになるので、調整時間が増大する。調整時間の増大は、リードタイムの増加に繋がるので、好ましくない。
【0008】
そこで、より簡単に且つ高精度に刃具位置を決定することができる刃具位置決定技術が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−254218公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、より簡単に且つ高精度に刃具位置を決定することができる刃具位置決定技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、工具に刃具を保持する刃具保持部が設けられ、この刃具保持部に刃具を移動可能に収納する刃具ポケットが備えられ、前記刃具保持部に刃具を所定位置にて固定する固定手段が設けられている刃具位置決定装置であって、前記刃具ポケットに収納され、刃具を押し出す弾発部材と、前記刃具保持部と同一の中心軸上に設けられ、刃具保持部が挿入される中心穴及び刃具の刃先が当てられる内周面を有するマスターリングとを備え、前記マスターリングは、前記固定手段を作動させるための固定手段作動ツールが挿入される貫通穴を備えていることを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の刃具位置決定装置を用いて前記刃具の位置を決める刃具位置決定方法であって、前記マスターリングの中心軸に前記刃具保持部の中心軸を合わせ、この状態で刃具保持部をマスターリングの中心穴へ挿入する刃具保持部挿入工程と、前記固定手段作動ツールを前記貫通穴に挿入する固定手段作動ツール挿入工程と、前記固定手段作動ツールで前記刃具の固定を解除する刃具固定解除工程と、前記弾発部材で前記刃具が押し出され、前記刃先が前記マスターリングの中心穴の内周面に当たった状態で、前記固定手段作動ツールで刃具を固定する刃具固定工程と、前記刃先が前記マスターリングから離れる方向に前記工具又は前記マスターリングを移動して前記マスターリングから前記工具を分離する工具分離工程と、からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明では、工具の刃具保持部に刃具ポケットが備えられ、この刃具ポケットに刃具を押し出す弾発部材が収納され、刃具は刃具保持部に固定手段で固定されている。刃具保持部をマスターリングの中心穴に挿入した状態で、刃具の固定を固定手段作動ツールで解除すると、弾発部材が弾性作用を発揮する。結果、刃具が押し出されて刃具の刃先がマスターリングの中心穴の内周面に当たる。また、マスターリングは、固定手段を作動させるための固定手段作動ツールが挿入される貫通穴を備えている。そのため、刃先がマスターリングの中心穴の内周面に当たっている状態で、刃具を固定手段で固定できる。すなわち、本発明の刃具位置決定装置では、スパナ等でナットを回して刃具位置を微調整し、試し加工で加工径を確認することを繰り返す場合に比べて、より簡単に刃具位置を決定できる。
【0014】
加えて、マスターリングは、刃具保持部と同一の中心軸上に設けられている。マスターリングの中心軸に刃具保持部の中心軸を合わせるようにするので、マスターリングに対する工具の位置決めが正確に実施される。また、マスターリングは、ミクロン単位の製作公差で製作されるゲージである。このようなマスターリングの中心穴の内周面に刃先を当てて、刃具の位置を決めるので、高精度な刃具位置が得られる。したがって、より簡単に且つ高精度に刃具位置を決定することができる刃具位置決定装置を提供できる。
【0015】
請求項2に係る発明では、刃具位置決定方法は、請求項1記載の刃具位置決定装置を用いて刃具の位置を決める方法である。また、刃具位置決定方法は、マスターリングの中心軸に刃具保持部の中心軸を合わせ、この状態で刃具保持部をマスターリングの中心穴へ挿入する刃具保持部挿入工程と、固定手段作動ツールを貫通穴に挿入する固定手段作動ツール挿入工程と、前記固定手段作動ツールで前記刃具の固定を解除する刃具固定解除工程と、弾発部材で前記刃具が押し出され、刃先が前記マスターリングの中心穴の内周面に当たった状態で、前記固定手段作動ツールで刃具を固定する刃具固定工程と、前記刃先が前記マスターリングから離れる方向に前記工具又は前記マスターリングを移動して前記マスターリングから前記工具を分離する工具分離工程と、からなる。
【0016】
刃具固定解除工程で、固定手段による刃具の固定が解除されるので、弾発部材は弾性作用を発揮する。この弾発部材の弾性作用で刃具が押し出され、刃先がマスターリングの中心穴の内周面に当たる。刃具固定工程で、刃先がマスターリングの中心穴の内周面に当たった状態で、刃具を固定手段で固定する。すなわち、本発明の刃具位置決定方法では、スパナ等でナットを回して刃具位置を微調整し、試し加工で径を確認することを繰り返す場合に比べて、より簡単に刃具位置を決定できる。
【0017】
加えて、刃具保持部挿入工程で、マスターリングに対する工具の位置決めが正確に実施される。また、マスターリングは、ミクロン単位の製作公差で製作されるゲージである。このようなマスターリングの中心穴の内周面に刃先を当てて、刃具の位置を決めるので、高精度な刃具位置が得られる。したがって、より簡単に且つ高精度に刃具位置を決定することができる刃具位置決定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る刃具位置決定装置の正面図である。
【図2】図1の2−2線断面図である。
【図3】工具の挿入から回転ツールの挿入までを説明する図である。
【図4】止めねじの緩めから刃具の押出しまでを説明する図である。
【図5】止めねじの締めからマスターリングの移動までを説明する図である。
【図6】本発明に係る刃具位置決定方法のフロー図である。
【図7】従来の技術の基本構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。以下では、固定手段を止めねじとし、固定手段作動ツールを六角スパナとして説明する。
【実施例】
【0020】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、刃具位置決定装置10は、主軸頭11に設けた回転軸12に取付けられ回転中心軸13回りに回転すると共に軸方向に移動可能な回転軸12により回される丸棒状の工具14と、この工具14の先端に設けられ刃具16(詳細後述)を保持する刃具保持部15と、この刃具保持部15に回転中心軸13に直交する方向に延びるようにして備えられ刃具16を移動可能に収納する刃具ポケット17(詳細後述)と、刃具保持部15の外周面18から突出する側に刃先19(詳細後述)が備えられている刃具16と、この刃具16の刃先19から工具14の中心までの距離が所定値(詳細後述)になったときに刃具16を刃具保持部15に固定する止めねじ21(詳細後述)と、工具14に対面する位置に設けられテーブル22に取付けたチャック23で保持されていると共に所定値の2倍の径D1の中心穴24が形成されているマスターリング25とからなる。
【0021】
なお、チャック23は、例えばコレットチャックが好適である。その他に、スクロールチャック、空気チャック、マグネットチャックを適用してもよい。
【0022】
回転中心軸13の延長線上に、刃具保持部15の保持部中心軸48が配置され、この保持部中心軸48の延長線上に、マスターリング25のリング中心軸47が配置されている。すなわち、マスターリング25は、刃具保持部15と同一の中心軸上に設けられている。刃具位置決定装置10では、刃具16の位置を決めるとき、マスターリング25のリング中心軸47に刃具保持部15の保持部中心軸48を合わせてから、刃先19から工具14の中心までの距離が所定値になるようにする。
【0023】
加えて、マスターリング25の側壁26に、工具14の回転中心軸13に直交する方向に沿って、止めねじ21を回す回転ツール(後述)が挿入される貫通穴27が設けられている。また、マスターリング25の中心穴24の内周面41は、刃具16の刃先19が当てられる(詳細後述)部位である。次に刃具保持部15の詳細構造を図2で説明する。
【0024】
図2に示されるように、刃具保持部15に、刃具ポケット17が開けられていると共に、刃具ポケット17に直交するようにねじ穴32が設けられている。刃具16は、刃具ポケット17の底面29に設けた弾発部材31で押されていると同時に、ねじ穴32にねじ込んだ止めねじ21で固定されている。すなわち、刃具ポケット17に、刃具16を押し出す弾発部材31が収納されている。
【0025】
なお、刃具保持部15は、実施例では丸棒状に形成させたが、角棒状に形成させてもよい。
加えて、刃具16は、実施例では刃先と一体化させたが、刃具の先端に付刃を取外し可能に設けて、付刃の先端を刃先としてもよい。また、刃先に砥粒を設けた刃具を適用してもよい。
【0026】
さらに、弾発部材31は、圧縮コイルばねが好適であるが、皿ばねや板ばねを適用できるため、ばねであれば種類を問わずに適用可能である。
また、止めねじ21は、六角穴34を備えるねじが好適であるが、すりわり付きねじや六角頭付きねじを適用できるため、一般のねじ部品であれば適用可能である。加えて、ねじ部品の代わりにピンを適用してもよい。固定手段にピンを適用する場合には、刃具に複数の穴を開けることで、刃具の位置を調整する。
【0027】
刃具保持部15に、工具の回転中心軸(図1、符号13)に直交する直線35を引き、この直線35に直交し且つ工具の軸に直交する直線36を引くと、工具の回転中心点37が得られる。刃具16の位置を決めるとき、刃先19から工具の回転中心点37までの距離が所定値になるようにする。なお、距離R1は、刃具16の待機状態での半径を示す。
以上に述べた刃具位置決定装置の作用を次に述べる。
【0028】
図3(a)に示されるように、マスターリング25のリング中心軸47に刃具保持部15の保持部中心軸48を合わせた状態で、刃具保持部15がマスターリング25の中心穴24へ挿入されている。
(b)は(a)のb−b線断面図に相当し、回転ツール38の先端部39を矢印(1)のようにマスターリング25の貫通穴27に挿入させ、止めねじ21の六角穴34に向かわせる。
【0029】
なお、回転ツール38は、実施例では六角スパナを適用したが、止めねじが六角ボルトである場合にはソケットレンチを適用してもよい。次に止めねじの緩めから刃具の押出しまでの作用を図4で説明する
【0030】
図4(a)に示されるように、回転ツール38の先端部39が止めねじ21の六角穴34に嵌った状態で、回転ツール38を矢印(2)のように回して止めねじ21を緩める。
【0031】
止めねじ21を緩めると、(b)に示されるように、止めねじ21による刃具16の押さえが解かれ、弾発部材31が弾性作用を発揮する。その結果、弾発部材31で刃具16が押し出され、刃先19がマスターリング25の中心穴24の内周面41に当たる。この状態で回転ツール38を矢印(3)のように回して止めねじ21を締める。これで、刃具16の位置が決まったことになる。
【0032】
なお、刃先19がマスターリング25の中心穴24の内周面41に接触したとき、刃先19から工具14の回転中心点37までの距離が、半径R2となる。マスターリング25の中心と工具(図1、符号14)の回転中心軸(図1、符号13)が合っているので、マスターリング25の中心穴24の径D1は、半径R2の2倍の径となる。したがって、半径R2は、中ぐり加工を実施するときの目標径に相当する所定値である。次に止めねじの締めからマスターリングの移動までの作用を図5で説明する。
【0033】
図5(a)に示されるように、止めねじ21の六角穴34に嵌っている回転ツール38を、矢印(4)のように引く。次にテーブル(図1、符号22)を移動させることにより、マスターリング25を矢印(5)のように移動させる。
【0034】
(b)に示されるように、刃先19がマスターリング25の中心穴24の内周面41から離れている。この状態で、工具(図1、符号14)を回転中心軸(図1、符号13)に沿って移動させることで、マスターリング25から工具を分離できる。点46は、マスターリング25の中心点である。
【0035】
なお、刃先19をマスターリング25の中心穴24の内周面41から離すとき、実施例ではテーブルを移動させたが、工具(図1、符号14)を移動させてもよい。
また、マスターリング25と工具の分離は、実施例ではマスターリング25を静止状態にして工具を移動させたが、マスターリング25をマスターリング25の軸方向に直交する方向に沿って2分割できる構造にして、工具からマスターリング25を分離させるようにしてもよい。
【0036】
加えて、マスターリング25は、止めねじ21の緩め及び締めを実施するための回転ツール38が挿入される貫通穴27を備えている。なお、止めねじ21に代えて、固定手段にピンを適用した場合には、ピンの取付け及び引抜き(固定手段を作動させること)が可能である工具を適用できる。この工具は、手工具、電動式工具、空圧式工具、油圧式工具のいずれであってもよい。
【0037】
刃具位置決定装置(図1、符号10)では、工具(図1、符号14)の刃具保持部15に刃具ポケット17が備えられ、この刃具ポケット17に刃具16を押し出す弾発部材31が収納され、刃具16は刃具保持部15に止めねじ21で固定されている。刃具保持部15をマスターリング25の中心穴24に挿入した状態で、止めねじ21を回転ツール38で緩めると、刃具16の固定が解除される。刃具16の固定解除によって、弾発部材31が弾性作用を発揮する。結果、刃具16が押し出されて刃具16の刃先19がマスターリング25の中心穴24の内周面41に当たる。また、マスターリング25は、止めねじ21を回す回転ツール38が挿入される貫通穴27を備えている。そのため、刃先19がマスターリング25の中心穴24の内周面41に当たっている状態で、刃具16を止めねじ21で固定できる。すなわち、本発明の刃具位置決定装置では、スパナ等でナットを回して刃具位置を微調整し、試し加工で径を確認することを繰り返す場合に比べて、より簡単に刃具位置を決定できる。
【0038】
加えて、マスターリング25は、刃具保持部15と同一の中心軸上に設けられている。マスターリング25のリング中心軸(図1、符号47)に刃具保持部15の保持部中心軸(図1、符号48)を合わせるようにするので、マスターリング25に対する工具の位置決めが正確に実施される。また、マスターリング25は、ミクロン単位の製作公差で製作されるゲージである。このようなマスターリング25の中心穴24の内周面41に刃先19を当てて、刃具16の位置を決めるので、高精度な刃具位置が得られる。したがって、より簡単に且つ高精度に刃具位置を決定することができる刃具位置決定装置を提供できる。
次に刃具位置決定装置を用いて実施される刃具位置決定方法を説明する。
【0039】
図6に示されるように、ステップ(以下STと記す。)01において、刃具保持部をマスターリングの中心穴へ挿入する。具体的には図3(a)に示されるように、マスターリング25のリング中心軸47に刃具保持部15の保持部中心軸48を合わせた状態で、刃具保持部15をマスターリング25の中心穴24へ挿入させる。
【0040】
ST02において、固定手段作動ツールをマスターリングの貫通穴に挿入する。具体的には図3(b)に示されるように、回転ツール38の先端部39を矢印(1)のようにマスターリング25の貫通穴27に挿入させる。
【0041】
ST03において、固定手段作動ツールで刃具の固定を解除する。具体的には図4(a)に示されるように、回転ツール38の先端部39が止めねじ21の六角穴34に嵌った状態で、回転ツール38を矢印(2)のように回して止めねじ21を緩める。
【0042】
ST04において、固定手段作動ツールで刃具を固定する。具体的には図4(b)に示されるように、刃先19がマスターリング25の中心穴24の内周面41に当たっている状態で、回転ツール38を矢印(3)のように回して止めねじ21を締める。
【0043】
ST05において、マスターリングから工具を分離する。具体的には図5(a)に示されるように、回転ツール38を矢印(4)のように引く。次にテーブル(図1、符号22)を移動させることにより、マスターリング25を矢印(5)のように移動させる。加えて、図5(b)に示されるように、刃先19がマスターリング25の中心穴24の内周面41から離れている状態で、工具(図1、符号14)を回転中心軸(図1、符号13)に沿って移動させ、マスターリング25から工具を分離する。
【0044】
図5(a)において、刃具位置決定方法は、刃具位置決定装置を用いて刃具の位置を決める方法である。また、刃具位置決定方法は、マスターリング25のリング中心軸(図1、符号47)に刃具保持部15の保持部中心軸(図1、符号48)を合わせ、この状態で刃具保持部15をマスターリング25の中心穴24へ挿入する刃具保持部挿入工程と、回転ツール38を貫通穴27に挿入する固定手段作動ツール挿入工程と、回転ツール38で止めねじ21を緩める刃具固定解除工程と、弾発部材31で刃具16が押し出され、刃先19がマスターリング25の中心穴24の内周面41に当たった状態で、回転ツール38により止めねじ21を締める刃具固定工程と、刃先19がマスターリング25から離れる方向にマスターリング25を移動してマスターリング25から工具を分離する工具分離工程と、からなる。
【0045】
刃具固定解除工程で、止めねじ21による刃具16の固定が解除されるので、弾発部材31は弾性作用を発揮する。この弾発部材31の弾性作用で刃具16が押し出され、刃先19がマスターリング25の中心穴24の内周面41に当たる。刃具固定工程で、刃先19がマスターリング25の中心穴24の内周面41に当たった状態で、刃具16を止めねじ21で固定する。すなわち、本発明の刃具位置決定方法では、スパナ等でナットを回して刃具位置を微調整し、試し加工で径を確認することを繰り返す場合に比べて、より簡単に刃具位置を決定できる。
【0046】
加えて、刃具保持部挿入工程で、マスターリング25に対する工具(図1、符号14)の位置決めが正確に実施される。また、マスターリング25は、ミクロン単位の製作公差で製作されるゲージである。このようなマスターリング25の中心穴24の内周面41に刃先19を当てて、刃具16の位置を決めるので、高精度な刃具位置が得られる。したがって、より簡単に且つ高精度に刃具位置を決定することができる刃具位置決定方法を提供できる。
【0047】
尚、本発明に係る刃具は、実施の形態では中ぐりバイトに適用したが、めねじ切りバイトに適用してもよい。
加えて、本発明に係る刃具保持部は、実施の形態では工具の先端部に適用したが、この他に工具の中間部及び根元部にも適用できるので、工具に対する適用部位は任意に決めて差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の刃具位置決定技術は、中ぐり盤作業に好適である。
【符号の説明】
【0049】
10…刃具位置決定装置、14…工具、15…刃具保持部、16…刃具、17…刃具ポケット、19…刃先、21…固定手段(止めねじ)、24…中心穴、25…マスターリング、27…貫通穴、31…弾発部材、38…固定手段作動ツール(回転ツール)、41…内周面、47…中心軸(リング中心軸)、48…中心軸(保持部中心軸)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具に刃具を保持する刃具保持部が設けられ、この刃具保持部に刃具を移動可能に収納する刃具ポケットが備えられ、前記刃具保持部に刃具を所定位置にて固定する固定手段が設けられている刃具位置決定装置であって、
前記刃具ポケットに収納され、刃具を押し出す弾発部材と、
前記刃具保持部と同一の中心軸上に設けられ、刃具保持部が挿入される中心穴及び刃具の刃先が当てられる内周面を有するマスターリングとを備え、
前記マスターリングは、前記固定手段を作動させるための固定手段作動ツールが挿入される貫通穴を備えていることを特徴とする刃具位置決定装置。
【請求項2】
請求項1記載の刃具位置決定装置を用いて前記刃具の位置を決める刃具位置決定方法であって、
前記マスターリングの中心軸に前記刃具保持部の中心軸を合わせ、この状態で刃具保持部をマスターリングの中心穴へ挿入する刃具保持部挿入工程と、
前記固定手段作動ツールを前記貫通穴に挿入する固定手段作動ツール挿入工程と、
前記固定手段作動ツールで前記刃具の固定を解除する刃具固定解除工程と、
前記弾発部材で前記刃具が押し出され、前記刃先が前記マスターリングの中心穴の内周面に当たった状態で、前記固定手段作動ツールで刃具を固定する刃具固定工程と、
前記刃先が前記マスターリングから離れる方向に前記工具又は前記マスターリングを移動して前記マスターリングから前記工具を分離する工具分離工程と、からなることを特徴とする刃具位置決定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−16805(P2012−16805A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157078(P2010−157078)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】