説明

分岐部付パイプの製造方法

【課題】従来のフローティングコアによるパイプ成形法を利用し、その利点を生かしつつ、各種分岐部付パイプを合成樹脂で効率よく一体成形できるようにする。
【解決手段】一端にフローティングコア1を備えた加圧ポート2を有し、他端に第一排出口3を有する主キャビティ4内と、主キャビティ4に連通し、端部に開閉可能な第二排出口6を有する分岐部キャビティ5内に、溶融樹脂を射出した後、
加圧ポート2から加圧流体を圧入して、フローティングコア1を第一排出口3側に移動させると共に第一排出口3から溶融樹脂を押出させ主パイプ中空部を形成せしめる工程と、
主パイプ中空部が分岐部キャビティ5と主キャビティ4の連通部分に達した後に、第二排出口6を開放して、第二排出口6から溶融樹脂を加圧流体にて押出させ分岐パイプ中空部を形成せしめる工程と、
を有する分岐部付パイプの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成樹脂で一体射出成形されたパイプ、特に中空の分岐部を有するパイプの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成樹脂でパイプを一体成形できる方法及び装置としては、キャビティの一端には、パイプの内径に相当する径を有するフローティングコアと、加圧流体を圧入するための加圧ポートとが設けられていると共に、キャビティの他端には排出口が設けられている金型を用い、キャビティ内を溶融樹脂で満たした後、加圧ポートから加圧流体を圧入して、フローティングコアを排出口側に移動させて、主キャビティ内の樹脂中に中空部を形成すると共に排出口から余剰の樹脂を押し出すことで中空のパイプを一体成形する方法及び装置が知られている(特許文献1,2)。
【0003】
しかしながら、特許文献1,2の方法及び装置は、パイプの中空部分をいわばフローティングコアの移動跡として形成するものである。そして、フローティングコアの移動は一方向のみに限られるので、分岐部を有するパイプの製造ができない問題がある。フローティングコアを複数設け、夫々を別々の方向に移動させることで分岐部付のパイプを一体成形できるようにも考えられるが、複数のフローティングコアを別々の方向に移動できるようにするのは、金型構造上極めて困難である。
【0004】
特許文献3には、フローティングコアを用いた成形法で分岐部付パイプを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第1988870号公報
【特許文献2】特許第3462290号公報
【特許文献3】特許第3771295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献3の方法は分岐部を成形するのにスライドコアを用いており、直管の分岐部しか成形できない、成形直後は主パイプ部と分岐部が薄い樹脂膜で結合しておりそれを完全に取り除くのには機械加工が必要である、等の点から用途範囲が限定されていた。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、従来のフローティングコアによるパイプ成形法を利用し、その利点を生かしつつ、各種分岐部付パイプを合成樹脂で効率よく一体成形できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明の分岐部付パイプの製造方法は、
一端にフローティングコアを備えた加圧ポートを有し、他端に第一排出口を有する主キャビティ内と、該主キャビティに連通し、端部に開閉可能な第二排出口を有する分岐部キャビティ内に、溶融樹脂を射出した後、
前記加圧ポートから加圧流体を圧入して、前記フローティングコアを第一排出口側に移動させると共に該第一排出口から前記溶融樹脂を押出させ主パイプ中空部を形成せしめる工程と、
前記第二排出口から前記溶融樹脂を加圧流体にて押出させ分岐パイプ中空部を形成せしめる工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、主パイプ部、分岐パイプ部のいずれもが曲管であっても、一体成形することができる。また、射出成形法によって成形するため、寸法精度が高く、外観も良好な分岐部付パイプをコスト的に有利に製造しうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明により製造される分岐部付パイプの一例を示す断面図である。
【図2】図1の分岐部付パイプの製造に用いられる金型を示す断面図である。
【図3】本発明の製造方法の説明図である。
【図4】本発明の製造方法の説明図である。
【図5】本発明の製造方法の説明図である。
【図6】本発明の製造方法の説明図である。
【図7】図2の金型から取り出される成形品の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明により製造される分岐部付パイプの一例を示す断面図である。本発明により製造される分岐部付パイプは、主パイプ部9、分岐パイプ部10、必要に応じて設けられる鍔部16などからなり、主パイプ部9,分岐パイプ部10内には、それぞれ主パイプ中空部7,分岐パイプ中空部7’が形成されている。
【0012】
図2は、図1の分岐部付パイプの製造に使用する金型の断面図である。図2中、4は図1に示される主パイプ部9を成形する主キャビティである。図2においてゲート11を主キャビティ4に開口させてあるが、後述する分岐部キャビティ5等任意の位置に設けることが出来る。また図2に於ける主パイプ部9、分岐パイプ部10は湾曲したものとなっているが、直線状とすることも出来る。
【0013】
主キャビティ4の一端には、主パイプ部9の内径に相当する径を有するフローティングコア1が設けられていると共に、このフローティングコア1を主キャビティ4の他端側へ押圧移動させる加圧流体を圧入するための加圧ポート2が設けられている。
【0014】
フローティングコア1は、加圧ポート2から圧入される加圧流体で押圧できるよう、加圧ポート2を背にして主キャビティ4内に設けられているもので、例えば銅、黄銅、ステンレス鋼、鉄、アルミニウム等の金属製とする他、成形時に大きく溶融変形しないものであれば合成樹脂製とすることもできる。特に合成樹脂製とすると、軽いことから加圧流体の圧力をさほど高くしなくとも容易に押圧移動させることができると共に、金属製の場合に比して、射出されてフローティングコア1に接触した樹脂が急速な冷却を受けにくいので主パイプ部9の加圧ポート2側内表面状態が向上する利点がある。フローティングコア1の形状は、図示される球形の他、最大径が主パイプ部9の内径に相当するものであれば、例えば円錐形、砲弾形、半球形とすることもできる。
【0015】
加圧ポート2は、加圧流体を圧入・排出するための加圧流体系(図示されていない)に接続されている。
【0016】
主キャビティ4の他端部には、第一排出口3が設けられており、この第一排出口3は第一余剰樹脂収容キャビティ12に接続されている。また、第一排出口3は第一開閉手段13によって開閉可能となっている。
【0017】
主キャビティ4の任意の位置には主キャビティ4に連通して分岐部キャビティ5が設けられている。この分岐部キャビティ5は分岐パイプ部10を成形するものである。この分岐部キャビティ5の端部には、第二排出口6が設けられており、この第二排出口6は第二余剰樹脂収容キャビティ15に接続されている。また、第二排出口6は第二開閉手段14によって開閉可能となっている。
【0018】
尚、図2では分岐部キャビティ5を主キャビティ4に対して垂直方向に設けてあるが、傾きを持たせることもでき、任意の角度で設けることが可能である。
【0019】
後述するように、主パイプ中空部7はフローティングコア1の移動により形成され、分岐パイプ中空部7’は加圧ポート2から圧入される加圧流体により、形成される。
【0020】
次に、図3〜図7に基づいて本発明に係る製造方法を説明する。
【0021】
まず図3に示されるように第一排出口3,第二排出口6を閉じた状態で溶融樹脂をゲート11から射出し、主キャビティ4及び分岐部キャビティ5を溶融樹脂で満たす。尚、溶融樹脂の射出は、主キャビティ4及び分岐部キャビティ5内がほぼ満たされる量を射出することでもよい。この場合、主キャビティ4若しくは分岐部キャビティ5等に未充填部が残されていても、後述する加圧流体の圧入時に満たすことができ、かつ、第二排出口を開放する際に保圧状態を維持できるのであれば、第一開閉手段13を有さない金型8による成形が可能となる。
【0022】
樹脂としては一般の射出成形、押し出し成形に使用される熱可塑性樹脂を広く使用できる他、必要に応じて熱硬化性樹脂を用いることもできる。また、これらの樹脂には必要に応じてガラス繊維、カーボン繊維、金属繊維等の強化繊維や各種充填材、添加剤、着色剤等を加えることができる。
【0023】
溶融樹脂の射出は、通常の射出成形と同様に、射出機で行われる。射出圧は通常の射出成形と同様で、使用樹脂の種類や強化繊維添加の有無及びその添加量等によっても相違するが、一般的には4.90〜19.61MPa(50〜200kg/cm2)程度である。
【0024】
溶融樹脂の射出は、フローティングコア1を加圧ポート2側に位置させた状態を維持しながら行われる。これは、例えばゲート11(図2参照)をフローティングコア1より第一排出口3側に設けておくことで行うことができる。
【0025】
次いで、図4に示されるように、第一排出口3を開放すると共に、開放と同時に又は所定時間経過後に、加圧ポート2から加圧流体を圧入する。
【0026】
加圧流体としては、射出成形の温度及び圧力下で使用樹脂と反応又は相溶しない気体又は液体が使用される。具体的には、例えば窒素ガス、炭酸ガス、空気、グリセリン、流動パラフィン等が使用できるが、窒素ガスを初めとする不活性ガスが好ましい。
【0027】
加圧流体の圧入は、例えば窒素ガス等の気体を用いる場合、予め圧縮機で蓄圧タンク内に昇圧して蓄えた窒素ガス等の加圧ガスを配管を通じて加圧ポート2に導くことや、圧縮機で直接加圧ポート2に加圧ガスを送り込んで逐次昇圧させていくことで行うことができる。前者の場合、加圧ポート2に供給する加圧ガスの圧力は、使用樹脂の種類等によっても相違するが、通常4.90〜29.42MPa(50〜300kg/cm2G)程度である。
【0028】
加圧流体が圧入されると、フローティングコア1は、冷却固化が始まった主キャビティ4の外周寄りの樹脂を残し、冷却が遅れる中心部の溶融樹脂を第一排出口3から第一余剰樹脂収容キャビティ12へ押し出しながら、第一排出口3側へと前進する。そして、フローティングコア1が通過した後には、フローティングコア1の径にほぼ等しい径の主パイプ中空部7が形成されることになる。従って、フローティングコア1の径を選択することによって主パイプ部9の内径を調整することができる。
【0029】
上記主パイプ中空部7が形成された箇所の樹脂は、圧入された加圧流体の圧力によって主キャビティ4の周壁面に押し付けられ、その形状が維持される。
【0030】
更に加圧流体の圧入を進めると、図5に示されるように、フローティングコア1が第一排出口3の位置まで至り、第一排出口3に圧接してこれを閉鎖する。
【0031】
図5では、フローティングコア1は第一排出口3に圧接されることとしているが、フローティングコア1の第一排出口3への圧接を行わない場合もある。例えばフローティングコア1が第一余剰樹脂収容キャビティ12内に入り込む場合も含まれる。この場合フローティングコア1の径よりも第一排出口3の径を大きくしておく必要がある。
【0032】
引き続き、図6に示す様に、加圧流体が加圧ポート2から圧入されている状態で、第二排出口6を開放する。
【0033】
第二排出口6が開放されると、加圧流体が、冷却固化が始まった分岐部キャビティ5の外周寄りの樹脂を残し、冷却が遅れる中心部の溶融樹脂を第二排出口6から第二余剰樹脂収容キャビティ15へ押し出しながら、第二排出口6側へと前進する。そして、加圧流体が通過した後には、分岐パイプ中空部7’が形成されることになる。尚、分岐部キャビティ5の径をフローティングコア1の最大径よりも小さくすることにより、フローティングコア1が分岐部キャビティ5内に侵入することを防ぐことが出来る。また、分岐部キャビティ5の径をフローティングコア1の径より大きくする必要がある場合は、主キャビティ4中のフローティングコア1の進行方向に対して、フローティングコア1が侵入しない適宜な角度で分岐部キャビティ5を設置することで、フローティングコア1の分岐部キャビティ5内への侵入を防ぐことが出来る。
【0034】
上記分岐パイプ中空部7’が形成された箇所の樹脂は、圧入された加圧流体の圧力によって分岐キャビティ5の周壁面に押し付けられ、その形状が維持される。
【0035】
この状態で主パイプ中空部7、分岐パイプ中空部7’内に加圧流体圧を加えたまま保持することで、樹脂と主キャビティ4及び分岐部キャビティ5の周壁面とを十分に圧接させることができ、冷却に伴うひけの発生を防止することができる。
【0036】
第二排出口6を開放するタイミングは、フローティングコア1が第一排出口3に到達した後に限らず、主パイプ中空部7が、分岐部キャビティ5が主キャビティ4に連通している部分に達した後であって、分岐部キャビティ5内の中心部が固化する直前までの間の任意の時期でもよい。また、前述のように、分岐部キャビティ5の径をフローティングコア1の最大径よりも小さくする場合には、分岐部キャビティ5内に充填された溶融樹脂が、主キャビティ4内に充填された溶融樹脂よりも早く固化し、分岐部キャビティ5への加圧流体の進入または分岐部キャビティ5内での加圧流体の前進が困難になる場合がある。この様な場合には、主キャビティ4及び分岐部キャビティ5が必要量の溶融樹脂で満たされた後、主パイプ中空部7が、分岐部キャビティ5が主キャビティ4に連通している部分に達する前に、第二排出口6を開放してもよい。
【0037】
要するに、第一排出口3の解放と第二排出口6の解放は、主キャビティ4及び分岐部キャビティ5が必要量の溶融樹脂で満たされた後であれば、いずれが先であっても、または同時であってもよく、これらの開放はタイマー等でコントロールすればよい。
【0038】
金型8内の樹脂を冷却した後、主パイプ中空部7、分岐パイプ中空部7’内の加圧流体を排出し、図7に示す成形品を金型8から取り出す。加圧流体の排出は、加圧流体として気体を用いた場合には、加圧ポート2を大気に開放することでも行う事が出来るが、回収タンク(図示していない)へ回収して循環使用することが好ましい。
【0039】
取り出された成形品には余剰樹脂からなる成形体12’、15’が一体となっているが、切断ライン16,17の位置で切断することによって、図1に示した分岐部つきパイプ成形体がえられる。尚、余剰樹脂成形体12’、15’は、これを回収し、粉砕、あるいは再ペレタイズ等の工程を必要に応じて使い分け、樹脂の無駄を無くすことが出来る。
【符号の説明】
【0040】
1 フローティングコア
2 加圧ポート
3 第一排出口
4 主キャビティ
5 分岐部キャビティ
6 第二排出口
7 主パイプ中空部
7’ 分岐パイプ中空部
8 金型
9 主パイプ部
10 分岐パイプ部
11 ゲート
12 第一余剰樹脂収容キャビティ
13 第一開閉手段
14 第二開閉手段
15 第二余剰樹脂収容キャビティ
16,17 切断ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端にフローティングコアを備えた加圧ポートを有し、他端に第一排出口を有する主キャビティ内と、該主キャビティに連通し、端部に開閉可能な第二排出口を有する分岐部キャビティ内に、溶融樹脂を射出した後、
前記加圧ポートから加圧流体を圧入して、前記フローティングコアを第一排出口側に移動させると共に該第一排出口から前記溶融樹脂を押出させ主パイプ中空部を形成せしめる工程と、
前記第二排出口から前記溶融樹脂を加圧流体にて押出させ分岐パイプ中空部を形成せしめる工程と、
を有することを特徴とする分岐部付パイプの製造方法。
【請求項2】
前記分岐パイプ中空部を形成せしめる工程は、前記主パイプ中空部が前記分岐部キャビティと主キャビティの連通部分に達した後に、第二排出口を開放して、該第二排出口から前記溶融樹脂を加圧流体にて押出させ分岐パイプ中空部を形成せしめる工程であることを特徴とする請求項1に記載の分岐部付パイプの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−195032(P2010−195032A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174895(P2009−174895)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(000100595)アァルピィ東プラ株式会社 (27)
【Fターム(参考)】