説明

分散性と展着性に富んだニーム油組成物及びその使用方法

【課題】
従来、害虫忌避と植物病原菌の静菌のためニーム油が撒布されているが、分散性を高めるために混合されている乳化剤、あるいは希釈施用時に添加する展着剤は安全性の点で満足すべきものではなく、食物素材のみより成る農業用資材が求められている。
【解決手段】
レシチンを酵素分解して得られるリゾレシチンにエチルアルコールと水を加えて得られる均一な調整液にニーム油を45℃以下で加温溶解し、分散性と植物に対する展着性に富んだ食物素材のみより成るニーム油組成物が得られる。これによって希釈施用時に展着剤添加を必要とせず、そのまま希釈撒布することによって害虫の忌避と植物病原菌の静菌を達成できるため、害虫の忌避あるいは植物病原菌の静菌効果を有する農業用資材として環境汚染防止と健康保持に資することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分散性が強く、植物に対する展着性に富んだニーム油組成物及びその使用方法に関するものである。組成物として食物素材のみを使用し、害虫の忌避あるいは植物病原菌の静菌効果を有する農業用資材として、農産物の栽培に役立つものである。
【背景技術】
【0002】
ニーム油は東南アジア、中南米、アフリカ等の熱帯地域に自生する薬木であるインドセンダンの果実、樹皮、葉、根等に含まれるもので、通常は乾燥した果実を機械的に圧搾、あるいは溶剤で抽出して得られる。また、2006年5月より人の健康を損なう恐れのないことが明らかな物質として、ニームオイル、アザジラクチンが認められた。さらに残留農薬に関するポジティブリスト対象外物質となっている。
【0003】
ニーム油にはアザジラクチンをはじめとして、害虫忌避あるいは植物病原菌の静菌効果を有する多くの成分が含まれており、しかも植物に対する毒性が無いことから、古くから農作物の栽培に使用されてきた。近年になって、環境汚染防止、健康保持への意識の高まりに伴って、ニーム油は化学農薬に代わるものとして脚光を浴びるに至り、害虫の忌避あるいは植物病原菌の静菌効果を有する農業用資材として広く農産物の栽培に利用され始めている。
【0004】
ニーム油は通常100〜1,000倍に希釈して植物に撒布されているが、ニーム油を構成する脂肪酸としては融点の高いパルミチン酸、ステアリン酸等の高級飽和脂肪酸が多く含まれているため13℃以下の低温下ではワックス状あるいはペースト状を呈し、13℃以上でも水への分散性が極めて悪いため、乳化剤を加える必要がある。また、植物への展着性が悪いため、希釈施用に際して展着剤を加えることもある。しかし、これらの乳化剤や展着剤には植物あるいは人体に対して有毒なものも少なくない。したがって、環境汚染防止あるいは健康保持の上で多くの問題を抱えている。このほか、水和剤として食物素材であるレシチンの使用も考えられるが、希釈時の分散性と散布時の植物への展着性ともに不十分であり、満足すべきものは得られない。また、撒布に際しては、撒布用機器のノズルが詰まる等多くの課題を抱えている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、ニーム油を害虫忌避あるいは植物病原菌の静菌剤として植物に施用する場合、ニーム油は水への分散性が極めて悪いため、乳化剤を加える必要がある。また、植物への展着性が悪いため、希釈して撒布するに際して展着剤を加えることもある。しかし、乳化剤や展着剤の中には植物あるいは人体に対して有毒なものも少なくない。本発明は分散性と展着性を併せ持ち、しかも毒性のない食物素材のみより成るニーム油組成物を開発し、そのまま希釈して簡便に使用できる農業用資材を提供することにより環境汚染防止、健康保持に寄与することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の課題を解決するため鋭意研究を行った結果、エチルアルコール水溶液に溶解したリゾレシチンを水和剤としてニーム油に混合することによって、本発明を完成した。
【0007】
リゾレシチンはダイズ油、ナタネ油等の植物油の製造工程で副生するレシチンあるいは卵黄成分であるレシチン等のレシチンを原料としてホスホリパーゼA−2による酵素分解によって得られたものを使用する。
【0008】
リゾレシチンにエチルアルコールと水を加え、加温して均一な溶液としたものに、45℃以下の温度で攪拌しながらニーム油を混合する。静置して消泡させた後、上層に分離したワックス画分を除去することによって目的とするニーム油組成物を得ることができる。
【0009】
エチルアルコールに代わるものとして、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール等のアルコール類を使用することもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって得られるニーム油組成物は食物素材であるリゾレシチンおよびエチルアルコールを使用しているため、植物に対する有毒性は全く認められない。害虫に対する忌避と植物病原菌に対する静菌効果が高く、しかも植物に対する展着性が極めて強いため、化学農薬に代わる害虫の忌避あるいは植物病原菌の静菌効果を有する農業用資材として農産物の栽培に使用でき、環境汚染防止と健康保持に貢献することができる。また、本発明によるニーム油組成物は融点が低くなるため希釈使用に当たっての取り扱いが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ホスホリパーゼA−2によってレシチンを70〜95%酵素分解して得られるリゾレシチンを分散性と展着性を併せ持った水和剤として使用する。容量比でリゾレシチン2〜20部、好ましくは5〜15部にエチルアルコール2〜20部、好ましくは5〜15部と水5〜70部、好ましくは5〜30部を加え、リゾレシチン溶液を調整する。調整したリゾレシチン溶液にニーム油を20〜90部、好ましくは60〜80部加え、ニーム油に含まれる有効成分アザジラクチンの分解を防ぐために45℃以下で5〜10分間攪拌して均一な水和分散液とする。静置して消泡させた後、分離してくる上層のワックス画分を除去し、食物素材のみより成るニーム油組成物を得ることができる。
【0012】
得られたニーム油組成物を井戸水、水道水等の水で50〜1,500倍に希釈したものは均一な分散性を示した。
【0013】
ニーム油組成物を水で50〜1,500倍に希釈したものを、イチゴ、トマト、キュウリ等の葉面に撒布したところ、極めて強い展着性を示し、ハダニ、アブラムシ等の害虫を忌避させることができ、さらに、ウドン粉病の発生を防止することができた。また、ウドン粉病発生の事後処理として撒布した場合には、病気の拡大蔓延を防止できた。また、生物農薬であるミツバチ、カブリダニ等に対してはストレスを与えることはなく、併用が可能であった。
【実施例1】
【0014】
40℃に加温しながら、リゾレシチン1リットルに88%のエチルアルコール1リットル及び水3.5リットルを加えて攪拌した得られた調整液に、ニーム油5.5リットルを加えて10分間攪拌して均一に水和分散させた。40分間静置して消泡した後、上層に分離したワックス画分を除去しニーム油組成物9.9リットルを得た。水で500倍に希釈したところ均一な分散液となり、撒布用機器のノズルの目を詰らせることなく撒布することができた。
【実施例2】
【0015】
実施例1によって得られた組成物に水道水を加え倍率を変えて希釈し、イチゴ、トマトを対照に10平方メートル当り2リットルを撒布し、害虫忌避効果、病原菌の静菌効果、植物への毒性について実験し表1に示す結果を得た。害虫忌避、植物病原菌に対しては希釈倍率50〜1,500倍にて良好な結果を得た。植物に対する毒性については50倍希釈時に光合成阻害等の症状が見られたが希釈倍率250〜2,000倍については毒性の確認はされなかった。


○ 効果あり 毒性なし △ やや効果あり × 効果なし 毒性あり
表 1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リゾレシチン2〜20部にエチルアルコール2〜20部と水5〜70部を加えた調整液にニーム油20〜90部を添加し、攪拌混合した後、静置して分離するワックス画分を除去して得られる分散性と展着性に富んだニーム油組成物。
【請求項2】
リゾレシチン2〜20部にエチルアルコール2〜20部と水5〜70部を加えた調整液にニーム油20〜90部を添加し、攪拌混合した後、静置して分離するワックス画分を除去して得られる分散性と展着性に富んだニーム油組成物を50〜1,500倍に希釈して、害虫の忌避あるいは植物病原菌の静菌効果を有する農業用資材として撒布する使用方法。

【公開番号】特開2008−184453(P2008−184453A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21022(P2007−21022)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(301039930)株式会社富士見物産 (3)
【Fターム(参考)】