説明

切り株再萌芽防止方法

【課題】伐採樹木の切り株を、環境に悪影響を与える薬剤や大型機械等を使用せずに、安全かつ効率的に、切り株の組織の分解まで至らしめる再萌芽防止方法を提供する。
【解決手段】伐採樹木の切り株上に遮光性シートを被せることによって、その切り株からの再萌芽を防止する方法において、伐採樹木の切り株切断面に昆虫誘引剤を挿入する穴を設ける工程と、この切り株切断面に設けた穴に、昆虫誘引剤を挿入する工程と、この切り株切断面の少なくとも前記昆虫誘引剤を挿入した部分に遮光性シートを被せて、この遮光性シートを固定する工程とを含むものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹木を伐採した後に残る切り株からの再萌芽を防止する方法に関するものであり、より詳細には、遮光性シートによる光合成の阻止作用と昆虫等による樹木の浸食作用を利用した、切り株再萌芽防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国においては河川における洪水による被害が古くより問題となっていたが、近年特に、雨水が山林において徐々に地中に注ぎ、地下で貯水する自然の摂理が、河川上流での開発により崩れており、加えて、昨今の大気異変(地球温暖化)に起因する集中豪雨などにより、河川が瞬間的に大増水する現象が多発している。
【0003】
そのような増水の際、河川内の立木が倒れたり、または上流から流れてきた異物が立木に引っ掛かったりして、河川の流れが著しく悪くなり、中流域や下流域の人口密集域で堰を作ることが問題となっている。堰ができると、堰に貯められた水が護岸決壊を招き、周辺住居ならびに田畑まで浸水し、人命にかかわる大被害にまで至ることがある。
【0004】
河川内の土壌は古来より大変肥沃な土壌と言われており、また近年の農業効率化による肥料を多量に含む農業排水や、人口密集地の生活排水により富栄養化された水が河川に流れこんでいるため、樹木等の飛来種子、流木の枝や根が活着しやすい環境にある。
【0005】
このような栄養分と水が確保されている河川域では、樹木の生長もその他の場所に比べて異常に速く、例えば10年〜15年程度で、株元の直径が40cm〜60cm(幹回り寸法120cm〜180cm)で、高さが10m〜20mに至るほどの大木になることもある。このような大木は、前述したような増水時に河川の流動を著しく損なうことになる。
【0006】
従って、このような河川域内の樹木は必要に応じて、又は定期的に伐採されているが、伐採を行っても、切り株を河川域に残しておくと、翌春には切り戻しによる旺盛な萌芽が生じ、短期間で伐採前より大きな樹冠の木に成長するので、根の処理は必要不可欠である。しかし、従来の根の処理(抜根)には非常な労力や莫大な費用を要するという問題があった。
【0007】
まず第一に、河川・水域等の場所では、通常使用されるような化学的な除草剤などの使用が制限されている。大半の一級河川の水は、浄水場に取水されて飲料水とされているためである。従って、切り株を物理的に除去する方法が従来から用いられているが、そのような装置は樹木の大きさに合わせて大型にならざるを得ず(例えば特許文献1)、河川域内に点在する切り株を処理するために大型の装置を導入するのは、非効率的で費用的にも不利である。また、切り株を物理的に除去した場合、除去跡に大きな穴(陥没)が生じ、これを放置すると危険であるので埋める必要があるが、その作業にも多大な労力と費用を要するという問題があった。
【0008】
本発明者は上記問題に鑑みて、環境に悪影響を与える薬剤や大型機械等を使用しない方法として、特殊な処理シートで切り株を覆うことにより光合成を阻止して切り株の再萌芽を防止し、切り株を枯死させる切り株の処理方法を提案した(特許文献2)。
【0009】
この方法によれば、安全にかつ低コストで高い効果を上げることが可能であるが、状況によっては、切り株が完全に枯死し、組織が分解するまでに時間がかかる場合がある。
【0010】
そこで、上記特許文献2では、切り株をより短期間で枯死・分解に至らしめるために、塩化ナトリウム・塩化マグネシウム・塩化カリウム等の金属塩を含んだ塩水、木酢液、タンニンなどの水溶液を、処理液として、切り株切断面に設けた溝等に注入することを提案している。
【0011】
これらの処理液は生物や環境への影響が比較的小さいが、使用の仕方によっては、切り株を浸食する昆虫等も生育しにくくなって逆効果になる場合もあった。従って、処理量に注意を要するが、処理量の適量は切り株の大きさ等によって異なり、また水分の蒸発等により濃度は変化するので調整は困難であり、安定した効果を得ることは必ずしも容易ではなかった。さらに、液体は、固体に比べて一般に保存や運搬の利便性が低く、作業効率の点でも問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−37949号公報
【特許文献2】特開2010−259338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、伐採樹木の切り株を、環境に悪影響を与える薬剤や大型機械等を使用せずに効率的に処理する再萌芽防止方法であって、従来の方法と比較して、より容易に、より短期間で、かつより確実に切り株の組織の分解まで至らしめる再萌芽防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の伐採樹木の再萌芽防止方法は、伐採樹木の切り株上に遮光性シートを被せることによって、その切り株からの再萌芽を防止する方法であって、上記の課題を解決するために、伐採樹木の切り株上に遮光性シートを被せることによって、その切り株からの再萌芽を防止する方法であって、切り株の少なくとも切断面に昆虫誘引剤を挿入する穴を設ける工程と、この切り株切断面に設けた穴に、昆虫誘引剤を挿入する工程と、この切り株切断面の少なくとも上記昆虫誘引剤を挿入した部分に遮光性シートを被せて固定する工程とを含むものとする。
【0015】
上記本発明の再萌芽防止方法においては、上記切り株切断面の形成層に上記昆虫誘引剤を挿入する穴を設けることが好ましい。
【0016】
上記昆虫誘引剤としては、糖を成形し又は包装することにより棒状にしたものが好ましい。例えば、糖を紙筒に充填したものが好適に用いられる。
【0017】
また、上記遮光性シートとしては、耐水性及び遮光性を有する上部シートと、透湿耐水性及び遮光性を有する下部シートとを積層し、これらの上部シートと下部シートとを少なくとも一部で相互に固定してなるものを好適に用いることができる。
【0018】
上記切り株切断面の昆虫誘引剤を挿入した部分には遮光性シートを被せる前に保護カバーを被せることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】伐採樹木の切り株1に昆虫誘引剤10を挿入し、遮光性シート2を被せた状態を示す模式断面図である。
【図2】切り株切断面への昆虫誘引剤挿入4の設け方を示す図である。
【図3】切り株への保護カバー5の取り付け方を示す図である。
【図4】昆虫誘引剤10の一実施例を示す斜視図である。
【図5】図4に示した昆虫誘引剤10の内部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.昆虫誘引剤と遮光性シートの設置方法等
本発明の再萌芽防止方法では、図1に示すように、伐採樹木の切り株1の切断面(上面)に適当な数の昆虫誘引剤挿入穴4を設け、これらの穴4に昆虫誘引剤10(以下、単に「誘引剤」という場合もある)をそれぞれ挿入し、この誘引剤10を挿入した切り株切断面を好ましくは保護カバー5で覆った上で、この切り株1を中心に遮光性シート2を被せて、この遮光性シート2を地面等に固定する。
【0021】
樹木の伐採は、通常は地面7から切り株1の切断面迄の高さが20cm〜30cm程度になるように、チェーンソー等で行う。その際、切り口(切り株切断面)がなるべく地面に対して水平な平面になるように伐採することが好ましい。
【0022】
誘引剤挿入穴4(以下、単に「穴」という場合もある)の形成方法は特に限定されないが、図2に示すように、切り株1の切断面の樹皮1aと木部1cの間の形成層1bに設けるのが好ましく、これにより枯死促進効果が顕著に向上する。また、図1に示すように、穴4は先端が下を向くように(地面に対して垂直に)設けるのが好ましい。これらの穴4は、ドリル等を用いた公知の手段により形成することができる。穴4の大きさは、誘引剤10が容易に挿入できるように、誘引剤10の大きさよりやや大きくするのが好ましい。具体的には、通常は、直径が10〜20mm程度であり、深さは5〜15cm程度である。
【0023】
この誘引剤挿入穴4を形成層1bに設けるのは、形成層1bには糖を含む樹液が流れており、昆虫は樹液を好むので、誘引剤10に集まってきた昆虫達が誘引剤10に隣接する形成層1bを浸食すると、切り株1は樹木としての生理的機能を急激に失い、枯死が促進されるためである。但し、誘引剤挿入穴4は必要に応じて、切り株1の切断面の他の部分や側部等にも補足的に設けてもよい。
【0024】
誘引剤挿入穴4の個数は切り株の直径等により適宜増減し、例えば切断面の直径40〜50cm程度の切り株であれば、図2に示すようにほぼ等間隔に8個程度設けるのが好ましく、切り株の直径によって4〜10個程度の範囲で増減すればよい。
【0025】
これらの穴4に誘引剤10をそれぞれ挿入する。誘引剤10については、次に詳述するが、無毒・無害であり、かつ持ちやすい形状にされているので、素手でそのまま摘んで挿入することができる。
【0026】
保護カバー5は、切り株1の切断端部の尖った部分等で遮光性シート2が傷つけられたりするのを防止し、かつ誘引剤10を穴4へ挿入した切り株切断面の保温性をより向上させる働きをする。保護カバー5は特に限定されるものではないが、例えば厚さ3〜5mm程度の不織布等好適に用いることができる。
【0027】
切り株1に保護カバー5を被せたあとは、例えば図3に示すように切り株1の周囲にタッカー6を数カ所打ち込む等して、留めるのが好ましい。
【0028】
その後、遮光性シート2を切り株1がほぼ中心になるように被せて、風等によりずれたり、めくれたりしないように、シート2の端部付近をピン3等により地面や切り株の根部等に数カ所固定する。
【0029】
上記遮光性シート2内は高温多湿の環境となるため、挿入された誘引剤10は短時間で溶融し、穴4の周囲に拡散や浸透して、蟻等の昆虫を誘引して、その場で繁殖させる。また、誘引剤10によって栄養豊富な環境となるため、カビや木材腐朽菌等の菌類も繁殖しやすくなる。従って、遮光性シート2による光合成の阻止に加えて、昆虫や菌類の作用により、切り株の枯死及び組織の分解をさらに促進することができる。
【0030】
2.昆虫誘引剤
本発明で用いる昆虫誘引剤は、糖を主成分とするものである。糖の種類は特に限定されず、精製したものも、未精製のものも、2種以上の糖の混合物も使用可能である。精製糖の例としては、グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、ガラクトースなどの単糖類、スクロース(ショ糖)、マルトース(麦芽糖)、ラクトース(乳糖)などの二糖類が挙げられ、これらの中では例えば、フルクトースを好適に用いることができる。
【0031】
但し、糖の中でも黒糖のような未精製糖や加工黒糖や、その他の精製度が低い糖の方が誘因効果がより高いことから好ましい。黒糖とは、サトウキビの茎の絞り汁を加熱し、水分を蒸発させて濃縮したものを冷却して固めたものであり、加工黒糖とは、黒糖にショ糖、廃糖蜜等を加えて成分調整したものである。糖は精製度が低いほどミネラル分が多く栄養価が高いため、昆虫がその栄養価の高さを感知する能力を有しているのか、単に味を好むのかは明らかではないが、明確な誘引効果の相違が見られる。従って、複数種の糖を混合して使用する場合は、未精製糖の配合割合を高くすることが好ましい。なお、糖製造の副産物である糖蜜等も、必要に応じて利用することができる。
【0032】
また、本発明の趣旨に反しない範囲内であれば、糖以外の添加物を若干量使用することもできる。使用する添加物は食用可能なものが好ましい。本発明でいう「糖」にはこのような添加物を含む糖も含まれるものとする。
【0033】
使用する糖の種類及び量は、処理対象の樹種、切り株の大きさや切り株のもつ貯蔵養分の量、その土地の気候、地形、水はけ等も総合的に考慮して決定するのが好ましい。
【0034】
本発明で使用する上記誘引剤は、取扱いが容易なように、上記糖を成形し又は包装することにより棒状にしたものが好ましい。
【0035】
棒状に形成した糖の例としては、黒糖の固まりを棒状に切断したもの、黒糖を粉砕してから押し固めたもの、黒糖を水等で溶解してから乾燥させて固めたもの等が挙げられ、例えばゲル状のような可撓性があるものでもよい。
【0036】
上記のような棒状の糖は、冬期や寒冷地で製造後短期間内に使用する場合には、むき出しのままでも問題がないが、高温下では保存中に表面がべとつき、取扱いが困難になるので、包装した棒状体とすることが好ましい。「包装した棒状体」としては、種々の形態が考えられるが、例えば糖を筒状物に充填したものが挙げられる。
【0037】
筒状物としては、筒や袋が使用可能であり、分解性の高い素材でできたものが好ましい。特に紙筒は、安価かつ取扱いが容易で、内容物である糖の浸透や筒自体の分解が速いことから好適に用いられる。また、木綿等の天然繊維製の織布や不織布で作成した細長い袋等も使用可能である。さらに、乳酸樹脂等の生分解性樹脂でできた筒等も使用可能であるが、これは本発明の目的に使用するには分解速度がやや遅いので、例えば筒の側面等に複数の孔を設ける等して、それらの孔から内容物が漏出するようにすることが考えられる。
【0038】
また、上記「包装した棒状体」の「包装」の他の例としては、上記各種糖を、紙や布や生分解性樹脂フィルムで巻いたり、包んだりして、棒状にすることが考えられる。
【0039】
なお、本発明では昆虫を直接的に誘引する糖のみならず、上記のように棒状に包装した形態のものも、包装も含めた全体として「昆虫誘引剤」と呼ぶものとする。
【0040】
上記のように、包装した棒状体には種々の形態が考えられるが、製造や取扱いの容易さ、発明の効果、コスト等を総合的に考慮すると、図4及び図5に示す昆虫誘引剤10が好ましい例として挙げられる。図4は昆虫誘引剤10を示す斜視図であり、図5はその昆虫誘引剤10の断面図を示す。これらの図に示すように、昆虫誘引剤10は、紙筒11に黒糖13の粉末を充填し、この紙筒11の長手方向の両端部に脱脂綿12等を詰めて、内容物たる糖がこぼれないようにしたものである。
【0041】
紙筒11の大きさは特に限定されないが、効果とコストと取扱いの容易さ等を考慮すると、紙の厚さは0.5〜2mm程度が好ましく、直径(外径)は5〜15mm程度が好ましく、8〜12mm程度がより好ましい。また、紙筒11の長さは、5〜15cm程度が好ましく、8〜12cm程度がより好ましい。紙筒11に充填される糖の量は、その紙筒の大きさによるが、通常3〜20g程度である。
【0042】
誘引剤10を、上記のような紙筒11に充填したことにより、運搬や取扱いが容易になり、手を汚さずに、一定量の誘引剤を確実に付与することができる。
【0043】
遮光性シート2の中は外気より高温多湿となっているので、誘引剤10は切り株1に挿入されたのち、数時間〜数日で糖13が溶け出し、紙筒11や脱脂綿12に浸透して、筒11の外部へ漏出して蟻等の昆虫を誘引し、消費される。また、脱脂綿12の中を通って蟻等の昆虫が筒11に出入りすることも考えられる。
【0044】
さらに時間の経過に従い、筒11は崩壊が進み、糖13は消費され尽くし、切り株1が枯死、分解する頃には、筒11も分解し、土に還るので、環境に負担とならない。
【0045】
従来技術のように生育阻害物質含有処理液を使用した場合は、その種類や濃度によっては、昆虫等や菌類が生育しにくくなり、生育阻害物質による侵食促進作用は得られても、生物による侵食促進作用が得られないため、全体としての処理速度は却って遅くなる場合もあったが、上記のような昆虫誘引剤を使用することにより、昆虫や菌類の繁殖によって、切り株の枯死・分解速度をより確実に、容易に、かつ安全に向上させることができる。
【0046】
3.遮光性シート
本発明で使用する遮光性シートとしては、遮光性と透湿耐水性能を有するものであれば使用できるが、本発明者が先に出願した特許文献2に記載の「切り株処理シート」(以下、単に「積層シート」又は「シート」という場合もある)を好適に用いることができる。
【0047】
この積層シートは、耐水性能及び遮光性を有する上部シートと、透湿耐水性能及び遮光性を有する下部シートとを重ね合わせて少なくとも1部で固定してなるものである。
【0048】
下部シートは、処理対象や使用環境に応じた強度と透湿耐水性能を有するものとし、その構造は特に限定されないが、例えば織布の片面又は両面に防水透湿性を有する樹脂ラミネート層を形成したラミネートクロスを好適に用いることができる。
【0049】
織布としては、例えば0.35mm厚以上の合成樹脂製フラットヤーン織布で、ヤーンは700〜1000デニール、縦横それぞれ7〜12本/inchの打ち込み本数で織ったものを好適に用いることができる。素材は、例えばポリエチレンのような高強度のものが好ましく、耐光性をより向上させるために耐光剤を3%程度含有するのが好ましい。
【0050】
この織布の片面又は両面に、上記と同様の耐光性強化ポリエチレンのような合成樹脂フィルム(厚さ40〜100ミクロン)でラミネートを施したものが好適に用いられる。上部シートが破損して下部シートが露出したときの景観保護のために、色は表面(上面、すなわち積層シートとしたときの内側)を茶系統とし、裏面は遮光性を確保するために、カーボンブラック等で黒色に着色されているのが好ましい。
【0051】
この下部シート用ラミネートクロスの耐水度は300〜400mm/24hrs(JIS L 1092(低水圧法)による)が好ましく、透湿度は1000〜1300g/m・24hrs(JIS L 1099 A−1法による)が好ましい。そのための方法の一例としては、ニードルローラーに掛けることにより、シートに350〜400個/cmの微細孔を開ける方法が挙げられる。
【0052】
但し、使用するシートの透湿性及び耐水性の程度は、処理対象となるそれぞれの樹木の生育環境、例えば河川内であれば土壌水分含有率(保水率)等により調整・選択するのが望ましい。
【0053】
次に上部シートは耐光性及び耐水性を有するものとし、好ましい具体例としては、上記下部シートに用いるのと同様のラミネートクロスであって、ニードルローラーによる微細孔形成処理を行わないものを使用できる。但し、上部シートは下部シートと異なり、紫外線、河川域の強風、雨等に直接さらされる為、下部シートより強度が大きいことが望ましく、上記と同様のフラットヤーン織布であれば、フラットヤーン950デニール以上で、打ち込み本数が縦横それぞれ1インチ当たり16〜18本からなり、厚さ0.4mm以上のものが好ましい。また、裏面に黒色のラミネートを施し、このシート単独で十分な遮光率(99%以上)を確保し、表面のラミネート層は、茶系統等の周囲の景観になじみ易い色であるのが好ましい。
【0054】
上記した上下シートを合わせた積層シートとしての遮光率は、樹木に光が到達して光合成が行われるのをより確実に阻止するために、99.0%以上が好ましく、100%であることが特に好ましい。
【0055】
上記上下の2枚のシートは、使用時に分離しないように、少なくとも一部で予め相互に固定しておくものとし、正方形又は長方形のシートであれば、少なくとも相対向する2辺を縫合するのが好ましい。
【0056】
シートの平面形状は特に限定されず、正方形、長方形の他、円形、多角形、不定形でもよいが、製造や取扱いが容易である点からは正方形又は長方形が好ましい。シートの大きさは、切り株の地上部分のほぼ全体が覆える大きさが好ましく、正方形であれば、通常は1辺の長さが1.5〜2m程度である。本願出願人の先の発明では、再萌芽防止効果を上げるため、根の広がりが予想される切り株周辺までシートを覆うことを提案していたが(特許文献2)、本発明では昆虫等の浸食により切り株の枯死・分解がより迅速に進行するので、使用するシートの大きさがより小さくて済むという利点がある。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。以下では、河川内に自生した直径約40cmの柳の切り株の処理に使用したシート、そのシートを用いた処理の方法、及び結果について記載しているが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
1.遮光性シートの製造
遮光性シートとしては、下記上部シートと下部シートとを重ね合わせた積層シートであって、1辺の長さが2mの正方形のものを用意した。4辺とも下部シートの端部は図2に示したように上部シート側に折り返し、縫合により固定したものを使用した。折り返し部分の寸法は幅15cmとした。下部シート裏面に、縫合線を覆うように、幅10cmの防水テープ(ポリエチレン織布とアクリル系粘着剤層との二層構造を有するSRB接着テープ)を貼った。
【0059】
・上部シート(耐水性シート)
織 布 :ポリエチレン製フラットヤーン950デニール、打ち込み本数縦18本/inch、横16本/inch
ラミネート層:耐光性ポリエチレンフィルム(黒色、厚さ40μm)
厚 み :0.4mm
重 量 :190g/m
耐水度 :400mm/24hrs
引張強度:タテ1000N/5cm、ヨコ980N/5cm
伸 度 :タテ15%以上、ヨコ12%以上
遮光率 :99.9%以上
【0060】
・下部シート(透湿耐水性シート)
織 布 :ポリエチレン製フラットヤーン800デニール、打ち込み本数縦横共9本/inch
ラミネート層:耐光性ポリエチレンフィルム(厚さ30μm)
厚 み :0.35mm
重 量 :150g/m
耐水度 :300mm/24hrs
透湿度 :1000〜1300g/m・24hrs
引張強度:タテ400N/5cm、ヨコ400N/5cm
破裂強度(JIS P 8112):250kPa以上
伸 度 :タテ15%以上、ヨコ15%以上
遮光率 :99.9%以上
【0061】
2.樹木の伐採及び昆虫誘引剤の設置
根本の直径約30〜40cmのヤナギの木を、地面から切断面までの高さが20cmになるようにチェーンソーで切断した。
【0062】
切り株切断面に、図2に示すように、形成層1bにドリルで8個の穴4(直径13mm、深さ10cm)をほぼ等間隔に形成し、図4及び5に示した形態の昆虫誘引剤10(長さ10cm、外径10.3mm、内径8.3mm、重さ3gの紙筒に粉末黒糖6gを充填したもの、総重量9g)をそれぞれ挿入した。
【0063】
挿入後、切り株切断面に直径80cmの円形の透湿性マット(ポリエステル不織布製、厚み:4mm、重量:440g/m、引張強度:タテ420N/5cm、ヨコ720N/5cm)を被せ、タッカー(W8mm×H8mm)を計8ヶ所打ち付けて固定した。
【0064】
次いで、上記積層シートを切り株がほぼ中央にくるように、切り株に被せて、端部付近(四隅及び各辺の中央部)にピン(φ4mm×W35mm×H230mm、半鋼線)を計8ヶ所に打ち付けて固定した。
【0065】
3.経過観察
施工(1月下旬)から1〜3ヶ月毎に積層シートを一部取り外して切り株及びその周辺の状態を観察し、観察後はシートを元の状態に戻した。
【0066】
1〜2ヶ月後から多数の蟻が活動に活発するのが見られ、3ヶ月後には蟻の卵が多数確認でき、その後の観察では卵がほとんど孵化したことが認められた。
【0067】
また、2ヶ月後には切り株切断面4箇所に白色腐朽菌の発生が見られ、また切断面周辺には4箇所にカルスの発生(長さ10cmのもの2箇所、2cmのもの2箇所)が見られ、その間及びその後のいずれの観察の際においても再萌芽の気配は見られなかった。
【0068】
その後も観察を続けたところ、1年4月後には蟻による浸食が樹皮部から木部の中心部まで進行していることが認められ、1年半〜約2年後に形成層1bが全体的に崩壊し、切り株が枯死しているのが確認された。
【0069】
切り株枯死及び分解のメカニズムやその経過は、その樹木の種類や環境条件によって多種多様であると考えられるが、本ケースでは、蟻による侵蝕と、腐朽菌の作用による木材基質の分解が並行して進行し、昆虫誘引剤なしで複合シートのみを使用した場合と比較して、約半年早く確実に枯死に至らしめることができた。また、従来よりはるかに小面積のシートで目的を達成することができ、コストも大幅に削減できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の再萌芽防止方法は、河川域内の樹木のみならず、伐採樹木全般の切り株(幹及び根)、雑木、雑草等を、自然環境に悪影響を与えることなく、土に還らせる手段として用いることができる。
【符号の説明】
【0071】
1……切り株、1a……樹皮、1b……形成層、1c……木部
2……遮光性シート
3……ピン
4……昆虫誘引剤挿入穴
5……保護カバー
6……タッカー
7……地面
10……昆虫誘引剤
11……紙筒
12……脱脂綿
13……糖

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伐採樹木の切り株上に遮光性シートを被せることによって、その切り株からの再萌芽を防止する方法であって、
切り株の少なくとも切断面に昆虫誘引剤を挿入する穴を設ける工程と、
前記切り株切断面に設けた穴に、昆虫誘引剤を挿入する工程と、
この切り株切断面の少なくとも前記昆虫誘引剤を挿入した部分に遮光性シートを被せて固定する工程とを含む
ことを特徴とする、伐採樹木の再萌芽防止方法。
【請求項2】
前記切り株切断面の形成層に前記昆虫誘引剤を挿入する穴を設ける
ことを特徴とする、請求項1に記載の伐採樹木の再萌芽防止方法。
【請求項3】
前記昆虫誘引剤が、糖を成形し又は包装することにより棒状にしたものである
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の伐採樹木の再萌芽防止方法。
【請求項4】
前記昆虫誘引剤が、糖を紙筒に充填したものである
ことを特徴とする、請求項3に記載の伐採樹木の再萌芽防止方法。
【請求項5】
前記遮光性シートが耐水性及び遮光性を有する上部シートと、透湿耐水性及び遮光性を有する下部シートとを積層し、これらの上部シートと下部シートとを少なくとも一部で相互に固定してなるものである
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の伐採樹木の再萌芽防止方法。
【請求項6】
前記切り株切断面の昆虫誘引剤を挿入した部分に遮光性シートを被せる前に保護カバーを被せる
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の伐採樹木の再萌芽防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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