説明

切削インサートおよび切削工具、並びにそれを用いた被削材の切削方法

【課題】切屑の摩擦抵抗を低減させ、優れた切屑排出性を発揮することができる切削インサートおよび切削工具、並びにそれを用いた被削材の切削方法を提供することである。
【解決手段】切刃と、該切刃に連続したすくい面領域と、該すくい面領域よりも内方に且つ高位に位置するクランプ面領域と、を備え、前記すくい面領域に、前記切刃に連続した第1すくい面と、該第1すくい面から前記クランプ面領域に向かって斜面状に形成された第2すくい面と、少なくとも一部が前記第1すくい面に位置し、上面視において前記切刃の中央領域に対応する位置に設けられた頂部を有する突起と、少なくとも一部が前記第2すくい面に位置し、上面視において前記突起よりも内方に位置する凸部と、を有している。この切削インサートを装着する切削工具、これを用いた被削材の切削方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料等の旋削加工で、溝入れ加工に使用される切削インサートなどに関する。
【背景技術】
【0002】
溝入れ加工用の切削インサートは、加工形態上、切屑が排出される空間が狭い加工に用いられる場合が多い。そのため、前記切削インサートには、生成する切屑が円滑に排出される構成を有していることが要求される。
【0003】
特許文献1に記載された切削インサートは、インサート本体部の上面に形成されたすくい面とクランプ面と、インサート本体部の側面に形成された逃げ面と、すくい面と逃げ面との交差部に形成された切刃とを有している。すくい面は、切刃に連続する第1すくい面と、その後方に第1すくい面からクランプ面に向かって斜面状に形成された第2すくい面(傾斜壁)と、を有している。そして、第1すくい面のうち切刃の両端寄り部位に、突起(凸部)が形成されている。
【0004】
特許文献1に記載された他の切削インサートは、上記切削インサートの構成に加えて、すくい面に、切刃の両端寄り部位から第2すくい面を分割するようクランプ面の先端側部位にまで渡って凹部が形成されている。そして、該凹部内と、前記切刃の両端寄り部位とに、突起が各々形成されている。
【0005】
特許文献1に記載された2つの切削インサートには、それぞれ以下の問題がある。すなわち、上記した特許文献1の切削インサートでは、第1すくい面において、突起が切刃の両端寄り部位に形成されるため、切屑の両端が持ち上げられ、切屑の幅方向中央に下向きに切屑を変形させる力が大きく作用する(絞り作用)。そのため、切屑は第1すくい面で断面略U字状に変形される。
【0006】
しかし、第2すくい面が平面で構成されているため、第1すくい面で変形された切屑と第2すくい面との接触面積は大きく、摩擦抵抗が増大してしまう。そのため、このような切削インサートでは、すくい面に切屑が滞留しやすく、切屑排出性が悪くなり、インサートの破損を引き起こすという問題があった。
【0007】
上記した特許文献1の他の切削インサートでは、第2すくい面を分割するようクランプ面に達して形成された凹部によって、第2すくい面においても、切屑が幅方向中央において下向きに変形されることが許容されている。そのため、このようなインサートでは、突起によって変形された切屑には、第2すくい面においても、絞り作用が働く。
【0008】
一方、第2すくい面は斜面状に形成されている。そのため、該第2すくい面においては、切屑に、前記絞り作用に加えて、切屑の長さ方向に沿って上向きにカールさせる力が作用する(カール作用)。
【0009】
すなわち、特許文献1の他の切削インサートでは、生成された切屑は、第1すくい面では絞り作用を受け、第2すくい面では絞り作用とカール作用との両方の力を受けることになる。そのため、第2すくい面において、略直交する2つの力が、切屑に同時に働くため、切屑の排出方向が安定しない。その結果、切屑が凹部の第2すくい面に位置する部分に滞留してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−322010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、切屑の摩擦抵抗を低減させ、優れた切屑排出性を発揮することができる切削インサートおよび切削工具、並びにそれを用いた被削材の切削方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の切削インサートは、上面の稜部に形成された切刃と、該切刃に連続して前記上面に形成されたすくい面領域と、該すくい面領域よりも内方に且つ高位に位置するよう前記上面に形成されたクランプ面領域と、を備えている。前記すくい面領域に、前記切刃に連続して形成された第1すくい面と、前記すくい面領域に、前記第1すくい面から前記クランプ面領域に向かって斜面状に形成された第2すくい面と、少なくとも一部が前記第1すくい面に位置するよう形成され、且つ、上面視において前記切刃の中央領域に対応する位置に設けられた頂部を有している突起と、少なくとも一部が前記第2すくい面に位置するとともに、上面視において前記突起よりも内方に位置するよう形成された凸部と、を有している。
【0013】
本発明の切削工具は、前記切削インサートと、該切削インサートを先端に装着するホルダと、を備えてなる。
【0014】
本発明の被削材の切削方法は、前記切削工具を用いて被削材を切削する方法であって、被削材を回転させる工程と、前記被削材に前記切削工具を近接させる工程と、前記被削材に前記切削工具の切刃を接触させて被削材を切削する工程と、前記被削材から前記切削工具を離間させる工程と、を備えている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の切削インサートによれば、絞り作用とカール作用との両作用が切屑にバランスよく働き、切屑の排出過程で生じる摩擦抵抗の低減が図れ、切屑がすくい面領域上に滞留することを低減でき、優れた切屑排出性を示すことができる。
【0016】
本発明の切削工具によれば、切屑が排出過程で左右に振れることを低減でき、優れた切屑排出性を発揮することができるとともに、第2すくい面にかかる摩擦抵抗の低減により、インサートの破損を低減でき、工具寿命の向上を図ることができる。
本発明の被削材の切削方法によれば、優れた仕上げ面精度を発揮するとともに、加工効率の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)は、本発明の第1の実施形態に係る切削インサートを示す全体斜視図であり、(b)は、その平面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る切削インサートによって生成される切屑の断面形状を示す概略説明図である。
【図4】(a)は、本発明の第2の実施形態に係る切削インサートを示す全体斜視図であり、(b)は、その平面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る切削インサートによって生成される切屑の断面形状を示す概略説明図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る切削インサートを示す平面図である。
【図7】(a)は、図6のB−B線断面図であり、(b)は、図6のC−C線断面図である。
【図8】本発明の第4の実施形態に係る切削インサートを示す平面図である。
【図9】(a)は、図8のD−D線断面図であり、(b)は、図8のE−E線断面図である。
【図10】本発明の第5の実施形態に係る切削インサートを示す平面図である。
【図11】(a)は、図10のF−F線断面図であり、(b)は、図10のG−G線断面図である。
【図12】本発明の一実施形態に係る切削工具を示す全体斜視図である。
【図13】(a)〜(c)は、本発明の一実施形態に係る被削材の切削方法を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<切削インサート>
(第1の実施形態)
以下、本発明の切削インサート(以下、インサートと言う。)に係る第1の実施形態について図1〜図3を参照して詳細に説明する。図1および図2に示すように、本実施形態のインサート1は、溝入れ加工用であり、インサート本体部2の上面の一部に形成されたすくい面3(すくい面領域)およびクランプ面4(クランプ面領域)と、インサート本体部2の側面に形成された前逃げ面5と、すくい面3と前逃げ面5との交差部(上面の稜部)に形成された切刃6と、を有している。切刃6に連続してすくい面3が形成されている。
【0019】
インサート本体部2は、略多角柱状をなす。具体的には、ホルダに装着される中央部分2aと、該中央部分2aから突出するよう形成された切削部2bとを有している。インサート本体部2は切削部2bを2つ有しており、インサート1は2コーナー使いのインサートである。すなわち、インサート1は、切刃6を2つ備えている。なお、インサート本体部2は、これに限定されず、上面視において、略正多角形状をなすものであってもよい。また、インサート本体部2の形状は、本実施形態のように上面および下面が相似形状をなすものであっても、下面が後述するホルダ11のインサート着座部14に応じて上面と異なる形状をなすものであってもよい。
【0020】
インサート本体部2の中央部には貫通穴50が形成されている。この貫通穴50には、インサート1をホルダ11に固定するネジが挿入される。インサート1は、該貫通穴50の中心軸に対して180度回転対称な形状である。これにより、使用している一方の切刃が摩耗した際には、インサート1を180度回転させ、使用していない他方の切刃を用いることができるので経済的である。
【0021】
クランプ面4は、すくい面3よりも内方に且つ高位に形成されている。ここでいう内方(以下、後方とも言う。)とは、切刃6に対してインサート本体部2の内方側のことであり、切屑の排出方向側のことを意味する。ここでいう高位とは、切刃6に対して、インサート本体部2の厚み方向において高位に位置することを意味する。より具体的には、インサート本体部2の下面を座面としてインサート1を静置した場合に、切刃6を基準として、より高位にクランプ面4が位置することを意味する。なお、前記下面を座面としてインサート1を静置させることが困難な場合には、ホルダ11に装着した状態ですくい面3より高位にクランプ面4が形成される構成とすればよい。また、クランプ面4とは、インサート1を、ホルダに装着する際に用いられる面である。本実施形態においては、クランプ面4が1つの平面で構成されているが、本発明はこれに限定されない。クランプ面4は、装着されるホルダの面形状に応じて複数の面で構成されていてもよく、また曲面で構成されていてもよい。
【0022】
すくい面3は、切刃6に連続して形成される第1すくい面31と、該第1すくい面31からクランプ面4に向かって斜面状に形成された第2すくい面32と、を有している。第2すくい面32は、第1すくい面31に対してインサート本体部2の内方に位置している。
【0023】
さらに、すくい面3には、第1すくい面31に位置する突起7と、第2すくい面32に位置する凹部8とが形成されている。突起7は、上面視において、頂部T7が切刃6の中央領域に対応する位置に形成されている。凹部8は、上面視において、突起7よりもインサート本体部2の内方に位置するよう形成されている。ここでいうインサート本体部2の内方とは、インサート本体部2の切刃6に対してクランプ面4側のことであり、切屑の排出方向側のことを意味する。
【0024】
なお、本発明に係るインサートにおいては、凹部または凸部の少なくとも一部が第2すくい面32に位置していればよい。すなわち、第1すくい面31に形成された突起7の後方に、且つ切刃6に沿う方向における凹部または凸部の両端部が、突起7の切刃6に沿う方向における両端部よりも各々外方側に位置するブレーカー面を有する構成であればよい。本実施形態においては、第2すくい面32にのみ凹部8が形成された実施形態を例示している。凸部の少なくとも一部が第2すくい面32に位置する実施形態については、図6〜図9を用いて後述する。
【0025】
第1すくい面31は、切刃6に連続して形成されるすくい面部分であり、切刃6によって生成された切屑が最初に通過する面領域である。この第1すくい面31は、切屑がすくい面3の後方で、切屑の長さ方向に安定してカールされるよう、切屑に十分な硬度を与えるための領域である。第1すくい面31の形状としては、平面であっても曲面であってもよいが、本実施形態のように、第1すくい面31を平面で構成することがより好ましい。このような構成により、刃先側において局部的にすくい角が非常に大きくなり、刃先強度が低下することを低減できる。
【0026】
第2すくい面32は、切刃6からクランプ面4に向かって斜面状に形成されたすくい面部分である。該斜面状の面部に切屑が接触することで、切屑を該切屑の長さ方向において上方にカールさせることができる。第2すくい面32は、図1に示すようにクランプ面4と連続するよう構成してもよく、第2すくい面32とクランプ面4との間に他の面領域を設けてもよい。なお、本実施形態のように、第2すくい面32とクランプ面4とを連続して構成することで、切屑をよりスムーズに排出させることができる。また、第2すくい面32の形状も、平面であっても曲面であってもよい。なお、図2に示した本実施形態のように、第2すくい面32を平面で構成することがより好ましい。このような構成により、クランプ面4近傍で局部的に第2すくい面32の傾斜角度が大きくなり、切屑が後方へ流れにくくなることを低減でき、切屑が第2すくい面32上に滞留することを低減させる効果が高まる。
【0027】
また、図2に示すように、第1すくい面31と第2すくい面32の間に他の面領域30を有する構成であってもよい。すなわち、第1すくい面31と第2すくい面32を平面で構成し、当該両面部の間に位置する面領域30を緩やかな曲面で構成し、該面領域30で第1すくい面31と第2すくい面32とを繋いですくい面3を構成してもよい。このような構成によって、第1すくい面31に好適なすくい角を与え、且つ第2すくい面32から後方への切屑の流れがスムーズになる。そして、第1すくい面31から第2すくい面32へスムーズに切屑が流れるようになる。したがって、切屑排出性を向上させる効果がより一層高まる。
【0028】
インサート1では、前述した第1すくい面31に突起7が形成されている。この突起7が切刃6の中央領域に対応する位置に形成されているため、生成された切屑は、突起7によって幅方向中央が持ち上げられ、切屑は断面が凸となる形状に変形される(図3参照)。その際、突起7との衝突、擦過によって切屑の硬度が高まる。突起7によって断面が凸となる形状に変形された硬度の高い切屑は、切屑の幅方向における両端で第2すくい面32と安定して接触する。
【0029】
そのため、切屑の凹部8への沈み込みを低減でき、第2すくい面32によって切屑を上方へ安定してカールさせることができる。加えて、突起7の後方に位置するよう第2すくい面32に凹部8が形成されるため、第2すくい面32と切屑との接触面積を低減でき、第2すくい面32で生じる摩擦抵抗を低減させることができる。したがって、すくい面3において、絞り作用とカール作用の2つの作用を、切屑にバランスよく働かせることができる。その結果、第2すくい面32における切屑の滞留が低減でき切屑排出性が高まるとともに、インサートの破損が低減でき工具寿命の向上が図れる。
【0030】
特に、被削材が延性に富む材料であり、第1すくい面31における切屑の変形量が小さくなりやすい場合においても、第2すくい面32に凹部8が形成されるため、第2すくい面32における摩擦抵抗の低減が好適に図れる。したがって、延性に富む材料においても、すくい面3において切屑に働く絞り作用とカール作用のバランスをよくすることができる。その結果、第2すくい面32上に切屑が滞留することを低減でき、切屑排出性に優れたインサートとすることができる。
【0031】
このように、第2すくい面32に凹部8が形成された場合は、第2すくい面32のうち凹部8によって切刃6に沿う方向に分断された2つの面領域が、各々、第1すくい面31で変形された切屑の両端部と接触するブレーカー面となる。
【0032】
図3に示すように、インサート1によって生成された切屑の断面は、略中央が凸状となるよう変形される。すなわち、切屑の中央部の凸状部が最も高位となり、両端部が最も低位となるよう、第1すくい面31で突起7によって変形される。このように変形された切屑は、突起7との摩擦によって硬度が高くなっているため、切屑断面において最も低位となる切屑の両端において第2すくい面32と接触することとなる。その結果、切屑が凹部8へ沈み込む事を低減でき、且つ第2すくい面32で発生する摩擦抵抗の低減を図ることができる。
【0033】
ここで、突起7が切刃6の中央領域に対応する位置に設けられているとは、突起7が切刃6で生成された切屑と接触して、切屑の幅方向中央部を持ち上げるように配置されていることである。具体的には、上面視において、切刃6の一端から全長の1/3にあたる位置から2/3にあたる位置までの間に対応する領域に、後述する突起7の頂部T7が位置していることを意味する。すなわち、図1(b)で示すYの範囲内に、突起7の頂部T7が位置することである。このように、突起7が切刃6の中央領域に対応する位置に設けられていると、切刃6によって生成された切屑の幅方向における中央部を持ち上げることができる。その結果、切屑を断面が凸となる形状に変形させることができる。ちなみに、Yは、切刃6の一端から全長の1/3にあたる位置から2/3にあたる位置までの範囲を示している。
【0034】
なお、本実施形態では、突起7が第1すくい面31にのみ形成されているとともに、凹部8が第2すくい面32にのみ形成されているが、本発明はこれに限定されない。すなわち、少なくとも一部が第1すくい面31に位置する限り、突起7は、第1すくい面31のみならず第2すくい面32に渡って形成されていてもよい。また、少なくとも一部が第2すくい面32に位置する限り、凹部8も、第2すくい面32のみならず第1すくい面31に渡って形成されていてもよい。いずれにおいても、凹部8は突起7よりも後方に位置することが重要である。これにより、切屑を断面が凸となる形状に変形させるとともに、切屑が凹部8に沈み込むことを低減して、第2すくい面32における摩擦抵抗の低減が図れる。また、凹部8は、上面視において、突起7の真後ろに限定されず、斜め後ろに位置していてもよい。
【0035】
突起7の形状としては、上面視で略楕円形状、すなわち略半楕円体状に形成されているのが好ましい。これによって、切屑と突起との接触を安定した点接触とすることができる。したがって、切屑の排出過程において、切屑の左右への振れを低減させる効果が高まる。
【0036】
なお、略半楕円体状の突起は偏心していてもよく、切屑と突起との接触を点接触にする上で、例えば、上面視で略円形状、すなわち略半球状等であってもよい。また、突起の形状はこれらに限定されるものではなく、例えば、三角錐台形状、四角錐台形状等の多角錐台形状、円錐台形状、楕円錐台形状等であってもよい。なお、前述したいずれの形状をなす突起においても、前記効果を奏する上で、突起の頭部は曲面で構成されているのが好ましい。
【0037】
図1(b)に示すように、上面視において、凹部8の幅の中点M8は、切刃6の中点M6と突起7の頂部T7とを通る直線X上に位置している。つまり、突起7が1つの場合、凹部8は、上面視において、切刃6に沿う方向における凹部8の寸法W8(凹部8の幅)の中点M8が、切刃6の中点M6と突起7の頂部T7とを通る直線X上に位置する。すなわち、切刃6の中点M6と凹部8の寸法W8の中点M8と突起7の頂部T7とが、同一直線X上に位置する。さらに換言すれば、凹部8は、突起7の真後ろに形成される。これによって、第2すくい面32において切屑の幅方向両端にかかる摩擦抵抗のバランスをよくすることができる。具体的には、突起7によって断面が凸となる形状に変形された切屑が、凹部8に沈み込むことを低減でき、第2すくい面32における摩擦抵抗を低減させる効果が高まる。その結果、凹部8が形成される第2すくい面32において、切屑を安定してカールさせることができる。
【0038】
前記直線Xは、切刃6の垂直二等分線となっている。これによって、第1すくい面31において変形された切屑は、切屑の幅方向における両端で第2すくい面32に接触する。その際、切屑の幅方向における両端にかかる摩擦抵抗のバランスをよくすることができる。したがって、切屑の排出過程において、切屑が左右に振れることを低減させることができる。また、切屑の排出方向に沿って、突起7および凹部8が順次配置されることとなるため、切屑の排出方向が安定する効果が一層高まり、切屑排出性の向上が図れる。
【0039】
なお、ここでいう突起7の頂部T7は、図2に示すように、インサート本体部2の切刃6の中点M6を通り切刃6に垂直な断面視において、第1すくい面31を基準とした際の突起7の最高部を意味する。また、凹部8の幅の中点M8は、図1(b)に示すように、上面視において、切刃6に沿う方向における凹部8の最大寸法を凹部8の寸法W8とし、該寸法W8の中点として算出できる。
【0040】
上面視において、突起7の幅は、凹部8の幅と略同一である。すなわち、切刃6に沿う方向における突起7の寸法W7(突起7の幅)と凹部8の寸法W8とが略同一である。これにより、切屑の排出過程における切屑の左右への振れを低減させる効果がより一層高まる。さらには、切屑が凹部8へ沈み込む事によって、切屑が凹部8に滞留する事を低減させるとともに、第2すくい面32で生じる摩擦抵抗を低減させる効果が高まる。
【0041】
なお、ここでいう突起7の寸法W7は、前述した凹部8の寸法W8と同様に、上面視において、切刃6に沿う方向における突起7の寸法W7として算出することができる。
【0042】
また、突起7の切刃6に沿う方向における寸法W7の中点を、前述した凹部8の寸法W8の中点M8と同様にして算出し、突起7の寸法W7の中点M7とする。このとき、図1(b)に示すように、突起7の頂部T7が突起7の寸法W7の中点M7に位置することがより好ましい。これにより、突起7が切屑と安定して接触するとともに、切屑が排出過程で左右へ振れることを低減させる効果が一層高まる。
【0043】
凹部8は、第2すくい面32に囲まれている。すなわち、凹部8が、傾斜して形成された第2すくい面32内に形成されている。これにより、被削材が延性に富む材料であっても、第2すくい面32において切屑に作用する切屑の幅方向における下方への圧縮力を低減できる。したがって、切屑の凹部8への沈み込みを低減させ、第2すくい面32で発生する摩擦抵抗を低減させる効果を維持しつつ、インサート全体の強度の向上が図れる。その結果、インサートの破損を低減でき、工具寿命を向上させることができる。
【0044】
図2に示すように、切刃6の垂直二等分線を通るインサート本体部2の断面において、凹部8の内方側表面と第2すくい面32とのなす角度θが鈍角である。これにより、第2すくい面32における摩擦抵抗の低減が好適に図れるとともに、凹部8の加工が容易となる。また、凹部8の内方側表面と第2すくい面32との接続部分の強度が高まるため、工具寿命の向上がさらに図れる。
【0045】
ここでいう凹部8の内方側表面とは、凹部8の表面のうち、切刃6に対してインサート本体部2の内方側に位置する表面のことを意味する。すなわち、凹部8の内方側表面とは、凹部8の表面のうち、クランプ面4側に位置する表面のことである。前記角度θは、第2すくい面32における摩擦抵抗を低減させる効果が高まる点で、鈍角の中でも180度に近い値であることがより好ましい。具体的には、前記角度θは160度〜170度が好ましい。
【0046】
凹部8の最深部は、すくい面3の最深部よりも高位に位置している。これにより、第2すくい面32で発生する摩擦抵抗を低減させる効果を維持しつつ、第2すくい面32において切屑の幅方向の中央が下方に変形されることを低減させる効果が高まる。そのため、摩擦抵抗を低減でき、且つ切屑が凹部8へ沈み込むことを低減できるため、切屑の滞留を低減でき、切屑排出性の向上が更に図れる。特に、このような構成とすることは、被削材が延性に富む材料の場合に、効果的である。
【0047】
なお、ここでいう凹部8の最深部とは、図2に示すように、インサート本体部2の下面に垂直な方向における最下点P8を意味する。また、すくい面3の最深部も、同様に、インサート座面に垂直な方向における最下点P3を意味する。本実施形態によれば、P8が、インサート座面を基準にして、P3よりも高位となるよう構成される。
【0048】
突起7の高さは、凹部8の深さよりも大きい。これにより、生成された切屑を、突起7によって、効果的に断面が凸となる形状に変形させることができ、切屑が凹部8に沈み込んで滞留することを低減できる。また、第2すくい面32と切屑との接触面積の減少が図れ、第2すくい面32で発生する摩擦抵抗を低減させることができる。
【0049】
すなわち、まず、切屑断面において、切屑の幅方向中央の凸状部分と切屑の幅方向両端の部分との高さ位置のギャップが大きくなるよう、切屑を変形させることができる。そして、このように切屑断面での中央部と両端部の高さのギャップが大きい切屑は、凹部8が突起7の後方に突起7の高さよりも浅く形成されるため、凹部8に沈み込みにくい。そのため、切屑が凹部8へ滞留することを低減させる効果がより一層高まる。
【0050】
その結果、第2すくい面32と切屑との接触面積を低減させた上で、すなわち第2すくい面32で生じる摩擦抵抗を低減させた上で、切屑の滞留を効果的に低減させることができる。したがって、すくい面3における切屑に作用する絞り作用とカール作用とのバランスを好適なものにすることができ、第2すくい面32で切屑を好適にカールさせることができる。
【0051】
特に、凹部8の深さが突起7の高さよりも小さくなるよう構成されているため、被削材が延性に富む材料の場合においても、切屑と第2すくい面32との摩擦抵抗を低減できるとともに、切屑が凹部8へ沈み込むことを低減できる。そのため、第2すくい面32において切屑に安定したカール作用が働き、切屑が滞留することを低減でき、優れた切屑排出性を発揮させることができる。
【0052】
なお、ここでいう突起7の高さとは、突起7の高さ方向における寸法のことを意味する。具体的には、図2に示すように、突起7の頂部T7を通り切刃6に垂直な断面において、突起7の先端と後端を結ぶ仮想直線L7に垂直な方向における突起7の寸法Hのことを意味する。すなわち、突起7が形成される第1すくい面31が平面である場合は、第1すくい面31を基準として、該第1すくい面31に垂直な方向における寸法Hとなる。
【0053】
凹部8の深さとは、凹部8の深さ方向における寸法のことを意味する。具体的には、図2に示すように、凹部8の先端と後端を結ぶ仮想直線L8に垂直な方向における凹部8の寸法Dのことを意味する。すなわち、凹部8が形成される第2すくい面32が平面である場合、第2すくい面32を基準として、該第2すくい面32に垂直な方向における寸法Dとなる。
【0054】
(第2の実施形態)
次に、図4および図5を用いて、本発明に係る第2の実施形態について説明する。上述した第1の実施形態と略同様の構成については、第1の実施形態と同様の符号を付して、説明を省略する。なお、後述する本発明に係る第3〜第5の実施形態においても、同様にして、説明を省略する。
【0055】
図4に示すように、第2の実施形態に係るインサート21は、1つの突起7を有してなる第1の実施形態に係るインサート1と異なり、複数の突起27(271,272)を有している。該複数の突起27は、少なくとも一部が第1すくい面31に位置するとともに、切刃6に対応する位置に形成されている。本実施形態では、複数の突起27として、2つの突起271,272が形成されている。
【0056】
複数の突起27は、生成された切屑が突起27の後方に形成される凹部8に沈み込んで滞留することを低減させるため、切刃6の両端部寄りではなく、切刃6の中央領域に対応するよう形成されている。すなわち、前述した第1の実施形態のインサート1と同様、上面視において、切刃6の一端から全長の1/3にあたる位置から2/3にあたる位置までの間に、突起27の頂部(T271,T272)が位置する。
【0057】
さらに、本実施形態のように、複数の突起27を有している場合においては、複数の突起27は、以下の関係をなすようすくい面3に形成されるのが好ましい。
【0058】
図4(b)に示すように、上面視において、複数の突起27のうち切刃6の一端に最近接する第1突起271の頂部T271と、切刃6の他端に最近接する第2突起272の頂部T272との距離をL0とする。そして、切刃6に沿う方向における第1突起271の頂部T271と切刃6の一端との距離をL1とし、切刃6に沿う方向における第2突起272の頂部T272と切刃6の他端との距離をL2とする。このとき、距離L0は、距離L1およびL2より小さい。すなわち、L0<L1且つL0<L2をなすことが好ましい。
【0059】
これによって、切刃の長さが長いインサートであっても、切刃によって生成された切屑を、複数の突起によって、切屑の幅方向中央を凸状に安定して変形させて、第2すくい面32と切屑の幅方向における両端で安定して接触させることができる。そして、切屑と第2すくい面32との摩擦抵抗を低減して、切屑を第2すくい面32で安定して上方向にカールさせることができる。
【0060】
すなわち、図5に示すように、切屑断面が、両端部よりも中央部が凹んだ形状となることなく、複数の突起27によって切屑の幅方向中央が持ち上げられた凸状となるよう、切屑が安定して変形される。そのため、切屑が、凹部8へ沈み込むことを低減させることができる。その結果、高い切屑排出性を発揮するとともに、第2すくい面32で発生する摩擦抵抗も低減させることができるため、インサートの破損を低減させることができる。したがって、工具寿命を向上させることができる。なお、ここでいう突起27の頂部は、前述した実施形態に係る突起7の頂部T7と同様に規定される。
【0061】
また、図4(b)に示すように、本実施形態では、突起27の切刃6に垂直な方向において、突起27の頂部(T271,T272)が、突起27の後方寄りに位置するが、本発明はこれに限定されるものではない。切削加工条件に応じて、突起27の頂部は、突起27の切刃6に垂直な方向における略中央に位置していても、前記略中央よりも前方寄りに位置していてもよい。いずれにおいても、距離L0,L1およびL2が、上述の関係をなすことで、上述した効果を得ることができる。
【0062】
距離L0が、距離L1および距離L2の半分よりも小さいのが好ましい。すなわち、前記L0,L1およびL2は、更に、L0<1/2(L1)およびL0<1/2(L2)の関係を満たすことが好ましい。これによって、切屑をより安定して断面形状が凸状となるよう変形させることができる。その結果、切屑に働く絞り作用およびカール作用のバランスがよくなり、切屑排出性を向上させる効果が高まる。
【0063】
距離L1と距離L2が略同一である、すなわち、L1=L2の関係を満たすことがより好ましい。これにより、第2すくい面32と切屑との接触面積を低減させた上で、切屑を、第2すくい面32と切屑の幅方向における両端で安定して接触させることができる。したがって、切屑排出方向を更に安定させることができる。
【0064】
さらに、第1突起271および第2突起272を有している本実施形態においては、切刃6に垂直な方向における第1突起271の頂部T271と切刃6との距離L3は、切刃6に垂直な方向における第2突起271の頂部T272と切刃6との距離L4と略同一であることが望ましい。これによって、生成された切屑が、第1突起271と第2突起272とに安定して接触することができる。そのため、第1突起271および第2突起272で切屑の両端部が好適に持ち上げられ、切屑を安定して断面が凸となる形状に変形させることができる。したがって、切屑排出過程において、切屑が左右に振れることが低減され、優れた切屑排出性を発揮させることができる。
【0065】
(第3,第4の実施形態)
次に、図6〜図9を用いて、本発明に係る第3,第4の実施形態について説明する。図6および図7に示すように、第3の実施形態に係るインサート31は、第2すくい面32に凹部8が形成されている第1の実施形態に係るインサート1と異なり、第2すくい面32に該第2すくい面32から突出した凸部17が形成されている。
【0066】
このように凸部17が第1すくい面31に形成された突起7よりもインサート本体部2の内方側に位置するよう、凸部17が第2すくい面32に形成されることで、突起7によって断面が凸となる形状に変形された硬度の高い切屑は、第2すくい面32において、凸部17と安定して接触する。具体的には、図3に示した切屑の両端が凸部17と安定して接触する。
【0067】
そして、凸部17によって切屑を上方へ安定してカールさせることができる。なお、このとき第2すくい面32において、切屑は第2すくい面32から突出する凸部17と接触してカールされるため、第2すくい面32との接触面積が減少して、第2すくい面32で生じる摩擦抵抗を低減させることができる。その結果、すくい面3上で絞り作用とカール作用の両作用が好適に働き、切屑がすくい面3上およびクランプ面4上に滞留することを低減でき、インサートの破損を抑制して工具寿命の向上が図れる。
【0068】
上述した凹部8が形成された実施形態と同様、切刃6に近接して設けられた突起7の後方に凸部17が設けられた本実施形態においても、被削材が延性に富む場合に好適である。すなわち、被削材が延性に富んで突起7で十分な加工硬化が得られない場合にも、凸部17による絞り作用およびカール作用が得られるため、切屑の滞留を低減でき、優れた切屑排出性を発揮することができる。
【0069】
このように、凸部17が形成された本実施形態においては、凹部8が形成された実施形態と異なり、凸部17そのものが、第1すくい面31で変形された切屑の両端部と接触するブレーカー面として機能する。
【0070】
このとき、凸部17の一部は、第1すくい面31に形成されていることが延性に富む被削材を加工する際に望ましい。すなわち、凸部17は、第1すくい面31と第2すくい面32との両面部に渡って形成されているのが望ましい。このような構成により、被削材が延性に富んで加工硬化が得られにくい切屑であっても、第1すくい面31との接触面積の低減が図れ、切屑とすくい面3全体との摩擦抵抗を低減でき、切屑の滞留を抑制する効果が高まる。
【0071】
つまり、突起7によって十分に加工硬化されず絞り作用が小さな延性の高い被削材から生成される切屑であっても、第1すくい面31および第2すくい面32にべたあたりすることを抑制でき、突起7の第1すくい面31に位置する部分とスムーズに接触して、摩擦抵抗を低減させながら、好適にカール作用を受けることができる。
【0072】
図7(b)に示すように、凸部17の上面は、平坦部19を有し、該平坦部19の幅が突起7の幅よりも大きい。すなわち、平坦部19の切刃6に沿う方向における寸法W19(平坦部19の幅)が、突起7の切刃6に沿う方向における寸法W7(突起7の幅)よりも大きい(W19>W7)。このような構成により、突起7で断面形状が凸状に変形された切屑の両端部と凸部17の平坦部19とが安定して接触することができる。そのため、切屑の排出方向が安定し、切屑がすくい面3上で滞留することを抑制することができる。また、凸部17の摩耗の低減が図れる。
【0073】
なお、平坦部19の両端部が円弧で凸部17の側面と接続されている場合には、W19は、図7(b)に示すように算出する。つまり、平坦部19の各端部において、円弧で接続される直線部分の仮想延長線の交点を各々作図し、得られた交点間の距離をW19とする。
【0074】
凸部17の前逃げ面5に略平行な断面形状(切刃6に平行な断面形状)は、平坦部19を上底とする略台形である。つまり、前記断面形状において、凸部17の切刃6に沿う方向における寸法W17よりも、平坦部19の前記W19が小さい(W19<W17)。なお、ここでいう略台形とは、前記断面形状において、平坦部19を上底とした実質的に台形形状をなすものであればよく、平坦部19と側面とが円弧等で接続された形状であってもよい。このように、断面形状が平坦部19を上底とする略台形をなすことで、図3,図5のように断面が凸状に変形された切屑の両端が凸部17の上面と安定して接触することができる。加えて、凸部17とすくい面3との境界部分にクラックが生じることを抑制することができる。また、凸部17の摩耗を低減させる効果も高まる。そのため、工具寿命の向上がさらに図れる。
【0075】
ここでいう寸法W17とは、いわゆる凸部17の幅のことである。具体的には、図7(b)に示すように、前逃げ面5に略平行な断面形状である略台形の下底のことをいう。
【0076】
また、凸部17は、図8および図9に示す本発明に係る第4の実施形態のように、上面に切刃6からクランプ面4に向かって伸びる溝18が設けられていてもよい。つまり、凸部17の上面が、溝18によって、切刃6に沿う方向に分断されてなる凸部17’,17’を有した形状であってもよい。これにより、突起7にて断面が凸状に変形された切屑の両端部と、溝18にて分断された凸部17’,17’の各々とが、安定して接触し、切屑排出方向を安定させることができる。また、溝18による第2すくい面32と切屑との接触面積の更なる低減が図れる。つまり、切屑のカール作用に必要となる第1すくい面31で断面が凸状に変形された切屑の両端と接触する部分を残しつつ、第2すくい面32と切屑との接触面積の低減を最大限に図ることができる。
【0077】
なお、本実施形態においても、上述した突起7と凹部8との位置関係と同様に、切刃6の中点M6と突起7の頂部T7とを通る直線X上に凸部17の中点M17が位置する。これにより、切屑の排出方向を安定させることができる。
【0078】
(第5の実施形態)
図10および図11を用いて、本発明に係る第5の実施形態について説明する。本実施形態のインサート51は、第2すくい面32のクランプ面4側端部が、図10に示すように、上面視において、切刃6の他端側から一端側に向かうにつれて(矢印Iに示す方向)、切刃6から遠ざかるよう傾斜している(矢印IIに示す方向)。すなわち、切刃6の他端側62と第2すくい面32のクランプ面4側端部のうち他端側322との距離L92と、切刃6の一端側61と第2すくい面32のクランプ面4側端部のうち一端側321との距離L91とが、L92<L91の関係を満足している。なお、ここでいう距離L91およびL92は、いずれも切刃6に対して垂直な方向における寸法のことを意味する。
【0079】
ここで、第2すくい面32のクランプ面4側端部とは、第2すくい面32とクランプ面4とが連続して設けられている本実施形態のような場合においては、第2すくい面32とクランプ面4との交差稜線をいう。第2すくい面32とクランプ面4との間に他の面領域が配置される場合における第2すくい面32のクランプ面4側端部とは、第2すくい面32と前記他の面領域との交差稜線をいう。
【0080】
L91<L92となるようすくい面3が形成されることで、突起7で絞り作用を受けて加工硬化された切屑を、第2すくい面32で上方へカールさせる際に、切刃6の一端側61に位置するすくい面領域に向かって排出させることができる。すなわち、第1すくい面31で絞り作用を受けた切屑が、第2すくい面32の一端側321に向かうように、切屑の排出方向を制御することができる。これにより、切屑の排出スペースが広く確保できる被削材の開口側に切屑を安定して排出させることができ、加工溝内に切屑が詰まることを抑制できる。そのため、切屑が、加工壁面を傷つけることを抑制できる。その結果、加工精度を向上させることができる。
【0081】
図11(a),(b)に示すように、第1すくい面31のすくい角が、切刃6の他端側62(すくい角β)よりも一端側61(すくい角γ)において大きくなっていること(β<γ)が望ましい。特に、第1すくい面31のすくい角が切刃6の他端側62から一端側61に向かうにつれて増大することがより望ましい。このような構成により、突起7で絞り作用を受けて加工硬化された切屑の排出方向を、第2すくい面32のクランプ面4側端部のうち一端側321に向かうようにすることができる。
【0082】
すなわち、切刃6の一端側61におけるすくい角γが他端側62におけるすくい角βよりも大きいので、切刃6の他端側62よりも一端側61において、生成される切屑の厚みが薄くなるとともに、切屑の生成速度がより速くなる。そのため、切屑厚みがより薄く生成速度が速い一端側61の切屑が、第2すくい面32によるカール作用を先に受ける。これにより、切屑の排出方向の軌跡が、上方にかつ上面視において反時計回りとなる螺線状となる。そのため、切屑を排出スペースが比較的広く確保できる切刃6の一端側61に安定して排出させることができる。その結果、上述の第2すくい面32の形状と同様、加工溝内に切屑が詰まって、加工壁面を傷つけることを抑制できる。
【0083】
本実施形態においては、突起7が1つ形成されたものを例示したが、第2の実施形態のように突起7が2つ形成された実施形態においても、前記すくい角β、γが上述の関係をなすことが、優れた切屑排出性を発揮させる点でより好ましい。つまり、切屑の生成速度が異なる切屑の両端部に各々対応する突起7が設けられるため、前記両端部で切屑の生成速度が異なる切屑が、第1すくい面31で安定して変形され、第2すくい面32へとスムーズに排出される。
【0084】
加えて、第1すくい面31のすくい角が上述のように徐変することで、切刃6の他端側62においては切刃強度が高く、一端側61においては切削抵抗が小さい構成となり、優れた切削性能を発揮させることができる。
【0085】
なお、ここでいう第1すくい面31のすくい角とは、図11(a),(b)に示すように、切刃6に対して垂直な断面において、第1すくい面31と切刃6を通り下面に平行な基準線とのなす角度(β、γ)を意味する。
【0086】
なお、本実施形態においては、第2すくい面32のクランプ面4側端部が傾斜するよう形成されるとともに、第1すくい面31のすくい角が徐変しているが、本発明はこれに限定されず、いずれか一方のみを有したものであってもよい。
【0087】
上記で説明した各実施形態に係るインサートは、内径の溝入れ加工用(内径加工用)、外径の溝入れ加工用(外径加工用)のいずれにも適用することができる。なお、各実施形態に係るインサートは、滞留した切屑がチップと被削材との間に詰まりやすい内径加工用として使用することが、本発明の有用性が向上する上で好ましい。また、被削材としては、延性に富む材料であるのが好ましく、具体例としては、例えばオーステナイト系ステンレス鋼(例えば、SUS304等)、クロムモリブデン鋼(例えば、SCM435等)等が挙げられ、特に、クロムモリブデン鋼等が好ましい。各実施形態に係るインサートは、延性に富む材料であっても、優れた切屑排出性を発揮させることができる。
【0088】
また、各実施形態にかかるインサート本体部2としては、例えば超硬合金、サーメット、セラミックス等の焼結体に膜が形成されたものを用いることができる。該膜は、インサートの耐摩耗性、耐欠損性等を改善するためのものであり、その組成としては、例えば炭化チタン、窒化チタン、炭窒化チタン等のチタン系化合物や、アルミナ等が挙げられる。また、膜は、少なくとも1層であればよく、複数層で構成されていてもよい。なお、インサート本体部としては、このような膜が形成されたものに限定されるものではなく、膜を形成しない超硬合金、サーメット、セラミックス等の焼結体からなるものを用いてもよい。
【0089】
なお、複数の突起が形成される場合として、第2の実施形態において、2つの突起27が形成された場合を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、3つ、4つ等と、これより多い数の突起が形成されていてもよい。
【0090】
また、突起7,27の基部は、全周に渡ってすくい面3と交差するよう形成されているものを例示した。すなわち、突起7および突起27は、すくい面3上に孤立した島状に形成されたものを例示したが、本発明はこれに限定されず、突起が複数からなる場合、各突起は一体的に形成されたものであってもよい。つまり、突起の一部の周面が、この突起に隣接する他の突起の周面と交差するよう形成されていてもよい。このような突起とした場合、突起の強度を向上させることができ、工具寿命の向上が図れる。なお、各突起が一体的に形成されている場合においても、突起の頂部は、前述の通り定義することができる。
【0091】
<切削工具>
次に、図12を用いて、本発明に係る切削工具の一実施形態について説明する。本実施形態に係る切削工具10は、上述した第1の実施形態に係るインサート1と、該インサート1を先端に装着するホルダ11と、を備えている。
【0092】
ホルダ11は略棒状をなし、具体的には略円柱状をなす。ホルダ11は、先端部12と、ホルダ11を外部機器に取り付けるための支持部13とからなる。先端部12は、インサート1が装着されるインサート装着座部14と、該インサート装着座部14に装着されたインサート1のクランプ面4よりも低位に位置する先端部上面15と、該先端部上面15に連続して前記支持部13に向かって高位に傾斜する傾斜部16と、を有している。
【0093】
インサート1は、切刃6がホルダ11の外周より突出するようインサート装着座部14に装着される。具体的には、インサート本体部2の貫通孔50にネジ51を挿入し、該ネジ51をインサート装着座部14に形成されたネジ孔に螺合させて、インサート1をホルダ11に装着する。インサート1のホルダ11への装着方法は、例示したネジ止めに限らず、様々なクランプ機構を適用することができる。
【0094】
ホルダ11の先端部12に、インサート1がネジ止めによって装着された時にクランプ面4よりも低位に位置する先端部上面15が設けられている。これにより、ホルダ11の先端部12の上方に切屑の排出スペースを広く確保することができる。そのため、切刃6で生成された後、第1すくい面31および第2すくい面32で変形されカールされた切屑が、インサート上面およびホルダ先端部上面で滞留することを低減でき、工具外へ切屑をスムーズに排出させることができる。
【0095】
先端部上面15は、切屑の排出方向の後方における幅W15Bが、切屑の排出方向の前方における幅W15Aより広くなるよう設けられている(W15A<W15B)。これにより切屑排出性の向上が図れる。
【0096】
先端部12に傾斜部16を設けることで、切屑の排出スペースを広く確保し、切屑排出性の向上が更に図れる。
【0097】
このような切削工具10によれば、切屑がインサートのすくい面3で滞留することを低減でき、切屑排出性が向上するとともに、切削抵抗の低減が図れる。そのため、インサート1の破損や切屑の噛み込みが低減でき、仕上げ面精度の向上が図れる。特に、切屑排出過程での切屑の左右への振れを低減できるため、加工形態上、切屑が排出される空間が狭い内径溝入れ加工においても、切屑によって被削材が傷つくことを低減できるため、仕上げ面精度の向上が図れる。その結果、安定した溝入れ加工を長期にわたって行うことができる。
【0098】
<被削材の切削方法>
最後に、本発明に係る被削材の切削方法の一実施形態について、前記した切削工具10を用いた場合を例に挙げ、図13を用いて説明する。本実施形態にかかる被削材の切削方法は、以下の(i)〜(iv)の工程を備える。
【0099】
(i)図13(a)に示すように、被削材100を矢印Dに示す方向に回転させる工程。
(ii)切削工具10を矢印Eに示す方向に動かし、被削材100に切削工具10を近接させる工程。
(iii)図13(b)に示すように、被削材100に切削工具10の切刃6を接触させて被削材を切削する工程(外径加工)。
(iv)図13(c)に示すように、切削工具10を矢印Fに示す方向に動かし、被削材100から切削工具10を離間させる工程。
【0100】
前記(iii)の工程は、優れた切屑排出性および優れた仕上げ面精度を有した切削工具10を用いて行うため、切削性能の高い加工が可能であるとともに、加工効率の向上が図れる。また、延性に富んだ被削材の加工においても、優れた切屑排出性を発揮させることができ、安定した切削加工が長期に渡って可能である。
【0101】
なお、前記(i)の工程では、被削材100と切削工具10とは相対的に近づけばよく、例えば被削材100を切削工具10に近づけてもよい。これと同様に、前記(iv)の工程では、被削材100と切削工具10とは相対的に遠ざかればよく、例えば被削材100を切削工具10から遠ざけてもよい。切削加工を継続する場合には、被削材100を回転させた状態を保持して、被削材100の異なる箇所に切削工具10の切刃6を接触させる工程を繰り返せばよい。使用している切刃が摩耗した際には、インサート1を貫通穴50の中心軸に対して180度回転させ、未使用の切刃を用いればよい。
【0102】
以上、本発明の実施形態を例示したが、本発明は実施の形態に限定されるものではなく、発明の目的を逸脱しない限り任意のものとすることができることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0103】
1 切削インサート
2 インサート本体部
2a 中央部分
2b 切削部
3 すくい面
30 面領域
31 第1すくい面
32 第2すくい面
321 一端側
322 他端側
4 クランプ面
5 前逃げ面
6 切刃
61 一端側
62 他端側
7 突起
T7 頂部
8 凹部
50 貫通穴
21 切削インサート
27 突起
271 第1突起
272 第2突起
31 切削インサート
17 凸部
18 溝
19 平坦部
10 切削工具
11 ホルダ
12 先端部
13 支持部
14 インサート着座部
15 先端部上面
16 傾斜部
100 被削材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面の稜部に形成された切刃と、該切刃に連続して前記上面に形成されたすくい面領域と、該すくい面領域よりも内方に且つ高位に位置するよう前記上面に形成されたクランプ面領域と、を備えた切削インサートであって、
前記すくい面領域に、前記切刃に連続して形成された第1すくい面と、
前記すくい面領域に、前記第1すくい面から前記クランプ面領域に向かって斜面状に形成された第2すくい面と、
少なくとも一部が前記第1すくい面に位置するよう形成され、且つ、上面視において前記切刃の中央領域に対応する位置に設けられた頂部を有している突起と、
少なくとも一部が前記第2すくい面に位置するとともに、上面視において前記突起よりも内方に位置するよう形成された凸部と、を有している切削インサート。
【請求項2】
前記突起は、1つ設けられているとともに、
上面視において、前記凸部の幅の中点は、前記切刃の中点と前記突起の頂部とを通る直線X上に位置する請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
前記突起は、複数設けられているとともに、
上面視において、前記切刃の一端に最近接する第1突起の頂部と前記切刃の他端に最近接する第2突起の頂部との距離L0が、前記切刃に沿う方向における前記第1突起の頂部と前記切刃の一端との距離L1および前記切刃に沿う方向における前記第2突起の頂部と前記切刃の他端との距離L2より小さい請求項1に記載の切削インサート。
【請求項4】
前記距離L0が、前記距離L1および前記距離L2の半分よりも小さい請求項3に記載の切削インサート。
【請求項5】
前記凸部の一部は、前記第1すくい面に形成されている請求項1または2に記載の切削インサート。
【請求項6】
前記凸部の上面は、平坦部を有し、該平坦部の幅が前記突起の幅よりも大きい請求項1、2または5に記載の切削インサート。
【請求項7】
前記第2すくい面の前記クランプ面領域側端部は、上面視において、前記切刃の他端側から一端側に向かうにつれて前記切刃から遠ざかるよう傾斜している請求項1〜6のいずれかに記載の切削インサート。
【請求項8】
前記第1すくい面のすくい角は、前記切刃の他端側から一端側に向かうにつれて増大する請求項1〜7のいずれかに記載の切削インサート。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の切削インサートと、該切削インサートを先端に装着するホルダと、を備えてなる切削工具。
【請求項10】
前記ホルダは、外部機器に取り付けられる支持部と、前記切削インサートが装着されるインサート装着座部が形成された先端部と、を有し、
該先端部は、前記切削インサートの前記クランプ面領域よりも低位に位置する先端部上面を有している請求項9に記載の切削工具。
【請求項11】
請求項9または10に記載の切削工具を用いて被削材を切削する方法であって、
被削材を回転させる工程と、
前記被削材に前記切削工具を近接させる工程と、
前記被削材に前記切削工具の切刃を接触させて被削材を切削する工程と、
前記被削材から前記切削工具を離間させる工程と、を備えた被削材の切削方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−179711(P2012−179711A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−136796(P2012−136796)
【出願日】平成24年6月18日(2012.6.18)
【分割の表示】特願2009−506358(P2009−506358)の分割
【原出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】