説明

切削タップ

【課題】被削物に形成されるめねじのフランクの表面粗さを小さくできる切削タップを提供すること。
【解決手段】食付き部21の切れ刃より形成されためねじのフランクは、被削物に切削すべきめねじの両側のフランクよりも軸O側に位置する。また、食付き部21および完全山部22の山頂が同一のリードに設定されているので、食付き部21から完全山部22へ移行する際に、食付き部21の切れ刃により切削されためねじの一方のフランク全体および他方のフランク全体を完全山部22の切れ刃で切削することができる。よって、完全山部22の切れ刃により、第1食付き部23の切れ刃により切削されためねじのねじ山の一方のフランクを切削することができるので、めねじの一方のフランクの表面粗さを小さくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削タップに関し、特に、被削物に形成されるめねじのフランクの表面粗さを小さくできる切削タップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
被削物に設けた下穴にめねじを形成する際に用いる切削工具として、食付き部と完全山部とを備える切削タップが一般に知られている。
【0003】
ここで図4を参照して、従来の切削タップ500について説明する。図4(a)は、従来の切削タップ500におけるねじ部520を模式的に表した模式図であり、図4(b)は、食付き部521及び完全山部522のねじ山521a〜521d,522aの軌跡を模式的に表した模式図であり、図4(c)は、食付き部521及び完全山部522のねじ山521a〜521d,522aによる切削部位521a1〜521d1,522a1を模式的に表した模式図である。
【0004】
図4(a)に示すように、切削タップ500は、食付き部521および完全山部522を有するねじ部520と、切り屑が排出される溝(図示せず)と、その溝に沿ってねじ部520に形成される切れ刃(図示せず)とを備えている。食付き部521は、完全山部522と同一のリードのねじ山521a〜521dを形成した後、ねじ山521a〜521dの頂に山払い加工が施され、先端側へ向かうに従って軸心へ向けて下降傾斜して形成されている。これにより、切削タップ500の先端側(図4(a)右側)の切削トルクを軽減させることができるので、被削物に対する切削タップ500の食付きをよくすることができる。
【0005】
図4(b)に示すように、切削タップ500によるめねじ加工においては、リード送りにより、食付き部521及び完全山部522のねじ山521a〜521d,522aの切れ刃により切削される切削部位521a1〜521d1,522aを累積していくことで、被削物にめねじが形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭37−13848号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の切削タップ500で被削物にめねじを形成する際、切削タップ500のリード送りに誤差が生じる場合がある。例えば、切削タップ500がねじれ溝を有するスパイラルタップの場合は、溝の切り屑排出作用により、切り屑が切削タップ500の進行方向に対して後ろ側(図4(b)左側)へ排出される。このとき、切り屑排出の反作用の力により、切削タップ500が進行方向側(図4(b)右側)へ押し出される。よって、図4(c)に示すように、切削タップ500によるめねじ加工を行う際、切削タップ500の送り量が正規の送り量よりも進みすぎ、食付き部のねじ山521a〜521d及び完全山部522のねじ山522aの切り刃により切削される切削部位521a1〜521d1,522a1が切削タップ500の進行方向側へ位置ずれする。その結果、被削物に形成されるめねじのねじ山の一方のフランク551に段が付き、凹凸が形成される。
【0008】
さらに、切削タップ500を製造する際、食付き部521にリード誤差が生じている場合は、リード誤差の寸法分だけ、食付き部521のねじ山521a〜521d及び完全山部522のねじ山522aの切れ刃により切削される切削部位521a1〜521d1,522a1が同様に位置ずれする。
【0009】
以上のように、従来は、被削物に形成されるめねじのねじ山550の一方のフランク551又は他方のフランク552に段が付き、凹凸が形成されて表面粗さが大きくなるという問題点があった。
【0010】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、被削物に形成されるめねじのフランクの表面粗さを小さくできる切削タップを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0011】
請求項1記載の切削タップによれば、食付き部は、有効径がそれぞれ完全山部よりも小さく設定されるので、食付き部の切れ刃により形成されためねじのフランクは、被削物に切削すべきめねじの両側のフランクよりも軸心側に位置する。また、食付き部と完全山部とを連絡する谷底のリードがめねじのリードより大きく設定されることによりねじ部のねじ山の山頂がすべて同一のリードに設定されるので、食付き部から完全山部へ移行する際に、食付き部の切れ刃により切削されためねじの一方のフランク全体および他方のフランク全体を完全山部の切れ刃で切削することができる。よって、切削タップの食付き部にピッチ誤差が生じている場合、または、切削タップの送り量が正規の送り量よりも進みすぎ又は遅れている場合に、食付き部の切れ刃により被削物に形成されためねじの一方のフランク又は他方のフランクの表面粗さが大きくなったとしても、一方のフランク及び他方のフランクを平坦に仕上げることができる。従って、めねじの両側のフランクの表面粗さを小さくできるという効果がある。
【0012】
請求項2記載の切削タップによれば、食付き部は、ねじ山のとがり三角形が完全山部と同一形状に形成されると共に完全山部よりも軸心側に位置しているので、食付き部の切れ刃により形成されためねじのフランクは、被削物に切削すべきめねじの両側のフランクよりも軸心側に位置する。また、食付き部と完全山部とを連絡する谷底のリードがめねじのリードより大きく設定されることによりねじ部のねじ山の山頂がすべて同一のリードに設定されるので、請求項1記載の切削タップと同様に、めねじの両側のフランクの表面粗さを小さくできるという効果がある。
【0013】
請求項3記載の切削タップによれば、食付き部は、有効径がそれぞれ完全山部よりも小さく設定されるので、食付き部の切れ刃により形成されためねじのフランクは、被削物に切削すべきめねじの両側のフランクよりも軸心側に位置する。また、ねじ部は、谷底がすべて同一のリードに設定されたねじ山を形成した後、食付き部と完全山部とを連絡するねじ山のうち、少なくとも食付き部から完全山部へ移行する直前の切れ刃のねじ山に形成される追い側フランクを研削することで、追い側フランクのリードがめねじのリードよりも大きく設定されるので、食付き部から完全山部へ移行する際に、食付き部の切れ刃により切削されためねじの一方のフランク全体および他方のフランク全体を完全山部の切れ刃で切削することができる。よって、請求項1記載の切削タップと同様に、めねじの両側のフランクの表面粗さを小さくできるという効果がある。
【0014】
請求項4記載の切削タップによれば、食付き部は、ねじ山のとがり三角形が完全山部と同一形状に形成されると共に完全山部よりも軸心側に位置しているので、食付き部の切れ刃により形成されためねじのフランクは、被削物に切削すべきめねじの両側のフランクよりも軸心側に位置する。また、ねじ部は、谷底がすべての同一のリードに設定されたねじ山を形成した後、食付き部と完全山部とを連絡するねじ山のうち、少なくとも食付き部から完全山部へ移行する直前の切れ刃のねじ山に形成される追い側フランクを研削することで、追い側フランクのリードがめねじのリードよりも大きく設定されるので、食付き部から完全山部へ移行する際に、食付き部の切れ刃により切削されためねじの一方のフランク全体および他方のフランク全体を完全山部の切れ刃で切削することができる。よって、請求項1記載の切削タップと同様に、めねじの両側のフランクの表面粗さを小さくできるという効果がある。
【0015】
請求項5記載の切削タップは、請求項1から4のいずれかに記載の切削タップの奏する効果に加え、食付き部は、各ねじ山の有効径が軸方向に亘って同一寸法に設定されると共にねじ山の頂が切り取られ、工具本体の先端へ向かうに従って軸心に向けて下降傾斜して形成されているので、切削タップの先端側の切削トルクを小さくすることで、被削物に対する切削タップの食付きをよくすることができるという効果がある。
【0016】
さらに、食付き部は、まず、有効径が同一であるねじ山を形成した後、そのねじ山の頂を切り取ることにより形成することができるので、研削砥石を回転軸方向に沿って平行に移動させながら食付き部を構成するねじ山を形成することができる。よって、被加工物に対する研削砥石の軸方向への相対移動を行うと共に、研削砥石を被加工物に対して接近させつつ、ねじ部のねじ山を切削加工する場合と比べて、切削加工時に被加工物の軸を支持するセンタに研削砥石が接触してセンタが損傷することを防止できるので、切削タップを製造する際の作業効率を向上させることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態における切削タップの正面図である。
【図2】切削タップの軸を含むねじ部の断面形状を模式的に表した模式図である。
【図3】(a)は、食付き部および完全山部のねじ山の軌跡を模式的に表した模式図であり、(b)は、食付き部および完全山部のねじ山による切削部位を模式的に表した模式図である。
【図4】(a)は、従来の切削タップにおけるねじ部を模式的に表した模式図であり、(b)は、食付き部および完全山部のねじ山の軌跡を模式的に表した模式図であり、(c)は、食付き部および完全山部のねじ山による切削部位を模式的に表した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。まず、図1から図3を参照して、切削タップ100の構成について説明する。図1は、一実施の形態における切削タップ100の正面図である。図2は、切削タップ100の軸Oを含むねじ部20の断面形状を模式的に表した模式図である。なお、図2では、切削タップ100により被削物に形成されるめねじのねじ山50(図4(b)参照)の形状を破線で模式的に図示すると共に、面取りが施される前の食付き部21のねじ山の形状を2点鎖線で模式的に図示している。
【0019】
切削タップ100は、ホルダ(図示せず)を介して加工機械(例えば、マシニングセンター)から伝達される回転力とねじのリードに合った送りとによって、被削物に設けられた下穴にめねじを形成する工具であり、図1に示すように、軸O回りに回転される工具本体10と、その工具本体10の先端側(図1右側)に設けられるねじ部20と、工具本体10の外周面に凹設される溝30と備えたスパイラルタップである。
【0020】
工具本体10は、高速度工具鋼で構成され、軸Oを有する円柱状に形成されている。なお、工具本体10は、高速度工具鋼に限られず、タングステンカーバイト(WC)を焼結した超硬合金から構成されてもよい。
【0021】
ねじ部20は、工具本体10を介して加工機械から伝達される回転力によって回転しつつ切削加工を行うための部位であり、先端側に設けられる食付き部21と、その食付き部21に連設される完全山部22とを備えている。また、ねじ部20は、一条ねじで形成されており、食付き部21及び完全山部22のリードが寸法Lに設定されている(図2参照)。
【0022】
溝30は、切削加工時にねじ部20によって生成される切り屑を排出するための部位であり、軸線に対して右にねじれた、いわゆる右ねじれ溝として形成されている。また、その溝30に沿って切れ刃20aが形成されている。これにより、切削加工時に生成された切り屑は、溝30の切り屑排出作用により、工具本体10の後方側(図1左側)へ排出される。
【0023】
図2に示すように、食付き部21は、被削物の下穴に切削加工を施すことでめねじを切削するための部位であり、食付き部21の各ねじ山23a〜23c,24aの有効径が軸O方向に亘って同一寸法に設定されている。また、食付き部21の各ねじ山23a〜23c,24aの頂が切り取られると共に工具本体10の先端へ向かうに従って軸Oに向けて下降傾斜して形成されている。これにより、切削タップ100の先端側の切削トルクを小さくすることができるので、被削物に対する切削タップ100の食付きをよくすることができる。また、食付き部21は、先端側から後端側に向けて形成される第1食付き部23と、その第1食付き部23及び完全山部22に隣接する第2食付き部24とを備えている。
【0024】
第1食付き部23は、被削物にめねじを形成する際に、被削物に対して切削タップ100の食付きをよくするための部位であり、ねじ山のとがり三角形が被削物に形成されるめねじのねじ山50(図4(b)参照)のとがり三角形と略同一形状に形成されている。また、第1食付き部23を構成する各ねじ山23a〜23cのリードが寸法Lに設定されると共に谷径が直径R1、第1食付き部23の有効径が直径R3に設定されている。なお、直径R1で形成される仮想的な円筒の半径を寸法r1、直径R3の半径をr3とする。
【0025】
第2食付き部24は、食付き部21と完全山部22とを連絡する部分であり、第1食付き部23側の谷径が直径R1に設定されると共に、完全山部22側の谷径が直径R1よりも大きく設定されている。
【0026】
完全山部22は、被削物へのめねじ切削過程において、主に、めねじのフランクの仕上げとガイド又は自己案内性とを向上させる部位であり、ねじ山が被削物に形成されるめねじのねじ山50(図4(b)参照)のとがり三角形と略同一形状に形成されている。また、完全山部22は、リードが寸法Lに設定されると共に、谷径が直径R1よりも寸法が大きい直径R2、完全山部22の有効径が直径R3よりも寸法が大きい直径R4に設定されている。即ち、食付き部21のねじ山のとがり三角形は、完全山部22のねじ山のとがり三角形と同一形状であると共に、食付き部21は、有効径が完全山部22よりも小さく設定されている。なお、直径R2の寸法は、被削物に形成されるめねじの内径と同一寸法に設定される。また、直径R2で形成される仮想的な円筒の半径を寸法r2、直径R4の半径をr4とし、寸法r1と寸法r2との寸法の差を寸法y1とする。
【0027】
次に、切削タップ100を製造する際におけるねじ部20の形成方法について説明する。ねじ部20は、まず、溝30を形成し、その溝30によって形成されたすくい面を研磨して切れ刃20a(図1参照)を形成した後、完全山部22のねじ溝形状に対応するねじ山が形成された研削砥石(図示せず)を用いた研削加工により形成される。
【0028】
具体的には、まず、円柱形状の被加工物の外周面に研削砥石を押し当てつつ被加工物を軸O回りに回転させると共に、被加工物の先端側(図2右側)から食付き部21が形成される寸法分だけ被加工物に対して研削砥石を軸O方向に沿って、完全山部22が形成される側へ、リードが寸法Lとなるように相対移動させる。このとき、被加工物に形成されるねじ山の谷径が直径R1となるように研削砥石を押し当てる。
【0029】
続いて、食付き部21から完全山部22へ移行する際に、被加工物に形成されるねじ山の谷径が直径R1から直径R2になるように研削砥石を被加工物から離間させつつ、谷底のリードが寸法Lよりもx1だけ大きくなるように軸O方向へ沿って完全山部22が形成される側へ移動させる。これにより、第2食付き部24のねじ山の頂からその第2食付き部24に隣接する第1食付き部のねじ山の頂までのリードを寸法Lに設定することができる。
【0030】
続いて、被加工物に形成されるねじ山の谷径が直径R2となるように研削砥石を押し当てつつ、被加工物に対して研削砥石を軸O方向に沿って、完全山部22が形成される側へ、リードが寸法Lとなるように被加工物を移動させる。完全山部22が形成される位置の終端まで研削砥石が移動した後、再び、研削砥石を被加工物の先端側から完全山部22が形成される位置まで相対移動させつつ上記同様の切削加工を行い、これらの作業をねじ部20のねじ山の高さが所望の寸法になるまで反復繰り返して行う。これにより、食付き部21のねじ山及び完全山部22が形成される。
【0031】
次に、食付き部21を構成する部分に形成されたねじ山の頂を山払い加工により切り取る。これにより、先端側に向かうに従って軸Oに向けて下降傾斜したテーパ状の食付き部21が形成される。よって、食付き部21は、まず、有効径がそれぞれ軸O方向に亘って同一寸法に設定されたねじ山を形成した後、そのねじ山の頂を切り取ることにより、ねじ山23a〜23c,24aを形成することができるので、研削砥石を回転軸方向に沿って平行に移動させながら食付き部21のねじ山を形成することができる。従って、被加工物に対する研削砥石の軸O方向への相対移動を行うと共に研削砥石を被加工物に対して接近させつつ、ねじ部20のねじ山を切削加工する場合と比べて、切削加工時に被加工物の軸Oを支持するセンタ(図示せず)に研削砥石が接触してセンタが損傷することを防止できるので、切削タップ100を製造する際の作業効率を向上させることができる。
【0032】
ここで、図3を参照しつつ、ねじ部20による切削加工過程について説明する。図3(a)は、食付き部21及び完全山部22のねじ山23a〜23c,24a,22aの軌跡を模式的に表した模式図であり、図3(b)は、食付き部21及び完全山部22のねじ山23a〜23c,24a,22aによる切削部位23a1〜23c1,24a1,22a1を模式的に表した模式図である。
【0033】
図3(a)に示すように、被削物に設けた下穴にめねじを形成する際は、リード送りにより、食付き部21及び完全山部22のねじ山23a〜23c,24a,22aの切れ刃20a(図1参照)により切削される切削部位23a1〜23c1,24a1,22a1を累積していくことで、めねじのねじ山50の一方のフランク51及び他方のフランク52が形成される。
【0034】
しかし、切削タップ100によるめねじ加工を行う際、溝30の切り屑排出作用により、切り屑が切削タップ100の進行方向に対して後ろ側(図3(a)左側)へ排出される。そのため、切り屑排出の反作用の力により、切削タップ100が進行方向(図3(a)右方向)へ押し出される。よって、図3(b)に示すように、切削タップ100によるめねじ加工を行う際、切削タップ100が正規の送り量よりも進みすぎ、切削部位23a1〜23c1,24a1,22a1が切削タップ100の進行方向側へ位置ずれする。その結果、第1食付き部23の切れ刃20aにより切削されるめねじのねじ山50の一方のフランク51に段が付き、凹凸が形成される。
【0035】
これに対し、図2に示すように、食付き部21の有効径である直径R3(半径r3)は、完全山部22の有効径である直径R4(半径r4)よりも小さく設定されているので、食付き部21の切れ刃20a(図1参照)より形成されためねじのフランクは、被削物に切削すべきめねじの両側のフランクよりも軸O側に位置する。また、食付き部21および完全山部22の山頂が同一のリードに設定されているので、食付き部21から完全山部22へ移行する際に、食付き部21の切れ刃20aにより切削されためねじの一方のフランク全体および他方のフランク全体を完全山部22の切れ刃20aで切削することができる。
【0036】
従って、図3(b)に示すように、食付き部21の切れ刃20a(図1参照)により切削されためねじのねじ山50の一方のフランク51に段が付き、凹凸が形成された場合であっても、完全山部22の切れ刃20aにより、食付き部21の切れ刃20aにより切削されためねじのねじ山50の一方のフランク51を切削することができるので、めねじの一方のフランク51の表面粗さを小さくすることができる。
【0037】
また、食付き部21にリード誤差が生じている場合、切削部位23a1〜23c1,24a1の位置ずれが生じ、その結果、めねじのねじ山50の一方のフランク51又は他方のフランク52の表面粗さが大きくなった場合でも、食付き部21の切れ刃20aに切削されためねじのねじ山50の一方のフランク51及び他方のフランク52を、完全山部22の切れ刃20aで切削することができる。よって、めねじの両側のフランクの表面粗さを小さくすることができる。
【0038】
なお、発明者が従来の切削タップ500(M10×1.5、ねじれ角35度、フランク角30°、図5参照)により切削されためねじのフランクの表面粗さを測定したところ、Rz=5.5〜8.9μmであった。これに対し、本発明の切削タップ100(M10×1.5、ねじれ角35度、フランク角30°、径方向の寸法差y=0.034mm、図2参照)により切削されためねじのフランクの表面粗さを測定したところ、Rz=3.8〜4.8μmであった。よって、本発明の切削タップ100を用いることにより、めねじの表面粗さを小さくできることが明らかになった。
【0039】
なお、切削タップ100による切削加工を行う際、食付き部21の切れ刃20aの軌跡と完全山部22の切れ刃20aの軌跡との寸法差x2(図2参照)を利用して、フランクの表面粗さRzを小さくできる。Rzは経験上、5〜10μmであるから、ねじ部20のねじ山がフランク角αのとき、寸法y1を、5/tanα〜10/tanα(μm)に設定することで、切削タップ100のリード送りの誤差により生じためねじの一方のフランク51及び他方のフランク52の凹凸を、第2食付き部21で確実に平坦に仕上げることができる。寸法x1はめねじのリードおよび寸法y1により下記式により計算される。
x1=(L+y11/2−L
但し、めねじのリードをLとする。
【0040】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0041】
例えば、本発明に関し、実施の形態をスパイラルタップに用いる場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、本発明をポイントタップ又はハンドタップに用いてもよい。ここで、ポイントタップの場合では、切り屑が進行方向へ排出されるので、切り屑排出の反作用により、ポイントタップの送り量が遅れることがある。このとき、切削部位がポイントタップの深刻方向に対して後側へ位置ずれし、その結果、めねじのフランクの表面粗さが大きくなる。しかし、食付き部21の切れ刃20aの外径が完全山部22の切れ刃20aの外径よりも小さいので、食付き部21の切れ刃20aによるめねじのフランクの切削加工において、めねじのフランクの表面粗さが大きくなった場合でも、完全山部22の切れ刃20aにより、めねじのフランクの表面粗さを小さくすることができる。
【0042】
さらに、上記実施の形態では、ねじ部20が一条ねじで形成されている場合を説明したが、2条ねじ又は3条ねじで形成されていてもよい。
【0043】
また、上記実施の形態では、切削タップ100の製造時において、食付き部21から完全山部22へ移行する際に、谷底のリードが寸法Lよりもx1だけ大きくなるように軸O方向へ沿って完全山部22が形成される側へ移動させることにより、第2食付き部24のねじ山の頂からその第2食付き部24に隣接する第1食付き部のねじ山の頂までのリードを寸法Lに設定する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、切削タップ100の製造時において、谷底がすべて同一リードに設定されたねじ部20のねじ山を形成した後、第2食付き部24のうち、めねじの切削加工時において、食付き部21から完全山部22へ移行する直前の切れ刃のねじ山の追い側フランクを研削砥石により研削し、追い側フランク24a2のリードをめねじのリードよりも大きく設定してもよい。これにより、追い側フランク24a2と溝30との稜線に形成される切れ刃20a(図1参照)により形成されためねじのフランクが、被削物に切削すべきめねじの両側のフランクよりも軸O側に位置するので、めねじの切削加工時において、食付き部から完全山部へ移行する際に、食付き部の切れ刃により切削されためねじの一方のフランク全体および他方のフランク全体を完全山部の切れ刃で切削することができ、その結果、めねじの両側のフランクの表面粗さを小さくできる。なお、食付き部21から完全山部22へ移行する直前の切れ刃のねじ山の追い側フランクの研削量は、その追い側フランクに対して垂直方向へ略10μmが望ましい。
【0044】
ここで、第2食付き部24のうち、めねじの切削加工時において、食付き部21から完全山部22へ移行する直前の切れ刃のねじ山とは、切削タップ100の回転方向において、完全山部22の最初のねじ山(最も工具本体10の先端側に位置する完全山部22のねじ山)と溝30を介して隣接する第2食付き部24の最後のねじ山(最も工具本体10の後端側に位置する第2食付き部24のねじ山)を指す。この場合、少なくとも食付き部21から完全山部22へ移行する直前の切れ刃のねじ山の追い側フランクのリードが大きく設定されていればよい。
【0045】
さらに、上記実施の形態では、食付き部21のねじ山のとがり三角形が完全山部22のねじ山のとがり三角形と同一形状であると共に、食付き部21が、有効径が完全山部22よりも小さく設定されている場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、食付き部21の有効径が完全山部22の有効径よりも小さく設定されていれば、食付き部21の切れ刃により形成されためねじのフランクが、被削物に切削すべきめねじの両側のフランクよりも軸心側に位置するので、食付き部21のねじ山のとがり三角形が完全山部22のねじ山のとがり三角形と異なる形状であってもよい。また、食付き部21のねじ山のとがり三角形が完全山部22のねじ山のとがり三角形と同一形状であると共に完全山部22のねじ山のとがり三角形よりも軸心側に位置していれば、食付き部21の切れ刃により形成されためねじのフランクは、被削物に切削すべきめねじの両側のフランクよりも軸心側に位置するので、食付き部21の有効径の寸法と完全山部22の有効径の寸法との関係は問わない。
【0046】
また、上記実施の形態では、食付き部21のねじ山23a〜23c,24aの頂に山払い加工が施された不完全ねじである場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、食付き部21のねじ山23a〜23c,24aが完全ねじであってもよい。この場合は、工具本体10の先端に向かうにつれて、食付き部21のねじ山全体が縮径されるので、被削物の下穴の内側に食い付いて切削しながらねじ部20を案内できる。
【0047】
上記実施の形態では、ねじ部20の各ねじ山が三角ねじである場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、ねじ部20の各ねじ山が台形ねじ、のこ歯ねじ又は丸ねじであってもよい。また、各ねじ山には、切れ刃20aからヒールに向かうに従って外径が小さくなる逃げを設けてもよい。
【符号の説明】
【0048】
100,500 切削タップ
10 工具本体
20,520 ねじ部
20a 切れ刃
21,521 食付き部
22,522 完全山部
24 第2食付き部(食付き部と完全山部とを連絡するねじ山)
24a2 追い側フランク
30 溝
50 めねじのねじ山
O 軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸回りに回転される工具本体と、その工具本体の先端側に設けられる食付き部およびその食付き部に連設される完全山部を有するねじ部と、そのねじ部の外周面に凹設される溝と、その溝に沿って前記ねじ部に形成される切れ刃とを備え、めねじを形成する切削タップにおいて、
前記食付き部は、有効径がそれぞれ前記完全山部よりも小さく設定され、
前記食付き部と前記完全山部とを連絡する谷底のリードが前記めねじのリードより大きく設定されることにより、前記ねじ部のねじ山の山頂がすべて同一のリードに設定されることを特徴とする切削タップ。
【請求項2】
軸回りに回転される工具本体と、その工具本体の先端側に設けられる食付き部およびその食付き部に連設される完全山部を有するねじ部と、そのねじ部の外周面に凹設される溝と、その溝に沿って前記ねじ部に形成される切れ刃とを備え、めねじを形成する切削タップにおいて、
前記食付き部は、ねじ山のとがり三角形が前記完全山部と同一形状に形成されると共に前記完全山部よりも軸心側に位置し、
前記食付き部と前記完全山部とを連絡する谷底のリードが前記めねじのリードより大きく設定されることにより、前記ねじ部のねじ山の山頂がすべて同一のリードに設定されることを特徴とする切削タップ。
【請求項3】
軸回りに回転される工具本体と、その工具本体の先端側に設けられる食付き部およびその食付き部に連設される完全山部を有するねじ部と、そのねじ部の外周面に凹設される溝と、その溝に沿って前記ねじ部に形成される切れ刃とを備え、めねじを形成する切削タップにおいて、
前記食付き部は、有効径がそれぞれ前記完全山部よりも小さく設定され、
前記ねじ部は、谷底がすべて同一のリードに設定されたねじ山を形成した後、前記食付き部と前記完全山部とを連絡するねじ山のうち、少なくとも前記食付き部から前記完全山部へ移行する直前の切れ刃のねじ山に形成される追い側フランクを研削することで、前記追い側フランクのリードが前記めねじのリードよりも大きく設定されることを特徴とする切削タップ。
【請求項4】
軸回りに回転される工具本体と、その工具本体の先端側に設けられる食付き部およびその食付き部に連設される完全山部を有するねじ部と、そのねじ部の外周面に凹設される溝と、その溝に沿って前記ねじ部に形成される切れ刃とを備え、めねじを形成する切削タップにおいて、
前記食付き部は、ねじ山のとがり三角形が前記完全山部と同一形状に形成されると共に前記完全山部よりも軸心側に位置し、
前記ねじ部は、谷底がすべて同一のリードに設定されたねじ山を形成した後、前記食付き部と前記完全山部とを連絡するねじ山のうち、少なくとも前記食付き部から前記完全山部へ移行する直前の切れ刃のねじ山に形成される追い側フランクを研削することで、前記追い側フランクのリードが前記めねじのリードよりも大きく設定されることを特徴とする切削タップ。
【請求項5】
前記食付き部は、各ねじ山の有効径が軸方向に亘って同一寸法に設定されると共にねじ山の頂が切り取られ、前記工具本体の先端へ向かうに従って軸心に向けて下降傾斜して形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の切削タップ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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