説明

切削工具

【課題】軸線回りに回転されて被削物を切削する際の振動の発生を抑制して高精度の加工を可能にした切削工具を提供する。
【解決手段】軸線O1方向先端1a側からの対向視に略円形を呈する工具本体1に切刃部を備え、軸線O1回りに回転させられつつ切刃部を被削物に切り込ませて被削物を切削する切削工具Aにおいて、工具本体1の外周側の軸線O1を中心とした同心円上に、かつ軸線O1を中心とした対称位置に、工具本体1の外面に開口しつつ凹む凹部8が形成されるとともに、この凹部8には、工具本体1と比重の異なる充填材11が充填されており、充填材11は、溶融した状態で凹部8に充填されて固化した状態で工具本体1と一体とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸線方向先端側からの対向視に略円形を呈する工具本体の先端側に切刃部を備え、軸線回りに回転されて被削物を切削する切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば往復動式内燃機関のクランクシャフトを加工するための切削工具には、ピンミラーカッタが使用されている。このピンミラーカッタは、軸線方向先端側からの対向視略円形の円環状を呈する工具本体と、円環状に形成され、内周側に複数のチップがその切刃を内周面から径方向内側に突出させた状態で設けられた切刃部とを備えて構成されている。このように構成されたピンミラーカッタは、切刃部が、工具本体の内周に互いの軸線を同軸上に配しつつ軸線方向先端側に着脱可能に装着されて工具本体と一体とされる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この切刃部が工具本体に一体に装着されたピンミラーカッタは、クランクシャフトの加工時に、工具本体の軸線方向後端側が加工機の回転主軸に互いの軸線を同軸上に配しつつ装着されて、ピンミラーカッタの内孔、すなわち円環状に形成された工具本体と切刃部の連通する内孔にクランクシャフト(被削物)を挿通した状態で加工機に装着される。そして、加工機の回転主軸によりピンミラーカッタが軸線回りに回転され、かつクランクシャフトに対して公転されて、軸線方向に進退移動されることよって、切刃部の径方向内側に突出されたチップの切刃がクランクシャフトに切り込まれ、クランクシャフトを所定の形状に加工することが可能とされる。
【特許文献1】特開平8−118125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のピンミラーカッタにおいては、軸線回りに自転しつつクランクシャフトに対して公転させて、かつ軸線方向に進退移動しながら加工に供されるため、切削時の主分力や背分力、送り分力によって振動が生じやすく、高精度でクランクシャフトを加工することが困難になる場合があった。また、特にこのような振動が生じた場合には、切削時に大きな切削音が発生してしまうという問題もあった。
【0005】
本発明は、上記事情を鑑み、軸線回りに回転されて被削物を切削する際の振動の発生を抑制して高精度の加工を可能にした切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0007】
本発明の切削工具は、軸線方向先端側からの対向視に略円形を呈する工具本体に切刃部を備え、前記軸線回りに回転しつつ前記切刃部を被削物に切り込ませて該被削物を切削する切削工具において、前記工具本体には、前記軸線を中心とした同心円上に、かつ前記軸線を中心とした対称位置に、前記工具本体の外面に開口しつつ凹む凹部が形成されるとともに、該凹部には、前記工具本体と比重の異なる充填材が充填されており、該充填材は、溶融した状態で前記凹部に充填されて固化した状態で前記工具本体と一体とされていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の切削工具においては、前記凹部が周方向に連続する円環状に形成されていることが望ましい。
【0009】
さらに、本発明の切削工具においては、前記凹部が前記工具本体の周方向に等間隔で複数設けられてもよい。
【0010】
また、本発明の切削工具においては、前記充填材が前記工具本体よりも大きな比重を備える低融点金属であることが望ましい。
【0011】
さらに、本発明の切削工具において、前記凹部は、底面側の径方向もしくは周方向の幅が、開口側の前記幅よりも大となるように形成されていることがより望ましい。
【0012】
また、本発明の切削工具においては、前記凹部の開口部に、蓋体が取り付けられていることがさらに望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の切削工具によれば、工具本体の外周側の軸線を中心とした同心円上の対称位置、すなわち前記軸線回りの回転対称位置に、凹部が形成され、この凹部に工具本体と比重の異なる充填材が充填されていることによって、切削工具を軸線回りに回転させつつ被削物の切削を行った際に、切削工具に振動を生じさせるような力が作用した場合においても、この充填材の部分で振動が変化して打ち消され、切削工具の振動を減衰させることができる。これにより、被削物を高精度で加工することが可能になる。また、工具本体よりも大きな比重を有する充填材を備えた場合には、工具本体の外周側部分に径方向外側に向かう力を作用させることができ、この力により切削工具の径方向の中心線を保持するように求心力が作用して、切削工具の振動を減衰させることができる。さらに、凹部を周方向に連続する円環状に形成する、もしくは凹部を工具本体の周方向に等間隔で複数設けることにより、工具本体の外周側にバランスよく径方向外側に向かう力を作用させることができ、確実に切削工具の振動を減衰させることが可能になる。
【0014】
また、該充填材が、溶融状態で凹部に充填されて固化状態で工具本体と一体とされることにより、凹部に確実に密実な状態で充填でき、切削工具の回転に伴い凹部内の充填材に片寄りが生じることを防止でき、より確実に工具本体の外周側にバランスよく径方向外側に向かう力を作用させることができる。さらに、充填材が工具本体よりも低融点の金属である場合には、上記効果を確実に得ることができるとともに、充填材の凹部への充填を容易に行なうことができる。
【0015】
さらに、凹部が、底面側の径方向もしくは周方向の幅が開口側の前記幅よりも大となるように形成されていることにより、この凹部に充填された充填材が外側に抜け出ることを防止でき、確実にバランスよく径方向外側に向かう力を作用させることができる。
【0016】
また、凹部の開口部に蓋体を取り付けることにより、充填材が低融点金属とされ軟質である場合においても、例えば切削屑が接触して損傷することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図1から図3を参照し、本発明の第1実施形態に係る切削工具について説明する。本実施形態は、往復動式内燃機関のクランクシャフトを加工するためのインターナル型のピンミラーカッタ(切削工具)に関するものである。
【0018】
本実施形態のピンミラーカッタAは、図1から図3に示すように、軸線O1方向先端1a側からの対向視に円環状の略円形を呈するアダプタ(工具本体)1と、円環状に形成され、内周側に複数のインサート2がその切刃を内周面から径方向内側に突出させた状態で着脱可能に具備される切刃部3とから構成されている。
【0019】
アダプタ1は、ニッケル、クロム、モリブデンなどが適宜の割合で含まれた鋼製(例えばSNCM439、SCM440など)とされ、内周側に形成されたフランジ部4と、内周側に設けられた複数のキー溝5と、内周側に設けられ切刃部2を固定してアダプタ1と切刃部3を一体とするための複数のクランパ6と、アダプタ1を加工機に固定するための複数のネジ孔7と、外周側に設けられた凹部8とを備えて構成されている。
【0020】
フランジ部4は、アダプタ1の軸線O1に直交する先端面(先端)1aの内周縁から若干外周縁側に位置する部分が全周に亘って後端面(後端)1bに向けて凹設されて形成されている。
【0021】
キー溝5は、切刃部3の外周側に形成された突部9が嵌合されて切刃部3の周方向の移動を規制するものとされ、先端1a側からの対向視に略矩形状を呈しつつ先端面1aが後端面1bに向けて凹設されて形成されており、フランジ部4の径方向外側の端部から径方向外側に向けて延設されている。すなわち、このキー溝5は、周方向に対向する一対の内壁面5aと、径方向内側を向く内壁面5bと、先端1a側を向く底面5cとを備えて形成されており、径方向内側と先端1a側が開口するように凹設されている。また、周方向に対向する一対の内壁面5aのうち、アダプタ1の回転方向(矢印T方向)後方側を向く一方の内壁面5aが、先端1aから後端1bに向かうに従い漸次他方の内壁面5a側に向けて傾斜するように形成されている。さらに、他方の内壁面5aと径方向内側を向く内壁面5bは、ともに軸線O1に平行に延設されている。そして、このように形成された複数のキー溝5(本実施形態では8つ)は、周方向に一定の間隔をもって並設されている。
【0022】
クランパ6は、外周の一部が直線状に切り欠かれて略半月状を呈するように形成されており、その円弧中心に貫通孔が設けられている。このクランパ6は、アダプタ1の周方向に配設され、隣り合うキー溝5の間に1ずつ設けられた略半月状に凹む着座部10に、貫通孔に挿通したボルトを介して回転可能に着座させられている。
【0023】
一方、凹部8は、アダプタ1の外周縁側に設けられており、先端面(外面)1aに開口しつつ後端1bに向けて凹設されるとともに、全周に亘って連続する円環状に形成されている。また、この凹部8は、径方向に対向する一対の内面8a、8bのうち、径方向外側を向く一方の内面8aが先端1aから後端1bに向かうに従い漸次径方向内側に傾斜するように形成され、開口側の径方向の幅に対して、底面8c側の幅が大とされている。
【0024】
そして、この凹部8には、例えば鉛や錫、ニッケルなどのアダプタ1を形成する鋼よりも比重の大きな金属充填材(充填材)11が充填され、この金属充填材11を充填した状態で、凹部8の開口側を閉塞するように例えば金属製の円環状の蓋体12が被覆されている。この蓋体12は、先端1a側からの対向視にその外周縁をアダプタ1の外周縁と一致させつつ、アダプタ1の外周縁側の先端1aにボルトで固定されている。ここで、本実施形態の金属充填材11は、アダプタ1の材質よりも低融点の金属とされ、溶融した状態で凹部8に充填されて固化した状態でアダプタ1と一体とされる。これにより、固化した金属充填材11は、凹部8内に密実に充填されている。
【0025】
切刃部3は、図3に示すように、円環状の本体部13の内周側に、クランクシャフトにおけるピン部の外周面を加工するためのピン刃やクランクシャフトにおけるカウンターウェイト部の側面を加工するためのウェイブ刃としての切刃を有する複数のインサート2が着脱可能に取り付けられている。
【0026】
また、本体部13の外周側には、後端側の全周部分に本体部13の径方向外周側に突出する略環状のフランジ部15が形成されており、このフランジ部15の外周に、径方向外側に向けて突出する略直方体状をなす複数(例えば4つ以上)の突部9が、周方向に略等間隔に配設されている。ここで、各突部9の周方向を向く一対の側面9a、9bのうち、回転方向(矢印T方向)前方側を向く一方の側面9aは、先端3aから後端に向かうに従い漸次回転方向後方側に傾斜するように形成されている。
【0027】
上記のように構成されたアダプタ1と切刃部3は、切刃部3がアダプタ1の内周側に互いの軸線O1、O2を同軸線上に配しつつ挿入されて一体とされる。このとき、切刃部3のフランジ部13がアダプタ1のフランジ部4に受け止められ、かつ切刃部3に形成された複数の突部9がアダプタ1のキー溝5にそれぞれ嵌合させられる。また、各突部9の一対の側面9a、9bと各キー溝5の周方向に対向する一対の内壁面5aとがそれぞれ面接触することにより、切刃部3がアダプタ1に対して軸線O1方向で位置決めされるとともに、アダプタ1に対して周方向で固定され、かつ、切刃部3の軸線O2がアダプタ1の軸線O1と一致させられる。そして、このように挿入された切刃部3は、複数のクランパ6を回転するとともに先端3aが押圧され、アダプタ1の内周側に強固に保持される。
【0028】
ついで、上記の構成からなるピンミラーカッタAを用いてクランクシャフトを加工する方法について説明し、本実施形態のピンミラーカッタAの作用及び効果について説明する。
【0029】
本実施形態のピンミラーカッタAを用いてクランクシャフトを加工する場合には、まず、切刃部3が装着されたアダプタ1のネジ孔7にボルトを挿通しつつ、このボルトを加工機のスピンドルのネジ孔に締結することにより、ピンミラーカッタAを図示せぬ加工機に装着する。また、このとき、両端を一対のチャックで保持したクランクシャフトが、ピンミラーカッタAの内孔に挿通されるようにしてピンミラーカッタAを加工機に装着する。
【0030】
ついで、加工機を駆動してピンミラーカッタAを軸線O1、O2回りに回転させて自転させつつクランクシャフトの軸線回りに公転させ、かつクランクシャフトの軸線に沿って移動することにより、切刃部3の内周側に取り付けられたインサート2の切刃をクランクシャフトに切り込ませ、クランクシャフトを切削加工してゆく。
【0031】
このとき、本実施形態のピンミラーカッタAにおいては、アダプタ1の外周縁側に凹部8が形成され、この凹部8にアダプタ1の比重と異なる比重を有する金属充填材11が充填されているため、ピンミラーカッタAの切刃をクランクシャフトに切り込ませた際に生じる切削抵抗、すなわちピンミラーカッタAに作用する主分力や背分力、送り分力によってピンミラーカッタAに振動が生じるような場合においても、振動数が金属充填材11の部分で変化することになり、この振動を減衰させることが可能とされる。また、これに加えて、本実施形態においては、アダプタ1の比重よりも大きな比重を有する金属充填材11が充填され、すなわちピンミラーカッタAの外周側の軸線O1中心の同心円上の環状の部分が、他の部分よりも重量が大きなものとされているため、ピンミラーカッタAを軸線O1回りに回転させるとともに、ピンミラーカッタAに径方向外側に向かう力が作用することになる。このため、本実施形態のピンミラーカッタAでは、回転とともに径方向外側に向かう力により、軸線O1に直交する方向の求心力が作用する。このように、求心力が作用した場合には、前記切削抵抗によりピンミラーカッタAに生じる振動を吸収し、振動を減衰させることが可能になる。
【0032】
また、このように振動を減衰させる金属充填材11は、凹部8が、開口側の幅に対して底面8c側の幅が大とされ、かつこの凹部8に密実に充填されているため、切削時に凹部8から軸線O1方向外側にずれたり、外れたりすることがなく、確実に凹部8の内面に金属充填材11が密着した状態で保持される。これにより、ピンミラーカッタAの回転とともに、軸線O1中心の周方向に等しい大きさでバランスよく径方向外側に向かう力を作用させることができ、確実に求心力を軸線O1に直交するように作用させることができる。よって、確実に振動を減衰させることが可能とされる。
【0033】
さらに、凹部8内の金属充填材11が低融点の金属とされ軟質である場合においても、この凹部8を閉塞するように蓋体12が設けられていることにより、例えば切削屑が金属充填材11に接触してこれが損傷されることを防止できる。これにより、確実に軸線O1中心の周方向に等しい大きさでバランスよく径方向外側に向かう力を作用させることができる。
【0034】
したがって、本実施形態のピンミラーカッタAにおいては、切削時の振動を減衰させることができるため、クランクシャフトを高精度で加工することが可能とされる。また、この場合、切削抵抗を軽減することも可能になり、切削に供される切刃の損耗を軽減させることができ、ピンミラーカッタAの長寿命化を図ることも可能になる。
【0035】
以上、本発明に係る切削工具の実施の形態について説明したが、本発明は上記の第1実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、切削工具が、アダプタ1の内周側に切刃部3が装着されてクランクシャフトの加工に供される、いわゆるインターナル型のピンミラーカッタAであるものとして説明を行なったが、これに限定される必要はなく、アダプタ1の外周側に切刃部が装着される、いわゆるエクスターナル型のピンミラーカッタに本発明が適用されてもよいものである。また、本実施形態では、金属充填材11がアダプタ1よりも大きな比重を有するものとして説明を行なったが、アダプタ1よりも小さな比重を有する金属充填材11が具備された場合においても、ピンミラーカッタAに生じる振動の振動数が金属充填材11の部分で変化することになり、この振動を減衰させることが可能である。
【0036】
ついで、図2を参照し、本発明の第2実施形態に係る切削工具について説明する。ここで、本実施形態は、第1実施形態と同様にインターナル型のピンミラーカッタに関するものであり、前記凹部の構成を除いて、他の構成は第1実施形態と同様とされる。このため、本実施形態の説明においては、第1実施形態に共通する構成に対して同一符号を付し、その詳細についての説明を省略する。
【0037】
本実施形態のピンミラーカッタBにおいて、アダプタ1の凹部20は、図4及び図5に示すように、アダプタ1の外周側に、軸線O1中心の同心円上の周方向に等間隔で複数(本実施形態では8つ)設けられ、軸線O1を中心とした対称位置に一対の凹部20が配置されるように設けられている。各凹部20は、先端1a側が開口しつつ後端1bに向けて凹設されているとともに、周方向の幅が径方向内側から外側に向かうに従い漸次大となるように形成されて、先端1a側からの対向視に略矩形状を呈するように形成されている。また、本実施形態においては、外周側の凹部20の底面20aに対して、内周側の底面20bが先端1a側に配されるように段部21が形成されている。
【0038】
また、このように形成された凹部20には、第1実施形態と同様に、低融点の金属充填材11が溶融された状態で充填され、固化するとともに凹部20の内面と密着されて一体とされている。さらに、凹部20の開口側を閉塞するように設置される蓋体22は、凹部20の開口形状、すなわち径方向内側よりも外側の周方向の幅が大となるように形成され、径方向内側と外側とでそれぞれ周方向に並ぶ2つのボルトによってアダプタ1の先端1a側に固定されている。
【0039】
本実施形態のピンミラーカッタBにおいては、金属充填材11が充填される凹部20が軸線O1を中心とした対称位置に、周方向に複数設けられているため、クランクシャフトの切削時に軸線O1回りに回転されるとともに、ピンミラーカッタBに径方向外側に向かう力がバランスよく作用し、これに伴い軸線O1に直交する方向の求心力が作用してピンミラーカッタBの振動を減衰させることが可能とされる。よって、高精度の切削加工を行うことが可能とされる。
【0040】
以上、本発明に係る切削工具の実施の形態について説明したが、本発明は上記の第2実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、凹部20が、先端1a側からの対向視に略矩形状を呈するように形成されているものとしたが、例えば前記対向視に円形を呈するように形成されていてもよく、特にその形状が限定されるものではない。
【0041】
ついで、図6及び図7を参照し、本発明の第3実施形態に係る切削工具について説明する。本実施形態は、被削物の平面加工を行うための正面フライスに関するものである。
【0042】
本実施形態の正面フライスCは、先端30a側からの対向視に略円環状で略円盤状の工具本体30と、工具本体30の先端30a側で外周縁側に設けられた切刃部31とから構成されている。工具本体30は、その外周面の先端30a側に、先端30a側及び径方向外側に向けて開口するチップポケット32が周方向に複数形成されている。また、このチップポケット32の工具本体30の回転方向T下流側には、チップポケット32よりもさらに工具本体30径方向内側に凹む取付座33が形成されている。
【0043】
また、工具本体30には、その外周縁側に、後端面(外面)30bに開口しつつ先端30aに向けて凹設され、全周に亘って連続する円環状の凹部34が設けられている。また、この凹部34には、例えば鉛や錫、ニッケルなどの工具本体30を形成する鋼よりも比重の大きな金属充填材(充填材)35が充填され、この金属充填材35を充填した状態で、凹部34の開口側を閉塞するように例えば金属製の円環状の蓋体36が被覆されている。この蓋体36は、後端30b側からの対向視にその外周縁を工具本体30の外周縁と一致させつつ、工具本体30の外周縁側及び凹部34よりも若干径方向内側に位置する後端30bにおいてそれぞれボルトで固定されている。ここで、本実施形態の金属充填材35は、第1実施形態と同様に、低融点の金属とされ、溶融した状態で凹部34に充填されて固化した状態で工具本体30と一体とされている。これにより、固化した金属充填材35は、凹部34内に密実に充填されている。
【0044】
一方、切刃部31は、超硬合金で構成された略矩形平板状のシート部材31aと、略矩形平板状のインサート31bと、インサート31bと略同厚の略矩形平板状の押圧部材31cと、インサート31bを工具本体30に保持させるためのインサート用くさび部材および押圧部材用くさび部材からなるくさび部材31dとから構成されている。そして、シート部材31aは、交差する2つの面を、取付座33の工具本体30の回転方向T前方側を向く壁面と径方向外側を向く壁面にそれぞれ面接触させた状態で配置されている。また、取付座33に設置したシート部材31aの工具本体30回転方向T前方側を向く面には、インサート31b及び押圧部材31cが面接触されて着座されており、このインサート31b及び押圧部材31cの工具本体30回転方向T前方側に、それぞれインサート用くさび部材31dと押圧部材用くさび部材のくさび部材が図示せぬクランプネジによってそれぞれ装着されている。このとき、両くさび部材31dを工具本体30径方向内側へと挿入することにより、インサート31b及び押圧部材31cが、回転方向T後方側に押圧され、これらくさび部材31dとシート部材31aとにより挟持されて保持されている。また、このように保持されたインサート31bは、辺稜部に形成された切刃31eが、工具本体30の径方向外側と先端30a側とに突出されて保持されている。
【0045】
上記のように構成された本実施形態の正面フライスCは、軸線O1回りに回転されつつインサート31bの切刃31eが被削物に切り込まれ、被削物を加工することが可能とされる。このとき、本実施形態においては、工具本体30の外周縁側に円環状の凹部34が設けられ、この凹部34に工具本体30の比重よりも大きな比重を有する金属充填材35が密実に充填されているため、正面フライスCを軸線O1回りに回転させるとともに、正面フライスCに径方向外側に向かう力が作用することになる。このため、本実施形態では、回転とともに径方向外側に向かう力により、軸線O1に直交する方向の求心力が作用し、正面フライスCに振動が生じるような場合においても、この振動を減衰させることが可能とされる。よって、高精度の切削加工を行うことが可能とされる。
【0046】
以上、本発明に係る切削工具の実施の形態について説明したが、本発明は上記の第3実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、凹部34が、円環状を呈するように形成されているものとしたが、第2実施形態と同様に、周方向に等間隔で複数の凹部が設けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1実施形態に係る切削工具の工具本体を示す正面図である。
【図2】図1のX−X線矢視図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る切削工具の切刃部を示す正面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る切削工具の工具本体を示す正面図である。
【図5】図4のX−X線矢視図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る切削工具を示す正面図である。
【図7】図6のX−X線矢視図である。
【符号の説明】
【0048】
1 工具本体(アダプタ)
1a 先端(先端面、外面)
1b 後端
2 インサート
3 切刃部
3a 先端
11 充填材(金属充填材)
12 蓋体
20 凹部
22 蓋体
30 工具本体
31 切刃部
34 凹部
35 充填材(金属充填材)
36 蓋体
A 切削工具(ピンミラーカッタ)
B 切削工具(ピンミラーカッタ)
C 切削工具(正面フライス)
O1 軸線
O2 軸線
T 回転方向


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向先端側からの対向視に略円形を呈する工具本体に切刃部を備え、前記軸線回りに回転しつつ前記切刃部を被削物に切り込ませて該被削物を切削する切削工具において、
前記工具本体には、前記軸線を中心とした同心円上に、かつ前記軸線を中心とした対称位置に、前記工具本体の外面に開口しつつ凹む凹部が形成されるとともに、該凹部には、前記工具本体と比重の異なる充填材が充填されており、該充填材は、溶融した状態で前記凹部に充填されて固化した状態で前記工具本体と一体とされていることを特徴とする切削工具。
【請求項2】
請求項1記載の切削工具において、
前記凹部が周方向に連続する円環状に形成されていることを特徴とする切削工具。
【請求項3】
請求項1記載の切削工具において、
前記凹部が前記工具本体の周方向に等間隔で複数設けられていることを特徴とする切削工具。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の切削工具において、
前記充填材が前記工具本体よりも大きな比重を備える低融点金属であることを特徴とする切削工具。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の切削工具において、
前記凹部は、底面側の径方向もしくは周方向の幅が、開口側の前記幅よりも大となるように形成されていることを特徴とする切削工具。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の切削工具において、
前記凹部の開口部には、蓋体が取り付けられていることを特徴とする切削工具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−210036(P2007−210036A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−29346(P2006−29346)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】