切削液供給方法
【課題】切削工具による切削加工点への切削液の供給を効率的にしてその供給量を可及的に低減しつつ、切削点における必要箇所に十分な量の切削液が安定的に供給されるように、切削液供給装置乃至は供給方法を提供する。
【解決手段】切削工具1とともに移動する面板6また下面が開放された切削液充填容器で切削加工面2aを覆い、面板又は切削充填容器と切削加工面との間の微小空間に切削液7を供給して当該切削液で切削加工点を包み、この状態で切削加工を行うこと。 これによって切削液を切削工具と加工点に集中して確実に供給することが可能になり、加工点及びその近傍の外には切削液が供給されないので、切削液の供給量を著しく低減することができる。
【解決手段】切削工具1とともに移動する面板6また下面が開放された切削液充填容器で切削加工面2aを覆い、面板又は切削充填容器と切削加工面との間の微小空間に切削液7を供給して当該切削液で切削加工点を包み、この状態で切削加工を行うこと。 これによって切削液を切削工具と加工点に集中して確実に供給することが可能になり、加工点及びその近傍の外には切削液が供給されないので、切削液の供給量を著しく低減することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属等の切削加工における切削液の供給装置ないしは供給方法に関するものであり、切削液の供給量を低減しつつ切削加工点に必要な切削液を安定的に供給することができるものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、特開平7−77814号公報に記載されているように、ノズルから液体状の切削液を供給する方法がある。この方法の場合、切削液が切削工具ではじかれてしまい、切削工具の刃先表面への切削液の安定的な供給がなされない可能性がある。切削液の量を多くすることにより、切削工具の刃先表面への切削液の安定供給を確実にすることができるが、しかし、多量の切削液が必要になる。
【0003】
また、特開平3−154742号公報に記載されているように、ミスト状の切削液を供給する方法がある。この方法の場合、切削液は少量で済むが、切削刃面に十分な切削液が供給されない恐れがある。
さらに、特許第3689622号公報に記載されているように切削液に加工物を浸漬させた状態で切削加工する方法がある。この切削加工方法の場合、切削液中で切削加工を行うため、その切削刃面に切削液を十分に供給することが可能になるが、加工物を切削液に浸漬する必要があり、このために多量の切削液が必要であり、加工物が大きいほどこの傾向が著しい。また、多量の切削液を入れる容器を加工機に取り付ける必要がある。
【0004】
図1に切削工具1によって加工物2の加工面2aに溝3を切削加工している様子を模式的に示している。なお、符号4は溝加工による切り屑を示している。
溝3の加工は図で矢印で示すように、Z軸の負方向から正の方向へ切削工具1を走査することによって行われる。
図2の(a)は図1でX軸の正方向から加工の様子を見たものであり、図示の領域5aで工具の切削刃面と加工物および切り屑が接触して強く擦り合っており、領域5bで切削工具の逃げ面と加工物が接触して強く擦り合っている。図2の(b)は図1でZの正方向から加工の様子を見たものであり、図示の領域5cで切削工具の側面と加工物が接触している。
【0005】
これらの領域5a,5b,5cに切削液が常に十分供給されることが、切削抵抗を可及的に低減し、切削加工面を十分に潤滑し、冷却してその過熱や加工面の粗れを防止するために必要な条件である。そして、加工物の材料、切削工具の切り込み深さ(図1における溝3の深さがこれに相当)、切削速度にもよるが、材料がニッケルメッキ面であって、切り込み深さが1μmのとき、上記領域5aの高さは数10μm〜数100μmである。
従来の切削液の供給方法として、切削液を供給ノズルから切削具の刃先に連続的に供給する方法があるが、この方法による場合は、供給する切削液の量が少ないと、上記領域5a,5b,5cに十分な量の切削液が行き渡らずに潤滑不足を生じることがある。供給する切削液の量を増やすことによって上記の潤滑不足を解消することはできるが、そうすると多量の切削液を消耗することになる。
【0006】
また、切削液と切削工具、切削液と加工物との親和性が低い場合、切削液の量を増やしたとしても、切削工具の切削刃面(上記領域5a,5b,5cの加工物及び切り屑と擦れ合う切削工具の表面。以下同じ)への切削液の浸透性が低く、その結果、必要な潤滑領域に十分な量の切削液が行き渡らない可能性がある。
また、供給ノズルからミスト状の切削液を供給する方法の場合は、切削液の供給量を低減することができるが、切削加工点に供給される切削液の量が少ないため、必要な領域に十分な量の切削液が行き渡らない可能性がある。
【0007】
さらに、加工物を切削液中に浸漬して加工を行う方法の場合、図2の領域5a,5b,5cへ切削液を十分供給することが可能であるが、多量の切削液が必要である。そしてこれは加工物が大きいほど極めて著しい。
【特許文献1】特開平7−77814号公報
【特許文献2】特開平3−154742号公報
【特許文献3】特許第3689622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、以上の従来技術の問題を解消することを目的とするものであり、切削加工点への切削液の供給を効率的にしてその供給量を可及的に低減しつつ、切削加工点における必要箇所に十分な量の切削液が安定的に供給されるように、切削液供給装置乃至は供給方法を工夫することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の解決手段は、切削工具とともに移動する面板または下面が開放された切削液充填容器で切削加工面を覆い、面板又は切削液充填容器と切削加工面との間の微小空間に切削液を供給して当該切削液で切削加工点を包み、この状態で切削加工を行うことである。これによって切削液を切削加工点に集中して確実に供給することが可能になり、切削加工点及びその近傍の外には切削液は供給されないので、切削液の供給量を著しく低減することができる。
この解決手段を備えた切削加工装置は請求項1,請求項4に規定されているとおりであり、この切削加工装置における切削液供給方法は請求項13,請求項14に規定されているとおりであり、また、その切削液供給装置は請求項5,請求項16に記載されているとおりである。
【0010】
請求項1の切削加工装置の基本構成を図4に模式的に示している。図4における符号1は切削工具、符号2aは加工物2の加工面、符号6は切削工具の近くに配置された面板、符号7は切削液、符号8は切削液の供給ノズル、符号10は切削液7の温度を測定する温度センサ、符号11は切削工具1と面板6とを切り込み方向(Y軸方向)に相対的に移動させる昇降機構、符号20aは加工機本体20(図3参照)と切削工具7とを締結している部材である。切削加工を行うときは、切削液供給ノズル8から供給される切削液の量を制御し、切削加工面2aと面板6の微小な間隔dを制御することによって、面板6と加工面2aの間に切削液7が満たされた状態が維持される。加工面2aと面板6の間が切削液7で満たされているので、切削液が必要な領域すなわち図2の5a,5b,5cの領域に常に供給される状態が維持される。
【0011】
また、面板と加工面との間に切削液の毛管架橋が発生する間隔に、面板と加工面との間隔dを設定することにより、切削液自身の力で面板と加工面の間を切削液で満たす(当該隙間dに相当する厚さの切削液層を形成する)ことができるようになる。
なお、上記毛管架橋が形成される上記間隔dは、切削液の種類や面板の材質等によって異なるが、切削液がソリューション型切削液で面板にポリカーボネートを用いて、被削材がニッケルメッキ面である場合、上記間隔dを0.2mm以上4mm以下(上記領域5aの高さよりも大)の範囲で調節することができる。
この場合、切削液供給ノズルからの切削液供給量を少なくしても、必要な領域に十分な切削液を供給することができる(請求項2)。
【0012】
また、切削加工を行う前の段階で、切削工具と面板の少なくともいずれかに、切削液と親和性が高くなる処理を行っておくことにより、切削工具や面板で切削液が弾かれ難くなり、このため、切削工具の切削液が必要な領域にスムーズに浸透して十分にかつ安定的に供給されるようになる(請求項3)。
【0013】
さらに、上記面板と加工面間の切削液温度を測定する温度センサ10を面板に取り付けて、温度センサの測定値に応じて供給される切削液の温度と供給量を適切に制御することにより、切削加工点に供給される切削液の温度変動をできるだけ抑制することができ、したがって、切削液の温度変動による切削加工精度の低下を低減することができる(請求項4)。
【0014】
また、請求項5の切削加工装置の基本構成を図5に模式的に示している。図5における符号1は切削工具、符号2aは加工品2の加工面、符号65は切削工具を囲むように配置された切削液充填容器、符号7は切削液、符号8は切削液を容器内に供給するノズル、符号9は容器内の切削液を吸引する吸引ノズル、符号10は切削液の温度を測定する温度センサである。
【0015】
切削液充填容器65と加工面2aとの間に間隔dがあり、この間隔dは切削液充填容器65を切削工具1に対して切削工具1の切り込み方向(図のY軸方向)に相対的に移動させる昇降機構11によって調節される。上記間隔dは加工中に切削液充填容器65と加工面2aが接触しない範囲で、できるだけ小さい値となるように設定することにより外部に流出する切削液の量を減らすことができる。
【0016】
切削液充填容器内の切削液7は当該切削液を吸引する吸引ノズル9から同容器外に排出されるが、その際、加工によって発生した切削屑は切削液7とともに吸引される。供給ノズル8からの切削液供給量は、加工面2aと切削液充填容器65との間の隙間から流出する分と吸引ノズル9から吸引される量の和とが釣り合うように設定される。切削液充填容器6に供給される切削液と、吸引して排出される量および上記間隔dから流出する量とが釣り合っているため、切削液充填容器65で囲まれる領域内は常時切削液7で満たされている状態に維持されている。
【0017】
切削液充填容器65で囲まれる領域が常時切削液で満たされるため、図2に示す領域5a,5b,5c(切削液の供給が必要な領域)に常時切削液が供給される状態が維持されるので、高精度の切削加工が行なわれる。
また、切削液の使用量が少量で済み、また切削液充填容器65から切削液が吸引されることから切削液の周辺環境への飛散を最小限に抑制することができる(請求項5)。
【0018】
また、切削工具に、切削液と親和性を高める処理を予め施しておくことにより、切削液が切削工具で弾かれることがなく、切削液がより安定的に切削工具の切削刃面に供給することができる(請求項6)。
【0019】
また、切削加工精度を安定させるには切削液充填容器内の切削液温を安定させることが必要であるが、切込み深さが3μm以下、切削速度が100mm/min程度で、非回転工具による切削の場合、切削による熱の発生がほとんど無いため、切削熱による温度変動よりも、外部環境の温度変動の影響の方が大きくなる。そのため、切削液充填容器65に断熱部材を用いることにより、切削液充填容器外の温度が変動しても、容器内の温度変動を抑制することができ、これにより、周辺環境の温度変動の影響を受けにくく、安定した切削加工ができるようになる(請求項7)。
【0020】
さらに、切削液充填容器内の切削液の温度を測定する温度センサ10を当該容器に取り付け、当該温度センサの測定値に応じて、供給する切削液の温度と供給量を制御し、容器内の温度を一定に保つことにより、加工中の切削液の温度変動を抑制することができ、当該温度変動による形状誤差を抑制して高精度の切削加工を行うことができる(請求項8)。
【0021】
さらに、切削加工の条件に応じて、非回転工具、振動切削工具を請求項1および請求項5の発明における切削工具として選択的に用いることができる(請求項9、請求項10)。
【0022】
さらに、エンドミル工具、フライカット工具を請求項5の発明における切削工具として選択的に用いることができる(請求項11、請求項12)。
【発明の効果】
【0023】
この発明の主なものは請求項1の発明、請求項5の発明であるが、各請求項の発明毎にこの発明の効果を整理すれば次のとおりである。
〔請求項1の発明の効果〕
請求項1の発明は、切削加工面と面板との間の微小隙間に切削液を供給し、この間に薄い切削液層を形成し、この切削液層で切削加工点を包み、これによって切削液が切削加工点に集中して供給されるようにしたものであるから、切削液が必要な領域(殊に切削刃面)に確実に供給される状態が常に維持され、これにより、切削液の消耗量を可及的に抑制し、十分な潤滑を確保しつつ切削加工を行うことができる。
【0024】
図11に切削加工点に切削液を塗布する従来技術による場合と、請求項1の発明による場合との比較試験の結果を示している。この比較試験の結果は切削加工した加工面の表面粗さの違いを示しているものであり、その切削加工は5つの異なる加工条件A〜Eで行ったものである。この従来技術による場合(切削液を加工品の加工表面に塗布するだけの場合)は、加工条件A,B,C,D,Eの違いによって、表面粗さが0.02μmRa〜0.09μmRaと大きくばらついているが、これに対して、請求項1の発明による場合は全ての加工条件で表面粗さが0.02μmRa以下であり、かつばらつきが小さく安定している。この試験結果から、請求項1の発明による場合は、上記従来技術による場合に比して切削加工面の表面粗さが著しく小さく、そのばらつきが著しく低減されていることが明らかである。
また、供給される切削液量は加工中に加工面と面板との間を切削液で満たす程度の量であるので、切削加工面全面に切削液を塗布する従来技術に比して切削液の消耗量は大幅に少なくて済む。
【0025】
〔請求項2の発明の効果〕
請求項2の発明は、請求項1の発明についてその面板と加工面間の間隔(隙間)を、切削液の毛管架橋が形成される程度に設定したものであり、上記の薄い切削液層を上記毛管架橋によって形成するものであるから、切削液自身の力で面板と加工面の間が切削液で満たされることになり、切削液供給ノズルからの切削液の供給量を少量に抑制しながら、必要な領域に切削液を十分に供給することができる。
【0026】
〔請求項3の発明の効果〕
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2の発明について、切削工具と上記面板の少なくともいずれかに切削液との親和性を高める処理を施したものであるから、切削液が切削工具や面板で弾かれず、必要な領域にスムーズに浸透して十分に安定的に供給される。
【0027】
〔請求項4の発明の効果〕
請求項4の発明は、請求項1の発明についてその面板に切削液の温度を測定する温度センサを取り付けたものであるから、切削加工点に供給される切削液の切削加工中の温度変動を精度よく抑制することができ、したがって、切削液の温度変動による形状誤差を抑制して高精度で切削加工することができる。
【0028】
〔請求項5の発明の効果〕
請求項5の発明は、切削液充填容器で切削点を包み、当該切削液充填容器に切削液を供給して満たし、当該切削液充填容器を切削工具と共に移動させながら切削加工を行うものであるから、切削液が必要な領域に確実に供給される状態が常に維持されるので、切削液の消耗量を可及的に低減しつつ高精度の切削加工を行うことができる。
また、切削液の周辺環境への飛散を大幅に抑制することができる。
【0029】
〔請求項6の発明の効果〕
請求項6の発明は、請求項5の発明について切削工具に切削液との親和性を高める処理をしたものであるから、切削液が切削工具や切削液充填容器で弾かれずに必要な領域にスムーズに浸透してより安定的に供給される。
【0030】
〔請求項7の発明の効果〕
請求項7の発明は、請求項5の発明についてその切削液充填容器の断熱材を使用したものであるから、この切削液充填容器に包まれた空間は周辺環境の温度変動の影響を受けにくく、その分だけ安定した加工精度で切削加工がなされる。
【0031】
〔請求項8の発明の効果〕
請求項8の発明は、請求項5の発明についてその切削液充填容器に切削液の温度を測定する温度センサを取り付けたものであるから、切削加工点に供給される切削液の切削加工中の温度検出してこれを一定に制御することができ、したがって、切削液の温度変動による形状誤差を抑制して高精度で切削加工することができる。
【0032】
〔請求項9乃至請求項12の発明の効果〕
請求項9乃至請求項12の発明は、請求項1の発明または請求項5の発明についてその切削工具を非回転工具、振動切削工具、エンドミル工具、フライカット工具にしたものであるから、加工目的に好適な工具、加工法により効率よく所要精度の切削加工面を得ることができる。
【0033】
〔請求項13乃至請求項16の発明の効果〕
請求項13乃至請求項16の発明は、請求項1の発明又は請求項5の発明を切削液供給方法、切削液供給装置の観点から規定したものである。したがって、これらの発明の効果は請求項1の発明又は請求項5の発明の効果と格別の違いはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次いで図面を参照してこの発明の実施例を説明する。
図3はこの発明の切削液供給法に用いる切削加工機の1例を示したものである。図で符号20は切削加工機本体、符号21はX軸の移動ステージ、符号22はY軸方向の移動ステージ、符号23はZ軸方向の移動ステージである。図示の構成では加工品2と切削工具(図示略)を、X,Y,Zの移動ステージを制御して相対的に移動させることにより、加工品2の加工面が切削される。
【実施例1】
【0035】
図4は、請求項1および請求項4の発明の実施例の要部を模式的に示すものであり、符号1は切削工具、符号2は加工面、符号6は面板、符号7は切削液、符号8は面板6と加工面2aの間に切削液7を供給するノズル、符号10は切削液の温度を測定する温度センサ、符号11は切削工具1と面板6とを切り込み方向であるY軸方向に相対的に変位させる昇降機構、符号20aは切削加工機本体20と切削工具1とを締結している部材を示している。
切削加工を行う際には、面板6と加工面2aとの間の隙間dが高さ0.5mm〜4mmの範囲に調整され、切削工具1に十分な切削液が行き渡るように、切削液の供給ノズル8から切削液を供給して上記隙間に液層を形成する。
実施例1の面板6は一辺が30mmの正方形、厚さ1mmの平板であり、切削液7にソリューション型切削液を用いてdが2mmで送り速度100mm/minで削る場合、毎分15cc程度供給される。
【0036】
昇降機構11を動作させることにより、切削工具の切り込み方向(Y軸方向)での切削工具1と面板6の相対位置を制御することができる。切削工具1に対して、面板6を図4のY軸方向で正方向に移動させた場合、加工中の加工面2と面板6との間隔dを広くすることができる。逆に面板6をY軸方向の負方向に移動させると、加工中の加工面2aと面板6との間隔dが狭くなる。間隔dは狭い方が切削液供給ノズルから供給する切削液の量を少なくすることができるが、加工面に凹凸がある場合は面板が加工面と干渉してしまうこともあるので、加工面の状態に応じて間隔dの値を適切に設定することが必要である。
面板と加工面間の間隔dを毛管架橋が生じるまで狭くすれば、面板と加工面との間の隙間が切削液自身の力で満たされるので、切削液供給ノズルから供給する切削液を少なくすることができる。
【0037】
切削加工を行う前に切削工具と面板の両方もしくはいずれかについて切削液との親和性を高める処理を行っておくことによって、切削工具や面板で切削液が弾かれにくくなり、そのため切削液が切削加工点に安定して供給されるようになる。
なお、切削工具の表面の切削液に対する親和性が低いと、切削液が切削工具の表面で弾かれるので当該表面への浸透が阻害され、また、面板下面の切削液に対する親和性が低いと面板に弾かれるので加工面との間に安定した毛管架橋を形成することはできないが、これらの面の切削液に対する親和性を高めることによって安定した毛管架橋を形成することができ、その結果、加工中に毛管架橋が切れることが無くなるためこの切削液を必要な領域に確実に十分浸透させることができる。
【0038】
切削液との親和性を高める処理法としては、切削液の種類によって異なるが、一例として、切削液が水系の場合、面板や工具に予めイオンボンバード等の親水処理を施せばよい。
切削液の温度を温度センサ10によって測定してこれに基づいて、供給される切削液の温度や供給量を制御して切削液の温度を加工中に安定させる。
【実施例2】
【0039】
図5に請求項5の発明の実施例を示している。図5における符号65は加工面側を開放した状態で切削工具を囲む形状を有し、切削工具1と一緒に移動する切削液充填容器であり、符号7は切削液、符号8は切削液を容器内に供給する供給ノズル、符号9は容器内の切削液を容器外に吸引する吸引ノズル、符号10は切削液の温度を測定する温度センサである。切削液充填容器と加工面との間に間隔dがあり、当該間隔dは切削液充填容器65を切削工具1に対して切削工具の切り込み方向(図のY軸方向)に相対的に移動させる昇降機構11を用いて0.1mm〜5mmの範囲で調節される。間隔dを加工中に切削液充填容器65と加工品2が接触しない範囲でできるだけ小さく設定することにより外部に流出する切削液の量を減らすことができる。
実施例2では上記切削液充填容器65は縦、横、高さがそれぞれ20,20,20mmの容器であり、容器の材質はポリカーボネートで厚さは1mmである。
【0040】
切削液充填容器65内の切削液7は吸引ノズル9から同容器の外に排出されるが、その際、加工によって発生した切り屑もともに吸引されるので、同容器内を常に清浄な状態に維持することができる。切削液供給ノズル8からの切削液供給量は、加工面と切削液充填容器65との間の隙間から流出する量及び吸引ノズル9から吸引される量の和とが釣り合うように設定される。切削液充填容器65に供給される切削液7と、外部に吸引される液量および上記隙間から流出する液量の和が釣り合っているので、切削液充填容器65で囲まれた領域内は切削液7で満たされている状態にある。なお、この実施例では切削液にソリューション型切削液を用いて,送り速度100mm/min.でdを0.5mmに設定した場合,毎分20cc程度供給する。
切削液充填容器65に断熱部材を用いることにより、周辺の温度変動による切削液の温度変動を抑制することができる。
切削液充填容器内の切削液の温度測定は温度センサ10によって行われ、この測定温度に基づいて、切削液の温度が所定温度で安定するようにその温度や供給量が制御される。
【0041】
図6は切削液充填容器65と切削工具1との昇降方向の位置関係を示すものである。図6で符号65bは切削液充填容器65の底の部分を示している。符号20aは加工機本体20と切削工具1とを締結している部材を示している。切削液充填容器65は昇降機構11によって加工面への切り込み方向(Y軸方向)に、切削工具1に対して移動させられるようになっている。図6(a)は切削液充填容器65の底の部分65bよりも切削工具先端部がY軸方向で正方向(上方向)にある状態(切削工具先端が上方に引っ込められている状態)を示し、また図6(b)は切削液充填容器65の底の部分65bよりも切削工具先端部がY軸方向の負方向(下方向)にある状態(切削加工位置まで押し下げられた状態)を示している。
【0042】
図7に実際の加工動作を示している。図7(a)の状態では切削液充填容器65が加工物2の加工面2aに接触している状態で切削液が供給され、切削液が切削液充填容器65と加工面2aの間の空間に充填されている。切削液充填容器65を加工面2aに接触させる際には、図6(a)の様に、工具先端が切削液充填容器65の底の部分65bよりもY軸方向で正方向になるように予め切削液充填容器65の位置を調整しておく。図7の(a)の状態では切削工具の刃先が切削液で包まれているので、図2の領域5a,5b,5cで工具の切削刃面に切削液が安定的に十分に供給される。
【0043】
この際、切削工具に切削液と親和性が高くなる処理を施しておくことにより、切削工具の切削刃面への切削液の浸透をよくすることができる。
また、図7(a)の状態では、切削液充填容器65の底の部分65bと加工面2aは接触しているが、加工面2aが傷つきやすい等のために切削液充填容器65を接触させたくない場合は、切削液充填容器65を加工面2aに接触させないで限りなく近接させるようにする。
ただし、その際には切削液が切削液充填容器65と加工面2aの隙間から流出されるので、この流出を見込んで所要量の切削液を供給する必要がある。
【0044】
図7(a)の状態では切削液充填容器65内を切削液で満たした状態で保持されるため切削工具に十分に切削液を付着させることができる。切削工具に切削液を十分に付着させた後、切削液の供給を停止し、切削工具を上昇させる(図7(b))。切削工具を上昇させた後、同工具をZ軸方向の負方向に移動させる(図7(c))。溝加工位置まで切削液充填容器65を切削工具とともに移動(下降)させた後、切削液を供給して、当該切削液充填容器65に切削液を満たさせる(図7(d))。このとき、切削液充填容器65の底の部分65bは加工面2aから離れているとその隙間から切削液が流出してしまうので、切削液の供給量を多くして切削加工点における上記領域5a,5b,5cが切削液で包まれるようにする。その後、切削液を供給しながら切削工具をZ軸方向の正方向に移動させて所定深さの溝の切削加工を行う(図7(e))。
【0045】
以上の図7(a)の工程から図7(e)の工程を繰り返すことによって所要の切削加工がなされる。また、図7(a)の状態にする前に、図6(a)のように、切削液充填容器65の底面65bよりも工具先端がY軸方向の正方向位置になるように切削液充填容器65の位置を設定しておく。逆に図7(d),図7(e)の工程を行う際には、図6(b)のように切削工具の先端がY軸方向で切削液充填容器65の底面65bよりも負方向位置になるように切削液充填容器65の位置を設定しておく。
【0046】
図8は加工面2a’が平面ではなく曲面である場合の例を示している。図8(a)は図3でX軸の正方向から見た様子を示しており、加工物2の加工面2a’が曲面であるため、切削液充填容器65の底面65b’も加工面2a’の形状に合わせて曲面になっている。こうすることによって、加工面が曲面であっても、切削液充填容器65の底面65bが加工面に対して全面的に当接し、あるいは接近した状態で移動して切削加工が行なわれる。
図8(b)は図3でZ軸の正方向から見た様子を示している。この場合も図8(a)の場合と同様に、切削液充填容器65の底面65b’が曲面になっており、同底面65b’が加工面2a’と全面的に当接し、あるいは接近した状態で移動して切削加工がなされる。加工面2a’が図8(a)の状態、図8(b)の状態の双方で曲面となっている場合は、図8(a)、(b)に示すように切削液充填容器65の底面65b’を両方向に曲面にすれば良い。
【0047】
図9に、切削液充填容器の形状を円筒形状とした実施例を示している。図9(a)は図3においてX軸の正方向から見た様子を示すもので、この切削液充填容器68の内部構造や加工点近傍を示している。切削液充填容器68と切削工具1との間に切削液7が満たされている。また、切削液供給ノズル8から切削液充填容器68内に切削液が供給される。
切削工具1と加工点の近傍は切削液7で満たされており、これにより切削液が必要な領域に十分に供給される。昇降機構11を用いることにより、切削液充填容器68は切削工具1に対して切削工具の加工面に対する切り込み方向(Y軸方向)に移動することができる。
【0048】
図9(b)は図9(a)のx−x断面図であり、同図に示されているように、切削工具1は円筒状の切削液充填容器68で囲まれており、切削加工を行う際は、切削工具と切削液充填容器68と加工面2aとで囲まれた空間を切削液で満たした状態で切削加工を行う。なお、図9の例における切削液充填容器68は縦長の比較的小径の円筒形状であるので、供給すべき切削液量を可及的に少なくすることができ、したがって、切削液の消耗量を低減することができる。
なお、図9では切削液の吸引ノズルは示されていないが、図3の例と同様に切削液を吸引するノズルを取り付けることができる。
【0049】
本発明は、非回転工具、振動切削工具、エンドミル工具、フライカット工具による切削加工等に適用される。図10(a)の例は振動切削工具に本発明を適用したものである。この実施例における振動切削工具51は図10のY軸方向およびZ軸方向に振動する。図10(a)の例では請求項4の方法を適用しているが、工具が非回転工具や振動切削工具の場合は、請求項1の発明を適用することもできる。振動切削工具を用いる場合は、加工発熱が非回転工具を用いる場合よりも著しいので、請求項8の発明を適用して、切削液の温度上昇を防ぐようにするのが有効である。
【0050】
図10(b)はエンドミル工具による切削加工に本発明を適用した例であり、同図で符号61がエンドミル工具を示している。上記エンドミル工具61はY軸に平行な回転軸を中心にして回転する。これはスクエアエンドミルを用いた例であるが、ボールエンドミルなど他の形態のエンドミルにも適用できる。図10の実施例では図5に示す切削液充填容器65を用いているが、エンドミル加工の場合は、図9に示す切削液充填容器を用いると、図5の切削容器充填容器を用いる場合に比してさらに少ない切削液の供給量で切削加工を行うことができる。
【0051】
図10(c)はX軸に平行な回転軸周りに回転するフライカット工具による切削加工に本発明を適用したものである。フライカット工具を用いる場合、従来の方法では工具の回転によって、切削液が周辺に飛散される問題が発生するが、本発明では、切削液充填容器65によって切削液の飛散が防止される。フライカット工具を用いる場合、工具の回転によって切削液がより強く攪拌されることから、非回転工具を用いる場合に比べ、切削液の温度上昇が著しくなる可能性がある。この温度上昇に対応するため、一定温度の切削液の切削液充填容器内への供給量を(単位時間あたりの入出量)を多くして、短時間で切削液充填容器内の切削液が入れ替わるようにすることが望ましい。
【0052】
〔比較試験〕
加工面に切削液を塗布して加工点に切削液を供給する従来技術と請求項1の発明の具体例との比較試験を次の要領で実施した。
従来技術についての試験の実施要領:工具に単結晶ダイヤモンドを用いて、図1に示すように、工具を回転させずに工具をZ方向に走査し、溝幅300μmの溝の切削加工を行う。また、切込み深さは1μmに、工具送り速度は200mm/min.とする。切削液の供給は、加工前に切削液を加工面に塗布することによって行った。
請求項1の発明の具体例についての試験の実施要領:工具と切削の方法は従来の方法と同じ形態で、図4に示す形態で切削液の供給を行った。この際、dの間隔は2mmに設定した。
この比較試験における試験条件A,B,C,D,Eは次のとおりである。
試験条件A:工具すくい角度−6度、 ソリューション型切削液
試験条件B:工具すくい角度−3度、 ソリューション型切削液
試験条件C:工具すくい角度−6度、 エマルジョン型切削液
試験条件D:工具すくい角度0度、 ソリューション型切削液
試験条件E:工具すくい角度0度、 エマルジョン型切削液
試験結果は図11に示すとおりであり、請求項1の発明の具体例は、いずれの試験条件についても表面粗さがほぼ0.02μmRaで微小であり、かつそのバラツキが小さく安定していることが、上記結果から読み取れる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】は請求項1の発明の要点を示す斜視図である。
【図2】(a)は切削加工における切削液の供給が必要な領域を模式的に示す側面図、(b)は同正面図である。
【図3】は、本発明を適用する切削加工機の一例の全体斜視図である。
【図4】は、実施例1の断面図である。
【図5】は、実施例2の断面図である。
【図6】は、実施例2の切削液充填容器65と切削工具との関係を示すものであって、図(a)は切削工具が切削液充填容器に対して上昇した状態を示し、図(b)は切削工具が切削液充填容器に対して下降した状態を示している。
【図7】は実施例2の動作の説明用の断面図である。
【図8】は加工面が曲面である場合の切削液充填容器の形状と加工面との関係を示す側面図である。
【図9】(a)は、実施例2の変形例の断面図であり、(b)は図(a)におけるx−x断面図である。
【図10】(a)(b)(c)は実施例2において切削工具を変更した例であり、図(a)は振動切削工具を使用した例、図(b)はエンドミル工具を使用した例、図(c)はフライカット工具を使用した例である。
【図11】は従来例と請求項1の発明との比較試験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1:切削工具
2:加工品
2a,2a’:切削加工面
3: 溝
4:切り屑
5a,5b,5c:切削液が常に十分に供給される必要のある領域
6:面板
7:切削液
8:供給ノズル
9:吸引ノズル
10:温度センサ
11:昇降機構
20:切削加工機
65,68:切削液充填容器
65b,65b’:切削液充填容器の底面
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属等の切削加工における切削液の供給装置ないしは供給方法に関するものであり、切削液の供給量を低減しつつ切削加工点に必要な切削液を安定的に供給することができるものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、特開平7−77814号公報に記載されているように、ノズルから液体状の切削液を供給する方法がある。この方法の場合、切削液が切削工具ではじかれてしまい、切削工具の刃先表面への切削液の安定的な供給がなされない可能性がある。切削液の量を多くすることにより、切削工具の刃先表面への切削液の安定供給を確実にすることができるが、しかし、多量の切削液が必要になる。
【0003】
また、特開平3−154742号公報に記載されているように、ミスト状の切削液を供給する方法がある。この方法の場合、切削液は少量で済むが、切削刃面に十分な切削液が供給されない恐れがある。
さらに、特許第3689622号公報に記載されているように切削液に加工物を浸漬させた状態で切削加工する方法がある。この切削加工方法の場合、切削液中で切削加工を行うため、その切削刃面に切削液を十分に供給することが可能になるが、加工物を切削液に浸漬する必要があり、このために多量の切削液が必要であり、加工物が大きいほどこの傾向が著しい。また、多量の切削液を入れる容器を加工機に取り付ける必要がある。
【0004】
図1に切削工具1によって加工物2の加工面2aに溝3を切削加工している様子を模式的に示している。なお、符号4は溝加工による切り屑を示している。
溝3の加工は図で矢印で示すように、Z軸の負方向から正の方向へ切削工具1を走査することによって行われる。
図2の(a)は図1でX軸の正方向から加工の様子を見たものであり、図示の領域5aで工具の切削刃面と加工物および切り屑が接触して強く擦り合っており、領域5bで切削工具の逃げ面と加工物が接触して強く擦り合っている。図2の(b)は図1でZの正方向から加工の様子を見たものであり、図示の領域5cで切削工具の側面と加工物が接触している。
【0005】
これらの領域5a,5b,5cに切削液が常に十分供給されることが、切削抵抗を可及的に低減し、切削加工面を十分に潤滑し、冷却してその過熱や加工面の粗れを防止するために必要な条件である。そして、加工物の材料、切削工具の切り込み深さ(図1における溝3の深さがこれに相当)、切削速度にもよるが、材料がニッケルメッキ面であって、切り込み深さが1μmのとき、上記領域5aの高さは数10μm〜数100μmである。
従来の切削液の供給方法として、切削液を供給ノズルから切削具の刃先に連続的に供給する方法があるが、この方法による場合は、供給する切削液の量が少ないと、上記領域5a,5b,5cに十分な量の切削液が行き渡らずに潤滑不足を生じることがある。供給する切削液の量を増やすことによって上記の潤滑不足を解消することはできるが、そうすると多量の切削液を消耗することになる。
【0006】
また、切削液と切削工具、切削液と加工物との親和性が低い場合、切削液の量を増やしたとしても、切削工具の切削刃面(上記領域5a,5b,5cの加工物及び切り屑と擦れ合う切削工具の表面。以下同じ)への切削液の浸透性が低く、その結果、必要な潤滑領域に十分な量の切削液が行き渡らない可能性がある。
また、供給ノズルからミスト状の切削液を供給する方法の場合は、切削液の供給量を低減することができるが、切削加工点に供給される切削液の量が少ないため、必要な領域に十分な量の切削液が行き渡らない可能性がある。
【0007】
さらに、加工物を切削液中に浸漬して加工を行う方法の場合、図2の領域5a,5b,5cへ切削液を十分供給することが可能であるが、多量の切削液が必要である。そしてこれは加工物が大きいほど極めて著しい。
【特許文献1】特開平7−77814号公報
【特許文献2】特開平3−154742号公報
【特許文献3】特許第3689622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、以上の従来技術の問題を解消することを目的とするものであり、切削加工点への切削液の供給を効率的にしてその供給量を可及的に低減しつつ、切削加工点における必要箇所に十分な量の切削液が安定的に供給されるように、切削液供給装置乃至は供給方法を工夫することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の解決手段は、切削工具とともに移動する面板または下面が開放された切削液充填容器で切削加工面を覆い、面板又は切削液充填容器と切削加工面との間の微小空間に切削液を供給して当該切削液で切削加工点を包み、この状態で切削加工を行うことである。これによって切削液を切削加工点に集中して確実に供給することが可能になり、切削加工点及びその近傍の外には切削液は供給されないので、切削液の供給量を著しく低減することができる。
この解決手段を備えた切削加工装置は請求項1,請求項4に規定されているとおりであり、この切削加工装置における切削液供給方法は請求項13,請求項14に規定されているとおりであり、また、その切削液供給装置は請求項5,請求項16に記載されているとおりである。
【0010】
請求項1の切削加工装置の基本構成を図4に模式的に示している。図4における符号1は切削工具、符号2aは加工物2の加工面、符号6は切削工具の近くに配置された面板、符号7は切削液、符号8は切削液の供給ノズル、符号10は切削液7の温度を測定する温度センサ、符号11は切削工具1と面板6とを切り込み方向(Y軸方向)に相対的に移動させる昇降機構、符号20aは加工機本体20(図3参照)と切削工具7とを締結している部材である。切削加工を行うときは、切削液供給ノズル8から供給される切削液の量を制御し、切削加工面2aと面板6の微小な間隔dを制御することによって、面板6と加工面2aの間に切削液7が満たされた状態が維持される。加工面2aと面板6の間が切削液7で満たされているので、切削液が必要な領域すなわち図2の5a,5b,5cの領域に常に供給される状態が維持される。
【0011】
また、面板と加工面との間に切削液の毛管架橋が発生する間隔に、面板と加工面との間隔dを設定することにより、切削液自身の力で面板と加工面の間を切削液で満たす(当該隙間dに相当する厚さの切削液層を形成する)ことができるようになる。
なお、上記毛管架橋が形成される上記間隔dは、切削液の種類や面板の材質等によって異なるが、切削液がソリューション型切削液で面板にポリカーボネートを用いて、被削材がニッケルメッキ面である場合、上記間隔dを0.2mm以上4mm以下(上記領域5aの高さよりも大)の範囲で調節することができる。
この場合、切削液供給ノズルからの切削液供給量を少なくしても、必要な領域に十分な切削液を供給することができる(請求項2)。
【0012】
また、切削加工を行う前の段階で、切削工具と面板の少なくともいずれかに、切削液と親和性が高くなる処理を行っておくことにより、切削工具や面板で切削液が弾かれ難くなり、このため、切削工具の切削液が必要な領域にスムーズに浸透して十分にかつ安定的に供給されるようになる(請求項3)。
【0013】
さらに、上記面板と加工面間の切削液温度を測定する温度センサ10を面板に取り付けて、温度センサの測定値に応じて供給される切削液の温度と供給量を適切に制御することにより、切削加工点に供給される切削液の温度変動をできるだけ抑制することができ、したがって、切削液の温度変動による切削加工精度の低下を低減することができる(請求項4)。
【0014】
また、請求項5の切削加工装置の基本構成を図5に模式的に示している。図5における符号1は切削工具、符号2aは加工品2の加工面、符号65は切削工具を囲むように配置された切削液充填容器、符号7は切削液、符号8は切削液を容器内に供給するノズル、符号9は容器内の切削液を吸引する吸引ノズル、符号10は切削液の温度を測定する温度センサである。
【0015】
切削液充填容器65と加工面2aとの間に間隔dがあり、この間隔dは切削液充填容器65を切削工具1に対して切削工具1の切り込み方向(図のY軸方向)に相対的に移動させる昇降機構11によって調節される。上記間隔dは加工中に切削液充填容器65と加工面2aが接触しない範囲で、できるだけ小さい値となるように設定することにより外部に流出する切削液の量を減らすことができる。
【0016】
切削液充填容器内の切削液7は当該切削液を吸引する吸引ノズル9から同容器外に排出されるが、その際、加工によって発生した切削屑は切削液7とともに吸引される。供給ノズル8からの切削液供給量は、加工面2aと切削液充填容器65との間の隙間から流出する分と吸引ノズル9から吸引される量の和とが釣り合うように設定される。切削液充填容器6に供給される切削液と、吸引して排出される量および上記間隔dから流出する量とが釣り合っているため、切削液充填容器65で囲まれる領域内は常時切削液7で満たされている状態に維持されている。
【0017】
切削液充填容器65で囲まれる領域が常時切削液で満たされるため、図2に示す領域5a,5b,5c(切削液の供給が必要な領域)に常時切削液が供給される状態が維持されるので、高精度の切削加工が行なわれる。
また、切削液の使用量が少量で済み、また切削液充填容器65から切削液が吸引されることから切削液の周辺環境への飛散を最小限に抑制することができる(請求項5)。
【0018】
また、切削工具に、切削液と親和性を高める処理を予め施しておくことにより、切削液が切削工具で弾かれることがなく、切削液がより安定的に切削工具の切削刃面に供給することができる(請求項6)。
【0019】
また、切削加工精度を安定させるには切削液充填容器内の切削液温を安定させることが必要であるが、切込み深さが3μm以下、切削速度が100mm/min程度で、非回転工具による切削の場合、切削による熱の発生がほとんど無いため、切削熱による温度変動よりも、外部環境の温度変動の影響の方が大きくなる。そのため、切削液充填容器65に断熱部材を用いることにより、切削液充填容器外の温度が変動しても、容器内の温度変動を抑制することができ、これにより、周辺環境の温度変動の影響を受けにくく、安定した切削加工ができるようになる(請求項7)。
【0020】
さらに、切削液充填容器内の切削液の温度を測定する温度センサ10を当該容器に取り付け、当該温度センサの測定値に応じて、供給する切削液の温度と供給量を制御し、容器内の温度を一定に保つことにより、加工中の切削液の温度変動を抑制することができ、当該温度変動による形状誤差を抑制して高精度の切削加工を行うことができる(請求項8)。
【0021】
さらに、切削加工の条件に応じて、非回転工具、振動切削工具を請求項1および請求項5の発明における切削工具として選択的に用いることができる(請求項9、請求項10)。
【0022】
さらに、エンドミル工具、フライカット工具を請求項5の発明における切削工具として選択的に用いることができる(請求項11、請求項12)。
【発明の効果】
【0023】
この発明の主なものは請求項1の発明、請求項5の発明であるが、各請求項の発明毎にこの発明の効果を整理すれば次のとおりである。
〔請求項1の発明の効果〕
請求項1の発明は、切削加工面と面板との間の微小隙間に切削液を供給し、この間に薄い切削液層を形成し、この切削液層で切削加工点を包み、これによって切削液が切削加工点に集中して供給されるようにしたものであるから、切削液が必要な領域(殊に切削刃面)に確実に供給される状態が常に維持され、これにより、切削液の消耗量を可及的に抑制し、十分な潤滑を確保しつつ切削加工を行うことができる。
【0024】
図11に切削加工点に切削液を塗布する従来技術による場合と、請求項1の発明による場合との比較試験の結果を示している。この比較試験の結果は切削加工した加工面の表面粗さの違いを示しているものであり、その切削加工は5つの異なる加工条件A〜Eで行ったものである。この従来技術による場合(切削液を加工品の加工表面に塗布するだけの場合)は、加工条件A,B,C,D,Eの違いによって、表面粗さが0.02μmRa〜0.09μmRaと大きくばらついているが、これに対して、請求項1の発明による場合は全ての加工条件で表面粗さが0.02μmRa以下であり、かつばらつきが小さく安定している。この試験結果から、請求項1の発明による場合は、上記従来技術による場合に比して切削加工面の表面粗さが著しく小さく、そのばらつきが著しく低減されていることが明らかである。
また、供給される切削液量は加工中に加工面と面板との間を切削液で満たす程度の量であるので、切削加工面全面に切削液を塗布する従来技術に比して切削液の消耗量は大幅に少なくて済む。
【0025】
〔請求項2の発明の効果〕
請求項2の発明は、請求項1の発明についてその面板と加工面間の間隔(隙間)を、切削液の毛管架橋が形成される程度に設定したものであり、上記の薄い切削液層を上記毛管架橋によって形成するものであるから、切削液自身の力で面板と加工面の間が切削液で満たされることになり、切削液供給ノズルからの切削液の供給量を少量に抑制しながら、必要な領域に切削液を十分に供給することができる。
【0026】
〔請求項3の発明の効果〕
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2の発明について、切削工具と上記面板の少なくともいずれかに切削液との親和性を高める処理を施したものであるから、切削液が切削工具や面板で弾かれず、必要な領域にスムーズに浸透して十分に安定的に供給される。
【0027】
〔請求項4の発明の効果〕
請求項4の発明は、請求項1の発明についてその面板に切削液の温度を測定する温度センサを取り付けたものであるから、切削加工点に供給される切削液の切削加工中の温度変動を精度よく抑制することができ、したがって、切削液の温度変動による形状誤差を抑制して高精度で切削加工することができる。
【0028】
〔請求項5の発明の効果〕
請求項5の発明は、切削液充填容器で切削点を包み、当該切削液充填容器に切削液を供給して満たし、当該切削液充填容器を切削工具と共に移動させながら切削加工を行うものであるから、切削液が必要な領域に確実に供給される状態が常に維持されるので、切削液の消耗量を可及的に低減しつつ高精度の切削加工を行うことができる。
また、切削液の周辺環境への飛散を大幅に抑制することができる。
【0029】
〔請求項6の発明の効果〕
請求項6の発明は、請求項5の発明について切削工具に切削液との親和性を高める処理をしたものであるから、切削液が切削工具や切削液充填容器で弾かれずに必要な領域にスムーズに浸透してより安定的に供給される。
【0030】
〔請求項7の発明の効果〕
請求項7の発明は、請求項5の発明についてその切削液充填容器の断熱材を使用したものであるから、この切削液充填容器に包まれた空間は周辺環境の温度変動の影響を受けにくく、その分だけ安定した加工精度で切削加工がなされる。
【0031】
〔請求項8の発明の効果〕
請求項8の発明は、請求項5の発明についてその切削液充填容器に切削液の温度を測定する温度センサを取り付けたものであるから、切削加工点に供給される切削液の切削加工中の温度検出してこれを一定に制御することができ、したがって、切削液の温度変動による形状誤差を抑制して高精度で切削加工することができる。
【0032】
〔請求項9乃至請求項12の発明の効果〕
請求項9乃至請求項12の発明は、請求項1の発明または請求項5の発明についてその切削工具を非回転工具、振動切削工具、エンドミル工具、フライカット工具にしたものであるから、加工目的に好適な工具、加工法により効率よく所要精度の切削加工面を得ることができる。
【0033】
〔請求項13乃至請求項16の発明の効果〕
請求項13乃至請求項16の発明は、請求項1の発明又は請求項5の発明を切削液供給方法、切削液供給装置の観点から規定したものである。したがって、これらの発明の効果は請求項1の発明又は請求項5の発明の効果と格別の違いはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次いで図面を参照してこの発明の実施例を説明する。
図3はこの発明の切削液供給法に用いる切削加工機の1例を示したものである。図で符号20は切削加工機本体、符号21はX軸の移動ステージ、符号22はY軸方向の移動ステージ、符号23はZ軸方向の移動ステージである。図示の構成では加工品2と切削工具(図示略)を、X,Y,Zの移動ステージを制御して相対的に移動させることにより、加工品2の加工面が切削される。
【実施例1】
【0035】
図4は、請求項1および請求項4の発明の実施例の要部を模式的に示すものであり、符号1は切削工具、符号2は加工面、符号6は面板、符号7は切削液、符号8は面板6と加工面2aの間に切削液7を供給するノズル、符号10は切削液の温度を測定する温度センサ、符号11は切削工具1と面板6とを切り込み方向であるY軸方向に相対的に変位させる昇降機構、符号20aは切削加工機本体20と切削工具1とを締結している部材を示している。
切削加工を行う際には、面板6と加工面2aとの間の隙間dが高さ0.5mm〜4mmの範囲に調整され、切削工具1に十分な切削液が行き渡るように、切削液の供給ノズル8から切削液を供給して上記隙間に液層を形成する。
実施例1の面板6は一辺が30mmの正方形、厚さ1mmの平板であり、切削液7にソリューション型切削液を用いてdが2mmで送り速度100mm/minで削る場合、毎分15cc程度供給される。
【0036】
昇降機構11を動作させることにより、切削工具の切り込み方向(Y軸方向)での切削工具1と面板6の相対位置を制御することができる。切削工具1に対して、面板6を図4のY軸方向で正方向に移動させた場合、加工中の加工面2と面板6との間隔dを広くすることができる。逆に面板6をY軸方向の負方向に移動させると、加工中の加工面2aと面板6との間隔dが狭くなる。間隔dは狭い方が切削液供給ノズルから供給する切削液の量を少なくすることができるが、加工面に凹凸がある場合は面板が加工面と干渉してしまうこともあるので、加工面の状態に応じて間隔dの値を適切に設定することが必要である。
面板と加工面間の間隔dを毛管架橋が生じるまで狭くすれば、面板と加工面との間の隙間が切削液自身の力で満たされるので、切削液供給ノズルから供給する切削液を少なくすることができる。
【0037】
切削加工を行う前に切削工具と面板の両方もしくはいずれかについて切削液との親和性を高める処理を行っておくことによって、切削工具や面板で切削液が弾かれにくくなり、そのため切削液が切削加工点に安定して供給されるようになる。
なお、切削工具の表面の切削液に対する親和性が低いと、切削液が切削工具の表面で弾かれるので当該表面への浸透が阻害され、また、面板下面の切削液に対する親和性が低いと面板に弾かれるので加工面との間に安定した毛管架橋を形成することはできないが、これらの面の切削液に対する親和性を高めることによって安定した毛管架橋を形成することができ、その結果、加工中に毛管架橋が切れることが無くなるためこの切削液を必要な領域に確実に十分浸透させることができる。
【0038】
切削液との親和性を高める処理法としては、切削液の種類によって異なるが、一例として、切削液が水系の場合、面板や工具に予めイオンボンバード等の親水処理を施せばよい。
切削液の温度を温度センサ10によって測定してこれに基づいて、供給される切削液の温度や供給量を制御して切削液の温度を加工中に安定させる。
【実施例2】
【0039】
図5に請求項5の発明の実施例を示している。図5における符号65は加工面側を開放した状態で切削工具を囲む形状を有し、切削工具1と一緒に移動する切削液充填容器であり、符号7は切削液、符号8は切削液を容器内に供給する供給ノズル、符号9は容器内の切削液を容器外に吸引する吸引ノズル、符号10は切削液の温度を測定する温度センサである。切削液充填容器と加工面との間に間隔dがあり、当該間隔dは切削液充填容器65を切削工具1に対して切削工具の切り込み方向(図のY軸方向)に相対的に移動させる昇降機構11を用いて0.1mm〜5mmの範囲で調節される。間隔dを加工中に切削液充填容器65と加工品2が接触しない範囲でできるだけ小さく設定することにより外部に流出する切削液の量を減らすことができる。
実施例2では上記切削液充填容器65は縦、横、高さがそれぞれ20,20,20mmの容器であり、容器の材質はポリカーボネートで厚さは1mmである。
【0040】
切削液充填容器65内の切削液7は吸引ノズル9から同容器の外に排出されるが、その際、加工によって発生した切り屑もともに吸引されるので、同容器内を常に清浄な状態に維持することができる。切削液供給ノズル8からの切削液供給量は、加工面と切削液充填容器65との間の隙間から流出する量及び吸引ノズル9から吸引される量の和とが釣り合うように設定される。切削液充填容器65に供給される切削液7と、外部に吸引される液量および上記隙間から流出する液量の和が釣り合っているので、切削液充填容器65で囲まれた領域内は切削液7で満たされている状態にある。なお、この実施例では切削液にソリューション型切削液を用いて,送り速度100mm/min.でdを0.5mmに設定した場合,毎分20cc程度供給する。
切削液充填容器65に断熱部材を用いることにより、周辺の温度変動による切削液の温度変動を抑制することができる。
切削液充填容器内の切削液の温度測定は温度センサ10によって行われ、この測定温度に基づいて、切削液の温度が所定温度で安定するようにその温度や供給量が制御される。
【0041】
図6は切削液充填容器65と切削工具1との昇降方向の位置関係を示すものである。図6で符号65bは切削液充填容器65の底の部分を示している。符号20aは加工機本体20と切削工具1とを締結している部材を示している。切削液充填容器65は昇降機構11によって加工面への切り込み方向(Y軸方向)に、切削工具1に対して移動させられるようになっている。図6(a)は切削液充填容器65の底の部分65bよりも切削工具先端部がY軸方向で正方向(上方向)にある状態(切削工具先端が上方に引っ込められている状態)を示し、また図6(b)は切削液充填容器65の底の部分65bよりも切削工具先端部がY軸方向の負方向(下方向)にある状態(切削加工位置まで押し下げられた状態)を示している。
【0042】
図7に実際の加工動作を示している。図7(a)の状態では切削液充填容器65が加工物2の加工面2aに接触している状態で切削液が供給され、切削液が切削液充填容器65と加工面2aの間の空間に充填されている。切削液充填容器65を加工面2aに接触させる際には、図6(a)の様に、工具先端が切削液充填容器65の底の部分65bよりもY軸方向で正方向になるように予め切削液充填容器65の位置を調整しておく。図7の(a)の状態では切削工具の刃先が切削液で包まれているので、図2の領域5a,5b,5cで工具の切削刃面に切削液が安定的に十分に供給される。
【0043】
この際、切削工具に切削液と親和性が高くなる処理を施しておくことにより、切削工具の切削刃面への切削液の浸透をよくすることができる。
また、図7(a)の状態では、切削液充填容器65の底の部分65bと加工面2aは接触しているが、加工面2aが傷つきやすい等のために切削液充填容器65を接触させたくない場合は、切削液充填容器65を加工面2aに接触させないで限りなく近接させるようにする。
ただし、その際には切削液が切削液充填容器65と加工面2aの隙間から流出されるので、この流出を見込んで所要量の切削液を供給する必要がある。
【0044】
図7(a)の状態では切削液充填容器65内を切削液で満たした状態で保持されるため切削工具に十分に切削液を付着させることができる。切削工具に切削液を十分に付着させた後、切削液の供給を停止し、切削工具を上昇させる(図7(b))。切削工具を上昇させた後、同工具をZ軸方向の負方向に移動させる(図7(c))。溝加工位置まで切削液充填容器65を切削工具とともに移動(下降)させた後、切削液を供給して、当該切削液充填容器65に切削液を満たさせる(図7(d))。このとき、切削液充填容器65の底の部分65bは加工面2aから離れているとその隙間から切削液が流出してしまうので、切削液の供給量を多くして切削加工点における上記領域5a,5b,5cが切削液で包まれるようにする。その後、切削液を供給しながら切削工具をZ軸方向の正方向に移動させて所定深さの溝の切削加工を行う(図7(e))。
【0045】
以上の図7(a)の工程から図7(e)の工程を繰り返すことによって所要の切削加工がなされる。また、図7(a)の状態にする前に、図6(a)のように、切削液充填容器65の底面65bよりも工具先端がY軸方向の正方向位置になるように切削液充填容器65の位置を設定しておく。逆に図7(d),図7(e)の工程を行う際には、図6(b)のように切削工具の先端がY軸方向で切削液充填容器65の底面65bよりも負方向位置になるように切削液充填容器65の位置を設定しておく。
【0046】
図8は加工面2a’が平面ではなく曲面である場合の例を示している。図8(a)は図3でX軸の正方向から見た様子を示しており、加工物2の加工面2a’が曲面であるため、切削液充填容器65の底面65b’も加工面2a’の形状に合わせて曲面になっている。こうすることによって、加工面が曲面であっても、切削液充填容器65の底面65bが加工面に対して全面的に当接し、あるいは接近した状態で移動して切削加工が行なわれる。
図8(b)は図3でZ軸の正方向から見た様子を示している。この場合も図8(a)の場合と同様に、切削液充填容器65の底面65b’が曲面になっており、同底面65b’が加工面2a’と全面的に当接し、あるいは接近した状態で移動して切削加工がなされる。加工面2a’が図8(a)の状態、図8(b)の状態の双方で曲面となっている場合は、図8(a)、(b)に示すように切削液充填容器65の底面65b’を両方向に曲面にすれば良い。
【0047】
図9に、切削液充填容器の形状を円筒形状とした実施例を示している。図9(a)は図3においてX軸の正方向から見た様子を示すもので、この切削液充填容器68の内部構造や加工点近傍を示している。切削液充填容器68と切削工具1との間に切削液7が満たされている。また、切削液供給ノズル8から切削液充填容器68内に切削液が供給される。
切削工具1と加工点の近傍は切削液7で満たされており、これにより切削液が必要な領域に十分に供給される。昇降機構11を用いることにより、切削液充填容器68は切削工具1に対して切削工具の加工面に対する切り込み方向(Y軸方向)に移動することができる。
【0048】
図9(b)は図9(a)のx−x断面図であり、同図に示されているように、切削工具1は円筒状の切削液充填容器68で囲まれており、切削加工を行う際は、切削工具と切削液充填容器68と加工面2aとで囲まれた空間を切削液で満たした状態で切削加工を行う。なお、図9の例における切削液充填容器68は縦長の比較的小径の円筒形状であるので、供給すべき切削液量を可及的に少なくすることができ、したがって、切削液の消耗量を低減することができる。
なお、図9では切削液の吸引ノズルは示されていないが、図3の例と同様に切削液を吸引するノズルを取り付けることができる。
【0049】
本発明は、非回転工具、振動切削工具、エンドミル工具、フライカット工具による切削加工等に適用される。図10(a)の例は振動切削工具に本発明を適用したものである。この実施例における振動切削工具51は図10のY軸方向およびZ軸方向に振動する。図10(a)の例では請求項4の方法を適用しているが、工具が非回転工具や振動切削工具の場合は、請求項1の発明を適用することもできる。振動切削工具を用いる場合は、加工発熱が非回転工具を用いる場合よりも著しいので、請求項8の発明を適用して、切削液の温度上昇を防ぐようにするのが有効である。
【0050】
図10(b)はエンドミル工具による切削加工に本発明を適用した例であり、同図で符号61がエンドミル工具を示している。上記エンドミル工具61はY軸に平行な回転軸を中心にして回転する。これはスクエアエンドミルを用いた例であるが、ボールエンドミルなど他の形態のエンドミルにも適用できる。図10の実施例では図5に示す切削液充填容器65を用いているが、エンドミル加工の場合は、図9に示す切削液充填容器を用いると、図5の切削容器充填容器を用いる場合に比してさらに少ない切削液の供給量で切削加工を行うことができる。
【0051】
図10(c)はX軸に平行な回転軸周りに回転するフライカット工具による切削加工に本発明を適用したものである。フライカット工具を用いる場合、従来の方法では工具の回転によって、切削液が周辺に飛散される問題が発生するが、本発明では、切削液充填容器65によって切削液の飛散が防止される。フライカット工具を用いる場合、工具の回転によって切削液がより強く攪拌されることから、非回転工具を用いる場合に比べ、切削液の温度上昇が著しくなる可能性がある。この温度上昇に対応するため、一定温度の切削液の切削液充填容器内への供給量を(単位時間あたりの入出量)を多くして、短時間で切削液充填容器内の切削液が入れ替わるようにすることが望ましい。
【0052】
〔比較試験〕
加工面に切削液を塗布して加工点に切削液を供給する従来技術と請求項1の発明の具体例との比較試験を次の要領で実施した。
従来技術についての試験の実施要領:工具に単結晶ダイヤモンドを用いて、図1に示すように、工具を回転させずに工具をZ方向に走査し、溝幅300μmの溝の切削加工を行う。また、切込み深さは1μmに、工具送り速度は200mm/min.とする。切削液の供給は、加工前に切削液を加工面に塗布することによって行った。
請求項1の発明の具体例についての試験の実施要領:工具と切削の方法は従来の方法と同じ形態で、図4に示す形態で切削液の供給を行った。この際、dの間隔は2mmに設定した。
この比較試験における試験条件A,B,C,D,Eは次のとおりである。
試験条件A:工具すくい角度−6度、 ソリューション型切削液
試験条件B:工具すくい角度−3度、 ソリューション型切削液
試験条件C:工具すくい角度−6度、 エマルジョン型切削液
試験条件D:工具すくい角度0度、 ソリューション型切削液
試験条件E:工具すくい角度0度、 エマルジョン型切削液
試験結果は図11に示すとおりであり、請求項1の発明の具体例は、いずれの試験条件についても表面粗さがほぼ0.02μmRaで微小であり、かつそのバラツキが小さく安定していることが、上記結果から読み取れる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】は請求項1の発明の要点を示す斜視図である。
【図2】(a)は切削加工における切削液の供給が必要な領域を模式的に示す側面図、(b)は同正面図である。
【図3】は、本発明を適用する切削加工機の一例の全体斜視図である。
【図4】は、実施例1の断面図である。
【図5】は、実施例2の断面図である。
【図6】は、実施例2の切削液充填容器65と切削工具との関係を示すものであって、図(a)は切削工具が切削液充填容器に対して上昇した状態を示し、図(b)は切削工具が切削液充填容器に対して下降した状態を示している。
【図7】は実施例2の動作の説明用の断面図である。
【図8】は加工面が曲面である場合の切削液充填容器の形状と加工面との関係を示す側面図である。
【図9】(a)は、実施例2の変形例の断面図であり、(b)は図(a)におけるx−x断面図である。
【図10】(a)(b)(c)は実施例2において切削工具を変更した例であり、図(a)は振動切削工具を使用した例、図(b)はエンドミル工具を使用した例、図(c)はフライカット工具を使用した例である。
【図11】は従来例と請求項1の発明との比較試験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1:切削工具
2:加工品
2a,2a’:切削加工面
3: 溝
4:切り屑
5a,5b,5c:切削液が常に十分に供給される必要のある領域
6:面板
7:切削液
8:供給ノズル
9:吸引ノズル
10:温度センサ
11:昇降機構
20:切削加工機
65,68:切削液充填容器
65b,65b’:切削液充填容器の底面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具による加工点を覆うように切削加工面に近接して配置されていて切削工具と一緒に移動する面板を有し、当該面板に切削加工面と面板との間の隙間に切削液を供給する供給ノズルが取り付けられており、前記面板を切削工具に対して切削工具の切削加工面に対する切り込み方向に移動させる昇降機構を有しており、上記供給ノズルから上記隙間に切削液を供給しつつ切削加工を行うことを特徴とする切削加工装置。
【請求項2】
請求項1の切削加工装置において、上記面板と加工面との間の間隔が上記切削液の表面張力による毛管架橋が発生する間隔に設定されていることを特徴とする切削加工装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2の切削加工装置において、上記切削工具と面板の両方もしくはいずれかが上記切削液との親和性を高める処理がなされていることを特徴とする切削加工装置。
【請求項4】
請求項1の切削加工装置において、面板に取り付けられた切削液の温度を測定する温度センサの測定値に基づいて、上記供給ノズルから供給される切削液の温度と供給量を制御することを特徴とする切削加工装置。
【請求項5】
加工面側が開放されていて切削工具を囲む形状であって、切削工具と一緒に移動する切削液充填容器を有しており、当該切削液充填容器には当該容器内に切削液を供給する供給ノズルと、容器内の切削液を容器外に吸引する吸引ノズルが取り付けられており、さらに前記容器を切削工具に対して切削工具の切削加工面への切り込み方向に移動させる昇降機構を有しており、上記供給ノズルから上記切削液充填容器に切削液を供給しつつ切削加工を行うことを特徴とする切削加工装置。
【請求項6】
請求項5の切削加工装置において、加工を行う前に切削工具に対して切削液と親和性を高める処理がなされていることを特徴とする切削加工装置。
【請求項7】
請求項5の切削加工装置において、切削液充填容器に断熱部材を用いていることを特徴とする切削加工装置。
【請求項8】
請求項5の切削加工装置において、切削液充填容器への切削液の温度を測定する温度センサが取り付けられており、かつ、上記供給ノズルから供給される切削液の温度と供給量を温度センサの測定値に基づいて制御することを特徴とする切削加工装置。
【請求項9】
請求項1、請求項4の切削加工装置において、切削工具として非回転工具を用いていることを特徴とする切削加工装置。
【請求項10】
請求項1、請求項5の切削加工装置において、切削工具として振動切削工具を用いていることを特徴とする切削加工装置。
【請求項11】
請求項4の切削加工装置において、切削工具としてエンドミル工具を用いていることを特徴とする切削加工装置。
【請求項12】
請求項4の切削加工装置において、切削工具としてフライカット工具を用いていることを特徴とする切削加工装置。
【請求項13】
切削工具による加工点を覆うように切削加工面に近接して配置されていて切削工具と一緒に移動する面板と加工面間の微小間隔に切削液を供給して切削液層を形成し、当該切削液層によって切削加工点を包み、当該切削液を必要な領域に浸透させることを特徴とする切削液供給方法。
【請求項14】
切削工具の刃先を囲んだ切削液充填容器に切削液を供給し、容器内の切削液を供給ノズルで吸引して排出しながら当該容器内切削液量を制御し、上記容器内切削液によって切削加工点を包んで当該切削液を必要な領域に浸透させることを特徴とする切削液供給方法。
【請求項15】
切削工具による加工点を覆うように切削加工面に近接して配置されていて切削工具と一緒に移動する面板を有し、液体状態の切削液を切削加工面と面板との間の隙間に供給する供給ノズルを上記面板に設けてあり、前記面板を切削工具に対して切削工具の切削加工面への切り込み方向に移動させる機構を有し、上記隙間に形成された切削液層で切削加工点を包み、当該切削液を必要な領域に浸透させることを特徴とする切削液供給装置。
【請求項16】
加工面側が開放されていて切削工具を囲む形状であって切削工具と一緒に移動する切削液充填容器を有し、当該切削液充填容器内に切削液を供給する供給ノズルと、容器内の切削液を容器外に吸引する吸引ノズルを設けてあり、前記切削液充填容器を切削工具に対して切削工具の切削加工面への切り込み方向に移動させる昇降機構を有しており、切削液充填容器に切削液を供給して当該切削液で切削加工点を包み、当該切削液を必要な領域に浸透させることを特徴とする切削液供給装置。
【請求項1】
切削工具による加工点を覆うように切削加工面に近接して配置されていて切削工具と一緒に移動する面板を有し、当該面板に切削加工面と面板との間の隙間に切削液を供給する供給ノズルが取り付けられており、前記面板を切削工具に対して切削工具の切削加工面に対する切り込み方向に移動させる昇降機構を有しており、上記供給ノズルから上記隙間に切削液を供給しつつ切削加工を行うことを特徴とする切削加工装置。
【請求項2】
請求項1の切削加工装置において、上記面板と加工面との間の間隔が上記切削液の表面張力による毛管架橋が発生する間隔に設定されていることを特徴とする切削加工装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2の切削加工装置において、上記切削工具と面板の両方もしくはいずれかが上記切削液との親和性を高める処理がなされていることを特徴とする切削加工装置。
【請求項4】
請求項1の切削加工装置において、面板に取り付けられた切削液の温度を測定する温度センサの測定値に基づいて、上記供給ノズルから供給される切削液の温度と供給量を制御することを特徴とする切削加工装置。
【請求項5】
加工面側が開放されていて切削工具を囲む形状であって、切削工具と一緒に移動する切削液充填容器を有しており、当該切削液充填容器には当該容器内に切削液を供給する供給ノズルと、容器内の切削液を容器外に吸引する吸引ノズルが取り付けられており、さらに前記容器を切削工具に対して切削工具の切削加工面への切り込み方向に移動させる昇降機構を有しており、上記供給ノズルから上記切削液充填容器に切削液を供給しつつ切削加工を行うことを特徴とする切削加工装置。
【請求項6】
請求項5の切削加工装置において、加工を行う前に切削工具に対して切削液と親和性を高める処理がなされていることを特徴とする切削加工装置。
【請求項7】
請求項5の切削加工装置において、切削液充填容器に断熱部材を用いていることを特徴とする切削加工装置。
【請求項8】
請求項5の切削加工装置において、切削液充填容器への切削液の温度を測定する温度センサが取り付けられており、かつ、上記供給ノズルから供給される切削液の温度と供給量を温度センサの測定値に基づいて制御することを特徴とする切削加工装置。
【請求項9】
請求項1、請求項4の切削加工装置において、切削工具として非回転工具を用いていることを特徴とする切削加工装置。
【請求項10】
請求項1、請求項5の切削加工装置において、切削工具として振動切削工具を用いていることを特徴とする切削加工装置。
【請求項11】
請求項4の切削加工装置において、切削工具としてエンドミル工具を用いていることを特徴とする切削加工装置。
【請求項12】
請求項4の切削加工装置において、切削工具としてフライカット工具を用いていることを特徴とする切削加工装置。
【請求項13】
切削工具による加工点を覆うように切削加工面に近接して配置されていて切削工具と一緒に移動する面板と加工面間の微小間隔に切削液を供給して切削液層を形成し、当該切削液層によって切削加工点を包み、当該切削液を必要な領域に浸透させることを特徴とする切削液供給方法。
【請求項14】
切削工具の刃先を囲んだ切削液充填容器に切削液を供給し、容器内の切削液を供給ノズルで吸引して排出しながら当該容器内切削液量を制御し、上記容器内切削液によって切削加工点を包んで当該切削液を必要な領域に浸透させることを特徴とする切削液供給方法。
【請求項15】
切削工具による加工点を覆うように切削加工面に近接して配置されていて切削工具と一緒に移動する面板を有し、液体状態の切削液を切削加工面と面板との間の隙間に供給する供給ノズルを上記面板に設けてあり、前記面板を切削工具に対して切削工具の切削加工面への切り込み方向に移動させる機構を有し、上記隙間に形成された切削液層で切削加工点を包み、当該切削液を必要な領域に浸透させることを特徴とする切削液供給装置。
【請求項16】
加工面側が開放されていて切削工具を囲む形状であって切削工具と一緒に移動する切削液充填容器を有し、当該切削液充填容器内に切削液を供給する供給ノズルと、容器内の切削液を容器外に吸引する吸引ノズルを設けてあり、前記切削液充填容器を切削工具に対して切削工具の切削加工面への切り込み方向に移動させる昇降機構を有しており、切削液充填容器に切削液を供給して当該切削液で切削加工点を包み、当該切削液を必要な領域に浸透させることを特徴とする切削液供給装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−859(P2008−859A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174424(P2006−174424)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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