説明

切削装置及び切削方法

【課題】 冷却水を用いずに被削物の切削を行なっても好適に切削可能な切削装置及びこれを用いた切削方法を提供する。
【解決手段】 回転軸1を備え該回転軸1を軸線O1回りに回転させる回転駆動手段2に支持され回転軸1と同軸O1で回転する切削工具4を備えた切削装置Aに、切削工具4に冷却気体を接触させて切削工具4を冷却する冷却装置5を具備する。また、この冷却装置5によって供給する冷却気体の温度を−5℃〜−40℃とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物等の被削物の切削に用いられる切削装置及び切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物等の穿孔や切断、溝切りなどの切削には、コアビット(切削工具)を備えたコアドリルや、例えばダイヤモンドブレード(切削工具)を備えたウォールカッターなどの切削装置が用いられている。
【0003】
コアドリルは、例えばコンクリート構造物(被削物)の穿孔やコア試料の採取などに用いられ、減速機付のモータなどの回転駆動手段と、回転駆動手段の回転軸に軸線方向を一致させつつ接続され先端に切刃を備えた略円筒状のコアビットとが主な構成要素とされている。
【0004】
この種のコアドリルは、被削物に固定された略平盤状の台座と一体形成され台座の下面に直交する方向に延設された支柱に、支持部材を介して軸線方向に進退自在に回転駆動手段を支持させて使用される。支柱に支持されたコアドリルは、コアビットを軸線回りに高速回転させ、支柱に沿って軸線方向を保ちつつ移動して切刃を被削物に切り込ませることで被削物の切削が可能とされる。また、切削時には、略円筒状のコアビット内に冷却水を供給することにより、高速回転して被削物と接触するコアビットの特に切刃の冷却や、切削時の摩擦抵抗の低減、粉塵の飛散防止などが図られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
一方、ウォールカッターは、例えばコンクリート構造物の壁やスラブなど(被削物)の切断や溝切りなどに用いられており、減速機付のモータなどの回転駆動手段と、回転駆動手段の回転軸に軸線方向を一致させつつ環装される略円板状のブレードとが主な構成要素とされている。また、被削物に固定されるガイドレールと、ガイドレールに接続されガイドレールに沿って進退自在とされた支持枠と、支持枠に支持されブレードの下端側を突出させつつ被覆するブレードカバーとが具備されたものがある。この種のウォールカッターでは、回転駆動手段が、支持部材を介して支持枠に支持され、回転軸の軸線方向とガイドレールの延設方向とに直交する方向に軸線方向を配して並設された支持枠の2つの軸部に沿って進退自在とされている。
【0006】
このように構成されたウォールカッターは、ブレードカバーで被覆された状態のブレードを軸線回りに高速回転させつつ回転駆動手段をブレードとともに支持枠の軸部に沿って移動し、ブレードの外周に形成された切刃を被削物に切り込ませ、且つ支持枠をガイドレール上で移動することにより被削物の切断や溝切りなどを行なうことが可能とされる。また、切削時には、ブレードカバー内で高速回転するブレードの軸線に直交する両側面に向けて、この両側面に沿って設けられた多数の散水孔を有するパイプから冷却水が吐出され、この冷却水によってブレードの特に切刃の冷却や、切削時の摩擦抵抗の低減、粉塵の飛散防止などが図られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−354904号公報
【特許文献2】特開平9−300340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の通り、一般に、コアドリルやウォールカッターといった切削装置では、冷却水を供給しつつ切削を行なうため、切粉などの切削屑が混ざった水(泥水)を回収することに多くの労力を要し、この回収した泥水の処理にも多くの労力と費用を要するという問題があった。また、冷却水を用いて切削を行う場合には、冷却水を使用せずに乾式で行なう場合と比較して、切削屑の回収率が低下するという問題もあった。
【0008】
この一方で、特にコアドリルにおいては、冷却水を用いずに乾式で切削可能なコアビットも存在する。しかしながら、この種のコアビットは、切削時に発生する高温の熱に対する耐熱性や、被削物との摩擦接触に対する耐摩耗性が付与されているものの、やはり悪条件下での使用となるため切削時に熱膨張を生じて食い込みが生じたり、切削量が少ないうちに切刃の破損が生じる場合があるといった問題があった。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑み、冷却水を用いずに被削物の切削を行なっても好適に切削可能な切削装置及びこれを用いた切削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0011】
本発明の切削装置は、切刃を備えた切削工具と、該切削工具を支持して軸線回りに回転させる回転駆動手段とを備え、前記軸線と同軸で回転する前記切刃によって被削物の切削を行なう切削装置において、前記切削工具に冷却気体を接触させて該切削工具を冷却する冷却装置が備えられていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の切削装置においては、前記切削工具が、略円筒状に形成され先端に前記切刃を備えるコアビットであってもよい。
【0013】
さらに、本発明の切削装置においては、前記切削工具が、略円板状に形成され外周に前記切刃を備えるブレードであってもよい。
【0014】
本発明の切削方法は、切刃を備えた切削工具と、該切削工具を支持して軸線回りに回転させる回転駆動手段とを備え、前記軸線と同軸で回転する前記切刃によって被削物の切削を行なう方法であって、前記切削工具に冷却気体を接触させつつ前記切削工具の前記切刃を前記被削物に切り込ませることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の切削方法においては、−5℃〜−40℃の前記冷却気体を前記切削工具に接触させることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の切削装置及び被削物の切削方法によれば、回転軸と同軸で回転する切削工具に冷却気体を接触させて被削物の切削を行なうことによって、切削工具を常に低温状態に維持することができ、切削時に被削物との接触に伴う発熱によって熱膨張が生じることを防止できるため、切削時の食い込みや切削量が少ないうちに切刃の破損が生じることを防止できる。これにより、乾式で切削を行なっても円滑且つ安定した切削作業を促すことができ、好適に切削を行なうことが可能となる。また、乾式で切削を行なえることにより、従来の冷却水を用いた場合と比較して、作業現場の周囲に切削屑が混ざった水が飛散したり大量に流れ出したりすることがなく、切削屑の回収を確実に行なうことが可能となる。
【0017】
また、切削工具が円筒状のコアビットである場合においては、例えばコアビットの内孔に冷却気体を供給してコアビットに接触させることで、コアビットの内孔から切刃に向けて冷却気体を供給することができる。これにより、特に切削時に被削物内で高速回転される切刃を低温状態で維持することができるため、切削時の食い込みや切刃の破損を防止することが可能となる。また、この場合には、コアビットの内孔側から切刃に供給された冷却気体がコアビットの外周面側から被削物の外部に排出されるため、この冷却気体の流動とともに切削屑を外部に排出することが可能となる。よって、切削時の食い込みをより確実に防止することができる。
【0018】
さらに、切削工具が円板状のブレードである場合においては、例えば回転とともに被削物に切り込まれ発熱を伴って被削物の外部に出現する切刃に冷却気体を接触させることで、常に低温状態の切刃を被削物に切り込ませることができる。よって、乾式で切削を行った場合においても、切削時の食い込みや切削量が少ないうちの刃部の破損を防止することが可能となる。
【0019】
本発明の切削方法においては、−5℃〜−40℃の冷却気体を切削工具に接触させることによって、確実に切削工具を低温に維持することが可能となり、乾式で切削を行った場合においても好適に切削を行なうことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図1から図5を参照し、本発明の第1実施形態に係る切削装置及びこれを用いた被削物の切削方法について説明する。
【0021】
本実施形態は、例えばコンクリート構造物(被削物)の切削に用いられる切削装置及び被削物の切削方法に関するものであり、特に切削工具が穿孔やコア試料の採取などに用いられるコアビットであるコアドリル(切削装置)及びこれを用いた切削方法に関するものである。
【0022】
本実施形態のコアドリルAは、図1から図2に示すように、回転軸1を備えこの回転軸1を軸線O1回りに回転させる例えば減速機付のモータなどの回転駆動手段2と、略円筒状に形成され先端に被削物の切削に供する切刃3を備えたコアビット4と、略T字状に形成されコアビット4に冷風(冷却気体)を供給する冷却装置5と、回転軸1とコアビット4との間に介装され回転軸1とコアビット4とを互いの軸線O1方向を一致させつつ一体とするとともに、冷却装置5が接続された冷風注入用アタッチメント6とが主な構成要素とされている。
【0023】
冷風注入用アタッチメント6は、図2及び図3に示すように、第1アタッチメント部6aと第2アタッチメント部6bとからなり、第1アタッチメント部6aは、略円筒状に形成されるとともにその軸線O1方向の一端6cから他端6dまでの間に1つの段差部6eが設けられ、一端6cから段差部6eまでの外径に対して段差部6eから他端6dまでの外径が小径とされている。また、この第1アタッチメント部6aには、一端6cから段差部6eに向けて延びる軸線O1中心の第1内孔6fと、他端6dから第1内孔6fに向けて延びる軸線O1中心の第2内孔6gとが設けられており、これら第1内孔6fと第2内孔6gとは不連続とされている。また、第1アタッチメント部6aには、外面から第2内孔6gの一端6c側の内面に貫通する貫通孔6hが設けられている。
【0024】
ここで、第1内孔6fの内面には雌ネジの螺刻が施され、回転駆動手段2の回転軸1の外面に形成された雄ネジと螺合されて互いを一体とすることが可能とされている。また、段差部6eから他端6dまでの外面には雄ネジの螺刻が施され、コアビット4の後述する接続部4aの内面に形成された雌ネジと螺合されて互いを一体とすることが可能とされている。
【0025】
他方、第2アタッチメント部6bは、略円筒状に形成されているとともに、軸線O1方向の一端6i側と他端6j側とにそれぞれ径方向内側に延出された延出部6kが設けられている。これにより、第2アタッチメント部6bは、外径を一定としつつ各延出部6kの内径が、延出部6kで挟まれた軸線O1方向内側部分の内径よりも小径とされている。また、第2アタッチメント部6bには、軸線O1方向略中央位置に、外面から内面に向けて貫通する貫通孔6lが設けられ、これとともに貫通孔6lと連通し外面から径方向外側に突出する円筒状の突出部6mが設けられている。さらに、第2アタッチメント部6bの外面には、径方向外側に延びる棒状部材6nが取り付けられている。
【0026】
このように構成された第1アタッチメント部6aと第2アタッチメント部6bとは、第2アタッチメント部6bの内孔に第1アタッチメント部6aが挿通されて冷風注入用アタッチメント6を形成している。また、第2アタッチメント部6bの一端6iと他端6jとにそれぞれ設けられた延出部6kの軸線O1方向に沿う端面(内面)が、必要に応じてシール材やベアリング等を介して、第1アタッチメント部6aの一端6cから段差部6eまでの外面と摺動可能に密着されて第2アタッチメント部6bが第1アタッチメント部6aに支持されている。これにより、第1アタッチメント部6aと第2アタッチメント部6bとの間には内空部6qが画成され、この内空部6qを通じて第1アタッチメント部6aの貫通孔6hと第2アタッチメント部6bの貫通孔6lとが連通状態とされる。
【0027】
冷却装置5は、いわゆるボルテックスノズルと称されるものであり、図2及び図4から図5に示すように、対向する2つの吐出口5a、5bとこれら吐出口5a、5bに直交する方向に向けて開けられた給気口5cとを備える略T字管状の装置本体5dと、装置本体5dの内部に設けられたボルテックスチューブ5eとから構成されている。給気口5cには、図1に示すように、給気管5fの一端が接続され、この給気管5fの他端には、圧力空気を給気口5cに送るコンプレッサー7が除油フィルター8や除湿フィルター9、ガスクーラー10を介して接続されている。
【0028】
ここで、この冷却装置5は、給気管5fと給気口5cとを通じて装置本体5d内に供給された圧縮空気が、ボルテックスチューブ5eによって装置本体5d内で高速回転させられて渦流を生じることにより圧縮、膨張させられ冷風と熱風とに分離するものとされている。そして、分離された冷風と熱風は、冷風が装置本体5dの一方の吐出口5bから、熱風が他方の吐出口5aから吐出するものとされている。このため、この冷却装置5は、装置本体5dの、冷風を吐出する一方の吐出口5b側の端部が、図2及び図3に示した第2アタッチメント部6bの突出部6mに挿通されつつ接続されて冷風注入用アタッチメント6と一体とされている。
【0029】
コアビット4は、図2及び図3に示すように、略円筒状に形成され、先端4bに被削物の切削に供されるダイヤモンドチップ等からなる複数の切刃3が設けられている。また、このコアビット4は、後端4cから若干先端4b側の部分が、冷風注入用アタッチメント6の第1アタッチメント部6aの段差部6eから他端6dまでの部分と螺合される接続部4aとされ、接続部4aの先端4b側の端部から先端4bまでの部分が、接続部4aよりも内径、外径ともに大きく形成された本体部4dとされている。本体部4dの先端4bに設けられた複数の切刃3は、それぞれが周方向に沿って形成されるとともに先端4bから軸線O1方向に凸設され、周方向に等間隔で設けられている。
【0030】
ついで、上記の構成からなるコアドリル(切削装置)Aを用いて被削物の切削を行なう方法について説明する。
【0031】
はじめに、図1に示すように、被削物Wに、支柱11の軸線が所定の方向となるよう台座12を取り付け、これとともに、支持部材14を介して支柱11に回転駆動手段2を支持させてコアドリルAを設置する。また、ここでは、図3に示すように、椀状に形成され、底板13aの軸心O1中央にコアビット4の外径と略等しい径の中心孔を有する集塵カバー13を、中心孔にコアビット4を挿通しつつ設置している。このとき、コアビット4で支持された集塵カバー13は、その開口側の端部13bを被削物Wに当接させた状態とされている。
【0032】
ついで、回転駆動手段2を駆動しコアビット4を軸線O1回りに高速回転させる。このとき、冷風注入用アタッチメント6の第1アタッチメント部6aは、回転駆動手段2の回転軸1と一体に軸線O1回りに高速回転され、これに接続されたコアビット4に回転力を伝達しコアビット4を軸線O1回りに高速回転させる。一方、第1アタッチメント部6aが摺動可能に挿通された第2アタッチメント部6bは、例えば図2に示した棒状部材6nを固定支持することで回転されずに定位置に保持されている。
【0033】
ついで、支柱11に沿って被削物W側に支持部材14を移動することにより回転駆動手段2を移動してコアビット4の切刃3を被削物Wに切り込ませる。さらに回転駆動手段2を支柱11に沿って被削物W側に移動することで被削物Wを切削してゆく。一方、このとき、コンプレッサー7から、除油フィルター8と除湿フィルター9を介して油分や湿気を取り除きつつ、且つガスクーラー10を介して例えば10℃〜20℃程度に調整された圧縮空気を、約0.7MPa程度の圧力をもって冷却装置5に送気する。送気された圧縮空気は、冷却装置5のボルテックスチューブ5eによって高速回転させられ冷風(冷却気体)と熱風とに分離される。このうち、−5℃〜−40℃程度の冷風が一方の吐出口5bから吐出され、図3に示すように、第2アタッチメント部6bの貫通孔6lを介して、第1アタッチメント部6aと第2アタッチメント部6bとの間に画成された内空部6qに送られる。内空部6qに送られた冷風は、高速回転している第1アタッチメント部6aの貫通孔6hを通じて第2内孔6gに供給されるとともに、この第2内孔6gに連通するコアビット4の内孔に供給されコアビット4と接触する。
【0034】
コアビット4の内孔に供給された冷風は、コアビット4を冷却するとともに、被削物Wのコアビット4によって切削形成された平面視で環状の切削溝W1の、コアビット4の内面とこの内面側の切削面との間を通り、被削物Wと高速回転しつつ接触するコアビット4の切刃3に向けて流れてゆく。さらに、切刃3に供給された冷風は、複数の切刃3の隙間や被削物Wと接触する切刃3の先端側を通ってコアビット4の外面とこの外面側の切削面との間に流通される。そして、被削物Wに端部13bが当接された集塵カバー13の内空部13cに排出される。
【0035】
このように流通する冷風は、被削物Wと高速回転しつつ接触して発熱したコアビット4、特に切刃3に接触することでこれらを急激に低温化し、発熱に伴う熱膨張を抑制する。また、被削物Wが切刃3により切削されることで生じる粉塵(切削屑)を冷風の流通とともに集塵カバー13の内空部13cに搬送する。そして、この集塵カバー13の内空部13cに冷風とともに搬送された切削屑は、例えば集塵カバー13に内空部13cと管13dを介して接続された図示せぬ集塵機の吸引力によって内空部13cから冷風とともに除去されて集塵機に回収される。
【0036】
したがって、上記のコアドリル(切削装置)A及び切削方法においては、冷却装置5を備え、被削物Wの切削時にコアビット4の内孔に冷風(冷却気体)を供給し、コアビット4と冷却気体を接触させつつ切削を行なうことができるため、コアビット4の切削に伴う発熱を抑制することができる。これにより、乾式で切削を行なってもコアビット4に熱膨張が生じることを防止できるため、例えば切削時にコアビット4が切削溝W1内に食い込んだり、切削量が少ないうちに切刃3の破損が生じることを防止することが可能となる。よって、円滑且つ安定した切削作業を促すことが可能となる。
【0037】
また、切削時に冷却気体を供給することにより、切削屑を冷却気体の流通とともに円滑に被削物Wの外部に排出することができ、本実施形態に示したように、例えば集塵カバー13を設けることで容易に切削屑を回収することができる。このため、例えば従来の冷却水を用いて切削を行う場合と比較して、作業現場の周囲に切削屑が混ざった水が飛散したり大量に流れ出したりすることがなく、切削屑の回収を確実に行なうことが可能となる。
【0038】
さらに、冷却気体の温度を−5℃〜−40℃とすることによって、確実にコアビット4の発熱を抑制することができ、上記の効果をより確実なものとすることができる。
【0039】
なお、本発明は、上記の第1実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、温度が10℃〜20℃程度で、圧力が約0.7MPaの圧縮空気を冷却装置5に供給して冷却気体を発生させるものとしたが、この限りではなく、本発明に係る冷却装置5は、ボルテックスチューブ5eの仕様や、圧縮空気の圧力や温度に応じて供給する冷却気体の温度を調整することが可能であるため、圧縮空気の温度や圧力は特に限定される必要のないものである。これに関連して、圧縮空気を冷却装置5に供給する手段として、コンプレッサー7を用い、さらにコンプレッサー7から吐出した圧縮空気が除油フィルター8や除湿フィルター9、ガスクーラー10を介して冷却装置5に供給されるものとしたが、冷却装置5に圧縮空気を供給する手段はコンプレッサー7に限定される必要はなく、且つ除油フィルター8や除湿フィルター9、ガスクーラー10は必ずしも具備される必要のないものである。
【0040】
また、本実施形態では、冷却装置5を冷却注入用アタッチメント6に取り付け、この冷却注入用アタッチメント6を介して冷却気体をコアビット4と接触させるものとしたが、図2に示すように、例えば回転駆動手段2に設けられる従来の冷却水供給用の貫通孔2aに冷却装置5を接続するとともに、回転軸1を直接コアビット4の接続部4aに接続してコアビット4の内孔に冷却気体を供給してもよいものである。よって、冷却注入用アタッチメント6は必ずしも具備される必要のないものであるとともに、冷却気体をコアビット4に接触させて切削時の発熱を抑制可能であれば冷却気体を供給する構成は特に限定される必要のないものである。これに関連して、冷却気体をコアビット4の内孔に供給するものとしたが、例えばコアビット4の外面に冷却気体を吹きかけるなどして発熱を抑制してもよいものである。
【0041】
さらに、本実施形態の切削装置Aは、台座12に設けられた支柱11に支持部材14を介して支持されるコアドリルAであるものとして説明を行なったが、本発明は、例えば手持ち式のコアドリルに適用されてもよいものであるとともに、コアを形成しないノンコアドリルに適用されてもよいものである。
【0042】
ついで、図4から図10を参照し、本発明の第2実施形態に係る切削装置及び切削方法について説明する。本実施形態においては、第1実施形態に共通する構成に対して同一符号を付し、その詳細についての説明を省略する。
【0043】
本実施形態は、例えばコンクリート構造物(被削物)の切削に用いられる切削装置及び被削物の切削方法に関するものであり、特に切削工具が壁やスラブなどの切断や溝切りなどに用いられるブレードのウォールカッター(切削装置)及びこれを用いた切削方法に関するものである。
【0044】
本実施形態のウォールカッターBは、図6から図8に示すように、例えば回転軸1を備えこの回転軸1を軸線O1回りに回転させる減速機付のモータなどの回転駆動手段2と、回転駆動手段2の回転軸1に軸線O1方向を一致させつつ環装される略円板状のブレード20と、略T字状に形成されブレード20に冷風(冷却気体)を吹きかける冷却装置5とが主な構成要素とされている。また、被削物Wに固定されるガイドレール21と、ガイドレール21に接続されガイドレール21に沿って進退自在とされた支持枠22と、支持枠22に支持されブレード20の下端20a側を突出させつつ被覆するブレードカバー23とが具備されている。
【0045】
回転駆動手段2は、支持部材14を介して支持枠22に支持されている。このとき、回転駆動手段2は、回転軸1の軸線O1方向とガイドレール21の延設方向とに直交する方向に軸線O2方向を配して並設された支持枠22の2つの軸部24に沿って昇降可能とされている。
【0046】
本実施形態のブレード20は、図7から図10に示すように、略円板状に形成された例えば鋼製の基板20bと、この基板20bの外周縁に沿って設けられた複数のセグメントチップ(切刃)3とから構成されている。基板20bには、中心軸心O1に、回転駆動手段2の回転軸1が嵌合される図示せぬ中心孔が設けられている。セグメントチップ3は、基板20bの外周縁に径方向外側に向けて突設されており、基板20bの外周縁に沿って円弧状を呈する所定幅で形成されているとともに、基板20bの厚さよりも若干大きな厚さで形成されている。また、このようにそれぞれ形成された複数のセグメントチップ3は、周方向に等間隔で配設されている。
【0047】
ブレードカバー23は、図7から図8に示すように、略矩形箱状に形成されているとともに、下面(下端)23aが開口され、この開口部分からブレード20の下端20a側を突出可能とされている。一方、上面(上端)23bは、被覆するブレード20の曲率半径と略等しい曲率半径を有する円弧状に形成されている。また、このブレードカバー23を支持する支持枠22側の一側面23cには、幅方向略中央に下端23aから上端23bに向けて延びて開口する開口部23dが形成されており、この開口部23dに支持枠22に支持された回転駆動手段2の回転軸1が挿通され、この回転軸1の先端側にブレード20が環装支持されている。ここで、回転駆動手段2しいては回転軸1とブレード20とが支持枠22の2つの軸部24に沿って昇降自在とされているため、開口部23dは、回転軸1が上昇し開口部23dの上端側に位置された際にブレード20が全てブレードカバー23内に配されるような高さ寸法を有して形成されている。また、ブレードカバー23は、被覆するブレード20がブレードカバー23の厚さ方向中央より、若干、支持枠22側の一側面23cと対向する他側面23e側に配置されている。
【0048】
さらに、ブレードカバー23の一側面23cには、開口部23dと平行に開けられたスリット部23fが形成されている。このスリット部23fには、図7に示すように、第1実施形態と同様の冷却装置5の冷風(冷却気体)を吐出する一方の吐出口5b側の端部が挿通され、この冷却装置5は、回転駆動手段2を支持枠22に昇降可能に接続する支持部材14に適宜手段で接続されて支持されている。これにより、冷却装置5は、回転駆動手段2が支持枠22の2つの軸部24に沿う方向に昇降するとともに、これに従動して移動可能とされる。よって、スリット部23fは、回転駆動手段2の昇降に従動する冷却装置5が好適に昇降可能な高さ寸法を有して形成されている。
【0049】
一方で、本実施形態の冷却装置5には、図7から図10に示すように、冷風を吐出する端部に、略断面コ字状の被覆部材25が取り付けられている。この被覆部材25は、開口する下端25aと、上端25bとがブレード20の外周に沿う円弧状に形成されている。また、被覆部材25には、開口する下端25a側からブレード20の外周側の周方向の一部が挿入され、被覆部材25の内空25cにセグメントチップ3とセグメントチップ3よりやや径方向内側に位置する基板20bが配されている。さらに、被覆部材25は、その下端25aが両側面25d、25eに直交しつつ内方に突出されており、この突出した先端部分には、ゴム材25fが被覆され、このゴム材25fに多数の繊維部材25gが先端部分から被覆したブレード20の側面に向けて植設されている。このゴム材25fと繊維部材25gによって、被覆部材25の下端25a側の開口部分が閉塞状態とされている。
【0050】
また、この被覆部材25には、図9に示すように、ブレードカバー23のスリット部23fから挿入された冷却装置5の端部が接続されている。この冷却装置5の端部は、被覆部材25の一側面25dのブレード回転方向T上流側に位置する端部側に接続されており、被覆部材25の内空25cと冷却装置5が連通されている。
【0051】
ついで、上記の構成からなるウォールカッター(切削装置)を用いて被削物の切削を行なう方法について説明する。
【0052】
はじめに、ブレード20のセグメントチップ3の位置が被削物Wの切削ライン上に配されるように調整しつつ、切削ラインに延設方向が平行となるようガイドレール21を被削物Wに固定する。ついで、回転駆動手段2を駆動してブレード20を軸線O1回りに高速回転させ、回転駆動手段2を支持枠22の2つの軸部24に沿って下降してブレード20を下降する。そして、ブレード20の外周縁に設けられたセグメントチップ3を被削物Wに切り込む。さらに、ブレード20を下降して所定の深さまでブレード20が被削物Wを切削した段階で、支持枠22をガイドレール21上で走行させる。これにより、所定の深さで切り込まれたブレード20がその切り込み深さを維持しつつガイドレール21の延設方向に進んでゆき、被削物Wが切削ラインで切断されてゆく。
【0053】
ここで、本実施形態では、ブレード20を下降して被削物Wに切り込むまでの段階で、第1実施形態と同様に、図1に示すコンプレッサー7から圧縮空気を、除油フィルター8と除湿フィルター9を介し、且つガスクーラー10を介しつつ冷却装置5に供給する。そして、第1実施形態に示した冷却装置5内のボルテックスチューブ5eによって発生した冷風(冷却気体)を端部から吐出させるとともに、冷風を被覆部材25の内空25cに供給する。このとき、高速回転されるブレード20の外周縁側が順次被覆部材25の内空25cを通過するため、この内空25cに供給された冷風が通過するブレード20の外周縁側と接触しこれを冷却してゆく。また、被覆部材25の内空25cに冷却気体が吐出される際には、内空25cを通過するブレード20の外周縁側、特にセグメントチップ3に直接冷風が吹付けられることとなる。さらに、被覆部材25の繊維部材25gによって内空25cは閉塞状態とされるため、内空25cに供給された冷風は、吐出時に直接吹付けられることも合わせ、確実に通過するブレード20の外周縁側を冷却する。
【0054】
このように冷却されたブレード20のセグメントチップ3は、ブレード20の回転とともに被削物Wに切り込まれ、被削物Wと摩擦接触されて仕事に供されることでその温度が上昇する。温度が上昇したセグメントチップ3は、ブレード20の更なる回転とともに被削物Wの外部に導出され再度被覆部材25の内空25cを通過する。これにより、切削に供されて温度が上昇したセグメントチップ3は、冷却され、再び低温状態で被削物Wに切り込まれることとなる。
【0055】
ちなみに、本実施形態のウォールカッターBは、被削物Wを切削した切刃(セグメントチップ)3が切削時に何度となく被削物Wの外部に導出されるため、切削とともに発生する切削屑は、比較的外部に排出されやすい。このため、例えば図6に示すように、ブレード20を被覆するブレードカバー23に、ブレードカバー23の内空と繋がる集塵機26を設けることで、確実に切削屑が回収される。
【0056】
したがって、上記のウォールカッター(切削装置)B及びこれを用いた切削方法においては、冷却装置5を備えることで被削物Wの切削時にブレード20の外周縁側に冷風(冷却気体)を接触させることができ、これにより、低温化したセグメントチップ(切刃)3を被削物Wに切り込ませることができる。また、ブレード20の外周縁が内空25cを通過するように、被覆部材25を設けることで、切削に供されて温度が上昇したセグメントチップ3に冷却気体を接触させることができるため、被削物Wに切り込まれるセグメントチップ3を常に低温状態とすることができる。これにより、乾式で切削を行なってもブレード20に熱膨張が生じることを防止でき、例えば切削時にブレード20の被削物Wへの食い込みが生じたり、切削量が少ないうちにセグメントチップ3の破損が生じることを防止できる。よって、円滑且つ安定した切削作業を促すことが可能となる。
【0057】
なお、本発明は、上記の第2実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、冷却気体をブレード20に接触させる手段として、被覆部材25を備えるものとしたが、例えば被覆部材25を用いずに直接冷却装置5からブレード20に冷却気体を吹付けてもよいものである。また、冷却気体をブレード20の外周縁側に接触させるものとして説明を行なったが、その他の部分に冷却気体を接触させてもよいものである。さらに、本実施形態の冷却装置5が、支持部材14に支持され、また、ブレードカバー23にスリット部23fが設けられて、回転駆動手段2やブレード20の移動に従動できるものとしたが、これらの構成は特に限定を必要とするものではない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1実施形態に係る切削装置を示す図である。
【図2】図1の切削装置の分解斜視図である。
【図3】図1の切削装置の冷却気体の流通経路を示す図である。
【図4】図1の切削装置に具備される冷却装置を示す図である。
【図5】図4の冷却装置の断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る切削装置を示す図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る切削装置を示す図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る切削装置を示す図である。
【図9】図6から図8の切削装置の冷却装置及び被覆部材を示す図である。
【図10】図9の断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 回転軸
2 回転駆動手段
3 切刃(セグメントチップ)
4 コアビット(切削工具)
5 冷却装置
6 冷風注入用アタッチメント
20 ブレード(切削工具)
25 被覆部材
A コアドリル(切削装置)
B ウォールカッター(切削装置)
W 被削物
O1 軸線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
切刃を備えた切削工具と、該切削工具を支持して軸線回りに回転させる回転駆動手段とを備え、前記軸線と同軸で回転する前記切刃によって被削物の切削を行なう切削装置において、
前記切削工具に冷却気体を接触させて該切削工具を冷却する冷却装置が備えられていることを特徴とする切削装置。
【請求項2】
請求項1記載の切削装置において、
前記切削工具が、略円筒状に形成され先端に前記切刃を備えるコアビットであることを特徴とする切削装置。
【請求項3】
請求項1記載の切削装置において、
前記切削工具が、略円板状に形成され外周に前記切刃を備えるブレードであることを特徴とする切削装置。
【請求項4】
切刃を備えた切削工具と、該切削工具を支持して軸線回りに回転させる回転駆動手段とを備え、前記軸線と同軸で回転する前記切刃によって被削物の切削を行なう方法であって、
前記切削工具に冷却気体を接触させつつ前記切削工具の前記切刃を前記被削物に切り込ませることを特徴とする切削方法。
【請求項5】
請求項4記載の被削物の切削方法において、
−5℃〜−40℃の前記冷却気体を前記切削工具に接触させることを特徴とする切削方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−1069(P2007−1069A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181713(P2005−181713)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(391004768)日本ファステム株式会社 (9)
【Fターム(参考)】