説明

前面投射型スクリーン及び車載用プロジェクタシステム

【課題】スクリーンおもて面側ではプロジェクタからの投射光による画像を鑑賞することができるとともに、スクリーン裏面側からは当該スクリーン越しにスクリーンおもて面側の景色を見ることができる前面投射型スクリーン及び車載用プロジェクタシステムを提供する。
【解決手段】投射光の波長領域を含む特定波長領域の光に対して高反射特性を有し、前記特定波長領域以外の波長領域の光に対して高透過特性を有する反射シート1と、反射シート1からの反射光を散乱して放射する光拡散シート3とを備え、光拡散シート3は、当該スクリーンのおもて面側からの入射光をその光学特性を変化させることなく裏面の反射シート1側に通過または透過させる領域3aを有し、当該スクリーンのおもて面側からの外光を前記光拡散シート3の領域3aで通過または透過し、さらに前記反射シート1を透過させて、スクリーン裏面側からスクリーンおもて面側の景色を視認可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前面投射型スクリーン及び車載用プロジェクタシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、運転席と後部座席とを有する自動車両、例えばワゴンタイプの自家用自動車では、後部座席の搭乗者が車内で映画等を鑑賞できるように、前面投射型スクリーンとプロジェクタとからなるプロジェクタシステムが搭載されるようになっている。
【0003】
この場合、プロジェクタからの投射光を前面投射型スクリーンにて反射して画像を表示する方式であるため、前面投射型スクリーンは運転席後方かつ後部座席前方に設けられ、前記プロジェクタは該前面投射型スクリーンよりも前記後部座席側に設けられている。
【0004】
ここで、運転席の搭乗者である運転手が車両運転中に後方を確認しようとした際に、その視界にこの前面投射型スクリーンが入ってくるようになり、従来よりも視界が狭まるという問題があった。
【0005】
そこで、これを解決するために当該スクリーンにストライプのスリットあるいはドット形状の貫通穴を設けることが行われ、運転手からその穴を通して後方が見えるようにして視界を確保することができるようになった。しかしながら、それに伴ってプロジェクタからの投射光もこの穴を通過して運転手に届くようになったため、運転手がこの光に幻惑されてしまうという新たな問題が発生した。
【0006】
この問題を解決するため、例えば、特許文献1では偏光スクリーンが提案されている。このスクリーンを用いることにより、プロジェクタからの投射光がスクリーンの裏面側に透過することなく、スクリーンの裏面(運転手側)からスクリーンのおもて面側を透かしてみることができるようになる。
【0007】
しかしながら、この発明はプロジェクタとして液晶プロジェクタのみに有効なのであって、DLPプロジェクタなどの無偏光な光を投射するプロジェクタを用いる場合には十分な効果が得られなかった。
【0008】
【特許文献1】特開2001−255586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであり、プロジェクタの種類に限定されることなく、スクリーンおもて面側ではプロジェクタからの投射光による画像を鑑賞することができるとともに、スクリーン裏面側からは当該スクリーン越しにスクリーンおもて面側の景色を見ることができる前面投射型スクリーン及び車載用プロジェクタシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために提供する本発明は、屈折率がそれぞれ異なる数種の光学膜が積層された複数層からなり、投射光の波長領域を含む特定波長領域の光に対して高反射特性を有し、前記特定波長領域以外の波長領域の光に対して高透過特性を有する光学多層膜と、前記光学多層膜上に設けられ、該光学多層膜からの反射光を散乱して放射する光拡散層とを備え、当該スクリーンのおもて面側からの前記投射光を反射して画像として表示する前面投射型スクリーンであって、前記光拡散層は、当該スクリーンのおもて面側からの入射光をその光学特性を変化させることなく裏面の光学多層膜側に通過または透過させる領域Aを有し、当該スクリーンのおもて面側からの外光を前記光拡散層の領域Aで通過または透過し、さらに前記光学多層膜を透過させて、スクリーン裏面側からスクリーンおもて面側の景色を視認可能とすることを特徴とする前面投射型スクリーンである(請求項1)。
【0011】
ここで、前記領域Aは、前記光拡散層を貫通する複数の穴であることが好ましい。
【0012】
また、前記光学多層膜の前記光拡散層とは反対面に設けられ、外光の一部を吸収する半吸収板を備えるとよい。
あるいは、前記光学多層膜の前記光拡散層とは反対面に設けられ、外光の一部を吸収する偏光板を備えるとよい。
【0013】
前記課題を解決するために提供する本発明は、請求項1〜4の何れか一に記載の前面投射型スクリーンと、前記投射光の光源となるプロジェクタとを備え、運転席と後部座席とを有する自動車両に搭載される車載用プロジェクタシステムであって、前記前面投射型スクリーンは運転席後方かつ後部座席前方に設けられ、前記プロジェクタは該前面投射型スクリーンよりも前記後部座席側に設けられていることを特徴とする車載用プロジェクタシステムである(請求項5)。
【0014】
ここで、前記自動車両の後部窓に前記特定波長領域の光を反射する選択反射フィルタを備えることが好ましい。
【0015】
また、前記自動車両のバックミラーに前記特定波長領域の光を吸収し、該特定波長領域以外の光を反射する選択反射フィルタを備えることが好適である。
【0016】
前記課題を解決するために提供する本発明は、入射する光の一部を反射し、残りを透過する前面投射型スクリーンと、該前面投射型スクリーンに特定波長領域の光を投射するプロジェクタとを備え、運転席と後部座席とを有する自動車両に搭載される車載用プロジェクタシステムであって、前記前面投射型スクリーンは運転席後方かつ後部座席前方に設けられ、前記プロジェクタは該前面投射型スクリーンよりも前記後部座席側に設けられ、
前記自動車両のバックミラーに前記特定波長領域の光を吸収し、該特定波長領域以外の光を反射する選択反射フィルタを備えることを特徴とする車載用プロジェクタシステムである(請求項8)。
【発明の効果】
【0017】
本発明の前面投射型スクリーンによれば、当該スクリーンのおもて面側からの投射光(前記特定波長領域の光)を光学多層膜で反射し、光拡散層の領域A以外の領域で散乱させることにより、スクリーンおもて面側に外光に影響されず高コントラストの画像を表示することができる。一方、当該スクリーンのおもて面側から入射した外光を光拡散層の領域Aで通過または透過し、さらに前記光学多層膜を透過させることにより、スクリーン裏面側からスクリーンおもて面側の景色を見ることができる。
本発明の車載用プロジェクタシステムによれば、後部座席の搭乗者は前面投射型スクリーン上に表示される高コントラストの画像を鑑賞することができるとともに、運転手は後方視界が前面投射型スクリーンによりさえぎられることがなくなり、十分な視界を確保することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明に係る前面投射型スクリーンの構成について説明する。
図1に本発明の前提となる前面投射型スクリーンの構成を示す断面図を示す。
図1に示すように、前面投射型スクリーン10は、反射シート1と、光拡散シート3とが貼り合わされてなる構成である。
【0019】
図2に、反射シート1の構成例を示す。反射シートは、基板11上にプロジェクタ光の波長領域のうち、RGB三原色の各色の光の波長領域の光に対して高反射特性を有し、前記波長領域以外の光に対しては高透過特性を有する光学多層膜12を備える。
【0020】
基板11は、反射シート1の支持体となるものであり、例えばポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリオレフィン(PO)等の可撓性を有するポリマーが挙げられる。
【0021】
光学多層膜12は、屈折率の異なる複数種類の光学膜が積層されたものであり、例えば高屈折率材料からなる高屈折率膜12Hと該高屈折率膜12Hより低い屈折率の低屈折率材料からなる低屈折率膜13Lとを交互に積層した選択反射特性を有する膜である。
【0022】
高屈折率膜12H、低屈折率膜12Lは、それぞれスパッタリング法などのドライプロセス、あるいはスピンコート、ディップコートなどのウェットプロセスのいずれの方法によっても形成することができる。
【0023】
ドライプロセスにより形成する場合には、高屈折率膜12Hの構成材料は、屈折率が2.0〜2.6程度のものであれば種々のものを用いることができる。同様に、低屈折率膜12Lの構成材料は、屈折率が1.3〜1.5程度のもので種々のものを用いることができる。例えば、高屈折率膜12Hは、TiO,Nb5又はTaからなり、低屈折率膜12Lは、SiO又はMgFからなるとすればよい。
【0024】
ドライプロセスにより形成する場合、光学多層膜12の各膜厚は、マトリクス法に基づいたシミュレーションにより光学薄膜が特定波長帯の光に対して高反射特性を有し、少なくとも該波長域光以外の可視波長域光に対しては高透過特性を有するように膜厚設計するとよい。ここでいうマトリクス法に基づいたシミュレーションとは、特開2003−270725号公報に示されている手法であり、複数の異なる材料で構成され各層の境界で多重反射が生じる多層光学薄膜系に角度θで光が入射した場合、用いる光源の種類及び波長と、各層の光学膜厚(屈折率と幾何学的膜厚との積)に依存して位相が揃い、反射光速は可干渉性を示す場合が生じ、互いに干渉しあうようになる原理に基づいた方程式を利用してシミュレーションを行い、所望の特性を有する光学膜の膜厚設計を行うものである。
【0025】
本発明においては、特定の波長領域として、プロジェクタ光源で画像光として使用されるRGB三原色の各色の光の波長領域を選択して、マトリクス法に基づいたシミュレーションによりこれらの波長領域の光のみを反射させる(図3(a)))とともにこれらの波長領域以外の波長領域の光を透過させる(図3(b))ように膜厚設計すればよい。このような厚みの高屈折率膜12H及び低屈折率膜12Lを重ね合わせることにより三原色波長帯域フィルタとして良好に機能する光学多層膜12を確実に実現することができる。
【0026】
具体的には、高屈折率膜12Hと低屈折率膜12Lそれぞれの膜厚はつぎのように設定される。一般に、ある基板上にその基板物質よりも屈折率が高い物質を積層した場合、波長λcに反射率ピークをださせるためには、その目標膜厚dが次式(1)の条件を満たす必要がある。
【0027】
d=m・(λc/4)/n ・・・(1)
(d:目標膜厚、m:奇数、λc:波長、n:光学膜の屈折率)
【0028】
ここで、mはλc/4を単位とする光学的距離(QWOT)のことであり、奇数とすることにより波長λcに反射率ピークが形成される。また、膜厚dは、mの値(QWOT数)に比例して増減する。
【0029】
また、ドライプロセスにより形成される光学多層膜12を構成する光学膜の層数は、特に限定されるものではなく、所望の層数とすることができる。ここで、層数を増やすとRGB三原色の各色の光の反射波長の帯域を狭くすることができ、かつ反射率を上げることができる。また、光入射側及びその反対側の最外層が高屈折率膜12Hとされる奇数層により構成されることが好ましい。
【0030】
ウェットプロセスにより光学多層膜12を形成する場合には、高屈折率膜用溶剤系塗料を塗布・硬化して得られる高屈折率膜12Hと、該高屈折率膜12Hよりも低屈折率の光学膜となる低屈折率膜用溶剤系塗料を塗布・硬化して得られる低屈折率膜12Lとを交互に積層した奇数層とするとよい。また、それぞれの光学膜は、加熱や紫外線照射などにより付与されるエネルギーを吸収して硬化反応を起こす樹脂を含む塗料を塗布して形成するとよい。例えば、高屈折率膜12Hは、熱硬化型樹脂JSR製オプスター(JN7102、屈折率1.68)により形成され、低屈折率膜12Lは熱硬化型樹脂JSR製オプスター(JN7215、屈折率1.41)により形成されるとよい。これにより光学多層膜12は可撓性を有する。
ここで、高屈折率膜12Hは、上記熱硬化型樹脂に限定されるものではなく、1.6〜2.1程度の屈折率が確保できる溶剤系塗料であればよい。また、低屈折率用膜12Lは、上記熱硬化型樹脂に限定されるものではなく、1.3〜1.59程度の屈折率が確保できる溶剤系塗料であればよい。なお、高屈折率膜12Hと低屈折率膜12Lとの屈折率の差が大きいほど、積層数が少なくすることができる。
【0031】
図4〜図6に、反射シート1の具体例を示す。
図4は、反射シート1の具体的な構成を示す断面概略図である。
ここでは、高屈折率膜12Hを屈折率2.38(波長550nm)のNb5層とし、低屈折率膜12Lを屈折率1.455(波長550nm)のSiO層とし、ドライプロセスであるスパッタリング法により、Nb5/SiO/Nb5/SiO/Nb5の5層構造の光学多層膜12を基板11上に形成した。なお、プロジェクタとしてLEDプロジェクタを用いることを前提として、各層の膜厚はQWOT数として11とした。
得られた反射シート1の反射特性を図5に、透過特性を図6に示す。
【0032】
なお、反射シート1のその他の構成として、基板11の両面それぞれに上記と同じ構成の光学多層膜12が形成された構成としてもよい。
【0033】
光拡散シート3は、光学多層膜12上に設けられ、反射シート1で反射された光を散乱して散乱光を得るものである。
【0034】
前面投射型スクリーン10は、反射シート1を備えることにより三原色波長域の光を反射するため、観察者は、このスクリーンに映写された画像の反射画像を観視することになり、すなわち、前面投射型スクリーン10に映写された画像の反射光のみを見ることになる。しかし、スクリーンでの反射光が反射スペキュラー成分のみである場合には、良好な画像を視認することが難しく、視野が限られる等、観察者にとって不利となり、自然な画像を視認することができない。
【0035】
そこで、反射型スクリーン10では光拡散シート3を備えることにより、該スクリーン10からの散乱反射光を観視できるように構成されている。すなわち、反射シート1上に光拡散シート3を設けた構成とすることにより、光拡散シート3を通過して入射してきた光は、反射シート1において特定波長領域の光が選択的に反射されるが、このとき、該反射光は光拡散シート3を通過する際に拡散され、反射スペキュラー成分以外の散乱反射光を得ることができる。そして、反射型スクリーン10からの反射光としては、反射スペキュラー成分と散乱反射光とが存在することになるため、観察者は反射スペキュラー成分以外にも散乱反射光を観察することが可能となり、視野特性が大幅に改善される。その結果、観察者は自然な画像を視認することが可能になる。
【0036】
また、光拡散シート3は、当該スクリーン10のおもて面側からの入射光をその光学特性を変化させることなく裏面の光学多層膜12側に通過または透過させる領域3aを有する。
【0037】
ここで、領域3aは、光拡散シート3の表裏方向の貫通穴からなる空隙、または光拡散シート3を構成する材料からなるが光拡散機能を有さない部分である。領域3aが光拡散シート3の表裏方向の貫通穴からなる空隙である場合には、入射光をその光学特性を変化させることなく裏面の光学多層膜12側に通過させるものとなる(図1)。また、領域3aが光拡散シート3を構成する材料からなるが光拡散機能を有さない部分である場合には、入射光をその光学特性を変化させることなく裏面の光学多層膜12側に透過させるものとなる。なお、光学特性を変化させることなくとは、入射光の波長分布を変化させないこと、散乱させることなく直進させることなど、当該領域3aを入射光が通過または透過する際に、入射光に対し前面投射型スクリーン10の裏面側からおもて面側の景色を視認することに悪影響を及ぼさないことを意味する。
【0038】
図7に、光拡散シート3のおもて面側からみた場合の領域3aの形状及び配置例を示す。
ここでは、スリット形状の領域3aで同形状のものがストライプを形成するように平行に配列されている。この領域3aのスリットサイズは、スリット間隔との関係において前面投射型スクリーン10の裏面側からおもて面側の景色を視認するのに十分な大きさであればよく、例えばスリット幅として1〜0.01mmがよい。また、スリット長さは配置方向のスクリーン長さでもよいが、それよりも短くてもよい。また、領域3aのスリット間隔は、前面投射型スクリーン10の裏面側からおもて面側の景色を視認するのに十分に小さな間隔であるばかりでなく、前面投射型スクリーン10のおもて面側で当該スクリーンに表示される画像が鑑賞できる程度の大きな間隔である必要がある。例えば、スリット間隔として1〜0.01mmがよい。なお、領域3aのスリット長さ方向はスクリーン縦方向、横方向のいずれであってもよい。
【0039】
図8に、光拡散シート3のおもて面側からみた場合の領域3aのその他の形状及び配置例を示す。
ここでは、ドット形状の領域3aで同形状のものが規則的に配列されている。この領域3aのドットサイズは、ドット分布との関係において前面投射型スクリーン10の裏面側からおもて面側の景色を視認するのに十分な大きさであればよく、例えばドット直径として1〜0.01mmがよい。また、領域3aのドット分布は、隣接するドットの間隔としてみた場合に、前面投射型スクリーン10の裏面側からおもて面側の景色を視認するのに十分に小さな間隔であるばかりでなく、前面投射型スクリーン10のおもて面側で当該スクリーンに表示される画像が鑑賞できる程度の大きな間隔である必要がある。例えばドット間隔として3〜0.01mmがよい。なお、図8ではドット形状として円形のものを示したが、これに限定されず三角形、四角形、多角形、星形、不定形などのいずれであってもよい。また、ドットの配列も不規則であってもよい。
【0040】
光拡散シート3は、従来公知のもの、例えばビーズを配列した層により構成されたフィルム、マイクロレンズアレー(MLA)を形成したフィルム、サンドブラスト処理などにより形成された金型表面の凹凸形状が表面に転写されてなるフィルムなどを用い、そのフィルムに後から前述した形状、配列の貫通穴である領域3aを形成する加工を行うことにより得られる。あるいは前記金型表面の凹凸形状をフィルム表面に転写して光拡散シートを作製する場合、前記金型表面を加工する際に領域3aの位置に相当する部分について転写した相手フィルム表面において平坦となるように加工することにより、本発明における光拡散シート3が得られる。
【0041】
以上の構成の前面投射型スクリーン10によれば、スクリーンおもて面側ではプロジェクタからの投射光による画像を鑑賞することができるとともに、スクリーン裏面側からは当該スクリーン越しにスクリーンおもて面側の景色を見ることができる。
【0042】
すなわち、当該スクリーンのおもて面側からの投射光Lp(前記特定波長領域の光)を反射シート1の光学多層膜12で反射し、光拡散シート3の領域A以外の領域で散乱させることにより、スクリーンおもて面側に画像を表示することができる。また、このとき光学多層膜12の波長選択反射機能によりプロジェクタからの投射光Lpのみを選択的に反射するため、外光に影響されず高コントラストの画像を表示することができる。一方、当該スクリーンのおもて面側から入射した外光Loは光拡散シート3の領域Aで通過または透過され、さらに前記特定波長領域(RGB三原色波長領域)以外の光が光学多層膜12を透過するため、スクリーン裏面側からスクリーンおもて面側の景色を見ることが可能となる。
【0043】
また、図9に本発明の前面投射型スクリーンの変形例1を示す。
前面投射型スクリーン20は、前記前面投射型スクリーン10の裏面(反射シート1の光拡散シート3が設けられる面とは反対面)に半吸収フィルタ4を備える構成となっている。これにより、前記前面投射型スクリーン10の機能に加えて、反射シート1を透過してきた光の一部を吸収することで前面投射型スクリーン20の表示画面に外光の写りこみが抑制され黒レベルを低下することができるので、該表示画面の高コントラスト化を図ることができる。
なお、半吸収フィルタ4としては、例えば、アクリルフィルム中にカーボン粒子を分散させたものが挙げられる。
【0044】
また、図10に本発明の前面投射型スクリーンの変形例2を示す。
前面投射型スクリーン30は、前記前面投射型スクリーン10の裏面(反射シート1の光拡散シート3が設けられる面とは反対面)に偏光フィルタ5を備える構成となっている。これにより、プロジェクタからの投射光が偏光制御されたもの(液晶プロジェクタ)とした場合に、前記前面投射型スクリーン10の機能に加えて、反射シート1を透過してきた外光の半分を吸収することで前面投射型スクリーン30の表示画面に外光の写りこみが抑制され、該表示画面の高コントラスト化を図ることができる。
なお、偏光フィルタ5としては、例えば、ポリビニルアルコールにヨウ素を含侵させ延伸したものが挙げられる。
【0045】
つぎに、本発明の車載用プロジェクタシステムについて説明する。
図11は、自動車両内部の様子を示すものであり、本発明の車載用プロジェクタシステムの実施の形態の概略が示されている。
本発明の車載用プロジェクタシステムは、前述した本発明の前面投射型スクリーン10,20,30のいずれかと、前記投射光の光源となるプロジェクタ50とを備え、運転席101と後部座席102とを有する自動車両に搭載される車載用プロジェクタシステムであって、前記前面投射型スクリーン10(20,30)は運転席101後方かつ後部座席102前方に設けられ、前記プロジェクタ50は該前面投射型スクリーン10(20,30)よりも前記後部座席102側に設けられているものである。
【0046】
これにより、後部座席102の搭乗者は前面投射型スクリーン10(20,30)上に表示される高コントラストの画像を鑑賞することができるとともに、プロジェクタ50からの投射光は前面投射型スクリーン10(20,30)で反射され、該スクリーンを透過しないことから、運転手はその光で眩しくなることはない。また、当該スクリーンのおもて面側から入射した外光Loは光拡散シート3の領域Aで通過または透過され、さらに前記特定波長領域(RGB三原色波長領域)以外の光が光学多層膜12を透過するため、運転手は後方視界が前面投射型スクリーン10(20,30)によりさえぎられることがなくなり、十分な後方視界を確保することができるようになる。
なお、このような発明の効果は、あらゆるデバイスのプロジェクタ(例えば、液晶プロジェクタ、DLPプロジェクタ、3管式プロジェクタなど)で得ることができる。
【0047】
また、前面投射型スクリーン10(20,30)における光学多層膜12の波長選択機能と併用して、自動車両の窓ガラスに同様の波長選択機能を有する光学フィルタを設けるとよい。これにより、前面投射型スクリーン10(20,30)の表示画像のコントラストをさらに向上させることができる。
【0048】
図12に、その具体例を示す。ここでは、前述の本発明の車載用プロジェクタシステムに加えて、自動車両の後部側窓ガラス103に前記反射シート1を貼り付けた構成を示している。
【0049】
後部側窓ガラス103には外光が入射するが、反射シート1により前記特定波長領域(RGB三原色波長領域)の光は外部に反射され、その波長領域以外の光が反射シート1を透過し車内に入射してくる。ついで、後部側窓ガラス103の反射シート1を透過した光は前面投射型スクリーン10(20,30)に入射するが、前記特定波長領域(RGB三原色波長領域)以外の光であることから当該スクリーンの反射シート1を透過するようになる。よって、前面投射型スクリーン10(20,30)の表示画面への外光の影響が抑制されるため、さらにコントラストを向上させることができる。
【0050】
また、前面投射型スクリーン10(20,30)における光学多層膜12の波長選択機能と併用して、自動車両のバックミラー(ルームミラー)104に前記特定波長領域(RGB三原色波長領域)を吸収する反射シート40を設けるとよい。その構成を図13に示す。
【0051】
前述の前面投射型スクリーン10(20,30)の反射シート1は、プロジェクタ50からの投射光のうち、わずかながら反射しないで透過してしまう。この透過した投射光はバックミラー104を介して運転手に到達するため、運転手はこの光に幻惑されて後方視界が確認できないという問題があった。
【0052】
そこで、本発明では、バックミラー104に前記反射シート40を設け、該反射シート40により前面投射型スクリーン10(20,30)を透過してくる投射光を吸収することでこの問題の解決を図っている。
【0053】
反射シート40は、基板41上に、反射層42と、金属酸化物膜43と透過性を有する光吸収薄膜44からなる光学多層膜とを備えてなるものであり、複数の特定波長領域の光に対して吸収特性を有し、複数の特定波長領域以外の光に対して反射特性を有する。ここで、特定波長領域は、プロジェクタの投射光として使用される赤色、緑色、青色(RGB三原色)の各色の光の波長領域を含む。
【0054】
図14に、この反射シート40の断面構成例を示す。
反射シート40は、基板41と、基板41側から順番に、Al(膜厚50nm)からなる反射層42と、Nb(膜厚730nm)からなる金属酸化物膜43と、Nb(膜厚3nm)からなる光吸収薄膜44とを備えている。
【0055】
図14の構成からなる反射シート40の反射特性を図15に示す。
この反射シート40をバックミラー104に貼り付けることで、前面投射型スクリーン10(20,30)を透過してくる光のうち、プロジェクタの投射光(RGB光)は吸収され、それ以外の光は反射されるので、運転手はプロジェクタの投射光に幻惑されることなく後方視界を確保することができる。
【0056】
つぎに、図16に、本発明の車載用プロジェクタシステムのその他の実施の形態の概略を示す。図16の構成において、図13に示した車載用プロジェクタシステムの構成のうち、前面投射型スクリーンのみが異なり、それ以外のものは同じである。
ここで、前面投射型スクリーン90は波長を選択して反射・透過するものではなく、入射光の一部を反射し、残りを透過するものであり、例えば従来公知の光反射シート、あるいはこの光拡散シート中にカーボン粉末を分散させてなるものである。
【0057】
本発明においては、プロジェクタ50からの投射光はその一部が前面投射型スクリーン90で反射されることにより、後部座席102の搭乗者は前面投射型スクリーン90上に表示される画像を鑑賞することができる。一方、プロジェクタ50からの投射光の残りは前面投射型スクリーン90を透過するが、ルームミラー104の反射シート40により吸収されるため、運転手まで到達することがなく、それ以外の外光成分の光は運転手まで到達するため、運転手はプロジェクタ映像(プロジェクタ50からの投射光)に幻惑されることなくルームミラー104越しに後方視界を確認することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る前面投射型スクリーンの構成を示す断面図である。
【図2】本発明で使用する反射シートの構成を示す断面図である。
【図3】本発明で使用する光学多層膜の反射特性・透過特性の概念図である。
【図4】本発明で使用する反射シートの構成例である。
【図5】図4の反射シートの反射特性を示す図である。
【図6】図4の反射シートの透過特性を示す図である。
【図7】本発明で使用する光拡散シートの表面外観図(1)である。
【図8】本発明で使用する光拡散シートの表面外観図(2)である。
【図9】本発明に係る前面投射型スクリーンの変形例(1)である。
【図10】本発明に係る前面投射型スクリーンの変形例(2)である。
【図11】本発明に係る車載用プロジェクタシステムの構成例を示す断面図である。
【図12】図11の車載用プロジェクタシステムの応用例(1)である。
【図13】図11の車載用プロジェクタシステムの応用例(2)である。
【図14】バックミラーに設けられる反射シートの構成例である。
【図15】図14の反射シートの反射特性を示す図である。
【図16】本発明に係る車載用プロジェクタシステムのその他の構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1…反射シート、3…光拡散シート、3a…領域、4…半吸収フィルタ、5…偏光フィルタ、10,20,30,90…前面投射型スクリーン、11,41…基板、12…光学多層膜、12H…高屈折率膜、12L…低屈折率膜、42…反射層、43…金属酸化物膜、44…光吸収薄膜、101…運転席、102…後部座席、103…後部窓ガラス、104…バックミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率がそれぞれ異なる数種の光学膜が積層された複数層からなり、投射光の波長領域を含む特定波長領域の光に対して高反射特性を有し、前記特定波長領域以外の波長領域の光に対して高透過特性を有する光学多層膜と、前記光学多層膜上に設けられ、該光学多層膜からの反射光を散乱して放射する光拡散層とを備え、当該スクリーンのおもて面側からの前記投射光を反射して画像として表示する前面投射型スクリーンであって、
前記光拡散層は、当該スクリーンのおもて面側からの入射光をその光学特性を変化させることなく裏面の光学多層膜側に通過または透過させる領域Aを有し、
当該スクリーンのおもて面側からの外光を前記光拡散層の領域Aで通過または透過し、さらに前記光学多層膜を透過させて、スクリーン裏面側からスクリーンおもて面側の景色を視認可能とすることを特徴とする前面投射型スクリーン。
【請求項2】
前記領域Aは、前記光拡散層を貫通する複数の穴であることを特徴とする請求項1に記載の前面投射型スクリーン。
【請求項3】
前記光学多層膜の前記光拡散層とは反対面に設けられ、外光の一部を吸収する半吸収板を備えることを特徴とする請求項1に記載の前面投射型スクリーン。
【請求項4】
前記光学多層膜の前記光拡散層とは反対面に設けられ、外光の一部を吸収する偏光板を備えることを特徴とする請求項1に記載の前面投射型スクリーン。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一に記載の前面投射型スクリーンと、前記投射光の光源となるプロジェクタとを備え、運転席と後部座席とを有する自動車両に搭載される車載用プロジェクタシステムであって、
前記前面投射型スクリーンは運転席後方かつ後部座席前方に設けられ、前記プロジェクタは該前面投射型スクリーンよりも前記後部座席側に設けられていることを特徴とする車載用プロジェクタシステム。
【請求項6】
前記自動車両の後部窓に前記特定波長領域の光を反射する選択反射フィルタを備えることを特徴とする請求項5に記載の車載用プロジェクタシステム。
【請求項7】
前記自動車両のバックミラーに前記特定波長領域の光を吸収し、該特定波長領域以外の光を反射する選択反射フィルタを備えることを特徴とする請求項5に記載の車載用プロジェクタシステム。
【請求項8】
入射する光の一部を反射し、残りを透過する前面投射型スクリーンと、該前面投射型スクリーンに特定波長領域の光を投射するプロジェクタとを備え、運転席と後部座席とを有する自動車両に搭載される車載用プロジェクタシステムであって、
前記前面投射型スクリーンは運転席後方かつ後部座席前方に設けられ、前記プロジェクタは該前面投射型スクリーンよりも前記後部座席側に設けられ、
前記自動車両のバックミラーに前記特定波長領域の光を吸収し、該特定波長領域以外の光を反射する選択反射フィルタを備えることを特徴とする車載用プロジェクタシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−147939(P2007−147939A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−341564(P2005−341564)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】