説明

加工デンプン及びその製造方法、並びにミックス粉、バッター液、フライ食品

【課題】
フライ食品において、衣と具材の結着性を向上させる手段を提供すること。
【解決手段】
本発明者らは、デンプンに大豆粉を加え、151〜165℃の温度域で、高温短時間の加熱処理を行って加工デンプンを製造し、その加工デンプンをフライ食品に用いることにより、衣と具材の結着性を向上させ、かつ、衣のサクサク感を向上させることができることを、新規に見出した。そこで、デンプンと大豆粉を混合する混合工程と、その混合物を、151〜165℃で30〜150分間、加熱する加熱処理工程と、を、少なくとも含む加工デンプン製造方法、を提供する。また、水分とデンプンと大豆粉を少なくとも含有し、大豆粉の含有量が、デンプンの含有量の0.7〜2.0重量%であり、白度が83.5〜67.5の範囲内である、加工デンプンを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工デンプン及びその製造方法、その加工デンプンを含有するミックス粉又はバッター液、並びにそのミックス粉又はバッター液を用いて調理したフライ食品に関する。より詳細には、加工デンプンの製造工程において、高温短時間(例えば、151〜165℃で30〜150分)の加熱処理を行って加工デンプンを製造すること、などに関する。
【背景技術】
【0002】
トンカツ、天ぷら、唐揚げなどのフライ食品は、一般に、具材に打ち粉をしたり、具材をバッター液に潜らせたりしてから、フライ調理する。
打ち粉には、一般に、小麦粉(薄力粉)を用いる。バッター液には、小麦粉(薄力粉)をベースとし、それに、水と、卵・牛乳・バターなどを適宜加えたものを用いる。
【0003】
近年、フライ食品において、打ち粉又はバッター液に、加工デンプンを加えるなどして、衣と具材の結着性を向上させる試みなどが、行われている。
例えば、出来合いのフライ食品は、衣が具材から剥がれると、見栄えが悪くなり、また、風味も低下するため、商品価値が低下する。そこで、打ち粉又はバッター液に、加工デンプンを加えることなどにより、衣と具材の結着性を高め、衣が具材から剥がれにくくする。
【0004】
例えば、特許文献1には、打ち粉又は衣材に用いる加工デンプンの製造方法として、デンプンに生大豆粉を混合し、120〜140℃、2時間以上、加熱処理し、加工デンプンを製造する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平4−51854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の加工デンプンを用いてフライ食品を調理した場合、衣と具材の結着性は向上するが、衣のサクサク感は不充分である、という課題があった。そこで、本発明は、フライ食品において、衣と具材の結着性を向上させ、かつ、衣のサクサク感を向上させる新規手段を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
フライ食品の打ち粉又はバッター液に用いる加工デンプンの製造工程において、140℃以上で従来通りの加熱処理を行うと、作製した加工デンプンに、着色・焦げ・焦げ臭などが生じる。そのため、従来、加工デンプンの作製工程において、140℃以上の加熱処理はほとんど行われていなかった。
【0007】
しかしながら、本発明者らは、デンプンに大豆粉を加え、151〜165℃の温度域で、高温短時間の加熱処理を行って加工デンプンの製造し、その加工デンプンをフライ食品の打ち粉又はバッター液として用いることにより、衣と具材の結着性を向上させ、かつ、衣のサクサク感を向上させることができることを、新規に見出した。
【0008】
そこで、本発明では、デンプンと大豆粉を混合する混合工程と、その混合物を、151〜165℃で30〜150分間、加熱する加熱処理工程と、加熱した混合物を冷却後、水分含量を調整する調湿工程と、を、少なくとも含む加工デンプン製造方法、を提供する。
【0009】
この方法により加工デンプンを作製し、その加工デンプンを打ち粉又はバッター液として用いてフライ食品を調理することにより、衣と具材の結着性、及び、衣のサクサク感を向上させ、食感・歯切れ感を向上させることができる。
【0010】
続いて、本発明者らは、加工デンプンの白度について、検討を行った。
上述の通り、加工デンプン製造工程において、高温条件で加熱処理を行うと、加工デンプンに着色が生じ、白度が低下する。
そこで、加工デンプンの白度と、その加工デンプンを用いてフライ食品を調理した場合の衣と具材の結着性及び衣のサクサク感と、の相関性について、検討した。
その結果、大豆粉の含有量が、デンプンの含有量の0.7〜2.0重量%であり、白度が83.5〜67.5の範囲内である、加工デンプンには、衣と具材の結着性、及び、衣のサクサク感を向上させる作用があることを、新規に見出した。
【0011】
そこで、本発明では、水分とデンプンと大豆粉を少なくとも含有し、大豆粉の含有量が、デンプンの含有量の0.7〜2.0重量%であり、白度が83.5〜67.5の範囲内である、加工デンプンを提供する。
【0012】
例えば、フライ用又は打ち粉用のミックス粉、フライ用バッター液などに、この加工デンプンを含有させることにより、調理したフライ食品の、衣と具材の結着性が向上でき、衣のサクサク感を向上できる。
【0013】
加えて、この加工デンプンを、ミックス粉又はバッター液に含有させることには、次のような利点がある。
従来の加工デンプン(140℃以下の加熱処理条件で作製したもの)を用いてバッター液を作製した場合、卵白や小麦粉を加えると、バッター液の粘度が低下し、調理の際に、具材にバッター液が絡み難くなるという課題があった。
それに対し、本発明に係る加工デンプンを添加することにより、卵白や小麦粉を加えてバッター液を作製する場合でも、バッター液の粘度低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、フライ食品における、衣と具材の結着性を向上でき、衣のサクサク感を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る加工デンプンの製造方法、並びに、本発明に係る加工デンプン、ミックス粉及びバッター液、フライ食品ついて、以下、順に説明する。
【0016】
<加工デンプンの製造方法について>
本発明に係る加工デンプンの製造方法の一例について、以下、説明する。
【0017】
本発明に係る加工デンプンは、例えば、次に示す各工程を順に行うことにより、製造できる。(1)大豆粉調製工程、(2)デンプンと大豆粉を混合する混合工程、(3)加熱処理工程、(4)冷却工程、(5)調湿工程。
以下、順に説明する。
【0018】
(1)大豆粉調製工程について:
この工程は、大豆粉を調製する工程であり、任意の工程である。
【0019】
この工程では、例えば、大豆粉を水などに混合・撹拌し、分散させる。
製造する加工デンプンの大豆臭をより低減したい場合、例えば、蒸し器で30秒〜2分間程度、加熱・蒸煮してから大豆粉を粉砕した後、水などに混合・撹拌し、加工デンプンの製造に用いる。これにより、大豆に含まれる酵素を失活させることができるため、大豆特有の青臭さを低減できる。
【0020】
(2)デンプンと大豆粉を混合する混合工程について:
この工程では、大豆粉の含有量が、デンプンの含有量の0.7〜2.0重量%になるように、デンプンなどに大豆粉を混合する。デンプンと大豆粉の混合は、例えば、次のように行う。
まず、適量の水に大豆粉を添加して分散させ、分散溶液を作製する。次に、ミキサーなどにデンプンを入れ、そのデンプンに分散溶液を添加しながら、両者が均一になるように混合する。分散溶液の最終的な添加量は、デンプンの含有量の18〜24重量%になるようにする。
【0021】
なお、デンプンは、各種未加工デンプン、又は、それらを物理的・化学的に若しくは酵素などで加工した各種加工デンプン、を適用可能である。例えば、コーンスターチ、タピオカデンプン、架橋タピオカデンプン、酸化タピオカデンプン、小麦デンプン、サゴデンプン、架橋サゴデンプン、馬鈴薯デンプン、架橋馬鈴薯デンプン、などを適用できる。
【0022】
デンプンとして、コーンスターチを用いる場合、例えば、大豆粉の分散溶液を作製する段階で、水にpH調整剤を添加し、pH調整を行う。クエン酸三ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸第二ナトリウムなどのアルカリ塩を用いて、pHを6.0〜7.5に調整することにより、加工デンプンをフライ食品に用いた場合における、衣と具材の結着性を向上できる。なお、その他のデンプンを用いた場合、アルカリ塩の添加は、任意であり、目的に応じて、必要な場合にのみ添加すればよい。
【0023】
また、デンプンとして、タピオカデンプン(架橋、酸化、エステル化したもの、及びそれらを混合したものを含む。)を用いる場合、タピオカデンプンとともに、油脂を添加してもよい。
油脂は、高温状態において、デンプン粒表面で一部酸化して、デンプンと大豆タンパク質との結合を保護・増強する。そのため、高温処理時におけるデンプンの糊化を抑制し、衣のサクサク感を、より向上させる。
その場合、油脂の添加量は、大豆粉の含有量に対して5〜40重量%(より好ましくは10〜20重量%)程度が好ましい。
なお、油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、サフラワー油、豚脂・牛脂及びそれらのエステル交換油、水素添加油、並びにそれらの油脂の混合油、などが挙げられる。
【0024】
(3)加熱処理工程
この工程は、前記混合工程における混合物を、高温短時間で加熱処理する工程である。
【0025】
加熱処理は、例えば、151〜165℃で30〜150分間、行う。ここで、加熱処理時間は、各設定温度に昇温してからの時間である。
【0026】
なお、昇温は、できるだけ速やかに行うほうが好ましい。特に、120〜150℃の間の昇温を緩慢に行うと、最終製品の制御が難しくなる。
120〜150℃の間における好適な昇温速度は、0.1〜3.0℃/分、より好適には、0.5〜1.5℃/分である。
【0027】
この工程における加熱処理手段は、特に限定されないが、例えば、パドルドライヤー、真空撹拌機、ナウターミキサー、サーモプロセッサー、トーラスディスク、リボコーン、ロッキングミキサーなどを、用いることができる。
【0028】
この工程で高温短時間の加熱処理を行うことにより、本発明に係る加工デンプンをフライ食品に用いた場合、衣と具材の結着性、及び、衣のサクサク感が向上する。
【0029】
本発明に係る加工デンプンをフライ食品に用いた場合において、衣と具材の結着性が向上する理由は、次の通りであると推測する。
加工デンプン製造工程において、151〜165℃の高温条件を付加することにより、一時的に、絶対的な乾燥状態になる。この絶対的な乾燥状態により、デンプン結晶構造配列の一部が揃い、デンプン粒表面と大豆タンパク質との結合が進行する。それにより、フライ時において、水存在下で加熱された場合でも、デンプン粒子の膨潤が抑制されるため、衣と具材の結着性が向上する。
加えて、デンプン粒表面と大豆タンパク質との結合が進行することにより、小麦粉やデンプン単独のみの場合よりも疎水性に傾く。それにより、打ち粉又はバッター液と具材との親和性が高まるため、衣と具材の結着性が向上する。
【0030】
一方、本発明に係る加工デンプンをフライ食品に用いた場合において、衣のサクサク感が向上する理由は、次の通りであると推測する。
加工デンプン製造工程において、151〜165℃の高温条件を付加することにより、急速に水分が分離し、一時的に、絶対的な乾燥状態になる。この絶対的な乾燥状態により、デンプン粒表面と大豆タンパク質との結合が進行し、デンプン粒子は大豆タンパク質によりコートされる。加えて、大豆油脂がその外側を覆い、デンプン粒子を保護する。そのため、フライ時において、高温によるデンプンの糊化が抑制され、衣のサクサク感が向上する。
【0031】
(4)冷却工程について:
この工程は、加熱処理後に、強制的に冷却する工程であり、任意である。なお、強制的に冷却しない場合は、例えば、室温条件に放置し、自然に冷却する方法などを採用してもよい。
【0032】
強制的に冷却する場合、例えば、気流方式、接触方式などを用いる方法を採用できる。
強制的に冷却することにより、強制冷却を行わない場合よりも、加工デンプンの白度を高くでき、着色をある程度抑制できる。
【0033】
(5)調湿工程について:
この工程は、加熱した混合物を冷却後、水分含量を12〜18重量%に調整する工程である。
【0034】
調湿は、例えば、室温条件に放置し、自然に冷却させるとともに、大気中の水分を吸収させてもよいし、加水してもよい。また、両者を組み合わせてもよい。
加水する場合、加水時の発熱温度を60℃以下に抑えながら、水分含量が、デンプン種に応じた平衡水分量を越えないようにする。
【0035】
なお、上述の加工デンプン製造方法には、次のような利点もある。
140℃以下で行う従来の加工デンプン製造方法は、乾燥時間に3〜6時間、熟成期間に2日〜1ヶ月が必要であった。それに対し、本発明に係る製造方法は、加熱処理を短時間で行うことができ、また、熟成期間を特に必要としないため、生産時間を大幅に短縮できる。従って、生産効率を高くできる。
【0036】
<加工デンプンについて>
本発明に係る加工デンプンは、水分とデンプンと大豆粉を少なくとも含有する。
【0037】
原料となるデンプンには、上述の通り、各種未加工デンプン、又は、それらを物理的・化学的に若しくは酵素などで加工した各種加工デンプン、を適用可能である。例えば、コーンスターチ、タピオカデンプン、架橋タピオカデンプン、酸化タピオカデンプン、小麦デンプン、サゴデンプン、架橋サゴデンプン、馬鈴薯デンプン、架橋馬鈴薯デンプン、などを適用できる。
【0038】
大豆粉は、その種類によって狭く限定されない。例えば、含油若しくは脱油の大豆粉、未加熱の又は加熱した大豆粉、などを適用可能である。
【0039】
大豆粉の含有量は、例えば、デンプン含有量の0.7〜2.0重量%になるようにする。デンプンに大豆粉を添加することにより、加工デンプンをフライ食品に用いた場合における、衣と具材の結着性が向上する。
【0040】
加工デンプンの水分含量は、12〜18重量%が好適である。
デンプン種により、好適な水分含量は異なるが、デンプンの平衡水分になるように調製する。例えば、コーンスターチなどの穀類デンプンは12〜14%、馬鈴薯デンプンは16〜18%が好適である。
【0041】
本発明に係る加工デンプンは、高温短時間の加熱処理を行って製造するため、着色があり、白度は従来のものよりも低い。最終製品の好適な白度は83.5〜67.5の範囲内である。
なお、加工デンプンの製造段階では、加熱処理を終了した後も、ある程度、白度が低下する。従って、加熱処理は、白度が、設定よりも2〜5高い状態のときに終了するほうがよい。
【0042】
本発明に係る加工デンプンは、高温短時間の加熱処理を行って加工デンプンを製造するため、加工デンプンをフライ食品に用いた場合における、衣と具材の結着性、及び、衣のサクサク感が良好である。
【0043】
<ミックス粉又はバッター液について>
上述の加工デンプンは、例えば、フライ用又は打ち粉用のミックス粉、若しくはフライ用バッター液に含有させることができる。
【0044】
フライ用又は打ち粉用のミックス粉の場合、例えば、小麦粉(薄力粉)などに、上述の加工デンプンを混合する。
【0045】
フライ用バッター液の場合、例えば、上述の加工デンプンを単独で水などに加え調製してもよく、また、目的に応じて、小麦粉(薄力粉)、卵白粉、卵・牛乳・バターなどとともに添加して調製してもよい。
また、フライ用バッター液の粘度を調整し又は安定させるために、増粘剤を単独で又は組み合わせて混合してもよい。増粘剤としては、例えば、α化デンプン、グアガム、キサンタンガムなどが適用可能である。
【0046】
その他、上述の通り、本発明に係る加工デンプンをミックス粉又はバッター液に含有させることには、卵白や小麦粉を加えてバッター液を作製する場合に、バッター液の粘度低下を抑制できるという利点がある。
【0047】
<フライ食品について>
本発明に係るフライ食品は、上述の加工デンプンを含有するミックス粉又はバッター液を用いて調理した食品を全て包含し、具材や揚げ方などにより、狭く限定されない。
【0048】
本発明に係るフライ食品として、例えば、トンカツ、天ぷら、唐揚げなどが挙げられる。本発明は、豚肉、鶏肉、ロースハム、イカなど、衣と結着しにくい具材を調理したフライ食品に、特に好適である。
【実施例1】
【0049】
実施例1では、加熱処理の際の加熱温度及び加熱時間をそれぞれ変えて加工デンプンを作製し、その加工デンプンを用いてトンカツを調理した場合における、衣と具材の結着性、及び、衣のサクサク感を調べた。
【0050】
実験手順の概要は、以下の通りである。
【0051】
まず、加工デンプンを作製した。
40℃の温水2.9Lにクエン酸三ナトリウム350gを溶解させた後、その溶液に大豆粉375gを加え、撹拌して分散させた。
次に、大豆粉を分散させた溶液を、コーンスターチ(水分含量13重量%、敷島スターチ株式会社製、以下の実施例において同じ)25kgにスプレーで吹き付けた後、リボンミキサーで30分間混合した。
次に、その混合物を、パドルドライヤー(株式会社奈良製作所製)に投入し、混合しながら、各設定温度、設定時間で、高温短時間の加熱処理を行った。
次に、加熱処理した混合物の水分含量が13重量%程度になるように調湿した。調湿の際には、スプレーで水分を加え、製品温度が60℃を超えないようにした。そして、調湿後、その混合物を粉砕し、加工デンプンを得た。
【0052】
続いて、トンカツの試作品の調理を行った。
まず、作製した加工デンプン100gに、5:1の割合のグアガムとキサンタンガムを加えて混合した後、冷水200mlを加えて5分間撹拌し、バッター液を調製した。その際、グアガムとキサンタンガムの添加量を調節し、バッター液の最終粘度がB型粘度計で2,800〜3,300cps(センチポアズ、以下同じ)になるようにした。
次に、1cm厚の豚肉を、バッター液にくぐらせ、パン粉付けを行った後、170℃の油で約4分間フライした。
【0053】
そして、調理したトンカツの試作品について、自然冷却後、包丁で切断し、切り口の結着性を観察し、衣と具材の結着性について、評価を行った。また、トンカツの試作品を試食し、衣のサクサク感について、官能評価を行った。
【0054】
結果を表1に示す。
【表1】

【0055】
各表中、「衣と具材の結着性」の評価は、調理したトンカツの試作品について、次の基準で行った。「×」肉と衣の間に剥がれた部分が多くみられる、「△」肉と衣の間に剥がれた部分がみられる、「○」肉と衣の間がほとんど剥がれていない、「◎」衣を指で押しても肉と衣がほとんど剥がれない。
各表中、「衣のサクサク感」の評価は、調理したトンカツの試作品について、次の基準で行った。「×」衣がべとつきサクサク感がない、「△」衣がややべとつきサクサク感がほとんどない、「○」衣のべとつきが少なくサクサク感も少しある、「◎」衣のべとつきがなくサクサク感がある。
表中、「焦げ臭」の評価は、作製した加工でんぷんの焦げ臭について、「弱」、「中」、「強」の三段階で行った。
なお、表中の「加熱時間」は、所定温度に達した後の加熱時間を表し、所定温度に達する前の加熱時間は含まない(以下の実施例でも同じ)。
【0056】
表1の結果は、大豆粉とデンプンを混合し、151〜165℃で30〜150分間の条件で加熱処理を行って、加工デンプンを作製し、その加工デンプンを用いてトンカツを調理することにより、そのトンカツの「衣と具材の結着性」及び「衣のサクサク感」を向上させることができることを示す。
なお、本実験では、加熱処理の好適な条件は、151〜155℃で60〜150分間、155〜160℃で30〜120分間、若しくは160〜165℃で30〜105分間、のいずれかであり、より好適な条件は、155〜160℃で60〜90分間、であった。
【実施例2】
【0057】
実施例2では、実施例1と同様、加熱処理の際の加熱温度及び加熱時間をそれぞれ変えて加工デンプンを作製し、その加工デンプンを用いて天ぷらを調理した場合における、衣と具材の結着性、及び、衣のサクサク感を調べた。
【0058】
加工デンプンは、実施例1と同様の方法により作製した。天ぷらの試作品は、次の手順で調理を行った。
まず、次の組成で、天ぷら粉の配合を行った。薄力小麦粉77重量部、作製した加工デンプン20重量部、粉末全卵2重量部、膨張剤1重量部。
次に、配合した天ぷら粉(計100部)に水170部を加え、衣液を作製した。
次に、短冊状に加工された冷凍ムラサキイカを、解凍後、衣付けし、170℃のサラダ油に入れ、2分間、油揚げした。
そして、出来上がった天ぷらを室温で5時間放置した後、衣と具材の結着性、及び、衣のサクサク感の評価を行った。
【0059】
結果を表2に示す。
なお、表中の各項目は、実施例1と同様の基準で評価を行った。
【表2】

【0060】
表2の結果は、本発明に係る加工デンプンが、天ぷらの調理にも適用できることを示す。即ち、本実験結果は、大豆粉とデンプンを混合し、従来よりも高温短時間(例えば、151〜160℃で30〜120分、又は160〜165℃で30〜90分間の条件)で加熱処理を行って、加工デンプンを作製し、その加工デンプンを用いて天ぷらを調理することにより、衣と具材の結着性、及び、衣のサクサク感を向上させることができることを示す。
【実施例3】
【0061】
実施例3では、実施例1及び実施例2と同様、加熱処理の際の加熱温度及び加熱時間をそれぞれ変えて加工デンプンを作製し、その加工デンプンを用いて唐揚げを調理した場合における、衣と具材の結着性、及び、衣のサクサク感を調べた。
【0062】
加工デンプンは、実施例1などと同様の方法により作製した。唐揚げの試作品は、次の手順で調理を行った。
まず、次の組成で、唐揚げ粉の配合を行った。加熱した薄力小麦粉(商品名「KN−1」、昭和産業株式会社製)40重量部、馬鈴薯デンプン25重量部、作製した加工デンプン20重量部、食塩10重量部、調味料4重量部、香辛料1重量部。
次に、配合した唐揚げ粉(計100部)に水100部を加え、衣液を作製した。
次に、鶏もも肉(約25g)に衣付けし、175℃のサラダ油に入れ、4分間、油揚げした。
そして、出来上がった唐揚げを室温で5時間放置した後、衣と具材の結着性、及び、衣のサクサク感の評価を行った。
【0063】
結果を表3に示す。
なお、表中の各項目は、実施例1などと同様の基準で評価を行った。
【表3】

【0064】
表3の結果は、本発明に係る加工デンプンが、唐揚げの調理にも適用できることを示す。即ち、本実験結果は、大豆粉とデンプンを混合し、従来よりも高温短時間(例えば、151〜160℃で30〜120分、又は160〜165℃で30〜90分間の条件)で加熱処理を行って、加工デンプンを作製し、その加工デンプンを用いて唐揚げを調理することにより、衣と具材の結着性、及び、衣のサクサク感を向上させることができることを示す。
【実施例4】
【0065】
実施例4では、加える大豆粉の量をそれぞれ変えて加工デンプンを作製し、その加工デンプンを用いてトンカツを調理した場合における、衣と具材の結着性、及び、衣のサクサク感を調べた。
【0066】
大豆粉の添加量をそれぞれ変えた以外は実施例1などと同様の方法により、加工デンプンの作製、トンカツの試作品の調理を行い、衣と具材の結着性、及び、衣のサクサク感の評価を行った。
なお、加工デンプン作製の際の加熱温度は155〜165℃に設定した。
【0067】
結果を表4に示す。
なお、表中、大豆粉の添加量は、用いたコーンスターチの量(25kg)に対する割合(重量%)で示した。
また、表中の各項目は、実施例1と同様の基準で評価を行った。
【表4】

【0068】
表4の結果は、加熱時間が60分〜120分の場合、大豆粉の添加量を0.7〜2.0重量%にして加工デンプンを作製することにより、衣と具材の結着性、及び、衣のサクサク感を向上させることができることを示す。
また、表4の結果は、加工デンプン作製時の加熱時間が30分〜60分の場合、大豆粉の添加量を、デンプン(コーンスターチ)添加量の1.5〜2.0重量%にして加工デンプンを作製し、その加工デンプンを用いてフライ食品を調理することにより、そのフライ食品における、衣と具材の結着性、及び、衣のサクサク感を向上させることができることを示す。
なお、加熱時間が150分以上の場合、作製した加工デンプンの焦げ臭が生じる場合があった。
【実施例5】
【0069】
実施例5では、デンプンとして、タピオカデンプンを用いて加工デンプンを作製し、その加工デンプンを用いてトンカツを調理した場合における、衣と具材の結着性、及び、衣のサクサク感を調べた。
【0070】
加工デンプンは、次の手順で作製した。
40℃の温水に大豆粉500gとサフラワー油75gを加え、撹拌して分散させた。
次に、大豆粉を分散させた溶液を、架橋タピオカデンプン(水分含量13重量%、敷島スターチ株式会社製)25kgにスプレーで吹き付けた後、リボンミキサーで30分間混合した。
次に、その混合物を、パドルドライヤー(株式会社奈良製作所製)に投入し、混合しながら、それぞれの加熱温度及び加熱時間で、加熱処理を行った。
次に、加熱処理した混合物に、スプレーで水分を加え、水分含量が13重量%程度になるように調湿した。そして、調湿後、その混合物を粉砕し、加工デンプンを得た。
【0071】
トンカツの調理手順及び評価方法は、実施例1などと同様である。
結果を表5に示す。
【表5】

【0072】
表5の結果は、タピオカデンプンを用いて加工デンプンを作製した場合でも、コーンスターチを用いた場合などと同様、衣と具材の結着性、及び、衣のサクサク感を向上させることができることを示す。
また、本実験では、加工デンプン中に、タピオカデンプンとともに油脂を含有させることにより、衣のサクサク感を、より向上させることができた。
【実施例6】
【0073】
実施例6では、加工デンプンの白度と、その加工デンプンを用いてフライ食品を調理した場合の衣と具材の結着性及び衣のサクサク感と、の相関性について、調べた。
【0074】
加工デンプンの作製手順及びトンカツの調理手順は、実施例1などと概ね同様である。
本実験では、加熱処理条件を、それぞれ、145〜150℃、151〜155℃、160〜165℃で、60分間又は90分間(各温度に達してからの時間)、とした。また、タピオカデンプンを用いて加工デンプンを作製した場合、加工デンプンの作製は、実施例5と同様の方法により行った。
【0075】
そして、加工デンプンを作製した段階で、加工デンプンの「色相」及び「臭い」を評価した。また、作製した加工デンプンを用いて調理したトンカツの「衣と具材の結着性」及び「衣のサクサク感」について、実施例1などと同様に、評価した。
なお、対照では、薄力粉の「色相」及び「臭い」を評価し、また、豚肉に薄力粉で打ち粉をし、溶き卵に潜らせ、パン粉付けを行った後、同様にフライしたトンカツについて、「衣と具材の結着性」及び「衣のサクサク感」を評価した。
【0076】
加工デンプンの「色相」は、「色の度合」と「白度」の二項目について、評価を行った。
「色の度合」は、作製した加工デンプンの色を観察した結果である。
「白度」は、作製した加工デンプンの白い度合を示す数値であり、白度の値が100の場合、完全な白色であることを示す。
本実験では、白度は、ケットC−100−型光電管白度計(株式会社ケット科学研究所製)を用いて測定した。具体的には、計測器本体の試料ケースに標準板を挿入し、感度を調整した後、試料皿にサンプルを入れ、試料ケースを設置し、その分析値を読み取った。
【0077】
結果を表6から表9に示す。
表6は、デンプンとしてコーンスターチを用いて145〜150℃の加熱処理を行うことにより加工デンプンを作製した場合の結果を、表7は、同じくコーンスターチを用いて151〜155℃の加熱処理を行った場合の結果を、表8は、同じくコーンスターチを用いて160〜165℃の加熱処理を行った場合の結果を、表9は、タピオカデンプンを用いて151〜155℃の加熱処理を行った場合の結果を、それぞれ示す。
【0078】
【表6】

【0079】
【表7】

【0080】
【表8】

【0081】
【表9】

【0082】
各表中、「大豆粉の添加量」の欄は、加工デンプン作製時に添加した大豆粉の量を示し、デンプン(コーンスターチ又はタピオカデンプン)の添加量を100とした値(重量%)である。
表中、「衣と具材の結着性」及び「衣のサクサク感」の評価は、実施例1と同様の基準で行った。
各表中、「臭い」の評価は、作製した加工デンプンについて、次の基準で行った。「×」焦げ臭又は大豆臭が強い、「△」焦げ臭又は大豆臭がある、「○」焦げ臭又は大豆臭が少ない、「◎」焦げ臭又は大豆臭がない。
なお、「衣と具材の結着性」、「衣のサクサク感」、「臭い」の各評価は、加熱処理を60分間行った場合と90分間行った場合とで、違いがなかった。
【0083】
表6に示す通り、加工デンプン作製時において、加熱処理を145〜150℃で行った場合、その加工デンプンを用いて調理したトンカツに関する、「衣と具材の結着性」及び「衣のサクサク感」の評価が低かった。
それに対し、表7〜表9に示す通り、加熱処理を151〜155℃又は160〜165℃で行った場合、大豆粉の添加量をデンプンの0.7〜2.0重量%にすると、「衣と具材の結着性」及び「衣のサクサク感」の評価が高く、加工デンプンの臭いに関する評価も高かった。
【0084】
以上の結果は、大豆粉の添加量をデンプンの0.7〜2.0重量%とし、151〜155℃又は160〜165℃で、60〜90分間、加熱処理を行って、加工デンプンを作製し、その加工デンプンを用いてトンカツを調理することにより、そのトンカツの「衣と具材の結着性」及び「衣のサクサク感」を向上させることができることを示す。
【0085】
従って、作製したトンカツの評価と、作製した加工デンプンの色相との相関性を勘案すると、本実験結果は、大豆粉の含有量が、デンプンの含有量の0.7〜2.0重量%であり、白度が83.5〜67.5の範囲内である、加工デンプンを用いてフライ食品を調理することにより、そのフライ食品の「衣と具材の結着性」及び「衣のサクサク感」を向上させることができることを示唆する。
【実施例7】
【0086】
実施例7では、加工デンプン作製時において、加熱処理後に強制冷却を行うことにより、作製した加工デンプンの白度を向上することができるかどうか、調べた。
【0087】
まず、実施例1などと同様の方法により、加工デンプンを作製した。大豆粉の添加量は、デンプンの1.5重量%とし、大豆粉とコーンスターチなどの混合物を、155℃到達後、155℃、60分間の条件で加熱処理を行い、加工デンプンを作製した。
次に、加熱処理した混合物を冷却した。冷却は、次の三種類の方法により行った。(1)加熱処理した混合物を袋に入れ、放置し、冷却する(強制冷却なし、自然に調湿される)、(2)加熱処理した混合物を冷却空送設備(ホソカワミクロン株式会社製)に移し、5℃の冷風で、15分間冷却し(気流式冷却)、冷却後加水して調湿する、(3)混合撹拌機(製品名「リボコーン」、株式会社大川原製作所製)に移し、内面の温度を5℃に設定し、30分間冷却し(接触式冷却)、冷却後加水して調湿する。
そして、冷却後、出来上がった各加工デンプンの白度を、実施例1と同様の方法により測定した。
【0088】
結果を表10に示す。
【表10】

【0089】
表10の結果は、加工デンプン製造工程において、高温短時間の加熱処理の後、強制冷却することにより、白度を高くすることができることを示す。
【実施例8】
【0090】
実施例8では、本発明に係る加工デンプンを打ち粉として用いた場合における、衣と具材の結着性を調べた。
【0091】
加工デンプンの作製手順及びトンカツの調理手順は、実施例1などと概ね同様である。本実験では、豚肉をバッター液に潜らせる前に、各加工デンプンを具材にまぶして、トンカツの試作品の調理を行った。
【0092】
結果を表11に示す。
表中、「結着性」の評価は、実施例1などと同様の基準で行った。
【表11】

【0093】
本発明に係る加工デンプンを用いて、打ち粉をしてトンカツの試作品を調理した場合(表11)と、打ち粉をせずにトンカツの試作品を調理した場合(上述の表1を参照)とを比較すると、例えば、151〜155℃、30分の加熱処理で作製した加工デンプンを用いてトンカツの試作品を調理した場合、衣と具材の結着性が向上した。
これは、打ち粉をすることにより、本発明に係る加工デンプンが具材中の水分を吸湿し、フライ時に具材から蒸発する水分の量を少なくできたためであると推測する。
【0094】
本実験結果は、本発明に係る加工デンプンを、打ち粉として用いることができることを示す。
【実施例9】
【0095】
実施例9では、本発明に係る加工デンプンを用いてバッター液を調製することにより、卵白や小麦粉を加えてバッター液を作製する場合に、バッター液の粘度低下を抑制できるかどうか、調べた。
【0096】
バッター液の調製は、次の手順で行った。
まず、実施例1などと同様の方法により、加工デンプンを作製した。
次に、作製した加工デンプン100gに、5:1の割合のグアガムとキサンタンガムを加えて混合した後、冷水200mlを加えて5分間撹拌し、バッター液を予備調製した。その際、実施例1と同様、グアガムとキサンタンガムの添加量を調節し、バッター液の最終粘度がB型粘度計で2,800〜3,300cpsになるようにした。
次に、予備調製したバッター液に、小麦粉10重量%又は卵白粉0.1重量%を添加してバッター液を調製し、その直後及び3時間後に、粘度を測定した。
そして、予備調製した際のバッター粘度を基準として、小麦粉又は卵白粉を添加後における、バッター粘度の低下の割合を取得した。
【0097】
結果を表12に示す。
【表12】

【0098】
表中、「試験例1」は、コーンスターチを用いて155℃、60分間の加熱処理条件で作製した加工デンプンを用いた場合(加工デンプンの作製方法は実施例1と同様)、「試験例2」は、タピオカデンプンを用いて60分間の加熱処理条件で作製した加工デンプンを用いた場合(加工デンプンの作製方法は実施例5と同様)、の結果をそれぞれ示す。
「比較例1」及び「比較例2」は、従来の加工デンプン(140℃以下の加熱処理条件で作製したもの)と、小麦粉又は卵白粉とを用いて調製した、バッター液を用いた場合の結果を示す。
【0099】
表12の結果は、高温短時間の加熱処理を行って作製した加工デンプンを添加することにより、卵白や小麦粉を加えてバッター液を作製する場合でも、バッター液の粘度低下を抑制できることを示す。
【0100】
本発明に係る加工デンプンを添加することによりバッター液の粘度が低下する理由は、次の通りであると推測する。
加工デンプン製造工程において、高温条件を付加することにより、デンプン粒表面と大豆タンパク質との結合が進行する。デンプン粒表面と大豆タンパク質との結合が進行することにより、小麦粉やデンプン単独のみの場合よりも疎水性に傾く。そして、加工デンプンの疎水的な性質が、バッター液の粘度低下を抑制する。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明に係る加工デンプンは、フライ食品のミックス粉、バッター液などに適用可能であり、また、打ち粉又はバッター液を用いて調理するフライ食品全般に適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンプンと大豆粉を混合する混合工程と、
その混合物を、151〜165℃で30〜150分間、加熱処理を行う加熱処理工程と、
加熱した混合物を冷却後、水分含量を調整する調湿工程と、
を、少なくとも含む、加工デンプン製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理工程の後に、強制的に冷却する冷却工程を含むことを特徴とする請求項1記載の加工デンプン製造方法。
【請求項3】
前記混合工程の前に、生大豆を蒸煮後、粉砕して大豆粉を調製する大豆粉調製工程を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の加工デンプン製造方法。

【請求項4】
水分とデンプンと大豆粉を少なくとも含有し、
大豆粉の含有量が、デンプンの含有量の0.7〜2.0重量%であり、
白度が83.5〜67.5の範囲内である、加工デンプン。

【請求項5】
請求項4記載の加工デンプンを少なくとも含有するフライ用若しくは打ち粉用のミックス粉。
【請求項6】
請求項4記載の加工デンプンを少なくとも含有するフライ用バッター液。
【請求項7】
請求項5記載のミックス粉又は請求項6記載のフライ用バッター液を用いて調理したフライ食品。



【公開番号】特開2007−29021(P2007−29021A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−218364(P2005−218364)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(592250975)敷島スターチ株式会社 (4)
【Fターム(参考)】