説明

加工条件探索装置

【課題】少ない実験数で最良の加工条件を探索することができるとともに、加工結果の良否評価に誤りがある場合でも、その誤りの影響を解消して、適正な加工条件を生成することができるようにする。
【解決手段】加工特性モデル生成部25により生成された新たな加工特性モデルを用いて、次の実験加工条件を生成する実験加工条件計算部21や、加工結果収集部12により蓄積された実験加工データ毎に、当該実験加工データ内の加工結果に含まれている加工良否評価を1つずつ変更する加工結果評価一部変更部27などを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、適切な加工条件を探索する加工条件探索装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業用途で用いられる加工機は、例えば、工具鋼からなる金属ワークに対して、物理的、電気的、化学的に作用を加えて形状を徐々に変化させる加工プロセスを実施することで、所望の最終形状を有する加工物を作製する。
加工対象となるワークは、金属のみならず、プラスチック、木材、有機物やガラスなど様々である。また、ワークの初期形状も、棒状、板状、塊状、筒状など様々である。
【0003】
一般に加工機は、加工条件と呼ばれる制御パラメータを変更することで、加工プロセスの状態を変化させることができる。したがって、適切な加工条件を選択することが、加工の成否を分けることになる。
しかし、ワークに対する加工の要求仕様を満足させる適正な加工条件を選択することは、実際問題として困難である。
【0004】
例えば、レーザビームのエネルギーや酸化燃焼反応を利用して、所望形状を得るレーザ加工というものがある。
このレーザ加工では、要求される加工面の面粗さ、形状精度を満たし、かつ、制御パラメータの経年変化やワーク成分のばらつきに左右されずに、適正な加工状態を維持する加工条件を選択することが求められている。
この加工条件は、複数の制御パラメータから構成されており、各々の制御パラメータは数段階に変化する値の中から一つ選択するように構成されている。
例えば、9種類の制御パラメータがあり、各々の制御パラメータが9段階の値を選べる場合、387420489(=9)通りの中から、一つを選び出すことになる。
【0005】
なお、加工の要求仕様を満足させる適正な加工条件を選択するには、事前に加工条件を網羅的に設計していることが前提となるが、加工条件を網羅的に設計することは簡単ではない。
その理由は、事前の実験で加工機の加工特性を取得するに際して、制御パラメータの組み合わせの数が非常に多く、全ての加工条件による実験を実施することはコストと時間を要するからである。
【0006】
また、加工条件を設計するには、ワークの加工条件と加工結果の関係を示す加工特性モデルを構築する必要があるが、加工特性モデルの構築は容易ではなく困難である。
その理由は、加工結果が良好であるか、不良であるかの判定を厳密に行うことが難しいことによるものである。例えば、レーザ加工における加工の良し悪しを決定する要因には、切断可否だけでなく、加工面の面粗さやドロスの有無などがあるが、これらの評価は、作業者の見た目による判断に頼っており、定量的な評価を行うことができず、評価を誤ることがある。また、加工時の発光波形、発光強度や音波を計測し、その計測値によって加工結果を推測する方法もあるが、いずれも加工現象を完全に捉えた指標ではなく、評価を誤ることがある。
このため、誤った加工結果の評価により加工特性モデルを生成することになり、望ましくない加工条件を設計する可能性がある。
【0007】
したがって、精度の高い加工特性モデルを生成する方法や、加工の要求仕様を満足させる適正な加工条件を選択する方法の開発が望まれる。
以下の特許文献1には、加工実験の結果により得ている知見に基づいて、発見的に加工特性モデルを構築しておき、その加工特性モデルに対して、これから行いたい加工に関する要求仕様を入力することで、その要求仕様を満たす加工条件を出力する方式が開示されている。
以下の特許文献2には、加工特性実験式をファジィ推論により非線形なものにする方法が示されている。
【0008】
以下の特許文献3には、実験加工の結果に基づいて逐次加工特性モデルを修正する方法が示されている。
以下の特許文献4には、予め、加工特性モデルを用意するのではなく、実験加工の繰り返しにより加工特性モデルを逐次推定し、その推定した加工特性モデルから実験加工条件を新たに生成することで、少ない実験数で精度の高い加工特性モデルを生成する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−282909号公報
【特許文献2】特許第2809064号公報
【特許文献3】特許第406852号公報
【特許文献4】特開2010−42499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の加工条件探索装置は以上のように構成されているので、特許文献4に開示されている方法を適用すれば、少ない実験数で精度の高い加工特性モデルを生成することができる。しかし、加工結果の良否評価に誤りがある場合、その誤りの影響を解消して、適正な加工条件を生成することはできないなどの課題があった。
【0011】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、少ない実験数で最良の加工条件を探索することができるとともに、加工結果の良否評価に誤りがある場合でも、その誤りの影響を解消して、適正な加工条件を生成することができる加工条件探索装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係る加工条件探索装置は、加工対象であるワークの加工条件と加工結果の関係を示す加工特性モデルを用いて、複数の制御パラメータの組み合わせである実験加工条件を生成する実験加工条件生成手段と、実験加工条件生成手段により生成された実験加工条件にしたがってワークを実験加工する加工機から実験加工の加工結果を収集し、その加工結果と上記実験加工条件の組を実験加工データとして蓄積する加工結果収集手段と、加工結果収集手段により蓄積された実験加工データを用いて、新たな加工特性モデルを生成し、その加工特性モデルを実験加工条件生成手段に出力する第1の加工特性モデル生成手段と、加工結果収集手段により蓄積された実験加工データ毎に、当該実験加工データ内の加工結果に含まれている加工良否評価を1つずつ変更しながら、変更後の加工良否評価が反映されている新たな加工特性モデルを生成する第2の加工特性モデル生成手段と、第2の加工特性モデル生成手段により生成された新たな加工特性モデルを合成する加工特性モデル合成手段とを設け、最適加工条件生成手段が、加工特性モデル合成手段により合成された加工特性モデルから最適な加工条件を生成するようにしたものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、加工対象であるワークの加工条件と加工結果の関係を示す加工特性モデルを用いて、複数の制御パラメータの組み合わせである実験加工条件を生成する実験加工条件生成手段と、実験加工条件生成手段により生成された実験加工条件にしたがってワークを実験加工する加工機から実験加工の加工結果を収集し、その加工結果と上記実験加工条件の組を実験加工データとして蓄積する加工結果収集手段と、加工結果収集手段により蓄積された実験加工データを用いて、新たな加工特性モデルを生成し、その加工特性モデルを実験加工条件生成手段に出力する第1の加工特性モデル生成手段と、加工結果収集手段により蓄積された実験加工データ毎に、当該実験加工データ内の加工結果に含まれている加工良否評価を1つずつ変更しながら、変更後の加工良否評価が反映されている新たな加工特性モデルを生成する第2の加工特性モデル生成手段と、第2の加工特性モデル生成手段により生成された新たな加工特性モデルを合成する加工特性モデル合成手段とを設け、最適加工条件生成手段が、加工特性モデル合成手段により合成された加工特性モデルから最適な加工条件を生成するように構成したので、少ない実験数で最良の加工条件を探索することができるとともに、加工結果の良否評価に誤りがある場合でも、その誤りの影響を解消して、適正な加工条件を生成することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1による加工条件探索装置を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1による加工条件探索装置の処理内容を示すフローチャートである。
【図3】実加工結果蓄積部24により蓄積された実験加工データの一例を示す説明図である。
【図4】加工特性モデルの構成を概念的に示している説明図である。
【図5】2つのパラメータa,bに対する加工特性モデルの一例を示す説明図である。
【図6】期待値の計算方法を示す説明図である。
【図7】加工良否評価の一部変更に伴う加工特性モデルの変化を示す説明図である。
【図8】作業者インタフェース画面の一例を示す説明図である。
【図9】加工良否評価を変更する加工結果の選択方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による加工条件探索装置を示す構成図である。
図1の加工条件探索装置は、実験加工条件生成部11、加工結果収集部12、加工特性モデル変更部13及び最適加工条件生成部14から構成されており、実験加工条件生成部11、加工結果収集部12、加工特性モデル変更部13及び最適加工条件生成部14のそれぞれが専用のハードウェア(例えば、CPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコン)で構成されているものを想定している。
しかし、加工条件探索装置はコンピュータで構成されていてもよく、加工条件探索装置がコンピュータで構成されている場合には、実験加工条件生成部11、加工結果収集部12、加工特性モデル変更部13及び最適加工条件生成部14の処理内容を記述しているプログラムをコンピュータのメモリに格納し、当該コンピュータのCPUが当該メモリに格納されているプログラムを実行するようにすればよい。
図2はこの発明の実施の形態1による加工条件探索装置の処理内容を示すフローチャートである。
【0016】
図1において、加工機1は実験加工条件生成部11により生成された実験加工条件にしたがって加工対象であるワークを実験加工し、その実験加工の加工結果(実験加工中に得られる現象や情報、実験加工終了後に得られる現象や情報)を加工結果収集部12に出力する産業用装置である。
加工機1は、例えば、金属の塊から所望の形状を除去、付加又は変形することで、最終的に所望する形状を得て製品(加工物)を作るものであり、このような加工機1としては、切削加工機、レーザ加工機、放電加工機、電子ビーム加工機、プラズマ加工機、電解加工機、鍛造機、圧延機、溶接機、表面処理機などが該当する。
この実施の形態1では、加工機1がレーザ加工機であるものとして説明する。
【0017】
実験加工条件生成部11は実験加工条件計算部21、実験加工条件記憶部22、加工特性モデル生成部25及び加工特性モデル記憶部26から構成されており、ワークに対する加工の要求仕様(例えば、ワーク材質、ワーク形状、加工に使用する工具の種類、寸法など)及びワークの加工条件と、加工結果との関係を示す加工特性モデルを用いて、複数の制御パラメータの組み合わせである実験加工条件を生成し、その実験加工条件を加工機1に与える処理を実施する。
加工結果収集部12は加工結果判定部23及び実加工結果蓄積部24から構成されており、加工機1から実験加工の加工結果を収集し、その加工結果と実験加工条件生成部11から出力された実験加工条件の組を実験加工データとして蓄積する処理を実施する。なお、加工結果収集部12は加工結果収集手段を構成している。
【0018】
加工特性モデル変更部13は加工結果評価一部変更部27、加工特性モデル生成部28、加工特性モデル蓄積部29、加工特性モデル合成部30及び合成加工特性モデル記憶部31から構成されており、加工結果収集部12により蓄積された実験加工データ毎に、当該実験加工データ内の加工結果に含まれている加工良否評価を1つずつ変更しながら、変更後の加工良否評価が反映されている新たな加工特性モデルを生成し、新たな加工特性モデルを合成する処理を実施する。
【0019】
最適加工条件生成部14は最適加工条件計算部32及び最適加工条件記憶部33から構成されており、加工特性モデル変更部13により合成された加工特性モデルから最適な加工条件を生成する処理を実施する。なお、最適加工条件生成部14は最適加工条件生成手段を構成している。
【0020】
実験加工条件計算部21は加工特性モデル記憶部26により記憶されている加工特性モデルを用いて、複数の制御パラメータの組み合わせである実験加工条件を生成し、その実験加工条件を実験加工条件記憶部22に出力する処理を実施する。
また、実験加工条件計算部21は実験加工を継続するか否かを判断する処理を実施し、実験加工の繰り返しを停止すると判断すると、実験加工条件の生成を停止する。実験加工を継続するか否かの判断基準としては、例えば、実験回数、時間、加工特性モデルの変化量、後述する期待値の絶対値などが考えられる。なお、実験加工条件計算部21は実験加工条件生成手段を構成している。
実験加工条件記憶部22は例えばRAMやハードディスクなどの記憶装置から構成されており、実験加工条件計算部21から出力された実験加工条件を記憶する。
【0021】
加工結果判定部23は例えば自動計測装置を用いて、加工機1から出力された加工結果を数値化して、加工の良否を評価する処理を実施する。
具体的には、加工時の発光波形の振幅、発光波形の強度、音波などを計測して数値化し、その数値の2値評価を実施することで、例えば、切断できた否か、加工面粗さ、ドロスの有無などを判断する。
実加工結果蓄積部24は加工機1により実験加工が行われる毎に、その実験加工に使用された実験加工条件、ワークに対する加工の要求仕様及び加工結果の組み合わせを実験加工データとして蓄積するリレーショナルデータベースである。
【0022】
ここで、図3は実加工結果蓄積部24により蓄積された実験加工データの一例を示す説明図である。
図3の例では、1件の加工結果について、時刻、場所等の複数の項目(フィールド)の集合として保持される。
また、実験加工データの集合をテーブルで表し、項目のID番号で他のテーブルのデータが結合されている。
この実加工結果蓄積部24により蓄積された実験加工データは、加工特性モデル生成部25により生成される加工特性モデルの形式や、当該加工特性モデル形式のパラメータが決定される際に使用される。
【0023】
加工特性モデル生成部25は実加工結果蓄積部24により蓄積された実験加工データを用いて、新たな加工特性モデルを生成し、新たな加工特性モデルを加工特性モデル記憶部26に出力する処理を実施する。なお、加工特性モデル生成部25は第1の加工特性モデル生成手段を構成している。
加工特性モデル記憶部26は例えばRAMやハードディスクなどの記憶装置から構成されており、加工特性モデル生成部25により生成された新たな加工特性モデルを記憶する。
【0024】
加工結果評価一部変更部27は実加工結果蓄積部24により蓄積された実験加工データ毎に、当該実験加工データ内の加工結果に含まれている加工良否評価を1つずつ変更する処理を実施する。
加工特性モデル生成部28は加工結果評価一部変更部27が加工良否評価を変更する毎に、変更後の加工良否評価が反映されている新たな加工特性モデルを生成し、新たな加工特性モデルを加工特性モデル蓄積部29に出力する処理を実施する。
なお、加工結果評価一部変更部27及び加工特性モデル生成部28から第2の加工特性モデル生成手段が構成されている。
加工特性モデル蓄積部29は例えばRAMやハードディスクなどの記憶装置から構成されており、加工特性モデル生成部28により生成された新たな加工特性モデルを記憶する。
【0025】
加工特性モデル合成部30は加工特性モデル蓄積部29により蓄積されている新たな加工特性モデルを合成し、合成後の加工特性モデルである合成加工特性モデルを合成加工特性モデル記憶部31に出力する処理を実施する。なお、加工特性モデル合成部30は加工特性モデル合成手段を構成している。
合成加工特性モデル記憶部31は例えばRAMやハードディスクなどの記憶装置から構成されており、加工特性モデル合成部30から出力された合成加工特性モデルを記憶する。
【0026】
最適加工条件計算部32は合成加工特性モデル記憶部31により記憶されている合成加工特性モデルから最適な加工条件を計算し、最適な加工条件を最適加工条件記憶部33に出力する処理を実施する。
最適加工条件記憶部33は例えばRAMやハードディスクなどの記憶装置から構成されており、最適加工条件計算部32から出力された最適な加工条件を記憶する。
【0027】
次に動作について説明する。
まず、実験加工条件計算部21は、予め用意されている複数の実験加工条件の中から、所定数の実験加工条件を初期実験加工条件として選出する。
例えば、2つのレベルに変化する7種類の制御パラメータが組み合わされている実験加工条件が用意されている場合(総計2の7乗通り(2=128通り)の実験加工条件が用意されている場合)、それらの実験加工条件の中から、所定数(例えば、8通り)の実験加工条件を初期実験加工条件として選出する。
この初期実験加工条件の選出は、いわゆるL8型直交表を用いるものであるが、L8型直交表に限るものではなく、L4型直交表、L16型直交表、L32型直交表、L64型直交表、L9型直交表、L27型直交表、L81型直交表、L243型直交表、L12型直交表、L18型直交表、L36型直交表、L72型直交表などを用いてもよい。
あるいは、多元配置、ラテン方格、グレコラテン方格、一様計画、D最適、G最適、A最適などの最適計画、応答曲面計画における複合計画、Box and Behnken計画、あるいは、全くのランダムな計画などを適宜用いてもよい。
【0028】
実験加工条件計算部21は、例えば、8通りの実験加工条件を初期実験加工条件として選出すると、それらの初期実験加工条件の中から1つの初期実験加工条件を選択し、実験加工条件記憶部22を介して、その初期実験加工条件を加工機1及び実加工結果蓄積部24に出力する(図2のステップST1)。
加工機1は、実験加工条件計算部21から初期実験加工条件を受けると、その初期実験加工条件にしたがってワークを実験加工し、その実験加工の加工結果を加工結果判定部23に出力する(ステップST2)。
【0029】
加工結果判定部23は、加工機1から加工結果を受けると、例えば、自動計測装置を用いて、その加工結果を数値化して、加工の良否を評価する(ステップST3)。
例えば、加工中に観測された加工機の動作信号(加工時の発光波形の振幅、発光波形の強度、音波など)を計測して数値化し、その数値の2値評価を実施することで、例えば、切断できた否か、加工面粗さ、ドロスの有無などを判断する。
実加工結果蓄積部24は、図3に示すように、実験加工に使用された実験加工条件、ワークに対する加工の要求仕様及び加工結果の組み合わせを実験加工データとして蓄積する(ステップST4)。
【0030】
その後、残りの7通りの初期実験加工条件についても、実験加工条件計算部21が順次選択することで(ステップST1)、加工機1が実験加工条件計算部21により選択された初期実験加工条件にしたがってワークを実験加工する(ステップST2)。
そして、加工結果判定部23が加工の良否を評価し(ステップST3)、実加工結果蓄積部24が実験加工データを蓄積する(ステップST4)。
8通りの初期実験加工条件に基づく実験加工が終了すると(ステップST5:YESの場合)、ステップST6の処理に移行する。
ここでは、加工機1がワークを実験加工する毎に、実加工結果蓄積部24が実験加工データを蓄積するものを示したが、8通りの初期実験加工条件に基づく実験加工が終了してから、8通りの加工結果を収集して実験加工データを蓄積するようにしてもよい。
【0031】
加工特性モデル生成部25は、8通りの初期実験加工条件に基づく実験加工が終了すると、実加工結果蓄積部24により蓄積された実験加工データを用いて、新たな加工特性モデルを生成し、新たな加工特性モデルを加工特性モデル記憶部26に出力する(ステップST6)。
ここで、図4は加工特性モデルの構成を概念的に示している説明図である。
図4の例では、加工特性モデルは、加工条件を引数とする関数を3つ備えている。
加工条件を探索する段階においては、これらの関数によって、加工面の面粗さ、ドロスの付着、加工可否を推測することができる。各関数は、別途定められる動作パラメータによって、加工特性モデルの入出力関係を変化させることができる。
動作パラメータの決定は、実加工結果蓄積部24により蓄積された実験加工データを処理することで行われる。例えば、実験加工データの重回帰分析、サポートベクターマシーンやサポートベクター回帰、カーネル回帰、ベイズポイントマシン、ベイズ推定、最尤推定、応答曲面、ニューラルネットワークなどの関数モデル及びパラメータ決定アルゴリズムの組み合わせを用いることで行われる。
【0032】
図5は2つのパラメータa,bに対する加工特性モデルの一例を示す説明図である。
図5の例では、○印と×印で表されている点が実験加工点であり、実線で描かれている線が、加工特性モデルによって推定された加工結果が良好となるか、不良となるかの境界を示している。
この実線で描かれている線は、実験によって、その時点で得られているパラメータa,bと、その判定結果の組み合わせの集合から、最も尤もらしい推定モデル(加工特性モデル)を上述の方法で計算して得られる。この推定モデルは、実験加工結果が得られる度に毎回計算されて作り直される。
【0033】
実験加工条件計算部21は、加工特性モデル生成部25が新たな加工特性モデルを加工特性モデル記憶部26に出力すると、その加工特性モデルを用いて、次の実験加工条件を生成する(ステップST7)。
次の実験加工条件は、加工特性を知る上で、最も有効であると期待される加工条件である。
以下、実験加工条件の生成処理を具体的に説明する。
【0034】
図6は期待値の計算方法を示す説明図である。
未だ実験していない加工条件の組み合わせの集合(a,b)の中から、次に実験すべき候補点を選択するが、その候補点は、未だ実験していない残り全てでもよいし、推定モデルにより得られる境界(実線)から一定の距離にあるものなど、何らかの基準によって、候補点を絞り込んでもよい。
候補点を絞り込むことにより、期待値の計算回数が減るので、計算時間が短縮される効果が得られる。
【0035】
次に、選択した候補点の全てについて、推定モデルの計算方法を用いて、その候補点にある加工結果が良好であると判定された場合に描かれる境界(図6の二点鎖線)と、その候補点にある加工結果が不良であると判定された場合に描かれる境界(図6の一点鎖線)とを計算する。
次に、実線と一点鎖線に囲まれた領域の面積A1を計算するとともに、実線と二点鎖線に囲まれた領域の面積A2を計算する。
そして、面積A1,A2を用いて、A1+A2を期待値とする。
あるいは、(A1+A2)/|A1−A2+1|のような算式の演算結果を期待値とする。
【0036】
このとき、A1+A2が大きいことは、推定モデルが大きく変わる可能性が高いことを表しており、|A1−A2+1|が小さいことは、候補点の加工結果の違いによる推定モデルの変化量の違いが小さいことを表している。
|A1−A2+1|が大きいと、当たれば推定モデルの変化量が大きくなるが、外すと推定モデルの変化量が小さくなる状態を表しており、A1+A2が大きくても|A1−A2+1|が大きいと良くないので、(A1+A2)/|A1−A2+1|の計算結果を見て判断するのが有効である。
全ての候補点について、期待値の計算を実施すると、得られた期待値の中で、最も期待値が大きい候補点を選択し、その候補点を次の実験加工条件として、加工機1及び実加工結果蓄積部24に出力する。
【0037】
加工機1は、実験加工条件計算部21から次の実験加工条件を受けると、その実験加工条件にしたがってワークを実験加工し、その実験加工の加工結果を加工結果判定部23に出力する(ステップST8)。
【0038】
加工結果判定部23は、加工機1から加工結果を受けると、例えば、自動計測装置を用いて、その加工結果を数値化して、加工の良否を評価する(ステップST9)。
実加工結果蓄積部24は、図3に示すように、実験加工に使用された実験加工条件、ワークに対する加工の要求仕様及び加工結果の組み合わせを実験加工データとして蓄積する(ステップST9)。
【0039】
実験加工条件計算部21は、実加工結果蓄積部24により実験加工データが蓄積されると、実験加工を継続するか否かを判断する。
実験加工を継続するか否かの判断基準としては、例えば、実験回数、時間、加工特性モデルの変化量、期待値の絶対値などが考えられる。
実験加工条件計算部21は、実験加工を継続すると判断すると(ステップST11:NOの場合)、ステップST6の処理に戻り、次の実験加工条件を生成するが、実験加工の繰り返しを停止すると判断すると、実験加工条件の生成を停止する(ステップST11:YESの場合)。
【0040】
加工結果評価一部変更部27は、実験加工条件計算部21が実験加工条件の生成を停止して、加工機1による実験加工が終了すると、実加工結果蓄積部24により蓄積された実験加工データの中から、1つの実験加工データを選択し、その実験加工データ内の加工結果に含まれている加工良否評価を1つ変更する(ステップST12)。
実験加工データの選択は、加工機1による実験加工の順番にしたがってもよいし、ランダムに選択してもよい。
また、実験加工データ内の加工結果に含まれている加工良否評価がN項目ある場合(図3の例では、加工良否評価が4項目ある)、N項目の中から1つの項目を選択して、その項目の加工良否評価を変更する。
【0041】
加工特性モデル生成部28は、加工結果評価一部変更部27が加工良否評価を変更する毎に、変更後の加工良否評価が反映されている新たな加工特性モデルを生成し、新たな加工特性モデルを加工特性モデル蓄積部29に出力する(ステップST13)。
即ち、加工特性モデル生成部28は、加工結果評価一部変更部27により1つの加工良否評価が変更された実験加工データを含む全ての実験加工データ(実加工結果蓄積部24により蓄積された全ての実験加工データ)を用いて、新たな加工特性モデルを生成する。
加工特性モデル生成部28による加工特性モデルの生成方法自体は、加工特性モデル生成部25と同様である。
加工特性モデル蓄積部29は、加工特性モデル生成部28から出力された新たな加工特性モデルを蓄積する(ステップST14)。
なお、ステップST12〜ST14の処理は、選択した実験加工データ内の加工結果に含まれている加工良否評価が、実は異なるものであるとしたらという仮説を試してみることに相当する。
【0042】
ここで、図7は加工良否評価の一部変更に伴う加工特性モデルの変化を示す説明図である。
図7の例では、実験加工を終えた段階では、実線で囲まれた領域に加え、点線と実線で囲まれた領域も、良好加工であると推定されているパラメータ領域である(矢印で示している実験加工条件は、加工結果判定の段階では良好であると評価された条件である)。
しかし、矢印で示している実験加工条件の加工良否評価を良好から不良に変えて、加工特性モデルを再生成すると、良好加工となる条件が、実線で囲まれた領域のみになる。
【0043】
加工結果評価一部変更部27は、実加工結果蓄積部24により蓄積された全ての実験加工データの中で未選択の実験加工データが残されている場合、あるいは、未選択の実験加工データが残されていない場合でも、ある実験加工データ内の加工結果に含まれているN項目の加工良否評価の中で、未だ変更していない加工良否評価が残されている場合(ステップST15:NOの場合)、ステップST12の処理に戻って、加工良否評価の変更処理を継続する。
【0044】
即ち、加工結果評価一部変更部27は、先に変更した加工良否評価を変更前の状態に戻し、前回選択した実験加工データ内の加工結果に含まれているN項目の加工良否評価の中で、未だ変更していない加工良否評価を変更する(ステップST12)。
あるいは、未だ選択していない実験加工データを選択して、その実験加工データ内の加工結果に含まれている加工良否評価を1つ変更する(ステップST12)。
加工特性モデル生成部28は、加工結果評価一部変更部27が1つの加工良否評価を変更すると、上記と同様に、1つの加工良否評価が変更された実験加工データを含む全ての実験加工データを用いて、新たな加工特性モデルを生成する(ステップST13)。
加工特性モデル蓄積部29は、加工特性モデル生成部28から出力された新たな加工特性モデルを蓄積する(ステップST14)。
【0045】
加工結果評価一部変更部27は、実加工結果蓄積部24により蓄積された全ての実験加工データの中で未選択の実験加工データが残されておらず、しかも、全ての実験加工データ内の加工結果に含まれている加工良否評価の全てを変更している場合(ステップST15:YESの場合)、加工良否評価の変更処理を終了する。
【0046】
加工特性モデル合成部30は、加工良否評価の変更処理が終了すると、加工特性モデル蓄積部29により蓄積されている新たな加工特性モデルを合成し、合成後の加工特性モデルである合成加工特性モデルを合成加工特性モデル記憶部31に出力する(ステップST16)。
具体的には、加工特性モデル蓄積部29により蓄積されている新たな加工特性モデルの中で、良好な加工結果が得られると推定された加工条件だけを抽出し、その加工条件からなる推定モデルを合成加工特性モデルとする。
あるいは、加工特性モデル蓄積部29により蓄積されている新たな加工特性モデルの中で、良好な加工結果が得られる集合の積集合をとることで、新たな加工特性モデルを合成する。
【0047】
最適加工条件計算部32は、加工特性モデル合成部30が合成加工特性モデルを合成加工特性モデル記憶部31に出力すると、その合成加工特性モデルから最適な加工条件を計算し、最適な加工条件を最適加工条件記憶部33に出力する(ステップST17)。
例えば、合成加工特性モデルに含まれている加工条件(良好な加工結果が得られると推定された加工条件)における組み合わせのパラメータの領域の中心を計算する。
この結果、制御パラメータの経年変化や、ワークの成分のばらつきの影響を受けにくい加工条件を得ることができる。
【0048】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、加工対象であるワークの加工条件と加工結果の関係を示す加工特性モデルを用いて、複数の制御パラメータの組み合わせである実験加工条件を生成する実験加工条件計算部21と、実験加工条件計算部21により生成された実験加工条件にしたがってワークを実験加工する加工機1から実験加工の加工結果を収集し、その加工結果と上記実験加工条件の組を実験加工データとして蓄積する加工結果収集部12と、加工結果収集部12により蓄積された実験加工データを用いて、新たな加工特性モデルを生成し、その加工特性モデルを実験加工条件計算部21に出力する加工特性モデル生成部25と、加工結果収集部12により蓄積された実験加工データ毎に、当該実験加工データ内の加工結果に含まれている加工良否評価を1つずつ変更する加工結果評価一部変更部27と、加工結果評価一部変更部27が加工良否評価を変更する毎に、変更後の加工良否評価が反映されている新たな加工特性モデルを生成する加工特性モデル生成部28と、加工特性モデル生成部28により生成された新たな加工特性モデルを合成する加工特性モデル合成部30とを設け、最適加工条件生成部14が、加工特性モデル合成部30により合成された加工特性モデルから最適な加工条件を生成するように構成したので、少ない実験数で最良の加工条件を探索することができるとともに、加工結果の良否評価に誤りがある場合でも、その誤りの影響を解消して、適正な加工条件を生成することができる効果を奏する。
【0049】
この実施の形態1で得られる効果は、具体的には以下の通りである。
この実施の形態1では、実験加工が行われる度に、実加工結果蓄積部24に加工結果がデータとして追加蓄積され、そのデータに基づいて新たな加工特性モデルが生成される。そして、実験加工条件計算部21が、新たな加工特性モデルを用いて、加工特性を知る上で最も有効であると期待される加工条件を次の実験加工条件として生成する。したがって、要求仕様に対応する加工条件を決定するに際して、少ない実験数で、簡単に所望の加工条件を探索することができる。
【0050】
また、この実施の形態1では、加工結果評価一部変更部27が、実加工結果蓄積部24により蓄積された実験加工データ内の加工結果に含まれている加工良否評価を1つずつ変更し、加工特性モデル生成部28が、変更後の加工良否評価が反映されている新たな加工特性モデル(加工結果の評価が誤っている場合の加工特性モデル)を生成し、加工特性モデル合成部30が、加工特性モデル生成部28により生成された新たな加工特性モデルを合成し、最適加工条件生成部14が、加工特性モデル合成部30により合成された加工特性モデルから最適な加工条件を生成している。したがって、加工結果の判定誤りの影響を受けにくい加工条件の中から最適条件を選択することができ、加工結果の判定を誤る可能性のある加工に対して、望ましくない加工条件を出力する頻度が減少する。
【0051】
ところで、この実施の形態1では、加工特性モデルの生成(ステップST6)、実験加工条件の生成(ステップST7)、実験加工の実施(ステップST8)、加工結果の判定(ステップST9)及び実験加工データの蓄積(ステップST10)を順番に繰り返し実行しており、実験加工条件計算部21が、実験加工回数や加工特性モデルの変化量に応じて、実験加工条件生成の継続又は停止を決定している。
また、この実施の形態1では、加工結果評価の一部変更(ステップST12)、加工特性モデルの生成(ステップST13)及び加工特性モデルの蓄積(ステップST14)を順番に繰り返し実行しており、加工結果評価一部変更部27が、加工結果評価の一部変更の継続又は停止を判断している。
したがって、自動的に実験加工を繰り返すことが可能になり、その際、加工特性モデルの最適化を加速させる実験加工を行うことで、全体として、より良い加工条件を得るまでの時間が短くなる。
【0052】
この実施の形態1では、実験加工条件計算部21がステップST7で生成する実験加工条件が、ステップST7の時期毎に1つであるものを示したが、毎回複数の実験加工条件を生成し、加工機1が複数の実験加工条件にしたがって、毎回複数の実験加工を実施するようにしてもよい。
操作者による段取り作業が必要な実験加工においては、一段の段取りで、複数の実験加工を続けて実施したい場合がある。このような場合に、ステップST7の時期毎に、実験加工条件計算部21が複数の実験加工条件を生成するように構成することで、このような段取り換えの回数を減らすことができる。
【0053】
この実施の形態1では、加工条件パラメータが、a,bという2パラメータの場合を示したが、加工条件パラメータの個数が2個以上(例えば、5個、7個)であってもよく、同様の効果を得ることができる。
パラメータの数が増えると、組み合わせ数が膨大になるため、パラメータの数が増大する場合には、実験回数を減らすことができる本発明はより有利である。
加工条件パラメータが複数である場合、上述した面積を計算する部分は、多次元空間内の多様体の体積に相当する量の計算に置き換えればよい。
あるいは、カルバックライブラーダイバージェンスの計算式を用いて、現在の推定モデルと、予想される推定モデルの差を計算して、その差を用いるようにしてもよい。
【0054】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、加工結果判定部23が自動計測装置を用いて、加工機1から出力された加工結果を数値化して、加工の良否を評価するものを示したが、加工結果判定部23が、加工機1から出力された加工結果を表示して、加工の良否評価の設定を受け付けるマンマシンインタフェースを備えるようにしてもよい。
例えば、計測の自動化に莫大なコストがかかる場合や、加工結果を判定するのに適当な計測値がない場合には、手動による計測や、見た目による判断が必要になる。
そこで、この実施の形態2では、加工結果判定部23がマンマシンインタフェースを備える構成とする。
【0055】
加工結果判定部23は、実験加工条件や計測した数値データの表示と、見た目による判定結果の入力とが可能な作業者インタフェース画面を備えるものとする。即ち、加工結果判定部23を加工機1のNC(numerical control unit)装置の一画面とする。
ここで、計測した数値データとは、実験加工により得られた加工物を手作業で計測することにより取得した数値データである。
なお、上記とは異なり、加工機1とネットワーク接続された別置きのコンピュータ上に同様の作業者インタフェース画面を備える構成を採用してもよい。
【0056】
例えば、ユーザが手作業で加工物の加工結果形状を計測し、その計測結果を作業者インタフェース画面に対して数値データとして入力する態様が考えられる。
ここで、図8は作業者インタフェース画面の一例を示す説明図である。
以下、図8を参照しながら、この実施の形態2の加工条件探索装置の動作を説明する。
【0057】
実験加工条件計算部21が、例えば、4つの初期実験加工条件を生成しているとすると、作業者インタフェース画面には、図8に示すように、4つの初期実験加工条件が表示される。
この場合、加工機1は、4つの初期実験加工条件にしたがって実験加工を4回実施する。
作業者は、4回の実験加工が終了すると、例えば、加工物の面粗さ、ドロスの有無、切断可否などの項目を手作業で計測又は判定して、その結果を入力する。
なお、初期実験加工条件に基づく実験加工、手作業による加工結果の計測・判定、計測・判定結果の入力処理を、初期実験加工条件毎に順次繰り返し実施してもよい。
また、計測データは数値データであり、判定結果は“1”や“−1”のような2値の数値データ、あるいは、指定された文字列や記号とする。文字列や記号を入力する場合には、実加工結果蓄積部24が、文字列や記号を“1”や“−1”のような2値の数値データに変換する。
【0058】
次に、加工特性モデル生成部25は、初期実験加工条件及び入力された計測値を用いて、加工特性モデルを生成する。
その後、実験加工条件計算部21は、その加工特性モデルを用いて、例えば、3つの実験加工条件を新たに生成する。
その後、加工機1は、新たに生成された実験加工条件にしたがって実験加工を実施する。
次に、作業者は、加工機1により生成された加工結果の計測・判定を行い、図8に示す作業者インタフェース画面に対して、その計測・判定結果を入力する。
【0059】
なお、3つの実験加工条件に基づく実験加工の全てが終了した後に、その実験加工により作製された加工物の計測・判定、入力処理を実施してもよい。また、1つあるいは2つの実験加工条件に基づく実験加工が終了した後、一旦、実験加工を停止して、その実験加工により作製された加工物の計測・判定、入力処理を実施し、その後、残りの実験加工条件に基づく実験加工を再開し、その実験加工により作製された加工物の計測・判定、入力処理を実施するようにしてもよい。
【0060】
作業者インタフェース画面に対して、手入力で寸法の計測結果が入力されると、直ちに、その入力された数値データが実加工結果蓄積部24に蓄積される。
そして、加工特性モデル生成部25は、実加工結果蓄積部24に蓄積された数値データ及び既に記憶されている各データを用いて、加工特性モデルを新たに生成する。
次に、実験加工条件計算部21は、上記のように、作業者インタフェース画面に対して、加工結果の計測結果及び判定結果が手入力されると、加工特性モデル生成部25により生成された加工特性モデルを用いて、例えば、3つの実験加工条件を新たに生成する。
【0061】
なお、いずれかの段階で、作業者が作業者インタフェース画面に表示される「実験加工条件」を入力したとする。この場合には、既に発生している実験加工条件のうち、未だ実験加工されていない残りの実験加工条件は消去される。
実験加工条件計算部21は、当該時点における加工特性モデルを用いて、例えば、3つの実験加工条件を新たに生成する。そして、加工機1は、新たに生成された実験加工条件に基づく実験加工を自動的に実施する。
また、実験加工条件計算部21が、実験加工の終了を判断した場合、もしくは、作業者インタフェース画面に表示される「実験加工終了」が入力された場合には、新たな実験加工の実施を停止し、加工結果評価一部変更部27が実加工結果評価の変更を行う。そして、最適加工条件計算部32が最適加工条件を生成する。
【0062】
以上のように、この実施の形態2によれば、加工物に対する計測結果及び判定結果を外部から入力するための作業者インタフェース画面を備えているため、加工機1で作製された加工物に対する手動計測や、人による判定が必要な場合にも対応することが可能な加工条件探索装置を提供することができる。
【0063】
実施の形態3.
上記実施の形態1,2では、加工結果評価一部変更部27が、実加工結果蓄積部24により蓄積された全ての実験加工データ内の加工結果に含まれている加工良否評価を1つずつ変更するものを示したが、実加工結果蓄積部24により蓄積されている実験加工データ内の加工結果の中から、加工良否評価を変更する一部の加工結果を選択し、その加工結果に含まれている加工良否評価を1つずつ変更するようにしてもよい。
【0064】
図9は加工良否評価を変更する加工結果の選択方法を示す説明図である。
加工結果評価一部変更部27は、実加工結果蓄積部24により蓄積されている実験加工データ内の加工結果の中で、一部の加工結果に含まれている加工良否評価を変更するが、例えば、良好であると判定された加工結果のうち、隣接する実験加工の加工結果であって、不良であると判定された加工結果を、加工良否評価を変更する加工結果の候補とする。
加工結果評価一部変更部27は、加工良否評価を変更する加工結果の候補の中から、1つの加工結果を選択して、その加工結果に含まれている加工良否評価を変更する。
【0065】
加工特性モデル生成部28は、加工結果評価一部変更部27が加工良否評価を変更すると、上記実施の形態1と同様に、加工良否評価が変更された実験加工データを含む全ての実験加工データを用いて、新たな加工特性モデルを生成し、その加工特性モデルを加工特性モデル記憶部26に蓄積する。
加工結果評価一部変更部27は、変更した加工良否評価を変更前の状態に戻し、全ての候補について、加工良否評価の変更が完了するまで上記処理を繰り返し実施する。
【0066】
加工結果の判定の信頼性については、全ての判定において信頼性が低いということではなく、信頼性の高い判定結果と信頼性の低い判定結果がある。
この実施の形態2では、隣接する2つの加工結果の評価を比較し、2つが異なる評価がなされている場合には、僅かな条件(ワークの成分や制御パラメータの経年変化、湿度、温度)の変化によって、加工結果の評価が変わっている可能性や、見た目による判断のつき難いものである可能性があり、加工結果の判定の信頼性が低くなっていることに着目している。
また、評価を変更する加工結果の候補の選出基準としては、例えば、実線で描かれている境界から一定の距離内にあるものでもよいし、境界からの距離が近い順にM番目(例えば、10番目)までとする基準でもよい。
この実施の形態2によれば、評価を変更する加工結果の数を減らすことができるため、最適な加工条件を探索するのにかかる時間を削減することができる効果がある。
【0067】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 加工機、11 実験加工条件生成部、12 加工結果収集部(加工結果収集手段)、13 加工特性モデル変更部、14 最適加工条件生成部(最適加工条件生成手段)、21 実験加工条件計算部(実験加工条件生成手段)、22 実験加工条件記憶部、23 加工結果判定部、24 実加工結果蓄積部、25 加工特性モデル生成部(第1の加工特性モデル生成手段)、26 加工特性モデル記憶部、27 加工結果評価一部変更部(第2の加工特性モデル生成手段)、28 加工特性モデル生成部(第2の加工特性モデル生成手段)、29 加工特性モデル蓄積部、30 加工特性モデル合成部(加工特性モデル合成手段)、31 合成加工特性モデル記憶部、32 最適加工条件計算部、33 最適加工条件記憶部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象であるワークの加工条件と加工結果の関係を示す加工特性モデルを用いて、複数の制御パラメータの組み合わせである実験加工条件を生成する実験加工条件生成手段と、上記実験加工条件生成手段により生成された実験加工条件にしたがって上記ワークを実験加工する加工機から実験加工の加工結果を収集し、上記加工結果と上記実験加工条件の組を実験加工データとして蓄積する加工結果収集手段と、上記加工結果収集手段により蓄積された実験加工データを用いて、新たな加工特性モデルを生成し、上記加工特性モデルを上記実験加工条件生成手段に出力する第1の加工特性モデル生成手段と、上記加工結果収集手段により蓄積された実験加工データ毎に、当該実験加工データ内の加工結果に含まれている加工良否評価を1つずつ変更しながら、変更後の加工良否評価が反映されている新たな加工特性モデルを生成する第2の加工特性モデル生成手段と、上記第2の加工特性モデル生成手段により生成された新たな加工特性モデルを合成する加工特性モデル合成手段と、上記加工特性モデル合成手段により合成された加工特性モデルから最適な加工条件を生成する最適加工条件生成手段とを備えた加工条件探索装置。
【請求項2】
加工結果収集手段は、加工機から出力された加工結果を数値化して、加工の良否を評価する加工結果判定部を備えており、上記加工結果判定部の判定結果である加工良否評価を含む加工結果と、実験加工条件との組を実験加工データとして蓄積することを特徴とする請求項1記載の加工条件探索装置。
【請求項3】
加工結果収集手段は、加工機から出力された加工結果を表示して、加工の良否評価の設定を受け付けるマンマシンインタフェースを備えており、上記マンマシンインタフェースにより設定が受け付けられた加工良否評価を含む加工結果と、実験加工条件との組を実験加工データとして蓄積することを特徴とする請求項1または請求項2記載の加工条件探索装置。
【請求項4】
第2の加工特性モデル生成手段は、加工結果収集手段により蓄積された実験加工データ内の加工結果の中から、加工良否評価を変更する一部の加工結果を選択し、上記加工結果に含まれている加工良否評価を1つずつ変更しながら、変更後の加工良否評価が反映されている新たな加工特性モデルを生成することを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載の加工条件探索装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−236267(P2012−236267A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108354(P2011−108354)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】