説明

加工装置

【課題】オペレータが誤って加工条件を書き換えてしまった場合であっても、過去の加工条件を復元でき、かつ、このことをオペレータの負担を増やさずに実現可能とする技術を提案する。
【解決手段】被加工物を保持する保持手段と、保持手段に保持された被加工物を加工するための加工手段と、加工手段を制御する制御手段と、制御手段と接続され加工条件を入力する入力手段と、を含む加工装置であって、加工装置は、制御手段中のデータ設定部に設定された加工条件に基づき加工を行い、データ設定部上の加工条件はデータ設定部に接続された加工条件記憶手段に自動的に保存され、入力手段で過去の任意の時刻を指定することで、データ設定部に設定された現時点の加工条件を、任意の時刻の加工条件に置き換える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハ等の被加工物を加工する加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程では、略円盤形状の半導体ウェーハの表面に格子状に配列されたストリートと呼ばれる分割予定ラインによって複数の領域が区画され、この区画された領域にIC、LSI等のデバイスが形成される。こうしたウェーハは、裏面を研削装置のスピンドルに装着された研削ホイールや研磨パッドによって研削、研磨されて所定の厚みに形成され、最終的には切削装置のスピンドルに装着された切削ブレードによってストリートが切削され個々のデバイスに分割される。
【0003】
このような加工を行う各種加工装置では、切削ブレード、研削ホイール、又は研磨パッドを高速回転させることで加工がなされるが、加工の際には、その回転スピードやウェーハに切り込む又は当接させる速度等の「各種の条件」が設定される。
【0004】
また、加工装置においては、切削ブレード、研削ホイールを装着するスピンドル、装置各所に設置された軸類といった各種装置のデフォルト状態(初期設定)を規定するための「固有のデータ」も記憶されている。例えば、特許文献1では、軸の原点位置等を記憶することについて開示しており、ある軸が他の軸と衝突することを防いだり、軸が規定した位置に正確に移動したりすることを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−071712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の「各種の条件」や「固有のデータ」といった各種データ(以下、「加工条件」とする。)は、被加工物について特定の加工を施す上で非常に重要である。
【0007】
しかしながら、このような加工条件は非常に重要なものでありながら、オペレータが加工装置の入力手段を操作することで、誤って書き換えが生じてしまう可能性が存在した。
【0008】
このため、USBメモリなどの外部記憶装置に随時記憶して保存することで、いわゆるバックアップを蓄積する運用が考えられるが、当然ながら保存されていなかったデータは復元できないものとなる。また、データの復元性を高めためにはこまめなデータ保存が必須となるが、オペレータの負担が増加してしまうことになる。
【0009】
そこで、本発明は、オペレータが誤って加工条件を書き換えてしまった場合であっても、過去の加工条件を復元でき、かつ、このことをオペレータの負担を増やさずに実現可能とする技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明によると、被加工物を保持する保持手段と、保持手段に保持された被加工物を加工するための加工手段と、加工手段を制御する制御手段と、制御手段と接続され加工条件を入力する入力手段と、を含む加工装置であって、加工装置は、制御手段中のデータ設定部に設定された加工条件に基づき加工を行い、データ設定部上の加工条件はデータ設定部に接続された加工条件記憶手段に自動的に保存され、入力手段で過去の任意の時刻を指定することで、データ設定部に設定された現時点の加工条件を、任意の時刻の加工条件に置き換えることを特徴とする加工装置が提供される。
【0011】
好ましくは、制御手段と、加工条件記憶手段は、ネットワークを介して接続される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、例えば、オペレータが誤って加工条件を書き換えてしまった場合であっても、過去の特定の時間(任意の時間)の加工条件を復元できることになる。加えて、加工条件が加工条件記憶手段に自動的に保存されることによれば、データを保存する手間が省かれる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】加工装置の一例である切削装置の外観斜視図である。
【図2】制御手段と加工条件記憶手段について示すブロック図である。
【図3】加工条件記憶手段におけるデータ記憶について説明する図である。
【図4】第3の処理における表示画面例について示す図である。
【図5】制御手段と加工条件記憶手段の別実施形態について示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。加工装置の一例として、半導体ウェーハの切削装置2の外観斜視図が図1に示されている。切削装置2は、切削ブレードを有する切削ユニット10等の加工手段がハウジング8内に収容された加工装置本体4と、加工装置本体4のハウジング8に装着された表示モニタ6などを有して構成される。
【0015】
切削ユニット10に隣接してチャックテーブル12がX軸方向に移動可能に配設されている。14は内部に複数のウェーハ22を収容したカセット24を載置するカセット載置台(エレベータ)であり、上下方向に移動可能に構成されている。
【0016】
16は切削装置2の稼働状況を表示する表示ランプであり、切削装置2が正常作動時には例えば緑色で点灯し、何らかの故障が生じた場合には赤色が点滅する。18,20は非常停止ボタンであり、作業者がこの非常停止ボタン18,20を押すと切削装置2の作動を直ちに停止することができる。
【0017】
切削装置2には、所定の加工条件に基づいた加工を実施するために、切削装置2を自動制御するための制御手段30が設けられている。図2の概略図に示されるように、制御手段30はマイクロコンピュータによって構成されており、制御プログラムに従って演算処理するCPU(中央処理装置)31と、制御プログラム等を格納するROM(リードオンリーメモリ)32と、演算結果等を格納する読み書き可能なRAM(ランダムアクセスメモリ)33と、入出力インターフェース34とを備えて構成される。
【0018】
ROM32には、所定の加工条件に基づいて切削ユニット10などを自動制御するための制御プログラムが格納されている。ここで加工条件には、切削ブレードの切り込み深さ、切削ブレードの回転数、チャックテーブル12の加工送り速度などといった加工のためのデータ(前述の「各種の条件」)や、装置類のデフォルト状態(初期設定)を規定するためのデータ(前述の「固有のデータ」)が含まれる。
【0019】
RAM33は、制御プログラムや加工条件の読み込みや、オペレータにより入力される加工条件の一時的な記憶などを行うものであり、「データ設定部」として機能する。
【0020】
入出力インターフェース34には、加工条件を入力する入力手段として機能するとともに、各種情報を表示する表示手段としても機能する表示モニタ6(図1参照)が接続されている。
【0021】
入出力インターフェース34には、切削ユニット10を回転させるモータや、チャックテーブル12を移動させるモータなどの各種駆動装置が接続されており、制御プログラムの実行による演算結果に基づいて、各種駆動装置が加工条件に則って駆動されるようになっている。
【0022】
入出力インターフェース34には、加工条件記憶手段40が接続されている。この加工条件記憶手段40は、ROM32、RAM33を主記憶装置とした場合に、いわゆる補助記憶装置として機能する装置であり、磁気ディスク、フラッシュメモリなどの形態で実現されるものである。
【0023】
加工条件記憶手段40は、本実施形態では磁気ディスクの形態として、制御手段30と別の筐体41内に設置され、入出力インターフェース34とケーブルにて接続される構成としている。筐体41は、切削装置2内に収容するほか、切削装置2の外部に付設してもよい。このほかにも、加工条件記憶手段40は、例えばUSBメモリにて構成され、入出力インターフェース34に挿し込んだ状態で使用される形態なども考えられる。
【0024】
また、加工条件記憶手段40は、後述する加工条件Kや記録時刻情報Tを保存するための専用の記憶装置として切削装置2に備える記憶手段に追加的に設けるほか、各種のデータを保存するための切削装置2の記憶手段として設けられるものであってもよい。
【0025】
以上の構成において、本発明の一実施形態として以下の処理が実行され得る。
即ち、入力手段にて任意に入力される加工条件をRAM33上に一時的に記憶する第1の処理と、RAM33に一時的に記憶された加工条件を、加工条件記憶手段40に対しその記録時間情報とともに記憶する第2の処理と、加工条件記憶手段40に記憶された記憶された加工条件を、記録時間情報を指定して読み込む第3の処理、が実行され得る。
【0026】
具体的には、まず、第1の処理は、オペレータが表示モニタ6を用いて任意に加工条件を入力した場合においてなされる処理である。制御手段30は、オペレータによる任意入力による加工条件の設定、変更が許容される、いわゆる「自由設定・変更モード」での装置稼動を可能としている。なお、オペレータによる任意入力を禁止する「設定禁止モード」での装置稼動も可能としている。いずれのモードで装置稼動をさせるかは、装置の管理者により設定されることができる。
【0027】
次に、第2の処理は、オペレータにより入力されてRAM33上に一時的に記憶された加工条件を、加工条件記憶手段40に対し記憶する処理であり、その記録の際に、加工条件に記録時間情報を付加して記憶をするという処理である。記録時間情報は、例えば、13時0分0秒(13:00:00)といった実際の時刻であり、加工条件が加工条件記憶手段40に記憶されたタイミングを特定するための情報である。
【0028】
図3では、この第2の処理を模式的に表したものであり、各時刻において、RAM33上に一時的に記憶されている加工条件Kが、記録時刻情報Tが付加された上で加工条件記憶手段40に記憶されていることが示されている。
【0029】
この第2の処理は、制御プログラムによって所定時間ごとに自動的に行なわせることができる。例えば、RAM33上にある加工条件Kを1分間隔で自動的処理にて加工条件記憶手段40に保存させる形態である。また、加工条件Kの変更がなされたタイミングで自動的に加工条件記憶手段40に保存させることも考えられる。さらに、このほか、オペレータの任意によって行われる、つまりは、任意のタイミング(時刻)でのマニュアル操作にて加工条件記憶手段40に記憶させることも考えられる。これらの自動処理とマニュアル操作は両方が行なわれ得ることとしてもよい。
【0030】
図3の例では、例えば、時刻11:00:00に第2の処理がなされることにより、当該時刻において加工条件Kとして設定されている条件01aが、記録時刻情報T(11:00:00)とともに加工条件記憶手段40に記憶されていることが表されている。同様に、時刻12:00:00に第2の処理がなされることにより、当該時刻において加工条件Kとして設定されている時刻11:00:00とは異なる条件02aが、記録時刻情報T(12:00:00)とともに加工条件記憶手段40に記憶されていることが表されている。
【0031】
次に、第3の処理においては、第2の処理によって加工条件記憶手段40に記憶された加工条件Kを、記録時刻情報Tを指定して読み込むことが行われる。例えば、図4の表示モニタ6の例に示されるように、オペレータは、現在の時刻13:00:00で条件04cにて稼動している状況で、記録時刻情報T(時刻11:00:00)を指定して、時刻11:00:00における条件01aを読み込むことができる。そして、30秒後の時刻13:00:30では、条件01aで稼動されることが示されている。
【0032】
なお、第3の処理における記録時刻情報Tの指定は、図4の例に示されるように、任意の時刻を設定することとするほか、例えば、10分前、30分前、1時間前、など、遡る時間単位を任意の時刻として指定することで行なわれてもよい。また、任意の時刻を指定した際に、当該時刻に対応する記録時刻情報Tが存在しない場合には、当該時刻に最も近い記録時刻情報Tを選択候補として表示モニタに表示させることとしてもよい。
【0033】
以上の第1〜第3の処理を実行可能に構成することで、例えば、オペレータが誤って加工条件を書き換えてしまった場合であっても、特定の時間の加工条件を復元できることになる。加えて、加工条件Kが加工条件記憶手段40に自動的に保存されるため、データを保存する手間が省かれる。
【0034】
以上の第1〜第3の処理を実施するための装置構成として、図1の例では、被加工物としてのウェーハ22を保持する保持手段としてのチャックテーブル12と、保持手段に保持された被加工物を加工するための加工手段としての切削ユニット10と、切削ユニット10を制御する制御手段30(図2参照)と、制御手段30と接続され加工条件を入力する入力手段としての表示モニタ6と、を含む加工装置である切削装置2であって、切削装置2は、制御手段30中のデータ設定部となるRAM33に設定された加工条件に基づき加工を行い、RAM33上の加工条件はRAM33に接続された加工条件記憶手段40に自動的に保存され、表示モニタ6で過去の任意の時刻を指定することで、RAM33に設定された現時点の加工条件(現在時刻における加工条件)を、任意の時刻の加工条件に置き換える構成となっている。
【0035】
そして、この構成により、図3の例に示されるように、現在時刻13:00:00において条件04cであったものが、その2時間前の条件01aに置き換えられることが可能となる。
【0036】
以上の実施形態に加え、図5に示すように、制御手段30を備える切削装置と、切削装置とは別の場所に設置される加工条件記憶手段40Aとを、ネットワークNを介して接続する形態も考えられる。ここで、「別の場所」とは、例えば、切削装置が設置される構内に隣接する別の建物構内や、地理的に遠く離れたデータセンターなどが考えられる。また、ネットワークNには、イントラネット、インターネットのいずれも含まれる。
【0037】
図5に示す制御手段30Aでは、通信手段35を備えることにより、ネットワークNを介したデータ通信を行い得る構成とする。加工条件記憶手段40Aについても同様に、ネットワークNを介したデータ通信を行い得る構成とするものであって、いわゆるサーバー装置Sとして構成され得るものである。
【0038】
以上の構成では、切削装置内や切削装置に付設して加工条件記憶手段40を備える必要がなくなり、仮に切削装置の故障や、切削装置の設置構内において予期せぬ問題が生じた場合でも、加工条件記憶手段40に記憶されたデータを紛失することがない。加えて、切削装置2とは独立して加工条件記憶手段40を構成することができるため、データが増加した際に磁気ディスクを造設するなどのメンテナンスが容易に行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0039】
2 切削装置
4 加工装置本体
6 表示モニタ
8 ハウジング
10 切削ユニット
12 チャックテーブル
22 ウェーハ
24 カセット
30 制御手段
31 CPU
32 ROM
33 RAM
34 入出力インターフェース
40 加工条件記憶手段
41 筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持する保持手段と、該保持手段に保持された該被加工物を加工するための加工手段と、該加工手段を制御する制御手段と、該制御手段と接続され加工条件を入力する入力手段と、を含む加工装置であって、
該加工装置は、該制御手段中のデータ設定部に設定された加工条件に基づき加工を行い、該データ設定部上の該加工条件は該データ設定部に接続された加工条件記憶手段に自動的に保存され、該入力手段で過去の任意の時刻を指定することで、該データ設定部に設定された現時点の該加工条件を、該任意の時刻の加工条件に置き換える、ことを特徴とする加工装置。
【請求項2】
前記制御手段と、前記加工条件記憶手段は、ネットワークを介して接続される、
ことを特徴とする請求項1記載の加工装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−45358(P2013−45358A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183930(P2011−183930)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】