説明

匍匐害虫駆除方法

【課題】 従来の全量噴射型エアゾール剤や燻煙剤を用いた場合よりも少ない薬剤量で匍匐害虫に対する充分な駆除効果を発揮する新たな匍匐害虫駆除方法を提供する。
【解決手段】 本発明の匍匐害虫駆除方法は、殺虫成分および溶剤を含む殺虫液を室内空間、収納空間等の空間内に蒸散させて匍匐害虫を駆除する方法であって、前記溶剤として特定の構造を有する化合物を用い、前記空間に粒子径の小さい殺虫液微粒子が浮遊し続けるように、ピエゾ式噴霧器を用いて殺虫液の単位時間当たりの蒸散量を少なく抑えながら時間をかけて前記殺虫液を蒸散させる、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ゴキブリ、ダニ等の匍匐(ほふく)害虫の駆除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ゴキブリ等の匍匐害虫は薬剤に対する感受性が低く、容易に駆除できるものではない。したがって、これらの害虫を効果的に駆除するためには、多くの薬剤の中から使用条件等を勘案したうえで最適な薬剤を選択して使用する必要がある。
ところが、匍匐害虫に有効とされている薬剤の多くは、蒸気圧の低いものが多いことから、使用空間における薬剤の蒸散性、拡散性が弱く、室内等ではこれまで、全量噴射型エアゾール剤(特許文献1参照)や燻煙剤(特許文献2参照)として用いられてきた。このような全量噴射型エアゾール剤や燻煙剤の場合、通常、薬剤を一気に放散して一定時間空間を密閉した後に室内を換気するといった使用方法が採用されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−309242号公報
【特許文献2】特開平11−246306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した全量噴射型エアゾール剤の場合、空間に放散された薬剤粒子は比較的大きいので、その多くが床面に落下することになる。そのため、床面を匍匐する害虫に作用して効力を発現するが、その反面、害虫が忌避して隙間に潜んでいる場合には薬剤粒子が到達しにくく効果を発揮しにくい傾向がある。したがって、全量噴射型エアゾール剤では、室内空間の隙間にまで薬剤を到達させるように比較的多量の薬剤を使用する必要があった。
他方、前述した燻煙剤の場合には、空間に放散される薬剤粒子は比較的小さいので、その多くが空間中に漂うことになる。粒子径が小さく空間に漂う薬剤粒子は隙間にも入りやすいので、燻煙剤の場合は、隙間に潜む害虫に対しても高い効果が期待できる。しかし、その一方で、薬剤粒子は床面には落下しにくいので、床面を匍匐する害虫には効果を発現しにくい傾向があり、しかも空間に漂う薬剤粒子のうち一部は、自然換気等により室外に排出されることもあるので、燻煙剤の場合も、確実に駆除効果を得るために比較的多量の薬剤が使用されている。
このように、従来の全量噴射型エアゾール剤や燻煙剤によれば、実際に害虫の駆除効果に寄与していると思われるよりも多くの薬剤が使用されるため、薬剤の利用効率の点で無駄があると言える。また、薬剤の使用量は、人体等に対する安全性の点からも低減されることが望まれている。
さらに、全量噴射型エアゾール剤や燻煙剤は、薬剤を一気に放散し、所定の時間、室内空間における薬剤濃度を高くして用いられるものであるので、室内の煙や霧の濃度が一時的に高くなり、火災報知機やガス警報機などが誤作動してしまうおそれもあった。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、従来の全量噴射型エアゾール剤や燻煙剤を用いた場合よりも少ない薬剤量で、匍匐害虫に対する充分な駆除効果を発揮する新たな匍匐害虫駆除方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、全量噴射型エアゾール剤や燻煙剤を用いた場合のように使用薬剤の大部分を一気に放散させるのではなく、ピエゾ素子を使用した超音波振動により薬剤(液体)を霧化させるピエゾ式噴霧器を利用し、しかも通常よりも長い時間をかけて、特定構造を有する化合物を溶剤とした殺虫液を少しずつ蒸散させるようにすると、空間に粒子径の小さい殺虫液微粒子が浮遊し続けることになり、このような状態を長時間維持させることにより、床面に匍匐する害虫や隙間に潜む害虫に対して薬剤を無駄なく有効に作用させることができ、従来の全量噴射型エアゾール剤や燻煙剤に比べ薬剤使用量を大幅に低減しつつ(例えば全量噴射型エアゾール剤における薬剤使用量の1/30〜1/10)、匍匐害虫を効率よく駆除できることを見出した。つまり、本発明者らは、大量の薬剤を一度に曝露させることにより害虫が逃避する前に致死させようとする従来の方法を覆し、単位時間当たりの致死量に満たない薬剤量であっても害虫に長時間曝露させることで効果的に駆除できる、という新たな知見を見出したのである。本発明は、この知見に基づき完成されたものである。
【0007】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(i)殺虫成分および溶剤を含む殺虫液を室内空間、収納空間等の空間内に蒸散させて匍匐害虫を駆除する方法であって、前記溶剤として下記一般式(1)または(2)で示される構造を有する化合物を用い、前記空間に粒子径の小さい殺虫液微粒子が浮遊し続けるように、ピエゾ式噴霧器を用いて殺虫液の単位時間当たりの蒸散量を少なく抑えながら時間をかけて前記殺虫液を蒸散させる、ことを特徴とする匍匐害虫駆除方法。
1(―OCH2CH2n―OR2 ・・・(1)
1(―OCH(CH3)CH2n―OR2 ・・・(2)
(式(1)および(2)中、nは1〜3の整数、R1、R2は、H、CH3、C25、C(=O)CH3のいずれかであり、各々同じであってもよいし、異なっていてもよい。但し、R1とR2が同時にHであってはならない。)
(ii)蒸散時間が4時間以上である、前記(i)記載の匍匐害虫駆除方法。
(iii)前記空間に浮遊する殺虫液微粒子の平均粒子径(D50)が1〜15μmである、前記(i)または(ii)記載の匍匐害虫駆除方法。
(iv)前記匍匐害虫はゴキブリである、前記(i)〜(iii)のいずれかに記載の匍匐害虫駆除方法。
なお、本明細書においては、特に断りのない限り、殺虫液(殺虫成分および溶剤)が放散されることを「蒸散」と称し、殺虫成分が放散されることを「揮散」と称する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来の全量噴射型エアゾール剤や燻煙剤を用いた場合よりも少ない薬剤量で匍匐害虫に対する充分な駆除効果を得ることができる。また、本発明によれば、室内の煙や霧の濃度が一時的に高くなることがないので、火災報知機やガス警報機などが誤作動してしまうといった問題も回避できる。しかも、本発明の駆除方法は、人体への安全性についても充分に配慮された方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の匍匐害虫駆除方法は、殺虫成分および溶剤を含む殺虫液を室内空間、収納空間等の空間内に蒸散させて匍匐害虫を駆除する方法である。
本発明において用いることのできる殺虫成分としては、所期の効果を達成できるものであれば特に制限はなく、ゴキブリやダニ等の匍匐害虫に対して効力を有する各種殺虫成分の中から選択して用いることができる。例えば、シフェノトリン、ビフェントリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、エムペントリン、プロポクスル、メトキサジアゾン、アミドフルメト、ジノテフラン、ハイドロプレン、メトプレン等が挙げられる。これらの中でも、シフェノトリン、プロポクスル、メトキサジアゾン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリンが、ピエゾ式噴霧器に適用した場合の揮散性(蒸散性)がよく、駆除効果に優れ、後述する好ましい溶剤に対する溶解性がよいことから好ましい。なお、殺虫成分としては前記化合物の1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0010】
本発明において用いることのできる溶剤は、下記一般式(1)または(2)で示される構造を有する化合物である。
1(―OCH2CH2n―OR2 ・・・(1)
1(―OCH(CH3)CH2n―OR2 ・・・(2)
(式(1)および(2)中、nは1〜3の整数、R1、R2は、H、CH3、C25、C(=O)CH3のいずれかであり、各々同じであってもよいし、異なっていてもよい。但し、R1とR2が同時にHであってはならない。)
前記一般式(1)または(2)で示される構造を有する化合物を溶剤とすることにより、少ない薬剤量であっても優れた駆除効果を得ることができ、薬剤(殺虫成分)の利用効率を高めることができる。なお、溶剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0011】
前記一般式(1)または(2)で示される構造を有する化合物の具体例としては、例えば、プロピレングリコールジアセテート、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールメチルアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルアセテート、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0012】
本発明において用いることのできる殺虫液は、前記殺虫成分を1〜20質量%、好ましくは2〜10質量%の濃度となるように、前記溶剤に溶解させることにより得られる。
また、前記殺虫液には、発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じ、香料、消臭剤、殺菌剤、色素、安定剤、揮散調整剤、防腐剤、酸化防止剤等の添加物を含有させることもできる。
【0013】
本発明においては、前記殺虫液を蒸散させるにあたり、ピエゾ式噴霧器を用いて殺虫液の単位時間当たりの蒸散量を少なく抑えながら時間をかけて前記殺虫液を蒸散させる。このように、従来の全量噴射型エアゾール剤や燻煙剤を用いた場合のように一気に殺虫液の全量を放散するのではなく、長時間にわたり少量の殺虫液を蒸散し続けることにより、前記空間に粒径の小さい殺虫液微粒子が浮遊し続けることなり、その結果、優れた殺虫効果を発揮し、薬剤(殺虫成分)使用量を大幅に削減することが可能になる。
【0014】
本発明においては、前記殺虫液を蒸散させる際の単位時間当たりの蒸散量は、常に少なく抑えられていることが好ましく、殺虫液中の殺虫成分濃度等にもよるが、例えば、蒸散開始から蒸散終了までの間の総蒸散量を蒸散時間で除することにより求められる平均蒸散量が、200mg/時間以下であることが好ましく、より好ましくは8〜100mg/時間とするのがよい。
【0015】
また、本発明においては、前記殺虫成分の単位時間当たりの揮散量は、1〜10mg/時間が好ましく、より好ましくは2〜5mg/時間である。
前記殺虫成分の単位時間当たりの揮散量は、例えば、ピエゾ式噴霧器から蒸散している殺虫液を吸引し、シリカゲル等で捕集して、そこから殺虫成分を抽出して分析することにより測定することができる。
【0016】
本発明においては、時間をかけて前記殺虫液を蒸散させることが重要となるのであるが、具体的には、前記殺虫液を蒸散させる際の蒸散時間は、好ましくは4時間以上、より好ましくは8時間以上とするのがよい。なお、蒸散時間は、蒸散開始から蒸散終了までにかかる総所要時間であり、例えばピエゾ式噴霧器を間欠的に駆動させた場合には、1回の噴霧から次回の噴霧までの間の時間も当該所要時間として扱うものとする。
【0017】
本発明においては、前記殺虫液を蒸散させたときに前記空間に浮遊する殺虫液微粒子の平均粒子径(D50)は、好ましくは1〜20μm、より好ましくは1〜15μmとするのがよい。殺虫液微粒子の平均粒子径が前記範囲よりも大きいと、床面に落下しやすいため長時間空間に浮遊させにくくなる。
本発明において、空間に浮遊する殺虫液微粒子の平均粒子径(D50)は、粒度分布測定装置により測定され、自動演算処理装置により解析されたD50(累積50%)を意味するものである。具体的には、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
【0018】
本発明において用いられるピエゾ式噴霧器としては、所期の効果を得られるものであれば特に制限はなく、例えば、従来から知られている種々のピエゾ式噴霧器を採用することができる。
ピエゾ式噴霧器を用いて殺虫液を噴霧する際には、前記殺虫液は、吸液体(吸液芯等)を備えた適当な容器に充填して、ピエゾ式噴霧器にセットすればよい。これにより、殺虫液は吸液体を介して振動板に伝わり、圧電素子と共振を起こした振動板の振動によって空間中に蒸散させることができる。
【0019】
本発明において用いることのできるピエゾ式噴霧器の一例を図1に示す。
図1に示すピエゾ式噴霧器は、殺虫液2を収容した容器1と、この容器1の上部開口から上部が突出し下部が容器1内の殺虫液2に浸漬された吸液芯3と、この吸液芯3の上端部に接触した超音波振動子5と、この振動子5に連結された超音波発振機7とを備えている。吸液芯3の上端部と振動子5との間には金属やセラミックなどからなる接合片6が配置され、これにより振動子5は吸液芯3に間接的に(接合片6を介して)接触している。8は電源としての電池である。また、吸液芯3は、容器1の上部開口にはめ込まれた中空円盤型の芯支持体4により支持されている。
【0020】
前記吸液芯3としては、表面張力の大きな材質、例えばフェルト、スポンジ、綿、多孔質材(例えば、炭素質微粉末を主体とし、これと結着剤との混合物からなる成形体)などで棒状に形成された芯材を使用することができる。これらのうち、炭素質微粉末を用いた成形体は、超音波印加時にのみ吸液機能を発揮し、無印加時は密栓的に機能するので好ましい。
【0021】
図1に示すピエゾ式噴霧器においては、殺虫液2を上記のような吸液芯3の上端部にまで十分に吸収させた状態で、発振機7より振動子5へ信号を送り、振動子5および接合片6を超音波振動させる。これにより、吸液芯3の上端部に対し、殺虫液2の表面張力以上で且つ粘度以上の超音波振動エネルギーを与え、殺虫液2を吸液芯3から微小な液滴として空気中に霧化して蒸散させることができる。なお、上記ピエゾ式噴霧器では、接合片6を配置せずに、振動子5が吸液芯3の上端部に直接接触していてもよい。
【0022】
本発明において用いることのできるピエゾ式噴霧器は、上述した図1に示すピエゾ式噴霧器に限定されるものではなく、ほかにも、図2に示すようなピエゾ式噴霧器を用いることもできる。
図2に示すピエゾ式噴霧器は、殺虫液2を収容した容器1と、この容器1の上部開口から上部が突出し下部が容器1内の殺虫液2に浸漬された吸液芯3と、この吸液芯3の上端部に接触した超音波振動子10と、この振動子10を固定し容器1の上部開口にはめ込まれた蓋部11と、振動子10に連結された超音波発振機(不図示)とを備えている。
【0023】
前記吸液芯3は、容器1の上部開口にはめ込まれた中空円盤型の芯支持体4により支持され、振動子10は、蓋部11の爪部12と固定部材13とで蓋部11に固定されている。この振動子10は、中心部に5〜10mmの径を有している。吸液芯3の上端部と振動子10との間には接合片15が配置され、これにより振動子10は吸液芯3に間接的に(接合片15を介して)接触している。接合片15としては、中心部に直径3〜20μmの孔を有するオリフィスプレートが用いられている。
【0024】
図2に示すピエゾ式噴霧器においては、前記蓋部11に噴霧口14が設けられており、殺虫液2を吸液芯3の上端部にまで十分に吸収させた状態で、発振機より振動子10へ信号を送り、振動子10を超音波振動させると、殺虫液2を噴霧口14から微小な液滴として空気中に霧化して蒸散させることができる。なお、振動子10として、中心部に所定の孔を有するものについて説明したが、これに代えて、全面に多数の孔を有するものを用いることもできる。
この他にも、米国特許6450419号明細書に記載されているようなピエゾ式噴霧器を用いることもできる。
【0025】
また、本発明において用いることのできるピエゾ式噴霧器は、好ましくは以下(1)〜(6)の条件の1つ以上を備えたものがよく、より好ましくは全てを備えた噴霧器であるのがよい。
(1)送風機を用いない。
(2)超音波発振機の周波数が50〜300kHzである。
(3)1回当たり、5m秒〜1秒間の駆動と、1〜180秒の停止とが交互に行われる間欠蒸散ができる。
(4)1回の駆動により蒸散される薬液量が0.01〜1μLである。
(5)1回の駆動における消費電力が0.3〜10Wである。
(6) アルカリ電池(LR20(単1)、LR14(単2)、LR6(単3)、LR3(単4)、LR1(単5))またはマンガン電池(R20P(単1)、R14P(単2)、R6P(単3)、R3P(単4)、R1P(単5))により駆動することができる。
【0026】
なお、ピエゾ式噴霧器の駆動条件としては、特に制限はなく、蒸散時間、霧化された殺虫液微粒子の平均粒子径等が前述した所定の範囲となるように、適宜設定すればよい。
【0027】
本発明において駆除しうる匍匐害虫としては、例えば、ゴキブリ、ダニ、ノミ、シラミ、アリ、ダンゴムシ、ゲジ等が挙げられるが、本発明の駆除方法は、特にゴキブリに対して有効である。
【実施例】
【0028】
以下に実施例において本発明を具体的に説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例において、空間に蒸散または噴射されて浮遊する殺虫液微粒子の平均粒子径(D50)は、次のようにして測定した。
すなわち、測定装置として自動演算処理装置付レーザー光散乱方式粒度分布測定装置(東日本コンピューターアプリケーションズ(株)製「LDSA−1400A」)を用い、ピエゾ式噴霧器の振動子から30mm上の位置にレーザー光が当たるような高さとし、噴霧器の中心から測定装置の検出カメラのレンズまでの距離が300mmとなるように設置して、測定を行った。
【0029】
(実施例1)
シフェノトリン5質量%、プロポクスル2質量%、表1に示す溶剤が93質量%の組成からなる殺虫液を調製した。
得られた各殺虫液を、図2に示すピエゾ式噴霧器を用いて、下記の駆動条件で4時間かけて蒸散させた。
このとき、蒸散開始から終わりまで常に同じ蒸散速度を保つとともに、蒸散開始時の殺虫液の初期重量と蒸散終了時の殺虫液の残重量を測定した。そして、初期重量と残重量との差を総蒸散量とし、この総蒸散量を蒸散時間で除した値(平均蒸散量)を単位時間当たりの蒸散量として求めた。
また、下記の方法により、単位時間当たりの殺虫成分(シフェノトリンおよびプロポクスル)の揮散量(実測揮散量)を測定した。
これらの結果を表1に示す。
なお、蒸散された殺虫液微粒子の平均粒子径(D50)は、いずれの溶剤を用いた場合も約3μmであった。
【0030】
<ピエゾ式噴霧器の駆動条件>
・超音波発振機の周波数:150kHz
・駆動条件:10m秒間駆動し、8秒間停止する間欠駆動
・薬液量:1回の駆動により蒸散される量が0.02μL
・消費電力:発振時に10W
・電池:LR6(単3)を1本(1.5V)
【0031】
<単位時間当たりの殺虫成分(シフェノトリン、プロポクスル)揮散量測定方法>
揮散蒸気をシリカゲルカラムに4時間(蒸散開始後、安定してから4時間)吸引捕集し、このシリカゲルカラムをアセトンで抽出し、濃縮後、ガスクロマトグラフにて定量分析し、殺虫成分ごとに実測揮散量を求めた。
【0032】
【表1】

【0033】
(実施例2)
シフェノトリン3質量%、メトキサジアゾン12質量%、表2に示す溶剤が85質量%の組成で殺虫液を調製した。
得られた各殺虫液を、実施例1と同様のピエゾ式噴霧器および駆動条件で4時間かけて蒸散させた。
このとき、蒸散開始から終わりまで常に同じ蒸散速度を保つとともに、蒸散開始時の殺虫液の初期重量と蒸散終了時の殺虫液の残重量を測定した。そして、実施例1と同様に単位時間当たりの蒸散量を求めた。また、実施例1と同様にして、単位時間当たりの殺虫成分(シフェノトリンおよびメトキサジアゾン)の実測揮散量を測定した。これらの結果を表2に示す。
なお、蒸散された殺虫液微粒子の平均粒子径(D50)は、いずれの溶剤を用いた場合も約3μmであった。
【0034】
【表2】

【0035】
(実施例3)
ビフェントリンが5質量%、表3に示す溶剤が95質量%の組成で殺虫液を調製した。
得られた各殺虫液を、実施例1と同様のピエゾ式噴霧器および駆動条件で4時間かけて蒸散させた。
このとき、蒸散開始から終わりまで常に同じ蒸散速度を保つとともに、蒸散開始時の殺虫液の初期重量と蒸散終了時の殺虫液の残重量を測定した。そして、実施例1と同様に単位時間当たりの蒸散量を求めた。また、実施例1と同様にして、単位時間当たりの殺虫成分(ビフェントリン)の実測揮散量を測定した。
さらに、揮散量の測定後、殺虫液を連続で15時間蒸散させている間、殺虫液中に結晶の析出が認められるか否かを目視にて観察した。これらの結果を表3に示す。なお、蒸散された殺虫液微粒子の平均粒子径(D50)は、いずれの溶剤を用いた場合も約3μmであった。
【0036】
【表3】

【0037】
(実施例4)
殺虫成分としてシフェノトリン5質量%およびプロポクスル2質量%、溶剤としてプロピレングリコールジアセテート93質量%からなる混合物10gを調製して殺虫液とし、そのうち85mgを以下の試験で蒸散させた。
【0038】
24畳の試験室(換気設備なし)の床面の中心から4.5畳または6畳の最大位置付近の四隅のうち1箇所に、クロゴキブリ(雌)成虫10匹を入れたスリットボックス(スリット部:幅3cm×高さ10cm)を設置し、床面中央には上記で得た殺虫液を収容した図2に示すピエゾ式噴霧器を設置した。そして、下記の駆動条件で前記殺虫液を8時間蒸散させ続けた(つまり、クロゴキブリが殺虫成分に曝露される時間(曝露時間)は8時間であった)。
このとき、蒸散開始から終わりまで常に同じ蒸散速度を保つとともに、蒸散開始時の殺虫液の初期重量と蒸散終了時の殺虫液の残重量を測定、初期重量と残重量との差を総蒸散量とした。また、この総蒸散量の中に含まれる殺虫成分量を殺虫液の濃度から算出し、これを使用薬剤量とした。
【0039】
<ピエゾ式噴霧器の駆動条件>
・超音波発振機の周波数:150kHz
・駆動条件:10m秒間駆動し、8秒間停止する間欠駆動
・薬液量:1回の駆動により蒸散される量が0.02μL
・消費電力:発振時に10W
・電池:LR6(単3)を1本(1.5V)
【0040】
蒸散終了後、直ちに、水を含む脱脂綿を入れた清浄なカップに各ゴキブリを移した。そして、48時間後の各ゴキブリの致死状況を観察し、致死率を求めた。総蒸散量、使用薬剤量および48時間後の致死率を表4に示す。
【0041】
なお、実施例4において、蒸散させた殺虫液の微粒子の平均粒子径(D50)を測定したところ、2.60μm(最小2.31μm〜最大2.99μm)であった。
【0042】
(比較例1)
実施例4で用いた殺虫液(殺虫成分としてシフェノトリン5質量%およびプロポクスル2質量%、溶剤としてプロピレングリコールジアセテート93質量%からなる混合物)85mgに、さらにエタノールを加えて殺虫液30mLとした。 この殺虫液を、噴射剤(ジメチルエーテル70mL)とともに全量噴射型エアゾール装置(アース製薬(株)製「アースレッドノンスモーク」を利用)に充填した。
【0043】
8畳の試験室(換気設備なし)の床面の中心から4.5畳または6畳の最大位置付近の四隅のうち1箇所に、クロゴキブリ(雌)成虫10匹を入れたスリットボックス(スリット部:幅3cm×高さ10cm)を設置し、床面中央には上記の全量噴射型エアゾール装置を設置した。
そして、前記エアゾール装置の殺虫液を約60秒間で一気に全量噴射させた後、1時間放置した(つまり、クロゴキブリが殺虫成分に曝露される時間(曝露時間)は約1時間であった)。
なお、この場合、エアゾール装置に充填した全量を噴射させたので、使用薬剤量は シフェノトリン4.25mg、プロポクスル1.7mgとなる。
【0044】
1時間放置した後、直ちに、水を含む脱脂綿を入れた清浄なカップに各ゴキブリを移した。そして、48時間後の各ゴキブリの致死状況を観察し、致死率を求めた。総蒸散量、使用薬剤量および48時間後の致死率を表4に示す。
【0045】
なお、比較例1において、実施例4と同様にして、蒸散させた殺虫液の微粒子の平均粒子径(D50)を測定したところ、20.5μm(最小18.2μm〜最大23.2μm)であった。
【0046】
(比較例2)
比較例1と同様の操作により、全量噴射型エアゾール装置を用いて殺虫液を数秒間で一気に全量噴射させた後、8時間放置した(つまり、クロゴキブリが殺虫成分に曝露される時間(曝露時間)は約8時間であった)。このときの使用薬剤量は、比較例1と同様である。
【0047】
8時間放置した後、直ちに、水を含む脱脂綿を入れた清浄なカップに各ゴキブリを移した。そして、48時間後の各ゴキブリの致死状況を観察し、致死率を求めた。総蒸散量、使用薬剤量および48時間後の致死率を表4に示す。
【0048】
【表4】

【0049】
表4から、ピエゾ式噴霧器を用い長時間をかけて殺虫液を蒸散させた実施例4は、全量噴射型エアゾール装置を用いて殺虫液の全量を一気に噴射させた比較例1、2よりも少ない使用薬剤量で、格段に優れた駆除効果を発揮することが明らかである。
また、全量噴射型エアゾール装置を用いて殺虫液の全量を一気に噴射させた場合、ゴキブリへの噴射後の放置時間(曝露時間)を長くすることにより駆除効果を若干向上させうることが比較例1、2から判るが、たとえ曝露時間を実施例4と同じ8時間としても、実施例と同等の駆除効果は得られないことが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明において用いることができるピエゾ式噴霧器の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明において用いることができるピエゾ式噴霧器の他の一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 容器
2 殺虫液
3 吸液芯
4 芯支持体
5、10 超音波振動子
6 接合片
7 超音波発振機
8 電池
11 蓋部
12 爪部
13 固定部材
14 噴霧口
15 接合片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺虫成分および溶剤を含む殺虫液を室内空間、収納空間等の空間内に蒸散させて匍匐害虫を駆除する方法であって、
前記溶剤として下記一般式(1)または(2)で示される構造を有する化合物を用い、
1(―OCH2CH2n―OR2 ・・・(1)
1(―OCH(CH3)CH2n―OR2 ・・・(2)
(式(1)および(2)中、nは1〜3の整数、R1、R2は、H、CH3、C25、C(=O)CH3のいずれかであり、各々同じであってもよいし、異なっていてもよい。但し、R1とR2が同時にHであってはならない。)
前記空間に粒子径の小さい殺虫液微粒子が浮遊し続けるように、ピエゾ式噴霧器を用いて殺虫液の単位時間当たりの蒸散量を少なく抑えながら時間をかけて前記殺虫液を蒸散させる、ことを特徴とする匍匐害虫駆除方法。
【請求項2】
蒸散時間が4時間以上である、請求項1記載の匍匐害虫駆除方法。
【請求項3】
前記空間に浮遊する殺虫液微粒子の平均粒子径(D50)が1〜15μmである、請求項1または2記載の匍匐害虫駆除方法。
【請求項4】
前記匍匐害虫はゴキブリである、請求項1〜3のいずれかに記載の匍匐害虫駆除方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−143868(P2009−143868A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−323957(P2007−323957)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000100539)アース製薬株式会社 (191)
【Fターム(参考)】