説明

化合物ナノ粒子の製造方法

【課題】反応基質として有機溶媒を使用することなく、化合物ナノ粒子を十分に高度な収率で製造することが可能な化合物ナノ粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】レーザー光Lを発生させるためのレーザー発振器10と、溶媒13を保持するための処理容器12と、処理容器12内に保持されている溶媒13と、処理容器12内に配置したターゲット14とを備える液相レーザーアブレーション装置を用い、ターゲット14として、レーザー光Lを吸収する材料を2種類以上含有するものを用い、ターゲット14の密度が前記溶媒の密度よりも大きくなるようにターゲット14及び溶媒13を選択して用い、ターゲット14を処理容器12の底部Bに沈殿させて配置し、ターゲット14に対してレーザー光Lを照射して液相レーザーアブレーションを行い、発生させた各微粒子同士を反応た化合物からなるナノ粒子を形成することを特徴とする化合物ナノ粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、化学的手法や物理的手法等を利用した様々な方法を用いてナノサイズの粒子(ナノ粒子)が製造されてきた。しかしながら、化学的手法を利用する従来のナノ粒子の製造方法においては、ナノ粒子の製造が困難な材料が存在するという問題があった。また、物理的手法を利用する従来のナノ粒子の製造方法においては、得られる粒子のサイズを十分に小さくできず、しかも不純物が混入しやすいといった問題があった。そして、近年では、このようなナノ粒子の製造方法として、液相中のターゲットに対してレーザー光を照射してレーザーアブレーションを施す液相レーザーアブレーション方法を採用する方法が注目されている。このような液相レーザーアブレーション方法においては、レーザー光を吸収する材料であれば、原理的には全ての材料のナノサイズ化が可能であると言われている。そのため、このような液相レーザーアブレーション方法を利用するナノ粒子の製造方法により単独の金属及び金属酸化物からなるナノ粒子の製造する以外に、化合物のナノ粒子を製造することが研究されている。
【0003】
例えば、2006年に発行されたJ. Phys. Chem. B(vol.110)の12890頁〜12895頁に記載されたH. Usui, T. Sasaki及びN. Koshizakiによる論文「Optical Transmittance of Indium Tin Oxide Nanoparticles Prepared by Laser-Induced Fragmentation in Water(非特許文献1)」においては、ターゲットにITOのナノ粒子を用いて、未加工のITOのナノ粒子を水中に分散せしめてコロイド溶液を得た後に、撹拌しながら、そのコロイド溶液に対してレーザー光を照射して、ITOのナノ粒子を得る方法が記載されている。しかしながら、このような非特許文献1に記載のような従来のナノ粒子の製造方法においては、十分に高い収率で化合物からなるナノ粒子を製造することができなかった。また、非特許文献1に記載のような従来のナノ粒子の製造方法においては、レーザーアブレーションに際して、製造したいナノ粒子と同じ組成の化合物からなるターゲットを製造する必要もあった。このように、非特許文献1に記載のような従来のナノ粒子の製造方法においては効率よく化合物からなるナノ粒子を製造することができなかった。
【0004】
また、2007年10月17日に発行されたAppl.Phys.Lett(vol.91)の161110−1〜161110−3までに記載されたY. Ishikawa, Y. Shimizu, T. Sasaki,及びN. Koshizakiによる論文「Boron carbide spherical particles encapsulated in graphite prepared by pulsed laser irradiation of boron in liquid medium(非特許文献2)」においては、有機溶媒中に分散させたホウ素の粒子にレーザー光を照射して、ホウ素と有機溶媒(エチルアセターテ)とを反応させてボロンカーバイドを製造する方法が記載されている。しかしながら、このような非特許文献2に記載のような従来のナノ粒子の製造方法においては、十分に高い収率で化合物からなるナノ粒子を製造することができなかった。また、このような非特許文献2に記載のような方法は、レーザー照射によりターゲットから発生した原子等と有機溶媒とを反応させる方法であるため、化合物を得るために有機溶媒を使用する必要があった。そして、このような反応に利用する有機溶媒には引火性のものが多いことから、非特許文献2に記載のような方法は、レーザー照射による引火の危険性が高く、安全性の観点から必ずしも十分な方法ではなかった。
【0005】
さらに、2003年に発行されたJ. Phys. Chem. B(vol.107)の6920頁〜6923頁に記載されたJ. Zhangらによる論文「Synthesis of Metal Alloy Nanoparticles in Solution by Laser Irradiation of Metal Powder Suspension(非特許文献3)」においては、2種類の金属粒子が分散した混濁液に対して、パルスレーザーを照射して液相レーザーアブレーションを行うことにより、2種類の金属を反応させて化合物からなるナノ粒子を得る方法が記載されている。しかしながら、非特許文献3に記載のような化合物ナノ粒子の製造方法においては、十分に高い収率で化合物からなるナノ粒子を製造することができなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H.Usui,T.Sasaki及びN.Koshizaki,「Optical Transmittance of Indium Tin Oxide Nanoparticles Prepared by Laser-Induced Fragmentation in Water」,J. Phys. Chem. B,2006年発行,vol.110,12890頁〜12895頁
【非特許文献2】Y. Ishikawa, Y. Shimizu, T. Sasaki,及びN. Koshizaki,「Boron carbide spherical particles encapsulated in graphite prepared by pulsed laser irradiation of boron in liquid medium」,Appl.Phys.Lett,2007年10月17日発行,vol.91,161110−1〜161110−3
【非特許文献3】J. Zhang et. al., 「Synthesis of Metal Alloy Nanoparticles in Solution by Laser Irradiation of Metal Powder Suspension」,J. Phys. Chem. B,2003年発行,vol.107,6920頁〜6923頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、反応基質として有機溶媒を使用することなく、化合物ナノ粒子を十分に高度な収率で製造することが可能な化合物ナノ粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、溶媒を保持するための処理容器と、前記処理容器内に保持されている溶媒と、前記処理容器内に配置したターゲットとを備える液相レーザーアブレーション装置を用い、前記ターゲットとして前記レーザー光を吸収する材料を2種類以上含有するものを用い、前記ターゲットの密度が前記溶媒の密度よりも大きくなるように前記ターゲット及び前記溶媒を選択して用い、前記ターゲットを前記処理容器の底部に沈殿させて配置し、前記ターゲットに対して前記レーザー光を照射して液相レーザーアブレーションを行い、前記溶媒中において、前記ターゲットから前記各材料に由来する微粒子をそれぞれ発生させて前記各微粒子同士を反応せしめることにより、反応基質として有機溶媒を使用することなく、前記反応により生成した化合物からなるナノ粒子を十分に高度な収率で製造することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の化合物ナノ粒子の製造方法は、レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、溶媒を保持するための処理容器と、前記処理容器内に保持されている溶媒と、前記処理容器内に配置したターゲットとを備える液相レーザーアブレーション装置を用い、
前記ターゲットとして、前記レーザー光を吸収する材料を2種類以上含有するものを用い、
前記ターゲットの密度が前記溶媒の密度よりも大きくなるように前記ターゲット及び前記溶媒を選択して用い、前記ターゲットを前記処理容器の底部に沈殿させて配置し、
前記ターゲットに対して前記レーザー光を照射して液相レーザーアブレーションを行い、前記溶媒中において、前記ターゲットから前記各材料に由来する微粒子をそれぞれ発生させて前記各微粒子同士を反応せしめることにより、前記反応により生成した化合物からなるナノ粒子を形成することを特徴とする方法である。
【0010】
上記本発明の化合物ナノ粒子の製造方法においては、前記ターゲットの密度が前記溶媒の密度の2倍以上であることが好ましい。
【0011】
また、上記本発明の化合物ナノ粒子の製造方法においては、前記処理容器として前記レーザー光が透過可能な底部を有するものを用い、前記ターゲットに対して前記処理容器の底部を透過したレーザー光を照射することが好ましい。
【0012】
なお、本発明の化合物ナノ粒子の製造方法によって上記目的が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、本発明者らが上記非特許文献1〜3に記載のような従来の方法において十分に高い収率で化合物からなるナノ粒子を製造することができない理由について検討したところ、これらの方法においては、混濁液(粒子が分散されている分散液)中に原料のナノ粒子(ターゲット)が分散されているばかりか、レーザー光を照射すると製造された粒子も混在する状態となるため、ターゲットのみに対してレーザー照射を効率的に行うことが困難であることを見出した。特に、非特許文献3に記載のような化合物ナノ粒子の製造方法においては、アブレーションによって2種の材料を化合物化するためにはアブレーションで生成された異なる元素種の放出粒子を互いに近くに存在させる必要があるが、混濁液中にターゲットが浮遊していることや、アブレーションで生成されるプルーム(ターゲットから放出される微粒子群)が非常に小さいものであることを併せ考慮すると、反応場になると考えられる高温高圧状態にある領域(レーザー光の照射により形成され、照射部位の近傍に存在する領域)内に異なる元素種の放出粒子が混在する確率は低く、十分に反応を進行せしめることができない。そのため、上記非特許文献1〜3に記載のような従来の方法では、十分に高度な収率で化合物ナノ粒子を製造できなかったものと本発明者らは推察する。一方、本発明においては、レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、溶媒を保持するための処理容器と、前記処理容器内に保持されている溶媒と、前記処理容器内に配置したターゲットとを備える液相レーザーアブレーション装置を用い、ターゲットの密度が溶媒の密度よりも大きくなるようにして、ターゲットと溶媒とを選択して用い、処理容器の底部にターゲットを沈殿させて配置する。また、前記ターゲットとして前記レーザー光を吸収する材料を2種類以上含有するものを用いている。本発明においては、このように処理容器の底部に沈殿して存在するターゲットに対してレーザー光を照射するため、混濁液中に分散したターゲットに対してレーザー光を照射するのと比較して、ターゲットに対して十分に効率よくレーザーを照射することが可能である。そして、沈殿しているターゲットに対してレーザー光を照射すると、アブレーションが生じ、レーザー光が照射された部位の近傍の高温高圧状態の領域内に、プルーム(ターゲットから放出される微粒子群)やプラズマが存在する。また、このようなプルームによって加熱されることで一部に前記材料等の溶融物も生成される。そして、このようにして生成されたプルームや溶融物やプラズマの中には、前記ターゲット中の2種類以上の材料に由来する複数の元素種の微粒子(原子、イオン、分子、クラスタ等様々な状態で存在)が含まれる。そのため、本発明においては、反応場になると考えられる高温高圧状態にある領域内に、2種類以上の材料に由来する複数の微粒子が高い確率で存在し、その領域内において、これらの微粒子同士が衝突して反応する。従って、本発明においては、2種類以上の材料に由来する複数の微粒子同士の反応が容易に進行して、2種類以上の材料に由来する反応生成物が効率よく形成される。そして、このようにして微粒子同士の衝突により形成される反応生成物は、そのまま溶媒中に分散され、周囲の溶媒によって急冷されて安定化される。このようにして、本発明においては、反応生成物として化合物からなるナノ粒子が生成される。このように、本発明においては、ターゲットに対して十分に効率よくレーザー光を照射することができ、しかも反応場になると考えられる高温高圧状態にある領域内において、効率よく2種類以上の材料に由来する複数の微粒子を反応させることができるため、反応基質として有機溶媒を使用することなく、化合物からなるナノ粒子を十分に高度な収率で製造することができるものと本発明者らは推察する。また、上述のようにして反応が進行するため、ターゲットが2種類以上の材料を含んでいればよく、非特許文献1に記載のような従来の方法のように、ターゲットを化合物ナノ粒子と同様の組成の化合物として必ずしも製造する必要はなく、この点においても効率よく化合物ナノ粒子を製造できる方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、反応基質として有機溶媒を使用することなく、化合物ナノ粒子を十分に高度な収率で製造することが可能な化合物ナノ粒子の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の液相レーザーアブレーション装置の好適な一実施形態を模式的に示す概略縦断面図である。
【図2】実施例1で得られた化合物ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図3】実施例2で得られた化合物ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図4】実施例3で得られた化合物ナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
本発明の化合物ナノ粒子の製造方法は、レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、溶媒を保持するための処理容器と、前記処理容器内に保持されている溶媒と、前記処理容器内に配置したターゲットとを備える液相レーザーアブレーション装置を用い、
前記ターゲットとして、前記レーザー光を吸収する材料を2種類以上含有するものを用い、
前記ターゲットの密度が前記溶媒の密度よりも大きくなるように前記ターゲット及び前記溶媒を選択して用い、前記ターゲットを前記処理容器の底部に沈殿させて配置し、
前記ターゲットに対して前記レーザー光を照射して液相レーザーアブレーションを行い、前記溶媒中において、前記ターゲットから前記各材料に由来する微粒子をそれぞれ発生させて前記各微粒子同士を反応せしめることにより、前記反応により生成する化合物からなるナノ粒子を形成することを特徴とする方法である。
【0017】
図1に示す液相レーザーアブレーション装置は、レーザー発振器10と、ミラー11と、処理容器12と、溶媒13と、ターゲット14とを備えるものである。なお、図1中、符号Bは処理容器12の底部を示し、符号Lはレーザー光を示す。このような液相レーザーアブレーション装置は、レーザー発振器10から発せられたレーザー光Lが、光路上に配置されたミラー11に反射された後に処理容器12の底部Bを透過し、処理容器12内に配置されているターゲット14に照射されるように構成されている。すなわち、本実施形態の液相レーザーアブレーション装置において処理容器12は、ターゲット14に対して処理容器12の底部Bを透過したレーザー光Lが照射されるように配置されている。
【0018】
レーザー発振器10は、レーザー光Lを発生させることが可能なものであればよく、特に制限されず、パルス幅が80フェムト秒〜100ナノ秒のパルスレーザー光を照射できるレーザー光発生装置を好適に用いることができる。また、このようなレーザー光発生装置の中でも、パルス幅が80フェムト秒〜100ナノ秒であり、波長が19nm〜10.6μm(より好ましくは248nm〜10.6μm)であり、且つ、1パルスあたりのエネルギーが50mJ〜5J(より好ましくは200mJ〜2J)であるパルスレーザー光を照射できるレーザー光発生装置がより好ましい。このようなレーザー発振器10は、例えば、YAGレーザー装置、エキシマレーザー装置によって構成されるものが挙げられ、中でも、YAGレーザー装置によって構成されるものがより好ましい。
【0019】
また、ミラー11は、特に制限されるものではなく、公知の反射板等(例えば鏡等)を適宜用いることができる。また、ミラー11は、それ自体を回転させることで、その反射面の角度を変えて、ターゲット14の同じ位置に繰り返し照射されないように、レーザー光Lの照射位置を移動させることもできる。そのため、ミラー11は、ターゲットに対して、より均一にレーザー光を照射するという観点から、その反射面の角度を変えることができるように回転可能な状態にして利用することが好ましい。
【0020】
また、処理容器12は、レーザー光Lを透過可能な底部Bを有する容器である。このように処理容器12において底部Bがレーザー光Lを透過可能なものである場合には、底部B上に沈殿して配置されているターゲット14に対して、底部を透過させたレーザー光を直接照射することが可能となる。なお、本実施形態とは異なり、レーザー光Lを透過しない又は透過させることが困難な材料からなる底部Bを有する容器を用いる場合には、容器内のターゲットに対して溶媒を介してレーザー光を照射することにより、同様に液相レーザーアブレーションを施すこともできる。なお、容器内のターゲットに対して溶媒を介してレーザー光を照射する場合には、レーザーアブレーション処理を続けるにつれて溶媒中の放出粒子の濃度が高くなり、放出粒子とレーザー光との相互作用(放出粒子によるレーザー光の吸収や再アブレート等)が無視できなくなる傾向にある。そのため、より長期に亘り安定してアブレーション処理を施すという観点からは、本実施形態に記載のように、レーザー光Lを透過可能な底部Bを有する容器を用いて、ターゲットに対して前記処理容器の底部を透過したレーザー光を照射することが好ましい。このように、処理容器12の底部Bを透過させたレーザー光を直接ターゲットに照射する場合には、溶媒中に生成された化合物ナノ粒子が放出されても、レーザー光Lが溶媒13中に分散されている粒子に吸収されたり、かかる粒子に起因して散乱することがなく、ターゲットに対して同じ照射条件で連続的にレーザー光を照射することが可能となる。なお、ここにいう「レーザー光Lを透過可能な底部B」とは、レーザー光Lを照射する際において、少なくともレーザー光Lの光路となる部分がレーザー光Lに対して透明である底部をいう。従って、このような底部Bは、その全体がレーザー光Lを透過可能な構造となるようにしてもよく、あるいは、底部Bのレーザー光Lの光路となる部分のみがレーザー光Lを透過可能な構造となるようにしてもよい。
【0021】
このような処理容器12は、液相レーザーアブレーションに利用することが可能な公知の容器を適宜用いることができる。また、このような処理容器12としては、例えば、図1に示すようなコップ状の形状のもの、丸底フラスコ、ナス型のフラスコ、梨型フラスコ、試験管等を適宜使用することができる。また、このような処理容器12の原料としては特に制限されず、例えば、利用するレーザー光に応じてガラス等を適宜用いてもよい。また、処理容器12としては、底部Bの少なくともレーザー光Lの光路となる部分がレーザー光に対して透明であるものとする場合においては、他の面は適宜異なる材料からなるものとしてもよい。また、処理容器12としては、その全体が同一の材料からなるものであってもよい。
【0022】
また、このような処理容器12としては、底部Bが平面である容器の場合には底面の面積、又は、底部Bが平面でない容器(例えば、梨型フラスコ状の容器など)の場合にはターゲット粉末が堆積している領域の横断面の面積が最大となる位置における横断面の面積が、レーザー光の照射光形状の面積の3倍以下(より好ましくは2倍以下、更に好ましくは1.2倍以下)となることが好ましい。このような容器を用いることにより、より効率よく、レーザーアブレーションを施すことが可能となる。
【0023】
溶媒13としては、ターゲット14の密度が溶媒13の密度よりも大きくなるようにして選択して用いる必要があるが、そのような条件を満たすものであれば、液相レーザーアブレーション方法に用いることが可能な公知の溶媒を適宜用いることができる。このような溶媒としては特に制限されず、水、有機溶媒、無機溶媒を適宜利用でき、例えば、エタノール、イソプロパノール、キシレン、ケロシン、メタノール、水、アセトン、液体窒素等が挙げられる。
【0024】
ターゲット14は、レーザー光を吸収する材料を2種類以上含有するものである。ここにいう「レーザー光を吸収する材料」とは、使用するレーザー光Lを吸収することが可能な材料であることをいい、いわゆるレーザーアブレーションが可能な材料であればよい。すなわち、「レーザー光を吸収する材料」は、使用するレーザー光Lの波長に対して吸収係数が0とならない材料であればよい。なお、レーザー光Lの波長に対して吸収係数が限りなく0に近い材料を用いる場合には、波長やレーザーパワーを変えることで、かかる材料にレーザー光を吸収させて、吸収されるエネルギーを上げることにより、アブレーションを誘起してもよい。
【0025】
このようなレーザー光を吸収する材料としては、レーザー光Lを吸収することが可能なものであれば有機材料であっても無機材料であってもよい。このようなレーザー光を吸収する材料としては、中でも、金属材料、炭素含有材料が好ましい。このような金属材料は、遷移金属元素、典型金属元素、半金属(メタロイド)元素、それらの金属元素を含む化合物(酸化物、窒化物、炭化物の他、それらの金属元素を主成分とする合金も含む。また、ここにいう金属元素を含む化合物は複数の金属元素を含有していてもよく、更に、非金属元素を含んでいてもよい。)であればよく、例えば、Cu、Al、Ti、Si、Cr、Pt、Au、Ag、Pd、Zr、Mg、Ni、Fe、Co、Zn、Sn、W、Be、Ge、Mn、Mo、Nb、Ta、Hf、V及びそれらの金属元素を含む化合物等が挙げられる。なお、ここにいう金属材料は、例えば、シリコン、ゲルマニウム、炭化珪素、砒化ガリウム、InP、ZnTe等の半導体であってもよい。また、このような金属材料の中でも、銅、アルミニウム、チタン、ケイ素、亜鉛及びこれらの合金;酸化亜鉛;チタニア;アルミナ;マグネシア;ベリリア;窒化アルミニウム;窒化ホウ素;窒化ケイ素;炭化ケイ素;Fe、Cr、W、Mo、V等の金属元素の炭化物;がより好ましい。
【0026】
また、前記炭素含有材料としては、各種の炭素元素を含有する有機化合物、無定形炭素、グラファイト(黒鉛)、ダイアモンド等が挙げられ、中でも、グラファイト(黒鉛)、無定形炭素が好ましい。
【0027】
また、ターゲット14は、上述のように、レーザー光を吸収する材料を2種類以上含有するものである。このようなターゲット14に関して、その形態は特に制限されず、例えば、レーザー光を吸収する材料を2種類以上含有するバルク状の材料であっても、粉末状のレーザー光を吸収する材料の混合粉末であってもよい。このようなターゲット14としては、製造が容易であるとともに、アブレーションにより効率よく化合物化を図ることが可能となることから、各レーザー光を吸収する材料がそれぞれ粉末状のものであって、かかる粉末状の材料の2種類以上を混合して得られた混合粉末状のものが好ましい。なお、このような混合粉末状のターゲット14は圧縮して用いてもよくあるいはそのまま用いてもよい。また、このようなターゲット14中のレーザー光を吸収する材料が粉末状のものである場合には、各材料の平均一次粒子径は、それぞれ300μm以下(より好ましくは100μm以下、更に好ましくは50μm以下)であることが好ましい。なお、このような平均一次粒子径は、100個以上の一次粒子の粒子径を走査型電子顕微鏡(SEM)により測定して平均化することにより求めることができる。
【0028】
また、ターゲット14は、ターゲット14の密度が溶媒13の密度よりも大きくなるようにして選択して用いる必要がある。このようなターゲット14の密度としては溶媒13の密度の2倍以上(より好ましくは2.5倍以上、特に好ましいのは3倍以上)であることが好ましい。このように溶媒13の密度よりも密度が大きなターゲット14を用いることにより、ターゲット14を処理容器12の底部に沈殿させて配置することが可能となり、レーザー光Lを効率よく照射することが可能となるばかりか、アブレーション中もターゲット14自体が溶媒13中に分散してしまうことを十分に抑制できる。そのため、溶媒13の密度よりも密度が大きなターゲット14を用いることにより、ターゲット14を溶媒13中に分散、混濁させることなく、沈殿させた状態でより効率よくアブレーションを施すことが可能となる。また、ターゲット14として前記混合粉末状のものを用いる場合には、粉末の密度は圧縮により容易に変化するものであるため一概には言えないが、ターゲット14をより効率よく沈殿させるという観点からは、ターゲット14中の各材料の粉末のそれぞれが単独でも溶媒中に沈殿するものであることが好ましい。
【0029】
また、このようなターゲット14の密度は、用いる2種類以上の材料によっても異なるものではあり一概には言えないが、例えば、溶媒が水であり且つターゲット14が前記混合粉末状のものである場合には、3.0〜7.0g/mであることが好ましく、4.0〜6.0g/mであることがより好ましい。このような密度が前記上限を超えると、レーザーアブレーションにより生成された粒子を液相中に放出させることが困難となり、粒子の収率が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満では、アブレーションによって生成されるプルームにより加熱される粒子が減少するため、収率が減少する傾向にある。
【0030】
ターゲット14は、処理容器12の底部B上に沈殿させて配置する。このようにターゲット14を処理容器12の底部B上に沈殿させて配置することにより、混濁液中に分散したターゲットに対してレーザー光を照射するのと比較してターゲットに対して十分に効率よくレーザー光Lを照射することが可能であり、しかも、レーザー光Lを照射した際にターゲット14からターゲット中の各材料に由来した微粒子やプラズマを発生させることが可能となり、各微粒子(各材料に由来した原子、イオン、分子、クラスタ等)を、レーザー光Lが照射されることにより高温高圧状態となる領域内において、衝突させて反応させることができ、反応生成物として化合物ナノ粒子を製造することが可能となる。また、このようにターゲット14を処理容器12の底部B上に沈殿させて配置することにより、底部Bを透過させたレーザー光Lを溶媒を介することなく、ターゲット14に対して直接照射することができ、液中に放出された粒子の影響を受けずに、ターゲット14に対して同じ照射条件で連続的に安定してレーザー光Lを照射することも可能となる。
【0031】
また、ターゲット14を処理容器12の底部B上に配置する方法は特に制限されず、例えば、溶媒が導入されている処理容器12内にターゲット14の粉末を添加して処理容器12の底部B上に沈殿させて、粉末状のターゲット14を処理容器12の底部B上に配置する方法、粉末状のターゲット14を処理容器12の底部B上に置いた後、ターゲット14の粉末が分散しないようにしながら処理容器内に溶媒13を導入して、粉末状のターゲット14を処理容器12の底部B上に配置する方法等が挙げられる。
【0032】
また、ターゲット14を処理容器12の底部B上に配置する際には、レーザーアブレーションにより生成された微粒子同士の反応により生成される化合物からなるナノ粒子が十分に液中に放出されるように、底部Bからのターゲット14の堆積された厚み(高さ)を、ターゲット14の密度(重さ)に応じて適宜変更してもよい。例えば、ターゲット14中の少なくとも1種の材料を比較的軽い黒鉛やSiC等とした場合においては、最も厚みが厚くなる箇所の厚み(最大厚み)を比較的厚くしても、レーザーアブレーションにより生成された化合物ナノ粒子を比較的容易に溶媒13中放出することが可能な傾向にあるが、ターゲット14中の材料の種類が金属等の比較的重い材料のみである場合においては、前記最大厚みを比較的厚くすると、レーザーアブレーションにより生成された粒子を溶媒13中に放出させることが困難となる傾向にある。このように、底部Bからのターゲット14の堆積された厚み(高さ)に関して、前記最大厚みの好適な値は、ターゲット14の密度によっても異なるものであり、一概には言えないが、基本的には、その厚さが10mm以下(より好ましくは1mm〜5mm)となるようにして処理容器12の底部B上に配置することが好ましい。このような厚みが10mmを超えると、粒子の収率が低下する傾向にある。
【0033】
以下、前記ターゲットに対して前記レーザー光を照射して液相レーザーアブレーションを行い、前記溶媒中において、前記ターゲットから前記各材料に由来する微粒子をそれぞれ発生させて前記各微粒子同士を反応せしめることにより、前記反応により生成する化合物からなるナノ粒子を形成する方法について、図1に示す液相レーザーアブレーション装置を利用した場合を例にして説明する。
【0034】
このような方法においては、先ず、処理容器12の底部B上に沈殿されているターゲット14に対して、レーザー光Lを照射する。すなわち、先ず、レーザー発振器10からレーザー光Lを出射させた後、そのレーザー光Lを光路上に配置されたミラー(反射板)11により反射させる。次に、ミラー11を反射したレーザー光Lは、処理容器12の底部Bを透過し、これにより処理容器12内に入射され、処理容器12の底部B上に沈殿して配置されたターゲットに照射される。このようにして、処理容器12の底部B上に沈殿して配置されたターゲット14にレーザー光Lが照射されると、液相内において、ターゲット14中に含まれる各材料に由来する微粒子がそれぞれ形成される。このような微粒子群は非常に高いエネルギーを持ちながらレーザー光Lの照射された領域から飛散するが、その際に、互いに衝突し、各微粒子同士の反応が起こる。なお、レーザー光Lの照射により高温高圧となっている領域において、生成された微粒子同士が衝突する場合にはより容易に反応が進行する。このように、ターゲット14にレーザー光Lが照射されると、生成された微粒子同士が飛散し衝突して微粒子同士の反応が進行され、反応生成物としてターゲット14中に含まれる各材料に由来する化合物が形成される。そして、このようにして形成される化合物は非常に微細な粒子の衝突により反応して形成されるものであるため、ナノメートルサイズ(好ましくは1nm〜100nm、より好ましくは数〜数十nm)の粒子状の形状となる。また、このようにして反応して形成された粒子は、周囲に存在する溶媒により冷却されて容易に安定化される。そして、このような反応により生成される化合物からなるナノ粒子は、そのまま溶媒中の分散される。そのため、本発明によれば、非常に効率よく化合物ナノ粒子を製造することが可能となる。また、本実施形態のように、処理容器12の底部Bに沈殿させたターゲット14に対して、底部Bを透過させたレーザー光を照射した場合には、処理容器12内において、溶媒13中に存在する放出粒子に起因するレーザー光Lの散乱や前記放出粒子によるレーザー光Lの吸収、前記放出粒子の再アブレート等が起こらない。そのため、ターゲット14に対して同じ照射条件で長期に亘り連続的に安定してレーザー光を照射することも可能となる。そのため、処理容器12としてレーザー光Lが透過可能な底部Bを有するものを用い、ターゲット14に対して処理容器12の底部Bを透過したレーザー光Lを照射することが好ましい。そして、このような本発明の化合物ナノ粒子の製造方法によれば、化合物ナノ粒子を安定的に製造することができる。
【0035】
また、このようなレーザー光Lとしては、容器の材料の種類、溶媒の種類、ターゲット中の材料の種類等に応じて、任意の波長、任意のエネルギーのレーザーを使用することができる。また、ターゲット14にレーザー光Lを照射する際のレーザー光Lの照射面形状(レンズ等により集光する場合には集光形状)やエネルギー密度(フルエンス)の条件等は、不純物の混入を防止するために処理容器12が破損しないような条件とすればよく、特に制限されず、公知の条件を適宜採用することができる。なお、このような条件は、処理容器12の種類やターゲット14中の各材料の種類等に強く依存するため、その好適な条件は一概に言えるものではなく、容器の材料の種類、溶媒の種類、ターゲット中の材料の種類等に応じて、目的とする化合物ナノ粒子を得ることが可能となるような条件に適宜変更すればよい。
【0036】
また、液相レーザーアブレーションを行う際のレーザー光Lの1パルスあたりのエネルギー密度(フルエンス)は、アブレーションが生じる閾値以上としつつ容器の損傷が生じる閾値未満であればよく、特に制限されないが、例えば、ターゲット14がパラジウム粉末と銅粉末を含むものであり且つ処理容器12が硼珪酸ガラスである場合、0.4〜4J/cmであることが好ましく、前記フルエンスの上限値は1J/cm以下であることが好ましく、0.8J/cm以下であることがより好ましい。また、レーザー光Lの照射面形状も上述のように特に制限されないが、直径0.5〜5mm程度となるようにしてもよい。更に、レーザーアブレーション時の温度条件は特に制限されないが、室温(25℃)程度であることが好ましい。
【0037】
また、本発明の化合物ナノ粒子の製造方法により得られる化合物ナノ粒子の組成は、用いるターゲット14中の材料の種類や各材料のアブレーションレート等によっても異なるものであるため、一概に言えるものではないが、例えば、パラジウムと銅の混合粉末からなるターゲットを用いた場合もしくはパラジウムと銀の混合粉末からなるターゲットを用いた場合、これらの金属元素の比が1:9〜8:2となるような組成の化合物ナノ粒子を製造することも可能である。また、このようにして得られる化合物ナノ粒子は、平均粒子径が1nm〜100nm(より好ましくは1nm〜20nm)の範囲のものであることが好ましい。なお、このような粒子径は液相レーザーアブレーションの条件を適宜変更することにより容易に達成することが可能である。また、このようなナノ粒子の平均粒子径は、100個以上の一次粒子の粒子径を透過型電子顕微鏡(TEM)により測定して平均化することにより求めることができる。更に、このような本発明の化合物ナノ粒子の製造方法によれば、収率を10mg/h以上とすることも可能であり、収率を非常に高度なものとすることが可能である。また、本発明の化合物ナノ粒子の製造方法は、ターゲット14中の2種類以上の材料に由来して発生する微粒子同士を反応させて化合物ナノ粒子を製造する方法であることから、反応基質として有機溶媒を使用することがなく、引火性の高い有機溶媒を用いる必要が必ずしもないため十分に安全性の高い方法である。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
処理容器12の形態を変更した以外は、図1に示す液相レーザーアブレーション装置と同様の構成の液相レーザーアブレーション装置を用いて、化合物ナノ粒子の製造を行った。なお、レーザー発振器10としてNd:YAGレーザー装置を用い、処理容器12としてガラス製の梨型フラスコ(容量100mL)を用い、溶媒13としては純水を用い、ターゲット14としてAg粒子とCu粒子とSi粒子の混合粉末(総重量619mg:密度8g/m)を用いた。
【0040】
すなわち、先ず、処理容器12(梨型フラスコ:容量100mL)を純水で満たした後に、Ag粒子(ニラコ社製の商品名「銀粉末」:平均粒子径10μm、密度10.49g/m)と、Cu粒子(ニラコ社製の商品名「銅粉末」:平均粒子径150μm、密度8.92g/m)と、Si粒子(ニラコ社製の商品名「ケイ素粉末」:平均粒子径80μm、密度2.33g/m)とを、モル比(Ag:Cu:Si)が1:1:1となるようにして添加し、混合して、Ag粒子とCu粒子とSi粒子とを含む混合粉末をターゲット14として処理容器12の底部に沈殿させた。
【0041】
次に、レーザー発振器10からNd:YAGレーザーの2倍高調波である波長532nmのレーザー光Lを10Hz、400mJ/pulseの照射条件で発振し、集光せずに処理容器12の底部Bを透過させることにより、レーザー光Lを処理容器12の底部に沈殿したターゲット14に対して照射した(照射光形状:直径が10mmの円形状、フルエンス:0.51J/cm)。このようにして、処理容器12の底部B上に沈殿して配置された粉末状のターゲット14にレーザー光Lを60分間照射して液相レーザーアブレーションを行うことにより、溶媒13中に形成された粒子が分散したコロイドを得た。
【0042】
次に、得られたコロイドをガラス皿に移し替えて乾燥機により溶媒13(純水)を加熱蒸発させて粒子を回収した。このようにして回収された粒子を電子顕微鏡(TEM及びSEM)とX線回折(XRD)により測定するとともに、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いた元素分析(透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した箇所の元素組成の分析)を行った。このような測定により得られた結果のうち、透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図2に示す。
【0043】
図2に示す結果からも明らかなように、得られた粒子はナノメートルサイズの粒子であることが確認された。また、透過型電子顕微鏡による測定結果からは、得られた粒子は平均粒子径が8nmのナノメートルサイズの粒子(ナノ粒子)であることが確認された。更に、XRD測定により、このようなナノ粒子は結晶性の化合物からなることが分かった。また、EDSによる元素分析の結果から、得られた全ての粒子にAgとCuとSiとが含有されており、化合物が形成されていることが確認された。また、EDSによる元素分析の結果から、得られた化合物においては、AgとCuとSiとがモル比(平均値)で1:1:1の割合で含有されていることが確認され、上記方法によれば、レーザーアブレーションにより3種類の材料に由来する粒子を反応させて、反応生成物として化合物からなるナノ粒子が形成できることが分かった。また、このようにして得られたナノ粒子の質量を測定して1時間あたりの粒子の収率を求めたところ、収率は平均で50mg/hであった。
【0044】
(実施例2)
Ag粒子とCu粒子とSi粒子とを用いる代わりにCu粒子(ニラコ社製の商品名「銅粉末」:平均粒子径150μm、密度8.92g/m)とPd粒子(ニラコ社製の商品名「パラジウム粉末」:平均粒子径1.5μm、密度12.02g/m)とをモル比(Cu:Pd)が1:1となるようにして用いて、ターゲット14をCu粒子とPd粒子との混合粉末(総重量862mg:密度10g/m)からなるものに変更し、且つ、レーザー光Lのフルエンスが0.35J/cmとなるようにレーザー光の照射条件を変更した以外は実施例1と同様にして、コロイドを得た後に粒子を回収した。
【0045】
このようにして回収された粒子を電子顕微鏡(TEM及びSEM)により測定するとともに、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いた元素分析(透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した箇所の元素組成の分析)を行った。このような測定により得られた結果のうち、透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図3に示す。
【0046】
図3に示す結果からも明らかなように、得られた粒子はナノメートルサイズの粒子であることが分かった。また、透過型電子顕微鏡による測定結果から、得られた粒子は平均粒子径が7nmのナノメートルサイズの粒子(ナノ粒子)であることが確認された。また、EDSによる元素分析の結果から、得られた全ての粒子にCuとPdとが含有されており、化合物が形成されていることが確認された。また、EDSによる元素分析の結果から、得られた化合物においては、CuとPdとがモル比(平均値)で1:2の割合で含有されていることが確認され、上記方法によれば、レーザーアブレーションにより2種類の材料に由来する粒子を反応させて、反応生成物として化合物からなるナノ粒子が形成できることが分かった。また、このようにして得られたナノ粒子の質量を測定して1時間あたりの粒子の収率を求めたところ、収率は10mg/hであった。なお、このようにして得られたCuとPdとの合金(化合物)からなるナノ粒子は、水素吸蔵材への応用が期待されている材料であることから、本発明の化合物ナノ粒子の製造方法が水素吸蔵材の製造方法として有用であることが分かった。
【0047】
(実施例3)
Ag粒子とCu粒子とSi粒子とを用いる代わりにAg粒子(ニラコ社製の商品名「銀粉末」:平均粒子径10μm、密度10.49g/m)とPd粒子(ニラコ社製の商品名「パラジウム粉末」:平均粒子径1.5μm、密度12.02g/m)とをモル比が1:1となるようにして用いて、ターゲット14をAg粒子とPd粒子との混合粉末(総重量920mg:密度10.9g/m)からなるものに変更し、且つ、レーザー光の照射条件を10Hz、464mJ/pulseの条件に変更してレーザー光Lのフルエンスが0.41J/cmとなるようにした以外は実施例1と同様にして、コロイドを得た後に粒子を回収した。
【0048】
このようにして回収された粒子を電子顕微鏡(TEM及びSEM)により測定するとともに、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いた元素分析(透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した箇所の元素組成の分析)を行った。このような測定により得られた結果のうち、透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図4に示す。
【0049】
図4に示す結果からも明らかなように、得られた粒子はナノメートルサイズの粒子であることが分かった。また、透過型電子顕微鏡による測定結果から、得られた粒子は平均粒子径が40nmのナノメートルサイズの粒子(ナノ粒子)であることが確認された。また、EDSによる元素分析の結果から、得られた全ての粒子にAgとPdとが含有されており、化合物が形成されていることが確認された。また、EDSによる元素分析の結果から、得られた化合物においては、AgとPdとがモル比(平均値)で7:3の割合で含有されていることが確認され、上記方法によれば、レーザーアブレーションにより2種類の材料に由来する粒子を反応させて、反応生成物として化合物からなるナノ粒子が形成できることが分かった。また、このようにして得られたナノ粒子の質量を測定して1時間あたりの粒子の収率を求めたところ、収率は12mg/hであった。なお、このようにして得られたAgとPdとの合金(化合物)は、水素吸蔵材への応用が期待されている材料であることから、本発明の化合物ナノ粒子の製造方法が水素吸蔵材の製造方法として有用であることが分かった。
【0050】
(実施例4)
Ag粒子とCu粒子とSi粒子とを用いる代わりに黒鉛粒子(高純度化学社製の商品名「炭素粉末」:平均粒子径10μm、密度2.2g/m)とSi粒子(ニラコ社製の商品名「ケイ素粉末」:平均粒子径80μm、密度2.33g/m)とをモル比(黒鉛(C原子換算):Si)が1:1となるようにして用いて、ターゲット14を黒鉛粒子とPd粒子との混合粉末(総重量100mg:密度2.3g/m)からなるものに変更した以外は実施例1と同様にして、コロイドを得た後に粒子を回収した。
【0051】
このようにして回収された粒子を電子顕微鏡(TEM及びSEM)により測定するとともに、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いた元素分析(透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した箇所の元素組成の分析)を行った。このような測定の結果から、得られた粒子は、平均粒子径が10nmのナノメートルサイズの粒子(ナノ粒子)であることが確認された。また、EDSによる元素分析の結果から、得られた全ての粒子にSiとCとが含有されており、化合物が形成されていることが確認された。また、EDSによる元素分析の結果から、得られた化合物においては、SiとCとがモル比(平均値)で4:3の割合で含有されていることが確認され、上記方法によれば、レーザーアブレーションにより2種類の材料に由来する粒子を反応させて、反応生成物として化合物からなるナノ粒子が形成できることが分かった。また、このようにして得られたナノ粒子の質量を測定して1時間あたりの粒子の収率を求めたところ、収率は45mg/hであった。
【0052】
(実施例5)
Ag粒子とCu粒子とSi粒子とを用いる代わりにAg粒子(ニラコ社製の商品名「銀粉末」:平均粒子径150μm、密度8.92g/m)とSi粒子(ニラコ社製の商品名「ケイ素粉末」:平均粒子径80μm、密度2.33g/m)とをモル比(Ag:Si)が2:1となるようにして用いて、ターゲット14をAg粒子とSi粒子との混合粉末(総重量560mg:密度6g/m)からなるものに変更した以外は実施例1と同様にして、コロイドを得た後に粒子を回収した。
【0053】
このようにして回収された粒子を電子顕微鏡(TEM及びSEM)により測定するとともに、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いた元素分析(透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した箇所の元素組成の分析)を行った。このような測定の結果から、得られた粒子は、平均粒子径が12nmのナノメートルサイズの粒子(ナノ粒子)であることが確認された。また、EDSによる元素分析の結果から、得られた全ての粒子にAgとCuとが含有されており、化合物が形成されていることが確認された。また、EDSによる元素分析の結果から、得られた化合物においては、AgとCuとがモル比(平均値)で3:1の割合で含有されていることが確認され、上記方法によれば、レーザーアブレーションにより2種類の材料に由来する粒子を反応させて、反応生成物として化合物からなるナノ粒子が形成できることが分かった。また、このようにして得られたナノ粒子の質量を測定して1時間あたりの粒子の収率を求めたところ、収率は20mg/hであった。
【0054】
(実施例6)
Ag粒子とCu粒子とSi粒子とを用いる代わりにPd粒子(ニラコ社製の商品名「パラジウム粉末」:平均粒子径1.5μm、密度12.02g/m)とCu粒子(ニラコ社製の商品名「銅粉末」:平均粒子径150μm、密度8.92g/m)とSi粒子(ニラコ社製の商品名「ケイ素粉末」:平均粒子径80μm、密度2.33g/m)とをモル比(Pd:Cu:Si)が1:1:1となるようにして用いて、ターゲット14をPd粒子とCu粒子とSi粒子との混合粉末(総重量650mg:密度8g/m)からなるものに変更した以外は実施例1と同様にして、コロイドを得た後に粒子を回収した。
【0055】
このようにして回収された粒子を電子顕微鏡(TEM及びSEM)により測定するとともに、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いた元素分析(透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した箇所の元素組成の分析)を行った。このような測定の結果から、得られた粒子は、平均粒子径が5nmのナノメートルサイズの粒子(ナノ粒子)であることが確認された。また、EDSによる元素分析の結果から、得られた全ての粒子にPdとCuとSiとが含有されており、化合物が形成されていることが確認された。また、EDSによる元素分析の結果から、得られた化合物においては、PdとCuとSiとがモル比(平均値)で2:1:1の割合で含有されていることが確認され、上記方法によれば、レーザーアブレーションにより3種類の材料に由来する粒子を反応させて、反応生成物として化合物からなるナノ粒子が形成できることが分かった。また、このようにして得られたナノ粒子の質量を測定して1時間あたりの粒子の収率を求めたところ、収率は20mg/hであった。
【0056】
(比較例1)
ターゲット14(混合粉末)を沈殿させずに、マグネチックスターラーを用いて撹拌子(長さ:30mm、棒状)を回転速度1200rpmで回転させて、ターゲット14(混合粉末)を純水中に強制的に分散させて混濁液を形成し、混濁液中に分散している粉末状のターゲット14に対してレーザー光を照射した以外は、実施例2と同様にしてコロイドを得た後に粒子を回収した。
【0057】
このようにして回収された粒子を電子顕微鏡(TEM及びSEM)により測定するとともに、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いた元素分析(透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した箇所の元素組成の分析)を行ったところ、化合物からなるナノ粒子が形成されていることが確認された。得られたナノ粒子の質量を測定して1時間あたりの粒子の収率を求めたところ、収率は1mg/hであった。
【0058】
(比較例2)
ターゲット14(混合粉末)を沈殿させずに、マグネチックスターラーを用いて撹拌子(長さ:30mm、棒状)を回転速度1200rpmで回転させて、ターゲット14(混合粉末)を純水中に強制的に分散させて混濁液を形成し、混濁液中に分散している粉末状のターゲット14に対してレーザー光を照射した以外は、実施例3と同様にしてコロイドを得た後に粒子を回収した。
【0059】
このようにして回収された粒子を電子顕微鏡(TEM及びSEM)により測定するとともに、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いた元素分析(透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した箇所の元素組成の分析)を行ったところ、化合物からなるナノ粒子が形成されていることが確認された。得られたナノ粒子の質量を測定して1時間あたりの粒子の収率を求めたところ、収率は2mg/hであった。
【0060】
(比較例3)
ターゲット14(混合粉末)を沈殿させずに、マグネチックスターラーを用いて撹拌子(長さ:30mm、棒状)を回転速度1200rpmで回転させて、ターゲット14(混合粉末)を純水中に強制的に分散させて混濁液を形成し、混濁液中に分散している粉末状のターゲット14に対してレーザー光を照射した以外は、実施例4と同様にしてコロイドを得た後に粒子を回収した。
【0061】
このようにして回収された粒子を電子顕微鏡(TEM及びSEM)により測定するとともに、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いた元素分析(透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した箇所の元素組成の分析)を行ったところ、化合物からなるナノ粒子が形成されていることが確認された。得られたナノ粒子の質量を測定して1時間あたりの粒子の収率を求めたところ、収率は3mg/hであった。
【0062】
(比較例4)
ターゲット14(混合粉末)を沈殿させずに、マグネチックスターラーを用いて撹拌子(長さ:30mm、棒状)を回転速度1200rpmで回転させて、ターゲット14(混合粉末)を純水中に強制的に分散させて混濁液を形成し、混濁液中に分散している粉末状のターゲット14に対してレーザー光を照射した以外は、実施例5と同様にしてコロイドを得た後に粒子を回収した。
【0063】
このようにして回収された粒子を電子顕微鏡(TEM及びSEM)により測定するとともに、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いた元素分析(透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した箇所の元素組成の分析)を行ったところ、化合物からなるナノ粒子が形成されていることが確認された。得られたナノ粒子の質量を測定して1時間あたりの粒子の収率を求めたところ、収率は1.5mg/hであった。
【0064】
(比較例5)
ターゲット14(混合粉末)を沈殿させずに、マグネチックスターラーを用いて撹拌子(長さ:30mm、棒状)を回転速度1200rpmで回転させて、ターゲット14(混合粉末)を純水中に強制的に分散させて混濁液を形成し、混濁液中に分散している粉末状のターゲット14に対してレーザー光を照射した以外は、実施例6と同様にしてコロイドを得た後に粒子を回収した。
【0065】
このようにして回収された粒子を電子顕微鏡(TEM及びSEM)により測定するとともに、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いた元素分析(透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した箇所の元素組成の分析)を行ったところ、化合物からなるナノ粒子が形成されていることが確認された。得られたナノ粒子の質量を測定して1時間あたりの粒子の収率を求めたところ、収率は1mg/hであった。
【0066】
このような実施例1〜6及び比較例1〜5で行った実験の結果から、本発明の化合物ナノ粒子の製造方法(実施例1〜6)によれば、液相レーザーアブレーションにより2種類以上の材料に由来する微粒子同士を反応させて、反応生成物として化合物ナノ粒子を生成することができるとともに、1時間あたりの収率を10mg/h以上とすることも可能となることが確認された。一方、混濁液中のターゲットに対して液相レーザーアブレーションを行う場合(比較例1〜5)には、化合物ナノ粒子は生成できるものの、収率は最大でも3mg/hであり、効率よく化合物ナノ粒子を製造することができないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上説明したように、本発明によれば、反応基質として有機溶媒を使用することなく、化合物ナノ粒子を十分に高度な収率で製造することが可能な化合物ナノ粒子の製造方法を提供することが可能となる。このように、本発明の化合物ナノ粒子の製造方法は、安全性に優れるとともに高度な収率で化合物ナノ粒子をできるため、水素吸蔵材や触媒粒子などとして利用可能な化合物ナノ粒子を製造するための方法等として特に有用である。
【符号の説明】
【0068】
10…レーザー発振器、11…ミラー、12…処理容器、13…溶媒、14…ターゲット、L…レーザー光、B…処理容器の底部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を発生させるためのレーザー発振器と、溶媒を保持するための処理容器と、前記処理容器内に保持されている溶媒と、前記処理容器内に配置したターゲットとを備える液相レーザーアブレーション装置を用い、
前記ターゲットとして、前記レーザー光を吸収する材料を2種類以上含有するものを用い、
前記ターゲットの密度が前記溶媒の密度よりも大きくなるように前記ターゲット及び前記溶媒を選択して用い、前記ターゲットを前記処理容器の底部に沈殿させて配置し、
前記ターゲットに対して前記レーザー光を照射して液相レーザーアブレーションを行い、前記溶媒中において、前記ターゲットから前記各材料に由来する微粒子をそれぞれ発生させて前記各微粒子同士を反応せしめることにより、前記反応により生成した化合物からなるナノ粒子を形成することを特徴とする化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記ターゲットの密度が前記溶媒の密度の2倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記処理容器として前記レーザー光が透過可能な底部を有するものを用い、前記ターゲットに対して前記処理容器の底部を透過したレーザー光を照射することを特徴とする請求項1又は2に記載の化合物ナノ粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−46778(P2012−46778A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187998(P2010−187998)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】