説明

半導体レーザ装置

【課題】放熱性を向上させた半導体レーザ装置を提供する。
【解決手段】レーザチップ11の基板1の裏面に溝10を設け、基板1の裏面に形成される裏面電極12の一部を溝10の内部に配置することにより、裏面電極12と発光部7との距離が短くなると共に、裏面電極12の表面積が大きくなる。これにより、発光部7から発生した熱の一部を裏面電極12を通じて外部に逃がすことができるので、レーザチップ11の放熱性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ装置に関し、特に、半導体レーザ装置の放熱構造に適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ装置は、GaAsなどからなる半導体基板(以下、単に基板という)上に複数の半導体層を積層し、その一部に発光部を設けた半導体チップ(以下、レーザチップという)を備えている。
【0003】
上記レーザチップは、サブマウントと呼ばれる熱伝導性の良好な材料(例えばAlN、SiC、CuWなど)からなる支持基板に半田で固定されて使用される。このサブマウントにレーザチップを固定する際には、レーザチップの発光部から発生する熱を効率よくサブマウントに伝えるため、レーザチップの発光部に近い面(通常はP電極側)をサブマウントに対向させて両者を接合する、いわゆるジャンクションダウン実装方式が採用されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−244440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、半導体レーザ装置の高出力化・高輝度化に伴い、レーザチップの発光部から発生する熱量も増加の一途を辿っている。
【0006】
そのため、前述したジャンクションダウン実装方式を採用した場合でも、レーザチップの発光部から発生する熱を充分にサブマウントに伝達することが困難となり、レーザチップの過度な温度上昇に起因する素子特性のばらつきや寿命の低下が深刻な問題となっている。
【0007】
本発明の目的は、放熱性を向上させた半導体レーザ装置を提供することにある。
【0008】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0010】
本願発明の好ましい一態様である半導体レーザ装置は、第1の面および前記第1の面と反対側の第2の面を有する基板と、前記基板の前記第1の面上に形成され、かつ、その内部にレーザビームを発振する発光部を含む半導体層と、前記半導体層上に形成された第1電極と、前記半導体基板の前記第2の面に形成された第2電極とを有するレーザチップを備え、
前記第1電極が接合材を介して支持基板の一面に接合されることによって、前記レーザチップが前記支持基板に実装された半導体レーザ装置であって、
前記基板の前記第2の面に溝が形成され、前記溝の内部に前記第2電極の一部が形成されているものである。
【発明の効果】
【0011】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0012】
基板の第2の面に溝を形成し、この溝の内部に第2電極の一部を形成することにより、第2電極と発光部との距離が短くなり、かつ第2電極の表面積が大きくなる。これにより、発光部から発生した熱の一部を第2電極を通じて外部に逃がすことができるので、レーザチップの放熱性が向上する。
【0013】
これにより、レーザチップの素子特性および寿命の改善が期待できるので、半導体レーザ装置の高出力化・高輝度化を促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態である半導体レーザ装置の主要部の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態である半導体レーザ装置の主要部の構成を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態である半導体レーザ装置の全体構成を示す要部破断斜視図である。
【図4】本発明の半導体レーザ装置の別例を示す断面図である。
【図5】本発明の半導体レーザ装置の別例を示す断面図である。
【図6】本発明の半導体レーザ装置の別例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0016】
本実施の形態は、凸状のリッジ部を有する1ビーム半導体レーザ装置に適用したものであり、図1は、この半導体レーザ装置の主要部の構成を示す断面図、図2は、この半導体レーザ装置の主要部の構成を示す斜視図である。
【0017】
図1および図2に示すように、半導体レーザ装置の主要部は、サブマウント(支持基板)20と、このサブマウント20の一面に実装されたレーザチップ11とで構成されている。サブマウント20は、熱伝導性が良好で、かつレーザチップ11に近い熱膨張係数を有する材料、例えばSiC(線膨張係数=4.0×10−6/K)や、AlN(線膨張係数=4.8×10−6/K)などからなる。また、レーザチップ11は、n型のGaAs(線膨張係数=6.4×10−6/K)からなる基板1と、この基板1のデバイス面側(図では基板1の下部)に積層された複数層の半導体層とで構成されている。
【0018】
レーザチップ11の基板1の一面に積層された複数層の半導体層は、例えば有機金属気相成長(MOCVD)法によって堆積されたn型クラッド層2、活性層3、p型第1クラッド層4、p型第2クラッド層5およびp型コンタクト層6からなる。これらの半導体層のうち、n型クラッド層2は、厚さ2.0μmのAlGaInP層で構成されている。活性層3は、例えば厚さ5nmのAlGaInP層からなる障壁層と厚さ6nmのGaInP層からなる井戸層とを交互に積層した多重量子井戸(Multi Quantum Well:MQW)構造で構成されている。p型第1クラッド層4は厚さ0.3μmのAlGaInP層で構成されており、p型第2クラッド層5は、厚さ2.0μmのAlGaInP層で構成されている。p型コンタクト層6は、厚さ0.4μmのGaAsで構成されている。そして、これらの半導体層と基板1とを合わせた合計の厚さは、例えば50〜100μmである。
【0019】
p型第2クラッド層5には、凸形の断面形状を有し、図1の紙面に垂直な方向に沿って延在するリッジ部5Aが形成されている。また、p型クラッド層(p型第1クラッド層4、p型第2クラッド層5)とp型コンタクト層6との間には、酸化シリコンなどからなるパッシベーション膜8が形成されている。さらに、p型コンタクト層6の下部には、表面電極(P電極)9が形成されている。表面電極9は、例えばTi層と、このTi層の上にPt層およびAu層を順次積層した金属膜で構成されている。
【0020】
上記基板1の裏面(図1および図2では上面)には、p型第2クラッド層5に形成されたリッジ部5Aと平行に延在する溝10が設けられている。この溝10は、ウエハ工程(前工程)において、基板1の裏面をドライエッチングまたはウェットエッチングすることによって形成される。
【0021】
上記溝10は、その底部が発光部7の近傍、好ましくは発光部7の真上に位置するように形成する。また、溝10の深さは、深いほど溝10の底部に形成された裏面電極12と発光部7との距離が短くなるので好ましい。ただし、ウエハを劈開してレーザチップ11を形成する際などに基板1が割れるのを防ぐため、溝10の底部における基板1の厚さ、すなわち溝10の底部からn型クラッド層2までの距離を少なくとも10μm以上確保することが好ましい。
【0022】
上記レーザチップ11は、表面電極9が形成された面をサブマウント20の一面に対向させ、表面電極9とサブマウント電極21との間に半田層13を形成することによってサブマウント20に実装されている。すなわち、レーザチップ11は、ジャンクションダウン実装方式によってサブマウント20の一面に実装されている。レーザチップ11の裏面電極12には、レーザチップ11がサブマウント20に実装された後、Auワイヤ14の一端がボンディングされる。
【0023】
また、上記レーザチップ11は、表面電極9と裏面電極12とに所定の電圧を印加したとき、リッジ部5Aの近傍の発光部7において、例えば660nmの発振波長を有する赤色レーザビームを発振する。この赤色レーザビームは、リッジ部5Aの延在方向に直交するレーザチップ11の両端面から外部に出射される。
【0024】
発光部7からレーザビームが発振すると、発光部7から熱が発生する。この熱の一部は、表面電極9および半田層13を通じてサブマウント20に伝達される。また、熱の他の一部は、発光部7に近接して形成された裏面電極12を通じて大気中やAuワイヤ14に伝達される。
【0025】
図3は、本実施の形態の1ビーム半導体レーザ装置の全体構成を示す要部破断斜視図である。
【0026】
図1および図2に示したレーザチップ11およびサブマウント20は、例えば直径が9.0mm程度、厚さが1.2mm程度のFe合金からなる円盤状のステム30と、このステム30の上面を覆うキャップ31とを備えたパッケージ(封止容器)に封止される。
【0027】
キャップ31の底部の外周部は、ステム30の上面に固定されている。また、キャップ31の上面の中央部分には、レーザチップ11から発振されたレーザビームを透過するためのガラス板33が接合された丸穴34が設けられている。
【0028】
キャップ31で覆われたステム30の上面の中央部近傍には、例えばCuのような熱伝導性が良好な金属からなるヒートシンク35が搭載されている。このヒートシンク35は、ロウ材(図示せず)を介してステム30の上面に接合されており、その一面には、半田(図示せず)を介してサブマウント20が固定されている。
【0029】
前述したように、サブマウント20の一面には、レーザチップ11がジャンクションダウン方式によって実装されている。サブマウント20は、レーザビームの発振時に発生する熱をレーザチップ11の外部に放散するための放熱板と、レーザチップ11を支持するための支持基板とを兼ねている。
【0030】
レーザチップ11が実装されたサブマウント20の一面には、Auワイヤ15の一端がボンディングされている。また、ヒートシンク35には、このAuワイヤ15の他端がボンディングされている。図1および図2に示したように、レーザチップ11が実装されたサブマウント20の一面には、半田層13を介してレーザチップ11の表面電極9に電気的に接続されたサブマウント電極21が形成されているので、Auワイヤ15の一端は、サブマウント電極21および半田層13を介してレーザチップ11の表面電極9に電気的に接続されている。
【0031】
サブマウント20に実装されたレーザチップ11は、その両端面(図3の上端面および下端面)からレーザビームを出射する。そのため、レーザチップ11を支持するサブマウント20は、その一面(チップ実装面)がステム30の上面に対して垂直な方向を向くようにヒートシンク35に固定されている。レーザチップ11の上端面から出射されたレーザビーム(前方光)は、キャップ31の丸穴34を通じて外部に出射される。他方、レーザチップ11の下端面から出射されたレーザビーム(後方光)は、ステム30の上面の中央部近傍に実装されたフォトダイオードチップ40によって受光され、電流に変換される。
【0032】
ステム30の下面には3本のリード37、38、39が取り付けられている。このうち、リード37は、ステム30、ヒートシンク35およびAuワイヤ15を介してサブマウント20のサブマウント電極21に電気的に接続されている。また、リード38は、Auワイヤ14を介してレーザチップ11の裏面電極12に電気的に接続されている。さらに、リード39は、Auワイヤ16を介してフォトダイオードチップ36に電気的に接続されている。
【0033】
このように、本実施の形態の半導体レーザ装置は、サブマウント20の一面に実装されたレーザチップ11の基板1に裏面側から溝10を形成し、この溝10の内部を含む基板1の裏面に裏面電極12を形成している。このため、基板1の裏面に溝10を設けない場合に比べて、レーザチップ11内部の発光部7から裏面電極12までの距離が短くなるだけでなく、裏面電極12の表面積も大きくなる。
【0034】
これにより、レーザチップ11の発光部7から発生した熱は、表面電極9および半田層13を通じてサブマウント20に伝達されるだけでなく、発光部7に近接して形成された裏面電極12からも外部(大気中およびAuワイヤ14)に伝達される。
【0035】
すなわち、本実施の形態の半導体レーザ装置によれば、レーザチップ11の発光部7から発生した熱をレーザチップ11の両面から外部に伝達することができるので、レーザチップの放熱性が向上し、素子特性および寿命の改善が期待できる。従って、半導体レーザ装置の高出力化・高輝度化を促進させることができる。
【0036】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0037】
レーザチップ11の基板1に形成する溝10の形状、大きさ、個数などは、図1および図2に示した例に限定されるものではない。
【0038】
例えば図4に示すように、裏面電極12を厚く形成し、溝10の内部全体に裏面電極12を埋め込んでもよい。また、図5に示すように、溝10の側壁にテーパを設けた場合には、裏面電極12の表面積をより大きくすることができる。さらに、図6に示すように、基板1に溝10を形成したことによるレーザチップ11の曲げ強度の低下を補償する目的で、裏面電極12が形成された溝10の隙間に絶縁膜17などを埋め込んでもよい。
【0039】
前記実施の形態では、1ビーム半導体レーザ装置について説明したが、本発明は1個のレーザチップ内に複数の発光部を設けたマルチビーム半導体レーザ装置に適用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、半導体レーザ装置の放熱構造に適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 基板(半導体基板)
2 n型クラッド層
3 活性層
4 p型第1クラッド層
5 p型第2クラッド層
5A リッジ部
6 p型コンタクト層
7 発光部
8 パッシベーション膜
9 表面電極(P電極)
10 溝
11 レーザチップ(半導体チップ)
12 裏面電極(N電極)
13 半田層
14、15、16 Auワイヤ
17 絶縁膜
20 サブマウント(支持基板)
21 サブマウント電極
30 ステム
31 キャップ
33 ガラス板
34 丸穴
35 ヒートシンク
36 フォトダイオードチップ
37、38、39 リード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面および前記第1の面と反対側の第2の面を有する半導体基板と、
前記半導体基板の前記第1の面上に形成され、かつ、その内部にレーザビームを発振する発光部を含む半導体層と、
前記半導体層上に形成された第1電極と、
前記半導体基板の前記第2の面に形成された第2電極と、
を有する半導体チップを備え、
前記第1電極が接合材を介して支持基板の一面に接合されることによって、前記半導体チップが前記支持基板に実装された半導体レーザ装置であって、
前記半導体基板の前記第2の面に溝が形成され、
前記溝の内部に前記第2電極の一部が形成されていることを特徴とする半導体レーザ装置。
【請求項2】
前記溝は、その底部が前記発光部に近接するように配置されていることを特徴とする請求項1記載の半導体レーザ装置。
【請求項3】
前記溝の内部に絶縁膜が埋め込まれていることを特徴とする請求項1記載の半導体レーザ装置。
【請求項4】
前記半導体基板はGaAsからなり、前記発光部は、AlGaInP層からなる障壁層とGaInP層からなる井戸層とを交互に積層した多重量子井戸構造で構成された活性層の内部に形成されていることを特徴とする請求項1記載の半導体レーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−134346(P2012−134346A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285684(P2010−285684)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(301005371)日本オプネクスト株式会社 (311)
【Fターム(参考)】