説明

半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物及び半導体装置

【課題】粘度が低く、侵入性が良好で、シリコンチップの表面等との密着性に優れ、かつ強靭性に優れた硬化物を提供する。
【解決手段】(A)液状エポキシ樹脂、(B)芳香族アミン系硬化剤、及び(C)平均粒径が0.1〜3μmのシリカである無機充填剤Aと平均粒径が5〜70nmの非晶質ナノシリカである無機充填剤Bからなる無機充填剤であって、該無機充填剤Bが下記式(1)及び/又は(2)で表されるシランカップリング剤で表面処理されてなる無機充填剤を含有することを特徴とする半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物。


(式中、nは1〜5の整数、mは1又は2である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘度が低く、侵入性が良好で、シリコンチップの表面等との密着性に優れ、かつ強靭性に優れた硬化物を与え、鉛フリー半田を用いた場合にリフローの温度が上昇しても不良が発生せず、更に高温多湿の条件下でも劣化せず、熱衝撃テストにおいても剥離等が発生しない半導体装置の封止材となり得る半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物、及びこの組成物の硬化物で封止された半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気機器の小型化、軽量化、高性能化に伴い、半導体の実装方法もピン挿入タイプから表面実装が主流になっている。そしてベアチップ実装の一つにフリップチップ(FC)実装がある。FC実装とは、LSIチップの配線パターン面に高さ数μm程度から100μm程度のバンプといわれる電極を数個から数万個以上形成し、基板の電極部に対しバンプを接合する方式である。このため、FCの封止保護に用いる封止材料は基板とLSIチップの隙間に浸透させる必要がある。
【0003】
従来のフリップチップ用アンダーフィル材として使用される液状エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂、硬化剤及び無機充填剤を配合し、信頼性を高めるために半導体のチップや基板、バンプと線膨張係数を一致させる目的で多量の無機充填剤を配合する必要があるが、多量に無機充填剤を配合すると高粘度化するため、基板とLSIチップの隙間に侵入しにくく、生産性が非常に悪くなるといった問題点が提示されており、この改善が望まれる。
【0004】
また、半導体素子の高集積化に伴い、ダイサイズの一辺が10mmを超えるものもあり、ダイサイズの大型化が進んできている。このような大型ダイを用いた半導体装置では、半田リフロー時にダイと封止材にかかる応力が増大し、封止材とダイ及び基板の界面で剥離が生じたり、基板実装時にパッケージにクラックが入るといった問題がクローズアップされてきている。
【0005】
更に、近い将来に鉛含有半田が使用できなくなることから、鉛代替半田が多数開発されている。この種の半田は、溶融温度が鉛含有の半田より高くなることから、リフローの温度も260〜270℃で検討されており、従来の液状エポキシ樹脂組成物の封止材では、より一層の不良が予想される。このようにリフローの温度が高くなると、従来において何ら問題のなかったフリップチップ型のパッケージもリフロー時にクラックが発生したり、チップ界面、基板界面との剥離が発生したり、その後の冷熱サイクルが数百回以上経過すると樹脂又は基板、チップ、バンプ部にクラックが発生するという重大な問題が起こるようになる。
なお、この発明に関連する先行技術文献としては、下記のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−158366号公報
【特許文献2】特開平10−231351号公報
【特許文献3】特開2000−327884号公報
【特許文献4】特開2001−055486号公報
【特許文献5】特開2001−055487号公報
【特許文献6】特開2001−055488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、粘度が低く、侵入性が良好で、シリコンチップの表面、特に感光性ポリイミド樹脂や窒化膜との密着性に優れ、かつ強靭性に優れた硬化物を与え、鉛フリー半田を用いた場合にリフローの温度が従来温度240℃付近から260〜270℃に上昇しても不良が発生せず、更にPCT(プレッシャークッカーテスト,121℃/2.1atm)等の高温多湿の条件下でも劣化せず、−65℃/150℃の温度サイクルにおいて数百サイクルを超えても剥離、クラックが発生しない半導体装置の封止材となり得る半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物、及びこの組成物の硬化物で封止された半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行なった結果、
(A)液状エポキシ樹脂、
(B)芳香族アミン系硬化剤:(A)成分中の全エポキシ基に対する(B)成分中の全アミノ基のモル比が0.7〜1.2となる量、及び
(C)平均粒径が0.1〜3μmのシリカである無機充填剤Aと平均粒径が5〜70nmの非晶質ナノシリカである無機充填剤Bからなる無機充填剤であって、該無機充填剤Bが特定の構造を有するカップリング剤で該無機充填剤B100質量部に対して該カップリング剤3〜20質量部の割合で表面処理されてなると共に、該無機充填剤Bの無機充填剤全体に対する含有率が0.2〜10質量%である無機充填剤:(A)〜(C)成分からなる組成物全体に対する含有率が50〜80質量%となる量
を含有する半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物が、粘度が低く、侵入性が良好で、シリコンチップの表面、特に感光性ポリイミド樹脂や窒化膜との密着性に優れ、かつ強靭性に優れた硬化物を与え、鉛フリー半田に即しリフローの温度が従来温度240℃付近から260〜270℃に上昇しても不良が発生せず、更にPCT(121℃/2.1atm)等の高温多湿の条件下でも劣化せず、−65℃/150℃の温度サイクルにおいて数百サイクルを超えても剥離、クラックが発生しない半導体装置の封止材となり得ることを知見し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、下記半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物及び半導体装置を提供する。
請求項1:
(A)液状エポキシ樹脂、
(B)芳香族アミン系硬化剤:(A)成分中の全エポキシ基に対する(B)成分中の全アミノ基のモル比が0.7〜1.2となる量、及び
(C)平均粒径が0.1〜3μmのシリカである無機充填剤Aと平均粒径が5〜70nmの非晶質ナノシリカである無機充填剤Bからなる無機充填剤であって、該無機充填剤Bが下記式(1)及び/又は(2)で表されるカップリング剤で該無機充填剤B100質量部に対して該カップリング剤3〜20質量部の割合で表面処理されてなると共に、該無機充填剤Bの無機充填剤全体に対する含有率が0.2〜10質量%である無機充填剤:(A)〜(C)成分からなる組成物全体に対する含有率が50〜80質量%となる量
【化1】

(式中、nは1〜5の整数、mは1又は2である。)
を含有することを特徴とする半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物。
請求項2:
カップリング剤が、下記式(2’)で表されるものであることを特徴とする請求項1記載の半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物。
【化2】

請求項3:
(B)成分が、下記式(3)、(4)、(5)又は(6)で表される芳香族アミン系硬化剤であることを特徴とする請求項1又は2記載の半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物。
【化3】

(式中、R1〜R4は水素原子、同一又は異種の炭素数1〜6の一価炭化水素基、CH3S−及びC25S−から選ばれる基である。)
請求項4:
請求項1〜3のいずれか1項記載の半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物の硬化物で封止された半導体装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、粘度が低く、侵入性が良好で、シリコンチップの表面、特に感光性ポリイミド樹脂や窒化膜との密着性に優れ、かつ強靭性に優れた硬化物を与え、鉛フリー半田を用いた場合にリフローの温度が従来温度240℃付近から260〜270℃に上昇しても不良が発生せず、更にPCT(121℃/2.1atm)等の高温多湿の条件下でも劣化せず、−65℃/150℃の温度サイクルにおいて数百サイクルを超えても剥離、クラックが発生しない半導体装置の封止材となり得る半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物、及びこの組成物の硬化物で封止された半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
<液状エポキシ樹脂組成物>
本発明の半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物は、上記(A)〜(C)成分を含有してなるものであり、必要に応じて、低応力剤等の他の任意成分を含有してもよい。また、溶剤を使用しても良い。
以下、上記の(A)〜(C)成分、及び他の任意成分等について、詳しく説明する。
【0012】
〔(A)成分〕
(A)成分である液状エポキシ樹脂は、1分子内に3官能基以下のエポキシ基を持ち、常温(20〜30℃)で液状のものであればよく、従来から公知のものを全て使用することができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0013】
特に、耐熱性や耐湿性に優れるビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂等が好ましい。この中でも常温(20〜30℃、特に25℃)で液状、回転粘度計による粘度が200Pa・s以下、特に50Pa・s以下のエポキシ樹脂が好ましい。
【0014】
また、液状エポキシ樹脂には、下記構造式(7)、(8)で示されるエポキシ樹脂を侵入性に影響を及ぼさない範囲で含有していてもよい。
【化4】

【0015】
上記式(8)中、R5は水素原子、又は炭素数1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜3の一価炭化水素基であり、一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基などが挙げられる。また、xは1〜4の整数であり、特に1又は2である。
【0016】
上記式(7)で示されるエポキシ樹脂を配合する場合、その配合量は、全エポキシ樹脂中10質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であることが推奨される。10質量%未満であると耐熱性が低下したり、高粘度になったりするおそれがある。なお、上限は100質量%でもよい。
【0017】
上記式(7)で示されるエポキシ樹脂の例としては、三菱化学(株)製、jER630LSD等が挙げられる。
【0018】
上記式(8)で示されるエポキシ樹脂を配合する場合、その配合量は、全エポキシ樹脂中25質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは75質量%以上であることが推奨される。25質量%未満であると組成物の粘度が上昇したり、硬化物の耐熱性が低下したりするおそれがある。なお、上限は100質量%でもよい。
【0019】
上記式(8)で示されるエポキシ樹脂の例としては、日本化薬(株)製、RE600NM等が挙げられる。
【0020】
なお、エポキシ樹脂には、その合成過程で使用するエピクロルヒドリン由来の塩素が少量含まれるが、上記液状エポキシ樹脂中の全塩素含有量は、1,500ppm以下、望ましくは1,000ppm以下であることが好ましい。また、100℃で50%エポキシ樹脂濃度における20時間での抽出水塩素が10ppm以下であることが好ましい。全塩素含有量が1,500ppmを超え、又は抽出水塩素が10ppmを超えると半導体素子の信頼性、特に耐湿性に悪影響を与えるおそれがある。
以上、述べたエポキシ樹脂は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0021】
〔(B)成分〕
(B)成分である芳香族アミン系硬化剤は、上記(A)成分の硬化剤であって、耐熱性や保存安定性に優れる芳香環を有するアミン系化合物であり、好ましくは下記式(3)、(4)、(5)又は(6)で表される芳香族アミン系硬化剤である。
【化5】

(式中、R1〜R4は水素原子、同一又は異種の炭素数1〜6の一価炭化水素基、CH3S−及びC25S−から選ばれる基である。)
【0022】
上記式(3)、(4)、(5)又は(6)で表される芳香族アミン系硬化剤の中でも、例えば、3,3’−ジエチル−4,4’−ジアミノフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノフェニルメタン等の芳香族ジアミノジフェニルメタン化合物、2,4−ジアミノトルエン、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン等が好適に使用される。
これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
上記芳香族アミン系硬化剤の中で、常温(20〜30℃)で液体のものはそのまま配合しても問題ないが、固体のものはそのまま配合すると樹脂粘度が上昇し、作業性が著しく悪くなるため、予め上記液状エポキシ樹脂と溶融混合することが好ましく、後述する特定の配合割合で、70〜150℃の温度範囲で1〜2時間溶融混合することが望ましい。混合温度が70℃未満であると芳香族アミン系硬化剤が十分に相溶しないおそれがあり、150℃を超える温度であると液状エポキシ樹脂と反応して粘度上昇するおそれがある。また、混合時間が1時間未満であると芳香族アミン系硬化剤が十分に相溶せず、粘度上昇を招くおそれがあり、2時間を超えると液状エポキシ樹脂と反応し、粘度上昇するおそれがある。
【0024】
上記芳香族アミン系硬化剤の配合量は、(A)成分中の全エポキシ基に対する該芳香族アミン系硬化剤中の全アミノ基のモル比が、0.7〜1.2、好ましくは0.7〜1.1、更に好ましくは0.85〜1.05となる量である。配合モル比が0.7未満では未反応のエポキシ基が残存し、ガラス転移温度が低下、あるいは密着性が低下するおそれがある。一方、1.2を超えると硬化物が硬く脆くなり、リフロー時又は温度サイクル時にクラックが発生するおそれがある。
【0025】
〔(C)成分〕
(C)成分である無機充填剤は、平均粒径が0.1〜3μmのシリカである無機充填剤Aと平均粒径が5〜70nmの非晶質ナノシリカである無機充填剤Bからなる無機充填剤であって、該無機充填剤Bが後述する式(1)及び/又は(2)で表されるカップリング剤で該無機充填剤B100質量部に対して該カップリング剤3〜20質量部の割合で表面処理されてなると共に、該無機充填剤Bの無機充填剤全体に対する含有率が0.2〜10質量%である無機充填剤である。
【0026】
このような無機充填剤A及びBは、球状シリカで構成されるが、その平均粒径の測定法は、公知の遠心沈降法、レーザー回折法、及び動的光散乱法等で測定可能であるが、中でも無機充填剤Aは簡便で広い範囲の粒子径の測定が可能なレーザー回折法、無機充填剤Bはサブミクロン以下の精度が高い動的光散乱法が好ましい。
【0027】
無機充填剤Aは、平均粒径を0.1〜3μm、好ましくは0.3〜2μmにコントロールすることが必要である。平均粒径が3μmを超えると、侵入断面積を狭くし、侵入性に影響を及ぼしたり、また、侵入及び硬化時にフィラーが沈降し、チップ側と基板側で熱膨張係数における傾斜が発生し、熱衝撃に対する信頼性が低下する。一方、平均粒径が1μm未満であると、高粘性になる。
【0028】
無機充填剤Aは、樹脂と無機充填剤との結合強度を強くするため、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等のカップリング剤で予め表面処理したものを配合してもよい。このようなカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、γ−メルカプトシラン等のメルカプトシランなどのシランカップリング剤を用いることが好ましい。
なお、表面処理に用いるカップリング剤の配合量及び表面処理方法については、公知の方法を使用することができ、特に制限されるものではない。
【0029】
無機充填剤Bは、非晶質ナノシリカ粒子であり、平均粒径が5〜50nm、好ましくは10〜50nmにコントロールすることが必要である。このような平均粒径を有する無機充填剤Bを後述するカップリング剤で表面処理し特定の割合で上記無機充填剤Aと併用することにより、更に薄膜侵入特性を向上させることができる。
【0030】
このような非晶質ナノシリカ粒子は、例えば、特公平1−55201号公報に記載されるように、酸素を含む雰囲気内においてバーナーにより化学炎を形成し、この化学炎中に金属シリコンを粉塵雲が形成されるように投入し、爆発を起させて合成することができる。
【0031】
非晶質ナノシリカを表面処理するシランカップリング剤としては、下記式(1)又は(2)で表されるもののいずれか一方、あるいは両方が使用され、特に下記式(2’)で表されるものが好適に使用される。
【化6】

(式中、nは1〜5の整数、mは1又は2である。)
【0032】
【化7】

【0033】
上記式(1)又は(2)のようなシランカップリング剤としては、例えば、KBM103、KBM503、KBE503(信越化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0034】
上記式(1)で表される以外の代表的なカップリング剤、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、γ−メルカプトシラン等のメルカプトシランなどのシランカップリング剤で上記非晶質ナノシリカ粒子の表面処理を行うと、該非晶質ナノシリカ粒子に凝集あるいは発生し、液状エポキシ樹脂組成物中に分散できなくなることがある。
【0035】
無機充填剤Bを上記式(1)で表されるカップリング剤で表面処理する場合は、該無機充填剤B100質量部に対して該カップリング剤を3〜20質量部、より好ましくは5〜15質量部の配合量で表面処理することができる。配合量が3質量部未満では強度が低下するおそれがある。一方、20質量部を超えるとやはり強度が低下するおそれがある。
なお、表面処理に用いる上記カップリング剤の配合量及び表面処理方法については、公知の方法を使用することができ、特に制限されるものではない。
【0036】
また、無機充填剤Bの無機充填剤全体に対する含有率は0.2〜10質量%、より好ましくは0.5〜5質量%にコントロールすることが必要であり、この含有率を上記範囲に制御することによって、液状エポキシ樹脂組成物の低粘度化が図れ、狭ギャップへも良好に侵入させることができる。その理由は定かではないが、有機樹脂の割合が大きい組成物においてマトリックスに対する微粉の影響は有機樹脂の流動性に包含されてしまうが、無機充填剤全体の含有量が有機樹脂に対して相対的に大きくなると、その間隙にある有機樹脂の流動性がナノサイズの無機充填剤Bの量により挙動が変動し、その駆動力として効果を発揮するものと考えられる。
【0037】
このような(C)成分である無機充填剤の含有率は、上記(A)〜(C)成分からなる組成物全体の50〜80質量%であり、より好ましくは60〜75質量%である。含有率が50質量%未満では、膨張係数が大きく冷熱テストにおいてクラックの発生を誘発させ、80質量%を超える場合では、粘度が高くなり、薄膜侵入性の低下をもたらす。
【0038】
なお、本発明の対象とする半導体装置は、ギャップサイズの範囲が10〜200μm程度の半導体装置、特にフリップチップ型半導体装置、更にダイサイズの一辺が10mmを超えるフィリップチップ型半導体装置が好ましいが、この場合、アンダーフィル材の侵入性の向上と低線膨張化の両立を図るため、フリップチップギャップ幅(基板と半導体チップとの隙間)に対して平均粒径が約1/10以下、最大粒子径が1/2以下の無機充填剤を用いることが好ましい。
【0039】
〔その他の成分〕
本発明の半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物には、更に必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。例えば、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、有機合成ゴム、シリコーン系等の低応力剤(例えば、ノボラック型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂とオルガノポリシロキサンとのブロック共重合体など)、カルナバワックス、高級脂肪酸、合成ワックス等のワックス類、カーボンブラック等の着色剤、ハロゲントラップ剤等の添加剤、及び溶剤を添加配合することができる。
溶剤としては、メチルエチルケトン、カルビトールアセテート等を使用することができる。
【0040】
<組成物の製造方法>
半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物の製造方法は、上記(A)〜(C)成分、必要に応じてその他の成分を同時に又は別々に、必要により加熱処理を加えながら、撹拌、溶解、混合、分散させることにより得ることができる。これらの混合、撹拌、分散等の装置としては、特に限定されるものではないが、撹拌、加熱装置を備えたライカイ機、3本ロール、ボールミル、プラネタリーミキサー、ビーズミル等を用いることができる。またこれら装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0041】
<組成物の硬化方法>
半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物の硬化方法は、公知の方法であってよいが、好ましくは、先に100〜120℃、0.5時間以上、特に0.5〜2時間、その後130〜250℃、0.5時間以上、特に0.5〜5時間の条件で熱オーブンキュアを行う。100〜120℃での加熱が0.5時間未満では、硬化後にボイドが発生する場合がある。また130〜250℃での加熱が0.5時間未満では、十分な硬化物特性が得られない場合がある。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
[実施例1〜8、比較例1〜5]
液状エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤及びその他成分を、表2,3に基づき配合し3本ロールにて均一に混練することにより、各種エポキシ樹脂組成物を得た。
〔使用した材料〕
(A)液状エポキシ樹脂
・ビスフェノールF型エポキシ樹脂:YDF8170(東都化成(株)製)
・下記式(7)で表されるエポキシ樹脂:jER630LSD(三菱化学(株)製)
【化8】

(B)アミン系硬化剤
・4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチルジフェニルメタン(日本化薬(株)製)
(C)無機充填剤
表1に基づき、球状シリカ粒子を表面処理することにより、各種無機充填剤を得た。
なお、表1中のカップリング剤の配合量は球状シリカ粒子100質量部に対するものである。
【表1】


・カップリング剤:KBM403、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)
・カップリング剤:KBM573、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)
・カップリング剤:KBM103、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)
・カップリング剤:KBM503、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)
(D)その他の成分
・カップリング剤:KBM403、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)
・カーボンブラック:デンカブラック(電気化学工業(株)製)
・触媒:DBU(サンアプロ化成(株)製)
・溶剤:EDGAC(ダイセル化学(株)製)
【0044】
〔評価方法〕
(1)粘度
BH型回転粘度計を用いて4rpmの回転数で25℃における粘度を測定した。
【0045】
(2)Tg(ガラス転移温度)、CTE1(膨張係数)、CTE2(膨張係数)
各種組成物を、120℃/0.5時間+165℃/3時間硬化し、5mm×5mm×15mmの硬化物試験片を作製した。該試験片を用いて、TMA(熱機械分析装置)により毎分5℃の速さで昇温した時のTgを測定した。また、以下の温度範囲の膨張係数を測定した。CTE1の温度範囲は50〜80℃、CTE2の温度範囲は200〜230℃である。
【0046】
(3)強靭性値K1c
各種組成物を120℃/0.5時間+165℃/3時間硬化し、得られた硬化物について、ASTM#D5045に基づき、常温の強靭性値K1cを測定した。
【0047】
(4)接着力テスト
上面の直径2mm、下面の直径5mm、高さ3mmの円錐台形状のポリテトラフルオロエチレン製の型に各樹脂組成物を注入し、この上にポリイミド(PI)膜コートしたシリコンチップ又は銅プレートを載せ、150℃で3時間硬化させた。硬化後、ポリテトラフルオロエチレン製の型を外して得られた試験片を一定の速度(1mm/秒)で押すことによって、剪断接着力を測定し、初期値とした。更に、硬化させた試験片をプレッシャークッカーテスター(121℃/2.1atm)中で72時間保持した後、同様に接着力を測定した。いずれの場合も試験片の個数は5個で行い、その平均値を接着力として表記した。表2において、「0」は剥離したことを示す。
【0048】
(5)ボイドテスト
30mm×30mmのFR−4基板に、ポリイミド(PI)膜コートした10mm×10mmのシリコンチップがギャップサイズが約50μmとなるように設置されたフリップチップ型半導体装置のギャップに、各樹脂組成物を滴下して侵入させ、150℃で3時間硬化させた後、ボイドの有無をC−SAM(SONIX社製)で確認した。
【0049】
(6)熱衝撃テスト
上記方法で得られた試験用半導体装置を、30℃/65%RHの条件下に192時間置いて、最高温度265℃に設定したIRリフロー炉を5回通した後、−65℃で30分、150℃で30分を1サイクルとし、250、500、750、1,000、及び1,250サイクル後のクラックを、上記同様に調べ、クラックが観察されたチップの割合(%)を求めた。
【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、粘度が低く、侵入性が良好で、シリコンチップの表面、特に感光性ポリイミド樹脂や窒化膜との密着性に優れ、かつ強靭性に優れた硬化物を与え、鉛フリー半田に即しリフローの温度が上昇しても不良が発生せず、更に高温多湿の条件下でも劣化せず、熱衝撃テストにおいても剥離等が発生しない半導体装置の封止材となり得る半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物、及びこの組成物の硬化物で封止された半導体装置を提供することができるので、その工業的利用価値は高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)液状エポキシ樹脂、
(B)芳香族アミン系硬化剤:(A)成分中の全エポキシ基に対する(B)成分中の全アミノ基のモル比が0.7〜1.2となる量、及び
(C)平均粒径が0.1〜3μmのシリカである無機充填剤Aと平均粒径が5〜70nmの非晶質ナノシリカである無機充填剤Bからなる無機充填剤であって、該無機充填剤Bが下記式(1)及び/又は(2)で表されるカップリング剤で該無機充填剤B100質量部に対して該カップリング剤3〜20質量部の割合で表面処理されてなると共に、該無機充填剤Bの無機充填剤全体に対する含有率が0.2〜10質量%である無機充填剤:(A)〜(C)成分からなる組成物全体に対する含有率が50〜80質量%となる量
【化1】

(式中、nは1〜5の整数、mは1又は2である。)
を含有することを特徴とする半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
カップリング剤が、下記式(2’)で表されるものであることを特徴とする請求項1記載の半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物。
【化2】

【請求項3】
(B)成分が、下記式(3)、(4)、(5)又は(6)で表される芳香族アミン系硬化剤であることを特徴とする請求項1又は2記載の半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物。
【化3】

(式中、R1〜R4は水素原子、同一又は異種の炭素数1〜6の一価炭化水素基、CH3S−及びC25S−から選ばれる基である。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の半導体封止用液状エポキシ樹脂組成物の硬化物で封止された半導体装置。

【公開番号】特開2012−149111(P2012−149111A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6737(P2011−6737)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】