説明

半導体放射線検出器、放射線検出モジュールおよび核医学診断装置

【課題】エネルギー分解能や時間精度に優れた放射線半導体検出器、放射線検出モジュールおよび核医学診断装置を提供する。
【解決手段】半導体放射線検出器は、テルル化カドミウムの板状素子211と、金属製の導電部材22,23とを導電性接着剤21Aにより接着し、テルル化カドミウムの板状素子211と導電部材22,23とを交互に積層した構造を有する。導電性接着剤21Aは縦弾性係数が、350MPa〜1000MPaであり、かつ導電部材22,23はその線膨張係数が、5×10−6/℃〜7×10−6/℃の範囲の材料からなる。導電部材は鉄ーニッケル合金、鉄ーニッケルーコバルト合金、クロム、タンタルの内から選択し、向かい合うテルル化カドミウムの板状素子211の同種の電極間に配置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体放射線検出素子を備えた半導体放射線検出器、放射線検出モジュールおよびこれを用いた核医学診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、放射線計測技術を応用した機器が広く普及してきている。特に、医療分野でその傾向が顕著であり、その代表的な装置が陽電子放出型断層撮影装置(PET撮像装置)、単光子放出型断層撮影装置(SPECT装置)、ガンマカメラなどである。これらの機器で主として使用されている放射線検出器は、シンチレータと光電子増倍管とを組み合わせたものである。シンチレータは、放射線が入射すると発光するもので、その微弱な光を光電子増倍管で増幅し、放射線を検出する。一方、放射線の計測にはシンチレータではなく、テルル化カドミウム(以下CdTeと記す)のような化合物半導体を用いた半導体放射線検出器を使用することもできる。半導体では、放射線が入射すると光電効果によりホールおよび電子といった電荷が生成し、これらが半導体に印加されている外部電圧による電界で移動する。この電荷量は放射線のエネルギーに比例するので、電荷量を正確に測定することで放射線のエネルギーを正確に知ることができる。
【0003】
前記CdTeは、半導体の中では実効的な原子番号が大きいため感度が高く、バンドギャップが1.4Vと大きいために室温動作が可能ではあるが、前記シンチレータにおいても原子番号が大きいものがあるため、これに対抗するためにCdTeの感度をさらに高めたいという要望がある。そこで、CdTeの体積を大きくして用いることが考えられる。しかしながら、CdTeの体積を大きくすると、エネルギー分解能などの性能が逆に低下するおそれがある。これはCdTeのキャリヤ寿命とキャリヤ移動度とが十分大きくないためであり、体積が大きいと途中でキャリヤが再結合し易く、再結合して消滅してしまう割合が大きいと正確な電荷量を測定できなくなるためである。また、体積が大きいとキャリヤの移動時間が長くなるために長時間にわたって電荷が移動し、ガンマ線の入射時刻を特定する場合に時間精度の悪化を招く。このことは特にPET装置のように消滅ガンマ線の同時計測を行う場合に不利となる。すなわち、時間精度が悪いとガンマ線を個別に識別できなくなり、その飛来方向が特定できなくなる不具合が生じる。
【0004】
そこでCdTeの薄い結晶を積層して用いることが考えられる。この方法ならば結晶が薄いためにキャリヤの移動時間が短くて済み、かつ積層するので体積も増やすことができる。このような方法は、例えば、特許文献1に開示されているように基板と結晶とを交互に積層する方法で実現できる。また、特許文献2に開示されているように、電極板と結晶とを交互に積層する方がより結晶を密に配置できるので感度を高めることができる。
【0005】
【特許文献1】特開平7−50428号公報
【特許文献2】特開平11−281747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、実際に電極板とCdTeとを導電性接着剤を用いて接着し、交互に積層して放射線半導体検出器を製作したところ、半導体放射線検出器の性能、すなわちエネルギー分解能や時間精度が、積層しないで製作した半導体放射線検出器よりも著しく劣り、計測ができないものも多数生じた。
これは、CdTeが熱応力により劣化を生じることに起因すると予想された。そこで、これを解決する方策として、導電性接着剤を熱応力に追従し易い柔かいものに変更して半導体放射線検出器を製作してみた。すると、熱応力が十分に緩和される状態となり、前記のように計測できないような著しい不良品は激減するに至った。
しかしながら、半導体放射線検出器のエネルギー分解能や時間精度は、予想に反して十分に満足できるレベルには達し得なかった。
【0007】
本発明の目的は、エネルギー分解能や時間精度に優れた放射線半導体検出器、放射線検出モジュールおよび核医学診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題について鋭意検討した結果、テルル化カドミウムを主材料に用いた半導体放射線検出器、半導体検出モジュールおよび核医学診断装置において、様々な電極材料、導電性接着剤を試した結果、結晶を積層しない場合と遜色ない特性を有する半導体放射線検出器が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
具体的に、本発明に係る半導体放射線検出器は、テルル化カドミウムを主材料に用いた半導体放射線検出器であって、前記テルル化カドミウムの板状素子と、金属製の導電部材とを導電性接着剤により接着し、前記テルル化カドミウムの板状素子と前記金属製の導電部材とを交互に積層した構造を有する半導体放射線検出器において、前記導電性接着剤は縦弾性係数が、350MPa〜1000MPaであり、かつ前記金属製の導電部材はその線膨張係数が、5×10−6/℃〜7×10−6/℃の範囲の材料からなることを特徴とする。
【0010】
この半導体放射線検出器によれば、導電性接着剤を、従来とは逆に熱応力に追従し難い硬いもの(350MPa〜1000MPa)を使用することにより、導電性接着剤に含まれる金属フィラーの電気的導通を高めて、通過する信号に歪が生じるのを防止するとともに、金属製の導電部材を、その線膨張係数が、半導体放射線検出器の主材料であるテルル化カドミウムの板状素子の線膨張係数に近い5×10−6/℃〜7×10−6/℃の範囲の材料とすることにより、テルル化カドミウムの板状素子と電極板とに熱応力が生じるのを小さくすることができる。これにより、γ線検出感度が向上され、エネルギー分解能や時間精度が高められた半導体放射線検出器が得られる。
【0011】
また、前記構成を備えた半導体放射線検出器と、前記半導体放射線検出器が取り付けられる配線基板とを備えた放射線検出器モジュールと、前記半導体放射線検出器から出力された放射線検出信号を基に得られた情報を用いて画像を生成する画像情報作成装置とを備えて核医学診断装置を構成することにより、エネルギー分解能や時間精度に優れ、高精度の画像が得られる核医学診断装置が得られる。また、このことにより、検査時間の短縮が可能となり、被検者に投与される放射線薬剤の量も減らすことが可能となって、被検者の被爆量を低減することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エネルギー分解能や時間精度に優れた放射線半導体検出器、放射線検出モジュールおよび核医学診断装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の半導体放射線検出器を用いた核医学診断装置として好適な実施形態であるPET装置を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
(実施形態1)
本実施形態のPET装置は、図1に示すように、PET撮像装置1、被検体(被検診者)Hを支持するベッド31、データ処理装置(コンピュータ等)2および表示装置3を備えている。PET撮像装置1は、図2に示すユニット基板Uを周方向に多数配置している。PET撮像装置1において、被検体Hは、長手方向に移動可能なベッド31に載せられて、それらのユニット基板Uによって取り囲まれる円柱状の計測空間32内に挿入される。
【0014】
(PET撮像装置)
PET撮像装置1は、ベッド31が挿入される計測空間32を取り囲んで周方向に多数配置されるユニット基板Uを有する。ユニット基板Uは、ベッド31の長手方向(計測空間32の軸方向)にも複数個配置される。ユニット基板Uは、図2に示すように、放射線検出モジュール(以下、検出モジュールという)20A、および集積回路基板(以下、ASIC基板という)20Bを有する。検出モジュール20Aは複数の半導体放射線検出器(以下では単に、検出器という)21を備える。検出器21は、被検体Hの体内から放出されるγ線を検出する。検出器21の詳細は後記する。
【0015】
ASIC基板20Bは、検出されたγ線の波高値、検出時刻を計測するための集積回路(アナログASIC28・デジタルASIC29)を有しており、検出した放射線(γ線)の波高値や検出時刻を測定するようになっている。その集積回路は、放射線検出信号を処理する複数の信号処理装置を含んでいる。
【0016】
次に、PET撮像装置1における細部の説明を行う。
(半導体放射線検出器)
まず、本実施形態に適用される検出器21を説明する。図3(c)に示すように、検出器21は、4枚の半導体放射線検出素子(以下、検出素子という、図3(a)参照)211と、この検出素子211の間および検出素子211の両端に配置された導電部材22,23とを有する。検出素子211は、図3(a)に示すように、板状の半導体材料によって構成された半導体素子S(板状素子)からなり、その両側面の全面にわたって、蒸着法等により薄い膜状の電極が形成されている。一方の面に形成された電極がアノード電極(以下、アノードという)Aであり、他方の面に形成された電極がカソード電極(以下、カソードという)Cである。検出器21は、アノードAおよびカソードCが、配線基板24(図2参照)の取付面に直交する状態に縦置きされた偶数個(本実施形態では4個)の検出素子211を、カソードC同士およびアノードA同士が互いに向き合うように、放射線進行方向(図3(c)中Y方向)に直交する方向(同じくX方向)に並列に配置し、導電部材22,23を介して同じ種類の電極同士(アノードA同士、およびカソードC同士)を電気的に接続して構成される。すなわち、導電部材23は、図4に示すように、一方で隣接する検出素子211の向かい合うアノードA間に配置され、導電性接着剤21AによりそれぞれのアノードAに取り付けられる。また、導電部材22は、隣接する検出素子211の向かい合うカソードC間に配置され、導電性接着剤21AによりそれぞれのカソードCに取り付けられる。さらに、検出器21のX方向両端部分(図3(c)参照)に位置する各カソードCに導電部材22が接着される。このように、検出器21は、アノードAとカソードCとが交互に配置され、導電部材22および導電部材23も交互に配置されている。
【0017】
半導体素子Sは、放射線と相互作用を及ぼして電荷を生成する領域であり、CdTe、CdZnTe、GaAs等のいずれかの単結晶で形成されている。また、カソードC、アノードAは、Pt、Au、In等のいずれかの材料が用いられる。本実施形態では、検出素子211は、例えば、半導体素子SにCdTe、Ptを主成分とするカソードC、Inを主成分とするアノードAを用い、pn接合ダイオードを形成している。
ここで、半導体素子Sの厚さt(図3(a)参照)が厚い場合および薄い場合における時間と波高値曲線との関係について説明する。カソードCとアノードAの間に印加するpn接合の逆方向バイアス電圧(以下、バイアス電圧と呼ぶ)が同じ値では、厚さtが薄い半導体素子Sの方が波高値の上昇(立ち上がり)は速く、波高値の精度(エネルギー分解能)が高くなる。波高値の上昇速度が速いと、例えばPET撮像装置1における同時計測の精度(同時計数分解能)が向上する。厚さtの薄い半導体素子Sが波高値の上昇速度が速くなると共に、エネルギー分解能が高くなる(電荷の収集効率がよくなる)のは、電子がアノードAに到達する時間、および正孔がカソードCに到達する時間が短縮される、すなわち電荷の収集時間が短くなるからである。また、途中で消滅するおそれのあった正孔が、厚さtが薄い分、消滅しないでカソードCに到達できるからである。ちなみに、厚さtは、カソードCとアノードAとの間の電極間距離と表現することもできる。なお、アノードAは放射線検出信号を取り出す電極であり、カソードCはバイアス電圧を印加する電極である。
【0018】
また、半導体素子Sの厚さ(電極間距離)tは、0.2mm〜2mmが好ましい。これは、厚さtが2mmを超えると、波高値の上昇速度が遅くなると共に、波高値の最高値も低くなるからである。仮に、厚さtを厚くしたとしても、バイアス電圧を上げ、検出素子211内の厚さ方向の電界強度を高めることによって、電子および正孔の移動速度を上げることができるので、電子および正孔が該当する電極に到達する時間を短くすることが可能ではある。しかしながら、印加するバイアス電圧の増加は、直流高圧電源の大型化、および配線基板24の内部等での絶縁破壊を招く弊害があるので好ましくない。一方、厚さが0.2mmより小さくなると電極(カソードC、アノードA)の厚み(体積)が相対的に増加する。これでは、放射線と相互作用を起こす肝心の半導体素子Sの割合が少なくなってしまう。つまり、半導体素子Sの厚さtを薄くするとγ線と相互作用を起こさない、すなわちγ線を検出しない電極(アノードAおよびカソードC)の厚みが相対的に増し、その一方で、γ線と相互作用を起こす半導体素子Sの割合が相対的に減り、結果としてγ線を検出する感度が低くなる。また、厚さtが薄いと、検出素子211の一つ当りの静電容量が大きくなる。この静電容量は後段の信号処理回路(ASIC)から見て入力容量成分に相当するため、この入力容量が大きいほど、信号処理回路において雑音が生じやすく、エネルギー分解能や同時計数分解能を劣化させやすい。さらに、1つの検出器21あたりの検出感度をある程度確保するために、検出素子211を並列配置して実効的に検出器21の体積を確保しいているので、厚さtが薄いほど並列配置する素子数を増やさなければならない。この結果、検出器一つあたりの静電容量が相乗的に増加し、PET撮像装置1における性能劣化(エネルギー分解能の劣化に起因するPET画像コントラストの劣化や、同時計数分解能劣化に起因する検査時間の増加や画質の劣化など)を招く恐れがある。このため、前記厚さが好ましい。
【0019】
導電部材22,23は、その線膨張係数が、5×10−6/℃〜7×10−6/℃の範囲の材料、例えば、鉄−ニッケル合金、鉄−ニッケル−コバルト合金、クロム、タンタルのうちの少なくともひとつから形成される平板状の部材である。ここで、鉄−ニッケル合金としては、42アロイ(Fe58%、Ni42%)を用いることができ、鉄−ニッケル−コバルト合金としては、コバール(Fe54%、Ni29%、Co17%)を用いることができる。ちなみに、検出素子211の主材料であるCdTeの線膨張係数は、6×10−6/℃である。つまり、導電部材22,23としては、その線膨張係数がCdTeの線膨張係数に近いものが用いられている。これにより、後記する導電性接着剤21Aとの相乗効果により、熱応力を十分に小さくすることが可能となっている。
【0020】
本実施形態では、導電部材22,23が検出素子211の各電極面を覆う大きさ、つまり、各電極面よりも大きく形成されている。なお、導電部材22,23の大きさは、検出素子211と同じ大きさであってもよい。また、導電部材22、23の厚さは、10μmから100μm程度で、主に50μm程度が望ましい。このような導電部材22,23は、検出素子211に取り付けられた状態で、半導体素子Sよりも下側(配線基板24側)に垂下される突出部22a,23aを有する。本実施形態では、これらの突出部22a,23aが半導体素子Sの1つの面となる下面(配線基板24に対向する面)の異なる位置で突出するように、検出素子211同士の間や検出器21の両側位置において、導電部材22,23を互い違いの向きに取り付けてある。具体的には、半導体素子Sの下面における放射線進行方向(図3(c)中矢印Y方向)手前側となる位置に突出部22aが位置するように、また、奥側となる位置に突出部23aが位置するように、導電部材22,23が取り付けられる。これにより、検出器21は、前記手前側に3つの突出部22a、および前記奥側に2つの突出部23aを有している。このような突出部22a,23aは、図3(c)に示すように、検出器21を配線基板24に取り付ける固定部として機能し、配線基板24上に設けられたカソードC用の接続部材CPに突出部22aが接続され、配線基板24上に設けられたアノードA用の接続部材APに突出部23aが接続される。また、検出器21は、これらの突出部22a,23aによって、配線基板24上に非密着状態に、つまり、配線基板24との間に検出素子211が所定の隙間を有する状態に取り付けられる。これにより、取付時に検出器21と配線基板24との間に塵埃等が挟まること等に起因する絶縁性の低下を好適に防止することがでる。また、この隙間を通じて通気性が高まり、検出器21の冷却化が可能となる。なお、検出器21の底面部には、図示しない絶縁材をコーティングしてもよく、予期しない絶縁破壊が生じるのをさらに防止するようにしてもよい。
【0021】
なお、突出部22a,23aは、検出器21を配線基板24に安定した状態で取り付けることができる大きさを備えていればよく、図3(c)中Y方向に、極力、細く形成されることが望ましい。これにより、突出部22a,23aにおいてγ線が散乱するのを少なくすることができる。また、配線基板24から突出部22a,23aを介して熱伝導により検出器21に伝わる熱を減少させることができ、検出器21の特性の安定に寄与する。
【0022】
このような導電部材22,23は、前記したように、導電性接着剤21Aにより検出素子211に接着されて取り付けられる。導電性接着剤21Aとしては、例えば、金属粉などの導電性粒子を有機高分子材料からなる絶縁性の接着剤中に分散したものが用いられ、その縦弾性係数が350〜1000MPaの範囲の硬いもの、好ましくは、500MPaのものを用いている。
ここで、検出素子211と導電部材22,23とを導電性接着剤21Aにより接着する際には、導電性接着剤21Aを硬化させるために、およそ120〜150℃の高温の熱処理が必要となる。このため、検出素子211と導電部材22,23との熱膨張(線膨張係数)に差があると、熱応力による歪が顕著に現れてしまう。ところで、このような熱応力を緩和するための一般的な手法としては、導電性接着剤として柔らかいものを使用することが挙げられる。しかしながら、柔らかい導電性接着剤を使用した場合には、検出器としてのエネルギー分解能や時間精度が十分に満足できるレベルには達し得えない。これは、柔らかい導電性接着剤では、接着剤に含まれる金属フィラーを接触させる力が十分ではなく、接触不良を生じるためであると考えられる。ちなみに、検出素子211から出力される検出信号は、10MHz以上の高周波信号であるため、信号がこのような接触不良の場所を通過すると、歪みが生じてしまい、このことは雑音が増大することに等しい特性の劣化となって現れる。そのため柔らかい性質の導電性接着剤は検出素子211と導電部材22,23との接着に不向きである。
【0023】
これに対して、本実施形態の導電性接着剤21Aは、前記のように、縦弾性係数が350〜1000MPaの範囲の硬い性質を備えているので、含まれている金属フィラーを接触させる力が十分に大きく、硬化後に良好な導通状態を得ることができ、前記のような柔らかい導電性接着剤を使用したときのような不具合を解消することができる。ここで、硬い導電性接着剤21Aを用いることは、一方で、前記のように、検出素子211と導電部材22,23との熱膨張(性膨張係数)の差に起因する熱応力の増大につながるおそれがある。そこで、このようなおそれを解消するために、検出素子211の主材料であるCdTeの線膨張係数6×10−6/℃に近い線膨張係数(5×10−6/℃〜7×10−6/℃)を備えた材料で導電部材22,23を得ることで、熱応力を十分に小さくすることが可能となった。
【0024】
検出素子211に加わる熱応力は、検出器21の特性、すなわちエネルギー分解能や時間精度に著しく影響し、劣化の原因となるため、これを十分に小さくすることが検出器21の特性向上に大きく貢献する。本実施形態では、熱応力を十分に小さくできるため、検出素子211と導電部材22,23とを積層する構造としても特性の劣化が少なくなる。また、熱応力を十分に小さくすることができるため、検出素子211をより薄く形成して積層することができ、検出器21としての性能および感度の向上を両立させることが可能となった。
【0025】
ここで、検出素子211に、縦弾性係数500MPaの導電性接着剤21Aを用いて、前記した鉄−ニッケル合金(42アロイ(Fe58%、Ni42%))からなる導電部材22,23を接着したものを形成して、137Cs(662keVのガンマ線を放出する)のエネルギースペクトルを測定する実験を行ったところ、不良品は発生せず、エネルギー分解能2.5%が得られた。また、検出素子211と導電部材22,23とを接着する前に、同様の測定を実施したところ、エネルギー分解能は2.2%となり、検出素子211を積層した場合の静電容量増加がノイズ増加の原因となることを考慮すると、特性の劣化はほとんど無かった。また、鉄−ニッケル−コバルト合金(コバール(Fe54%、Ni29%、Co17%))、タンタルでも同様のエネルギー分解能2.5%となり、また、クロムの場合はエネルギー分解能3%であった。
比較例として、従来の一般的によく用いられる銅合金で導電部材22,23を形成し、導電性接着剤に縦弾性係数500MPaのものを使用して何個か半導体検出器を製作してみたところ、半数はノイズが非常に多く不良品となってしまい、残りもエネルギー分解能が4%以上となり特性が悪かった。さらに、銅合金の導電部材22,23に、縦弾性係数50MPaの導電性接着剤を使用したところ、不良品は1割程度になったものの、エネルギー分解能は4%と低く所望の性能が得られなかった。
【0026】
図5は導電性接着剤21Aの縦弾性係数が500MPaであるときのエネルギー分解能と導電部材22,23との線膨張係数との関係を示したグラフ、図6は導電性接着剤21Aの縦弾性係数が350MPaであるときのエネルギー分解能と導電部材22,23との線膨張係数との関係を示したグラフである。いずれのグラフにおいても縦軸にエネルギー分解能、横軸に線膨張係数をとってある。
図5に示すように、導電部材22,23の線膨張係数が5×10−6/℃から7×10−6/℃の範囲では、エネルギー分解能が2.5%となり所望の性能が得られた。
また、図6に示すように、導電性接着剤21Aの縦弾性係数が350MPaであると、前記線膨張係数が5×10−6/℃から7×10−6/℃の範囲では、わずかながらエネルギー分解能が3%となったものの、一定値を示し、所望の性能が得られた。また、グラフに表された線分の傾斜が幾分緩やかになり、導電部材22,23の線膨張係数に対する依存性は小さくなったことがわかる。
【0027】
ここで、比較例として、導電性接着剤21Aの縦弾性係数が350MPaから1000MPaの範囲外にあるものとして、縦弾性係数が50MPaのときのグラフを図7に示し、また、縦弾性係数が1000MPaを超えるときのグラフを図8に示す。
図7に示すように、線膨張係数に対する依存性はさらに小さくなったが、どの線膨張係数においてもエネルギー分解能が大きめとなり、ばらつきが増大した。
また、図8に示すように、縦弾性係数が1000MPaを超える導電性接着剤を用いた場合、導電部材22,23の線膨張係数に対する変化が急峻となり、また、エネルギー分解能の最小値は3%となった。このことから、1000MPaを超える縦弾性係数を有する導電性接着剤を用いると、検出素子211と導電部材22,23との線膨張係数差が小さくても熱応力が大きくなり、エネルギー分解能の悪化を招くことがわかった。したがって、導電性接着剤21Aの縦弾性係数は350MPaから1000MPaの範囲とすればよいことがわかった。なお、本発明で用いた導電性接着剤21Aの硬さ、すなわち縦弾性係数は、引張粘弾性測定装置を用いて測定した値を使用した。また、導電部材22,23の線膨張係数はTMA(熱機械分析装置)を用いて測定した値を用いた。
【0028】
なお、本実施形態では、並列に配置された各半導体素子Sが前記の厚さt(0.2〜2mm)を有している。カソードCおよびアノードAの厚みは高々数μm程度である。検出器21は、複数の検出素子211におけるカソードC同士、アノードA同士が共通で接続されているため、どの検出素子211の半導体素子Sがγ線と相互作用を起こしたのかを判別しない構成となっている。以上のような検出器21の構成は、半導体素子Sの厚さt(図3(a)参照)を薄くして電荷の収集効率を高め、波高値の上昇速度を増大してエネルギー分解能を向上させると共に、半導体素子Sの並列配置により素通りしてしまうγ線の量を少なくして、半導体素子Sとγ線との相互作用を増やすためである(γ線のカウント数を増やすためである)。γ線のカウント数の増加は検出器21の感度を向上させることになる。
【0029】
ここで、検出器21によるγ線の検出原理の概略を説明する。Y方向から検出器21にγ線が入射して、γ線と半導体素子Sとが相互作用を及ぼすと、正孔(hole)および電子(electron)が、対になってγ線が持つエネルギーに比例した量だけ生成される。ところで、検出器21を構成する検出素子211のカソードCとアノードAの電極間には、直流高圧電源(図示せず)からの電荷収集用のバイアス電圧(例えば、カソードCが−500Vで、アノードAがグラウンド電位に近い電位、即ち、カソードCに対してアノードAが500V高くなるような逆方向印加電圧)がかけられている。このため、正の電荷に相当する正孔は、カソードCに引き寄せられて移動し、負の電荷である電子は、アノードAに引き寄せられて移動する。これらの正孔と電子とを比較すると、移動し易さ(モビリティ)は、電子の方が相対的に大きいことから、電子が相対的に短時間にアノードAに到達することとなる。一方、正孔は、移動し易さが相対的に小さいことから、正孔の方が相対的に時間をかけてカソードCに到達する。ちなみに、電子や正孔は、電極に到達する前に途中で捕獲(トラップ)されることもある。
アノードA間に配置された導電部材23、およびカソードC間に配置された導電部材22は、γ線を検出しない不感領域となる。したがって、検出器21は、検出素子211間、具体的には、電極間に不感領域となる導電部材23,22が配置される構成となっている。なお、アノードAおよびカソードCも不感領域である。
【0030】
検出器21は、図2(a),(b)に示すように、検出モジュール20Aの配線基板24上に、検出モジュール20AからASIC基板20Bに向かうY方向(PET撮像装置1の半径方向)に6ch、Y方向と直交するX方向(PET撮像装置1の周方向)に16ch、さらに、配線基板24の厚み方向であるZ方向(PET撮像装置1の奥行き方向)に2ch(配線基板24の両面)配置される。これにより、検出器21は、配線基板24の片面に合計96ch、その両面では合計192chが設置されることになる。
【0031】
本実施形態では、検出器21を配線基板24の両面に設置したが、検出器21をその片面にのみ設置してもよい。また、検出器21は、絶縁材で皮膜して絶縁破壊を回避することが好ましい。絶縁材による皮膜は、検出モジュール20Aごと、シリコーンゴム等の絶縁材の中に浸して、その後、乾燥することにより、数十ミクロンの厚さに形成することができる。
【0032】
(ユニット基板)
ユニット基板Uの詳細構造を、図2(a),(b)を用いて説明する。ユニット基板Uは、複数の検出器21が前記のように設置された検出モジュール20Aと、ASIC基板20Bとを備えている。ASIC基板20Bは、コンデンサ26、抵抗27、アナログASIC28およびデジタルASIC29を有する。
【0033】
(検出モジュール)
検出モジュール20Aは、図4に示すように、複数の検出器21が配線基板24上に設置されることで構成される。検出器21のアノードAとカソードCの間には、前記したように、電荷収集のために、例えば、500Vの電圧が印加されている。この電圧は、ASIC基板20Bに設置された電源用配線(図示せず)からコネクタC1を介して検出モジュール20Aの配線基板24に設置された電源用配線(図示せず)を介してそれぞれの検出器21のアノードAとカソードCの間に印加される。検出モジュール20Aは、配線基板24の端部にコネクタC1を備えている。コネクタC1は、前記の端子33および複数の端子34を有する。各検出器21から出力されたγ線検出信号は、コネクタC1を介してASIC基板20B側へ供給される。
【0034】
(ASIC基板)
ASIC基板20Bは、図2(a),(b)に示すように、配線基板(配線基板)35の片面に、4個のアナログASIC28と1個のデジタルASIC29を設置している。図2(b)に示すように、アナログASIC28については、配線基板35の両面に設置されており、1つのASIC基板20Bは、合計8個のアナログASIC28を有する。配線基板35の両面には、コンデンサ26および抵抗27が検出器21の数に対応した数だけ設置されている。また、これらの、コンデンサ26、抵抗27、アナログASIC28およびデジタルASIC29を電気的に接続する複数の接続配線(図示せず)が、配線基板35内に設けられている。これらの接続配線は配線基板35内で積層構造となっている。コンデンサ26、アナログASIC28およびデジタルASIC29の配線基板35における配列は、検出モジュール20Aの検出器21から供給された信号が伝送される順に合わせたものとなっている。抵抗27は、一端がコンデンサ26の入力側に接続され、他端が配線基板35に設けられたグランド配線(図示せず)に接続される。アナログASIC28は、検出器21から出力されたアナログ信号(γ線検出信号)を処理する、特定用途向けICであるASIC(Application Specific Integrated Circuit)を意味し、LSIの一種である。アナログASIC28は、個々の検出器21ごとに信号処理回路を設けている。これらの信号処理回路は、対応する1つの検出器21から出力されたγ線検出信号(放射線検出信号)を入力してγ線の波高値を求めるようになっている。
ASIC基板20Bは、配線基板35の端部に各コンデンサ26に接続される複数の端子を有するコネクタ(例えばスプリングピンコネクタ)C2を有している。
【0035】
ユニット基板Uは、検出器21の設置された面がPET撮像装置1の奥行き方向(ベッド31の長手方向で図2(b)のZ方向)に向くように、PET撮像装置1に設けられた環状の支持部材(図示せず)に設置される。この環状支持部材は、計測空間32の周囲を取り囲むように設けられている。環状部材に設置された複数のユニット基板Uは、周方向に配置され、計測空間32を取り囲むこととなる。そして、検出モジュール20Aが内側(計測空間32側)に、ASIC基板20Bが外側に位置するように配置される。本実施形態では、複数のユニット基板Uが、PET撮像装置1の奥行き方向にも配置される。このようにして設置されたユニット基板Uは、図2(a),図3(c)等に示したX方向の向きが、PET撮像装置1の周方向(環状支持部材の周方向)となり、図2(a),図3(c)等に示したY方向の向きがPET撮像装置1の半径方向(環状支持部材の半径方向)となる。
【0036】
検出モジュール20AとASIC基板20Bは、図2(b)に示すように、これらの端部をオーバラップさせ、このオーバラップ部分に存在するコネクタC1とコネクタC2を接続する。検出モジュール20Aの端部とASIC基板20Bの端部は、オーバラップ部分で締結用のネジ等により着脱自在(分離・接続自在)に結合される。
【0037】
このような、コネクタC1およびコネクタC2による検出モジュール20AとASIC基板20Bとの電気的な接続構造を用いることで、γ線検出信号を検出モジュール20AからASIC基板20Bへと、低損失で伝送することができる。ちなみに、損失が少なくなると、例えば、検出器21としてのエネルギー分解能が向上する。
検出モジュール20Aは、ASIC基板20Bにネジ等で着脱自在に取り付けられているため、例えば、検出器21やASIC28,29に検出不良等の不具合が生じた場合、不具合のある部分(検出モジュール20AまたはASIC基板20B)だけを取り替えれば済む。なお、検出モジュール20AとASIC基板20Bとの電気的接続は、前記したスプリングピンコネクタのようなコネクタC1によって行われることから、基板同士の接続・接続の解除(結合・結合の解除)は容易である。
【0038】
回路の長さやγ線検出信号を伝送する配線の長さ(距離)は、短い方が、途中でのノイズの影響や信号の減衰が少なくて好ましい。また、PET撮像装置1で同時計測処理を行う場合は、回路や配線の長さが短い方が時間の遅れが少なくて好ましい(検出時間の正確さが損なわれないので好ましい)。このため、本実施形態は、PET撮像装置1の半径方向において中心軸から外側に向かって、ユニット基板Uにおいて、検出器21、コンデンサ26、アナログASIC28およびデジタルASIC29をこの順に配置している。この構成は、検出器21から出力された微弱なγ線検出信号をアナログASICの増幅器まで伝える配線の長さ(距離)を短くできる。このため、γ線検出信号に対するノイズの影響が軽減され、γ線検出信号の減衰も低減される。
なお、ASIC基板20Bに設けられているコンデンサ26、抵抗27およびアナログASIC28を、ASIC基板20Bではなく検出モジュール20Aに設けても良い。この場合、コンデンサ26、抵抗27、アナログASIC28は、検出器21よりもASIC基板20B側に位置している。検出モジュール20Aが検出器21およびアナログASIC28を有するので、検出器21とアナログASIC28との間の距離(配線の長さ)をさらに短くすることができる。このため、ノイズの影響がさらに低減される。
【0039】
(PET撮像装置の動作)
以上の構成を有するPET撮像装置1の動作を説明する。放射線検査を行う前に、まず被検体Hに予め注射等の方法によりPET用の放射性薬剤(例えば18Fを含む)をその体内投与放射能が例えば370MBq程度になるように投与する。放射性薬剤は、検査目的(癌の場所を把握、または心臓の動脈瘤の検査等)に応じて選ばれる。投与された放射性薬剤は、やがて、被検体Hの患部に集まる。この状態で被検体Hをベッド31上に寝かせる。
PET検査を実行する検査者(診療放射線技師や医師)は、検査の目的に応じて必要な情報(断層像を得たい領域(撮像領域或いは関心領域)、スライス数、スライス間隔、吸収線量等)を、データ処理装置2(図1(a)参照)を介して入力する。この場合、表示装置3に図示しない情報入力画面を表示させて、必要なデータを、キーボードやマウス等により入力する手法を採ることができる。その後、ベッド31を長手方向に移動させて、被検体Hの検査部位(例えば癌の患部)が所定の位置に来るまで被検体Hを計測空間32内に挿入する。そして、PET撮像装置1を作動させる。
【0040】
データ処理装置2からの指示により、各検出器21のアノードAとカソードCの間に直流高圧電圧が印加され、PET撮像装置1がPET検査を開始する。被検体Hの体内から放射性薬剤に起因して放射されたγ線は、検出器21によって検出される。すなわち、PET用の放射性薬剤から放出された陽電子の消滅時に一対のγ線が約180°の反対方向に放出され、別々の検出器21で検出される。検出器21はγ線検出信号を出力する。この検出信号は、信号線24b、コネクタC1、C2およびコンデンサ26を経て、該当するアナログASIC28内の対応する信号処理回路(図示せず)に入力される。この信号処理回路は、γ線検出信号を増幅し、検出したγ線の波高値を求める。この波高値は、デジタルASIC29内の図示されていないアナログ/デジタル変換器(ADC)でデジタルの波高値情報に変換される。デジタルASIC29は、さらに、γ線を検出した検出器21の位置情報およびγ線の検出時刻情報も出力する。デジタルの波高値情報、検出器21の位置情報およびγ線の検出時刻情報は、データ処理装置2に入力される。データ処理装置2の同時計測装置(図示せず)は、検出時刻情報を用いて、1つの陽電子の消滅により発生した一対のγ線を一個として計数し、その一対のγ線を検出した2つの検出器21の位置をそれらの位置情報を基に特定する。また、データ処理装置2の画像情報作成装置である断層像情報作成装置(図示せず)は、同時計測で得た計数値および検出器21の位置情報を用いて、放射性薬剤の集積位置、すなわち悪性腫瘍位置での被検者の断層像情報(画像情報)を作成する。この断層像情報は表示装置3に表示される。
【0041】
以下では、本実施形態において得られる効果を説明する。
(1)本実施形態の検出器21によれば、導電性接着剤21Aを、従来とは逆に熱応力に追従し難い硬いもの(350MPa〜1000MPa)を使用することにより、導電性接着剤21Aに含まれる金属フィラーの電気的導通を高めて、通過する信号に歪が生じるのを防止するとともに、導電部材22,23を、その線膨張係数が、検出器21の主材料であるCdTeの検出素子211の線膨張係数に近い5×10−6/℃〜7×10−6/℃の範囲の材料とすることにより、CdTeの検出素子211と導電部材22,23とに熱応力が生じるのを小さくすることができる。これにより、検出素子211から出力される検出信号の歪みが生じ難く、γ線検出感度が向上され、エネルギー分解能や時間精度が高められた検出器21が得られる。
(2)熱応力を十分に小さくできるため、検出素子211と導電部材22,23とを積層する構造としても特性の劣化が少なくなる。
(3)熱応力を十分に小さくすることができるため、検出素子211をより薄く形成して積層することができ、検出器21としての性能および感度の向上を両立させることが可能となる。PET撮像装置1では511keVのγ線を効率良く捕捉する必要があるが、そのためには検出素子211を厚くしなければならない。しかし検出素子211を厚くすると電子やホールの移動距離が長くなるため、エネルギー分解能や入射時刻の認識精度が悪化する。薄い検出素子211を多数積層できれば電子やホールの移動距離が短縮できるのでエネルギー分解能や入射時刻の認識精度が向上し、また検出素子211の体積占有率を大きく取れてかつ検出器21の体積も増大できるなどの利点があり、PET撮像装置1の性能を向上させることができる。
(4)導電部材22,23として鉄−ニッケル合金等が用いられているので、安定した信号の取り出しを実現することができるとともに、取付剛性を備えた検出器21が得られる。
(5)検出器21は、互いに隣接する検出素子211のカソードC同士またはアノードA同士が向かい合うように配置されるので、導電部材22,23を共用することができる。しかも、熱応力を十分に小さくできる積層構造であるため、密着性、導電性に優れ、カソードCとアノードAの電極間に安定した状態で電荷収集用のバイアス電圧をかけることができる。また、検出素子211の相互間に電気絶縁材を配置する必要がなく、検出素子211の稠密配置を実現することができる。これにより、感度が向上され、検査時間の短縮も図ることができる。
(6)導電部材22,23は、配線基板24へ向けて垂下された突出部22a,23aを有し、突出部22a、23aが配線基板24に取り付けられるため、導電部材22,23の配線基板24への取り付けが簡単にできる。しかも、突出部22a,23aは、配線基板24へ向けて垂下されているので、検出器21の側方に突出することがなくなり、その分、検出器21の稠密配置を実現することができる。
(7)導電部材22,23は、検出素子211の側面であるアノードAおよびカソードCよりも大きく形成されているので、脆い検出素子211を好適に保護することができ、配線基板24へ検出器21を取り付ける際に、検出素子211が配線基板24の表面などに擦れて傷付くのを良好に防止することができる。つまり、導電部材22、23が検出素子211の保護部材として機能する。
(8)突出部22a,23aは、検出器21の1つの側面となる底面で相互に離間した位置に垂下されているので電気絶縁性を高めることができる。
(9)突出部22a,22bがY方向に板状面が平行となるように設けられているので、突出部22a,23aにおいてγ線が錯乱するのを少なくすることができる。また、配線基板24から突出部22a,23aを介して検出器21に伝わる熱を減少させることができ、検出器21の特性の安定に寄与する。
(10)検出器21を用いたPET撮像装置1では、各検出器21に個別に対応した増幅回路を多数内蔵したASIC等を使用し信号処理回路を形成しているので、検出器21の小型化、ひいては検出器21の個数の増加にも対応できる。この結果、空間分解能の更なる向上が可能である。
(11)エネルギー分解能の高い検出器21を多数配置可能な検出モジュール20Aを構成できるため、3D撮像において定量性の高い検査が可能となる。
(12)配線基板24に設置した検出器21を電気絶縁体で覆うことによって、検出器21の絶縁破壊を防止できる。
【0042】
(実施形態2)
本発明の他の実施形態であるPET撮像装置に適用される検出器を実施形態2として説明する。本実施形態の検出器は、図1に示すPET撮像装置1に用いられる検出器21に代えて用いることができ、図9に示すように、細長板形状の導電部材41a,42aを備えて検出器40が形成されている。実施形態2のPET撮像装置の検出器40以外の構成は、前記の実施形態である図1に示すPET撮像装置1と同様である。
【0043】
導電部材41a,42aは、配線基板24上に設けられたソケット43,44に差し込むことが可能な細長板形状に形成されており、ソケット43,44に形成された図示しない端子に接続されるようになっている。この検出器40においても、導電部材41a,42aが互いに向かい合う同種の電極間に配置されてこれらの電極に導電性接着剤21Aによって取り付けられ、検出器40の両端に位置するカソードCに導電部材41aが導電性接着剤21Aによって取り付けられる。ソケット43,44に対して、導電部材41a,42aは、着脱自在に設けられており、導電部材41aが検出素子211のカソードCに接続され、導電部材42aが検出素子211のアノードAに接続されている。
【0044】
本実施形態では、前記実施形態1で生じる効果(1)〜(6)および(10)〜(12)を得ることができる。本実施形態は、さらに以下に記す効果を生じる。
(13)本実施形態では、導電部材41a,42aがソケット43,44に差し込むことが可能な細長板形状に形成されているので、前記実施形態1の導電部材22,23に比べて面積が小さく、その分、γ線の損失が少なくなる。また、導電部材41a,42aの面積が小さいので前記熱応力の影響は幾分小さくはなるが、導電性接着剤21Aによる接着を行うことにより、検出素子211から出力される検出信号の歪みが生じ難くなり、γ線検出感度が向上され、エネルギー分解能や時間精度が高められた検出器40が得られる。
【0045】
(実施形態3)
さらに、本発明の他の実施形態であるPET撮像装置に適用される検出器を実施形態3として説明する。本実施形態の検出器は、図1に示すPET撮像装置1に用いられる検出器21に代えて用いることができ、図10に示すように、検出素子211と導電部材51a,52aとが配線基板24上に水平状態に積層された構成となっている。本実施形態のPET撮像装置の検出器50以外の構成は、前記の実施形態1である図1に示すPET撮像装置1と同様である。
【0046】
検出器50は、配線基板24の表面に載置されて取り付けられた電極台53に導電性接着剤(図示せず実施形態1と同様)により接着されている。電極台53の材質は鉄−ニッケル合金であり、例えば、42アロイ(Fe58%、Ni42%)を用いることができる。導電部材51aは、バイアス電圧を印加するカソードCであり、バスバー54aにより配線基板24の回路55aに接続されている。また、導電部材52aは、バスバー54bにより、配線基板24の回路55bに接続されている。
【0047】
本実施形態は、前記実施形態1で生じる効果(1)〜(5)、(7)および(10)〜(12)を得ることができる。本実施形態は、さらに以下に記す効果を生じる。
(14)検出器50は検出素子211と導電部材51a,52aとが水平に積層される状態で配線基板24上に取り付けられるので、取り付け状態が安定するという利点が得られる。また、42アロイの電極台53上に検出器50が設置されてカソードCが接触される構成であるので、例えば、アルミナ等の部材を用いてこのような接触を行うものに比べて、安価に構成することができる。しかも、電極台53は42アロイからなるので、アルミナを用いたときのように、破損する等の心配もなく、検出器50の交換等のメンテナンスも行い易い。
【0048】
前記した実施形態1では、配線基板24上の接続部材CP,APが導電部材22,23毎に設けたが、例えば、接続部材CPを共通の電極として、配線基板24上に設け、これに前記導電部材22を接着剤などにより接続するようにしてもよい。なお、実施形態1では、アノードAに接続される導電部材23の突出部23aを接続部材APに、カソードCに接続される導電部材22の突出部22aを接続部材CPに接続しているが、突出部23aを接続部材CPに、突出部22aを接続部材APに接続することも可能である。この場合は、カソードCがγ線検出信号を出力する電極となり、アノードAがバイアス電圧を印加する電極となる。アノードAとカソードCの間に印加する電圧が逆方向であればいずれのパターンでも実現可能である。
実施形態1および2では、アノードAの電位をほぼグラウンド、カソードCの電位を−500Vとしたが、逆方向であれば電位に制約はなく、PET撮像装置1として機能する範囲で電圧値を設定すればよい。なお、カソードCを放射線検出信号の取り出し電極に、アノードAをバイアス電圧の印加電極にすることも可能である。
【0049】
なお、以上の実施形態では、核医学診断装置としてPET撮像装置(図1参照)を例に説明したが、PET撮像装置1に限らず、単光子放出型断層撮影装置(SPECT(Single Photon Emission Computer Tomography)装置)およびγカメラにも本発明の検出器および検出モジュールを適用することができる。ちなみに、PET撮像装置およびSPECT装置は、被検者の3次元の機能画像を撮影することで共通するが、SPECT装置は、測定原理が単光子を検出するものであることから同時計測を行うことができず、このため、γ線の入射位置(角度)を規制するコリメータを備える。また、γカメラは、得られる機能画像が2次元的なものであり、かつ、γ線の入射角度を規制するコリメータを備える。
なお、PET撮像装置またはSPECT装置と、X線CTを組み合わせた核医学診断装置の構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】(a)は本発明の好適な実施形態である実施形態1のPET撮像装置の構成を模式的に示した斜視図、(b)は(a)におけるPET撮像装置のベッドの長手方向に沿った図である。
【図2】(a)は図1に示すPET撮像装置に用いられるユニット基板の正面図、(b)は同じくユニット基板の側面図である。
【図3】(a)は半導体放射線検出素子の模式斜視図、(b)は半導体放射線検出素子を用いた検出器の斜視図、(c)は検出器を配線基板に設置した状態を模式的に示した図である。
【図4】検出器をγ線の入射方向から見た拡大図である。
【図5】導電性接着剤の縦弾性係数が500MPaであるときのエネルギー分解能と導電部材の線膨張係数との関係を示したグラフである。
【図6】導電性接着剤の縦弾性係数が350MPaであるときのエネルギー分解能と導電部材の線膨張係数との関係を示したグラフである。
【図7】導電性接着剤の縦弾性係数が50MPaであるときのエネルギー分解能と導電部材の線膨張係数との関係を示したグラフである。
【図8】導電性接着剤の縦弾性係数が1000MPaを超えるときのエネルギー分解能と導電部材の線膨張係数との関係を示したグラフである。
【図9】本発明の他の実施形態であるPET撮像装置に適用される検出器を示した斜視図である。
【図10】本発明の他の実施形態であるPET撮像装置に適用される検出器を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0051】
1 PET撮像装置
2 データ処理装置
3 表示装置
20A 検出モジュール
20B ASIC基板
21 検出器
21A 導電性接着剤
22 導電部材
22a 突出部
23 導電部材
23a 突出部
24 配線基板
28 アナログASIC
29 デジタルASIC
31 ベッド
32 計測空間
40 検出器
41a,42a 導電部材
50 検出器
51a,52a 導電部材
53 電極台
54a,54b バスバー
55a,55b 回路
211 検出素子
A アノード
AP 接続部材
C カソード
CP 接続部材
H 被検体
S 半導体素子
U ユニット基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テルル化カドミウムを主材料に用いた半導体放射線検出器であって、前記テルル化カドミウムの板状素子と、金属製の導電部材とを導電性接着剤により接着し、前記テルル化カドミウムの板状素子と前記金属製の導電部材とを交互に積層した構造を有する半導体放射線検出器において、
前記導電性接着剤は縦弾性係数が、350MPa〜1000MPaであり、かつ前記金属製の導電部材はその線膨張係数が、5×10−6/℃〜7×10−6/℃の範囲の材料からなることを特徴とする半導体放射線検出器。
【請求項2】
テルル化カドミウムを主材料に用いた半導体放射線検出器であって、前記テルル化カドミウムの板状素子と、金属製の導電部材とを導電性接着剤により接着し、前記テルル化カドミウムの板状素子と前記金属製の導電部材とを交互に積層した構造を有する半導体放射線検出器において、
前記導電性接着剤の縦弾性係数が、350MPa〜1000MPaであり、かつ前記金属製の導電部材の材料が、鉄−ニッケル合金、鉄−ニッケル−コバルト合金、クロム、タンタルのうちの少なくともひとつであることを特徴とする半導体放射線検出器。
【請求項3】
複数の前記導電部材のうちの一部の導電部材が互いに向かい合う同種の電極間に配置されてこれらの電極に取り付けられ、残りの前記導電部材が前記放射線検出器の両端に位置する電極に取り付けられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体放射線検出器。
【請求項4】
前記導電部材は、前記板状素子の対応する電極面を覆う大きさであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の半導体放射線検出器。
【請求項5】
前記導電部材は、前記板状素子の対応する電極面よりも大きく形成されていることを特徴とする請求項4に記載の半導体放射線検出器。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の半導体放射線検出器と、この半導体放射線検出器が取り付けられる配線基板とを備えた放射線検出モジュールであって、前記導電部材が取り付けられる接続部材が前記配線基板の表面に設けられており、前記接続部材は、複数の前記半導体放射線検出器に対する共通接続部材として前記配線基板上に設置されていることを特徴とする放射線検出モジュール。
【請求項7】
前記テルル化カドミウムの板状素子と前記金属製の導電部材とが前記配線基板の表面に直交する状態に前記配線基板に取り付けられてなることを特徴とする請求項6に記載の放射線検出モジュール。
【請求項8】
前記金属製の導電部材は、前記配線基板に設けられたコネクタに差し込まれて接続されることを特徴とする請求項7に記載の放射線検出モジュール。
【請求項9】
前記テルル化カドミウムの板状素子と前記金属製の導電部材とが前記配線基板の表面に平行となる状態で前記配線基板に取り付けられてなることを特徴とする請求項6に記載の放射線検出モジュール。
【請求項10】
請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の放射線検出器モジュールと、前記半導体放射線検出器から出力された放射線検出信号を基に得られた情報を用いて画像を生成する画像情報作成装置とを備えたことを特徴とする核医学診断装置。
【請求項11】
複数の前記半導体放射線検出器のそれぞれが出力する放射線検出信号を処理する複数の信号処理装置を含む集積回路が前記配線基板に取り付けられていることを特徴とする請求項10に記載の核医学診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−52004(P2007−52004A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−189421(P2006−189421)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【分割の表示】特願2005−236017(P2005−236017)の分割
【原出願日】平成17年8月16日(2005.8.16)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】