説明

単結晶ダイヤモンド工具

【課題】単結晶ダイヤモンド工具を用いて乾式で鏡面仕上げ等の高精度加工を行う際に一層優れた加工精度が得られるようにする。
【解決手段】ボデー12の外周面に放熱用溝として複数の環状溝30が設けられているため、切削加工の際に切れ刃24、26やすくい面22等に生じる発熱によるボデー12の温度上昇、更にはその温度上昇に伴うボデー12の熱膨張が抑制される。これにより、乾式で鏡面仕上げ等の高精度加工を行う場合でも、ボデー12の熱膨張に起因する単結晶ダイヤモンド14の切れ刃24、26の位置変化、すなわち軸方向の先端側への変位が抑制されて、一層優れた加工精度が得られるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単結晶ダイヤモンド工具に係り、特に、乾式で鏡面仕上げ等の高精度加工を行う際に一層優れた加工精度が得られるようにする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
切れ刃を有する単結晶ダイヤモンドが超硬合金のボデーに一体的に固設され、その切れ刃によって切削加工を行う単結晶ダイヤモンド工具、例えば単結晶ダイヤモンドエンドミルや単結晶ダイヤモンドバイトが提案されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−148471号公報
【特許文献2】特開2006−35359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような単結晶ダイヤモンド工具は、小さな切込み量(例えば数μm)で早送りされることにより鏡面仕上げ等の高精度加工を行う際に好適に用いられ、そのような高精度加工では切削油剤を使用しない乾式で使用されることが多い。その場合に、図2に示すようにダイヤモンドの熱伝導率は5程度であるのに対し、ボデーを構成している超硬合金の熱伝導率は0.08〜0.29程度と小さいため、切削加工の際に単結晶ダイヤモンドの切れ刃やすくい面等に生じた熱は速やかにボデーに伝達されるとともに、そのボデーに蓄積されて温度が上昇する。超硬合金の熱膨張係数は5.1〜7.6程度であり、温度上昇に伴ってボデーが膨張しても、通常の加工であれば殆ど問題になることはないが、鏡面仕上げ等の高精度加工では、ボデーの熱膨張による単結晶ダイヤモンドの切れ刃の僅かな位置変化に起因して加工精度が影響を受けることがあった。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、単結晶ダイヤモンド工具を用いて乾式で鏡面仕上げ等の高精度加工を行う際に一層優れた加工精度が得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、切れ刃を有する単結晶ダイヤモンドが超硬合金のボデーに一体的に固設され、その切れ刃によって切削加工を行う単結晶ダイヤモンド工具において、前記ボデーの外周面には放熱用溝が設けられていることを特徴とする。
【0007】
第2発明は、第1発明の単結晶ダイヤモンド工具において、(a) 前記ボデーは、軸心Oまわりに回転駆動されるシャンクと前記単結晶ダイヤモンドが一体的に固設されるダイヤ取付部とを一体に有するエンドミル用のもので、(b) 前記放熱用溝は、前記シャンクの外周面に軸心Oに対して直角に全周に設けられた環状溝であることを特徴とする。
【0008】
第3発明は、第2発明の単結晶ダイヤモンド工具において、前記環状溝は、前記シャンクの軸方向に所定の間隔を隔てて複数設けられていることを特徴とする。
【0009】
第4発明は、第2発明または第3発明の単結晶ダイヤモンド工具において、(a) 前記環状溝の溝深さおよび溝幅は、何れも0.3mm〜1.0mmの範囲内で、(b) その環状溝は前記ボデーの先端から20mm以下の範囲内に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
このような単結晶ダイヤモンド工具においては、ボデーの外周面に放熱用溝が設けられているため、切削加工の際に切れ刃やすくい面等に生じる発熱によるボデーの温度上昇、更にはその温度上昇に伴うボデーの熱膨張が抑制される。これにより、乾式で鏡面仕上げ等の高精度加工を行う場合でも、ボデーの熱膨張に起因する単結晶ダイヤモンドの切れ刃の位置変化が抑制されて、一層優れた加工精度が得られるようになる。また、このようにボデーの温度上昇が抑制されると、単結晶ダイヤモンドそのものの温度上昇も軽減されるため、黒鉛化による寿命低下が抑制される。
【0011】
第2発明は単結晶ダイヤモンドエンドミルに関するもので、シャンクの外周面に軸心Oに対して直角に設けられた環状溝が放熱用溝として用いられるため、シャンクが軸心Oまわりに回転駆動される際に環状溝内の空気が良好に入れ替えられて優れた放熱性能が得られ、ボデーの温度上昇が効果的に抑制される。
【0012】
第3発明では、上記環状溝がシャンクの軸方向に所定の間隔を隔てて複数設けられているため、放熱性能が更に向上してボデーの温度上昇が一層効果的に抑制される。
【0013】
第4発明では、上記環状溝の溝深さおよび溝幅が何れも0.3mm〜1.0mmの範囲内であるため、シャンクの剛性や強度を維持しつつ所定の放熱性能が得られる。すなわち、単結晶ダイヤモンドエンドミルは、一般に切れ刃(外周刃)の径寸法が3mm程度以下の小径で、シャンク径はそれよりも大きいとともに、小さな切込み量で使用されるため切削負荷が小さく、環状溝の溝深さおよび溝幅が1.0mm以下であれば、シャンクの剛性や強度には殆ど影響しないのである。また、環状溝はボデーの先端から20mm以下の範囲内に設けられているため、単結晶ダイヤモンドからボデーへ伝達された熱が環状溝によって良好に放熱され、ボデーの熱膨張に起因する単結晶ダイヤモンドの切れ刃の位置変化や単結晶ダイヤモンドそのものの温度上昇が一層効果的に抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例である単結晶ダイヤモンドエンドミルを示す図で、(a) は軸心Oと直角方向から見た平面図、(b) は単結晶ダイヤモンドが設けられた先端部分の拡大図である。
【図2】ダイヤモンドおよび超硬合金の熱伝導率、熱膨張係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の単結晶ダイヤモンド工具は、単結晶ダイヤモンドエンドミルや単結晶ダイヤモンドバイトに好適に適用される。また、単結晶ダイヤモンドエンドミルとしては、切れ刃として外周刃および底刃を有するスクエアエンドミルやラジアスエンドミルに好適に適用されるが、切れ刃としてボール刃を有するボールエンドミルにも適用され得る。
【0016】
単結晶ダイヤモンドとしては、人工ダイヤモンドでも天然ダイヤモンドでも良い。人工ダイヤモンドの場合、基本的に6つの{100}面(ミラー指数)を備える六面体形状、すなわち隣接する面が互いに直角な立方体や直方体で、一般に天然ダイヤモンドに比べて耐摩耗性は劣るものの、個々のばらつきが小さく、安定した品質が得られる。その立方体や直方体の人工ダイヤモンドの稜線をそのまま切れ刃として使用し、{100}面をすくい面として使用することもできるが、人工ダイヤモンドの一部を研磨除去するなどして{100}面から所定角度傾斜した面や他の結晶面をすくい面としても良いなど種々の態様が可能である。
【0017】
単結晶ダイヤモンドは、例えば活性金属ロウによるロウ接等によりボデーのダイヤ取付部に接着されるが、ねじ等を用いた機械的なクランプ手段により一体的に固設することもできる。活性金属ロウによる接着は、脱酸素雰囲気中で単結晶ダイヤモンドを加熱することによりチタン(Ti)やクロム(Cr)等の活性金属の膜を表面に生じさせ(メタライズ)、銀および銅を含む銀ロウでその単結晶ダイヤモンドを超硬合金のボデーに対して直接接着するものである。
【0018】
放熱用溝は複数本設けることが望ましいが、少なくとも1本設けられれば良い。放熱用溝の形状は、ボデーの形状に応じて適宜定められ、ボデーの長手方向と平行に設けたり、その長手方向と直角な方向に設けたりするなど種々の態様が可能である。放熱用溝の断面形状は、角形やV字形、半円弧形、U字形など種々の態様が可能である。
【0019】
第2発明のエンドミル用のボデーは、円柱形状のシャンクの先端にダイヤ取付部が直接設けられても良いが、径寸法が漸減するテーパ部等を介してその先端にダイヤ取付部が設けられても良い。放熱用溝としての環状溝は、円柱形状部分に設けることもできるし、テーパ部等の径寸法が漸減する部分に設けることもできる。
【0020】
放熱用溝の溝深さおよび溝幅は、例えば0.3mm〜1.0mm程度の範囲内で設定することが望ましいが、ボデーの大きさに応じて1.0mmを超える溝深さや溝幅で放熱用溝を形成することも可能である。単結晶ダイヤモンドエンドミルにおいて放熱用溝として環状溝を設ける場合、溝底径が単結晶ダイヤモンドの外周刃の径寸法以上となるように溝深さを設定することが望ましい。
【0021】
第4発明では、環状溝がボデーの先端から20mm以下の範囲内に設けられるが、20mm以下の範囲内に少なくとも1本の環状溝が設けられれば良く、20mmを超えた位置まで環状溝を設けることも可能である。また、ボデーの先端から10mm以下など、できるだけ単結晶ダイヤモンドに近い部分に設けることが望ましい。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例である単結晶ダイヤモンドエンドミル10を示す図で、(a) は軸心Oと直角方向から見た平面図、(b) は工具先端部分の拡大図である。この単結晶ダイヤモンドエンドミル10は、超硬合金製の軸状のボデー12と、そのボデー12の先端に一体的に固設された単結晶ダイヤモンド14とを備えている。ボデー12は、円柱形状のシャンク16の先端にダイヤ取付部18が同心に一体に設けられたもので、円柱形状のダイヤ取付部18の一部を研磨除去するなどして形成された取付座20に単結晶ダイヤモンド14が活性金属ロウによるロウ接等により一体的に接着(固設)されている。シャンク16は、径寸法(シャンク径)Dが約4mmで、先端部には先端側程小径となるテーパ部16tが設けられており、そのテーパ部16tの先端にダイヤ取付部18が設けられている。
【0023】
単結晶ダイヤモンド14は直方体形状の人工ダイヤモンドで、ダイヤ取付部18の先端から所定寸法だけ突き出すように設けられており、シャンク16が工作機械の主軸等に把持されて軸心Oまわりに回転駆動されることにより、その突出部分で切削加工が行われる。単結晶ダイヤモンド14は、例えば外周面を構成している{100}面の一つがそのまますくい面22として用いられるとともに、そのすくい面22の一方の側端縁が外周刃24として機能し、すくい面22の前端縁が底刃26として機能するようになっていて、スクエアエンドミルとして用いられる。軸心Oを挟んで底刃26と反対側の部分には、干渉を避けるために逃げ28が設けられている。外周刃24および底刃26にも必要に応じて逃げが設けられる。外周刃24および底刃26は切れ刃に相当し、外周刃24の径寸法は3mm以下の小径で、本実施例では約1mmである。なお、図1における各部の寸法は、必ずしも正確な比率で図示したものではない。
【0024】
ここで、このような単結晶ダイヤモンドエンドミル10は、小さな切込み量(例えば数μm)で早送りされることにより鏡面仕上げ等の高精度加工を行う際に好適に用いられ、そのような高精度加工では切削油剤を使用しない乾式で使用されることが多い。その場合に、図2に示すようにダイヤモンドの熱伝導率は5程度であるのに対し、ボデー12を構成している超硬合金の熱伝導率は0.08〜0.29程度と小さいため、切削加工の際に単結晶ダイヤモンド14の切れ刃24、26やすくい面22等に生じた熱は速やかにボデー12に伝達されるとともに、そのボデー12に蓄積されて温度が上昇する。超硬合金の熱膨張係数は5.1〜7.6程度で、温度上昇に伴ってボデー12が膨張しても、通常の加工であれば殆ど問題にならないが、鏡面仕上げ等の高精度加工では、ボデー12の熱膨張による単結晶ダイヤモンド14の切れ刃24、26の僅かな位置変化(主に軸方向先端側への変位)に起因して加工精度が影響を受けることがある。これを防止するために、本実施例の単結晶ダイヤモンドエンドミル10には、放熱用溝として多数の環状溝30がシャンク16の先端部外周面に設けられている。
【0025】
上記環状溝30は、シャンク16の円柱形状部分の先端部すなわちテーパ部16tのすぐ後の部分に、砥石等による研削加工によって設けられており、その断面形状は略四角形の角形で、軸心Oに対して直角にシャンク16の全周に設けられているとともに、シャンク16の軸方向に所定の間隔w2を隔てて5本設けられている。環状溝30の溝深さdは0.3mm〜1.0mmの範囲内で、本実施例では約0.5mmであり、その溝底径は約3mmである。環状溝30の溝幅w1は0.3mm〜1.0mmの範囲内で、本実施例では約0.5mmであり、間隔w2も0.3mm〜1.0mmの範囲内で、本実施例では約0.5mmである。最も先端側の環状溝30は、ボデー12の先端からの寸法Lgが20mm以下で、本実施例では寸法Lgが約8mmの付近に設けられており、そこから約4.5mmの範囲内、すなわちボデー12の先端から約12.5mmまでの範囲内に、計5本の環状溝30が等間隔で設けられている。なお、このような環状溝30をテーパ部16tに設けることも可能である。
【0026】
このように、本実施例の単結晶ダイヤモンドエンドミル10は、ボデー12の外周面に放熱用溝として環状溝30が設けられているため、切削加工の際に切れ刃24、26やすくい面22等に生じる発熱によるボデー12の温度上昇、更にはその温度上昇に伴うボデー12の熱膨張が抑制される。これにより、乾式で鏡面仕上げ等の高精度加工を行う場合でも、ボデー12の熱膨張に起因する単結晶ダイヤモンド14の切れ刃24、26の位置変化、すなわち軸方向の先端側への変位が抑制されて、一層優れた加工精度が得られるようになる。また、このようにボデー12の温度上昇が抑制されると、単結晶ダイヤモンド14そのものの温度上昇も軽減されるため、黒鉛化による寿命低下が抑制される。
【0027】
また、本実施例ではシャンク16の外周面に軸心Oに対して直角に設けられた環状溝30が放熱用溝として用いられるため、シャンク16が軸心Oまわりに回転駆動される際に環状溝30内の空気が良好に入れ替えられて優れた放熱性能が得られ、ボデー12の温度上昇が効果的に抑制される。
【0028】
また、本実施例では環状溝30がシャンク16の軸方向に所定の間隔w2を隔てて複数設けられているため、放熱性能が更に向上してボデー12の温度上昇が一層効果的に抑制される。
【0029】
また、本実施例では、上記環状溝30の溝深さdおよび溝幅w1が何れも0.3mm〜1.0mmの範囲内で本実施例では約0.5mmであるため、シャンク16の剛性や強度を維持しつつ所定の放熱性能が得られる。すなわち、本実施例の単結晶ダイヤモンドエンドミル10は、外周刃24の径寸法が約1mmの小径で、シャンク径D(実施例では約4mm)はそれよりも十分に大きいとともに、小さな切込み量で使用されるため切削負荷が小さく、環状溝30の溝深さdおよび溝幅w1が0.5mmであれば、シャンク16の剛性や強度には殆ど影響しないのである。
【0030】
また、環状溝30はボデー12の先端から20mm以下の範囲内、実施例では約8mmから12.5mmまでの範囲内に設けられているため、単結晶ダイヤモンド14からボデー12へ伝達された熱が環状溝30によって良好に放熱され、ボデー12の熱膨張に起因する単結晶ダイヤモンド14の切れ刃24、26の位置変化や単結晶ダイヤモンド14そのものの温度上昇が一層効果的に抑制される。
【0031】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0032】
10:単結晶ダイヤモンドエンドミル(単結晶ダイヤモンド工具) 12:ボデー 14:単結晶ダイヤモンド 16:シャンク 18:ダイヤ取付部 24:外周刃(切れ刃) 26:底刃(切れ刃) 30:環状溝(放熱用溝) O:軸心 w1:溝幅 w2:環状溝の間隔 d:溝深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切れ刃を有する単結晶ダイヤモンドが超硬合金のボデーに一体的に固設され、該切れ刃によって切削加工を行う単結晶ダイヤモンド工具において、
前記ボデーの外周面には放熱用溝が設けられている
ことを特徴とする単結晶ダイヤモンド工具。
【請求項2】
前記ボデーは、軸心Oまわりに回転駆動されるシャンクと前記単結晶ダイヤモンドが一体的に固設されるダイヤ取付部とを一体に有するエンドミル用のもので、
前記放熱用溝は、前記シャンクの外周面に軸心Oに対して直角に全周に設けられた環状溝である
ことを特徴とする請求項1に記載の単結晶ダイヤモンド工具。
【請求項3】
前記環状溝は、前記シャンクの軸方向に所定の間隔を隔てて複数設けられている
ことを特徴とする請求項2に記載の単結晶ダイヤモンド工具。
【請求項4】
前記環状溝の溝深さおよび溝幅は、何れも0.3mm〜1.0mmの範囲内で、
該環状溝は前記ボデーの先端から20mm以下の範囲内に設けられている
ことを特徴とする請求項2または3に記載の単結晶ダイヤモンド工具。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−207999(P2010−207999A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59580(P2009−59580)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)
【Fターム(参考)】