説明

原盤記録装置及び原盤記録方法ならびに感熱型レジスト材料を含むスタンパ向け原盤及び感熱型レジスト材料の成膜方法

【課題】記録マークの先頭と記録マークの終端の形状が対称的なピット形状を持ち、且つ再現性良くピットを形成することが可能な原盤記録装置及び原盤記録方法を提供する。
【解決手段】この発明の1つの実施の形態を用いることで、記録マークの先頭(記録開始位置)と記録マークの終端(記録終了位置)の形状が対称的な形をしたピットを、スタンパ用の原盤に、高い再現性で形成できる。これにより、最終製品である光ディスクから再生して得られる再生信号のノイズレベル/ジッターの程度が低減可能な、安定な信号再生ができる光ディスクが低コストで製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対称性に優れたピットを形成するための光ディスク用原盤記録装置及び原盤記録方法ならびに感熱型レジスト材料を含むスタンパ向け原盤及び感熱型レジスト材料の成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
広く普及している光ディスク(情報記録媒体)は、通常、ガラスあるいは金属製の原盤を作成し、その原盤を用いて作成されたスタンパにより成型される。
【0003】
原盤は、通常、以下の工程で作製される。
【0004】
まず、基盤となるガラスあるいはSi円盤に、フォトレジスト材料を均一な膜厚で塗布する。
【0005】
その後、所望のビーム径を持つレーザー光を照射し、情報ピット(プリピットすなわち予め記録されるデジタル情報)となる部分を感光させる。
【0006】
次に、全面に情報ピットが記録された基盤を現像液で現像することで、感光された部分すなわちレーザー光が照射された部分が溶出して、凹形状のピット(プリピット)が形成される。
【0007】
このようにして形成されたピットを含む基盤を原盤として用い、以下、スタンパ作製工程、射出成型工程、及びディスク製盤工程を経て、光ディスクが形成される。
【0008】
上記のような方法で作られる光ディスク原盤のピットの最小サイズすなわち最小ピットサイズは、感光性のフォトレジストを用いるがゆえに、レーザー光の波長と対物レンズのNA(開口数)に依存する。
【0009】
従って、記録容量を高める(大容量化する)ために、より小さなピットを形成しようとする場合、より波長の短いレーザー光を用い、よりNAの高いレンズを用いることが必要となる。
【0010】
しかしながら、既に広く普及しているDVD規格の光ディスクよりも大容量化を図るには、波長400nm以下の紫外域レーザー光や、より波長の短い電子ビームを用いる必要がある。
【0011】
このことは、製造装置が非常に高価になるばかりでなく、作製マージンも狭く、感光部(レジスト)の微細化にも限界が生じるため、現実的ではないと考えられている。
【0012】
近年、この光学限界を打破するため、非特許文献1のような感熱型の無機レジスト材料を用いたPTM(Phase Transition Mastering)が、既に実用化されている。
【0013】
また、特許文献1には、レジスト材料に、無機材料あるいは無機材料を含む複合化合物からなる感熱型のレジスト材料を用いることにより、原盤から作成されるスタンパに微細なピット形状(パターン)を転写することが示されている。
【0014】
特許文献1には、レジスト材料に無機材料を用いた原盤(スタンパ)の製造方法が開示されている。
【非特許文献1】High resolution Blue Laser Mastering with Inorganic Photo-resist、Technical Digest of ISOM/ODS2002、p27、(無機フォトレジストを用いる高解像度ブルーレーザマスタリング、ISOM/ODS2002テクニカルダイジェスト、27頁)
【特許文献1】特開2005−38578
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、非特許文献1に示されたPTM技術は、記録パワーに対するピット形状マージンが狭く、優れた信号特性を有する原盤を再現性良く作製するためには、条件出しのための試作が数多く必要となり、実用化に際しては、なお問題を残している。
【0016】
また、特許文献1に示されたスタンパ製造方法を用いた場合であっても、ノイズレベルが低く、安定な再生信号波形が得られるピット形状として有益なトラック方向(円周方向)の対称性については、改良すべき要因が見られる。
【0017】
すなわち、ピットのトラック方向の対称性をさらに高めることが可能であれば、再生信号のノイズレベルがより低減できる、と考えることが妥当である。
【0018】
この発明の目的は、対称的なピット形状を持ち、且つ再現性良くピットを形成することが可能な原盤記録装置及び原盤製造方法ならびに感熱型レジスト材料を含むスタンパ向け原盤及び感熱型レジスト材料の成膜方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この発明は、上記問題点に基づきなされたもので、感熱性レジスト膜を有する光ディスク原盤に情報を記録する原盤記録装置において、前記レジスト膜がBi酸化物及びBi酸化物を含む複合化合物であることを特徴とする原盤記録装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
この発明の1つの実施の形態を用いることにより、感熱型レジスト材料を用いて原盤を作製する際に、感熱型レジストに特有のピット周辺のエッジが無く、記録マークの先頭(記録開始位置)と記録マークの終端(記録終了位置)の形状の対称性の高い形状のピット(プリピット)を持つ原盤を作製することができる。
【0021】
これにより、ノイズレベル/ジッターの程度が低い良好な再生信号を得ることのできる光ディスクが容易に製造可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態の一例について説明する。
【0023】
図1に、本発明に用いる原盤記録装置を示す。
【0024】
原盤記録装置1は、原盤となるガラスあるいは金属の円盤状の基盤Dを支持し、基盤Dを所定の速度で回転するスピンドルモーター11、スピンドルモーター11の回転を制御する回転制御部(モータードライバー)13、スピンドルモーター11により回転される基盤Dに、情報マークすなわちピットとなる潜像を記録するための対物レンズ15、基盤Dに潜像を記録するための熱エネルギーを提供するレーザー光を出力するレーザー装置17、レーザー装置17から出力された所定波長のレーザー光を対物レンズ15に案内する光学系19、等を含む。なお、スピンドルモーター11には、基盤Dを支持するための回転ステージ11aが設けられている。
【0025】
レーザー装置17は、詳述しないが、波長405nmの青色レーザー光を出力可能な半導体レーザー素子、あるいは400nmよりも短い紫外域の波長のレーザー光を出力可能な半導体レーザー素子、もしくはSHG(Second Harmonic Generation)発光に代表される超短波長パルスレーザー光を出力可能なガスレーザー等である。なお、対物レンズ15の開口数NA(Numerical Aperture)は、波長405nmのレーザー光において、0.85である。
【0026】
原盤記録装置1はまた、対物レンズ15及び光学系19を基盤Dの半径方向に移動する露光位置制御部21、回転制御部13及び露光位置制御部21のそれぞれの動作(駆動/停止)等を制御する制御装置(制御用コンピューター)23を含む。なお、レーザー装置17は、制御装置23により制御されるパルスレーザー発生制御部(レーザー駆動回路)25を介して、レーザー光が出力されるタイミング及び期間すなわちレーザー光の出力と停止(レーザー装置17のオン/オフ)が制御される。
【0027】
なお、記録すべき情報マークの長さが最も短い2T(Tは、基本クロック周波数の1周期分であり、2Tは、“1”が2個連続するチャネルビット長に対応する)である場合には、単パルスとなる。また、例えば、11Tのような長ピットは、複数のパルスを照射して形成する。より小さなピットを形成して大容量化を図るためには、できるだけ短波長のレーザー光と高NAの対物レンズを組み合わせる必要があるが、感熱型レジスト膜を用いれば、光学限界、特にレーザー光の波長に依存する限界を超えた微小ピットを、熱的に形成することができる。
【0028】
上述した原盤記録装置1においては、予め感熱型レジスト材料が所定厚さに成膜されているガラスあるいはSi基盤Dが、回転ステージ11aすなわちスピンドルモーター11により、所定速度で回転される。
【0029】
所定速度で回転される基盤Dのレジスト膜(レジスト材料)に、詳述しないが任意波形発生装置やフォーマッタを介して生成したパルスに基づいてオン/オフされるレーザー光を照射することで、原盤Dの表面すなわちレジスト膜に、記録情報すなわちピットとしてレジスト膜に凹部を形成すべき情報に対応する潜像が記録される。すなわち、レーザー光は、対物レンズ15により所定のスポットサイズに集束されて、基盤D上のレジスト膜に照射される。これにより、レーザー光が照射された部分のレジスト膜の温度が上昇して、上述の潜像が形成される。また、レーザー光が照射されている間(期間内)に、露光位置制御部21を介して光学系19(対物レンズ15)を基盤Dの半径方向に移動させることで、上述の潜像は、同心円状もしくは回転角と半径位置が連続して変化するスパイラル状に、形成される。
【0030】
なお、レジスト膜に上記潜像として記録された情報マーク(ピット)は、多くの場合、ポジ型であり、例えばpH12〜14程度のアルカリ現像液で現像されることにより現像液中に溶出して凹部となる。従って、原盤Dから作成されるスタンパにおける情報マークは、凸状となる。これにより、出来上がったスタンパから形成される光ディスクにおける情報マークは、凹状のピット(穴状)となる。
【0031】
基盤Dは、例えば図2あるいは図3に示すように、所定の厚さが与えられたSi(シリコン)ウエハD上に、例えばBiもしくは(Bi)x(W28Mo65)1−xであるレジスト膜D1が所定厚さに成膜されたもので、図4に示すように急峻な温度プロファイルを有する。すなわち、Biもしくは(Bi)x(W28Mo65)1−xを用いたレジスト膜は、レーザー光が照射(集光)されたレーザー照射部の大きさに比較してレジスト膜の転移温度以上に昇温される部分の大きさ(領域)が小さい。
【0032】
このため、光学条件(主として、レーザー光の波長λと対物レンズ15のNA(Numerical Aperture))で決まるビーム径よりも小さな部分を限定的に転移変質させることができる。従って、ひいては微小ピットを形成することが可能である。
【0033】
また、上述の(Bi)x(W28Mo65)1−xを用いたレジスト膜は、図4に示したような急峻な温度プロファイルを有することから、図5(a)に示す通り、これまでに用いられているレジスト材料から形成されたレジスト膜に比較して、熱の拡散の影響が小さいため、レーザー光の照射を停止した以降においてピットの周辺に、余熱分もしくは熱拡散に伴うエッジ状部や再結晶化領域が生じることが極めて少ない。従って、図5(b)に示すように、形成しようとするピットの終端よりも早めにレーザー光の照射を停止することに起因して、ピットの終端の形状がピットの先頭の形状と異なる(対称性が低くなる)問題も解消される。
【0034】
すなわち、ビーム進行方向に関してピットの先頭と終端の形状の対称性を考えた場合、その対称性が高いほど、基盤Dを用いたスタンパにより実際に製造された光ディスクから信号を再生して得られる再生信号のノイズレベルもしくはジッター(jitter)が発生する程度(レベル)が低下することが、これまでに製造されたさまざまな光ディスクにおいて確認されている。なお、ビーム進行方向とは、一般にトラック方向と称される、原盤Dの半径方向と直交する方向において、基盤Dが回転されることに伴って、基盤Dの半径方向の所定の位置に照射されているレーザー光のスポットが、あたかも基盤D上のレジスト膜上を移動するように説明できることから、広く用いられている。
【0035】
従って、原盤Dに形成されるピット(予め形成される情報マーク)について、トラック方向の先頭と終端の形状の対称性が高いことは、記録密度を向上できるのみならず、再生信号をより安定に取得可能とする。
【0036】
なお、上述した原盤記録装置1及び原盤記録方法で作製した光ディスク原盤Dのピット形状は、優れた対称性を示す。また、記録感度の点でも優れており、高速度記録が可能になる。
【0037】
より詳細には、上述した原盤記録装置1及びそれを用いる原盤記録方法は、予め基盤Dに用意されているレジスト膜にレーザー光を照射してレジスト膜を選択的に加熱することにより、レジスト膜にピットを形成するものであるが、レジスト膜がBi酸化物及びBi酸化物を含む複合化合物であることを特徴とする。
【0038】
Bi酸化物と組み合わせる他の材料は、W、Mo、Nb、Ta、Cr、V、Ti、ZrあるいはHfを、少なくとも1種類以上含む酸化物であることが好ましい。
【0039】
なお、ガラス基板あるいはSi基板上に、Bi酸化物またはW、Mo、Nb、Ta、Cr、V、Ti、Zr、Hfを少なくとも1種類以上含む酸化物とBi酸化物の複合酸化物により成膜されるレジスト膜の厚さは、好ましくは10nm以上200nm以下とする。また、レジスト膜を成膜する方法は、一般的な物理蒸着法(代表的にはRFマグネトロンスパッタ法やDCマグネトロンスパッタ法)が利用可能である。
【0040】
また、感熱型のレジスト膜を用いる場合、熱伝導率や熱容量などの熱物性が重要となるため、熱伝導を制御するために、基盤とレジスト膜との間に、中間層を挿入してもよい。
【0041】
なお、中間層を挿入する場合には、レジスト膜の熱感度を高めるために、低熱伝導率の中間層を挿入すると、より効果的である。低熱伝導率の中間層材料としては、Si、各種シリサイド、SiO、ZnS及びこれらの複合物が挙げられる。
【0042】
また、中間層の成膜条件や膜厚を変化させることでレジスト膜の熱感度を調整することが可能である。反面、内部応力による基盤からの(中間層の)剥離を抑制する観点から、中間層の膜厚は、200nm以下であることが望ましい。
【0043】
従って、本発明による感熱型のレジスト膜は、無機材料を用い、膜の総厚が400nm以下の1層あるいは2層で構成される。
【0044】
以下に、本発明の具体的実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
【0045】
[実施例1]
直径8インチ、厚さ0.7mmのSiウエハに、DCマグネトロンスパッタ法で、Biを80nm、感熱型レジスト膜として成膜した(断面方向の概念としては、図2の例と同等である)。Bi膜は、成膜後アモルファス状態にあった。
【0046】
このレジスト膜に対し、開口数(NA)0.85の対物レンズ15により、波長405nmのレーザー光を、線速5.3m/s、基準クロック周波数66MHzにて、パワーを1mWから5mWの範囲で可変させて記録すると、記録部は結晶化した。なお、トラックピッチは、0.32μmである。
【0047】
記録パターンは、例えば任意のマーク長nT(Tは、基本クロック周波数の1周期分)に対して(n−1)個のパルスを照射してランダムパターンを記録した。このとき、記録部は結晶化した。
【0048】
記録後のウエハ(原盤D)を、pH12.7の無機系アルカリ現像液槽内に、120秒浸した後、純水で洗浄した。
【0049】
ウエハ(原盤D)表面を、AFM(Atomic Force Microscopy,原子間力顕微鏡)にて観察したところ、記録マークが凹部として残り(すなわち記録マークとして凹状ピットが形成され)、記録部が溶出したポジ型のエッチング挙動を示していることが確認できた。
【0050】
エッチング後のウエハ(基盤D)表面に、厚さ40nmのニッケルをDCスパッタし、さらに同ウエハを負極として、スルファミン酸ニッケル水溶液に浸して所定の電流電圧をかけ、ニッケルの析出を待った。
【0051】
約1時間後、厚さ250μmのニッケル箔が析出し、これを剥離させた。
【0052】
剥離したニッケルスタンパには、記録マークが凸部として転写されていることがAFM観察で確認された。なお、4Tマークの両端を詳細に観察したところ、両端部とも同じ曲率を持った半円形で、高さは60nmであった。
【0053】
このように、本発明による原盤記録装置及び原盤記録方法で作製した原盤から得られたスタンパは、記録マークの先頭(記録開始位置)と記録マークの終端(記録終了位置)の形状が対称な凸状のピット形状を有することがわかった。
【0054】
このスタンパを用いて、厚さ1.1mmのPC(polycarbonate)基板を成型した後、反射層を成膜して、さらに0.1mm厚のPCを貼りあわせて1.2mm厚の光ディスクとした。
【0055】
記録容量にして約25GBを有する同ディスクを、評価装置ODU−1000にて評価した結果、パワー1.5mWで、ジッターが6.4%であり、良好な結果が得られた。
【0056】
以上のように、本発明による原盤記録装置及び原盤記録方法により形成した原盤を用いて作製した光ディスクは、一般的な波長405nmの青色半導体レーザーとNA0.85の対物レンズを組み合わせることで、記録容量25GBの光ディスクを作製可能なことが明らかになった。
【0057】
[実施例2]
直径8インチ、厚さ0.7mmのSiウエハ(原盤D)に、DCマグネトロンスパッタ法でSi層を90nm成膜した後、再度DCマグネトロンスパッタ法により、BiとW28Mo65とを同時スパッタし、(Bi)x(W28Mo65)1−xを80nm成膜した(断面方向の概念としては、図3の例と同等である)。ここで、xは、Biの原子比率を表し、本実施例では、xを0.1間隔で、0 ≦ x ≦ 1.0の範囲で変化させてレジスト膜を形成した。成膜後の(Bi)x(W28Mo65)1−xは、アモルファスで、実施例1と同じ記録条件で記録すると、記録部は結晶化した。
【0058】
実施例1と同じ条件で現像したところ、記録部が溶出して凹型のピットが残るポジ型のエッチング挙動を示した。その後も実施例1と同じ条件で、スタンパ作製工程からディスク製盤まで行った。
【0059】
スタンパに転写された凸型ピットをAFMで観察したところ、Biの原子比率が 0.1 ≦ x ≦ 1.0で、記録マークの先頭(記録開始位置)と記録マークの終端(記録終了位置)の形状が対称的な形をした、すなわち実質的に対称と判断可能な形状の凸状ピットが観察された。なお、W28Mo65の比率が「0」の場合には、実施例1と同一であり、何ら問題が生じることはない。
【0060】
得られた光ディスクを、評価装置ODU−1000にて評価した結果をxの関数として図6に示す。
【0061】
図6から明らかなように、xが0.1以上でジッターが8%以下となり、特にxが0.3以上ではジッターが6%以下の非常に良好な結果となった。
【0062】
以上のように本発明による原盤記録装置及び原盤記録方法を用いることにより、一般的な波長405nmの青色半導体レーザーとNA0.85の対物レンズとを組み合わせることで、記録容量25GBの光ディスク用原盤を作製可能なことが明らかになった。
【0063】
[実施例3]
実施例2と同様の方法で、Siを100nm成膜し、さらに同時スパッタにより(Bi)0.5(W28Mo65)0.5を80nm、Si膜上に成膜した。
【0064】
成膜後の(Bi)0.5(W28Mo65)0.5は、アモルファスであった。
【0065】
このレジスト膜に、波長405nmのレーザー光を、NAが0.85の光学系(対物レンズ)を用いて、1倍速(1X)から3倍速(3X)に相当する線速5.3m/s、10.6m/s、15.9m/sで、ランダムパターンを記録した。
【0066】
以下、実施例1と同じ条件で現像したところ、記録部が溶出して凹型のピットが残るポジ型のエッチング挙動を示した。
【0067】
その後も実施例1と同じ条件で、スタンパ作製工程からディスク製盤まで行った。
【0068】
スタンパに転写された凸型ピットを、AFMで観察したところ、いずれの線速条件でも実施例1と同様に、記録マークの先頭(記録開始位置)と記録マークの終端(記録終了位置)の形状が対称的な形をした、すなわち実質的に対称と判断可能な形状の凸状ピットが観察された。
【0069】
得られたディスクを実施例1と同様の方法で評価した結果、ジッターは、1X記録の場合5.8%、2X記録の場合6.1%、3X記録の場合6.2%を示した。
【0070】
本実施例により、原盤記録の速度を大幅に向上させても問題なく情報マーク(ピット)を記録可能なことが明らかになった。これは、原盤記録の時間を大幅に短縮することが可能であることを示し、光ディスク製造のコスト削減に効果的である。
【0071】
なお、本発明においてレジスト材料に用いるBi(ビスマス)酸化物は、融点が870℃で、かつ200℃前後で結晶化可能な材料である。Bi酸化物は、成膜時は、一般的な物理蒸着法による急冷のために、アモルファスとなる。
【0072】
また、レジスト材料に用いたBi(ビスマス)酸化物は、これまで広く用いられている遷移金属酸化物を用いる場合に比較して、上述した通り、高感度で記録マークを記録することができる。
【0073】
なお、W、Mo、Nb、Ta、Cr、V、Ti、Zr、Hfを少なくとも1種類以上含む酸化物とBi酸化物による複合化合物を用いた場合は、Bi酸化物単独の場合に比較して感度は低下するが、図4により説明したビーム照射部の温度プロファイルから、ピット(記録マーク)の書き出し位置(記録開始位置)と記録マークの終端(記録終了位置)の形状の対称性を向上できる。
【0074】
このレジスト膜にレーザー光を照射すると、溶融状態を経て、あるいは固相状態のままで結晶化する。すなわち、レジスト膜に、記録すべき情報に対応した潜像が記録される。
【0075】
レジスト膜は、ポジ型であるから、レジスト膜に形成された潜像は、アルカリ現像液で現像されることで、潜像部分のレジスト材料が溶出して、凹部(ピット)が形成される。従って、このレジスト膜を原盤として生起されるスタンパは、凸状ピットを呈する。
【0076】
この凸状ピットは、上述した通り、記録マークの先頭(記録開始位置)と記録マークの終端(記録終了位置)の形状が対称的な形をした、すなわち実質的に対称と判断可能な形状の凸状ピットとなり、最終製品である光ディスクから再生した再生信号のノイズレベル/ジッターの程度を低減することに有益である。
【0077】
以上説明したように、本発明の実施の形態の1つを用いることで、最終製品である光ディスクの形成に利用されるスタンパの作製に用いる原盤において、記録マークの先頭(記録開始位置)と記録マークの終端(記録終了位置)の形状が対称的な形をした、すなわち実質的に対称と判断可能な形状のピットを、高い再現性で形成できる。従って、最終製品である光ディスクから再生して得られる再生信号のノイズレベル/ジッターの程度が低減され、安定な信号再生が可能な光ディスクを、低コストで製造可能となる。
【0078】
なお、本発明の内容はここに記述した形態だけに限定されるものではなく、その主旨を逸脱しない範囲で、他にも様々な形態を取り得ることはいうまでもない。また、各実施の形態は、可能な限り適宜組み合わせて、もしくは一部を削除して実施されてもよく、その場合は、組み合わせもしくは削除に起因したさまざまな効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】この発明の実施の形態が適用される原盤記録装置の一例を示す概略図。
【図2】図1に示した原盤記録装置により記録マークが形成される原盤の構造を概略的に示す説明図。
【図3】図1に示した原盤記録装置により記録マークが形成される原盤の構造を概略的に示す説明図。
【図4】図1に示した原盤記録装置において出力されるレーザー光に対する図2及び図3に示した原盤のレジスト材料の温度プロフィールを説明する概略図。
【図5】図1に示した原盤記録装置により形成される記録マークの形状の特徴を説明する概略図。
【図6】この発明の実施の形態が適用される原盤のレジスト材料のBi酸化物による複合化合物の比率とジッターの程度との関係を説明する概略図。
【符号の説明】
【0080】
1…原盤記録装置、11…スピンドルモーター、11a…回転ステージ、13…回転制御部、15…対物レンズ、17…レーザー装置、19…光学系、21…露光位置制御部、23…制御装置、25…パルスレーザー発生制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感熱性レジスト膜を有する光ディスク原盤に情報を記録する原盤記録装置において、
前記レジスト膜がBi酸化物及びBi酸化物を含む複合化合物であることを特徴とする原盤記録装置。
【請求項2】
前記光ディスク原盤は、前記レジスト膜と基材との間に、熱伝導あるいは熱容量などの熱物性を制御する下地層を含むことを特徴とする請求項1記載の原盤記録装置。
【請求項3】
前記レジスト膜の前記Bi酸化物を含む複合化合物は、W、Mo、Nb、Ta、Cr、V、Ti、ZrあるいはHfを、少なくとも1種類以上含むことを特徴とする請求項1または2記載の原盤記録装置。
【請求項4】
感熱性レジスト膜を有する光ディスク原盤に情報を記録する原盤記録方法において、
前記レジスト膜がBi酸化物及びBi酸化物を含む複合化合物であり、基本クロック周波数の1周期分を“1”とした2周期分の記録マークを1回の光の照射による加熱で形成することを特徴とする原盤記録方法。
【請求項5】
前記光ディスク原盤は、前記レジスト膜と基材との間に、熱伝導あるいは熱容量などの熱物性を制御する下地層を含むことを特徴とする請求項4記載の原盤記録方法。
【請求項6】
前記レジスト膜の前記Bi酸化物を含む複合化合物は、W、Mo、Nb、Ta、Cr、V、Ti、ZrあるいはHfを、少なくとも1種類以上含むことを特徴とする請求項4または5記載の原盤記録方法。
【請求項7】
ガラスまたは金属の基材と、
前記基材上に、Bi酸化物及びBi酸化物を含む複合化合物を所定厚さに成膜したレジスト膜と、
を有することを特徴とするスタンパ向け原盤。
【請求項8】
前記レジスト膜は、前記Bi酸化物及びBi酸化物を含む複合化合物を同時にスパッタして得られるアモルファス状であることを特徴とする請求項7記載のスタンパ向け原盤。
【請求項9】
前記レジスト膜の前記Bi酸化物を含む複合化合物は、W、Mo、Nb、Ta、Cr、V、Ti、ZrあるいはHfを、少なくとも1種類以上含むことを特徴とする請求項7または8記載のスタンパ向け原盤。
【請求項10】
ガラスまたは金属の基材にスタンパ向けの無機材料からなる感熱型レジスト材料を成膜するレジスト材料の成膜方法において、
ガラスまたは金属の基材に、Bi酸化物及びBi酸化物を含む複合化合物を同時にスパッタし、急例して、アモルファス状とすることを特徴とする感熱型レジスト材料の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−266319(P2009−266319A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−115895(P2008−115895)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】