説明

可変容量型ベーンポンプ

【課題】支持ピンを受ける部材の破損を簡便な構造にて防止すること。
【解決手段】ロータ2と、ロータ2に対して径方向に往復動可能に設けられる複数のベーン3と、ロータ2を収容するカムリング4と、ロータ2及びカムリング4の両側部を挟んで配置され、ロータ2とカムリング4との間にポンプ室7を画成する一対の側部部材5,6と、カムリング4を揺動自在に支持すると共に、両端部が一対の側部部材5,6に挿入される支持ピン13と、支持ピン13に作用する圧力を受ける受圧部材10とを備え、支持ピン13は、カムリング4を揺動自在に支持する円弧部13bと、受圧部材10に平面状に接触する平面部13aとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両用のパワーステアリング装置の油圧供給源として用いられる可変容量型ベーンポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の可変容量型ベーンポンプとして、ロータに対するカムリングの偏心量を変えることによって、ポンプ容量を変化させるものがある。
【0003】
特許文献1には、カムリングが、アダプタリングの内周壁に形成された凹部に支持された円柱状の支持ピンによって揺動自在に配置される可変容量型ベーンポンプが開示されている。
【0004】
この種の可変容量型ベーンポンプでは、ポンプ内で発生した圧力を支持ピンによって受け、その支持ピンをアダプタリングによって受けている。このように、ポンプ内で発生した圧力は、支持ピンを介してアダプタリングに作用する。
【0005】
また、特許文献2には、板状の支持板をアダプタリングの内周壁に配置し、支持板を介してポンプ内で発生した圧力を受ける可変容量型ベーンポンプが開示されている。
【特許文献1】特開2000−54969号公報
【特許文献2】特開2003−74479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示の可変容量型ベーンポンプの場合、アダプタリングの凹部の直径は、支持ピンとアダプタリングの組立性を考慮して、支持ピンの直径と比較して僅かに大きく形成される。したがって、支持ピンとアダプタリングの接触面積は小さく、アダプタリングは、ポンプ内にて発生した圧力を小さな面積で受けなければならない。そのため、ポンプ内にて発生する圧力が大きくなると、アダプタリングの凹部内の一部に応力が集中し、アダプタリングが破損する可能性がある。
【0007】
特許文献2に開示の可変容量型ベーンポンプの場合、アダプタリングは、板状の支持板を介してポンプ内で発生した圧力を受けるため、アダプタリングへの応力集中を緩和することができる。しかし、サイドプレート、アダプタリング、及びプレッシャプレートの位置決めを行うための回り止めピンを別途設ける必要があり、部品点数が多くなると共に構造も複雑となる。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、支持ピンを受ける部材の破損を簡便な構造にて防止することができる可変容量型ベーンポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、駆動軸に連結されたロータと、前記ロータに対して径方向に往復動可能に設けられる複数のベーンと、前記ロータを収容すると共に、前記ロータの回転に伴って内周のカム面に前記ベーンの先端部が摺動するカムリングと、前記ロータ及び前記カムリングの両側部を挟んで配置され、前記ロータと前記カムリングとの間にポンプ室を画成する一対の側部部材と、前記一対の側部部材に形成され、前記ポンプ室に作動流体を導く吸込ポート及び前記ポンプ室が吐出する作動流体が導かれる吐出ポートと、前記カムリングを揺動自在に支持すると共に、両端部が前記一対の側部部材に挿入される支持ピンと、前記支持ピンに作用する圧力を受ける受圧部材とを備え、前記支持ピンを支点に前記カムリングを揺動させることによって、前記ポンプ室の容積が変化する可変容量型ベーンポンプにおいて、前記支持ピンは、前記カムリングを揺動自在に支持する円弧部と、前記受圧部材に平面状に接触する平面部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カムリングを揺動自在に支持すると共に、両端部が一対の側部部材に挿入される支持ピンが、受圧部材に平面状に接触する平面部を備えるため、支持ピンと受圧部材の接触面積が大きく、受圧部材への応力集中を防止することができる。このように、支持ピンを受ける受圧部材の破損を簡便な構造にて防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
以下では、本発明の可変容量型ベーンポンプを車両に搭載されるパワーステアリング装置の油圧供給源に適用した場合について説明する。
【0013】
図1及び図2を参照して、本発明の実施の形態に係る可変容量型ベーンポンプ100について説明する。図1は可変容量型ベーンポンプ100における駆動軸に垂直な断面を示す断面図であり、図2は可変容量型ベーンポンプ100における駆動軸に平行な断面を示す断面図である。
【0014】
可変容量型ベーンポンプ100は、駆動軸1にエンジン(図示せず)の動力が伝達され、駆動軸1に連結されたロータ2が回転するものである。図1では、ロータ2は反時計回りに回転する。
【0015】
可変容量型ベーンポンプ100は、ロータ2に対して径方向に往復動可能に設けられる複数のベーン3と、ロータ2を収容すると共にロータ2の回転に伴って内周のカム面4aにベーン3の先端部が摺動するカムリング4とを備える。
【0016】
図2に示すように、ロータ2及びカムリング4の両側部には、カバー5とサイドプレート6(一対の側部部材)がロータ2及びカムリング4を挟んだ状態で配置される。これにより、ロータ2とカムリング4との間には、各ベーン3によって仕切られたポンプ室7が画成される。
【0017】
カバー5及びサイドプレート6のそれぞれには、ポンプ室7に作動油(作動流体)を導く吸込ポート(図示せず)及びポンプ室7が吐出する作動油が導かれる吐出ポート(図示せず)が形成される。
【0018】
ボディー8のポンプ収容凹部8aには、サイドプレート6及び環状のアダプタリング10(受圧部材)が収装され、アダプタリング10内にはカムリング4が収容される。そして、ポンプ収容凹部8aは、カバー5によって封止される。このように、カムリング4は、カバー5とサイドプレート6によって挟まれると共に、アダプタリング10内に収容されて配置されるため、カムリング4の外周とカムリングの内周との間には、第1流体圧室11と第2流体圧室12とが画成される。
【0019】
アダプタリング10の内周面には、駆動軸1と平行に延在する支持ピン13が支持され、支持ピン13にはカムリング4が揺動自在に支持される。アダプタリング10における支持ピン13と軸対称の位置にはシール部材(図示せず)が配置され、このシール部材と支持ピン13とによって、第1流体圧室11と第2流体圧室12とが画成される。
【0020】
カムリング4は、第1流体圧室11と第2流体圧室12に導入される作動油の圧力差によって、支持ピン13を支点に揺動する。カムリング4が第1流体圧室11側に揺動する場合には、ロータ2に対するカムリング4の偏心量が大きくなり、ポンプ室7の容積は大きくなる。また、カムリング4が第2流体圧室12側に揺動する場合には、ロータ2に対するカムリング4の偏心量が小さくなり、ポンプ室7の容積は小さくなる。
【0021】
なお、支持ピン13の軸は、駆動軸1に対して第1流体圧室11側に距離Dだけオフセットして設けられる。これにより、カムリング4の揺動に伴うカムリング4の中心軸の軌道が小さくなり、カムリング4はアダプタリング10内をスムーズに揺動することができる。
【0022】
駆動軸1にエンジンの動力が伝達されロータ2が回転すると、ロータ2の回転に伴って各ベーン3間が拡張するポンプ室7は、吸込ポートを通じて作動油を吸込み、また、各ベーン3間が収縮するポンプ室7は、吐出ポートを通じて作動油を吐出する。吐出された作動油は、パワーステアリング装置における操舵アシスト力を付与する流体圧アクチュエータ(図示せず)へと供給される。
【0023】
カムリング4が揺動し、ロータ2に対するカムリング4の偏心量が最大となった場合には、可変容量型ベーンポンプ100の吐出容量は最大となり、ロータ2の回転速度に略比例して吐出流量が増加する。また、カムリング4が揺動し、ロータ2に対するカムリング4の偏心量が最小となった場合には、可変容量型ベーンポンプ100の吐出容量は最小となる。
【0024】
以下では、支持ピン13について詳しく説明する。
【0025】
支持ピン13は、図1に示すように、断面蒲鉾形の棒状部材であり、平面部13aと円弧部13bとを備える。
【0026】
アダプタリング10の内周面には、軸方向に沿って溝状に切り欠かれた凹部20が形成され、凹部20の底面部20aは平面状に形成される。
【0027】
支持ピン13は、アダプタリング10の凹部20の底面部20aに平面部13aが平面状に面接触し、凹部20から円弧部13bが突出した状態で配置される。
【0028】
カムリング4の外周面には、支持ピン13の円弧部13bの形状に対応する断面円弧状の溝4bが形成され、その溝4bに円弧部13bが係合することによって、カムリング4は、支持ピン13の円弧部13bに揺動自在に支持される。
【0029】
このように、支持ピン13は、平面部13aがアダプタリング10の凹部20の底面部20aに接触した状態でアダプタリング10に支持されると共に、円弧部13bがカムリング4を揺動自在に支持する。
【0030】
また、支持ピン13は、図2に示すように、一端部がサイドプレート6に形成された穴6aに挿入されると共に、他端部がカバー5に形成された穴5aに挿入される。
【0031】
図3に示すように、穴5a及び穴6aは長穴として形成される。図3は、図2におけるa-a断面を示す断面図である。支持ピン13の両端部は、ロータ2の径方向には穴5a及び穴6aとの間に隙間21が設けられるのに対して、回転方向には穴5a及び穴6aに隙間なく接触する。
【0032】
支持ピン13の両端部が、穴5a及び穴6aに対してロータ2の径方向に隙間21を持って挿入されることによって、支持ピン13の寸法、支持ピン13を支持するアダプタリング10の凹部20の寸法、及び穴5a及び穴6aの位置等による集積誤差や、穴5a及び穴6aの加工精度によってアダプタリング10に対する支持ピン13の位置が影響を受けることがない。
【0033】
また、支持ピン13の両端部が、穴5a及び穴6aに対してロータ2の回転方向に隙間なく挿入されることによって、カムリング4に対するカバー5及びサイドプレート6の相対回転が防止される。したがって、ポンプ室7に対する吸込ポート及び吐出ポートの位置ずれが防止される。
【0034】
このように、支持ピン13は、ポンプ室7に対する吸込ポート及び吐出ポートの回転方向の位置決めを行う機能を有し、支持ピン13の外周面における穴5a及び穴6aとの接触部が位置決め部13cとして機能する。
【0035】
なお、支持ピン13は、円弧部13bの円弧角(図3に示す角度θ)を180度以上に形成するのが望ましい。円弧角が180度未満の場合、円弧部13bが小さくなり、カムリング4の揺動が不安定となる。また、位置決め部13cに対応する穴5a及び穴6aの加工が難しくなる。
【0036】
次に、支持ピン13の作用について説明する。
【0037】
図1においてポンプ室7における中心線Oより下の領域は、ロータ2の回転に伴って各ベーン3間が収縮する高圧領域となる。したがって、高圧領域の高圧は支持ピン13を介してアダプタリング10に作用することになる。
【0038】
ここで、支持ピン13の両端部は、カバー5及びサイドプレート6に対してロータ2の径方向に隙間21を持って挿入されるため、カバー5及びサイドプレート6には、支持ピン13に作用する高圧が作用しない。
【0039】
このように、ポンプ室7で発生する高圧は、支持ピン13を介してアダプタリング10にのみ作用することになる。
【0040】
しかし、支持ピン13は、平面部13aがアダプタリング10の凹部20の底面部20aに平面状に接触した状態で配置されるため、支持ピン13とアダプタリング10の接触面積は大きい。したがって、アダプタリング10への応力集中が防止され、アダプタリング10の破損を防止することができる。
【0041】
以上の本実施の形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0042】
支持ピン13は、平面部13aがアダプタリング10の凹部20の底面部20aに平面状に接触して配置されるため、支持ピン13とアダプタリング10との接触面積は大きい。したがって、アダプタリング10への応力集中を防止することができる。また、支持ピン13は、位置決め部13cによってポンプ室7に対する吸込ポート及び吐出ポートの回転方向の位置決めを行う。
【0043】
このように、単一の部材である支持ピン13のみによって、アダプタリング10への応力集中を防止することができると共に、ポンプ室7に対する吸込ポート及び吐出ポートの回転方向の位置決めも行うことができ、簡便な構造にてアダプタリング10の破損を防止することができる。
【0044】
以下に、本実施の形態の他の形態を示す。
(1)図4及び図5に示すように、アダプタリング10の内周面に支持ピン13を支持する凹部20を形成せず、支持ピン13の平面部13aを、アダプタリング10の内周面に形成した平面部25に平面状に接触させて配置してもよい。支持ピン13をアダプタリング10に対して平面状に接触して配置したとしても、支持ピン13は、カバー5及びサイドプレート6によって拘束されているため、アダプタリング10の平面部25に沿って移動することはなない。このように支持ピン13を配置しても、支持ピン13をアダプタリング10の凹部20にて支持する場合と同様の作用効果を奏する。
(2)上記実施の形態では、ロータ2及びカムリング4をカバー5とサイドプレート6とによって挟持する場合について説明した。しかし、ロータ2及びカムリング4を2つのカバー5、2つのサイドプレート6、又は2つのボディー8の間にて挟持してもよい。
(3)上記実施の形態では、支持ピン13をアダプタリング10によって受ける場合について説明した。しかし、アダプタリング10を設けず、支持ピン13をボディー8のポンプ収容凹部8aにて直接受ける構成にしてもよい。この場合、凹部20や平面部25は、ポンプ収容凹部8aの内周壁に形成される。
(4)支持ピン13の両端部と穴5a,6aとの隙間21は、本発明において必須の構成要件ではなく、穴5a,6aを、長穴とせず、支持ピン13がぴったりと嵌合するように形成してもよい。この場合には、アダプタリング10と共にカバー5及びサイドプレート6によって、支持ピン13を受ける構造となる。
(5)支持ピン13は、アダプタリング10を受ける部分のみを断面蒲鉾形とし、カバー及びサイドプレート6に挿入される両端部は断面円形に形成してもよい。
【0045】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る可変容量型ベーンポンプは、車両用のパワーステアリング装置の油圧供給源に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態に係る可変容量型ベーンポンプにおける駆動軸に垂直な断面を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る可変容量型ベーンポンプにおける駆動軸に平行な断面を示す断面図である。
【図3】図2におけるa-a断面を示す断面図である。
【図4】本発明の他の実施の形態に係る可変容量型ベーンポンプの駆動軸に垂直な断面図である。
【図5】本発明の他の実施の形態に係る可変容量型ベーンポンプの駆動軸に平行な断面図である。
【符号の説明】
【0048】
100 可変容量型ベーンポンプ
1 駆動軸
2 ロータ
3 ベーン
4 カムリング
5 カバー
5a 穴
6 サイドプレート
6a 穴
7 ポンプ室
8 ボディー
10 アダプタリング
11 第1流体圧室
12 第2流体圧室
13 支持ピン
13a 平面部
13b 円弧部
13c 位置決め部
20 凹部
20a 底面部
21 隙間
25 平面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸に連結されたロータと、
前記ロータに対して径方向に往復動可能に設けられる複数のベーンと、
前記ロータを収容すると共に、前記ロータの回転に伴って内周のカム面に前記ベーンの先端部が摺動するカムリングと、
前記ロータ及び前記カムリングの両側部を挟んで配置され、前記ロータと前記カムリングとの間にポンプ室を画成する一対の側部部材と、
前記一対の側部部材に形成され、前記ポンプ室に作動流体を導く吸込ポート及び前記ポンプ室が吐出する作動流体が導かれる吐出ポートと、
前記カムリングを揺動自在に支持すると共に、両端部が前記一対の側部部材に挿入される支持ピンと、
前記支持ピンに作用する圧力を受ける受圧部材と、を備え、
前記支持ピンを支点に前記カムリングを揺動させることによって、前記ポンプ室の容積が変化する可変容量型ベーンポンプにおいて、
前記支持ピンは、
前記カムリングを揺動自在に支持する円弧部と、
前記受圧部材に平面状に接触する平面部と、
を備えることを特徴とする可変容量型ベーンポンプ。
【請求項2】
前記受圧部材は、カムリングを収容する環状のアダプタリングであり、
前記アダプタリングの内周面には、前記支持ピンを支持する凹部が形成され、
前記支持ピンは、前記平面部が前記凹部の底面部に平面状に接触して配置されることを特徴とする請求項1に記載の可変容量型ベーンポンプ。
【請求項3】
前記受圧部材は、カムリングを収容する環状のアダプタリングであり、
前記アダプタリングの内周面には、前記支持ピンの平面部が平面状に接触する平面部が形成されることを特徴とする請求項1に記載の可変容量型ベーンポンプ。
【請求項4】
前記支持ピンは、前記受圧部材に接触する部位が断面蒲鉾形に形成され、
当該断面蒲鉾形における円弧状部の円弧角は、180度以上であり、
前記支持ピンは、前記ポンプ室に対する前記吸込ポート及び前記吐出ポートの回転方向の位置決めを行う位置決め部を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一つに記載の可変容量型ベーンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−52433(P2009−52433A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218071(P2007−218071)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】