説明

可変焦点レンズ

【課題】焦点距離の変更を高速に行うことができる可変焦点レンズを提供する。
【解決手段】電気光学材料と、該電気光学材料の光の入射面および出射面に垂直な向かい合った2つの平行の面の各々の面に形成された入射面側電極と出射面側電極とを備え、前記光を前記入射面から入射し、前記出射面から出射するように光軸が設定され、前記入射面側電極の辺のうち前記出射面側電極の辺に対向する辺は互いに平行に配置され、前記入射面側電極の辺のうち前記出射面側電極の辺と対向する前記辺と、前記電気光学材料を挟んで対向する面上に形成された前記入射面側電極の辺のうち前記出射面側電極の辺と対向する辺は、各々、平行に配置され、前記入射面側電極と前記出射面側電極との間に形成された電界が、前記光軸を中心に前記光が透過する部分において変化させられ、前記入射面側電極と前記出射面側電極との間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料を透過した光の焦点が可変となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変焦点レンズに関し、より詳細には、電気光学効果を有する光学材料を用いて、焦点距離を変更可能とした可変焦点レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学レンズ、プリズムなどの光学部品は、カメラ、顕微鏡、望遠鏡などの光学機器、プリンタ、コピー機など電子写真方式の記録装置、DVDなどの光記録装置、通信用、工業用の光デバイス等に用いられている。通常の光学レンズは、焦点距離が固定されているが、上述の機器、装置の中には、状況に応じて焦点距離を調整することのできるレンズ、いわゆる可変焦点レンズを用いる場合がある。従来の可変焦点レンズは、複数のレンズを組み合わせて、機械的に焦点距離を調整する。しかしながら、このような機械式の可変焦点レンズは、応答速度・製造コスト・小型化・消費電力などの点から、適用範囲を広げることには限界があった。
【0003】
そこで、光学レンズを構成する透明媒質に、屈折率を可変できる物質を適用した可変焦点レンズ、光学レンズの位置を動かすのではなく、機械的に光学レンズの形状を変形させる可変焦点レンズなどが考え出された。前者の可変焦点レンズとして、光学レンズとして液晶を利用した可変焦点レンズが提案されている。この可変焦点レンズは、2枚のガラス板で液晶を挟み込むなどして、透明物質でできた容器に液晶を封じ込めている。この容器の内側を球面上に加工して、液晶をレンズ形状に成形すると、可変焦点レンズを構成することができる。この容器の内側には透明電極が設けられ、液晶に電界をかけることによって屈折率を制御し、焦点距離を可変制御する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
後者の可変焦点レンズとして、変形するレンズの材料は、液体が用いられることが多い。例えば、非特許文献1に記載された可変焦点レンズは、ガラス板に挟まれた空間に、シリコンオイルなどの液体を封入した構造を有している。ガラス板は、薄く加工されており、外部からチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)ピエゾアクチュエータによって、ガラス板に圧力をかけることにより、オイルとガラス板全体で構成されるレンズを変形させ、焦点位置を制御する。この可変焦点レンズの動作原理は、眼球の水晶体と同じである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−64817号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】金子卓他、「可変焦点レンズを用いた長焦点深度視覚機構」、デンソーテクニカルレビュー、Vol.3, No.1, p.52−58, 1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の可変焦点レンズは、機械的に焦点距離を調整する可変焦点レンズ、液晶に電界をかけて屈折率を制御する可変焦点レンズ、PZTピエゾアクチュエータによりレンズを変形させる可変焦点レンズのいずれも、焦点距離を変更するのに要する応答速度に限界があり、1ms以下の高速応答に適用することができないという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、焦点距離の変更を高速に行うことができる可変焦点レンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、可変焦点レンズにおいて、反転対称性を有する電気光学材料1と、該電気光学材料1の光の入射面および出射面に垂直な向かい合った2つの平行の面の各々の面に形成された入射面側電極2a、2bと出射面側電極3a、3bとを備え、前記光を前記入射面から入射し、前記出射面から出射するように光軸が設定され、前記入射面側電極2aの辺のうち前記出射面側電極3aの辺と対向する辺10、20は互いに平行に配置され、前記入射面側電極2aの辺のうち前記出射面側電極3aの辺と対向する前記辺10,20と、前記電気光学材料1を挟んで対向する面上に形成された前記入射面側電極2bの辺のうち前記出射面側電極3bの辺と対向する辺30,40は、各々、平行に配置され、前記入射面側電極2a、2bと前記出射面側電極3a、3bとの間に形成された電界が、前記光軸を中心に前記光が透過する部分において変化させられ、前記入射面側電極2a、2bと前記出射面側電極3a、3bとの間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料1を透過した光の焦点が可変であることを特徴とする。
【0010】
前記電気光学材料1は、ペロブスカイト型単結晶材料が好適であり、前記電気光学材料1は、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTa1-xNbx3)を用いることができる。また、前記電気光学材料1は、結晶の主成分が、周期律表Ia族とVa族から構成されており、Ia族はカリウムであり、Va族はニオブ、タンタルの少なくとも1つを含むことができ、さらに、添加不純物としてカリウムを除く周期律表Ia族、またはIIa族の1または複数種を含むこともできる。
【0011】
前記電極は、前記電気光学材料1とショットキー接合が形成される材料であることが好ましい。また、前記入射面側電極2aの辺のうち前記出射面側電極3aの辺と対向する前記辺10,20と、前記電気光学材料1を挟んで対向する面上に形成された前記入射面側電極2bの辺のうち前記出射面側電極3bの辺と対向する前記辺30,40は、各々、前記光軸方向において一致した位置に配置されることができる。
【0012】
また、前記入射面側電極2aと前記出射面側電極3aとの間に溝を形成し、前記電気光学材料1を挟んで対向する面上に形成された前記入射面側電極2bと前記出射面側電極3bとの間に溝を形成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電気光学材料の光の入射面および出射面に垂直な2つの向かい合った平行の面の各々の面に形成された入射面側電極と出射面側電極との間に形成された電界が、光軸を中心に光が透過する部分において変化させられ、電極間の印加電圧を変えることにより、電気光学材料を透過した光の焦点を変化させることができる。電気光学効果は高速な応答が可能であるため、この可変焦点レンズでは、1μsをきる高速応答が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態にかかる可変焦点レンズの構成を示す図である。
【図2】実施形態にかかる可変焦点レンズの原理を説明するための図である。
【図3】可変焦点レンズの基板内部における電界成分と屈折率の分布とを示す図である。
【図4】実施例1にかかる可変焦点レンズの構成を示す図である。
【図5】実施例2にかかる可変焦点レンズの構成を示す図である。
【図6】実施例3にかかる可変焦点レンズの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。本実施形態の可変焦点レンズは、電気光学材料と、これに取付けた電極から構成される。電気光学効果を利用することにより、従来の可変焦点レンズと比較して、はるかに高速な応答速度を得ることができる。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態にかかる可変焦点レンズの構成を示す。図1(a)は、本発明の一実施形態にかかる可変焦点レンズの正面図、図1(b)は、本発明の一実施形態にかかる可変焦点レンズの立体図を示す。図1(a)を参照すると、電気光学材料を板状に加工した基板1の上面(光の入射面)および下面(光の出射面)に垂直な側面に、入射面側電極2aと出射面側電極3aが形成されている。入射面側電極2aと出射面側電極3aが形成された側面と対向する側面に、入射面側電極2bと出射面側電極3bが形成されている。以下、図を参照して、入射面側電極2aと出射面側電極3aが形成された側面を左側面、入射面側電極2bと出射面側電極3bが形成された側面を右側面と呼ぶ。ここで、左側面と右側面は、互いに平行である。入射面側電極2aと入射面側電極2bは等しい電位とし、出射面側電極3aと出射面側電極3bも等しい電位とする。光は、同電位の電極対の間を通過するように、y軸方向に光軸を設定する。入射面側電極2aの辺のうち出射面側電極3aの辺と対向する辺10,20は互いにz軸に平行となるように形成されている。ここで、電極の辺とは、電極の周囲を囲う辺を示すものとする。図1(b)を参照すると、入射面側電極2bと出射面側電極3bも同じ構成であり、その対向する辺30,40の位置は、y軸方向において入射面側電極2aの辺のうち出射面側電極3aの辺と対向する辺10,20と一致、すなわち、基板1を挟んで一致している。電圧を入射面側電極2aから出射面側電極3aへ、またはその逆に印加することができる。同様に、電圧を入射面側電極2bから出射面側電極3bへ、またはその逆に印加することができる。
【0017】
電気光学材料は、反転対称性を有する酸化物単結晶材料が好適である。反転対称性については、詳しくは後述する。電極についても詳しくは後述する。
【0018】
図2を参照して、本実施形態にかかる可変焦点レンズの原理を説明する。図1に示した可変焦点レンズにおいて、入射面側電極2aと入射面側電極2bに正の電圧、出射面側電極3aと出射面側電極3bに負の電圧をかける。このとき、電界は、入射面側電極2aから出射面側電極3aへ向かうように生じる。また、電界は、入射面側電極2bから出射面側電極3bへ向かうように生じる。電界は、入射面側電極2aと出射面側電極3aとの間及び入射面側電極2bと出射面側電極3bとの間だけでなく、その周囲にも発生し、光が透過する部分にも発生する。図2に示す矢印は、電気力線の一例である。光が透過する部分において電界は空間依存性を有するため、電気光学材料である基板1には、電気光学効果が発生し、光が透過する部分の屈折率が変調される。
【0019】
光が透過する部分の電界分布と屈折率変調について説明する。電気光学材料は、一般的に比誘電率が1より十分に大きい。このため、基板1の内部の電界の電気力線は、表面付近では、基板表面に対して平行に近くなる。入射面側電極2aから右方向に進む電気力線は、基板1の上面にほぼ平行に進む。入射面側電極2bから左方向に進む電気力線も、基板1の上面にほぼ平行に進む。この2つの電気力線は、左側面と右側面との中央でぶつかるので、そこから大きく向きを変え、y軸方向に進む。そして、この2つの電気力線は、その後、下面に達し、大きく向きを変えて、互いに反対方向に進み、それぞれ出射面側電極3a,3bまで進む。このように、基板1の内部で、表面付近を進む電気力線は、同電位の電極対の間の空隙において急激に屈曲するので、この屈曲部分では電界が大きく変化する。すなわち、光軸を中心に、光が透過する部分で電界が変化して、屈折率が変調される。
【0020】
図3は、基板内部における電界成分と屈折率の分布とを示す。図3(a)は、図2に示した位置y=y0における電界成分Exのx軸方向の分布を示す。横軸は、同電位の電極対の間にある光が透過する部分のx軸方向の位置を表している。左側面と右側面との中央部を境に、左側と右側とでは電気力線の向きが180度異なるため、このような分布となる。図3(b)は、同じく位置y=y0における電界成分Eyのx軸方向の分布を示す。電界成分Eyは、符号は変わらないが、その絶対値は中央部で小さく、電極に近づくほど大きくなる。このような電界分布により、x軸方向に、屈折率が変調される。
【0021】
図3(c)は、電気光学材料としてタンタル酸ニオブ酸カリウム(KTa1-xNbx3、以下、KTNという)を用いて、光電界の向きがz方向の光を入射したときの屈折率変調を示す。基板1の中央部付近、すなわち光軸付近は、中央部からx軸方向に離れて、電極対に近い部分よりも屈折率が低いため、光は高速で進行し、中央部から電極対に近い部分ほど、光の速度は遅くなる。このため、基板1を透過した光の波面は、中央部付近よりも電極対に近い部分で遅れた形となり、凹レンズとして機能する。光が透過する部分をレンズとして考えると、集光または発散の効果の強いレンズを実現することができる。図1および図2の構成では、x軸方向にのみ集光または発散が起こり、z方向での集散は起こらないので、一般的な球面レンズではなく、いわゆるシリンドリカルレンズとして機能する。
【0022】
図1および図2の構成の可変焦点レンズをもう一組用意し、光が透過する部分の光軸を一致させて配置する。光軸に関して一方の可変焦点レンズが他方の可変焦点レンズに対して90度回転するように2つの可変焦点レンズを配置して、2方向で集光または発散を行うことにより、球面レンズと等価な機能を実現することができる。
【0023】
(電気光学材料)
電気光学効果には、いくつかの次数の異なる電気光学効果が含まれるが、一般的には、1次の電気光学効果(以下、ポッケルス効果という)と2次の電気光学効果(以下、カー効果という)が利用されている。しかし、電気光学効果の中でも、電界の自乗に比例した屈折率変調が起こる、2次の電気光学効果(カー効果)を有する材料が好適である。カー効果の場合は、図3に示したように、屈折率分布Δnは電界成分Exの符号に依存しないので、レンズとして好適な左右対称形になるからである。一方、ポッケルス効果の場合は、屈折率変調は電界の1乗に比例し、電界成分Exによる屈折率変化は左右対称とならないため、レンズとしてうまく機能しない。
【0024】
また、反転対称性を有する単結晶とは、原子の配列を、ある原点を中心としてx,y,z座標系で反転したとき、元の原子の配列と完全に同じ配列となる結晶をいう。なお、自発分極を有する材料を、座標軸上で反転すると、自発分極の向きが反転するので、このような結晶材料は反転対称性を有していない。一方、反転対称性を有する単結晶は、ポッケルス効果を有さず、カー効果が最低次の電気光学効果となる。従って、電気光学効果を有する結晶材料の中でも、反転対称性を有する単結晶が望ましい。
【0025】
結晶内部の電界の大きさは、電極に印加する電圧に比例する。また、屈折率変調は電界の自乗に比例するため、結局、屈折率変調の大きさは電圧の自乗に比例する。これにより、凹レンズの焦点距離は電圧によって制御できる。また、ここでは凹レンズとして機能すると説明したが、電気光学係数の符号は材料や光偏光によって異なるので、凸レンズを実現することもできる。
【0026】
電気光学材料は、ペロブスカイト型の結晶構造を有する単結晶材料が好適である。ペロブスカイト型単結晶材料は、使用温度を適切に選択すれば、使用状態において反転対称性を有する立方晶相となり、この立方晶相にてポッケルス効果を有さないためである。例えば、最もよく知られたチタン酸バリウム(BaTiO3、以下BTという)でも、120℃付近において正方晶相から立方晶相へ相転移する温度(以下、相転移温度という)を超えた温度であれば、立方晶相となり、カー効果を発現する。
【0027】
さらに、KTNを主成分とする単結晶材料は、より好適な特徴を有する。BTは相転移温度が決まっているのに対し、KTNは、タンタルとニオブの組成比により、相転移温度を選択することができる。これにより、室温付近に相転移温度を設定することができる。KTNは、相転移温度よりも高い温度であれば立方晶相となり、反転対称性を有し、大きなカー効果を有する。同じ立方晶相にあっても、より相転移温度に近い方が、カー効果が圧倒的に大きくなる。このため、室温付近に相転移温度を設定することは、大きなカー効果を簡便に実現する上で、非常に重要である。
【0028】
反転対称性を有する単結晶材料として、結晶の主成分が、周期律表Ia族とVa族から構成されており、Ia族はカリウムであり、Va族はニオブ、タンタルの少なくとも1つを含む材料を用いることができる。さらに、反転対称性を有する単結晶材料は、添加不純物としてカリウムを除く周期律表Ia族、またはIIa族の1または複数種を含むこともできる。例えば、大きなカー効果を有する立方晶相のKLTN(K1-yLiyTa1-xNbx3、0<x<1、0<y<1)結晶を用いることもできる。
【0029】
KTNにおいて、使用温度を相転移温度に近づけると、誘電率が急激に高くなるため、電気光学効果が大きくなる。例えば、KTNの比誘電率が10,000を超え、KTN基板に印加する電圧が500Vを超えると、焦点距離が1m以下となり、実用上有効な特性が得られる。
【0030】
なお、KTNは、他の電気光学結晶と同様に、印加電界の向きと光電界の向きとの関係により、屈折率変調が変わる。図2の構成において、偏光は、光電界の向きがx軸方向の場合と、z軸方向の場合の2種類がある。それぞれの場合に、光が感じる屈折率変調ΔnxとΔnzとは、
【0031】
【数1】

【0032】
となって異なる。ここで、n0は変調前の屈折率である。
【0033】
また、s11とs12は電気光学係数であるが、s11は正なのに対し、s12は負の値を持ち、絶対値はs11の方が大きい。この特徴のため、光電界の向きがx方向の場合は凸レンズ、z方向の場合は凹レンズと、入射光の偏光状態によって機能が全く変わる。
【0034】
レンズの特性は、基板1を透過することによって光が受ける光路長変調によって表される。光路長変調Δsとは、電気光学材料を透過する間の経路にわたって、屈折率変調Δnを積分したものである。屈折率変調はxとyとの関数であるため、これをΔn(x,y)とする。屈折率変調Δnはzには依存しない。本実施形態にかかる可変焦点レンズは、y軸方向に光が伝搬するので、光路長変調Δsは、
【0035】
【数2】

【0036】
となり、yには依存せずxのみの関数となる。すなわち、光を集散させるx軸方向でのみ変化し、z軸方向には変化しない。
【0037】
(電極材料)
電気光学材料に高い電圧を印加すると、電極から電荷が注入され、結晶内に空間電荷が発生しうる。この空間電荷により電圧の印加方向に電界の傾斜が生じるために、屈折率の変調にも傾斜が生じる。
【0038】
従って、電気光学材料をレンズとして機能させるための所望の屈折率分布が得られなかったり、電気光学材料を透過する光が偏向しないようにするためには、基板1に電圧を印加した際に、基板1の内部に空間電荷が形成されない方がよい。空間電荷の量は、キャリアの注入効率に依存する量であるため、電極から注入されるキャリアの注入効率は小さい方がよい。電極材料の仕事関数が大きくなるにつれて、電極と基板との間はショットキー接合に近づき、キャリアの注入効率は減少する。電気光学結晶において電気伝導に寄与するキャリアが電子の場合には、電極材料の仕事関数は、5.0eV以上であることが好ましい。例えば、仕事関数が5.0eV以上の電極材料として、Co(5.0)、Ge(5.0)、Au(5.1)、Pd(5.12)、Ni(5.15)、Ir(5.27)、Pt(5.65)、Se(5.9)を用いることができる。()内は仕事関数(eV)を示す。
【0039】
一方、電気光学結晶において電気伝導に寄与するキャリアが正孔の場合には、正孔の注入を抑えるために、電極材料の仕事関数は、5.0eV未満であることが好ましい。例えば、仕事関数が5.0eV以上の電極材料として、Ti(3.84)等を用いることができる。なお、Tiの単層電極は酸化して高抵抗になるので、一般的には、Ti/Pt/Auを積層した電極を用いて、Tiの層と電気光学結晶とを接合させる。さらに、ITO(Indium Tin Oxide)、ZnOなどの透明電極を用いることもできる。
【0040】
(実施例1)
図4は、実施例1にかかる可変焦点レンズの構成を示す。図4(a)は正面図、図4(b)は立体図である。基板1は、KTN単結晶から、ブロックを切り出し、6mm×6mm×6mmの形状に成形した。基板1の6面とも、結晶の(100)面に平行とし、光学研磨を行っている。図4の電気光学材料の基板1の左側面に、入射面側電極2aと出射面側電極3aが形成されている。同様に右側面に、入射面側電極2bと出射面側電極3bが形成されている。このKTN単結晶は、相転移温度35℃であったので、これを少し上回る40℃で使用することとした。この温度での比誘電率は20,000である。
【0041】
入射面側電極2a、出射面側電極3a、入射面側電極2b、出射面側電極3bのそれぞれは、0.6mm×5mmの方形で、白金(Pt)を蒸着して厚さ約2000Åで形成されている。そして、入射面側電極2aと出射面側電極3aの間隔は4mmである。同様に、入射面側電極2bと出射面側電極3bの間隔は4mmである。
【0042】
実施例1の可変焦点レンズを、40℃で温度制御した状態で、コリメートしたレーザ光を、上面より入射する。光の偏光は直線で、振動電界の方向はz軸方向である。入射面側電極2aと出射面側電極3aとの間に500Vの電圧を印加し、同様に、入射面側電極2bと出射面側電極3bとの間に500Vの電圧を印加すると、下面から出射する光は、x軸方向に広がり、シリンドリカル凹レンズとして機能する。焦点距離は25cmである。ここで、印加電圧を250Vにすると、広がりは小さくなり、焦点距離は約1mになる。すなわち、印加電圧により、焦点距離を変化させることができる。焦点距離の変更は、印加電圧を変更するだけなので、応答時間は1μs以下であり、従来の可変焦点レンズの応答時間と比較して、3桁以上改善されている。
【0043】
また、光の進行方向はそのままに、偏光を90度回転させて測定を行う。つまり、光の振動電界の方向をx軸方向とする。この場合は、凸レンズとして機能する。印加電圧が500Vのとき、焦点距離は19cmであり、印加電圧によって焦点距離を変化させることができる。
【0044】
上記実施例1においては、入射面側電極2aの辺のうち出射面側電極3aの辺に対向する辺10,20と、入射面側電極2bの辺のうち出射面側電極3bの辺に対向する辺30,40は、基板1を挟んでy軸方向において一致しているが、完全に一致している必要はなく、互いに平行であればよい。
【0045】
(実施例2)
図5は、実施例2にかかる可変焦点レンズの構成を示す。実施例1と同様の構成で左側面および右側面の電極間に溝を形成した。溝の形状としては深さ0.5mm、幅1mm〜2mm、長さ5mmとした。溝を形成することで、電界分布が変化し、レンズ性能が改善した。
【0046】
(実施例3)
図6は、実施例3にかかる可変焦点レンズの構成を示す。この実施例では、実施例1の構成の可変焦点レンズをもう一組用意し、光が透過する部分の光軸を一致させて配置する。光軸に関して一方の可変焦点レンズが他方の可変焦点レンズに対して90度回転するように2つの可変焦点レンズを配置する。実施例1と同様に、コリメートしたレーザ光を、上面より入射する。2方向で集光または発散を行うことにより、球面レンズと等価な機能を実現することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 基板
2a 入射面側電極
2b 入射面側電極
3a 出射面側電極
3b 出射面側電極
10 出射面側電極3aと対向する辺
20 入射面側電極2aと対向する辺
30 出射面側電極3bと対向する辺
40 入射面側電極2bと対向する辺

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反転対称性を有する電気光学材料と、該電気光学材料の光の入射面および出射面に垂直な向かい合った2つの平行の面の各々の面に形成された入射面側電極と出射面側電極とを備え、
前記光を前記入射面から入射し、前記出射面から出射するように光軸が設定され、
前記入射面側電極の辺のうち前記出射面側電極の辺と対向する辺は互いに平行に配置され、
前記入射面側電極の辺のうち前記出射面側電極の辺と対向する前記辺と、前記電気光学材料を挟んで対向する面上に形成された前記入射面側電極の辺のうち前記出射面側電極の辺と対向する辺は、各々、平行に配置され、
前記入射面側電極と前記出射面側電極との間に形成された電界が、前記光軸を中心に前記光が透過する部分において変化させられ、
前記入射面側電極と前記出射面側電極との間の印加電圧を変えることにより、前記電気光学材料を透過した光の焦点が可変であることを特徴とする可変焦点レンズ。
【請求項2】
前記電気光学材料は、ペロブスカイト型単結晶材料であることを特徴とする請求項1に記載の可変焦点レンズ。
【請求項3】
前記電気光学材料は、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTa1−xNb)であることを特徴とする請求項2に記載の可変焦点レンズ。
【請求項4】
前記電気光学材料は、結晶の主成分が、周期律表Ia族とVa族から構成されており、Ia族はカリウムであり、Va族はニオブ、タンタルの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項2に記載の可変焦点レンズ。
【請求項5】
前記電気光学材料は、さらに、添加不純物としてカリウムを除く周期律表Ia族、またはIIa族の1または複数種を含むことを特徴とする請求項4に記載の可変焦点レンズ。
【請求項6】
前記電極は、前記電気光学材料とショットキー接合が形成される材料であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の可変焦点レンズ。
【請求項7】
前記入射面側電極の辺のうち前記出射面側電極の辺と対向する前記辺と、前記電気光学材料を挟んで対向する面上に形成された前記入射面側電極の辺のうち前記出射面側電極の辺と対向する前記辺は、各々、前記光軸方向において一致した位置に配置されていることを特徴とする請求項6に記載の可変焦点レンズ。
【請求項8】
前記入射面側電極と前記出射面側電極との間に溝を形成し、前記電気光学材料を挟んで対向する面上に形成された前記入射面側電極と前記出射面側電極との間に溝を形成したことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の可変焦点レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−224045(P2010−224045A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68808(P2009−68808)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(000106221)サンクス株式会社 (578)
【出願人】(000102739)エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社 (265)
【Fターム(参考)】