説明

吸気量センサの劣化診断装置及び劣化診断方法

【課題】吸気量センサの劣化診断の精度を高めることにある。
【解決手段】車両のエンジン制御に使用される吸気量センサ(19)の経年劣化を補正するための吸気量センサの劣化診断装置(15)であって、吸気量センサの使用開始から所定の期間は、吸気量センサの出力特性の補正量算出を停止して、補正量算出で参照する理論空気量の学習を実行することを特徴とする、吸気量センサの劣化診断装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気量センサの劣化診断装置及び劣化診断方法、特に、車両のエンジン制御に使用される吸気量センサの劣化診断装置及び劣化診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ディーゼルエンジン等の内燃機関では、吸気通路に吸気量センサを設け、検出した吸気量を用いて排気ガス再循環(EGR)等の各種制御を行っている。この種の吸気量センサは、経年劣化により出力特性が大きく変化するため、随時、劣化診断を行い、出力特性を補正する必要がある。
吸気量センサの劣化診断方法の一例が、例えば特許文献1に記載されている。この劣化診断方法では、排気ガスの再循環を停止し、複数の測定点にて過給圧とエンジン回転数から吸気量を算出し、各測定点における算出値に基づいてセンサ出力電圧と吸気量との関係についての新たな検定線を作成している。
しかしながら、上記従来の劣化診断方法では、吸気量センサの経年劣化分以外の各種バラツキ(新品時におけるセンサ個体間の特性のバラツキ、吸気圧センサ及び吸気温センサの出力特性のずれ、エンジン体積効率のずれ)も、吸気量センサ出力の補正量として算出してしまうため、算出値の精度が低く、吸気量センサの故障を誤って検出する誤診断の可能性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−270462号公報(段落0035、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、吸気量センサの劣化診断の精度を高めることにある。
また、本発明の目的は、吸気量センサの経年劣化による出力特性のずれを精度良く補正することが可能な吸気量センサの劣化診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、車両のエンジン制御に使用される吸気量センサ(19)の経年劣化を補正するための吸気量センサの劣化診断装置(15)であって、前記吸気量センサの使用開始から所定の期間は、前記吸気量センサの出力特性の補正量の算出を停止して、前記補正量算出で参照する理論空気量の学習を実行することを特徴とする。
ここで、前記所定の期間は、吸気量センサの新品時から経年劣化を起こす前までの所定の長さの期間であり、吸気量センサが新品の状態で車両に搭載される場合には、車両の走行距離と関連付けることができる。
この吸気量センサの劣化診断装置では、従来、吸気量センサの劣化診断で補正量を対象とする場合に、補正量に経年劣化以外の各種バラツキが含まれてしまい補正量算出精度が低く又は誤診断の可能性がある問題を、補正量算出で参照する理論空気量を吸気量センサが新品時の所定の期間に学習することにより解決することができる。つまり、吸気量センサが新品時の所定の期間での理論空気量の学習において、吸気量センサの経年劣化以外の各種バラツキを理論空気量の学習において吸収し、その後の吸気量センサ出力の補正量算出においては、吸気量センサの経年劣化に起因する出力特性のずれのみを補正量として算出することが可能である。吸気量センサの経年劣化分のみを補正量として算出することにより、補正量算出値の精度を向上させ、誤診断を防止することができる。
【0006】
本発明に係る吸気量センサの劣化診断装置において、前記理論空気量(m)を、吸気圧力(P)、吸気温度(T)及びエンジンの体積効率(η)に基づいて算出し、前記理論空気量の学習では、前記吸気量センサ(19)の出力値が前記理論空気量(m)と一致するように体積効率(η)を学習することが可能である。
この場合、所定の期間における理論空気量の学習において各種バラツキを体積効率(η)に吸収させ、学習期間終了後、学習された体積効率(η)を使用して吸気量センサの出力補正量の算出を行うことにより、吸気量センサの経年劣化に起因する補正量のみを算出することが可能である。
【0007】
本発明に係る吸気量センサの劣化診断装置において、前記吸気量センサの使用開始から所定の期間が経過した後は、前記吸気量センサの出力値(B)と、前記学習の結果得られる前記体積効率(η)を使用して算出される理論空気量(A)との差を補正量(Δ)として算出することが可能である。この補正量算出値を用いて、吸気量センサの劣化診断を精度良く行うことが可能であり、また、吸気量センサの出力補正を精度良く行うことが可能である。
【0008】
本発明に係る吸気量センサの劣化診断装置において、前記吸気量センサの使用開始から所定の期間において、前記車両の運転状態が安定している場合に、理論空気量の学習を実行することが可能である。車両の運転状態が安定している状態で理論空気量の学習を実行することにより、学習精度を高めることができる。
【0009】
本発明に係る吸気量センサの劣化診断装置において、前記吸気量センサの使用開始から所定の期間の経過後において、前記車両の運転状態が安定している場合に、前記吸気量センサの出力特性の補正量算出を実行することを特徴とする。車両の運転状態が安定している状態で吸気量センサの補正量算出を実行することにより、学習精度を高めることができる。
【0010】
本発明に係る吸気量センサの劣化診断装置において、少なくともエンジン回転数(Ne)及び吸気圧力(P)に基づいて前記車両の運転状態が安定しているか否かを判定することにより、簡易且つ精度良く車両の運転状態を判断することが可能である。
【0011】
本発明に係る吸気量センサの劣化診断装置において、前記所定の期間は、車両の走行距離(D)が所定の距離(D0)に到達するまでの期間とすることが可能である。例えば、通常慣らし運転状態とされる走行距離3000kmまでを前記所定の期間とすることが可能である。この場合、車両の走行距離に基づいて、吸気量センサが劣化前か否かを簡易に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る吸気量センサの劣化診断装置が適用されるエンジンシステムの概略図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る劣化診断処理を示すフローチャートである。
【図3】従来の吸気量センサの補正量算出方法の概念を説明する説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る吸気量センサの補正量算出方法の概念を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
(1)エンジンシステムの構成
図1は、本発明の一実施形態に係る吸気量センサの劣化診断装置が適用される車両のエンジンシステムの概略図を示す。ここでは、ディーゼルエンジン1を例に挙げて説明するが、本発明は、ガソリンエンジン等他の内燃機関にも適用可能である。
【0014】
このエンジンシステムでは、エアクリーナ3から導かれた吸気4が吸気管(吸気通路)5を通ってターボチャージャ2のコンプレッサ2aへと送られる。コンプレッサ2aで加圧された吸気4は、インタークーラ6へと送られて冷却された後、吸気マニホールド7に送られ、ディーゼルエンジン1の各気筒8(図1では直列6気筒の場合を例示している)に分配される。各気筒8での燃料の燃焼による排気ガス9は、排気マニホールド10を介してターボチャージャ2のタービン2bに送られ、タービン2bを駆動し、排気管11を介して車外へ排出される。
【0015】
また、排気マニホールド10における各気筒8の一端部と、吸気マニホールド7の入口付近において吸気管5の一端部との間がEGRパイプ12により接続されている。このEGRパイプ12の途中には、EGRクーラ13及びEGRバルブ14が介装されている。排気マニホールド10内の排気ガス9の一部は、EGRパイプ12に分流し、EGRクーラ13及びEGRバルブ14を介して吸気管5に再循環される。排気側から吸気側へ再循環された排気ガス9が、各気筒8内での燃料の燃焼を抑制して燃焼温度を下げ、これによりNOxの発生を低減するように構成している。EGRバルブ14は、エンジン制御コンピュータ(ECU:Electronic Control Unit)15からの開度指令信号14aにより運転状態に応じたEGR率を達成するべく開度制御される。
【0016】
また、吸気マニホールド7の入口付近の吸気管5には、吸気圧センサ16、吸気温センサ17及び吸気量センサ19が設置されている。吸気圧センサ16、吸気温センサ17及び吸気量センサ19は、それぞれ、吸気圧力信号16a、吸気温度信号17a、吸気量信号19aを出力し、これらの信号はECU15に入力される。また、ディーゼルエンジン1内のクランクシャフト付近には回転センサ18が設置されており、回転センサ18から回転数信号(Ne)がECU15に入力される。また、図示省略するが、車輪速センサ、水温センサ、外気温センサ、大気圧センサ等の各種センサからの信号が、ECU15に入力される。ECU15は、これらの各種センサからの信号に基づき各機器類へ制御指令を出力する。
【0017】
(2)診断処理フロー
次に、排気ガス再循環(EGR)等の各種制御に使用される吸気量センサ19の劣化診断について、図2のフローチャートを参照して説明する。本実施形態では、劣化診断装置として機能するECU15が、図2の劣化診断処理を実行する。
【0018】
エンジンが始動されると、ステップS11において、理論空気量学習期間か否かを判断する。具体的には、車両の走行距離Dが、所定走行距離D0以下であるか否かを判断する。所定の走行距離D0は、例えば、通常慣らし運転に必要とされる3000kmに設定する。車両の走行距離Dが所定走行距離D0以下である場合は、経年劣化以外の各種バラツキ(吸気量センサの新品時における個体間の特性のバラツキ、吸気圧センサ及び吸気温センサの出力特性のずれ、エンジン体積効率のずれ)を理論空気量に学習させるため、吸気量センサの補正量算出を実施せず、ステップS12に移行する。
【0019】
ステップS12では、理論空気量を学習可能か否か判断する。具体的には、エンジン回転数、車両速度、水温、外気温度、吸気温度、吸気圧力、大気圧力等のパラメータを確認し、車両の運転状態が安定しており理論空気量を学習可能か否か判断する。運転状態が安定していると判断する条件としては、例えば、エンジン回転数、車両速度、吸気圧力については、検出値の変動幅が所定の範囲内に収まっていることを条件とする。水温及び吸気温度については、所定の温度以上に到達したことを条件とする。外気温度については、例えば、25℃±5℃の範囲内にあることを条件とする。大気圧については、例えば、1気圧±5%の範囲内にあることを条件とする。なお、その他、各種パラメータに急激な変動がないことを適宜の方法で確認することによって運転状態が安定しているか否かを判断する条件としても良い。
【0020】
なお、エンジン回転数、車両速度、水温、外気温度、吸気温度、吸気圧力、大気圧力の全てを確認しても良いが、これらのパラメータのうち一部を確認して運転状態の安定を判断しても良い。特に、エンジン回転数および吸気圧力が運転状態の安定を判断するために重要であるので、少なくともエンジン回転数および吸気圧力に基づいて車両の運転状態が安定しているか否かを判定しても良い。また、エンジン回転数又は吸気圧力の1つに基づいて車両の運転状態を簡易に確認しても良い。
【0021】
ステップS12で車両の運転状態が理論空気量を学習可能な状態でないと判断すると、リターンしてステップS11から処理を再開する。
【0022】
ステップS12で車両の運転状態が理論空気量学習可能な状態であると判断すると、ステップS13に移行して、理論空気量の学習を実施する。具体的には、下記式(1)を使用して、吸気圧センサ16からの吸気圧力信号16aに基づく吸気圧力P[Pa]、エンジン1の排気量から決まる体積V[m]、気体定数R(287.5[J/(kg/h)])、吸気温センサ17からの吸気温度信号17aに基づく吸気温度T[K]から、理論空気量m[kg/h]を算出する。
m=P・V・η/(RT)・・・・・・・・・・・(1)
【0023】
そして、下記式(2)に示すように、式(1)で算出した理論空気量m[kg/h]が、吸気量センサ19の出力値(吸気流量)[kg/h]と一致するように、体積効率ηを学習する。
m=P・V・η/(RT)=(吸気量センサ19の出力値)・・・・・(2)
【0024】
つまり、式(2)を変形した下記式(3)を用いて体積効率ηを学習する。これにより、経年劣化以外の吸気量センサの出力特性に変動を与える各種バラツキを体積効率ηに学習(吸収)させることができる。
η=(吸気量センサ19の出力値)・RT/(PV)・・・・・・・・(3)
なお、体積効率ηは、エンジン回転数及び燃料噴射量のマトリクスに対して予め実験により初期値が測定され、予めメモリに記憶されている。ステップS13の理論空気量の学習では、体積効率ηの初期値を各種バラツキによる変動分を加味した値に修正し、修正した値をメモリに記憶させる。
【0025】
ステップS13において理論空気量の学習(体積効率ηの学習)が完了するとリターンして、ステップS11から処理を再開する。
【0026】
ステップS11において、車両の走行距離Dが所定走行距離D0を超えている場合には、理論空気量の学習期間ではないため、ステップS14に移行する。
【0027】
ステップS14では、車両の運転状態が、吸気量センサの補正量算出が可能な状態か否かを判断する。この判断は、ステップS12と同様に、エンジン回転数、車両速度、水温、外気温度、吸気温度、吸気圧力、大気圧力等のパラメータを確認し、車両の運転状態が安定しており補正量算出が可能か否か判断する。
【0028】
ステップS14で車両の運転状態が、吸気量センサの出力特性の補正量算出可能な状態でないと判断すると、リターンして、ステップS11から処理を再開する。
【0029】
一方、ステップS14で車両の運転状態が、吸気量センサの出力特性の補正量算出可能な状態であると判断すると、ステップS15に移行する。ここでは、現在のエンジン回転数及び燃料噴射量に基づいて、理論空気量学習期間で学習した体積効率ηをメモリから読み出し、その体積効率η、並びに、吸気圧センサ16で検出する吸気圧力P、吸気温センサ17で検出する吸気温度Tを式(1)に適用して、理論空気量m[kg/h]を算出する。説明の都合上、この理論空気量mをAと表す。また、ステップS16において、吸気量センサ19の出力値(吸気流量[kg/h])Bを取り込む。そして、ステップS17において、理論空気量Aと吸気量センサ19の出力値Bとの差を今回の補正量Δとして、Δ=A−Bを算出する。
【0030】
次に、ステップS18において、初期状態からの補正量ΣΔと所定の閾値αとを比較し、ΣΔがαを超えている場合には、吸気量センサが故障している診断する(ステップS19)。ここで、初期状態からの補正量ΣΔは、今回算出した補正量Δまでのすべての補正量Δを合計した値ΣΔである。故障の有無の判断については、今回の補正量Δを基準とするのではなく、初期状態からの補正量の合計に基づいて行うことにより、正確な故障診断を行うことができる。
【0031】
一方、初期状態からの補正量ΣΔが所定の閾値αを超えていない場合には、ステップS20に移行して、今回の補正量Δを用いて吸気量センサ19の出力特性(図4の曲線I’、III’)の補正を実施する。この補正処理は、出力値Bの一点に対する補正量Δの算出値を用いて実施しても良いし、出力値Bの数ポイントに対して補正量Δを算出してから補正を実行しても良い。複数の出力値Bに対する補正量Δを用いて吸気量センサ19の出力特性の補正を行うことにより、補正精度を向上させることが可能である。
【0032】
なお、経年劣化による補正量Δは、1つの出力値Bについて算出すれば、出力値Bの全域にわたって補正量Δを求めることができることが分かっている。したがって、1つの出力値Bに対して補正量Δを算出すれば、出力値Bの全域にわたって吸気量センサ19の出力特性を補正することができる。また、複数の出力値Bに対して補正量Δを算出する場合には、例えば、エンジン回転数Ne=アイドル回転数、1500rpm、3000rpmである時点の出力値Bに対して補正量Δを算出し、これら3つの補正量Δを用いて出力値Bの全域わたって吸気量センサ19の出力特性の補正を行うことが好ましい。
【0033】
(3)診断方法の特徴
次に、図3及び図4を参照して、従来の吸気量センサの補正量算出方法と比較しつつ、本実施形態に係る吸気量センサの補正量算出方法の特徴を説明する。
図3は、従来の吸気量センサの補正量算出方法の概念を説明する説明図であり、図4は、本実施形態に係る吸気量センサの補正量算出方法の概念を説明する説明図である。各図において、横軸は吸気量センサの出力電圧[mV]そのものを示し、縦軸は各出力電圧に対応する吸気流量[kg/h]を示す。
【0034】
図3において、曲線Iは、新品時、すなわち未使用状態での吸気量センサの出力電圧と吸気流量との関係である出力特性を示す。曲線IIは、吸気量センサの経年劣化に起因する変動以外の各種バラツキ(吸気量センサの新品時における個体間の特性のバラツキ、吸気圧センサ及び吸気温センサの出力特性のずれ、エンジン体積効率のずれ)を考慮した出力特性を示す。曲線IIIは、上記各種バラツキと経年劣化分の両方を考慮した出力特性を示す。曲線IVは、曲線Iと曲線IIIの差に相当し、上記各種バラツキと経年劣化分の両方を補正するための補正量Δ0を示す。
【0035】
図4において、曲線I’は、新品時の吸気量センサの出力特性に、経年劣化に起因する変動以外の各種バラツキを考慮した出力特性である。曲線III’は、曲線I’に経年劣化に起因する変動を考慮した出力特性の曲線である。曲線IV’は、曲線I’と曲線III’の差に相当し、経年劣化分を補正するための補正量Δを示す。
【0036】
図3に示す従来の吸気量センサの補正方法では、経年劣化による出力特性の変動も経年劣化以外の各種バラツキによる出力特性の変動も区別せずに補正量Δ0として算出するため、精度が低く、吸気量センサの故障を誤診断する問題がある。
一方、図4に示す本実施形態による補正方法では、車両の走行距離が所定距離に到達するまで、つまり、経年劣化による影響が発生する前(理論空気量学習期間)において、経年劣化分以外の各種バラツキを理論空気量(体積効率η)に学習させる。その後、経年劣化に起因する変動のみを補正量Δ(曲線IV’)として算出する。経年劣化以外の各種バラツキに起因する変動を分離して、経年劣化に起因する変動のみを補正量Δ(曲線IV’)として算出するため、算出精度を向上させることができる。
【0037】
上記実施形態によれば、従来、吸気量センサの劣化診断で補正量を対象とする場合に、補正量に経年劣化分以外の各種バラツキが含まれてしまい補正量算出精度が低く又は誤診断の可能性がある問題を、補正量算出時に参照する理論空気量を新車時に学習することで解決することができる。つまり、吸気量センサが新品時の所定の期間において、吸気量センサの経年劣化分以外の各種バラツキを理論空気量が学習し、その後の吸気量センサ出力の補正量算出においては、吸気量センサの経年劣化分のみを補正量として算出することにより、補正量算出値の精度を向上させることができる。また、故障の有無の判断(図2のステップS18)では、経年劣化による変動分に対してのみ閾値αを設定すれば良いので、故障診断の精度を向上させ誤診断を防止することができる。
【0038】
また、上記実施形態では、理論空気量(m)を、吸気圧力(P)、吸気温度(T)及びエンジンの体積効率(η)に基づいて算出し、理論空気量の学習では、吸気量センサ(19)の出力値が理論空気量(m)と一致するように体積効率(η)を学習するので、簡易な演算で各種バラツキを理論空気量に学習させることができる。
【0039】
また、上記実施形態では、理論空気量学習期間が経過した後は、吸気量センサの出力値(B)と、学習した体積効率(η)で算出される理論空気量(A)との差を補正量(Δ)として算出し、この補正量算出値を用いて、吸気量センサの劣化診断を精度良く行うことが可能であり、また、吸気量センサの出力補正を精度良く行うことが可能である。
【0040】
なお、上記実施形態では、ターボチャージャを備えるエンジンシステムを例に挙げて説明したが、本発明は、ターボチャージャを備えないエンジンシステムにも適用可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 ディーゼルエンジン
2 ターボチャージャ
4 吸気
7 吸気マニホールド
8 気筒
9 排気ガス
10 排気マニホールド
11 排気管
12 EGRパイプ
13 EGRクーラ
14 EGRバルブ
15 エンジン制御コンピュータ(ECU)
16 吸気圧センサ
17 吸気温センサ
18 回転センサ
19 吸気量センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジン制御に使用される吸気量センサ(19)の経年劣化を補正するための吸気量センサの劣化診断装置(15)であって、
前記吸気量センサの使用開始から所定の期間は、前記吸気量センサの出力特性の補正量算出を停止して、前記補正量算出で参照する理論空気量の学習を実行することを特徴とする、吸気量センサの劣化診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の吸気量センサの劣化診断装置において、
前記理論空気量(m)は、吸気圧力(P)、吸気温度(T)及びエンジンの体積効率(η)に基づいて算出され、前記理論空気量の学習では、前記吸気量センサ(19)の出力値が前記理論空気量(m)と一致するように体積効率(η)を学習することを特徴とする、吸気量センサの劣化診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の吸気量センサの劣化診断装置において、
前記吸気量センサの使用開始から所定の期間が経過した後は、前記吸気量センサの出力値(B)と、前記理論空気量の学習の結果得られる前記体積効率(η)を使用して算出される理論空気量(A)との差を補正量(Δ)として算出することを特徴とする、吸気量センサの劣化診断装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の吸気量センサの劣化診断装置において、
前記吸気量センサの使用開始から所定の期間において、前記車両の運転状態が安定している場合に、理論空気量の学習を実行することを特徴とする、吸気量センサの劣化診断装置。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れかに記載の吸気量センサの劣化診断装置において、
前記吸気量センサの使用開始から前記所定の期間の経過後において、前記車両の運転状態が安定している場合に、前記吸気量センサの出力特性の補正量算出を実行することを特徴とする、吸気量センサの劣化診断装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の吸気量センサの劣化診断装置において、
少なくともエンジン回転数(Ne)及び吸気圧力(P)に基づいて前記車両の運転状態が安定しているか否かを判定することを特徴とする、吸気量センサの劣化診断装置。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の吸気量センサの劣化診断装置において、
前記所定の期間は、車両の走行距離(D)が所定の距離(D0)に到達するまでの期間であることを特徴とする、吸気量センサの劣化診断装置。
【請求項8】
車両のエンジン制御に使用される吸気量センサ(19)の経年劣化を補正するための吸気量センサの劣化診断方法であって、
前記吸気量センサの使用開始から所定の期間は、前記吸気量センサの出力特性の補正量算出を停止して、前記補正量算出で参照する理論空気量の学習を実行することを特徴とする、吸気量センサの劣化診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−236804(P2011−236804A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108518(P2010−108518)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】