説明

吸着保持具

【課題】ランニングコストの高騰を招くことなく各種対象物を吸着して保持する。
【解決手段】吸着パッド31a,31bを有する吸着部3および基部2を備え、基部2は、吸着保持具1を回動可能にアーム11に取り付けるためのボルト22を挟むように配置した両パッド31a,31bのボルト22に接近する接近方向およびボルト22から離間する離間方向への移動を許容しつつ両パッド31a,31bを取り付け可能に構成され、吸着部3は、連結用アーム41a,41b、およびアーム41a,41bを連結すると共に上記の接近方向および離間方向と交差する方向へのスライドが可能に基部2に取り付けられたボルト42を備えて、パッド31a(31b)を接近方向に移動させたときにパッド31b(31a)が接近方向に移動し、かつパッド31a(31b)を離間方向に移動させたときにパッド31b(31a)が離間方向に移動するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物を吸着して保持する吸着保持具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特開2001−77591号公報には、第1基板供給装置および第2基板供給装置を備えて、クリームはんだ印刷機等のプリント基板加工装置にプリント基板を供給可能に構成された供給システムが開示されている。
【0003】
この場合、第1基板供給装置は、基板収納部に積み重ねられた「電子部品等が未搭載の複数枚のプリント基板」のうちから最上部のプリント基板を吸着して第1搬送コンベア上に載置するための一対の吸着パッドと、載置されたプリント基板を第2基板供給装置に搬送する第1搬送コンベアとを備えて、基板収納部から第2基板供給装置にプリント基板を1枚ずつ供給することができるように構成されている。また、この第1基板供給装置では、第1昇降手段の支持アームに両吸着パッドが取り付けられており、第1昇降手段におけるボールねじの回動によって支持アームをガイド棒に沿って上昇させることにより、両吸着パッドによって吸着されているプリント基板を基板収納部から第1搬送コンベア上に移動させる構成が採用されている。
【0004】
一方、第2基板供給装置は、第1基板供給装置から供給されたプリント基板をプリント基板加工装置に搬送するための第2搬送コンベアを備えると共に、「電子部品等が搭載されたプリント基板」が収容されたマガジンラックを搭載可能な昇降テーブルと、昇降テーブルを昇降させる第2昇降手段と、マガジンラックからプリント基板加工装置に向けてプリント基板を押し出す押出手段とを備えて、プリント基板加工装置にプリント基板を1枚ずつ供給することができるように構成されている。このように、このプリント基板の供給システムによれば、第1基板供給装置および第2基板供給装置の2つの供給装置を備えたことにより、第1基板供給装置から供給された「電子部品等が未搭載のプリント基板」、およびマガジンラック内に収容された「電子部品等が搭載されたプリント基板」の両プリント基板をプリント基板加工装置に自動供給することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−77591号公報(第4−6頁、第1−2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記の供給システムにおける第1基板供給装置(基板を吸着保持して搬送する搬送機構:以下、単に「搬送機構」ともいう)には、以下の問題点が存在する。すなわち、従来の搬送機構では、プリント基板を吸着して保持するための一対の吸着パッドが第1昇降手段の支持アームに固定的に取り付けられている。この場合、この種の搬送機構の搬送対象であるプリント基板には、その形や大きさが相違する各種の基板が存在する。また、この種の搬送機構では、搬送中のプリント基板の揺動を回避するために、プリント基板における外縁部寄りの部位(一例として、プリント基板の対角寄りの部位)に両吸着パッドを当接させて吸着させる構成が採用されている。
【0007】
したがって、この種の搬送機構では、大きなプリント基板を搬送対象とする場合には、両吸着パッドを大きく離間させて配置すると共に、小さなプリント基板を搬送対象とする場合には、両吸着パッドを十分に接近させて配置する必要がある。また、電子部品が搭載された状態のプリント基板や、吸着の妨げとなる大きな孔が設けられたプリント基板を搬送対象とする場合には、電子部品や孔を避けてプリント基板に両吸着パッドを当接させるように両吸着パッドの相互間の距離を適宜変更する必要がある。したがって、支持アームに両吸着パッドが固定的に取り付けられている従来の搬送機構では、搬送対象の形および大きさや、電子部品の搭載位置および孔の形成位置などに応じて、両吸着パッドの相互間の距離が相違する複数種類の支持アームを製作する必要があり、これに起因して、ランニングコストが高騰しているという問題点がある。
【0008】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、ランニングコストの高騰を招くことなく、大きさや形状等が相違する各種の対象物を吸着して保持し得る吸着保持具を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく請求項1記載の吸着保持具は、一対の吸着パッドを有する吸着部と、当該吸着部が取り付けられると共に取付対象体に取り付けられる基部とを備えた吸着保持具であって、前記基部は、当該吸着保持具を回動可能に前記取付対象体に取り付けるための取付け用軸部と、当該吸着保持具の回動を規制する回動規制部とを備えると共に、前記取付け用軸部を挟むように配置した前記両吸着パッドの当該取付け用軸部に接近する接近方向および当該取付け用軸部から離間する離間方向への移動を許容しつつ当該両吸着パッドを取り付け可能に構成され、前記吸着部は、前記両吸着パッドの前記移動を規制する移動規制部と、前記両吸着パッドの一方に連結された第1アームと、前記両吸着パッドの他方に連結された第2アームと、前記第1アームおよび前記第2アームを相互に連結すると共に前記接近方向および前記離間方向と交差する方向へのスライドが可能に前記基部に取り付けられた連結用軸部とを備えて、前記移動規制部による前記両吸着パッドの移動の規制を解除した状態において前記一方の吸着パッドを前記取付け用軸部に接近する前記接近方向に移動させたときに前記他方の吸着パッドが当該取付け用軸部に接近する前記接近方向に移動し、かつ前記一方の吸着パッドを前記取付け用軸部から離間する前記離間方向に移動させたときに前記他方の吸着パッドが当該取付け用軸部から離間する前記離間方向に移動するように構成されている。
【0010】
また、請求項2記載の吸着保持具は、請求項1記載の吸着保持具において、前記基部には、前記両吸着パッドの相互間の距離、および前記取付け用軸部からの前記いずれかの吸着パッドの離間距離の少なくとも一方を示す距離表示部が設けられている。
【0011】
さらに、請求項3記載の吸着保持具は、請求項1または2記載の吸着保持具において、前記基部には、前記取付対象体に対する取付け基準状態からの当該吸着保持具の回動角度を示す角度表示が設けられている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の吸着保持具では、吸着保持具を回動可能に取付対象体に取り付けるための取付け用軸部と、吸着保持具の回動を規制する回動規制部とを備えて基部が構成されると共に、移動規制部による両吸着パッドの移動の規制を解除した状態において一方の吸着パッドを取付け用軸部に接近する接近方向に移動させたときに他方の吸着パッドが取付け用軸部に接近する接近方向に移動し、かつ一方の吸着パッドを取付け用軸部から離間する離間方向に移動させたときに他方の吸着パッドが取付け用軸部から離間する離間方向に移動するように吸着部が構成されている。
【0013】
したがって、請求項1記載の吸着保持具によれば、両吸着パッドの相互間の距離や、吸着保持具の回動角度を調整することで、大きさや形状等が相違する各種の対象物を吸着して保持することができる。これにより、吸着して保持すべき対象物の大きさや形等に応じて両吸着パッドの位置が相違する複数種類の吸着保持具を製作する必要がなくなるため、例えば、この吸着保持具を基板搬送装置に取り付けることにより、ランニングコストの高騰を招くことなく、各種の対象物を搬送することができる。
【0014】
また、請求項2記載の吸着保持具によれば、両吸着パッドの相互間の距離、および取付け用軸部からのいずれかの吸着パッドの離間距離の少なくとも一方を示す距離表示部を基部に設けたことにより、両吸着パッドの相互間の距離を容易に所望の距離に設定させることができる。
【0015】
さらに、請求項3記載の吸着保持具によれば、取付対象体に対する取付け基準状態からの吸着保持具の回動角度を示す角度表示を基部に設けたことにより、基準取付け状態からの吸着保持具の回動角度を容易に所望の角度に設定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】回路基板X2を吸着可能な状態に調整された吸着保持具1の平面図である。
【図2】図1におけるA−A線断面図である。
【図3】図1におけるB−B線断面図である。
【図4】回路基板X1を吸着可能な状態に調整された吸着保持具1の平面図である。
【図5】回路基板X3を吸着可能な状態に調整された吸着保持具1の平面図である。
【図6】吸着保持具1Aの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る吸着保持具の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0018】
図1〜3に示す吸着保持具1は、回路基板製造装置や回路基板検査装置など(図示せず)に回路基板X1〜X3等の各種回路基板(図1,4,5参照:以下、区別しないときには「回路基板X」ともいう)を搬送する基板搬送装置(図示せず)の固定用アーム11(「取付対象体」の一例)に取り付けられて、回路基板Xを吸着して保持することができるように構成されている。この吸着保持具1は、基部2および吸着部3を備えて構成されている。
【0019】
基部2は、ベース部本体21、ボルト22およびナット23を備えて構成されている。ベース部本体21は、吸着部3を取り付けるための基台として機能すると共に、基板搬送装置の固定用アーム11に吸着保持具1を取り付けるための取付け部材として機能する。このベース部本体21は、一例として、ポリアセタール樹脂等の各種エンジニアリングプラスチックや、ステンレススチールおよびアルミニウム等の各種金属材料によって、平面視方形の平板状に形成されている。また、ベース部本体21の中央部には、ボルト22(「取付け用軸部」の一例)を挿通可能な軸孔21a(図2,3参照)が設けられている。
【0020】
また、図1,2に示すように、ベース部本体21には、後述する吸着パッド31a,31bを取り付けるためのスリット25a,25bが設けられている。この場合、本例の吸着保持具1では、平面視において、軸孔21aに挿通させた状態のボルト22を挟むように両吸着パッド31a,31bが配置されている。また、上記の両スリット25a,25bは、ボルト22に接近する接近方向、およびボルト22から離間する離間方向への移動を許容しつつ両吸着パッド31a,31bを取り付けることができるように構成されている。さらに、図1,3に示すように、ベース部本体21には、吸着パッド31a,31bが接近する接近方向、および吸着パッド31a,31bが離間する離間方向と交差する方向(本例では、直交する方向)へのスライドが可能に、後述するボルト42を取り付けるためのスリット26が設けられている。
【0021】
ボルト22は、平面視における吸着保持具1の回動を許容しつつ固定用アーム11に吸着保持具1を取り付けるための軸部材であって、ナット23を締め付けることができるように、その先端部(図2,3における下端部)にねじ山が形成されている。この場合、この吸着保持具1では、図2,3に示すように、固定用アーム11に形成された軸孔および上記の軸孔21aを挿通させたボルト22にベース部本体21の裏面側からナット23を締め付けることにより、ボルト22およびナット23が「回動規制部」として機能して、ベース部本体21の回動が規制される構成が採用されている。
【0022】
吸着部3は、吸着パッド31a,31bおよびリンク部32を備えて構成されている。吸着パッド31a,31b(以下、区別しないときには「吸着パッド31」ともいう)は、図2,3に示すように、真空圧供給源(図示せず)に接続されたホース12を接続可能に構成されると共に、ホース12を介して真空圧が供給されることにより、回路基板X等を吸着して保持することができるように構成されている。
【0023】
また、図1〜3に示すように、リンク部32は、連結用アーム41a,41bおよびボルト42を備えて構成されている。連結用アーム41aは、「第1アーム」に相当し、一端部が吸着パッド31a(「一方の吸着パッド」に相当)に連結されると共に、他端部がボルト42を介して連結用アーム41bに連結されている。連結用アーム41bは、「第2アーム」に相当し、一端部が吸着パッド31b(「他方の吸着パッド」に相当)に連結されると共に、他端部がボルト42を介して連結用アーム41aに連結されている。
【0024】
ボルト42は、「連結用軸部」に相当し、両連結用アーム41a,41b(以下、区別しないときには「連結用アーム41」ともいう)の他端部に形成された軸孔に挿通させられることで両連結用アーム41を相互に連結すると共に、上記のスリット26に挿通させられることによってベース部本体21に取り付けられている。この場合、本例の吸着保持具1では、両連結用アーム41を連結した状態でスリット26に挿通させられたボルト42にベース部本体21の裏面側からナット43を締め付けることにより、ボルト42およびナット43が「移動規制部」として機能して、両連結用アーム41のベース部本体21上での移動が規制され、これにより、両吸着パッド31の移動が規制される構成が採用されている。
【0025】
また、本例の吸着保持具1では、両連結用アーム41の長さを互いに等しく規定すると共に、両吸着パッド31の移動方向(スリット25a,25bの延在方向)と直交し、かつ、ボルト22の中心を通過する仮想線に沿ってボルト42をスライドさせる構成が採用されている。これにより、本例の吸着保持具1では、後述するように、ボルト22(軸孔21a)からの吸着パッド31aの離間距離(ボルト22と吸着パッド31aとの間の距離)と、ボルト22(軸孔21a)から吸着パッド31bまでの離間距離(ボルト22と吸着パッド31bとの間の距離)とが互いに等しくなるように、両吸着パッド31の位置がリンク部32によって規制される。
【0026】
さらに、本例の吸着保持具1では、図1に示すように、スリット26の延在方向に沿って距離目盛りが刻まれて両吸着パッド31の相互間の距離(吸着パッド31aの平面視における中心と、吸着パッド31bの平面視における中心との間の距離)を示す距離表示28がベース部本体21の上面に設けられている。この場合、距離表示28は、スリット26の延在方向において両連結用アーム41のボルト22(軸孔21a)から最も離間する部位によって指し示される距離目盛りで両吸着パッド31の相互間の距離が示されるように設けられている。
【0027】
また、本例の吸着保持具1では、角度目盛りが刻まれてベース部本体21の回動角度を示す角度表示29がベース部本体21の上面に設けられている。この場合、基板搬送装置の固定用アーム11には、その長手方向に沿ってスリット11aが形成されると共に、スリット11aの幅方向における中心部を指し示す矢印が付されており、本例の吸着保持具1では、このスリット11aから角度表示29を視認することで、矢印によって指し示される角度目盛りで吸着保持具1の回動角度が示されるように設けられている。なお、本例の吸着保持具1では、一例として、スリット26の延在方向と固定用アーム11の延在方向とが平行となっている回動状態(本例では、一致している回動状態)を「取付け基準状態」に相当する「0度」とし、この取付け状態からの吸着保持具1の回動角度が指し示されるように角度表示29が設けられている。
【0028】
この吸着保持具1を備えた基板搬送装置によって回路基板Xを搬送する際には、搬送対象の回路基板Xの大きさや形に応じて、吸着保持具1における両吸着パッド31の離間距離、および取付け基準状態からの吸着保持具1の回動角度をそれぞれ調整する。なお、以下に説明する調整作業については、一例として、固定用アーム11に吸着保持具1を取り付けた状態のまま実施するが、固定用アーム11から吸着保持具1を取り外した状態において実施することもできる。
【0029】
具体的には、図4に示す回路基板X1のように、比較的小さな対象物を搬送する際には、両吸着パッド31を回路基板Xの大きさに応じて十分に接近させる。より具体的には、まず、ボルト42に締め付けられているナット43を緩めることによってスリット26内でのボルト42のスライドを許容する。この際には、ボルト42のスライドが許容されることによってベース部本体21上での両連結用アーム41の移動が許容され、結果として、吸着パッド31aがスリット25aに沿って移動可能な状態となり、かつ吸着パッド31bがスリット25bに沿って移動可能な状態となる(「移動規制部による両吸着パッドの移動の規制を解除した状態」の一例)。
【0030】
この場合、本例の吸着保持具1では、上記したように、両吸着パッド31がリンク部32によって相互に連結されている。このため、ナット43の締め付けによる両吸着パッド31の移動規制を解除した状態(ナット43を緩めた状態)において、吸着パッド31aをボルト22に接近する接近方向に移動させたときには、両連結用アーム41間の角度が小さくなるようにリンク部32が変形して吸着パッド31bをボルト22側に引き寄せる結果、吸着パッド31bがボルト22に接近する接近方向に移動させられる。同様にして、吸着パッド31bをボルト22に接近する接近方向に移動させたときには、両連結用アーム41間の角度が小さくなるようにリンク部32が変形して吸着パッド31aをボルト22側に引き寄せる結果、吸着パッド31aがボルト22に接近する接近方向に移動させられる。
【0031】
したがって、吸着パッド31a,31bの一方をボルト22に接近する接近方向に移動させることで、吸着パッド31a,31bの他方がボルト22に接近する接近方向に移動させられて、図4に示すように、両吸着パッド31a,31bの間の距離が十分に短い状態となる。この場合、前述したように、本例の吸着保持具1では、吸着パッド31a,31bの相互間の距離を示す距離表示28がベース部本体21の上面に設けられている。したがって、スリット26の延在方向において両連結用アーム41のボルト22(軸孔21a)から最も離間する部位によって指し示される距離表示28の距離目盛りを参照しながら吸着パッド31a,31bをスライドさせることにより、所望の距離だけ離間した位置に吸着パッド31a,31bを移動させることができる。なお、上記の作業方法に代えて、ボルト22から離間する離間方向にボルト42を移動させることで両吸着パッド31a,31bをリンク部32によってボルト22側に引き寄せてボルト22に接近する接近方向にそれぞれ移動させる作業方法を採用することもできる。
【0032】
この状態において、ボルト42にナット43を締め付けることによってスリット26内でのボルト42のスライドが規制されてベース部本体21上での両連結用アーム41の移動が規制され、結果として、吸着パッド31a,31bの移動が規制された状態となる。これにより、両吸着パッド31の位置調整作業が完了する。次いで、両吸着パッド31が回路基板Xにおける対角の近傍を吸着することができるように、取付け基準状態からの吸着保持具1の回動角度を調整する。なお、この例では、回路基板X1が正方形のため、吸着保持具1の回動角度を「0度」のままとする。以上により、調整作業が完了し、吸着保持具1によって回路基板X1を好適に吸着保持することができる状態となる。
【0033】
一方、図1に示す回路基板X2のように、比較的大きな対象物を搬送する際には、両吸着パッド31を回路基板Xの大きさに応じて十分に離間させる。より具体的には、まず、ボルト42に締め付けられているナット43を緩めることによってボルト42のスライドを許容して、両吸着パッド31の移動の規制を解除する。次いで、吸着パッド31a,31bの一方をボルト22から離間する離間方向に移動させることで、吸着パッド31a,31bの他方がボルト22から離間する離間方向に移動させられて、図1に示すように、両吸着パッド31a,31bの間の距離が十分に長い状態となる。この際には、スリット26の延在方向において両連結用アーム41のボルト22(軸孔21a)から最も離間する部位によって指し示される距離表示28の距離目盛りを参照しながら吸着パッド31a,31bをスライドさせることにより、所望の距離だけ離間した位置に吸着パッド31a,31bを移動させることができる。なお、上記の作業方法に代えて、ボルト22に接近する接近方向にボルト42を移動させることで両吸着パッド31a,31bをリンク部32によってボルト22から引き離してボルト22から離間する離間方向にそれぞれ移動させる作業方法を採用することもできる。
【0034】
この状態において、ボルト42にナット43を締め付けることによってスリット26内でのボルト42のスライドが規制されてベース部本体21上での吸着パッド31a,31bの移動が規制された状態となる。これにより、両吸着パッド31の位置調整作業が完了する。次いで、両吸着パッド31が回路基板Xにおける対角の近傍を吸着することができるように、取付け基準状態からの吸着保持具1の回動角度を調整する。なお、この例においても、回路基板X2が正方形のため、吸着保持具1の回動角度を「0度」のままとする。以上により、調整作業が完了し、吸着保持具1によって回路基板X2を好適に吸着保持することができる状態となる。
【0035】
また、図5に示す回路基板X3のように、平面視長方形の対象物を搬送する際には、上記の回路基板X1,X2の搬送(吸着保持)に際して実行した位置調整作業に加えて、両吸着パッド31が対象物における対角の近傍を吸着することができるように吸着保持具1の回動角度を調整する角度調整作業を実行する。なお、対象物の大きさに応じて両吸着パッド31の位置を調整する位置調整作業については、回路基板X1,X2の搬送(吸着保持)時における調整作業と同様のため、説明を省略する。一方、角度調整作業に際しては、まず、ボルト22に締め付けられているナット23を緩めることにより、吸着保持具1の回動を許容する(回動の規制を解除する)。
【0036】
次いで、両吸着パッド31が回路基板X3の対角線上に位置するように吸着保持具1を回動させる。この場合、前述したように、本例の吸着保持具1では、取付け基準状態からの吸着保持具1の回動角度を示す角度表示29がベース部本体21の上面に設けられている。したがって、固定用アーム11に形成されているスリット11aを介して角度表示29を視認しつつ、固定用アーム11に設けられた矢印によって指し示される角度目盛りを参照しながら吸着保持具1の回動角度を調整することで、吸着保持具1を所望の角度に回動させた状態とすることができる。この状態において、ボルト22にナット23を締め付けることによって吸着保持具1の回動が規制された状態となる。これにより、角度調整作業が完了し、両吸着パッド31によって長方形の回路基板X3における対角の近傍をそれぞれ好適に吸着保持することができる状態となる。
【0037】
このように、この吸着保持具1では、吸着保持具1を回動可能に取付対象体に取り付けるためのボルト22と、吸着保持具1の回動を規制する「回動規制部(本例では、ボルト22およびナット23)」とを備えて基部2が構成されると共に、「移動規制部(本例では、ボルト42およびナット43)」による両吸着パッド31a,31bの移動の規制を解除した状態において吸着パッド31a(31b)をボルト22に接近する接近方向に移動させたときに吸着パッド31b(31a)がボルト22に接近する接近方向に移動し、かつ吸着パッド31a(31b)をボルト22から離間する離間方向に移動させたときに吸着パッド31b(31a)がボルト22から離間する離間方向に移動するように吸着部が構成されている。
【0038】
したがって、この吸着保持具1によれば、両吸着パッド31a,31bの相互間の距離や、吸着保持具1の回動角度を調整することで、大きさや形状等が相違する各種の回路基板Xを吸着して保持することができる。これにより、吸着して保持すべき回路基板Xの大きさや形等に応じて「両吸着パッド」の位置が相違する複数種類の「吸着保持具」を製作する必要がなくなるため、この吸着保持具1を基板搬送装置(固定用アーム11)に取り付けることにより、ランニングコストの高騰を招くことなく、各種の回路基板Xを搬送することができる。
【0039】
また、この吸着保持具1によれば、両吸着パッド31a,31bの相互間の距離を示す距離表示28(本例では、スリット26の延在方向において両連結用アーム41のボルト22から最も離間する部位によって指し示される距離目盛り)を基部2に設けたことにより、両吸着パッド31の相互間の距離を容易に所望の距離に設定させることができる。
【0040】
さらに、この吸着保持具1によれば、搬送機構の固定用アーム11に対する取付け基準状態からの吸着保持具1の回動角度を示す角度表示29(本例では、固定用アーム11に付された矢印によって指し示される角度目盛り)を基部2に設けたことにより、基準取付け状態からの吸着保持具1の回動角度を容易に所望の角度に設定させることができる。
【0041】
なお、「吸着保持具」の構成は、上記した吸着保持具1の構成に限定されない。例えば、スリット26の延在方向において両連結用アーム41のボルト22(軸孔21a)から最も離間する部位によって指し示される距離目盛りによって、吸着パッド31a,31bの相互間の距離が示される距離表示28に代えて、図6に示す吸着保持具1Aのように、両吸着パッド31の平面視における中心によって指し示される距離目盛りによって、吸着パッド31a,31bの相互間の距離が示すされる距離表示28aをベース部本体21に設けることもできる。なお、吸着保持具1Aでは、吸着パッド31aの位置に基づいて両吸着パッド31の相互間の距離を示す距離表示28aと、吸着パッド31bの位置に基づいて両吸着パッド31の相互間の距離を示す距離表示28aとを設けているが、「距離表示」としては、2つの距離表示28aのいずれか一方だけ設けてもよい。このような構成を採用した場合においても、上記の吸着保持具1と同様の効果を奏することができる。
【0042】
また、両吸着パッド31の相互間の距離を示す距離表示28,28aに代えて、(または、距離表示28,28aに加えて)、ボルト22からのいずれか一方の吸着パッド31の離間距離(ボルト22と吸着パッド31との間の距離)を示す「距離表示」(図示せず)をベース部本体21に設けることもできる。このような構成を採用した場合においても、上記の吸着保持具1と同様の効果を奏することができる。さらに、「角度表示」に関しては、固定用アーム11のスリット11aから視認可能に設けた上記の角度表示29に限定されず、一例として、固定用アーム11の幅方向の端部によって指し示される角度目盛りを設け、その角度目盛りで取付け基準状態からの吸着保持具1の回動角度を認識できるように構成することもできる(図示せず)。
【0043】
また、ベース部本体21にスリット25a,25bを設けて吸着パッド31a,31bを取り付ける構成を例に挙げて説明したが、例えば、板体の下面に設けた案内レールに吸着パッド31a,31bを取り付けることで、案内レールの案内に従って吸着パッド31a,31bを移動させる構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0044】
1,1A 吸着保持具
2 基部
3 吸着部
11 固定用アーム
12 ホース
21 ベース部本体
21a 軸孔
22,42 ボルト
23,43 ナット
25a,25b,26 スリット
28,28a 距離表示
29 角度表示
31a,31b 吸着パッド
32 リンク部
41a,41b 連結用アーム
X1〜X3 回路基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の吸着パッドを有する吸着部と、当該吸着部が取り付けられると共に取付対象体に取り付けられる基部とを備えた吸着保持具であって、
前記基部は、当該吸着保持具を回動可能に前記取付対象体に取り付けるための取付け用軸部と、当該吸着保持具の回動を規制する回動規制部とを備えると共に、前記取付け用軸部を挟むように配置した前記両吸着パッドの当該取付け用軸部に接近する接近方向および当該取付け用軸部から離間する離間方向への移動を許容しつつ当該両吸着パッドを取り付け可能に構成され、
前記吸着部は、前記両吸着パッドの前記移動を規制する移動規制部と、前記両吸着パッドの一方に連結された第1アームと、前記両吸着パッドの他方に連結された第2アームと、前記第1アームおよび前記第2アームを相互に連結すると共に前記接近方向および前記離間方向と交差する方向へのスライドが可能に前記基部に取り付けられた連結用軸部とを備えて、前記移動規制部による前記両吸着パッドの移動の規制を解除した状態において前記一方の吸着パッドを前記取付け用軸部に接近する前記接近方向に移動させたときに前記他方の吸着パッドが当該取付け用軸部に接近する前記接近方向に移動し、かつ前記一方の吸着パッドを前記取付け用軸部から離間する前記離間方向に移動させたときに前記他方の吸着パッドが当該取付け用軸部から離間する前記離間方向に移動するように構成されている吸着保持具。
【請求項2】
前記基部には、前記両吸着パッドの相互間の距離、および前記取付け用軸部からの前記いずれかの吸着パッドの離間距離の少なくとも一方を示す距離表示部が設けられている請求項1記載の吸着保持具。
【請求項3】
前記基部には、前記取付対象体に対する取付け基準状態からの当該吸着保持具の回動角度を示す角度表示が設けられている請求項1または2記載の吸着保持具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−94931(P2013−94931A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242286(P2011−242286)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】