説明

周波数測定装置及び検査システム

【課題】簡易な構成でありながら高速・高分解能な測定が可能な周波数測定装置及び検査システムを提供すること。
【解決手段】周波数測定装置2は、周波数変換部10、第1のフィルター部20、ミキサー30、第2のフィルター部40、周波数測定部50を含む。周波数変換部は、被測定信号5を第1周波数付近の周波数の信号に変換する。第1のフィルター部は、第1周波数付近の周波数が通過帯域に含まれるバンドパス特性を有し、周波数変換部の出力信号12が入力される。ミキサーは、第1のフィルター部の出力信号22と第2周波数の基準クロック信号62を混合する。第2のフィルター部は、第1、第2周波数の差付近の周波数が通過帯域に含まれ、第1、第2周波数の和付近の周波数が阻止帯域に含まれるバンドパス特性又はローパス特性を有し、ミキサーの出力信号32が入力される。周波数測定部は、第2のフィルター部の出力信号42の周波数を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数測定装置及び検査システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種情報・通信機器や民生機器等の電子機器において、一定周波数の信号を得るために水晶振動子を用いた水晶発振器が多用されている。一般的には、温度による周波数変動が小さいATカット水晶振動子を用いた水晶発振器が使用され、さらに、デジタル通信用の高速伝送機器等には、ATカット水晶振動子の温度特性を補償して公称周波数に対する周波数誤差が1ppm(10−6)以下となる温度補償型水晶発振器(TCXO:Temperature Compensated X’tal Oscillator)が使用される場合もある。
【0003】
今後は、さらに高い周波数精度の水晶発振器が必要となることが考えられる。例えば、現在の携帯電話のシステムでは、1つの基地局が半径1km〜数km程度のエリアをカバーしているがエリアの境界や屋内等で電波が届きにくい場合もあるため、室内に超小型の基地局を配置し、1つの基地局が半径数m程度のごく狭いエリアをカバーするフェムトセル方式が提案されている。この超小型の基地局に使用される水晶発振器には極めて高い周波数精度が要求されるため、例えば0.1ppm以下の周波数精度の水晶発振器の開発が進められている。
【0004】
それに伴い、水晶発振器の検査工程において、0.1ppm以下の周波数精度を検査する必要が生じるが、数ppm程度の周波数精度を検査する場合には検査する必要がなかった項目も検査が必要になる場合もある。例えば、水晶振動子には、狭い温度範囲で急激に周波数が変動するディップと呼ばれる現象や、温度が上昇する時の周波数特性と温度が下降する時の周波数特性が一致せず同一温度において2種類の周波数が発生する現象が知られており、これらの現象の程度を検査する必要がある。また、0.1ppm以下の精度になると、水晶発振器が補償しきれなかった歪みの大きさも検査する必要がある。さらに、今後は、例えば、GPSや携帯電話では数十ppb/sの周波数変動が問題になることも考えられるため、そのような用途に使用される水晶発振器については1ppb(10−9)程度の分解能で周波数を測定する必要がある。
【0005】
特許文献1において、簡易な構成でありながらppb(10−9)オーダーの分解能を実現可能な周波数短期安定度検査装置が開示されており、この周波数短期安定度検査装置は、図9に示すような周波数測定装置に応用することができる。この従来の周波数測定装置は、クロック信号の周波数をダイレクトディジタルシンセサイザー(DDS:Direct Digital Synthesizer)で所望の周波数に変換し、周波数変換された信号と水晶発振器等の被測定物(DUT:Design Under Test)が出力する被測定信号をミキシングしてダウンコンバートした信号の周波数をカウンターで測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−209395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前述したディップの検査では0.1℃程度の刻みで周波数を測定する必要があり、例えば、−40℃〜+85℃の範囲で検査すると1250点もの温度で測定する必要がある。そのため、できるだけ短時間で1回の測定を終了することが要求される。
【0008】
一方、従来の周波数測定装置では、分解能を一定に維持するためにはカウンターの入力信号の周波数を一定に保つ必要があるため、被測定信号の周波数に応じてDDSの出力信号の周波数が変更される。
【0009】
従って、DDSの出力を広帯域に設計する必要があり、DDSの内部で広帯域に発生するスプリアスノイズがミキサーにより被測定信号と混合されるため、カウンターのゲートタイムを数十ms〜数百msにしなければ1ppb(10−9)の分解能を達成することができない場合がある。そのため、従来の周波数測定装置では、ディップ検査のような測定点の多い検査を比較的短い時間で行うことが困難であり、コスト面で問題がある。
【0010】
また、従来の周波数測定装置では、DDSがクロック周波数の1/2以上の周波数の信号を出力することができないため、クロック周波数の1/2以上の周波数の測定はできない。さらに、DDSの出力信号の高調波成分による劣化を考慮すると、実際には、クロック周波数の1/3〜1/4以下の周波数でなければ高分解能な測定ができない。このため、測定可能な周波数上限はDDSが処理可能な最大クロック周波数の1/3〜1/4程度の範囲に制限される。
【0011】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、簡易な構成でありながら高速・高分解能な測定が可能な周波数測定装置及び検査システムを提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明は、
被測定信号が入力され、公称周波数に対する当該被測定信号の周波数誤差を測定する周波数測定装置であって、
前記被測定信号を第1周波数付近の周波数を有する信号に変換して出力する周波数変換部と、
前記第1周波数付近の周波数が通過帯域に含まれるバンドパス特性を有し、前記周波数変換部の出力信号が入力される第1のフィルター部と、
前記第1のフィルター部の出力信号と第2周波数の基準クロック信号を混合するミキサーと、
前記第1周波数と前記第2周波数の差付近の周波数が通過帯域に含まれるとともに、前記第1周波数と前記第2周波数の和付近の周波数が阻止帯域に含まれるバンドパス特性又はローパス特性を有し、前記ミキサーの出力信号が入力される第2のフィルター部と、
前記第2のフィルター部の出力信号の周波数を測定する周波数測定部と、を含むことを特徴とする。
【0013】
周波数測定部は、入力された信号に対して、指定したゲートタイムにおけるパルス数をカウントし、カウント結果を周波数に変換して出力する直接計数方式の周波数カウンター(ダイレクトカウンター)として構成されていてもよいし、入力された信号の周期の整数倍をゲートタイムとして指定し、ゲートタイムの時間を正確な内部クロックでカウントして測定し、その逆数から周波数を計算して出力するレシプロカル方式の周波数カウンター(レシプロカルカウンター)して構成されていてもよい。
【0014】
本発明の周波数測定装置では、周波数変換部は、被測定信号の周波数によらず常に第1周波数付近の周波数の信号を出力する。そして、第1周波数を固定すれば、第1のフィルター部(バンドパスフィルター)は、第1周波数を中心として被測定信号の周波数誤差を考慮した通過帯域を確保すればよいので、非常に狭帯域にすることができる。従って、周波数変換部で広帯域に発生するスプリアスノイズ等を第1のフィルター部により非常に効果的に減衰させることができる。また、第1周波数を固定すれば、基準クロック信号の周波数(第2周波数)も固定することができるので、従来構成と異なり、周波数変換に伴う基準クロック信号の劣化が生じない。すなわち、周波数精度の高い基準クロック信号を使用することができる。
【0015】
このように、本発明の周波数測定装置は、従来構成と比較してノイズによる信号の劣化を低減させることができる構成であり、さらに、ミキサーによりダウンコンバートされた信号の周波数を測定するので、周波数測定の分解能を向上させることができる。
【0016】
また、本発明の周波数測定装置では、被測定信号を常に第1周波数付近の周波数の信号に変換するので、被測定信号の周波数が高い場合でも高い分解能で周波数を測定することができる。
【0017】
従って、本発明によれば、簡易な構成でありながら高速・高分解能な測定が可能な周波数測定装置を提供することができる。
【0018】
(2)この周波数測定装置において、
前記周波数変換部は、
波形パターンの位相角と振幅値の対応関係が記憶され、入力された位相角データに対応する振幅値データを出力する波形記憶部と、クロック信号に同期して所定値を順次加算することにより前記位相角データを計算する位相角計算部と、前記波形記憶部が出力する振幅値データをD/A変換するD/A変換部と、を含むダイレクトディジタルシンセサイザーとして構成され、
前記ダイレクトディジタルシンセサイザーの前記クロック信号として前記被測定信号が供給されるようにしてもよい。
【0019】
(3)この周波数測定装置において、
前記周波数測定部は、
前記第2のフィルター部の出力信号の波形を整形する波形整形回路と、前記波形整形回路により波形整形された信号の所定周期の時間をカウントするカウンターと、を含むようにしてもよい。
【0020】
本発明によれば、波形整形された信号を対象に周波数を測定するので、周波数測定の分解能を向上させることができる。
【0021】
また、所定周期の時間をカウントするタイプのカウンター(レシプロカルカウンター)は、測定桁数が一定であれば、入力される信号の周波数が低いほど周波数測定の分解能が高くなる。そして、本発明の周波数測定装置では、カウンターに入力される信号(波形整形回路の出力信号)はミキサーによりダウンコンバートされた後の信号であるので、周波数測定の分解能を向上させることができる。
【0022】
(4)この周波数測定装置において、
前記第1のフィルター部は、
前記周波数変換部の出力に接続され、共振周波数が前記第1周波数付近の周波数である直列共振回路と、当該直列共振回路の出力に接続され、共振周波数が前記第1周波数付近の周波数である並列共振回路と、当該並列共振回路と直列に接続された終端回路と、を含むようにしてもよい。
【0023】
(5)この周波数測定装置において、
前記第2のフィルター部は、
前記ミキサーの出力に接続され、共振周波数が前記第1周波数と前記第2周波数の和付近の周波数である直列共振回路と、当該直列共振回路と直列に接続された終端回路と、前記ミキサーの出力に接続され、共振周波数が前記第1周波数と前記第2周波数の和付近の周波数である並列共振回路と、当該並列共振回路の出力に接続され、前記第1周波数と前記第2周波数の差付近の周波数が通過帯域に含まれるバンドパス特性又はローパス特性を有するフィルターと、を含むようにしてもよい。
【0024】
(6)この周波数測定装置において、
前記第2のフィルター部は、
前記並列共振回路の出力に接続された終端回路をさらに含み、バンドパス特性又はローパス特性を有する前記フィルターがアクティブフィルターとして構成されていてもよい。
【0025】
(7)この周波数測定装置は、
入力されたクロック信号又は当該クロック信号を所定の分周比で分周した分周クロック信号のいずれかを選択して前記基準クロック信号として出力する基準信号出力部を含み、
前記周波数変換部は、
前記公称周波数に応じて、周波数比率が前記分周比と略等しい2つの異なる周波数のいずれかを前記第1周波数として選択し、
前記基準信号出力部は、
前記周波数変換部により、前記第1周波数として高い方の周波数が選択される場合は前記クロック信号を選択し、前記第1周波数として低い方の周波数が選択される場合は前記分周クロック信号を選択し、
前記第1のフィルター部は、
前記周波数変換部の出力信号が入力される第1のバンドパスフィルターと、前記周波数変換部の出力信号が入力され、前記第1のバンドパスフィルターの中心周波数よりも低い中心周波数の第2のバンドパスフィルターと、を含み、前記第1のバンドパスフィルターの中心周波数と前記第2のバンドパスフィルターの中心周波数の比は前記分周比と略等しく、前記周波数変換部により、前記第1周波数として高い方の周波数が選択される場合は前記第1のバンドパスフィルターの出力信号を選択し、前記第1周波数として低い方の周波数が選択される場合は前記第2のバンドパスフィルターの出力信号を選択し、前記ミキサーに供給するようにしてもよい。
【0026】
本発明の周波数測定装置によれば、例えば、被測定信号の公称周波数が所定値よりも低い場合は第1周波数として低い方の周波数が選択されるようにすれば、被測定信号の周波数が比較的低い場合でも周波数を測定することができる。そして、第1周波数として低い方の周波数が選択される場合は、基準クロック信号として分周クロック信号が選択されるが、分周クロック信号は逓倍回路ではなく分周回路により作られるので劣化が少ない。従って、被測定信号の周波数が比較的低い場合でも、高い分解能で周波数を測定することができる。
【0027】
(8)本発明は、
上記のいずれかの周波数測定装置と、
前記公称周波数に応じて前記周波数データを調整するとともに、前記周波数測定装置の出力信号に基づいて前記被測定信号の前記公称周波数に対する周波数誤差が仕様を満たすか否かを判定する検査装置と、を含むことを特徴とする検査システムである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1実施形態の周波数測定装置及び検査システムの構成について説明するための図。
【図2】本実施形態における周波数変換部の構成について説明するための図。
【図3】共振回路を用いた一般的な2ポールのバンドパスフィルターの伝送特性及び反射特性を示す図。
【図4】第2実施形態の周波数測定装置及び検査システムの構成を示す図。
【図5】第2実施形態における第1のフィルター部の伝送特性及び反射特性を示す図。
【図6】第2実施形態におけるバンドエリミネーションフィルター回路の伝送特性及び反射特性を示す図。
【図7】第3実施形態の周波数測定装置及び検査システムの構成を示す図。
【図8】本実施形態の周波数測定装置の性能の一例を示す図。
【図9】従来の周波数測定装置の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0030】
1.第1実施形態
図1は、第1実施形態の周波数測定装置及び検査システムの構成について説明するための図である。
【0031】
本実施形態の検査システム1は、周波数測定装置2及び検査装置3を含んで構成されている。
【0032】
周波数測定装置2は、被測定物(DUT)4が出力する被測定信号5が入力され、被測定信号5の周波数の公称周波数に対する誤差を測定する。例えば、被測定物(DUT)4は水晶発振器であり、被測定信号5は水晶発振器の定常発振状態での出力信号である。そして、水晶発振器の公称周波数が40MHzであれば、周波数測定装置2は、水晶発振器の出力信号の周波数の40MHzに対する周波数誤差を測定する。
【0033】
本実施形態の周波数測定装置2は、周波数変換部10、第1のフィルター部20、ミキサー30、第2のフィルター部40及び周波数測定部50を含んで構成されている。
【0034】
また、本実施形態の周波数測定装置2は、周波数精度が極めて高いOCXO(Oven Control x’tal Oscillator)60を含んで構成されている。OCXO60は、所定温度(例えば90℃)で発振周波数の温度特性が平坦になるSCカット水晶振動子をオーブンの中に入れて当該所定温度で一定になるように加熱することにより、極めて高い精度の周波数(第2周波数に対応する)を有する基準クロック信号62を出力する。
【0035】
本実施形態ではOCXO60は周波数想定装置2の内部にあるが周波数測定装置2の外部にあってもよい。また、OCXO60の代わりに、ルビジウム発振器やセシウム発振器等の周波数精度が極めて高い発振器を使用することもできる。
【0036】
なお、以下の説明では、基準クロック信号62の周波数(第2周波数)は10MHzとするが、これに限定されるものではない。
【0037】
周波数変換部10は、周波数データ6に基づいて、被測定信号5を第1周波数付近の周波数の信号12に変換して出力する。ここで、周波数データ6は、被測定信号5の公称周波数に応じて被測定信号5の周波数を(第1周波数/公称周波数)倍する値に設定される。例えば、被測定信号5の公称周波数及び第1周波数がそれぞれ40MHz及び10.01MHzであれば、周波数変換部10は、被測定信号5の周波数を(10.01MHz/40MHz)倍した信号12を出力する。
【0038】
なお、以下の説明では、第1周波数は10.01MHzとするが、これに限定されるものではない。
【0039】
第1のフィルター部20は、第1周波数(10.01MHz)付近の周波数が通過帯域に含まれるバンドパスフィルター(BPF:Bandpass Filter)であり、周波数変換部10の出力信号が入力される。
【0040】
前記の通り、周波数変換部10は、周波数データ6に基づいて、必ず第1周波数(10.01MHz)付近の周波数の信号12を出力する。そして、DUT4が水晶発振器であれば、被測定信号5の周波数の公称周波数に対する誤差は±100ppmよりも小さいので、周波数変換部10の出力信号12も第1周波数(10.01MHz)に対して±100ppmよりも小さい周波数誤差になる。従って、第1のフィルター部20は、例えば、中心周波数が10.01MHz、通過帯域が10.01MHz±1kHzのバンドパスフィルターとして構成することができる。
【0041】
なお、第1のフィルター部20は、共振回路を用いたフィルターやアクティブフィルター等で実現することができる。
【0042】
このように、本実施形態では、周波数データ6により周波数変換部10の出力信号12の周波数が第1周波数(10.01MHz)付近になるように調整されるので、被測定信号5の周波数誤差の想定範囲に応じて第1のフィルター部20の通過帯域をできるだけ狭帯域にすることができる。従って、周波数変換部10の内部で広帯域に発生するスプリアスノイズを第1のフィルター部20により効果的に減衰させることができる。
【0043】
ミキサー30は、第1のフィルター部20の出力信号22と基準クロック信号62を混合(ミキシング)し、これら2つの信号の周波数の和に相当する周波数の信号(以下、「和信号」という)とこれら2つの信号の周波数の差に相当する周波数の信号(以下、「差信号」という)を含む信号32を出力する。差信号は、第1周波数(10.01MHz)と第2周波数(10MHz)の差の周波数(10kHz)付近の周波数を有する信号である。ミキサー30は、例えば、二重平衡変調器(DBM:Double Balanced Mixer)で実現することができる。
【0044】
第2のフィルター部40は、第1周波数(10.01MHz)と第2周波数(10MHz)の差(10kHz)付近の周波数が通過帯域に含まれるとともに、第1周波数(10.01MHz)と第2周波数(10MHz)の和(20.01MHz)付近の周波数が阻止帯域に含まれるバンドパスフィルター(BPF)又はローパスフィルター(LPF:Lowpass Filter)であり、ミキサー30の出力信号が入力される。
【0045】
第2のフィルター部40の出力信号42の劣化をできるだけ抑えるためには、ミキサー30において広帯域にわたって複雑に混合されたスプリアスノイズをできるだけ減衰させることが重要である。そのため、第2のフィルター部40はバンドパスフィルターとして構成するのが望ましい。第2のフィルター部40は、例えば、第1周波数(10.01MHz)と第2周波数(10MHz)の差(10kHz)付近の周波数を中心周波数として通過帯域が10kHz±1kHzのバンドパスフィルターとして構成することができる。
【0046】
なお、第2のフィルター部40は、共振回路によるフィルター、アクティブフィルター、デジタルフィルター等で実現することができる。
【0047】
周波数測定部50は、第2のフィルター部40の出力信号42の周波数を測定し、周波数測定データ7を出力する。本実施形態における周波数測定部50は、波形整形回路500とカウンター510を含んで構成されている。
【0048】
波形整形回路500は、第2のフィルター部40の出力信号42(正弦波)を矩形波に整形する。
【0049】
カウンター510は、波形整形回路500により波形整形された信号502の周波数を測定して周波数測定データ7を出力する。本実施形態では、カウンター510は測定桁数が一定のレシプロカルカウンターとして構成されており、同じゲートタイムであれば信号502の周波数が低いほど周波数測定の分解能が高くなる。
【0050】
ここで、波形整形回路500の出力信号502の第1周波数(10.01MHz)と第2周波数(10MHz)の差の周波数(10kHz)に対する周波数誤差は、被測定信号5の公称周波数(例えば40MHz)に対する周波数誤差に等しい。従って、周波数測定データ7にも被測定信号5の公称周波数に対する周波数誤差と等しい周波数誤差が含まれる。そのため、周波数測定装置2により、被測定信号5の公称周波数に対する周波数誤差を測定することができる。
【0051】
検査装置3は、周波数測定装置2に周波数データ6を供給して周波数変換部10の出力信号12の周波数が第1周波数(10.01MHz)付近になるように調整するとともに、周波数測定データ7に基づいて、被測定信号5の公称周波数(例えば40MHz)に対する周波数誤差が仕様を満たすか否かを判定する。検査装置3は、例えば、被測定物(DUT)4が水晶発振器であれば、水晶発振器の出力信号の公称周波数に対する周波数誤差が所定値(例えば10ppb)以下であれば合格、所定値よりも大きければ不合格と判定する。
【0052】
図2は、本実施形態における周波数変換部10の構成について説明するための図である。
【0053】
本実施形態における周波数変換部10は、周波数設定部100、アドレス演算部110、波形メモリー120、D/A変換器130、ローパスフィルター140、逓倍回路150及びスイッチ160を含むDDSとして構成されている。
【0054】
周波数設定部100は、検査装置3からの周波数データ6に基づいて加算値データ102を生成する。
【0055】
アドレス演算部110は、クロック信号162に同期して加算値データ102を順次加算することにより位相角データを計算する。具体的には、アドレス演算部110は、前回の位相角データに加算値データ102を加算して今回の位相角データを計算し、位相角データに相当するアドレス112を生成する。アドレス演算部110は、加算値データ102の加算処理を繰り返すpビットのアキュムレーターにより実現することができ、アキュムレーターの出力がアドレス112になる。
【0056】
波形メモリー120には、波形パターン(例えば正弦波)の位相角と振幅値の対応関係が記憶されている。具体的には、波形メモリー120には1周期分の波形パターンを一定の時間間隔(1周期/2)でサンプリングした2個の点の振幅値データがアドレス順に記憶されており、アドレス112で指定される領域に記憶されている振幅値データ122が波形メモリー120から出力される。
【0057】
D/A変換器130は、波形メモリー120が出力する振幅値データ122をD/A変換する。D/A変換器130の出力信号132は、クロック信号162の周期毎に階段状に変化する波形であるため、ローパスフィルター140で平滑化される。
【0058】
なお、アドレス演算部110、波形メモリー120及びD/A変換器130は、それぞれ本発明における位相角計算部、波形記憶部及びD/A変換部に相当する。
【0059】
サンプリング定理より、周波数変換部10(DDS)の出力信号12の周波数は、理論上、クロック信号162の周波数の1/2が上限である。しかし、周波数変換部10(DDS)の出力信号12の高調波成分による劣化を考慮すると、周波数変換部10(DDS)の出力信号12の周波数の上限は、実際には、クロック信号162の周波数の1/3程度〜1/4になる。
【0060】
従って、被測定信号5の周波数が第1周波数(10.01MHz)の3〜4倍以上であればクロック信号162として被測定信号5を使用することができるが、被測定信号5の周波数が第1周波数(10.01MHz)の3〜4倍よりも低ければクロック信号162として被測定信号5をそのまま使用することができない。
【0061】
そこで、本実施形態の周波数変換部(DDS)10には、逓倍回路150及びスイッチ回路160が設けられており、周波数設定部100は、周波数データ6に基づいて逓倍制御信号104及びスイッチ制御信号106を生成して逓倍回路150及びスイッチ回路160の動作を制御する。具体的には、逓倍回路150は、逓培制御信号104により指定される逓倍数で被測定信号5の周波数を逓倍して出力し、スイッチ回路160は、スイッチ制御信号106に従い、クロック信号162として被測定信号5又は逓倍回路の出力信号152を選択する。
【0062】
例えば、被測定信号5の公称周波数が40MHz以上であれば被測定信号5がクロック信号162として選択され、被測定信号5の公称周波数が40MHz未満であれば逓倍回路150により被測定信号5の周波数が40MHz以上に逓倍され、逓倍された信号152がクロック信号162として選択される。
【0063】
以上の構成により、加算値データ102をN、逓倍数をMとすると、周波数変換部10(DDS)は、被測定信号5の周波数のN×M/2倍の周波数の信号12を出力する。
【0064】
本実施形態の周波数測定装置2では、周波数変換部10(DDS)の出力信号12の周波数が第1周波数(10.01MHz)付近になるように、周波数データ6が設定される。従って、例えば、波形メモリー120に記憶されている振幅値データの数が232個(すなわち、p=32)である場合、被測定信号5の公称周波数が40MHzであれば、N×M/2≒10.01/40なので、周波数データ6により例えばN=1074815566、M=1に調整される。また、例えば、被測定信号5の公称周波数が20MHzであれば、N×M/2≒10.01/20なので、周波数データ6により例えばN=1074815566、M=2に調整される。
【0065】
以上説明したように、本実施形態では、第1のフィルター部20の通過帯域を非常に狭帯域にすることができるため、周波数変換部10(DDS)で広帯域に発生するスプリアス等のノイズを非常に効果的に減衰させることができる。そして、基準クロック信号62の周波数(第2周波数)が10MHzに固定されるので、従来構成と異なり、基準クロック信号62の劣化が生じない。すなわち、周波数精度の高い基準クロック信号62を使用することができる。従って、本実施形態の周波数測定装置は、従来構成と比較してノイズによる信号の劣化を低減させることができる構成であり、周波数測定の分解能を向上させることができる。
【0066】
また、本実施形態では、被測定信号5を常に第1周波数(10.01MHz)付近の周波数の信号に変換するので、被測定信号5の周波数が高い場合(例えば、40MHz)でも、基準クロック信号62の周波数(第2周波数)が10MHzに固定されているので、高い分解能で周波数を測定することができる。
【0067】
さらに、本実施形態では、波形整形回路500により波形整形された信号502を対象に周波数を測定するので、周波数測定の分解能を向上させることができる。
【0068】
なお、周波数変換部10(DDS)は、周波数データ6により設定される周波数比率によってスプリアスノイズが発生する周波数が異なる。そのため、第1周波数が10.01MHzになるように周波数変換部10(DDS)を調整すると、通過帯域内にスプリアスノイズが発生する可能性もある。その場合は、第1周波数が9.99MHzになるように周波数変換部10(DDS)を調整してもよい。すなわち、第2周波数(10MHz)との差が等しい2つの周波数(10.01MHz又は9.99MHz)の各々を第1周波数とした時に周波数測定の分解能が高くなる方の周波数を第1周波数として選択するようにしてもよい。どちらの周波数を選択してもミキサー30の出力信号32に含まれる差信号の周波数は変わらない(10kHz付近になる)ため、図1の構成を変更する必要がない。
【0069】
2.第2実施形態
第1実施形態によれば、前記の通り、第1のフィルター部20(バンドパスフィルター)の通過帯域を非常に狭帯域にすることができるので、周波数変換部10の内部で発生した帯域外のノイズ成分を効果的に減衰させることができる。このような通過帯域の狭いバンドパスフィルターは一般的に共振回路を用いて実現される。
【0070】
図3に、共振回路を用いた一般的な2ポールのバンドパスフィルター(中心周波数10.01MHz)の伝送特性及び反射特性を示す。図3において、G1及びG2が伝送特性及び反射特性をそれぞれ示す。
【0071】
図3に示すように、通過帯域外の信号はほとんど全反射する。すなわち、ミキサー30の入力が広帯域にわたってインピーダンスマッチングがとれていないため、ノイズ成分が増加する可能性がある。同様に、ミキサー30の出力についてもインピーダンスマッチングがとれていなければノイズ成分が増加する可能性がある。その結果、被測定信号5の周波数によっては第2のフィルター部40の出力信号42が劣化し、周波数測定装置2による周波数測定の分解能が低下する可能性がある。
【0072】
そこで、第2実施形態では、ミキサー30の入力及び出力が広帯域にわたってインピーダンスマッチングがとれるような構成にしている。図4に、第2実施形態の周波数測定装置及び検査システムの構成を示す。
【0073】
図4に示すように、第2実施形態の周波数測定装置2では、第1のフィルター部20は、コイル202とコンデンサー204が直列接続された直列共振回路200、コイル212とコンデンサー214が並列接続された並列共振回路210及び50Ωの終端抵抗220により構成されている。
【0074】
直列共振回路200は、第1周波数(10.01MHz)付近の周波数が共振周波数になるようにコイル202のインダクタンスとコンデンサー204の容量が決められている。すなわち、直列共振回路200は、第1周波数(10.01MHz)付近の周波数でインピーダンスが最小になる。
【0075】
並列共振回路210は、第1周波数(10.01MHz)付近の周波数が共振周波数になるようにコイル212のインダクタンスとコンデンサー214の容量が決められている。すなわち、並列共振回路210は、第1周波数(10.01MHz)付近の周波数でインピーダンスが最大になる。
【0076】
従って、第1周波数(10.01MHz)付近の周波数の信号は直列共振回路200を通過し、並列共振回路210の影響をほとんど受けずにミキサー30に入力される。一方、第1周波数(10.01MHz)から離れた周波数の信号は直列共振回路200を通過すると大きく減衰し、さらに並列共振回路210及び終端抵抗220を通過してグランドに到達する。そのため、第1周波数(10.01MHz)から離れた周波数の信号はミキサー30にほとんど入力されない。すなわち、第1のフィルター部20は、第1周波数(10.01MHz)付近を中心周波数とするバンドパスフィルターとして機能する。
【0077】
図5に、第2実施形態における第1のフィルター部20の伝送特性及び反射特性を示す。図5において、G3及びG4が伝送特性及び反射特性をそれぞれ示す。図5に示すように、広帯域にわたりほとんど反射が起こらない。ミキサー30から見ると、第1周波数(10.01MHz)付近の周波数の信号に対しては周波数変換部10が内部に有する50Ωの終端抵抗(図示しない)で終端され、第1周波数(10.01MHz)から離れた周波数の信号に対しては50Ωの終端抵抗220で終端されているので、広帯域にわたってインピーダンスマッチングがとれている。
【0078】
図4に示すように、第2実施形態の周波数測定装置2では、さらに、第2のフィルター部40は、コイル402とコンデンサー404が直列接続された直列共振回路400、50Ωの終端抵抗410、コイル422とコンデンサー424が並列接続された並列共振回路420、50Ωの終端抵抗430及びフィルター450により構成されている。
【0079】
直列共振回路400は、第1周波数(10.01MHz)と第2周波数(10MHz)の和(20.01MHz)付近の周波数が共振周波数になるようにコイル402のインダクタンスとコンデンサー404の容量が決められている。すなわち、直列共振回路400は、第1周波数(10.01MHz)と第2周波数(10MHz)の和(20.01MHz)付近の周波数でインピーダンスが最小になる。
【0080】
並列共振回路420は、第1周波数(10.01MHz)と第2周波数(10MHz)の和(20.01MHz)付近の周波数が共振周波数になるようにコイル422のインダクタンスとコンデンサー424の容量が決められている。すなわち、並列共振回路420は、第1周波数(10.01MHz)と第2周波数(10MHz)の和(20.01MHz)付近の周波数でインピーダンスが最大になる。
【0081】
従って、第1周波数(10.01MHz)と第2周波数(10MHz)の和の周波数(20.01MHz)付近の周波数の信号は並列共振回路420を通過できず、直列共振回路400及び終端抵抗410を通過してグランドに到達する。一方、第1周波数(10.01MHz)と第2周波数(10MHz)の和の周波数(20.01MHz)から離れた周波数の信号は直列共振回路400の影響をほとんど受けずに並列共振回路420を通過してフィルター450に入力される。
【0082】
すなわち、直列共振回路400、終端抵抗410、並列共振回路420を含む回路440は、第1周波数(10.01MHz)と第2周波数(10MHz)の和の周波数(20.01MHz)付近を中心周波数とするバンドエリミネーションフィルターとして機能する。ミキサー30の出力信号32に含まれる和信号は他のノイズと比較して圧倒的にパワーが大きいが、バンドエリミネーションフィルター回路440により積極的に除去することができる。
【0083】
図6に、バンドエリミネーションフィルター回路440の伝送特性及び反射特性を示す。図6において、G5及びG6が伝送特性及び反射特性をそれぞれ示す。図6に示すように、広帯域にわたりほとんど反射が起こらない。ミキサー30から見ると、第1周波数(10.01MHz)と第2周波数(10MHz)の和の周波数(20.01MHz)付近の周波数の信号に対しては50Ωの終端抵抗410で終端され、第1周波数(10.01MHz)と第2周波数(10MHz)の和の周波数(20.01MHz)から離れた周波数の信号に対しては50Ωの終端抵抗430で終端されているので、広帯域にわたってインピーダンスマッチングがとれている。
【0084】
フィルター450は、ミキサー30の出力信号32に含まれる差信号を通過させるバンドパスフィルター(BFP)又はローパスフィルター(LPF)として構成される。第2のフィルター部40の出力信号42の劣化をさらに抑えるためにはフィルター450はバンドパスフィルターとして構成するのが望ましい。
【0085】
差信号の周波数は10kHz程度であるので、フィルター450は特性の良いアクティブフィルターにより構成することができる。なお、アクティブフィルターの入力インピーダンスは50Ωに対して十分大きいので終端抵抗430はフィルター450の動作に影響しない。
【0086】
第2実施形態におけるその他の構成については、図1に示した第1実施形態と同じ構成であるため同じ符号を付しており、その説明を省略する。
【0087】
このように、第2実施形態では、ミキサー30の入出力が広帯域にわたってインピーダンスマッチングがとれており、ミキサー30の入出力において反射が起こらないため、第2のフィルター部40の出力信号42のノイズによる劣化を低減させることができる。従って、第2実施形態によれば、より高い分解能の周波数測定が可能になる。
【0088】
3.第3実施形態
第1実施形態では、前記の通り、被測定信号5の周波数が第1周波数(10.01MHz)の3〜4倍以上であればクロック信号162として被測定信号5を使用することができるが、被測定信号5の周波数が第1周波数(10.01MHz)の3〜4倍よりも低ければクロック信号162として被測定信号5をそのまま使用することができない。そのため、被測定信号5の周波数が第1周波数(10.01MHz)の3〜4倍よりも低い場合は、逓倍回路150により被測定信号5の周波数を逓倍した信号152がクロック信号162として使用される。しかし、逓倍回路150は、一般的にPLL(Phase Locked Loop)で実現されるため、逓倍回路150の出力信号152は、位相ノイズが大きく、被測定信号5と比較してかなり劣化する。従って、第1実施形態では、被測定信号5の周波数が低い場合には周波数測定の分解能が低下する可能性がある。
【0089】
そこで、第3実施形態では、被測定信号5の公称周波数に応じて第1周波数の切り替えが可能な構成にしている。図7に、第3実施形態の周波数測定装置及び検査システムの構成を示す。
【0090】
図7に示すように、第3実施形態の周波数測定装置2では、第1実施形態に対して基準信号出力部70が新たに追加されている。
【0091】
基準信号出力部70は、分周回路700及びスイッチ710、720を含む。本実施形態では、分周回路700の分周比は4であり、分周回路700は、OCXO60が出力する10MHzのクロック信号を4分周した2.5MHzの分周クロック信号を出力する。
【0092】
基準信号出力部70は、スイッチ710、720により、OCXO60が出力する10MHzのクロック信号又は分周回路700が出力する2.5MHzの分周クロック信号のいずれかを選択して基準クロック信号62として出力する。
【0093】
また、図7に示すように、第3実施形態の周波数測定装置2では、第1のフィルター部20は、2つのバンドパスフィルター230、240及びスイッチ250、260を含む。バンドパスフィルター240の中心周波数はバンドパスフィルター230の中心周波数よりも低く、バンドパスフィルター230の中心周波数とバンドパスフィルター240の中心周波数の比は分周回路700の分周比とほぼ等しい。本実施形態では、バンドパスフィルター230の中心周波数は10.01MHzであり、バンドパスフィルター240の中心周波数は2.51MHzである。なお、バンドパスフィルター230、240は、それぞれ本発明における第1のバンドパスフィルター及び第2のバンドパスフィルターに相当する。
【0094】
第1のフィルター部20は、スイッチ250、260により、バンドパスフィルター230、240のいずれかを選択し、周波数変換部10の出力信号12に対してフィルター処理を行う。
【0095】
第3実施形態の周波数測定装置2では、周波数変換部10は、被測定信号5の公称周波数に応じて、分周回路700の分周比と等しい周波数比率の2つの異なる周波数のいずれかを第1周波数として選択する。この第1周波数の選択は、周波数データ6の設定値を変更することにより行うことができる。
【0096】
本実施形態では、OCXO60が出力するクロック信号の周波数は10MHzであり、被測定信号5の公称周波数が40MHz以上であれば第1周波数として10.01MHzが選択され、40MHz未満であれば第1周波数として2.51MHzが選択されるように周波数データ6の設定値を変更する。
【0097】
そして、基準信号出力部70は、周波数変換部10により、第1周波数として10.01MHzが選択される場合はOCXO60が出力する10MHzのクロック信号を選択し、第1周波数として2.5MHzが選択される場合は分周回路700が出力する2.5MHzの分周クロック信号を選択し、基準クロック62として出力する。
【0098】
また、第1のフィルター部20は、周波数変換部10により、第1周波数として10.01MHzが選択される場合はバンドパスフィルター230の出力信号を選択し、第1周波数として2.5MHzが選択される場合はバンドパスフィルター240の出力信号を選択し、ミキサー30に供給する。
【0099】
すなわち、第3実施形態では、被測定信号5の公称周波数が40MHz以上であれば、第1実施形態と同じく、10.01MHz付近の周波数の信号22と10MHzの基準クロック信号62がミキサー30に入力されるが、被測定信号5の公称周波数が40MHz未満であれば、2.51MHzの信号22と2.5MHzの基準クロック信号62がミキサー30に入力される。いずれの場合でも、ミキサー30の出力信号32に含まれる差信号の周波数は10kHz付近であり、第2のフィルター部40は第1実施形態又は第2実施形態と同様の構成とすることができる。
【0100】
なお、バンドパスフィルター230、240は、それぞれ図4に示した第2実施形態における第1のフィルター部20と同様の構成にすることもできる。
【0101】
第3実施形態におけるその他の構成については、図1に示した第1実施形態と同じ構成であるため同じ符号を付しており、その説明を省略する。
【0102】
第3実施形態によれば、被測定信号5の公称周波数が40MHz未満の場合でも、被測定信号5は周波数変換部10により2.5MHzの信号に変換され、第1のフィルター部20においてバンドパスフィルター240(通過帯域:2.5MHz±1kHz)が選択され、第1周波数として分周クロック信号(2.51MHz)が選択されるので、周波数を測定することができる。その場合でも、分周回路700により作られる分周クロック信号は劣化が少ないので、高い分解能の周波数測定を実現することができる。
【0103】
なお、汎用性を向上させるために、被測定信号5の公称周波数に応じて周波数データ6の設定を細かいステップで変更することにより、周波数変換部10がより多くの周波数から第1周波数を選択可能な構成にすることもできる。その場合、第1のフィルター部20を第1周波数に応じて中心周波数を可変に設定可能なバンドパスフィルターとして構成し、基準信号出力部70の分周回路700を第1周波数に応じて分周比を可変に設定可能な構成にし、ミキサー30の出力信号32に含まれる差信号の周波数(第2周波数)が一定周波数になるように構成すればよい。
【0104】
4.周波数測定装置の性能
図8に、本実施形態の周波数測定装置の性能の一例を示す。図8において、グラフG9及びG10は、2つの周波数測定装置2(周波数測定装置A及び周波数測定装置B)の限界性能をそれぞれ示している。
【0105】
参考として、グラフG7及びG8は、周波数測定装置A及び周波数測定装置Bにそれぞれ含まれる2つのカウンター510(カウンターA及びカウンターB)を使用して被測定信号5の周波数をそれぞれ直接測定した場合の特性を示している。
【0106】
本実施形態では、被測定信号5の周波数がミキサー30により1/1000のオーダーの周波数にダウンコンバートされた後、カウンター510(レシプロカルカウンター)により周波数が測定される。そのため、グラフG7とG9、G8とG10をそれぞれ比較すれば明らかなように、ゲートタイムが同じであれば、ダウンコンバートの効果により理論的には直接測定に対して1/1000のオーダーで分解能を小さくすることができる。
【0107】
しかし、周波数変換部10(DDS)により発生するスプリアスノイズの影響等により、図8において斜線で示した領域A1は正確な周波数測定が行えないため、実際には直接測定に対して1/10〜1/100のオーダーの分解能になる。それでも、図8に示すように、ゲートタイムを10msに設定しても1ppbの高分解能を達成することができる。
【0108】
このように、本実施形態の周波数測定装置によれば、簡易な構成でありながら水晶発振器のディップ検査にも使用することができるほど高速・高分解能の周波数測定を実現することができる。
【0109】
なお、本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0110】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0111】
1 検査システム、2 周波数測定装置、3 検査装置、4 被測定物、5 被測定信号、6 周波数データ、7 周波数測定データ、10 周波数変換部、20 第1のフィルター部、30 ミキサー、40 第2のフィルター部、50 周波数測定部、60 OCXO、62 基準クロック信号、70 基準信号出力部、100 周波数設定部、110 アドレス演算部、120 波形メモリー、130 D/A変換器、140 ローパスフィルター、150 逓倍回路、160 スイッチ、200 直列共振回路、202 コイル、204 コンデンサー、210 並列共振回路、212 コイル、214 コンデンサー、220 終端抵抗、230 バンドパスフィルター、240 バンドパスフィルター、250 スイッチ、260 スイッチ、400 直列共振回路、402 コイル、404 コンデンサー、410 終端抵抗、420 並列共振回路、422 コイル、424 コンデンサー、430 終端抵抗、450 フィルター、500 波形整形回路、510 カウンター、700 分周回路、710 スイッチ、720 スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定信号が入力され、公称周波数に対する当該被測定信号の周波数誤差を測定する周波数測定装置であって、
前記被測定信号を第1周波数付近の周波数を有する信号に変換して出力する周波数変換部と、
前記第1周波数付近の周波数が通過帯域に含まれるバンドパス特性を有し、前記周波数変換部の出力信号が入力される第1のフィルター部と、
前記第1のフィルター部の出力信号と第2周波数の基準クロック信号を混合するミキサーと、
前記第1周波数と前記第2周波数の差付近の周波数が通過帯域に含まれるとともに、前記第1周波数と前記第2周波数の和付近の周波数が阻止帯域に含まれるバンドパス特性又はローパス特性を有し、前記ミキサーの出力信号が入力される第2のフィルター部と、
前記第2のフィルター部の出力信号の周波数を測定する周波数測定部と、を含むことを特徴とする周波数測定装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記周波数変換部は、
波形パターンの位相角と振幅値の対応関係が記憶され、入力された位相角データに対応する振幅値データを出力する波形記憶部と、クロック信号に同期して所定値を順次加算することにより前記位相角データを計算する位相角計算部と、前記波形記憶部が出力する振幅値データをD/A変換するD/A変換部と、を含むダイレクトディジタルシンセサイザーとして構成され、
前記ダイレクトディジタルシンセサイザーの前記クロック信号として前記被測定信号が供給されることを特徴とする周波数測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記周波数測定部は、
前記第2のフィルター部の出力信号の波形を整形する波形整形回路と、前記波形整形回路により波形整形された信号の所定周期の時間をカウントするカウンターと、を含むことを特徴とする周波数測定装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記第1のフィルター部は、
前記周波数変換部の出力に接続され、共振周波数が前記第1周波数付近の周波数である直列共振回路と、当該直列共振回路の出力に接続され、共振周波数が前記第1周波数付近の周波数である並列共振回路と、当該並列共振回路と直列に接続された終端回路と、を含むことを特徴とする周波数測定装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記第2のフィルター部は、
前記ミキサーの出力に接続され、共振周波数が前記第1周波数と前記第2周波数の和付近の周波数である直列共振回路と、当該直列共振回路と直列に接続された終端回路と、前記ミキサーの出力に接続され、共振周波数が前記第1周波数と前記第2周波数の和付近の周波数である並列共振回路と、当該並列共振回路の出力に接続され、前記第1周波数と前記第2周波数の差付近の周波数が通過帯域に含まれるバンドパス特性又はローパス特性を有するフィルターと、を含むことを特徴とする周波数測定装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記第2のフィルター部は、
前記並列共振回路の出力に接続された終端回路をさらに含み、バンドパス特性又はローパス特性を有する前記フィルターがアクティブフィルターとして構成されていることを特徴とする周波数測定装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
入力されたクロック信号又は当該クロック信号を所定の分周比で分周した分周クロック信号のいずれかを選択して前記基準クロック信号として出力する基準信号出力部を含み、
前記周波数変換部は、
前記公称周波数に応じて、周波数比率が前記分周比と略等しい2つの異なる周波数のいずれかを前記第1周波数として選択し、
前記基準信号出力部は、
前記周波数変換部により、前記第1周波数として高い方の周波数が選択される場合は前記クロック信号を選択し、前記第1周波数として低い方の周波数が選択される場合は前記分周クロック信号を選択し、
前記第1のフィルター部は、
前記周波数変換部の出力信号が入力される第1のバンドパスフィルターと、前記周波数変換部の出力信号が入力され、前記第1のバンドパスフィルターの中心周波数よりも低い中心周波数の第2のバンドパスフィルターと、を含み、前記第1のバンドパスフィルターの中心周波数と前記第2のバンドパスフィルターの中心周波数の比は前記分周比と略等しく、前記周波数変換部により、前記第1周波数として高い方の周波数が選択される場合は前記第1のバンドパスフィルターの出力信号を選択し、前記第1周波数として低い方の周波数が選択される場合は前記第2のバンドパスフィルターの出力信号を選択し、前記ミキサーに供給することを特徴とする周波数測定装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の周波数測定装置と、
前記公称周波数に応じて前記周波数データを調整するとともに、前記周波数測定装置の出力信号に基づいて前記被測定信号の前記公称周波数に対する周波数誤差が仕様を満たすか否かを判定する検査装置と、を含むことを特徴とする検査システム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図7】
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【図9】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−190836(P2010−190836A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37823(P2009−37823)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】