説明

回転電機のロータ

【課題】ロータが高速回転した場合であってもロータの軸方向端部とプレートとの間からの冷媒の漏洩を抑制する。
【解決手段】ロータ10の回転軸40に設けられ、軸心に沿う方向に貫通して冷媒を流通させる第1流路R1と、回転軸40の壁面を貫通し、第1流路R1と連通する第2流路R2と、ロータ10の軸方向端部10tに当接するプレート60と、プレート60と軸方向端部10tとの間に形成され、第2流路R2と連通する第3流路R3と、ロータ10が回転する際の遠心力に応じて軸方向端部10tとプレート60との当接圧力を増加させる圧力増加機構3とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機を冷却するための冷媒を流通させる流路が形成された回転電機のロータに関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な交流の回転電機(交流モータ)として、誘導モータと永久磁石同期モータとが知られている。永久磁石同期モータは、ロータに組み込まれた永久磁石により界磁を得ることから界磁生成のために電気エネルギーを必要とせず、エネルギー効率が良いことから需要が拡大している。永久磁石同期モータは、ロータへの永久磁石の組み込み方によって表面磁石型と埋込磁石型とに大別できる。埋込磁石型は、回転時の遠心力により磁石が脱落する可能性が低く高速回転に対応でき、界磁が突極性を有することからリラクタンストルクを利用することもできるので高速回転用途において積極的に採用されている。ところで、永久磁石は熱などによってその磁力が低下してしまう減磁という現象を生じることがある。特に埋込磁石型の同期モータは永久磁石がロータの内部にあり、表面磁石型に比べて放熱性においては不利なため、しばしばオイルなどの冷却媒体(冷媒)を用いてロータ及び永久磁石が冷却される。
【0003】
特開2009−71923号公報(特許文献1)には、冷媒としてオイルを用いたモータの冷却構造が開示されている。ロータコア4に設けられた冷却油通路13には、油溜り15からポンプ30によりオイルが供給される。冷却油通路13は、ロータコア4内において永久磁石9の内径側に隣接して軸方向にロータコア4を貫通して設けられている。永久磁石9は、冷却油通路13を流れるオイルによって冷却される(符号は特許文献1のもの。図1、図4、第33段落、第38段落等参照。)
【0004】
特開2001−16826号公報(特許文献2)には、ロータシャフト30に冷却油供給手段から供給されるオイルの経路となる中空部30aが形成されたロータ10が開示されている。中空部30aには、ロータ10の径方向に形成された第1の油路40が連通される。第1の油路40は、ロータ10の表面側において回転方向に沿って形成された第2の油路50に連通される。第2の油路50は、ロータ10の軸方向に沿って形成された第3の油路60に連通される。第1の油路40はロータ10の軸方向中央付近に形成されており、中空部30a、第1の油路40、第2の油路50、第3の油路60を経て、オイルはロータ10の軸方向の端部に導かれる。第2の油路50及び第3の油路60は、永久磁石14をロータコア12に装着することによって形成されるので、第2の油路50及び第3の油路60を流通するオイルは、永久磁石14を良好に冷却する(符号は特許文献2のもの。図1、図2、第22〜25段落等参照。尚、図2における符号50及び60は誤記により逆に付されたものと解される。)。
【0005】
特許文献2では、ロータシャフトの中空部からロータの径方向外側へオイルを流通させる第1の油路が、ロータの軸方向の中央付近に形成されている。しかし、このような油路はロータの軸方向の端部に設けられてもよい。その際、ロータの軸方向の端部には、特許文献1に符号11で示されるようなプレートが設置される。そして、特許文献2の第2の油路及び第3の油路のように永久磁石を冷却するための油路に効率良くオイルを流通させるためには、ロータの軸方向の端部における軸方向端部とプレートとが適正にシールされることが好ましい。しかし、ロータが高速回転すると、オイルなどの冷媒に作用する遠心力も強くなり、シールの効果が低下して、冷媒が漏れる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−71923号公報
【特許文献2】特開2001−16826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、ロータが高速回転した場合であってもロータの軸方向端部とプレートとの間からの冷媒の漏洩を抑制することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑みた本発明に係る回転電機のロータの特徴構成は、当該ロータの回転軸に設けられ、当該回転軸の軸心に沿う方向に貫通して冷媒を流通させる第1流路と、前記第1流路の流路壁となる前記回転軸の壁面を当該ロータの径方向に沿って貫通し、前記第1流路と連通する第2流路と、前記回転軸に沿う方向における当該ロータの端部である軸方向端部に当接するプレートと、当該プレートと前記軸方向端部との間に形成され、前記第2流路と連通する第3流路と、当該ロータが回転する際の遠心力に応じて前記軸方向端部と前記プレートとの当接圧力を増加させる圧力増加機構と、を備える点にある。
【0009】
本構成に係るロータは、ロータが回転する際の遠心力に応じてロータの軸方向端部とプレートとの当接圧力を増加させる圧力増加機構を備える。このため、ロータが高速回転した場合に強くなる遠心力に応じて圧力増加機構により軸方向端部とプレートとの当接圧力が大きくなる。軸方向端部とプレートとの間には第3流路が形成されるが、軸方向端部とプレートとの当接圧力が大きくなることにより、ロータが高速回転した場合であっても第3流路からの冷媒の漏洩が抑制される。
【0010】
本発明に係る回転電機のロータの前記圧力増加機構は、当該ロータが回転する際の遠心力を前記回転軸に沿う方向の力に変換する方向変換機構を有すると好適である。軸方向端部とプレートとを回転軸の軸方向で当接させる構造は簡潔な構造である。但し、ロータの軸方向端部とプレートとの当接圧力を増加させるためには、回転軸の軸方向に沿った力を増加させる必要がある。一方、ロータの回転によって生じる遠心力は、回転軸の軸方向に直交する方向(ロータの径方向)の力である。従って、方向変換機構によってロータが回転する際の遠心力を回転軸に沿った方向の力に変換すると、遠心力に応じて軸方向端部とプレートとの当接圧力を増加させることができる。
【0011】
本発明に係る回転電機のロータは、前記プレートが、前記回転軸に固定される固定部と、前記回転軸を中心として当該ロータの径方向に広がる底面部と、前記底面部から当該ロータの前記軸方向端部に向けて立ち上がり先端部が前記軸方向端部に当接する側壁部とを有して形成され、前記圧力増加機構が、前記遠心力により変形する前記側壁部を含んで構成されると好適である。この構成によれば、高速回転による遠心力による変形が抑制される強度でプレートを構成すると共に、プレートの一部である側壁部を遠心力により変形する強度で構成できる。その結果、プレート全体としての強度を確保しつつ、遠心力に応じて軸方向端部とプレートとの当接圧力を増加させることができる。
【0012】
本発明に係る回転電機のロータは、前記プレートが、前記回転軸に固定される固定部と、前記回転軸を中心として当該ロータの径方向に広がる底面部と、前記底面部から当該ロータの前記軸方向端部に向けて立ち上がり先端部が前記軸方向端部に当接する側壁部とを有して形成され、前記圧力増加機構が、前記固定部において固定され、前記遠心力により全体が変形する前記プレートを含んで構成されると好適である。この構成によれば、遠心力に応じたプレート全体の変形によって軸方向端部とプレートとの当接圧力を増加させるので、プレートの構造を簡潔にすることができる。
【0013】
本発明に係る回転電機のロータは、前記プレートが、前記回転軸に固定される固定部と、前記回転軸を中心として当該ロータの径方向に広がる底面部と、前記底面部から当該ロータの前記軸方向端部に向けて立ち上がり先端部が前記軸方向端部に当接する側壁部とを有して形成され、前記側壁部の前記先端部が、前記回転軸に直交する方向における前記側壁部の断面積よりも狭い接触面積で前記軸方向端部に当接すると好適である。同じ力が印加されても、接触面積が小さいほど単位面積当たりの力は強くなる。従って、側壁部の断面積よりも狭い接触面積で側壁部の先端部とロータの軸方向端部とが当接すると、単位面積当たりの当接圧力が強くなる。当然ながら、遠心力に応じて増加される当接圧力の単位面積当たりの増分も大きくなるので、ロータが高速回転した場合であってもロータの軸方向端部とプレートとの間からの冷媒の漏洩を抑制することができる。
【0014】
本発明に係る回転電機のロータは、前記軸方向端部の前記プレートと当接する位置に弾性部材が備えられると好適である。プレートと弾性部材とが当接した際、当接圧力によって弾性部材が弾性変形するので、プレートと軸方向端部とが密着する。その結果、プレートと軸方向端部とが当接する隙間から冷媒が漏洩することが抑制される。ロータの回転に伴う遠心力に応じて増減する当接圧力の増減は弾性部材によって吸収されるので、ロータの回転速度に大きく依存されることなくプレートと軸方向端部とが密着する。従って、ロータの回転速度に拘わらず、プレートと軸方向端部とが当接する隙間から冷媒が漏洩することが抑制される。当然ながら、ロータが高速で回転した際には弾性部材を介してプレートと軸方向端部とが強く密着するので冷媒の漏洩が良好に抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】回転電機の断面図
【図2】ロータの分解斜視図
【図3】圧力増加機構の例1を断面図により模式的に示す図
【図4】圧力増加機構の例2を断面図により模式的に示す図
【図5】圧力増加機構の例3を断面図により模式的に示す図
【図6】圧力増加機構の例4を断面図により模式的に示す図
【図7】圧力増加機構の例5における先端部の形状例1を模式的に示す図
【図8】圧力増加機構の例5における先端部の形状例2を模式的に示す図
【図9】圧力増加機構の例5における先端部の形状例3を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明に係るロータ10を含む回転電機1の断面図である。回転電機1は、永久磁石埋込型の同期機(IPM : interior permanent magnet synchronous motor)である。回転電機1は、状況に応じて力行動作してモータとして機能し、又は回生動作してジェネレータとして機能する。以下、回転電機1をモータ1と称して説明する。図1に示すように、モータ1は、シャフト(回転軸)40によってケース30に軸支されるロータ10と、ロータ10の径方向外側に配置され、ケース30に固定されるステータ20とを備えて構成される。ケース30は、図1において左側部分を構成するモータケース30aと、右側部分を構成するモータカバー30bとを接合して構成される。
【0017】
ロータ10は、図2に示すように、プレス加工により円周方向に等間隔に複数の打ち抜き穴が形成された複数の電磁鋼板を積層させて構成される。本実施形態では、四角形の一辺が半円状となった形状(論理積(AND)を示す論理記号のような形状)の抜き打ち孔が形成されている。図2に示すように、シャフト40側の辺が半円状に形成される。このような電磁鋼板の積層により、ロータ10の円周方向には、シャフト40の軸心に沿う方向にロータ10を貫通する貫通孔10aが形成される。貫通孔10aには、抜き打ち孔の半円部分に対向する辺の側に沿って、板状の永久磁石11が設置される。つまり、永久磁石11は、図1及び図2に示すように、それぞれの貫通孔10aの径方向外側に配置されて、ロータ10に接着固定される。
【0018】
詳細は後述するが、貫通孔10aは、さらにロータ10及び永久磁石11を冷却する冷媒を流通させる冷媒用流路として機能する。図1に破線により示すように、貫通孔10aを流通する冷媒により、永久磁石11の熱が回収され、永久磁石11が高温により減磁することが抑制される。本実施形態においては、永久磁石11が冷媒用流路である貫通孔10aの径方向外側に配置されている。従って、ロータ10が回転し、冷媒に遠心力が作用すると、冷媒は永久磁石11に接するように流れる。その結果、永久磁石11は効率的に冷却される。但し、電磁鋼板を介して熱伝導させることが可能であるから、永久磁石11の配置はこれに限定されるものではない。例えば、冷却用流路である貫通孔10aとは別に設けた空間に永久磁石11が配置されてもよい。
【0019】
ステータ20も、ロータ10と同様に、複数の電磁鋼板を積層させて構成される。ステータ20の鉄心には多相交流(例えば3相)に対応した複数相のコイル21が巻かれている。不図示のインバータを介して各コイル21を通電することにより、ステータ20に回転磁界が生成され、永久磁石11を備えたロータ10が回転する。鉄心に巻かれた複数の導線を束ねるために結束糸が用いられ、隣接相との絶縁を確保するために導線には絶縁紙や絶縁皮膜が設けられている。図1に示すように、シャフト40の軸方向には、ステータ20からコイルエンド21aが突出する。
【0020】
シャフト40は、ケース30に設けられた一対のベアリング31を介してケース30に軸支される。シャフト40は、軸心に沿った内部空間40aを有する円筒状に構成される。シャフト40の一端には、シャフト40と同心軸を有する入出力軸41が接続され、シャフト40と一体に回転する。入出力軸41は、モータ1が力行動作する際には、電気エネルギーより生成された機械エネルギーを駆動系に出力する出力軸となり、モータ1が回生動作する際には、電気エネルギーを生成するモータ1(ジェネレータ)に駆動系からの機械エネルギーを入力する入力軸となる。シャフト40と同様に、入出力軸41も軸心に沿った内部空間41aを有して円筒状に構成される。尚、シャフト40と入出力軸41とは一部材として構成されてもよい。不図示のポンプにより、モータ1を冷却する冷媒が、入出力軸41の内部空間41aを経由して、シャフト40の内部空間40aに導入される。冷媒は、例えば冷却油(オイル)である。シャフト40の内部空間40a及び入出力軸41の内部空間41aは、冷媒用流路を構成する(後述する第1流路R1)。
【0021】
図1及び図2に示すように、シャフト40には、内部空間40aとシャフト40の外周面とを連通する連通孔40bが、シャフト40の周方向に複数形成されている。本実施形態では、シャフト40の強度を確保するために対向する位置に2ケ所の連通孔40bが設けられる。連通孔40bは、ロータ10がシャフト40に組み付けられた状態において、ロータ10の一方の軸方向端部10tよりも軸方向で外側(出力軸41側)となる位置に形成される。これにより、シャフト40の内部空間40aに導入された冷媒は、連通孔40bを介してロータ10の径方向に流通可能となる。従って、連通孔40bは、冷媒用流路を構成する。後述するように、連通孔40bは、第1流路R1の流路壁となるシャフト40の壁面をロータ10の径方向に沿って貫通し、第1流路R1と連通する第2流路R2を構成する。
【0022】
図1に示すように、ロータ10の2つの軸方向端部10s,10tには、それぞれ下部プレート50及び上部プレート60が備えられる。ここで、上部及び下部とは、入出力軸41から見て近い側を上部、遠い側を下部と便宜的に称するものであり、必ずしもモータ1の使用形態や設置形態に基づく呼称ではない。即ち、ロータ10の出力軸41側の軸方向端部10tには、上部プレート60が備えられ、反対側の軸方向端部10sには、下部プレート50が備えられる。
【0023】
上部プレート60は、シャフト40に固定される固定部61と、ロータ10へ取り付けられた状態においてシャフト40を中心としてロータ10の径方向に広がる底面部62と、底面部62から軸方向端部10tに向けて立ち上がる側壁部63とを有して構成される。シャフト40の外周面の一部にはねじ山が形成されている。固定部61にはこのねじ山と係合するねじ山が形成されており、ねじを締め付けることにより上部プレート60はロータ10及びシャフト40に対して固定される。側壁部63の先端部63tは、上部プレート60がロータ10へ取り付けられた状態において軸方向端部10tに当接する。上部プレート60がロータ10に取り付けられた状態で、上部プレート60の底面部62とロータ10の軸方向端部10tとの間には所定のロータ対向空間60aが形成される。後述するように、軸方向端部10tと上部プレート60との間に形成されるロータ対向空間60aは、冷媒が流通する冷媒用流路を構成する(第3流路R3)。従って、側壁部63の先端部63tと軸方向端部10tとは、当接された部分から冷媒が漏れないように、充分にシール可能な当接圧力で当接される。
【0024】
底面部62とシャフト40との間には、シャフト対向空間60bが設けられている。当該空間60bはシャフト40の連通孔40bに連通する。従って、シャフト対向空間60bは、シャフト40の連通孔40b(第2流路R2)を介してシャフト40の内部空間40a(第1流路R1)と連通する。また、シャフト対向空間60bは、ロータ対向空間60aとも連通する。上述したように、本実施形態では、シャフト40の強度を確保するために対向する2ケ所の位置にのみ連通孔40bが設けられる。従って、シャフト対向空間60bの容積を連通孔40b(第2流路R2)よりも大きくして、シャフト対向空間60bに冷媒を溜めることができるように構成すると好適である。ロータ対向空間60aと同様に、シャフト対向空間60bも冷媒用流路を構成する(第3流路R3)。
【0025】
即ち、不図示のポンプにより、入出力軸41の内部空間41a、シャフト40の内部空間40a、連通孔40b、シャフト対向空間60b、ロータ対向空間60aを経由して、モータ1を冷却する冷媒が、ロータ10の貫通孔10aに導かれる。ここで、出力軸41の内部空間41a及びシャフト40の内部空間40aは第1流路R1に相当し、シャフト40の連通孔40bは第2流路R2に相当する。また、シャフト対向空間60b及びロータ対向空間60a、又は少なくともロータ対向空間60aは第3流路R3に相当する。本実施形態において、第3流路R3は、ロータ10の一方の軸方向端部10tと、当該軸方向端部10tに当接する上部プレート60を流路壁として形成される。また、本実施形態では、上部プレート60が固定されるシャフト40の外壁も流路壁として機能する。尚、図1に示した流路の構成は、一例であり、本発明は当該構成に限定されるものではない。例えば、シャフト対向空間60bが設けられることなく、シャフト40の内部空間40aとロータ対向空間60aとを直接連通する位置に連通孔40bが設けられてもよい。
【0026】
下部プレート50は、側壁部53と底面部52とを有する皿状に構成され、底面部52をロータ10の他方の軸方向端部10sに当接させて取り付けられる。シャフト40の外周面の一部にはねじ山が形成されている。このねじ山と係合するナット51を締め付けることにより、下部プレート50はロータ10及びシャフト40に対して固定される。底面部52には、ロータ10に取り付けられた状態においてロータ10の貫通孔10aと連通して底面部52を貫通する貫通孔50bが形成される。ロータ10の貫通孔10aを流通する冷媒は、当該貫通孔50bを流通して、ロータ10を軸心方向に通り抜ける。
【0027】
貫通孔50bをロータ10の貫通孔10aに対して径方向外側寄りに形成すると、遠心力により径方向外側に沿って流れる冷媒が貫通孔50bから排出され易くなる。一方、貫通孔50bをロータ10の貫通孔10aに対して径方向内側寄りに形成すると、一定量以上の冷媒がロータ10の貫通孔10aに溜まってから、冷媒が貫通孔50bから排出される。従って、ロータ10の貫通孔10a内の冷媒が時間をかけて永久磁石11の熱を回収できるので、冷却効率の向上が期待できる。即ち、貫通孔50bが形成される径方向の位置は、モータ1が使用される条件やポンプの吐出能力等に応じて適宜設定可能である。
【0028】
本実施形態において、下部プレート50の側壁部53の先端部53tは、コイルエンド21aの先端部21bよりもシャフト40の軸方向に突出するように構成されている。又、側壁部53の内周面は、底面部52から先端部53tに向かって内径が大きくなるようにテーパー状に構成されている。ロータ10が回転した際に、先端部53tから遠心力により径方向外側に排出される冷媒は、テーパーに沿って滑らかに誘導される。また、先端部53tがコイルエンド21aの先端部21bよりも突出しているため、先端部53tから放出された冷媒はコイルエンド21aに直接に衝突することなく、コイルエンド21aに噴霧される。従って、コイルエンド21aの絶縁紙、絶縁皮膜、結束糸等への冷媒の衝突によるこれらの劣化が抑制される。
【0029】
尚、図1に示すように、先端部53tから遠心力により径方向外側に排出される冷媒が衝突するケース30の内周面領域に、例えば径方向内側に突出するフィン32を設けてもよい。永久磁石11などを冷却して昇温された冷媒がロータ10から排出された後、フィン32を介した熱交換が促進され、冷媒の放熱を効率的に行うことができる。又、フィン32に衝突し、運動エネルギーを消失するとともに冷却された冷媒が、ケース30の内面を伝ってステータ20やコイル21に供給され、衝撃力が緩和された状態で冷却を行うことも可能となる。
【0030】
以上、説明したように、不図示のポンプから供給される冷媒は、入出力軸41の内部空間41a、シャフト40の内部空間40a、シャフト40の連通孔40b、上部プレート60により形成されるシャフト対向空間60b及びロータ対向空間60a、ロータ10の貫通孔10a、下部プレート50の貫通孔50bを経て、ロータ10及び永久磁石11を冷却し、下部プレート50の側壁部53を伝ってケース30内に排出される。ところで、第3流路R3を構成するロータ対向空間60aでは、冷媒の流通方向がロータ10の径方向である。従って、ロータ10が高速回転する場合には、回転に伴う遠心力により流通方向へ向かう冷媒の圧力が高くなる。ロータ対向空間60aにおける冷媒の流通方向の先端は、上部プレート60の側壁部63の先端部63tとロータ10の軸方向端部10tとが当接する当接部である。ロータ10の回転に伴う遠心力が強くなると、当該当接部における冷媒の圧力も高くなる。先端部63tと軸方向端部10tとは冷媒が漏れないように、充分にシール可能な当接圧力で当接されている。しかし、ロータ10が高速回転した場合には、遠心力も強くなり冷媒の圧力も大きくなるので、シール性能が低下する可能性がある。そこで、ロータ10には、ロータ10が回転する際の遠心力に応じて軸方向端部10tと上部プレート60の軸方向端部10tとの当接圧力を増加させる圧力増加機構3が設けられる。
【0031】
〔例1〕
圧力増加機構3は、種々の形態により実現可能であり、以下、複数の形態について具体例を挙げて説明する。はじめに、図1〜図3に基づいて圧力増加機構3の第1の例(例1)について説明する。図1及び図3に示すように、上部プレート60の底面部62からロータ10の方向へ立ち上がる側壁部63は、底面部62を挟んで反対側に延長される。延長された側壁部63の先端部分には底面部62からロータ10までの側壁部63の質量よりも大きい質量を有する重り65が設けられる。ロータ10が回転すると、遠心力により重り65がロータ10の径方向外側に向かって変位する(図1、図3に示すA方向。)。側壁部63の先端部63tは、ロータ10の軸方向端部10tに当接しているから、当接している先端部63tを支点としてシャフト40の軸方向の力が生じる(図3に示すB方向。)。即ち、先端部63tと軸方向端部10tとの当接圧力が増加される。
【0032】
このように、重り65を備え、ロータ10の回転により生じる遠心力によって変形して、ロータ10の軸方向端部10tと上部プレート60との当接圧力を増加させる側壁部63は、本発明の圧力増加機構3に相当する。この際、ロータ10の径方向に沿った方向Aの力である遠心力は、シャフト40に沿う方向Bの力に変換される。従って、例1において圧力増加機構3は、ロータ10の径方向に沿った方向Aの遠心力をシャフト40に沿う方向Bの力に変換する方向変換機構を備えているということができる。尚、ロータ10が回転していないとき、ロータ10の軸方向端部10tと上部プレート60の側壁部63の先端部63tとは面接触により冷媒をシール可能な当接圧力で当接されていればよい。ロータ10が回転し、遠心力により側壁部63が変形すれば、シャフト40に直交する方向における側壁部63の断面積よりも狭い接触面積で先端部63tがロータ10の軸方向端部10tに当接するようになる。接触面積が狭いほど、単位面積当たりの接触圧力が大きくなるので遠心力に応じて当接圧力も増大する。
【0033】
〔例2〕
次に、図4に基づいて圧力増加機構3の第2の例(例2)について説明する。図4に示すように、ロータ10の軸方向端部10tにおいて、上部プレート60の側壁部63の先端部63tと当接する部位に、弾性部材10gを設けると好適である。遠心力に応じて増加される当接圧力を弾性部材10gにより良好に受け止めることができ、シール性能が向上する。尚、図4においては、便宜的に例1に対応する圧力増加機構3において弾性部材10gを設ける例を示したが、当然ながら以下に示す例3以降の形態においても弾性部材10gを設けることが可能であることは言うまでもない。
【0034】
〔例3〕
続いて、図5に基づいて圧力増加機構3の第3の例(例3)について説明する。上記、例1及び例2においては、圧力増加機構3が、ロータ10の径方向に沿った方向Aの遠心力をシャフト40に沿う方向Bの力に変換する方向変換機構を備えて構成される場合を例示した。しかし、圧力増加機構は、そのような方向変換機構を備えることなく構成されてもよい。図5に示すように、ロータ10の軸方向端部10tに、軸方向に突出した突出部10fが設けられる。ロータ10の回転に伴う遠心力により、上部プレート60の側壁部63がロータ10の径方向に変位すると、側壁部63の径方向外側の側面と突出部10fの径方向内側の側面とが当接する。遠心力により側壁部63の側面が突出部10fの側面に押しつけられるので、ロータ10の軸方向端部10tと上部プレート60との当接圧力が増加される。
【0035】
この際、側壁部63の近傍が変形するだけでもよいし、底面部62も含めて上部プレート60が全体的に変形してもよい。つまり、圧力増加機構3は、例1や例2と同様に、遠心力により変形する側壁部63を含んで構成されれば充分であるし、構造によっては、固定部61においてシャフト40に固定され、遠心力によって全体が変形する上部プレート60を含んで構成されてもよい。また、突出部10fは、図5に示すように上部プレート60の側壁部63に対してロータ10の径方向外側に設けられる形態に限定されるものではない。側壁部63の先端部63tに嵌合孔を設け、当該嵌合孔と突出部10fとを嵌合させる構造であってもよい。ロータ10の回転に伴う遠心力により、側壁部63の嵌合孔の径方向内側の側面と、突出部10fの径方向内側の側面とが強く当接され、ロータ10の軸方向端部10tと上部プレート60との当接圧力が増加される。また、突出部10fが設けられる位置には関係なく、突出部10fと上部プレート60とが当接する位置に例2と同様に弾性部材が設けられてもよい。
【0036】
〔例4〕
次に、図6に基づいて圧力増加機構3の第4の例(例4)について説明する。上述した例1〜例3においては、上部プレート60の全体又は一部がロータ10の回転に伴う遠心力によって変形する場合を例示した。しかし、上部プレート60の一部が遠心力により移動することによって当接圧力を増加させるような構成でもよい。具体的には、図6に示すように、例えば側面部63の先端部63tが遠心力により矢印C方向に変位して(移動して)、当接圧力を増加させるような構成でもよい。当然ながら、このような構造を備えると共に例2において例示したような弾性部材10gが備えられてもよい。また、このような構造を備えると共に例3において例示した突出部10fが備えられてもよい。さらに、このような構造を備えると共に弾性部材10g及び突出部10fの双方が備えられる構成であってもよい。
【0037】
〔例5〕
次に、図7〜図9に基づいて圧力増加機構3の第5の例(例5)について説明する。上述したように、上部プレート60の側壁部63の先端部63tは、シャフト40に直交する方向における側壁部63の断面積よりも狭い接触面積で軸方向端部10tに当接すると好適である。同じ力が印加されても、接触面積が小さいほど単位面積当たりの力は強くなる。従って、側壁部63の断面積よりも狭い接触面積で側壁部63の先端部63tとロータ10の軸方向端部10tとが当接すると、単位面積当たりの当接圧力を強くすることができる。当然ながら、遠心力に応じて圧力増加機構3により増強される当接圧力も有効に作用することになる。先端部63tの形状は、図1〜図6に例示した形状に限定されることなく、当接圧力を強くすることが可能な種々の形態を採り得ることができる。
【0038】
例5においては、そのような先端部63tの形状を例示する。図7は、例5における第1の形状例(形状例1)を示す図である。図7に示すように、先端部63tの形状は、揺動自在な取り合い形状とすることができる。図8は、例5における第2の形状例(形状例2)を示す図である。図8に示すように、先端部63tの形状は鋭利な形状とすることもできる。図9は、例5における第3の形状例(形状例3)を示す図である。図9に示すように、先端部63tの形状は櫛歯形状とすることもできる。また、このような種々の先端形状において、例2に示したように、ロータ10の軸方向端部10tに弾性部材10gを設けると好適である。
【0039】
〔例6〕
例えば、上記例1及び例2においては、側壁部63が遠心力により変形する場合を例示した。しかし、シャフト40に沿った方向Aの遠心力をロータ10の径方向Bの力に変換するために変形する上部プレート60の部位は側壁部63には限定されない。例えば、固定部61を支点として底面部62を含む上部プレート60の全体が揺動することによって当接圧力が増加されてもよい。
【0040】
〔その他の適用例〕
図1〜図9を用いて説明した各例においては、埋込磁石型の同期モータに本発明を適用する場合を例示した。しかし、上述したように、必ずしも永久磁石11に直接冷媒が触れる構造である必要はなく、ロータ10の電磁鋼板を介して永久磁石11の熱交換が実施されてもよい。例えば、永久磁石11がロータ10の表面に設置され、ロータ10の内部を貫通する流路を流れる冷媒と電磁鋼板を介して熱交換してもよい。従って、本発明は、埋込磁石型の同期モータへの適用に限定されることなく、表面磁石型の同期モータに適用されることを妨げられるものではない。
【0041】
また、図1〜図9を用いて説明した各例においては、ポンプが設置される側、つまり第1流路R1の上流側において第2流路R2が形成されて、冷媒がロータ10の径方向に導かれる形態を例示した。しかし、この構成に限定されることなく、第1流路R1の下流側において第2流路R2が形成されて、冷媒がロータ10の径方向に導かれてもよい。具体的には、図1において上部プレート60と下部プレート50との配置が逆となり、第2流路R2となるシャフトの貫通孔40bが、図示左側に形成されてもよい。
【0042】
以上、多様な例を挙げて説明したように、本発明によれば、ロータが高速回転した場合であってもロータの軸方向端部とプレートとの間からの冷媒の漏洩を抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0043】
1:モータ(回転電機)
3:圧力増加機構
10:ロータ
10g:弾性部材
10t:軸方向端部
40:シャフト(回転軸)
40a:回転軸の軸心に沿う方向に貫通して冷媒を流通させる内部空間
40b:第1流路の流路壁となる回転軸の壁面を貫通する貫通孔
60:上部プレート(プレート)
61:固定部
62:底面部
63:側壁部
63t:先端部
A:遠心力の働く方向
B:回転軸に沿う方向
R1:第1流路
R2:第2流路
R3:第3流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機のロータであって、
当該ロータの回転軸に設けられ、当該回転軸の軸心に沿う方向に貫通して冷媒を流通させる第1流路と、
前記第1流路の流路壁となる前記回転軸の壁面を当該ロータの径方向に沿って貫通し、前記第1流路と連通する第2流路と、
前記回転軸に沿う方向における当該ロータの端部である軸方向端部に当接するプレートと、
当該プレートと前記軸方向端部との間に形成され、前記第2流路と連通する第3流路と、
当該ロータが回転する際の遠心力に応じて前記軸方向端部と前記プレートとの当接圧力を増加させる圧力増加機構と、を備える回転電機のロータ。
【請求項2】
前記圧力増加機構は、当該ロータが回転する際の遠心力を前記回転軸に沿う方向の力に変換する方向変換機構を有する請求項1に記載の回転電機のロータ。
【請求項3】
前記プレートは、前記回転軸に固定される固定部と、前記回転軸を中心として当該ロータの径方向に広がる底面部と、前記底面部から当該ロータの前記軸方向端部に向けて立ち上がり先端部が前記軸方向端部に当接する側壁部とを有して形成され、
前記圧力増加機構は、前記遠心力により変形する前記側壁部を含んで構成される請求項1又は2に記載の回転電機のロータ。
【請求項4】
前記プレートは、前記回転軸に固定される固定部と、前記回転軸を中心として当該ロータの径方向に広がる底面部と、前記底面部から当該ロータの前記軸方向端部に向けて立ち上がり先端部が前記軸方向端部に当接する側壁部とを有して形成され、
前記圧力増加機構は、前記固定部において固定され、前記遠心力により全体が変形する前記プレートを含んで構成される請求項1又は2に記載の回転電機のロータ。
【請求項5】
前記プレートは、前記回転軸に固定される固定部と、前記回転軸を中心として当該ロータの径方向に広がる底面部と、前記底面部から当該ロータの前記軸方向端部に向けて立ち上がり先端部が前記軸方向端部に当接する側壁部とを有して形成され、
前記側壁部の前記先端部は、前記回転軸に直交する方向における前記側壁部の断面積よりも狭い接触面積で前記軸方向端部に当接する請求項1〜4の何れか一項に記載の回転電機のロータ。
【請求項6】
前記軸方向端部の前記プレートと当接する位置に弾性部材が備えられる請求項1〜5の何れか一項に記載の回転電機のロータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−254574(P2011−254574A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124725(P2010−124725)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】