回転電機制御装置
【課題】dq軸磁束干渉が生じるような回転電機でも、dq軸磁束干渉により、磁極方向の推定誤差が生じることを抑制できる回転電機制御装置が求められる。
【解決手段】回転電機に高周波電流を印加し、電圧指令に含まれる高周波成分に基づいてロータの磁極方向を推定し、前記回転電機を制御する回転電機制御装置であって、推定dq軸回転座標系における電流指令に高周波電流指令を重畳する高周波重畳部と、電圧指令を高周波座標系に座標変換した値が、高周波目標値に近づくように磁極方向の推定値を変化させる磁極方向調整部と、dq軸磁束干渉に関し、電流指令又はトルク指令に基づいて、磁束干渉推定誤差を算出して、座標変換に用いる高周波電流指令の位相又は高周波目標値を補正する定常推定誤差補正部と、を備える回転電機制御装置。
【解決手段】回転電機に高周波電流を印加し、電圧指令に含まれる高周波成分に基づいてロータの磁極方向を推定し、前記回転電機を制御する回転電機制御装置であって、推定dq軸回転座標系における電流指令に高周波電流指令を重畳する高周波重畳部と、電圧指令を高周波座標系に座標変換した値が、高周波目標値に近づくように磁極方向の推定値を変化させる磁極方向調整部と、dq軸磁束干渉に関し、電流指令又はトルク指令に基づいて、磁束干渉推定誤差を算出して、座標変換に用いる高周波電流指令の位相又は高周波目標値を補正する定常推定誤差補正部と、を備える回転電機制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、突極性を有するロータを備えた回転電機に高周波電流を印加し、前記高周波電流への応答成分として電圧指令に含まれる高周波成分に基づいて前記ロータの磁極方向を推定し、前記回転電機を制御する回転電機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような回転電機制御装置に関して、例えば下記の非特許文献1に記載された技術が知られている。非特許文献1の技術では、d軸とq軸との一方の軸の電流の変化が他方の軸の磁束に影響を与えるdq軸磁束干渉を考慮していない電圧方程式に基づいて、磁極方向の推定制御が設計されている。そのため、dq軸磁束干渉により、インダクタンスの突極性が変化するような回転電機では、磁極方向の推定誤差が生じる恐れがあった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】山田和範(Kazunori Yamada)、他2名、「高周波電流注入を利用した位置センサレス突極形PMモータの広範囲速度制御法(Speed Control Method of Position Sensor less Salient-Pole PM Motor for Wide Speed Range Using High Frequency Current Injection)」、平成9年(2010年)電気学会(The Institute of Electrical Engineers of Japan)全国大会論文、4-356〜357
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、dq軸磁束干渉が生じるような回転電機でも、dq軸磁束干渉により、磁極方向の推定誤差が生じることを抑制できる回転電機制御装置が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る、突極性を有するロータを備えた回転電機に高周波電流を印加し、前記高周波電流への応答成分として電圧指令に含まれる高周波成分に基づいて前記ロータの磁極方向を推定し、前記回転電機を制御する回転電機制御装置の特徴構成は、推定した磁極方向を推定d軸、当該推定d軸と電気角で直交する方向を推定q軸とした推定dq軸回転座標系を設定し、当該推定dq軸回転座標系における前記回転電機への電流指令に前記高周波電流の指令である高周波電流指令を重畳する高周波重畳部と、前記推定dq軸回転座標系に対して前記高周波電流指令の位相差を有する高周波座標系を設定し、前記推定dq軸回転座標系で表した前記電圧指令を前記高周波座標系に座標変換した値が、初期設定値をゼロとする高周波目標値に近づくように前記磁極方向の推定値を変化させる磁極方向調整部と、d軸とq軸との一方の軸の電流の変化が他方の軸の磁束に影響を与えるdq軸磁束干渉に関し、前記電流指令又は前記回転電機へのトルク指令に基づいて、前記dq軸磁束干渉により生じる前記磁極方向の推定値の誤差である磁束干渉推定誤差を算出し、当該磁束干渉推定誤差に基づいて、前記座標変換に用いる前記高周波電流指令の位相又は前記高周波目標値を補正する定常推定誤差補正部と、を備える点にある。
【0006】
なお、本願において「回転電機」は、交流駆動のモータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0007】
上記の特徴構成のように、磁極方向の推定制御が、推定dq軸回転座標系における電流指令に高周波電流指令を重畳すると共に、推定dq軸回転座標系で表した電圧指令を、高周波座標系に座標変換した値が、高周波目標値に近づくように磁極方向の推定値を変化させるように構成されている場合は、dq軸磁束干渉により生じる突極方向の傾きの影響が、高周波座標系への座標変換における位相ズレ、及び高周波座標系に座標変換した値のズレとして表れる。そして、これらの座標変換の位相ズレ及び座標変換値のズレにより、磁極方向の推定値の誤差である磁束干渉推定誤差が生じる。
上記の特徴構成によれば、電流指令又はトルク指令に基づいて、磁束干渉推定誤差を算出し、算出した磁束干渉推定誤差に基づいて、座標変換に用いる高周波電流指令の位相又は高周波目標値を補正するように構成されているので、磁束干渉推定誤差が生じる前に、予め、座標変換の位相ズレ、又は座標変換値のズレを補償することができる。よって、磁束干渉による誤差の発生を抑制することができる。
また、dq軸磁束干渉は、dq軸回転座標系で表した電流の動作点への依存性が高いため、推定dq軸回転座標系における電流指令に基づいて、磁束干渉推定誤差を算出することにより、動作点が変化しても磁束干渉推定誤差を精度良く算出することができる。又は、dq軸回転座標系で表した電流の動作点と相関性が高いトルク指令に基づいて、磁束干渉推定誤差を算出することにより、動作点が変化しても磁束干渉推定誤差を精度良く算出することができる。よって、動作点が変化しても磁束干渉推定誤差の発生を精度良く抑制することができる。
【0008】
ここで、前記定常推定誤差補正部は、前記磁束干渉推定誤差に加えて、前記推定dq軸回転座標系における電圧指令の演算周期により生じる前記磁極方向の推定値の誤差である演算周期推定誤差にも基づいて、前記高周波電流指令の位相又は前記高周波目標値を補正すると好適である。
【0009】
上記のように、磁極方向調整部は、推定dq軸回転座標系で表した電圧指令に基づいて、磁極方向を推定している。当該電圧指令と回転電機に印加される電圧との間には、電圧指令の演算周期により生じる処理遅れの時間差が存在する。処理遅れの時間差の影響が、上記のdq軸磁束干渉の場合と同様に、高周波座標系への座標変換における位相ズレ、及び高周波座標系に座標変換した値のズレとして表れる。そして、これらの座標変換の位相ズレ及び座標変換値のズレにより、磁極方向の推定値の誤差である演算周期推定誤差が生じる。
磁束干渉推定誤差に加えて演算周期推定誤差にも基づいて、座標変換に用いる高周波電流指令の位相又は高周波目標値を補正するように構成されているので、磁束干渉による誤差に加えて処理遅れによる誤差の発生も抑制することができる。
【0010】
ここで、前記定常推定誤差補正部は、前記電圧指令の演算周期の1.5倍の期間に前記高周波電流指令の角周波数を乗算した位相に応じて生じる前記磁極方向の推定値の誤差を前記演算周期推定誤差とすると好適である。
【0011】
電圧指令の演算を開始してから、回転電機に印加される電圧に反映されるまでの処理遅れ時間が演算周期の1.0倍の期間になり、演算周期毎に階段状に変化する回転電機に印加される電圧による処理遅れ時間が演算周期の0.5倍の期間になり、これら合計の処理遅れ時間は、演算周期の1.5倍の期間になる。上記の構成によれば、演算周期推定誤差は、電圧指令の演算周期の1.5倍の期間に、高周波電流指令の角周波数を乗算した位相に応じて生じる磁極方向の推定値の誤差とされているので、演算周期推定誤差を精度良く算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る回転電機制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る各座標系を説明するための図である。
【図3】本発明の実施形態に係る高周波電流指令を説明するための図である。
【図4】本発明の実施形態に係るγδ軸座標系を説明するための図である。
【図5】本発明の実施形態に係るdq軸電流指令の設定を説明するための図である。
【図6】本発明の実施形態に係るdq軸磁束干渉による推定誤差ための図である。
【図7】本発明の実施形態に係るdq軸磁束干渉を説明するための図である。
【図8】本発明の実施形態に係るγδ軸座標系の補正を説明するための図である。
【図9】本発明の実施形態に係るdq軸電流指令に基づく磁束干渉推定誤差の算出を説明するための図である。
【図10】本発明の実施形態に係るトルク指令に基づく磁束干渉推定誤差の算出を説明するための図である。
【図11】本発明の実施形態に係る演算周期推定誤差を説明するための図である。
【図12】本発明の実施形態に係る演算周期推定誤差を説明するための図である。
【図13】本発明の実施形態に係る演算周期推定誤差を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
回転電機MGは、ロータ及びステータを有している。ステータは、非回転部材に固定され、ロータは、当該ステータの径方向内側に回転自在に支持されている。本実施形態では、回転電機MGは、ロータ内部に永久磁石を埋め込んだ埋込磁石同期電動機(IPMSM)とされており、突極性を有する。なお、永久磁石の代わりに電磁石が備えられていてもよい。
図1に示すように、回転電機MGのステータに備えられた三相のコイルは、直流交流変換を行うインバータINを介して直流電源としての蓄電装置Btに電気的に接続されている。そして、回転電機MGは、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能と、を果たすことが可能とされている。インバータINは、蓄電装置Btの直流電力を交流電力に変換して回転電機MGを駆動するため、或いは回転電機MGが発電した交流電力を直流電力に変換して蓄電装置Btに充電するための複数のスイッチング素子を備えている。
【0014】
回転電機制御装置30は、直流電源の直流電力と交流電力との間で電力変換を行うインバータINを介して、回転電機MGを制御するための装置である。回転電機制御装置30は、図1に示すように、トルク電流演算部40、電流制御部41、電圧制御部42、及び実電流演算部43を備えている。
トルク電流演算部40は、トルク指令Tmcに基づいて、回転電機MGに流す電流の指令値を後述する推定dq軸回転座標系で表したdq軸電流指令Idc、Iqcを演算する。実電流演算部43は、推定磁極位置θeeに基づいて、回転電機MGに流れる三相実電流Iu、Iv、Iwを推定dq軸回転座標系の値に座標変換して、推定dq軸実電流Ide、Iqeを演算する。電流制御部41は、回転電機MGに印加する電圧指令を推定dq軸回転座標系で表したdq軸電圧指令Vdc、Vqcを、推定dq軸実電流Ide、Iqeがdq軸電流指令Idc、Iqcに近づくように変化させる。そして、電圧制御部42は、推定磁極位置θeeに基づいて、dq軸電圧指令Vdc、Vqcを、三相の電圧指令Vuc、Vvc、Vwcに変換し、当該三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcに基づき、インバータINが備える複数のスイッチング素子をオンオフ制御して、回転電機MGに印加する電圧を制御する。
【0015】
回転電機MGには、ロータの回転速度及び回転角度を検出するためのセンサが備えられておらず、回転電機制御装置30は、高周波重畳部31、磁極方向調整部32、及び定常推定誤差補正部33により、実磁極位置θer及び実磁極回転速度ωerを推定するように構成されている。すなわち、回転電機制御装置30は、突極性を有するロータを備えた回転電機MGに高周波電流を印加し、高周波電流への応答成分として電圧指令に含まれる高周波成分に基づいてロータの磁極方向を推定し、回転電機MGを制御するように構成されている。
【0016】
具体的には、高周波重畳部31は、推定した磁極方向を推定d軸、当該推定d軸と電気角で直交する方向(本実施形態では、90度位相が進んだ方向)を推定q軸とした推定dq軸回転座標系を設定し、当該推定dq軸回転座標系における回転電機MGへの電流指令Idc、Iqcに高周波電流の指令である高周波電流指令Idch、Iqchを重畳する。
磁極方向調整部32は、推定dq軸回転座標系に対して高周波電流指令Idch、Iqchの位相θh(以下、高周波位相θhと称す)の差を有する高周波座標系であるγδ軸座標系を設定し、推定dq軸回転座標系で表した電圧指令Vdc、Vqcをγδ軸座標系に座標変換した値が、初期設定値をゼロとする高周波目標値θδhcに近づくように磁極方向の推定値である推定磁極位置θeeを変化させる。
このような構成において、定常推定誤差補正部33が、d軸とq軸との一方の軸の電流の変化が他方の軸の磁束に影響を与えるdq軸磁束干渉に関し、dq軸電流指令Idc、Iqc又は回転電機MGへのトルク指令Tmcに基づいて、dq軸磁束干渉により生じる磁極方向の推定値の誤差である磁束干渉推定誤差Δθescrを算出し、磁束干渉推定誤差Δθescrに基づいて、γδ軸座標系への座標変換に用いる高周波位相θh、又は高周波目標値θδhcを補正する点に特徴を有している。
【0017】
ここで、実dq軸回転座標系は、図2にモデルを示すように、ロータの電気角に同期して回転する実d軸及び実q軸からなる回転座標系である。
実d軸は、ロータに備えられた磁石の界磁磁束の方向(磁極(N極)方向)に定められ、実q軸は、実d軸に対して電気角で直交する方向に定められている。本実施形態では、実q軸は、実d軸に対して電気角で90度位相が進んだ方向(ロータの回転方向)に定められている。本実施形態に係わる各図では、ロータの回転方向は、反時計回りの方向に設定されており、位相進み方向(位相が増加する方向)は、反時計回りの方向であり、位相遅れ方向(位相が減少する方向)は、時計回りの方向である。なお、ロータの回転方向が、時計回りの方向に設定される場合は、位相進み方向は、時計回りの方向になり、位相遅れ方向は、反時計回りの方向になる。
本実施形態では、ステータに備えられたU相コイルを基準にした場合の、実d軸(磁極方向)の電気角を実磁極位置θerとし、実d軸(磁極方向)の電気角速度を実磁極回転速度ωerとする。
【0018】
磁極方向調整部32により推定されたd軸(磁極方向)及びq軸を、それぞれ推定d軸、推定q軸とする。本実施形態では、U相コイルを基準にした場合の、推定d軸の電気角を推定磁極位置θeeとし、推定d軸の電気角速度を推定磁極回転速度ωeeとする。
実磁極位置θerと推定磁極位置θeeと位相差を、実d軸に対する推定d軸の推定誤差Δθe(=θee−θer)とする。
【0019】
更に、磁極方向の推定制御のために、推定d軸及び推定q軸からなる推定dq軸回転座標系に対して、高周波位相θhの差を有するγδ軸座標系が設定されている。γ軸は、推定d軸に対して、電気角で高周波位相θh分だけ高周波電流指令Idch、Iqchの回転方向とは反対方向に定められ、当該反対方向に推定d軸に対して高周波電流指令Idch、Iqchの角周波数ωh(以下、高周波周波数ωhと称す)で回転する。δ軸は、γ軸に対して電気角で90度位相が進んだ方向に定められている。よって、γδ軸座標系は、推定dq軸回転座標系において、高周波電流指令Idch、Iqchと反対方向に回転する。
本実施形態では、高周波電流指令Idch、Iqchは、詳細は後述するが、図3に示すように、推定dq軸回転座標系において、位相が進む方向(ロータの回転方向)に、高周波周波数ωhで回転するように設定される。よって、図2及び図4に示すように、γ軸は、推定d軸に対して、電気角で高周波位相θh分だけ位相が遅れた方向(ロータの回転方向の反対方向)に定められ、位相が遅れる方向に推定d軸に対して高周波周波数ωhで回転する。
以下、本実施形態に係る回転電機制御装置30について、詳細に説明する。
【0020】
1.回転電機制御装置30の構成
次に、回転電機MGを制御するための回転電機制御装置30の構成について説明する。
回転電機制御装置30は、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えるとともに、当該演算処理装置からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)等の記憶装置等を有して構成されている。そして、回転電機制御装置30のROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、図1に示すような回転電機制御装置30の機能部31〜33、40〜43などが構成されている。
【0021】
回転電機制御装置30には、電流センサSe1などのセンサから出力される電気信号が入力される。回転電機制御装置30は、入力された電気信号に基づき各センサの検出情報を算出する。
電流センサSe1は、各相のコイルに流れる電流を検出するためのセンサであり、インバータINと各相のコイルとをつなぐ電線上に備えられている。回転電機制御装置30は、電流センサSe1の入力信号に基づいて各相のコイルを流れる三相実電流Iu、Iv、Iwを検出する。
【0022】
回転電機制御装置30は、回転電機MGの動作制御を行う制御装置である。図1に示すように、回転電機制御装置30は、高周波重畳部31、磁極方向調整部32、定常推定誤差補正部33、トルク電流演算部40、電流制御部41、電圧制御部42、及び実電流演算部43などの機能部を備えており、各機能部が協働して、回転電機MGを制御する。
【0023】
1−1.トルク電流演算部40
トルク電流演算部40は、回転電機MGに出力させるトルク指令Tmcに基づいて、回転電機MGに流す電流の指令値を推定dq軸回転座標系で表したdq軸電流指令Idc、Iqcを演算する機能部である。なお、トルク電流演算部40で算出されたdq軸電流指令Idc、Iqcは、基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbとして出力される。
本実施形態では、トルク電流演算部40は、トルク指令Tmcのトルクを回転電機MGに出力させるようなd軸電流指令Idc及びq軸電流指令Iqcを算出するように構成されている。図5(a)において、等トルク曲線として示されているように、回転電機MGに同じ大きさのトルクを出力させるような、d軸電流指令Idc及びq軸電流指令Iqcの組み合わせは無数に存在する。そこで、トルク電流演算部40は、最大トルク電流制御、弱め磁束制御、Id=0制御、及び最大トルク磁束制御などの電流ベクトル制御方法に従って、dq軸電流指令Idc、Iqcを演算する。最大トルク電流制御は、同一電流に対して発生トルクを最大にするようなdq軸電流指令Idc、Iqcを算出する制御方法である。弱め磁束制御は、負のd軸電流を流すことで、d軸電機子反作用による減磁効果を利用してd軸方向の磁束を減少させるように、dq軸電流指令Idc、Iqcを算出する制御方法である。Id=0制御は、d軸電流指令Idcを0に設定し、トルク指令Tmcに応じて、q軸電流指令Iqcを変化させる制御方法である。最大トルク磁束制御は、同一トルク発生時に鎖交磁束が最小となるように、dq軸電流指令Idc、Iqcを算出する制御方法である。
【0024】
電流ベクトル制御方法が最大トルク電流制御に決定されている場合は、トルク電流演算部40は、図5(a)に示すような最大トルク電流曲線上に、dq軸電流指令Idc、Iqcを決定する。ここで、最大トルク電流曲線は、最大トルク電流制御を行う際に、dq軸電流Id、Iqが取り得る値をつないでなる曲線である。
一方、電流ベクトル制御方法が弱め磁束制御に決定されている場合は、トルク電流演算部40は、負のd軸電流を流すことで、d軸電機子反作用による減磁効果を利用してd軸方向の磁束を減少させるように、dq軸電流指令Idc、Iqcを算出する。dq軸電流指令Idc、Iqcは、弱め磁束制御に対応して設定されている変調率M(例えば、0.78)、直流電圧、及び磁極回転速度に対応する定誘起電圧楕円(電圧制限楕円)上に決定される。
以下では、最大トルク電流制御が行われる場合を例に説明する。
【0025】
図5(a)に示すように、トルク電流演算部40は、トルク指令Tmcが0から増加するにつれ、最大トルク電流曲線に沿って、q軸電流指令Iqcを0から増加させ、d軸電流指令Idcを0から減少させる。一方、トルク電流演算部40は、トルク指令Tmcが0から減少するにつれ、最大トルク電流曲線に沿って、q軸電流指令Iqcを0から減少させ、d軸電流指令Idcを0から減少させる。図5(b)(c)に、トルク指令Tmcに対する各電流指令Idc、Iqcの関係特性を示すように、q軸電流指令Iqcは、トルク指令Tmcの増加に対して単調増加するように算出される。一方、d軸電流指令Idcは、トルク指令Tmcが0未満の場合は、トルク指令Tmcの増加に対して単調増加するように算出され、トルク指令Tmcが0より大きい場合は、トルク指令Tmcの増加に対して単調減少するように算出される。
【0026】
1−2.実電流演算部43
実電流演算部43は、推定磁極位置θeeに基づいて、回転電機MGに流れる三相実電流Iu、Iv、Iwを推定dq軸回転座標系の値に座標変換して、推定dq軸実電流Ide、Iqeを演算する機能部である。本実施形態では、実電流演算部43は、電流センサSe1により検出した各相のコイルを流れる実電流Iu、Iv、Iwを、推定磁極位置θeeに基づいて、三相二相変換及び回転座標変換を行って、推定dq軸回転座標系で表した推定d軸実電流Ide、推定q軸実電流Iqeに変換する。
【0027】
1−3.電流制御部41
回転電機制御装置30は、式(1)に示すように、トルク電流演算部40が算出した基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbに、高周波重畳部31が算出した高周波電流指令Idch、Iqchを加算した値を、dq軸電流指令Idc、Iqcとして設定する。
【数1】
電流制御部41は、推定dq軸実電流Ide、Iqeがdq軸電流指令Idc、Iqcに近づくように、dq軸電圧指令Vdc、Vqcを変化させる機能部である。
電流制御部41は、dq軸電流指令Idc、Iqcに重畳している高周波電流指令Idch、Iqch成分に、推定dq軸実電流Ide、Iqeが追従するように、dq軸電圧指令Vdc、Vqcを変化させる。
本実施形態では、電流制御部41は、基本フィードバック制御器、非干渉制御器、内部モデル制御器を備えている。電流制御部41は、式(2)に示すように、各制御器が算出した、基本電圧指令Vbd、Vbq、非干渉電圧指令Vdd、Vdq、及び内部モデル電圧指令Vid、Viqを足し合わせて、dq軸電圧指令Vdc、Vqcを算出する。
【数2】
【0028】
<基本フィードバック制御器>
基本フィードバック制御器は、高周波電流指令Idch、Iqchが重畳しているdq軸電流指令Idc、Iqcと推定dq軸実電流Ide、Iqeとの電流偏差ΔId、ΔIqに基づいて、フィードバック演算を行って基本電圧指令Vbd、Vbqを算出する。
本実施形態では、基本フィードバック制御器は、式(3)、式(4)に示すように、電流偏差ΔId、ΔIqに基づいて、比例演算及び積分演算を行って基本電圧指令Vbd、Vbqを算出する比例積分(PI)制御器とされている。
【数3】
【数4】
ここで、Kpdは、d軸比例ゲインであり、Kpqは、q軸比例ゲインであり、Kidは、d軸積分ゲインであり、Kiqは、q軸積分ゲインである。
なお、基本フィードバック制御器は、比例積分(PI)制御以外のフィードバック制御、例えば、比例積分微分(PID)制御などを行う制御器とされていてもよい。
【0029】
<非干渉制御器>
非干渉制御器は、dq軸間の干渉を相殺するように、dq軸電流指令Idc、Iqcに基づいて、式(5)に示すようなフィードフォワード的な非干渉化の演算を行って、非干渉電圧指令Vdd、Vdqを算出する。
【数5】
ここで、Ldは、d軸インダクタンスであり、Lqは、q軸インダクタンスであり、Φは、磁石による鎖交磁束である。
本実施形態では、非干渉制御器は、高周波電流指令Idch、Iqchが重畳していない基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbに基づいて、非干渉電圧指令Vdd、Vdqを算出するように構成されている。
【0030】
<内部モデル制御器>
内部モデル制御器は、トルク指令Tmcに周期的な振動成分が含まれる場合に、当該周期的な振動成分によって周期的に振動する基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbへの追従性を向上させるために、内部モデル原理の制御理論に基づいて設計された制御器である。
ここで、内部モデル原理とは、フィードバック系の内部に、指令値の極と同じ極を有する制御器を導入することが有効であるという制御理論である。
内部モデル制御器は、各基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbに含まれる振動成分の周波数ωid、ωiqの周期関数の特性を有する高調波モデルを用いた演算により、内部モデル電圧指令Vid、Viqを算出する。
【0031】
本実施形態では、内部モデル制御器は、式(6)、式(7)に示すように、電流偏差ΔId、ΔIqに基づいて、周波数ωid、ωiqの正弦波又は余弦波の周期関数に対応する伝達関数を分母に有する高調波モデルを用いた演算を行って、内部モデル電圧指令Vid、Viqを算出する。
【数6】
【数7】
高調波モデルの伝達関数の分子Bd(s)、Bq(s)は、電流フィードバック制御系の安定性が確保されるように設定される。
【0032】
1−4.電圧制御部42
電圧制御部42は、交流電圧指令算出部と、インバータ制御部とを備えている。交流電圧指令算出部は、推定磁極位置θeeに基づいて、dq軸電圧指令Vdc、Vqcを、三相の電圧指令Vuc、Vvc、Vwcに変換する機能部である。インバータ制御部は、三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcに基づき、インバータINが備える複数のスイッチング素子をオンオフ制御して、回転電機MGに印加する電圧を制御する機能部である。
1−4−1.交流電圧指令算出部
<パルス幅変調制御>
交流電圧指令算出部は、インバータINの制御方式としてパルス幅変調制御が設定されている場合は、推定dq軸回転座標系で表したdq軸電圧指令Vdc、Vqcを、推定磁極位置θeeに基づいて、固定座標変換及び二相三相変換を行って、三相それぞれのコイルへの電圧指令である三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcに変換する。
過変調パルス幅変調制御が設定されている場合は、インバータINの出力電圧波形における基本波成分の変調率Mが、目標とする変調率Mに一致するように、固定座標変換及び二相三相変換に加えて、三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcを歪ませる振幅補正が行われる。
なお、回転電機制御装置30は、式(8)に示すように、dq軸電圧指令Vdc、Vqc及び直流電圧VHに基づいて、変調率Mを算出するように構成されている。直流電圧VHは、電圧センサにより検出された、蓄電装置Btの電圧である。
【数8】
【0033】
<矩形波制御>
交流電圧指令算出部は、インバータINの制御方式として矩形波制御が設定されている場合は、推定dq軸回転座標系で表したdq軸電圧指令ベクトルの位相θvを、式(9)に従い算出し、推定磁極位置θeeと位相θvに基づいて、位相が調整された1パルス矩形波の三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcを算出する。
【数9】
ここで、dq軸電圧指令ベクトルは、推定dq軸回転座標系において原点からdq軸電圧指令Vdc、Vqcの座標点に向うベクトルである。dq軸電圧指令ベクトルの位相θvは、推定q軸に対するdq軸電圧指令ベクトルの電気角での位相である。
なお、回転電機制御装置30は、インバータINの制御方式、電流ベクトル制御方法などの制御モードを、推定磁極回転速度ωee、トルク指令Tmc、変調率Mなどに基づいて設定する。
【0034】
1−4−2.インバータ制御部
インバータ制御部は、三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcに基づき、インバータINが備える複数のスイッチング素子をオンオフ制御するインバータ制御信号Suvwを生成する。
<パルス幅変調制御>
インバータ制御部は、インバータINの制御方式としてパルス幅変調制御が設定されている場合は、三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcと搬送波とに基づいてスイッチング素子をオンオフ制御するインバータ制御信号Suvwを生成する。代表的には、直流電圧VHの振幅を有する三角波の搬送波と、三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcと、の比較結果に基づき、インバータ制御信号Suvwが生成される。
あるいは、変調率Mと、式(9)に基づいて算出されたdq軸電圧指令ベクトルの位相θvと、推定磁極位置θeeと、に基づいて、スイッチング素子をオンオフ制御するインバータ制御信号Suvwを生成するように構成されてもよい。
【0035】
<矩形波制御>
インバータ制御部は、インバータINの制御方式として矩形波制御が設定されている場合は、三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcに基づいてロータの電気角に同期してスイッチング素子を1回ずつオンオフ制御するインバータ制御信号Suvwを生成する。
あるいは、矩形波制御が設定されている場合は、交流電圧指令算出部は三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcを算出せずに、インバータ制御部は、推定磁極位置θeeとdq軸電圧指令ベクトルの位相θvに基づいて、直接、インバータ制御信号Suvwを生成するように構成されてもよい。
【0036】
1−5.高周波重畳部31
高周波重畳部31は、dq軸電流指令Idc、Iqcに高周波電流指令Idch、Iqchを重畳する。
本実施形態では、高周波重畳部31は、式(10)及び図3に示すように、高周波電流指令Idch、Iqchを、推定dq軸回転座標系において、原点を中心にした半径Ihの円周上を、位相が進む方向(ロータの回転方向)に高周波周波数ωhで回転する座標点となるように設定する。このため、高周波電流指令Idch、IqchのU相コイルに対する回転周波数は、推定d軸のU相コイルに対する回転周波数よりも高くなり、高周波成分となる。
【数10】
【0037】
1−6.磁極方向調整部32
磁極方向調整部32は、dq軸電圧指令Vdc、Vqcをγδ軸座標系に座標変換した値が、初期設定値をゼロとする高周波目標値θδhcに近づくように磁極方向の推定値である推定磁極位置θeeを変化させる機能部である。
【0038】
上記のように、推定dq軸回転座標系において、dq軸電流指令Idc、Iqcに高周波電流指令Idch、Iqchが重畳され、電流制御部41により、推定dq軸実電流Ide、Iqeを高周波電流指令Idch、Iqch成分に追従させるようにdq軸電圧指令Vdc、Vqcが変化された結果、推定dq軸実電流Ide、Iqeに含まれる高周波成分である推定dq軸高周波実電流Idhe、Iqheが回転電機MGに印加される。
その結果、推定dq軸回転座標系において、式(11)に示す推定dq軸高周波実電圧Vdhe、Vqheが発生する。なお、式(11)は、後述する式(17)に示す、dq軸磁束干渉が生じない場合の実dq軸回転座標系における電圧方程式を、推定dq軸回転座標系における電圧方程式に座標変換すると共に、推定dq軸回転座標系への座標変換後の実電流Ide、Iqeに、推定dq軸高周波実電流Idhe、Iqheを代入し、整理して得られる。ここで、推定dq軸高周波実電流Idhe、Iqheは、式(10)に示す高周波電流指令Idch、Iqchに位相遅れなく追従しているものとしている。
【数11】
ここで、Ldは、d軸インダクタンスであり、Lqは、q軸インダクタンスであり、Φは、磁石による鎖交磁束であり、Raは、コイルの抵抗である。
式(11)の右辺第1〜3項は、推定誤差Δθeの変化が遅ければ、ほぼ高周波周波数ωhの周波数成分であり、右辺第4項は、ほぼ直流成分である。よって、推定dq軸高周波実電圧Vdhe、Vqheに対して、中心角周波数が高周波周波数ωhのバンドパスフィルタ処理を行えば、式(12)に示すように、式(11)の右辺第1〜3項のみを抽出できる。
【数12】
【0039】
本実施形態では、図1に示すように、BPF60が、dq軸電圧指令Vdc、Vqcに対して、高周波周波数ωh帯域の成分を通過するバンドパスフィルタ処理を行って、dq軸フィルタ後電圧指令Vdcf、Vqcfを算出する。このバンドパスフィルタ処理により、式(11)の右辺第4項を除去し、右辺第1〜3項のみを抽出できる。また、バンドパスフィルタ処理により、dq軸電圧指令Vdc、Vqcに含まれる、基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbに対応する成分も除去できる。
【0040】
そして、式(12)に示すバンドパスフィルタ処理後の推定dq軸高周波実電圧Vdhef、Vqhefを、γδ軸座標系で表したγδ軸高周波電圧Vγh、Vδhに座標変換すると式(13)を得る。
【数13】
本実施形態では、γδ座標変換61が、dq軸フィルタ後電圧指令Vdcf、Vqcfを、式(14)に示すように、初期設定値が高周波位相θhに設定された変換用高周波位相θhcに基づいて、γδ軸座標系で表したγδ軸高周波電圧Vγh、Vδhに座標変換する。
【数14】
ここで、後述する定常推定誤差補正部33により、γδ軸座標系への座標変換に用いる高周波位相θhが補正されるように構成される場合は、変換用高周波位相θhcには、補正後の高周波位相θhの値が設定される(θhc=θh−2Δθes)。一方、高周波位相θhが補正されないように構成される場合は、変換用高周波位相θhcには、高周波位相θhの値がそのまま設定される(θhc=θh)。
【0041】
図3、図4を用いて説明したように、高周波電流指令Idch、Iqchとγδ軸座標系とは、推定dq軸回転座標系において、逆方向に高周波周波数ωhで回転しているので、式(12)の正弦又は余弦の各位相に高周波位相θhが加算されて、式(13)が導出される。式(13)の右辺第1、2項は、高周波周波数ωhの2倍周波数を有する成分となり、式(13)の右辺第3項から、高周波周波数ωhの成分が除去されている。
式(13)の右辺第3項は、推定誤差Δθeに関係した項である。高周波周波数ωhに比べて推定誤差Δθeの変化は遅いため、この第3項は低周波成分となって現れる。よって、γδ軸高周波電圧Vγh、Vδhに対して、ローパスフィルタ処理を行えば、式(15)に示すように、式(13)の右辺第3項のみを抽出できる。
【数15】
【0042】
推定誤差Δθeが微小であれば、式(16)に示すように、sin(−2Δθe)≒−2Δθeと近似でき、δ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfは、Δθeに比例する。よって、δ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfがゼロになるように、推定磁極位置θeeを調整すれば、推定誤差Δθeがゼロになり、推定d軸を実d軸に一致させることができる(θer=θee)。
【数16】
ここで、位相電圧変換ゲインKthvは、位相から電圧への変換ゲインに相当する。
【0043】
本実施形態では、LPF62が、δ軸高周波電圧Vδhに対して、高周波周波数ωhの2倍周波数より小さいカットオフ周波数が設定されたローパスフィルタ処理を行って、δ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfを算出する。
単位換算部65が、δ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfに位相電圧変換ゲインKthvの逆数を乗算して、δ軸フィルタ後高周波位相θδhfを算出する(θδhf=Vδhf/Kthv)。
そして、推定値フィードバック制御部63が、δ軸フィルタ後高周波位相θδhfが、高周波目標値θδhcに近づくように、推定磁極回転速度ωeeを変化させるフィードバック制御を行う。フィードバック制御として、比例積分制御などの各種の制御を用いることができる。そして、積分器64が、推定磁極回転速度ωeeを積分して、推定磁極位置θeeを算出する。このように、本実施形態では、回転により常に変化する実磁極位置θerに比べて変化の少ない実磁極回転速度ωerに対応した推定磁極回転速度ωeeを、フィードバック制御により変化させるように構成されているので、回転速度の変化がない定常状態において、推定磁極位置θeeの推定精度を高めることができる。
ここで、後述する定常推定誤差補正部33により、高周波目標値θδhcが補正されるように構成される場合は、高周波目標値θδhcには、補正後の高周波目標値θδhcの値が設定される(θδhc=0−Δθes)。一方、高周波目標値θδhcが補正されないように構成される場合は、高周波目標値θδhcには、ゼロがそのまま設定される(θδhc=0)。
【0044】
1−7.定常推定誤差補正部33
定常推定誤差補正部33は、dq軸磁束干渉に関し、dq軸電流指令Idc、Iqc又は回転電機MGへのトルク指令Tmcに基づいて、dq軸磁束干渉により生じる推定磁極位置θeeの誤差である磁束干渉推定誤差Δθescrを算出し、磁束干渉推定誤差Δθescrに基づいて、γδ軸座標系への座標変換に用いる高周波位相θh、又は高周波目標値θδhcを補正する機能部である。
本実施形態では、定常推定誤差補正部33は、磁束干渉推定誤差Δθescrに加えて、dq軸電圧指令Vdc、Vqcの演算周期ΔToにより生じる推定磁極位置θeeである演算周期推定誤差Δθesdsにも基づいて、γδ軸座標系への座標変換に用いる高周波位相θh、又は高周波目標値θδhcを補正するように構成されている。
すなわち、本実施形態では、図1に示すように、定常推定誤差補正部33は、磁束干渉推定誤差Δθescrと演算周期推定誤差Δθesdsとを足し合わせて、定常推定誤差Δθesを算出する(Δθes=Δθescr+Δθesds)。
【0045】
定常推定誤差補正部33は、γδ軸座標系への座標変換に用いる高周波位相θhを補正するように構成されている場合は、定常推定誤差Δθesを2倍した値を、高周波位相θhから減算して、変換用高周波位相θhcを算出するように構成されている(θhc=θh−2Δθes)。なお、定常推定誤差補正部33は、高周波位相θhを補正しないように構成されている場合は、高周波位相θhがそのまま変換用高周波位相θhcとして設定されるように構成されている(θhc=θh)。
一方、定常推定誤差補正部33は、高周波目標値θδhcを補正するように構成されている場合は、定常推定誤差Δθesを、初期設定値ゼロから減算して、高周波目標値θδhcを設定するように構成されている(θδhc=0−Δθes)。定常推定誤差補正部33は、高周波目標値θδhcを補正しないように構成されている場合は、ゼロがそのまま高周波目標値θδhcとして設定されるように構成されている(θδhc=0)。
【0046】
図1に示す切替器51及び切替器53は、定常推定誤差補正部33における、択一的な構成を便宜上示すものであって、実際には回転電機制御装置30に備えられていない。切替器51及び切替器53によって接続された一方に対応する構成のみが、回転電機制御装置30に備えられ、接続されていない他方の構成は、回転電機制御装置30に備えられない。
以下、定常推定誤差補正部33の各部の構成について詳細に説明する。
【0047】
1−7−1.磁束干渉推定誤差Δθescr
まず、磁束干渉推定誤差Δθescrについて説明する。
磁極方向の推定は、q軸インダクタンスLqがd軸インダクタンスLdより大きいことによる突極性を利用している。すなわち、式(11)から式(16)を用いて説明した原理により、円の軌跡を描く推定dq軸高周波実電流Idhe、Iqheへの応答成分として、推定dq軸高周波実電圧Vdhe、Vqheの軌跡の突方向(長径方向)がq軸方向として推定されるように構成されている。
【0048】
<dq軸磁束干渉が生じない場合>
本実施形態に係わる回転電機MGとは異なり、dq軸磁束干渉が生じない回転電機の場合の、実dq軸回転座標系における電圧方程式は、式(17)に示すようになる。ここで、pは、微分演算子(d/dt)を表す。
【数17】
式(10)に示すようなdq軸高周波実電流Idh、Iqhを回転電機MGに印加した場合のdq軸高周波実電圧Vdh、Vqhは、式(18)に示すように近似できる。ここで、実磁極回転速度ωerに対して十分大きい高周波周波数ωhの高周波電流を印加すると仮定してωer=0、Ra=0と近似している。
【数18】
式(18)に示すdq軸高周波実電圧Vdh、Vqhの軌跡は、図6(a)に示すように、突極性によりq軸方向が長径(LqIhωh)となり、d軸方向が短径(LdIhωh)となる楕円になる。すなわち、インダクタンスの突極方向と、q軸方向が一致している。
よって、dq軸磁束干渉が生じない回転電機の場合は、高周波電圧軌跡の突方向(長径)に推定される推定q軸と、実q軸とが一致するため、dq軸磁束干渉による推定誤差が生じない。
【0049】
<dq軸磁束干渉が生じる場合>
本実施形態のように、dq軸磁束干渉が生じる回転電機MGでは、回転電機MGを流れる電流が大きくなると、電流ベクトル方向(q軸)に磁気飽和が生じ、その影響でd−q軸間に相互干渉が生じる。これにより、d軸とq軸との一方の軸の電流変化が他方の軸の磁束に影響を与えるdq軸磁束干渉が生じる。
このようにdq軸磁束干渉が生じる回転電機MGの場合の、実dq軸回転座標系における電圧方程式は、式(19)に示すようになる。
【数19】
ここで、Ldhは、d軸の高周波自己インダクタンスであり、Lqhは、q軸の高周波自己インダクタンスであり、Ldqhは、q軸電流Iqにより生じるd軸の高周波相互インダクタンスであり、Lqdhは、d軸電流Idにより生じるq軸の高周波相互インダクタンスである。高周波相互インダクタンスLdqh、Lqdhが、dq軸磁束干渉により生じる成分である。
【0050】
各高周波インダクタンスLdh、Lqh、Ldqh、Lqdhは、図7の例に示すような、d軸電流Id及びq軸電流Iqの関数であるd軸の鎖交磁束λd及びq軸の鎖交磁束λqを用いて、式(20)により得られる。
【数20】
ここで、ΔId、ΔIqは、それぞれd軸電流Id、q軸電流Iqの微小変化を表す。
図7(a)の例に示すように、d軸の鎖交磁束λdは、基本的にd軸電流Idが増加するにつれ増加するが、dq軸磁束干渉により、q軸電流Iqの変化によっても変化する。図7(b)の例に示すように、q軸の鎖交磁束λqは、基本的にq軸電流Iqが増加するにつれ増加するが、dq軸磁束干渉により、d軸電流Idの変化によっても変化する。各鎖交磁束λd、λqは、d軸電流Id、q軸電流Iqの動作点によって傾向が変化する非線形性が強い特性となっている。
なお、図7では、各鎖交磁束λd、λqの等磁束曲線を、磁束0から増加又は減少方向に所定の磁束間隔Δλd、Δλqで示している。等磁束曲線は、所定の鎖交磁束λd、λqとなるd軸電流Id、q軸電流Iqの軌跡である。また、各鎖交磁束λd、λqは、FEM、又は実験により得ることができる。
【0051】
実dq軸回転座標系において、円の軌跡を描くdq軸高周波実電流Idh、Iqhを回転電機MGに印加した場合のdq軸高周波実電圧Vdh、Vqhは、式(18)と同様にωer=0、Ra=0と近似すると、式(21)に示すように近似できる。
【数21】
式(21)に示すdq軸高周波実電圧Vdh、Vqhの軌跡は、図6(b)に示すように、dq軸磁束干渉により、長径方向が実q軸に対して偏角Δθcr(以下、磁束干渉偏角Δθcrと称す)を有する楕円になる。すなわち、dq軸磁束干渉により、インダクタンスの突極方向が、q軸方向に対して傾いている。
よって、dq軸磁束干渉が生じる場合は、高周波電圧軌跡の突方向(長径方向)に推定される推定q軸は、磁束干渉偏角Δθcrに対応する定常的な推定誤差Δθeである磁束干渉推定誤差Δθescrを有する。
【0052】
実dq軸回転座標系におけるdq軸高周波実電圧Vdh、Vqhの式(21)を、推定dq軸回転座標系に座標変換して、推定dq軸回転座標系における推定dq軸高周波実電圧Vdhe、Vqheの式(22)を得る。
【数22】
【0053】
式(10)に示す高周波電流指令Idch、Iqchに対応する推定dq軸高周波実電流Idhe、Iqheが回転電機MGに印加されるとすると、式(22)は式(23)のように整理できる。
【数23】
式(23)の右辺第1項は、式(11)の右辺第2項に対応しており、式(23)の右辺第2項は、式(11)の右辺第3項に対応している。上記で説明した、磁極方向の推定制御によるバンドパスフィルタ処理、γδ軸座標系への座標変換、ローパスフィルタ処理により、式(15)に対応するγδ軸フィルタ後高周波電圧Vγhf、Vδhfは、式(24)のようになる。
【数24】
そして、式(24)のδ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfは、式(25)のように近似できる。
【数25】
磁極方向の推定制御により、δ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfがゼロになるように推定磁極位置θeeが調整されると、Δθe−Δθcr=0になり、磁束干渉偏角Δθcrの値の定常的な推定誤差Δθeが生じる(Δθe=Δθcr)。磁束干渉偏角Δθcrにより生じる定常的な推定誤差Δθeを、式(26)に示すように、磁束干渉推定誤差Δθescrと定義する。
【数26】
【0054】
<磁束干渉推定誤差Δθescrの補償>
磁束干渉推定誤差Δθescrを補償するために、2つの方法が考えられる。
第一の方法は、γδ軸座標系への座標変換に用いる高周波位相θhを補正する方法である。第二の方法は、δ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfの目標値である高周波目標値θδhcを補正する方法である。
【0055】
<γδ軸座標系の補正>
まず、第一の方法について説明する。
第一の方法では、γδ軸座標系への座標変換に用いる高周波位相θhを、予め同定しておいた磁束干渉偏角Δθcr(磁束干渉推定誤差Δθescr)に基づいて補正する。
具体的には、推定dq軸回転座標系において、γ軸を、高周波電流指令Idch、Iqchの回転方向(γ軸の回転方向の反対方向)に、磁束干渉偏角Δθcrの2倍位相分だけ変化させる補正を行い、当該干渉補正後のγδ軸回転座標系への座標変換を行う。
本実施形態では、図8に示すように、γ軸の回転方向は、位相が遅れる方向(ロータの回転方向の反対方向)に設定されているので、γ軸を、磁束干渉偏角Δθcrの2倍位相分だけ位相が進む方向(ロータの回転方向)に変化させる補正を行う。よって、干渉補正後のγ軸は、推定d軸に対して、高周波位相θhから磁束干渉偏角Δθcrの2倍位相を減算した位相(θhc=θh−2Δθcr)分だけ位相が遅れた方向に定められる。
【0056】
従って、式(13)を用いて説明したγδ軸座標系への座標変換において、−θhに対して、磁束干渉偏角Δθcrの2倍位相分を進めて、γδ軸座標系への座標変換を行う。式(23)に示す推定dq軸高周波実電圧Vdhe、Vqheに対して、干渉補正後のγδ軸座標系への座標変換を行うと、γδ軸高周波電圧Vγh、Vδhは式(27)のようになる。
【数27】
式(27)の右辺第1項は、ローパスフィルタ処理により除去されるので、γδ軸フィルタ後高周波電圧Vγhf、Vδhfは、干渉補正により式(24)及び式(25)から式(28)のように変化する。
【数28】
そして、式(28)のδ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfがゼロになるように、推定磁極位置θeeを調整すれば、推定誤差Δθeをゼロにすることができる。従って、γδ軸座標系への座標変換に用いる高周波位相θhを、予め同定しておいた磁束干渉偏角Δθcr(磁束干渉推定誤差Δθescr)に基づいて補正することにより、推定誤差Δθeをゼロにすることができ、磁束干渉推定誤差Δθescrが生じないようにすることができる。
【0057】
<高周波目標値θδhc>
次に、第二の方法について説明する。
第二の方法では、δ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfの目標値である高周波目標値θδhcを、予め同定しておいた磁束干渉偏角Δθcr(磁束干渉推定誤差Δθescr)に基づいて補正する。
具体的には、高周波目標値θδhcにδ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfに位相電圧変換ゲインKthvの逆数を乗算した値θδhfが一致するように制御されるので、推定誤差Δθeが0になるように、高周波目標値θδhcを、式(29)に示すように設定する。
【数29】
ここで、位相電圧変換ゲインKthvは、位相から電圧への変換ゲインに相当する。
よって、高周波目標値θδhcを、予め同定しておいた磁束干渉偏角Δθcr(磁束干渉推定誤差Δθescr)に基づいて補正することにより、推定誤差Δθeがゼロにすることができ、磁束干渉推定誤差Δθescrが生じないようにすることができる。
【0058】
<磁束干渉誤差演算部34>
図1に示すように、定常推定誤差補正部33に備えられた磁束干渉誤差演算部34が、dq軸電流指令Idc、Iqc又はトルク指令Tmcに基づいて、磁束干渉推定誤差Δθescrを算出する。
本実施形態では、磁束干渉誤差演算部34は、磁束干渉推定誤差Δθescrに係わる特性が予め設定された干渉誤差特性50を備えている。本実施形態では、干渉誤差特性50には、dq軸電流Id、Iq又は回転電機MGの出力トルクと、磁束干渉推定誤差Δθescrとの関係特性が予め設定されている。そして、磁束干渉誤差演算部34は、dq軸電流指令Idc、Iqc又はトルク指令Tmcに基づき、干渉誤差特性50を用いて、磁束干渉推定誤差Δθescrを算出するように構成されている。
【0059】
本実施形態では、図1に示すように、高周波電流指令Idch、Iqchが加算される前の基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbに基づいて、磁束干渉推定誤差Δθescrを算出するように構成されている。なお、高周波電流指令Idch、Iqchが加算された後のdq軸電流指令Idc、Iqc、又は実電流演算部43により演算された推定dq軸実電流Ide、Iqeに基づいて、磁束干渉推定誤差Δθescrを算出するように構成されてもよい。
【0060】
<dq軸電流指令Idc、Iqcに基づく場合>
干渉誤差特性50が、dq軸電流Id、Iqと磁束干渉推定誤差Δθescrとの関係特性の場合は、図9に示す例のような三次元マップ状の特性を有する。図9には、等磁束干渉推定誤差曲線を、推定誤差0から増加又は減少方向に所定の推定誤差間隔Δθoで示している。等磁束干渉推定誤差曲線は、所定の磁束干渉推定誤差Δθescrとなるd軸電流Id、q軸電流Iqの軌跡である。
【0061】
図9の例に示すように、磁束干渉推定誤差Δθescrは、最大トルク電流曲線に沿って見た場合、q軸電流Iqがゼロから増加するにつれゼロから減少し、q軸電流Iqがゼロから減少するにつれゼロから増加する特性となっている。q軸電流Iqがゼロ付近では、磁束干渉推定誤差Δθescrはゼロ付近であるが、q軸電流Iqの絶対値が大きくなるに従い、磁気飽和が大きくなり、磁束干渉推定誤差Δθescrの絶対値が大きくなっている。また、磁束干渉推定誤差Δθescrは、dq軸電流Id、Iqの動作点によって傾向が変化し、非線形性が強い特性となっている。
【0062】
<トルク指令Tmcに基づく場合>
干渉誤差特性50が、回転電機MGの出力トルクと磁束干渉推定誤差Δθescrとの関係特性の場合は、図10に示す例のような2次元マップ状の特性を有する。
上記のように、基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbは、最大トルク電流曲線のような、電流ベクトル制御方法毎に設定された制御則に従い、トルク指令Tmcに基づいて決定される。よって、図5(b)、(c)に示す最大トルク電流制御の場合のように、トルク指令Tmcと、基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbとの間には、電流ベクトル制御方法毎に所定の対応関係があり、トルク指令Tmcに応じて、基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbの動作点が特定される。そして、図9に示すような特性を用いて、特定された基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbの動作点における、磁束干渉推定誤差Δθescrを求めることができる。よって、回転電機MGの出力トルクと磁束干渉推定誤差Δθescrとの間には、電流ベクトル制御方法毎に所定の関係特性があり、当該電流ベクトル制御方法毎の関係特性が、干渉誤差特性50に予め設定されている。磁束干渉誤差演算部34は、設定されている電流ベクトル制御方法に対応する関係特性を用いて、磁束干渉推定誤差Δθescrを算出するように構成されている。
【0063】
図10には、最大トルク電流制御の場合の関係特性の例を示している。磁束干渉推定誤差Δθescrは、出力トルクがゼロから増加するにつれゼロから減少し、出力トルクがゼロから減少するにつれゼロから増加している。出力トルクがゼロ付近では、磁束干渉推定誤差Δθescrはゼロ付近であるが、出力トルクの絶対値が大きくなるに従い、磁気飽和が大きくなり、磁束干渉推定誤差Δθescrの絶対値が大きくなっている。
【0064】
<干渉誤差特性50の設定値>
干渉誤差特性50に設定される磁束干渉推定誤差Δθescrの値は、FEM又は実験により得た各高周波インダクタンスLdh、Lqh、Ldqh、Lqdhに基づき、式(22)に示す磁束干渉偏角Δθcrと各高周波インダクタンスとの関係を表す理論式に対応する式(30)を用いて、予め算出された値に設定される。或いは、干渉誤差特性50の値は、実験により予め測定された磁束干渉推定誤差Δθescrの値に設定される。
【数30】
【0065】
或いは、干渉誤差特性50は、dq軸電流Id、Iq又は出力トルクと各高周波インダクタンスLdh、Lqh、Ldqh、Lqdhとの関係特性とされてもよい。この場合は、干渉誤差特性50を用いて算出された各高周波インダクタンスLdh、Lqh、Ldqh、Lqdhに基づき、式(22)に示す磁束干渉偏角Δθcrと各高周波インダクタンスとの関係を表す理論式に対応する式(30)に従って、磁束干渉推定誤差Δθescrが算出される。
【0066】
1−7−2.演算周期推定誤差Δθesds
次に、演算周期推定誤差Δθesdsについて説明する。
磁極方向の推定制御の基になっている式(11)の電圧方程式では、同じ時点における実電流及び実電圧が用いられることが前提となっている。
【0067】
一方、回転電機制御装置30では、磁極方向調整部32が、図1に示すように、実電圧の代わりに、電圧指令であるdq軸電圧指令Vdc、Vqcに基づいて、磁極方向を推定するように構成されている。以下で説明するように、電圧指令と、実電圧との間に処理遅れによる時間差及び位相差があるため、定常的な推定誤差Δθeが生じる。
【0068】
回転電機制御装置30は、離散系の制御器とされており、所定の演算周期ΔTo毎に、各制御部の処理を順番に1回ずつ実行する演算サイクルを開始する。
回転電機制御装置30は、各演算サイクルの開始時点付近で、電流センサSe1などの各センサの出力信号の取得や、各制御部に共通して用いられる高周波位相θh及び推定磁極位置θeeなどのパラメータの更新を実行し、その後、これらの情報に基づいて、各制御部の処理を順番に実行するように構成されている。よって、同じ演算サイクル内で演算される各制御値は、当該演算サイクルの開始時点において演算されたものとみなすことができる。すなわち、推定dq軸実電流Ide、Iqe、dq軸電圧指令Vdc、Vqc、高周波位相θhなどは、演算サイクルの開始時点で演算されたとみなすことができる。
【0069】
しかし、図11に示すように、dq軸電圧指令Vdc、Vqcが演算されたとみなされる演算サイクルの開始時点から、算出されたdq軸電圧指令Vdc、Vqcが回転電機MGに印加される電圧に反映されるまでには、電流制御部41及び電圧制御部42などによる処理遅れが生じる。よって、磁極方向調整部32が基づく電圧情報は、実電流および実電圧に対して、処理遅れ時間ΔTdsだけ進んだ情報であるため、当該処理遅れ時間ΔTdsに応じた推定誤差Δθeが生じる。なお、処理遅れ時間ΔTdsについては後述する。
図12及び式(31)に示すように、dq軸電圧指令Vdc、Vqcに含まれる高周波周波数ωh成分であるdq軸高周波電圧指令Vdch、Vqchは、推定dq軸高周波実電圧Vdhe、Vqheに対して、処理遅れにより生じる処理遅れ位相Δθdsだけ位相が進んでいる。ここで、処理遅れ位相Δθdsは、処理遅れ時間ΔTdsに高周波周波数ωhを乗算した位相になる。
【数31】
式(31)に、式(11)を代入して整理すると、dq軸高周波電圧指令Vdch、Vqchと、推定dq軸高周波実電流Idhe、Iqheに関する式(32)を得る。
【数32】
【0070】
式(32)に対して、磁極方向の推定制御によるバンドパスフィルタ処理、γδ軸座標系への座標変換、ローパスフィルタ処理を行うことにより、式(15)に対応するγδ軸フィルタ後高周波電圧Vγhf、Vδhfは、式(33)のようになる。
【数33】
そして、式(33)のδ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfは、式(34)のように近似できる。
【数34】
磁極方向の推定制御により、δ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfがゼロになるように推定磁極位置θeeが調整されると、Δθe−1/2Δθds=0になり、処理遅れ位相Δθdsの1/2の値の定常的な推定誤差Δθeが生じる(Δθe=1/2Δθds)。処理遅れ位相Δθdsにより生じる定常的な推定誤差Δθeを、式(35)に示すように、演算周期推定誤差Δθesdsと定義する。
【数35】
【0071】
<処理遅れ時間ΔTds>
処理遅れ時間ΔTdsについて詳しく説明する。
図11に示すように、dq軸電圧指令Vdc、Vqcが演算されたとみなされる演算サイクルの開始時点から、算出されたdq軸電圧指令Vdc、Vqcが回転電機MGに印加される電圧に反映されるまでには、電流制御部41及び電圧制御部42などによる処理遅れが生じる。
本実施形態では、演算サイクルが終了するまでの途中で、dq軸電圧指令Vdc、Vqcが算出され、dq軸電圧指令Vdc、Vqcに基づいて三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcが算出されるが、算出された三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcが、インバータ制御部の処理に反映される時期は、次の演算サイクルの開始時期とされている。そして、電圧制御部42が、当該次の演算サイクルで、前の演算サイクルで算出された三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcに基づいて、インバータINを介して、回転電機MGに印加する三相交流電圧を制御するように構成されている。よって、演算サイクルの開始時点から、インバータINの駆動に反映されるまでに、演算周期ΔToの処理遅れが生じる。
【0072】
また、電圧制御部42は、同じ演算サイクルの期間中、演算サイクルの開始時期で更新された三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcに基づいて、インバータINの駆動制御を行う。すなわち、演算サイクルの開始時期で更新された三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcは、演算サイクルの期間中0次ホールドされる。よって、インバータINの駆動に反映される電圧指令(以下、インバータ駆動反映電圧指令と称す)には、演算サイクルの開始後も、処理遅れが生じていく。階段状に変化するインバータ駆動反映電圧指令の平均的な挙動を、図11に反映電圧指令平均の線で示すように、次の演算サイクルの開始時点に対して、更に、演算周期ΔToの1/2周期の処理遅れを生じている。すなわち、0次ホールドにより階段状に変化するインバータ駆動反映電圧指令は、平均的に、演算周期ΔToの1/2周期の処理遅れを生じている。
従って、処理遅れ時間ΔTdsは、電圧指令演算値の反映遅れによる1.0×ΔToと、0次ホールドによる0.5×ΔToとの合計である1.5ΔToとなっている。
【0073】
上記の0次ホールドによる処理遅れを、数式で説明する。
式(36)に示す連続系で表したd軸高周波実電圧Vdhを、演算周期ΔToの0次ホールドを用いて離散化すると、式(37)のような離散処理で表すことができる。
【数36】
【数37】
式(37)のcos((n−0.5)ωhΔTo)の部分から理解できるように、式(36)の連続系の挙動に対し、0次ホールドを用いて離散化することより、0.5ΔTo分の処理遅れ時間ΔTdsが生じ、0.5ΔTo×ωh分の処理遅れ位相Δθdsが生じることがわかる。
【0074】
<演算周期誤差演算部35>
図1に示すように、定常推定誤差補正部33に備えられた演算周期誤差演算部35が、演算周期推定誤差Δθesdsを算出する。
演算周期誤差演算部35は、電圧指令の演算周期ΔToの1.5倍の期間に高周波周波数ωhを乗算した位相に応じて生じる磁極方向の推定誤差Δθeを演算周期推定誤差Δθesdsとする。
本実施形態では、演算周期誤差演算部35は、演算周期ΔToの1.5倍の期間に高周波周波数ωhを乗算して処理遅れ位相Δθdsを算出し、処理遅れ位相Δθdsに0.5のゲインを乗算して演算周期推定誤差Δθesdsを算出するように構成されている。なお、演算周期ΔTo、高周波周波数ωhが固定値である場合は、図1に示すような乗算処理を行わずに、演算周期推定誤差Δθesdsが、0.75×ΔTo×ωhの値に予め設定された所定値に設定されるように構成されてもよい。
【0075】
なお、図13に示すように、演算サイクルの開始後、三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcが算出された時点で、算出された三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcがインバータ制御部の処理に反映されるように構成される場合は、電圧指令演算値の反映遅れは、演算サイクルの開始後、三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcが算出されるまでの期間(Kd×ΔTo)になり、演算周期ΔToより短くなる。この場合は、処理遅れ時間ΔTdsは、演算サイクルの開始時点から、電圧指令が算出され、インバータINの駆動制御に反映されるまでの期間(Kd×ΔTo)と、0次ホールドによる0.5×ΔToとの合計である(Kd+0.5)×ΔToとなる。この場合は、演算周期誤差演算部35は、演算周期ΔToの(Kd+0.5)倍の期間に高周波周波数ωhを乗算して処理遅れ位相Δθdsを算出するように構成される。なお、演算周期誤差演算部35は、電圧指令演算値の反映遅れ(Kd×ΔTo)を、タイマによりリアルタイムに計測し、計測した値に基づいて、電圧指令演算値の反映遅れ(Kd×ΔTo)を設定するように構成されてもよい。
【0076】
演算周期推定誤差Δθesdsがγδ軸座標系の補正に用いられる場合は、上記の磁束干渉推定誤差Δθescrで説明したように、高周波位相θhから演算周期推定誤差Δθesdsの2倍位相を減算した位相(θhc=θh−2Δθesds)を用いて、γδ軸座標系への座標変換を行う。一方、演算周期推定誤差Δθesdsが高周波目標値θδhcの補正に用いられる場合は、演算周期推定誤差Δθesdsを、初期設定値ゼロから減算して、高周波目標値θδhcを設定する(θδhc=0−Δθesds)。
【0077】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明のその他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0078】
(1)上記の実施形態において、定常推定誤差補正部33が、磁束干渉推定誤差Δθescr及び演算周期推定誤差Δθesdsの双方を算出し、それらを合計した定常推定誤差Δθesに基づいて、γδ軸座標系への座標変換に用いる高周波位相θh、又は高周波目標値θδhcを補正するように構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、定常推定誤差補正部33は、磁束干渉推定誤差Δθescr及び演算周期推定誤差Δθesdsの何れか一方のみを算出し、何れか一方の算出値が設定された定常推定誤差Δθesに基づいて、γδ軸座標系への座標変換に用いる高周波位相θh、又は高周波目標値θδhcを補正するように構成されてもよい。
【0079】
(2)上記の実施形態において、高周波電流指令Idch、Iqchが加算される基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbが、トルク電流演算部40によりトルク指令Tmcに基づいて設定される場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbが、推定磁極回転速度ωeeを目標回転速度に近づける回転速度制御部により設定されるなど、トルク指令Tmcに基づく設定以外の方法で設定されるように構成されてもよい。この場合は、磁束干渉推定誤差Δθescrは、dq軸電流指令Idc、Iqcに基づいて、算出される。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、突極性を有するロータを備えた回転電機に高周波電流を印加し、前記高周波電流への応答成分として電圧指令に含まれる高周波成分に基づいて前記ロータの磁極方向を推定し、前記回転電機を制御する回転電機制御装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
Δθcr :磁束干渉偏角
Δθds :処理遅れ位相
Δθe :推定誤差
Δθes :定常推定誤差
Δθescr:磁束干渉推定誤差
Δθesds:演算周期推定誤差
ΔTo :演算周期
ΔTds :処理遅れ時間
θee :推定磁極位置
θer :実磁極位置
θh :高周波位相(高周波電流指令の位相)
θhc :変換用高周波位相
λd :d軸鎖交磁束
λq :q軸鎖交磁束
ωee :推定磁極回転速度
ωer :実磁極回転速度
ωh :高周波周波数(高周波電流指令の角周波数)
30 :回転電機制御装置
31 :高周波重畳部
32 :磁極方向調整部
33 :定常推定誤差補正部
34 :磁束干渉誤差演算部
35 :演算周期誤差演算部
40 :トルク電流演算部
41 :電流制御部
42 :電圧制御部
43 :実電流演算部
50 :干渉誤差特性
60 :バンドパスフィルタ(BPF)
61 :γδ座標変換
62 :ローパスフィルタ(LPF)
63 :推定値フィードバック制御部
64 :積分器
65 :単位換算部
Bt :蓄電装置
IN :インバータ
Id、Iq :dq軸電流
Idc、Iqc :dq軸電流指令
Idcb、Iqcb :基本dq軸電流指令
Idch、Iqch :高周波電流指令
Ide、Iqe :推定dq軸実電流
Idhe、Iqhe :推定dq軸高周波実電流
Idh、Iqh :dq軸高周波実電流
Iu、Iv、Iw :三相実電流
Kthv :位相電圧変換ゲイン
Ld :d軸インダクタンス
Lq :q軸インダクタンス
Ldh :d軸高周波自己インダクタンス
Lqh ;q軸高周波自己インダクタンス
Ldqh :d軸高周波相互インダクタンス
Lqdh :q軸高周波相互インダクタンス
MG :回転電機
θδhc :高周波目標値
θδhf :δ軸フィルタ後高周波位相
Se1 :電流センサ
Suvw :インバータ制御信号
Tmc :トルク指令
Vbd、Vbq :基本電圧指令
Vdd、Vdq :非干渉電圧指令
Vid、Viq :内部モデル電圧指令
Vγh、Vδh :γδ軸高周波電圧
Vγhf、Vδhf :γδ軸フィルタ後高周波電圧
Vdc、Vqc :dq軸電圧指令
Vdcf、Vqcf :dq軸フィルタ後電圧指令
Vdch、Vqch :dq軸高周波電圧指令
Vdh、Vqh :dq軸高周波実電圧
Vdhe、Vqhe :推定dq軸高周波実電圧
Vuc、Vvc、Vwc :三相電圧指令
【技術分野】
【0001】
本発明は、突極性を有するロータを備えた回転電機に高周波電流を印加し、前記高周波電流への応答成分として電圧指令に含まれる高周波成分に基づいて前記ロータの磁極方向を推定し、前記回転電機を制御する回転電機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような回転電機制御装置に関して、例えば下記の非特許文献1に記載された技術が知られている。非特許文献1の技術では、d軸とq軸との一方の軸の電流の変化が他方の軸の磁束に影響を与えるdq軸磁束干渉を考慮していない電圧方程式に基づいて、磁極方向の推定制御が設計されている。そのため、dq軸磁束干渉により、インダクタンスの突極性が変化するような回転電機では、磁極方向の推定誤差が生じる恐れがあった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】山田和範(Kazunori Yamada)、他2名、「高周波電流注入を利用した位置センサレス突極形PMモータの広範囲速度制御法(Speed Control Method of Position Sensor less Salient-Pole PM Motor for Wide Speed Range Using High Frequency Current Injection)」、平成9年(2010年)電気学会(The Institute of Electrical Engineers of Japan)全国大会論文、4-356〜357
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、dq軸磁束干渉が生じるような回転電機でも、dq軸磁束干渉により、磁極方向の推定誤差が生じることを抑制できる回転電機制御装置が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る、突極性を有するロータを備えた回転電機に高周波電流を印加し、前記高周波電流への応答成分として電圧指令に含まれる高周波成分に基づいて前記ロータの磁極方向を推定し、前記回転電機を制御する回転電機制御装置の特徴構成は、推定した磁極方向を推定d軸、当該推定d軸と電気角で直交する方向を推定q軸とした推定dq軸回転座標系を設定し、当該推定dq軸回転座標系における前記回転電機への電流指令に前記高周波電流の指令である高周波電流指令を重畳する高周波重畳部と、前記推定dq軸回転座標系に対して前記高周波電流指令の位相差を有する高周波座標系を設定し、前記推定dq軸回転座標系で表した前記電圧指令を前記高周波座標系に座標変換した値が、初期設定値をゼロとする高周波目標値に近づくように前記磁極方向の推定値を変化させる磁極方向調整部と、d軸とq軸との一方の軸の電流の変化が他方の軸の磁束に影響を与えるdq軸磁束干渉に関し、前記電流指令又は前記回転電機へのトルク指令に基づいて、前記dq軸磁束干渉により生じる前記磁極方向の推定値の誤差である磁束干渉推定誤差を算出し、当該磁束干渉推定誤差に基づいて、前記座標変換に用いる前記高周波電流指令の位相又は前記高周波目標値を補正する定常推定誤差補正部と、を備える点にある。
【0006】
なお、本願において「回転電機」は、交流駆動のモータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0007】
上記の特徴構成のように、磁極方向の推定制御が、推定dq軸回転座標系における電流指令に高周波電流指令を重畳すると共に、推定dq軸回転座標系で表した電圧指令を、高周波座標系に座標変換した値が、高周波目標値に近づくように磁極方向の推定値を変化させるように構成されている場合は、dq軸磁束干渉により生じる突極方向の傾きの影響が、高周波座標系への座標変換における位相ズレ、及び高周波座標系に座標変換した値のズレとして表れる。そして、これらの座標変換の位相ズレ及び座標変換値のズレにより、磁極方向の推定値の誤差である磁束干渉推定誤差が生じる。
上記の特徴構成によれば、電流指令又はトルク指令に基づいて、磁束干渉推定誤差を算出し、算出した磁束干渉推定誤差に基づいて、座標変換に用いる高周波電流指令の位相又は高周波目標値を補正するように構成されているので、磁束干渉推定誤差が生じる前に、予め、座標変換の位相ズレ、又は座標変換値のズレを補償することができる。よって、磁束干渉による誤差の発生を抑制することができる。
また、dq軸磁束干渉は、dq軸回転座標系で表した電流の動作点への依存性が高いため、推定dq軸回転座標系における電流指令に基づいて、磁束干渉推定誤差を算出することにより、動作点が変化しても磁束干渉推定誤差を精度良く算出することができる。又は、dq軸回転座標系で表した電流の動作点と相関性が高いトルク指令に基づいて、磁束干渉推定誤差を算出することにより、動作点が変化しても磁束干渉推定誤差を精度良く算出することができる。よって、動作点が変化しても磁束干渉推定誤差の発生を精度良く抑制することができる。
【0008】
ここで、前記定常推定誤差補正部は、前記磁束干渉推定誤差に加えて、前記推定dq軸回転座標系における電圧指令の演算周期により生じる前記磁極方向の推定値の誤差である演算周期推定誤差にも基づいて、前記高周波電流指令の位相又は前記高周波目標値を補正すると好適である。
【0009】
上記のように、磁極方向調整部は、推定dq軸回転座標系で表した電圧指令に基づいて、磁極方向を推定している。当該電圧指令と回転電機に印加される電圧との間には、電圧指令の演算周期により生じる処理遅れの時間差が存在する。処理遅れの時間差の影響が、上記のdq軸磁束干渉の場合と同様に、高周波座標系への座標変換における位相ズレ、及び高周波座標系に座標変換した値のズレとして表れる。そして、これらの座標変換の位相ズレ及び座標変換値のズレにより、磁極方向の推定値の誤差である演算周期推定誤差が生じる。
磁束干渉推定誤差に加えて演算周期推定誤差にも基づいて、座標変換に用いる高周波電流指令の位相又は高周波目標値を補正するように構成されているので、磁束干渉による誤差に加えて処理遅れによる誤差の発生も抑制することができる。
【0010】
ここで、前記定常推定誤差補正部は、前記電圧指令の演算周期の1.5倍の期間に前記高周波電流指令の角周波数を乗算した位相に応じて生じる前記磁極方向の推定値の誤差を前記演算周期推定誤差とすると好適である。
【0011】
電圧指令の演算を開始してから、回転電機に印加される電圧に反映されるまでの処理遅れ時間が演算周期の1.0倍の期間になり、演算周期毎に階段状に変化する回転電機に印加される電圧による処理遅れ時間が演算周期の0.5倍の期間になり、これら合計の処理遅れ時間は、演算周期の1.5倍の期間になる。上記の構成によれば、演算周期推定誤差は、電圧指令の演算周期の1.5倍の期間に、高周波電流指令の角周波数を乗算した位相に応じて生じる磁極方向の推定値の誤差とされているので、演算周期推定誤差を精度良く算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る回転電機制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る各座標系を説明するための図である。
【図3】本発明の実施形態に係る高周波電流指令を説明するための図である。
【図4】本発明の実施形態に係るγδ軸座標系を説明するための図である。
【図5】本発明の実施形態に係るdq軸電流指令の設定を説明するための図である。
【図6】本発明の実施形態に係るdq軸磁束干渉による推定誤差ための図である。
【図7】本発明の実施形態に係るdq軸磁束干渉を説明するための図である。
【図8】本発明の実施形態に係るγδ軸座標系の補正を説明するための図である。
【図9】本発明の実施形態に係るdq軸電流指令に基づく磁束干渉推定誤差の算出を説明するための図である。
【図10】本発明の実施形態に係るトルク指令に基づく磁束干渉推定誤差の算出を説明するための図である。
【図11】本発明の実施形態に係る演算周期推定誤差を説明するための図である。
【図12】本発明の実施形態に係る演算周期推定誤差を説明するための図である。
【図13】本発明の実施形態に係る演算周期推定誤差を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
回転電機MGは、ロータ及びステータを有している。ステータは、非回転部材に固定され、ロータは、当該ステータの径方向内側に回転自在に支持されている。本実施形態では、回転電機MGは、ロータ内部に永久磁石を埋め込んだ埋込磁石同期電動機(IPMSM)とされており、突極性を有する。なお、永久磁石の代わりに電磁石が備えられていてもよい。
図1に示すように、回転電機MGのステータに備えられた三相のコイルは、直流交流変換を行うインバータINを介して直流電源としての蓄電装置Btに電気的に接続されている。そして、回転電機MGは、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能と、を果たすことが可能とされている。インバータINは、蓄電装置Btの直流電力を交流電力に変換して回転電機MGを駆動するため、或いは回転電機MGが発電した交流電力を直流電力に変換して蓄電装置Btに充電するための複数のスイッチング素子を備えている。
【0014】
回転電機制御装置30は、直流電源の直流電力と交流電力との間で電力変換を行うインバータINを介して、回転電機MGを制御するための装置である。回転電機制御装置30は、図1に示すように、トルク電流演算部40、電流制御部41、電圧制御部42、及び実電流演算部43を備えている。
トルク電流演算部40は、トルク指令Tmcに基づいて、回転電機MGに流す電流の指令値を後述する推定dq軸回転座標系で表したdq軸電流指令Idc、Iqcを演算する。実電流演算部43は、推定磁極位置θeeに基づいて、回転電機MGに流れる三相実電流Iu、Iv、Iwを推定dq軸回転座標系の値に座標変換して、推定dq軸実電流Ide、Iqeを演算する。電流制御部41は、回転電機MGに印加する電圧指令を推定dq軸回転座標系で表したdq軸電圧指令Vdc、Vqcを、推定dq軸実電流Ide、Iqeがdq軸電流指令Idc、Iqcに近づくように変化させる。そして、電圧制御部42は、推定磁極位置θeeに基づいて、dq軸電圧指令Vdc、Vqcを、三相の電圧指令Vuc、Vvc、Vwcに変換し、当該三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcに基づき、インバータINが備える複数のスイッチング素子をオンオフ制御して、回転電機MGに印加する電圧を制御する。
【0015】
回転電機MGには、ロータの回転速度及び回転角度を検出するためのセンサが備えられておらず、回転電機制御装置30は、高周波重畳部31、磁極方向調整部32、及び定常推定誤差補正部33により、実磁極位置θer及び実磁極回転速度ωerを推定するように構成されている。すなわち、回転電機制御装置30は、突極性を有するロータを備えた回転電機MGに高周波電流を印加し、高周波電流への応答成分として電圧指令に含まれる高周波成分に基づいてロータの磁極方向を推定し、回転電機MGを制御するように構成されている。
【0016】
具体的には、高周波重畳部31は、推定した磁極方向を推定d軸、当該推定d軸と電気角で直交する方向(本実施形態では、90度位相が進んだ方向)を推定q軸とした推定dq軸回転座標系を設定し、当該推定dq軸回転座標系における回転電機MGへの電流指令Idc、Iqcに高周波電流の指令である高周波電流指令Idch、Iqchを重畳する。
磁極方向調整部32は、推定dq軸回転座標系に対して高周波電流指令Idch、Iqchの位相θh(以下、高周波位相θhと称す)の差を有する高周波座標系であるγδ軸座標系を設定し、推定dq軸回転座標系で表した電圧指令Vdc、Vqcをγδ軸座標系に座標変換した値が、初期設定値をゼロとする高周波目標値θδhcに近づくように磁極方向の推定値である推定磁極位置θeeを変化させる。
このような構成において、定常推定誤差補正部33が、d軸とq軸との一方の軸の電流の変化が他方の軸の磁束に影響を与えるdq軸磁束干渉に関し、dq軸電流指令Idc、Iqc又は回転電機MGへのトルク指令Tmcに基づいて、dq軸磁束干渉により生じる磁極方向の推定値の誤差である磁束干渉推定誤差Δθescrを算出し、磁束干渉推定誤差Δθescrに基づいて、γδ軸座標系への座標変換に用いる高周波位相θh、又は高周波目標値θδhcを補正する点に特徴を有している。
【0017】
ここで、実dq軸回転座標系は、図2にモデルを示すように、ロータの電気角に同期して回転する実d軸及び実q軸からなる回転座標系である。
実d軸は、ロータに備えられた磁石の界磁磁束の方向(磁極(N極)方向)に定められ、実q軸は、実d軸に対して電気角で直交する方向に定められている。本実施形態では、実q軸は、実d軸に対して電気角で90度位相が進んだ方向(ロータの回転方向)に定められている。本実施形態に係わる各図では、ロータの回転方向は、反時計回りの方向に設定されており、位相進み方向(位相が増加する方向)は、反時計回りの方向であり、位相遅れ方向(位相が減少する方向)は、時計回りの方向である。なお、ロータの回転方向が、時計回りの方向に設定される場合は、位相進み方向は、時計回りの方向になり、位相遅れ方向は、反時計回りの方向になる。
本実施形態では、ステータに備えられたU相コイルを基準にした場合の、実d軸(磁極方向)の電気角を実磁極位置θerとし、実d軸(磁極方向)の電気角速度を実磁極回転速度ωerとする。
【0018】
磁極方向調整部32により推定されたd軸(磁極方向)及びq軸を、それぞれ推定d軸、推定q軸とする。本実施形態では、U相コイルを基準にした場合の、推定d軸の電気角を推定磁極位置θeeとし、推定d軸の電気角速度を推定磁極回転速度ωeeとする。
実磁極位置θerと推定磁極位置θeeと位相差を、実d軸に対する推定d軸の推定誤差Δθe(=θee−θer)とする。
【0019】
更に、磁極方向の推定制御のために、推定d軸及び推定q軸からなる推定dq軸回転座標系に対して、高周波位相θhの差を有するγδ軸座標系が設定されている。γ軸は、推定d軸に対して、電気角で高周波位相θh分だけ高周波電流指令Idch、Iqchの回転方向とは反対方向に定められ、当該反対方向に推定d軸に対して高周波電流指令Idch、Iqchの角周波数ωh(以下、高周波周波数ωhと称す)で回転する。δ軸は、γ軸に対して電気角で90度位相が進んだ方向に定められている。よって、γδ軸座標系は、推定dq軸回転座標系において、高周波電流指令Idch、Iqchと反対方向に回転する。
本実施形態では、高周波電流指令Idch、Iqchは、詳細は後述するが、図3に示すように、推定dq軸回転座標系において、位相が進む方向(ロータの回転方向)に、高周波周波数ωhで回転するように設定される。よって、図2及び図4に示すように、γ軸は、推定d軸に対して、電気角で高周波位相θh分だけ位相が遅れた方向(ロータの回転方向の反対方向)に定められ、位相が遅れる方向に推定d軸に対して高周波周波数ωhで回転する。
以下、本実施形態に係る回転電機制御装置30について、詳細に説明する。
【0020】
1.回転電機制御装置30の構成
次に、回転電機MGを制御するための回転電機制御装置30の構成について説明する。
回転電機制御装置30は、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えるとともに、当該演算処理装置からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)等の記憶装置等を有して構成されている。そして、回転電機制御装置30のROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、図1に示すような回転電機制御装置30の機能部31〜33、40〜43などが構成されている。
【0021】
回転電機制御装置30には、電流センサSe1などのセンサから出力される電気信号が入力される。回転電機制御装置30は、入力された電気信号に基づき各センサの検出情報を算出する。
電流センサSe1は、各相のコイルに流れる電流を検出するためのセンサであり、インバータINと各相のコイルとをつなぐ電線上に備えられている。回転電機制御装置30は、電流センサSe1の入力信号に基づいて各相のコイルを流れる三相実電流Iu、Iv、Iwを検出する。
【0022】
回転電機制御装置30は、回転電機MGの動作制御を行う制御装置である。図1に示すように、回転電機制御装置30は、高周波重畳部31、磁極方向調整部32、定常推定誤差補正部33、トルク電流演算部40、電流制御部41、電圧制御部42、及び実電流演算部43などの機能部を備えており、各機能部が協働して、回転電機MGを制御する。
【0023】
1−1.トルク電流演算部40
トルク電流演算部40は、回転電機MGに出力させるトルク指令Tmcに基づいて、回転電機MGに流す電流の指令値を推定dq軸回転座標系で表したdq軸電流指令Idc、Iqcを演算する機能部である。なお、トルク電流演算部40で算出されたdq軸電流指令Idc、Iqcは、基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbとして出力される。
本実施形態では、トルク電流演算部40は、トルク指令Tmcのトルクを回転電機MGに出力させるようなd軸電流指令Idc及びq軸電流指令Iqcを算出するように構成されている。図5(a)において、等トルク曲線として示されているように、回転電機MGに同じ大きさのトルクを出力させるような、d軸電流指令Idc及びq軸電流指令Iqcの組み合わせは無数に存在する。そこで、トルク電流演算部40は、最大トルク電流制御、弱め磁束制御、Id=0制御、及び最大トルク磁束制御などの電流ベクトル制御方法に従って、dq軸電流指令Idc、Iqcを演算する。最大トルク電流制御は、同一電流に対して発生トルクを最大にするようなdq軸電流指令Idc、Iqcを算出する制御方法である。弱め磁束制御は、負のd軸電流を流すことで、d軸電機子反作用による減磁効果を利用してd軸方向の磁束を減少させるように、dq軸電流指令Idc、Iqcを算出する制御方法である。Id=0制御は、d軸電流指令Idcを0に設定し、トルク指令Tmcに応じて、q軸電流指令Iqcを変化させる制御方法である。最大トルク磁束制御は、同一トルク発生時に鎖交磁束が最小となるように、dq軸電流指令Idc、Iqcを算出する制御方法である。
【0024】
電流ベクトル制御方法が最大トルク電流制御に決定されている場合は、トルク電流演算部40は、図5(a)に示すような最大トルク電流曲線上に、dq軸電流指令Idc、Iqcを決定する。ここで、最大トルク電流曲線は、最大トルク電流制御を行う際に、dq軸電流Id、Iqが取り得る値をつないでなる曲線である。
一方、電流ベクトル制御方法が弱め磁束制御に決定されている場合は、トルク電流演算部40は、負のd軸電流を流すことで、d軸電機子反作用による減磁効果を利用してd軸方向の磁束を減少させるように、dq軸電流指令Idc、Iqcを算出する。dq軸電流指令Idc、Iqcは、弱め磁束制御に対応して設定されている変調率M(例えば、0.78)、直流電圧、及び磁極回転速度に対応する定誘起電圧楕円(電圧制限楕円)上に決定される。
以下では、最大トルク電流制御が行われる場合を例に説明する。
【0025】
図5(a)に示すように、トルク電流演算部40は、トルク指令Tmcが0から増加するにつれ、最大トルク電流曲線に沿って、q軸電流指令Iqcを0から増加させ、d軸電流指令Idcを0から減少させる。一方、トルク電流演算部40は、トルク指令Tmcが0から減少するにつれ、最大トルク電流曲線に沿って、q軸電流指令Iqcを0から減少させ、d軸電流指令Idcを0から減少させる。図5(b)(c)に、トルク指令Tmcに対する各電流指令Idc、Iqcの関係特性を示すように、q軸電流指令Iqcは、トルク指令Tmcの増加に対して単調増加するように算出される。一方、d軸電流指令Idcは、トルク指令Tmcが0未満の場合は、トルク指令Tmcの増加に対して単調増加するように算出され、トルク指令Tmcが0より大きい場合は、トルク指令Tmcの増加に対して単調減少するように算出される。
【0026】
1−2.実電流演算部43
実電流演算部43は、推定磁極位置θeeに基づいて、回転電機MGに流れる三相実電流Iu、Iv、Iwを推定dq軸回転座標系の値に座標変換して、推定dq軸実電流Ide、Iqeを演算する機能部である。本実施形態では、実電流演算部43は、電流センサSe1により検出した各相のコイルを流れる実電流Iu、Iv、Iwを、推定磁極位置θeeに基づいて、三相二相変換及び回転座標変換を行って、推定dq軸回転座標系で表した推定d軸実電流Ide、推定q軸実電流Iqeに変換する。
【0027】
1−3.電流制御部41
回転電機制御装置30は、式(1)に示すように、トルク電流演算部40が算出した基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbに、高周波重畳部31が算出した高周波電流指令Idch、Iqchを加算した値を、dq軸電流指令Idc、Iqcとして設定する。
【数1】
電流制御部41は、推定dq軸実電流Ide、Iqeがdq軸電流指令Idc、Iqcに近づくように、dq軸電圧指令Vdc、Vqcを変化させる機能部である。
電流制御部41は、dq軸電流指令Idc、Iqcに重畳している高周波電流指令Idch、Iqch成分に、推定dq軸実電流Ide、Iqeが追従するように、dq軸電圧指令Vdc、Vqcを変化させる。
本実施形態では、電流制御部41は、基本フィードバック制御器、非干渉制御器、内部モデル制御器を備えている。電流制御部41は、式(2)に示すように、各制御器が算出した、基本電圧指令Vbd、Vbq、非干渉電圧指令Vdd、Vdq、及び内部モデル電圧指令Vid、Viqを足し合わせて、dq軸電圧指令Vdc、Vqcを算出する。
【数2】
【0028】
<基本フィードバック制御器>
基本フィードバック制御器は、高周波電流指令Idch、Iqchが重畳しているdq軸電流指令Idc、Iqcと推定dq軸実電流Ide、Iqeとの電流偏差ΔId、ΔIqに基づいて、フィードバック演算を行って基本電圧指令Vbd、Vbqを算出する。
本実施形態では、基本フィードバック制御器は、式(3)、式(4)に示すように、電流偏差ΔId、ΔIqに基づいて、比例演算及び積分演算を行って基本電圧指令Vbd、Vbqを算出する比例積分(PI)制御器とされている。
【数3】
【数4】
ここで、Kpdは、d軸比例ゲインであり、Kpqは、q軸比例ゲインであり、Kidは、d軸積分ゲインであり、Kiqは、q軸積分ゲインである。
なお、基本フィードバック制御器は、比例積分(PI)制御以外のフィードバック制御、例えば、比例積分微分(PID)制御などを行う制御器とされていてもよい。
【0029】
<非干渉制御器>
非干渉制御器は、dq軸間の干渉を相殺するように、dq軸電流指令Idc、Iqcに基づいて、式(5)に示すようなフィードフォワード的な非干渉化の演算を行って、非干渉電圧指令Vdd、Vdqを算出する。
【数5】
ここで、Ldは、d軸インダクタンスであり、Lqは、q軸インダクタンスであり、Φは、磁石による鎖交磁束である。
本実施形態では、非干渉制御器は、高周波電流指令Idch、Iqchが重畳していない基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbに基づいて、非干渉電圧指令Vdd、Vdqを算出するように構成されている。
【0030】
<内部モデル制御器>
内部モデル制御器は、トルク指令Tmcに周期的な振動成分が含まれる場合に、当該周期的な振動成分によって周期的に振動する基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbへの追従性を向上させるために、内部モデル原理の制御理論に基づいて設計された制御器である。
ここで、内部モデル原理とは、フィードバック系の内部に、指令値の極と同じ極を有する制御器を導入することが有効であるという制御理論である。
内部モデル制御器は、各基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbに含まれる振動成分の周波数ωid、ωiqの周期関数の特性を有する高調波モデルを用いた演算により、内部モデル電圧指令Vid、Viqを算出する。
【0031】
本実施形態では、内部モデル制御器は、式(6)、式(7)に示すように、電流偏差ΔId、ΔIqに基づいて、周波数ωid、ωiqの正弦波又は余弦波の周期関数に対応する伝達関数を分母に有する高調波モデルを用いた演算を行って、内部モデル電圧指令Vid、Viqを算出する。
【数6】
【数7】
高調波モデルの伝達関数の分子Bd(s)、Bq(s)は、電流フィードバック制御系の安定性が確保されるように設定される。
【0032】
1−4.電圧制御部42
電圧制御部42は、交流電圧指令算出部と、インバータ制御部とを備えている。交流電圧指令算出部は、推定磁極位置θeeに基づいて、dq軸電圧指令Vdc、Vqcを、三相の電圧指令Vuc、Vvc、Vwcに変換する機能部である。インバータ制御部は、三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcに基づき、インバータINが備える複数のスイッチング素子をオンオフ制御して、回転電機MGに印加する電圧を制御する機能部である。
1−4−1.交流電圧指令算出部
<パルス幅変調制御>
交流電圧指令算出部は、インバータINの制御方式としてパルス幅変調制御が設定されている場合は、推定dq軸回転座標系で表したdq軸電圧指令Vdc、Vqcを、推定磁極位置θeeに基づいて、固定座標変換及び二相三相変換を行って、三相それぞれのコイルへの電圧指令である三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcに変換する。
過変調パルス幅変調制御が設定されている場合は、インバータINの出力電圧波形における基本波成分の変調率Mが、目標とする変調率Mに一致するように、固定座標変換及び二相三相変換に加えて、三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcを歪ませる振幅補正が行われる。
なお、回転電機制御装置30は、式(8)に示すように、dq軸電圧指令Vdc、Vqc及び直流電圧VHに基づいて、変調率Mを算出するように構成されている。直流電圧VHは、電圧センサにより検出された、蓄電装置Btの電圧である。
【数8】
【0033】
<矩形波制御>
交流電圧指令算出部は、インバータINの制御方式として矩形波制御が設定されている場合は、推定dq軸回転座標系で表したdq軸電圧指令ベクトルの位相θvを、式(9)に従い算出し、推定磁極位置θeeと位相θvに基づいて、位相が調整された1パルス矩形波の三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcを算出する。
【数9】
ここで、dq軸電圧指令ベクトルは、推定dq軸回転座標系において原点からdq軸電圧指令Vdc、Vqcの座標点に向うベクトルである。dq軸電圧指令ベクトルの位相θvは、推定q軸に対するdq軸電圧指令ベクトルの電気角での位相である。
なお、回転電機制御装置30は、インバータINの制御方式、電流ベクトル制御方法などの制御モードを、推定磁極回転速度ωee、トルク指令Tmc、変調率Mなどに基づいて設定する。
【0034】
1−4−2.インバータ制御部
インバータ制御部は、三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcに基づき、インバータINが備える複数のスイッチング素子をオンオフ制御するインバータ制御信号Suvwを生成する。
<パルス幅変調制御>
インバータ制御部は、インバータINの制御方式としてパルス幅変調制御が設定されている場合は、三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcと搬送波とに基づいてスイッチング素子をオンオフ制御するインバータ制御信号Suvwを生成する。代表的には、直流電圧VHの振幅を有する三角波の搬送波と、三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcと、の比較結果に基づき、インバータ制御信号Suvwが生成される。
あるいは、変調率Mと、式(9)に基づいて算出されたdq軸電圧指令ベクトルの位相θvと、推定磁極位置θeeと、に基づいて、スイッチング素子をオンオフ制御するインバータ制御信号Suvwを生成するように構成されてもよい。
【0035】
<矩形波制御>
インバータ制御部は、インバータINの制御方式として矩形波制御が設定されている場合は、三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcに基づいてロータの電気角に同期してスイッチング素子を1回ずつオンオフ制御するインバータ制御信号Suvwを生成する。
あるいは、矩形波制御が設定されている場合は、交流電圧指令算出部は三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcを算出せずに、インバータ制御部は、推定磁極位置θeeとdq軸電圧指令ベクトルの位相θvに基づいて、直接、インバータ制御信号Suvwを生成するように構成されてもよい。
【0036】
1−5.高周波重畳部31
高周波重畳部31は、dq軸電流指令Idc、Iqcに高周波電流指令Idch、Iqchを重畳する。
本実施形態では、高周波重畳部31は、式(10)及び図3に示すように、高周波電流指令Idch、Iqchを、推定dq軸回転座標系において、原点を中心にした半径Ihの円周上を、位相が進む方向(ロータの回転方向)に高周波周波数ωhで回転する座標点となるように設定する。このため、高周波電流指令Idch、IqchのU相コイルに対する回転周波数は、推定d軸のU相コイルに対する回転周波数よりも高くなり、高周波成分となる。
【数10】
【0037】
1−6.磁極方向調整部32
磁極方向調整部32は、dq軸電圧指令Vdc、Vqcをγδ軸座標系に座標変換した値が、初期設定値をゼロとする高周波目標値θδhcに近づくように磁極方向の推定値である推定磁極位置θeeを変化させる機能部である。
【0038】
上記のように、推定dq軸回転座標系において、dq軸電流指令Idc、Iqcに高周波電流指令Idch、Iqchが重畳され、電流制御部41により、推定dq軸実電流Ide、Iqeを高周波電流指令Idch、Iqch成分に追従させるようにdq軸電圧指令Vdc、Vqcが変化された結果、推定dq軸実電流Ide、Iqeに含まれる高周波成分である推定dq軸高周波実電流Idhe、Iqheが回転電機MGに印加される。
その結果、推定dq軸回転座標系において、式(11)に示す推定dq軸高周波実電圧Vdhe、Vqheが発生する。なお、式(11)は、後述する式(17)に示す、dq軸磁束干渉が生じない場合の実dq軸回転座標系における電圧方程式を、推定dq軸回転座標系における電圧方程式に座標変換すると共に、推定dq軸回転座標系への座標変換後の実電流Ide、Iqeに、推定dq軸高周波実電流Idhe、Iqheを代入し、整理して得られる。ここで、推定dq軸高周波実電流Idhe、Iqheは、式(10)に示す高周波電流指令Idch、Iqchに位相遅れなく追従しているものとしている。
【数11】
ここで、Ldは、d軸インダクタンスであり、Lqは、q軸インダクタンスであり、Φは、磁石による鎖交磁束であり、Raは、コイルの抵抗である。
式(11)の右辺第1〜3項は、推定誤差Δθeの変化が遅ければ、ほぼ高周波周波数ωhの周波数成分であり、右辺第4項は、ほぼ直流成分である。よって、推定dq軸高周波実電圧Vdhe、Vqheに対して、中心角周波数が高周波周波数ωhのバンドパスフィルタ処理を行えば、式(12)に示すように、式(11)の右辺第1〜3項のみを抽出できる。
【数12】
【0039】
本実施形態では、図1に示すように、BPF60が、dq軸電圧指令Vdc、Vqcに対して、高周波周波数ωh帯域の成分を通過するバンドパスフィルタ処理を行って、dq軸フィルタ後電圧指令Vdcf、Vqcfを算出する。このバンドパスフィルタ処理により、式(11)の右辺第4項を除去し、右辺第1〜3項のみを抽出できる。また、バンドパスフィルタ処理により、dq軸電圧指令Vdc、Vqcに含まれる、基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbに対応する成分も除去できる。
【0040】
そして、式(12)に示すバンドパスフィルタ処理後の推定dq軸高周波実電圧Vdhef、Vqhefを、γδ軸座標系で表したγδ軸高周波電圧Vγh、Vδhに座標変換すると式(13)を得る。
【数13】
本実施形態では、γδ座標変換61が、dq軸フィルタ後電圧指令Vdcf、Vqcfを、式(14)に示すように、初期設定値が高周波位相θhに設定された変換用高周波位相θhcに基づいて、γδ軸座標系で表したγδ軸高周波電圧Vγh、Vδhに座標変換する。
【数14】
ここで、後述する定常推定誤差補正部33により、γδ軸座標系への座標変換に用いる高周波位相θhが補正されるように構成される場合は、変換用高周波位相θhcには、補正後の高周波位相θhの値が設定される(θhc=θh−2Δθes)。一方、高周波位相θhが補正されないように構成される場合は、変換用高周波位相θhcには、高周波位相θhの値がそのまま設定される(θhc=θh)。
【0041】
図3、図4を用いて説明したように、高周波電流指令Idch、Iqchとγδ軸座標系とは、推定dq軸回転座標系において、逆方向に高周波周波数ωhで回転しているので、式(12)の正弦又は余弦の各位相に高周波位相θhが加算されて、式(13)が導出される。式(13)の右辺第1、2項は、高周波周波数ωhの2倍周波数を有する成分となり、式(13)の右辺第3項から、高周波周波数ωhの成分が除去されている。
式(13)の右辺第3項は、推定誤差Δθeに関係した項である。高周波周波数ωhに比べて推定誤差Δθeの変化は遅いため、この第3項は低周波成分となって現れる。よって、γδ軸高周波電圧Vγh、Vδhに対して、ローパスフィルタ処理を行えば、式(15)に示すように、式(13)の右辺第3項のみを抽出できる。
【数15】
【0042】
推定誤差Δθeが微小であれば、式(16)に示すように、sin(−2Δθe)≒−2Δθeと近似でき、δ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfは、Δθeに比例する。よって、δ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfがゼロになるように、推定磁極位置θeeを調整すれば、推定誤差Δθeがゼロになり、推定d軸を実d軸に一致させることができる(θer=θee)。
【数16】
ここで、位相電圧変換ゲインKthvは、位相から電圧への変換ゲインに相当する。
【0043】
本実施形態では、LPF62が、δ軸高周波電圧Vδhに対して、高周波周波数ωhの2倍周波数より小さいカットオフ周波数が設定されたローパスフィルタ処理を行って、δ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfを算出する。
単位換算部65が、δ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfに位相電圧変換ゲインKthvの逆数を乗算して、δ軸フィルタ後高周波位相θδhfを算出する(θδhf=Vδhf/Kthv)。
そして、推定値フィードバック制御部63が、δ軸フィルタ後高周波位相θδhfが、高周波目標値θδhcに近づくように、推定磁極回転速度ωeeを変化させるフィードバック制御を行う。フィードバック制御として、比例積分制御などの各種の制御を用いることができる。そして、積分器64が、推定磁極回転速度ωeeを積分して、推定磁極位置θeeを算出する。このように、本実施形態では、回転により常に変化する実磁極位置θerに比べて変化の少ない実磁極回転速度ωerに対応した推定磁極回転速度ωeeを、フィードバック制御により変化させるように構成されているので、回転速度の変化がない定常状態において、推定磁極位置θeeの推定精度を高めることができる。
ここで、後述する定常推定誤差補正部33により、高周波目標値θδhcが補正されるように構成される場合は、高周波目標値θδhcには、補正後の高周波目標値θδhcの値が設定される(θδhc=0−Δθes)。一方、高周波目標値θδhcが補正されないように構成される場合は、高周波目標値θδhcには、ゼロがそのまま設定される(θδhc=0)。
【0044】
1−7.定常推定誤差補正部33
定常推定誤差補正部33は、dq軸磁束干渉に関し、dq軸電流指令Idc、Iqc又は回転電機MGへのトルク指令Tmcに基づいて、dq軸磁束干渉により生じる推定磁極位置θeeの誤差である磁束干渉推定誤差Δθescrを算出し、磁束干渉推定誤差Δθescrに基づいて、γδ軸座標系への座標変換に用いる高周波位相θh、又は高周波目標値θδhcを補正する機能部である。
本実施形態では、定常推定誤差補正部33は、磁束干渉推定誤差Δθescrに加えて、dq軸電圧指令Vdc、Vqcの演算周期ΔToにより生じる推定磁極位置θeeである演算周期推定誤差Δθesdsにも基づいて、γδ軸座標系への座標変換に用いる高周波位相θh、又は高周波目標値θδhcを補正するように構成されている。
すなわち、本実施形態では、図1に示すように、定常推定誤差補正部33は、磁束干渉推定誤差Δθescrと演算周期推定誤差Δθesdsとを足し合わせて、定常推定誤差Δθesを算出する(Δθes=Δθescr+Δθesds)。
【0045】
定常推定誤差補正部33は、γδ軸座標系への座標変換に用いる高周波位相θhを補正するように構成されている場合は、定常推定誤差Δθesを2倍した値を、高周波位相θhから減算して、変換用高周波位相θhcを算出するように構成されている(θhc=θh−2Δθes)。なお、定常推定誤差補正部33は、高周波位相θhを補正しないように構成されている場合は、高周波位相θhがそのまま変換用高周波位相θhcとして設定されるように構成されている(θhc=θh)。
一方、定常推定誤差補正部33は、高周波目標値θδhcを補正するように構成されている場合は、定常推定誤差Δθesを、初期設定値ゼロから減算して、高周波目標値θδhcを設定するように構成されている(θδhc=0−Δθes)。定常推定誤差補正部33は、高周波目標値θδhcを補正しないように構成されている場合は、ゼロがそのまま高周波目標値θδhcとして設定されるように構成されている(θδhc=0)。
【0046】
図1に示す切替器51及び切替器53は、定常推定誤差補正部33における、択一的な構成を便宜上示すものであって、実際には回転電機制御装置30に備えられていない。切替器51及び切替器53によって接続された一方に対応する構成のみが、回転電機制御装置30に備えられ、接続されていない他方の構成は、回転電機制御装置30に備えられない。
以下、定常推定誤差補正部33の各部の構成について詳細に説明する。
【0047】
1−7−1.磁束干渉推定誤差Δθescr
まず、磁束干渉推定誤差Δθescrについて説明する。
磁極方向の推定は、q軸インダクタンスLqがd軸インダクタンスLdより大きいことによる突極性を利用している。すなわち、式(11)から式(16)を用いて説明した原理により、円の軌跡を描く推定dq軸高周波実電流Idhe、Iqheへの応答成分として、推定dq軸高周波実電圧Vdhe、Vqheの軌跡の突方向(長径方向)がq軸方向として推定されるように構成されている。
【0048】
<dq軸磁束干渉が生じない場合>
本実施形態に係わる回転電機MGとは異なり、dq軸磁束干渉が生じない回転電機の場合の、実dq軸回転座標系における電圧方程式は、式(17)に示すようになる。ここで、pは、微分演算子(d/dt)を表す。
【数17】
式(10)に示すようなdq軸高周波実電流Idh、Iqhを回転電機MGに印加した場合のdq軸高周波実電圧Vdh、Vqhは、式(18)に示すように近似できる。ここで、実磁極回転速度ωerに対して十分大きい高周波周波数ωhの高周波電流を印加すると仮定してωer=0、Ra=0と近似している。
【数18】
式(18)に示すdq軸高周波実電圧Vdh、Vqhの軌跡は、図6(a)に示すように、突極性によりq軸方向が長径(LqIhωh)となり、d軸方向が短径(LdIhωh)となる楕円になる。すなわち、インダクタンスの突極方向と、q軸方向が一致している。
よって、dq軸磁束干渉が生じない回転電機の場合は、高周波電圧軌跡の突方向(長径)に推定される推定q軸と、実q軸とが一致するため、dq軸磁束干渉による推定誤差が生じない。
【0049】
<dq軸磁束干渉が生じる場合>
本実施形態のように、dq軸磁束干渉が生じる回転電機MGでは、回転電機MGを流れる電流が大きくなると、電流ベクトル方向(q軸)に磁気飽和が生じ、その影響でd−q軸間に相互干渉が生じる。これにより、d軸とq軸との一方の軸の電流変化が他方の軸の磁束に影響を与えるdq軸磁束干渉が生じる。
このようにdq軸磁束干渉が生じる回転電機MGの場合の、実dq軸回転座標系における電圧方程式は、式(19)に示すようになる。
【数19】
ここで、Ldhは、d軸の高周波自己インダクタンスであり、Lqhは、q軸の高周波自己インダクタンスであり、Ldqhは、q軸電流Iqにより生じるd軸の高周波相互インダクタンスであり、Lqdhは、d軸電流Idにより生じるq軸の高周波相互インダクタンスである。高周波相互インダクタンスLdqh、Lqdhが、dq軸磁束干渉により生じる成分である。
【0050】
各高周波インダクタンスLdh、Lqh、Ldqh、Lqdhは、図7の例に示すような、d軸電流Id及びq軸電流Iqの関数であるd軸の鎖交磁束λd及びq軸の鎖交磁束λqを用いて、式(20)により得られる。
【数20】
ここで、ΔId、ΔIqは、それぞれd軸電流Id、q軸電流Iqの微小変化を表す。
図7(a)の例に示すように、d軸の鎖交磁束λdは、基本的にd軸電流Idが増加するにつれ増加するが、dq軸磁束干渉により、q軸電流Iqの変化によっても変化する。図7(b)の例に示すように、q軸の鎖交磁束λqは、基本的にq軸電流Iqが増加するにつれ増加するが、dq軸磁束干渉により、d軸電流Idの変化によっても変化する。各鎖交磁束λd、λqは、d軸電流Id、q軸電流Iqの動作点によって傾向が変化する非線形性が強い特性となっている。
なお、図7では、各鎖交磁束λd、λqの等磁束曲線を、磁束0から増加又は減少方向に所定の磁束間隔Δλd、Δλqで示している。等磁束曲線は、所定の鎖交磁束λd、λqとなるd軸電流Id、q軸電流Iqの軌跡である。また、各鎖交磁束λd、λqは、FEM、又は実験により得ることができる。
【0051】
実dq軸回転座標系において、円の軌跡を描くdq軸高周波実電流Idh、Iqhを回転電機MGに印加した場合のdq軸高周波実電圧Vdh、Vqhは、式(18)と同様にωer=0、Ra=0と近似すると、式(21)に示すように近似できる。
【数21】
式(21)に示すdq軸高周波実電圧Vdh、Vqhの軌跡は、図6(b)に示すように、dq軸磁束干渉により、長径方向が実q軸に対して偏角Δθcr(以下、磁束干渉偏角Δθcrと称す)を有する楕円になる。すなわち、dq軸磁束干渉により、インダクタンスの突極方向が、q軸方向に対して傾いている。
よって、dq軸磁束干渉が生じる場合は、高周波電圧軌跡の突方向(長径方向)に推定される推定q軸は、磁束干渉偏角Δθcrに対応する定常的な推定誤差Δθeである磁束干渉推定誤差Δθescrを有する。
【0052】
実dq軸回転座標系におけるdq軸高周波実電圧Vdh、Vqhの式(21)を、推定dq軸回転座標系に座標変換して、推定dq軸回転座標系における推定dq軸高周波実電圧Vdhe、Vqheの式(22)を得る。
【数22】
【0053】
式(10)に示す高周波電流指令Idch、Iqchに対応する推定dq軸高周波実電流Idhe、Iqheが回転電機MGに印加されるとすると、式(22)は式(23)のように整理できる。
【数23】
式(23)の右辺第1項は、式(11)の右辺第2項に対応しており、式(23)の右辺第2項は、式(11)の右辺第3項に対応している。上記で説明した、磁極方向の推定制御によるバンドパスフィルタ処理、γδ軸座標系への座標変換、ローパスフィルタ処理により、式(15)に対応するγδ軸フィルタ後高周波電圧Vγhf、Vδhfは、式(24)のようになる。
【数24】
そして、式(24)のδ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfは、式(25)のように近似できる。
【数25】
磁極方向の推定制御により、δ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfがゼロになるように推定磁極位置θeeが調整されると、Δθe−Δθcr=0になり、磁束干渉偏角Δθcrの値の定常的な推定誤差Δθeが生じる(Δθe=Δθcr)。磁束干渉偏角Δθcrにより生じる定常的な推定誤差Δθeを、式(26)に示すように、磁束干渉推定誤差Δθescrと定義する。
【数26】
【0054】
<磁束干渉推定誤差Δθescrの補償>
磁束干渉推定誤差Δθescrを補償するために、2つの方法が考えられる。
第一の方法は、γδ軸座標系への座標変換に用いる高周波位相θhを補正する方法である。第二の方法は、δ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfの目標値である高周波目標値θδhcを補正する方法である。
【0055】
<γδ軸座標系の補正>
まず、第一の方法について説明する。
第一の方法では、γδ軸座標系への座標変換に用いる高周波位相θhを、予め同定しておいた磁束干渉偏角Δθcr(磁束干渉推定誤差Δθescr)に基づいて補正する。
具体的には、推定dq軸回転座標系において、γ軸を、高周波電流指令Idch、Iqchの回転方向(γ軸の回転方向の反対方向)に、磁束干渉偏角Δθcrの2倍位相分だけ変化させる補正を行い、当該干渉補正後のγδ軸回転座標系への座標変換を行う。
本実施形態では、図8に示すように、γ軸の回転方向は、位相が遅れる方向(ロータの回転方向の反対方向)に設定されているので、γ軸を、磁束干渉偏角Δθcrの2倍位相分だけ位相が進む方向(ロータの回転方向)に変化させる補正を行う。よって、干渉補正後のγ軸は、推定d軸に対して、高周波位相θhから磁束干渉偏角Δθcrの2倍位相を減算した位相(θhc=θh−2Δθcr)分だけ位相が遅れた方向に定められる。
【0056】
従って、式(13)を用いて説明したγδ軸座標系への座標変換において、−θhに対して、磁束干渉偏角Δθcrの2倍位相分を進めて、γδ軸座標系への座標変換を行う。式(23)に示す推定dq軸高周波実電圧Vdhe、Vqheに対して、干渉補正後のγδ軸座標系への座標変換を行うと、γδ軸高周波電圧Vγh、Vδhは式(27)のようになる。
【数27】
式(27)の右辺第1項は、ローパスフィルタ処理により除去されるので、γδ軸フィルタ後高周波電圧Vγhf、Vδhfは、干渉補正により式(24)及び式(25)から式(28)のように変化する。
【数28】
そして、式(28)のδ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfがゼロになるように、推定磁極位置θeeを調整すれば、推定誤差Δθeをゼロにすることができる。従って、γδ軸座標系への座標変換に用いる高周波位相θhを、予め同定しておいた磁束干渉偏角Δθcr(磁束干渉推定誤差Δθescr)に基づいて補正することにより、推定誤差Δθeをゼロにすることができ、磁束干渉推定誤差Δθescrが生じないようにすることができる。
【0057】
<高周波目標値θδhc>
次に、第二の方法について説明する。
第二の方法では、δ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfの目標値である高周波目標値θδhcを、予め同定しておいた磁束干渉偏角Δθcr(磁束干渉推定誤差Δθescr)に基づいて補正する。
具体的には、高周波目標値θδhcにδ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfに位相電圧変換ゲインKthvの逆数を乗算した値θδhfが一致するように制御されるので、推定誤差Δθeが0になるように、高周波目標値θδhcを、式(29)に示すように設定する。
【数29】
ここで、位相電圧変換ゲインKthvは、位相から電圧への変換ゲインに相当する。
よって、高周波目標値θδhcを、予め同定しておいた磁束干渉偏角Δθcr(磁束干渉推定誤差Δθescr)に基づいて補正することにより、推定誤差Δθeがゼロにすることができ、磁束干渉推定誤差Δθescrが生じないようにすることができる。
【0058】
<磁束干渉誤差演算部34>
図1に示すように、定常推定誤差補正部33に備えられた磁束干渉誤差演算部34が、dq軸電流指令Idc、Iqc又はトルク指令Tmcに基づいて、磁束干渉推定誤差Δθescrを算出する。
本実施形態では、磁束干渉誤差演算部34は、磁束干渉推定誤差Δθescrに係わる特性が予め設定された干渉誤差特性50を備えている。本実施形態では、干渉誤差特性50には、dq軸電流Id、Iq又は回転電機MGの出力トルクと、磁束干渉推定誤差Δθescrとの関係特性が予め設定されている。そして、磁束干渉誤差演算部34は、dq軸電流指令Idc、Iqc又はトルク指令Tmcに基づき、干渉誤差特性50を用いて、磁束干渉推定誤差Δθescrを算出するように構成されている。
【0059】
本実施形態では、図1に示すように、高周波電流指令Idch、Iqchが加算される前の基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbに基づいて、磁束干渉推定誤差Δθescrを算出するように構成されている。なお、高周波電流指令Idch、Iqchが加算された後のdq軸電流指令Idc、Iqc、又は実電流演算部43により演算された推定dq軸実電流Ide、Iqeに基づいて、磁束干渉推定誤差Δθescrを算出するように構成されてもよい。
【0060】
<dq軸電流指令Idc、Iqcに基づく場合>
干渉誤差特性50が、dq軸電流Id、Iqと磁束干渉推定誤差Δθescrとの関係特性の場合は、図9に示す例のような三次元マップ状の特性を有する。図9には、等磁束干渉推定誤差曲線を、推定誤差0から増加又は減少方向に所定の推定誤差間隔Δθoで示している。等磁束干渉推定誤差曲線は、所定の磁束干渉推定誤差Δθescrとなるd軸電流Id、q軸電流Iqの軌跡である。
【0061】
図9の例に示すように、磁束干渉推定誤差Δθescrは、最大トルク電流曲線に沿って見た場合、q軸電流Iqがゼロから増加するにつれゼロから減少し、q軸電流Iqがゼロから減少するにつれゼロから増加する特性となっている。q軸電流Iqがゼロ付近では、磁束干渉推定誤差Δθescrはゼロ付近であるが、q軸電流Iqの絶対値が大きくなるに従い、磁気飽和が大きくなり、磁束干渉推定誤差Δθescrの絶対値が大きくなっている。また、磁束干渉推定誤差Δθescrは、dq軸電流Id、Iqの動作点によって傾向が変化し、非線形性が強い特性となっている。
【0062】
<トルク指令Tmcに基づく場合>
干渉誤差特性50が、回転電機MGの出力トルクと磁束干渉推定誤差Δθescrとの関係特性の場合は、図10に示す例のような2次元マップ状の特性を有する。
上記のように、基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbは、最大トルク電流曲線のような、電流ベクトル制御方法毎に設定された制御則に従い、トルク指令Tmcに基づいて決定される。よって、図5(b)、(c)に示す最大トルク電流制御の場合のように、トルク指令Tmcと、基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbとの間には、電流ベクトル制御方法毎に所定の対応関係があり、トルク指令Tmcに応じて、基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbの動作点が特定される。そして、図9に示すような特性を用いて、特定された基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbの動作点における、磁束干渉推定誤差Δθescrを求めることができる。よって、回転電機MGの出力トルクと磁束干渉推定誤差Δθescrとの間には、電流ベクトル制御方法毎に所定の関係特性があり、当該電流ベクトル制御方法毎の関係特性が、干渉誤差特性50に予め設定されている。磁束干渉誤差演算部34は、設定されている電流ベクトル制御方法に対応する関係特性を用いて、磁束干渉推定誤差Δθescrを算出するように構成されている。
【0063】
図10には、最大トルク電流制御の場合の関係特性の例を示している。磁束干渉推定誤差Δθescrは、出力トルクがゼロから増加するにつれゼロから減少し、出力トルクがゼロから減少するにつれゼロから増加している。出力トルクがゼロ付近では、磁束干渉推定誤差Δθescrはゼロ付近であるが、出力トルクの絶対値が大きくなるに従い、磁気飽和が大きくなり、磁束干渉推定誤差Δθescrの絶対値が大きくなっている。
【0064】
<干渉誤差特性50の設定値>
干渉誤差特性50に設定される磁束干渉推定誤差Δθescrの値は、FEM又は実験により得た各高周波インダクタンスLdh、Lqh、Ldqh、Lqdhに基づき、式(22)に示す磁束干渉偏角Δθcrと各高周波インダクタンスとの関係を表す理論式に対応する式(30)を用いて、予め算出された値に設定される。或いは、干渉誤差特性50の値は、実験により予め測定された磁束干渉推定誤差Δθescrの値に設定される。
【数30】
【0065】
或いは、干渉誤差特性50は、dq軸電流Id、Iq又は出力トルクと各高周波インダクタンスLdh、Lqh、Ldqh、Lqdhとの関係特性とされてもよい。この場合は、干渉誤差特性50を用いて算出された各高周波インダクタンスLdh、Lqh、Ldqh、Lqdhに基づき、式(22)に示す磁束干渉偏角Δθcrと各高周波インダクタンスとの関係を表す理論式に対応する式(30)に従って、磁束干渉推定誤差Δθescrが算出される。
【0066】
1−7−2.演算周期推定誤差Δθesds
次に、演算周期推定誤差Δθesdsについて説明する。
磁極方向の推定制御の基になっている式(11)の電圧方程式では、同じ時点における実電流及び実電圧が用いられることが前提となっている。
【0067】
一方、回転電機制御装置30では、磁極方向調整部32が、図1に示すように、実電圧の代わりに、電圧指令であるdq軸電圧指令Vdc、Vqcに基づいて、磁極方向を推定するように構成されている。以下で説明するように、電圧指令と、実電圧との間に処理遅れによる時間差及び位相差があるため、定常的な推定誤差Δθeが生じる。
【0068】
回転電機制御装置30は、離散系の制御器とされており、所定の演算周期ΔTo毎に、各制御部の処理を順番に1回ずつ実行する演算サイクルを開始する。
回転電機制御装置30は、各演算サイクルの開始時点付近で、電流センサSe1などの各センサの出力信号の取得や、各制御部に共通して用いられる高周波位相θh及び推定磁極位置θeeなどのパラメータの更新を実行し、その後、これらの情報に基づいて、各制御部の処理を順番に実行するように構成されている。よって、同じ演算サイクル内で演算される各制御値は、当該演算サイクルの開始時点において演算されたものとみなすことができる。すなわち、推定dq軸実電流Ide、Iqe、dq軸電圧指令Vdc、Vqc、高周波位相θhなどは、演算サイクルの開始時点で演算されたとみなすことができる。
【0069】
しかし、図11に示すように、dq軸電圧指令Vdc、Vqcが演算されたとみなされる演算サイクルの開始時点から、算出されたdq軸電圧指令Vdc、Vqcが回転電機MGに印加される電圧に反映されるまでには、電流制御部41及び電圧制御部42などによる処理遅れが生じる。よって、磁極方向調整部32が基づく電圧情報は、実電流および実電圧に対して、処理遅れ時間ΔTdsだけ進んだ情報であるため、当該処理遅れ時間ΔTdsに応じた推定誤差Δθeが生じる。なお、処理遅れ時間ΔTdsについては後述する。
図12及び式(31)に示すように、dq軸電圧指令Vdc、Vqcに含まれる高周波周波数ωh成分であるdq軸高周波電圧指令Vdch、Vqchは、推定dq軸高周波実電圧Vdhe、Vqheに対して、処理遅れにより生じる処理遅れ位相Δθdsだけ位相が進んでいる。ここで、処理遅れ位相Δθdsは、処理遅れ時間ΔTdsに高周波周波数ωhを乗算した位相になる。
【数31】
式(31)に、式(11)を代入して整理すると、dq軸高周波電圧指令Vdch、Vqchと、推定dq軸高周波実電流Idhe、Iqheに関する式(32)を得る。
【数32】
【0070】
式(32)に対して、磁極方向の推定制御によるバンドパスフィルタ処理、γδ軸座標系への座標変換、ローパスフィルタ処理を行うことにより、式(15)に対応するγδ軸フィルタ後高周波電圧Vγhf、Vδhfは、式(33)のようになる。
【数33】
そして、式(33)のδ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfは、式(34)のように近似できる。
【数34】
磁極方向の推定制御により、δ軸フィルタ後高周波電圧Vδhfがゼロになるように推定磁極位置θeeが調整されると、Δθe−1/2Δθds=0になり、処理遅れ位相Δθdsの1/2の値の定常的な推定誤差Δθeが生じる(Δθe=1/2Δθds)。処理遅れ位相Δθdsにより生じる定常的な推定誤差Δθeを、式(35)に示すように、演算周期推定誤差Δθesdsと定義する。
【数35】
【0071】
<処理遅れ時間ΔTds>
処理遅れ時間ΔTdsについて詳しく説明する。
図11に示すように、dq軸電圧指令Vdc、Vqcが演算されたとみなされる演算サイクルの開始時点から、算出されたdq軸電圧指令Vdc、Vqcが回転電機MGに印加される電圧に反映されるまでには、電流制御部41及び電圧制御部42などによる処理遅れが生じる。
本実施形態では、演算サイクルが終了するまでの途中で、dq軸電圧指令Vdc、Vqcが算出され、dq軸電圧指令Vdc、Vqcに基づいて三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcが算出されるが、算出された三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcが、インバータ制御部の処理に反映される時期は、次の演算サイクルの開始時期とされている。そして、電圧制御部42が、当該次の演算サイクルで、前の演算サイクルで算出された三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcに基づいて、インバータINを介して、回転電機MGに印加する三相交流電圧を制御するように構成されている。よって、演算サイクルの開始時点から、インバータINの駆動に反映されるまでに、演算周期ΔToの処理遅れが生じる。
【0072】
また、電圧制御部42は、同じ演算サイクルの期間中、演算サイクルの開始時期で更新された三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcに基づいて、インバータINの駆動制御を行う。すなわち、演算サイクルの開始時期で更新された三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcは、演算サイクルの期間中0次ホールドされる。よって、インバータINの駆動に反映される電圧指令(以下、インバータ駆動反映電圧指令と称す)には、演算サイクルの開始後も、処理遅れが生じていく。階段状に変化するインバータ駆動反映電圧指令の平均的な挙動を、図11に反映電圧指令平均の線で示すように、次の演算サイクルの開始時点に対して、更に、演算周期ΔToの1/2周期の処理遅れを生じている。すなわち、0次ホールドにより階段状に変化するインバータ駆動反映電圧指令は、平均的に、演算周期ΔToの1/2周期の処理遅れを生じている。
従って、処理遅れ時間ΔTdsは、電圧指令演算値の反映遅れによる1.0×ΔToと、0次ホールドによる0.5×ΔToとの合計である1.5ΔToとなっている。
【0073】
上記の0次ホールドによる処理遅れを、数式で説明する。
式(36)に示す連続系で表したd軸高周波実電圧Vdhを、演算周期ΔToの0次ホールドを用いて離散化すると、式(37)のような離散処理で表すことができる。
【数36】
【数37】
式(37)のcos((n−0.5)ωhΔTo)の部分から理解できるように、式(36)の連続系の挙動に対し、0次ホールドを用いて離散化することより、0.5ΔTo分の処理遅れ時間ΔTdsが生じ、0.5ΔTo×ωh分の処理遅れ位相Δθdsが生じることがわかる。
【0074】
<演算周期誤差演算部35>
図1に示すように、定常推定誤差補正部33に備えられた演算周期誤差演算部35が、演算周期推定誤差Δθesdsを算出する。
演算周期誤差演算部35は、電圧指令の演算周期ΔToの1.5倍の期間に高周波周波数ωhを乗算した位相に応じて生じる磁極方向の推定誤差Δθeを演算周期推定誤差Δθesdsとする。
本実施形態では、演算周期誤差演算部35は、演算周期ΔToの1.5倍の期間に高周波周波数ωhを乗算して処理遅れ位相Δθdsを算出し、処理遅れ位相Δθdsに0.5のゲインを乗算して演算周期推定誤差Δθesdsを算出するように構成されている。なお、演算周期ΔTo、高周波周波数ωhが固定値である場合は、図1に示すような乗算処理を行わずに、演算周期推定誤差Δθesdsが、0.75×ΔTo×ωhの値に予め設定された所定値に設定されるように構成されてもよい。
【0075】
なお、図13に示すように、演算サイクルの開始後、三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcが算出された時点で、算出された三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcがインバータ制御部の処理に反映されるように構成される場合は、電圧指令演算値の反映遅れは、演算サイクルの開始後、三相電圧指令Vuc、Vvc、Vwcが算出されるまでの期間(Kd×ΔTo)になり、演算周期ΔToより短くなる。この場合は、処理遅れ時間ΔTdsは、演算サイクルの開始時点から、電圧指令が算出され、インバータINの駆動制御に反映されるまでの期間(Kd×ΔTo)と、0次ホールドによる0.5×ΔToとの合計である(Kd+0.5)×ΔToとなる。この場合は、演算周期誤差演算部35は、演算周期ΔToの(Kd+0.5)倍の期間に高周波周波数ωhを乗算して処理遅れ位相Δθdsを算出するように構成される。なお、演算周期誤差演算部35は、電圧指令演算値の反映遅れ(Kd×ΔTo)を、タイマによりリアルタイムに計測し、計測した値に基づいて、電圧指令演算値の反映遅れ(Kd×ΔTo)を設定するように構成されてもよい。
【0076】
演算周期推定誤差Δθesdsがγδ軸座標系の補正に用いられる場合は、上記の磁束干渉推定誤差Δθescrで説明したように、高周波位相θhから演算周期推定誤差Δθesdsの2倍位相を減算した位相(θhc=θh−2Δθesds)を用いて、γδ軸座標系への座標変換を行う。一方、演算周期推定誤差Δθesdsが高周波目標値θδhcの補正に用いられる場合は、演算周期推定誤差Δθesdsを、初期設定値ゼロから減算して、高周波目標値θδhcを設定する(θδhc=0−Δθesds)。
【0077】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明のその他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0078】
(1)上記の実施形態において、定常推定誤差補正部33が、磁束干渉推定誤差Δθescr及び演算周期推定誤差Δθesdsの双方を算出し、それらを合計した定常推定誤差Δθesに基づいて、γδ軸座標系への座標変換に用いる高周波位相θh、又は高周波目標値θδhcを補正するように構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、定常推定誤差補正部33は、磁束干渉推定誤差Δθescr及び演算周期推定誤差Δθesdsの何れか一方のみを算出し、何れか一方の算出値が設定された定常推定誤差Δθesに基づいて、γδ軸座標系への座標変換に用いる高周波位相θh、又は高周波目標値θδhcを補正するように構成されてもよい。
【0079】
(2)上記の実施形態において、高周波電流指令Idch、Iqchが加算される基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbが、トルク電流演算部40によりトルク指令Tmcに基づいて設定される場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、基本dq軸電流指令Idcb、Iqcbが、推定磁極回転速度ωeeを目標回転速度に近づける回転速度制御部により設定されるなど、トルク指令Tmcに基づく設定以外の方法で設定されるように構成されてもよい。この場合は、磁束干渉推定誤差Δθescrは、dq軸電流指令Idc、Iqcに基づいて、算出される。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、突極性を有するロータを備えた回転電機に高周波電流を印加し、前記高周波電流への応答成分として電圧指令に含まれる高周波成分に基づいて前記ロータの磁極方向を推定し、前記回転電機を制御する回転電機制御装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
Δθcr :磁束干渉偏角
Δθds :処理遅れ位相
Δθe :推定誤差
Δθes :定常推定誤差
Δθescr:磁束干渉推定誤差
Δθesds:演算周期推定誤差
ΔTo :演算周期
ΔTds :処理遅れ時間
θee :推定磁極位置
θer :実磁極位置
θh :高周波位相(高周波電流指令の位相)
θhc :変換用高周波位相
λd :d軸鎖交磁束
λq :q軸鎖交磁束
ωee :推定磁極回転速度
ωer :実磁極回転速度
ωh :高周波周波数(高周波電流指令の角周波数)
30 :回転電機制御装置
31 :高周波重畳部
32 :磁極方向調整部
33 :定常推定誤差補正部
34 :磁束干渉誤差演算部
35 :演算周期誤差演算部
40 :トルク電流演算部
41 :電流制御部
42 :電圧制御部
43 :実電流演算部
50 :干渉誤差特性
60 :バンドパスフィルタ(BPF)
61 :γδ座標変換
62 :ローパスフィルタ(LPF)
63 :推定値フィードバック制御部
64 :積分器
65 :単位換算部
Bt :蓄電装置
IN :インバータ
Id、Iq :dq軸電流
Idc、Iqc :dq軸電流指令
Idcb、Iqcb :基本dq軸電流指令
Idch、Iqch :高周波電流指令
Ide、Iqe :推定dq軸実電流
Idhe、Iqhe :推定dq軸高周波実電流
Idh、Iqh :dq軸高周波実電流
Iu、Iv、Iw :三相実電流
Kthv :位相電圧変換ゲイン
Ld :d軸インダクタンス
Lq :q軸インダクタンス
Ldh :d軸高周波自己インダクタンス
Lqh ;q軸高周波自己インダクタンス
Ldqh :d軸高周波相互インダクタンス
Lqdh :q軸高周波相互インダクタンス
MG :回転電機
θδhc :高周波目標値
θδhf :δ軸フィルタ後高周波位相
Se1 :電流センサ
Suvw :インバータ制御信号
Tmc :トルク指令
Vbd、Vbq :基本電圧指令
Vdd、Vdq :非干渉電圧指令
Vid、Viq :内部モデル電圧指令
Vγh、Vδh :γδ軸高周波電圧
Vγhf、Vδhf :γδ軸フィルタ後高周波電圧
Vdc、Vqc :dq軸電圧指令
Vdcf、Vqcf :dq軸フィルタ後電圧指令
Vdch、Vqch :dq軸高周波電圧指令
Vdh、Vqh :dq軸高周波実電圧
Vdhe、Vqhe :推定dq軸高周波実電圧
Vuc、Vvc、Vwc :三相電圧指令
【特許請求の範囲】
【請求項1】
突極性を有するロータを備えた回転電機に高周波電流を印加し、前記高周波電流への応答成分として電圧指令に含まれる高周波成分に基づいて前記ロータの磁極方向を推定し、前記回転電機を制御する回転電機制御装置であって、
推定した磁極方向を推定d軸、当該推定d軸と電気角で直交する方向を推定q軸とした推定dq軸回転座標系を設定し、当該推定dq軸回転座標系における前記回転電機への電流指令に前記高周波電流の指令である高周波電流指令を重畳する高周波重畳部と、
前記推定dq軸回転座標系に対して前記高周波電流指令の位相差を有する高周波座標系を設定し、前記推定dq軸回転座標系で表した前記電圧指令を前記高周波座標系に座標変換した値が、初期設定値をゼロとする高周波目標値に近づくように前記磁極方向の推定値を変化させる磁極方向調整部と、
d軸とq軸との一方の軸の電流の変化が他方の軸の磁束に影響を与えるdq軸磁束干渉に関し、前記電流指令又は前記回転電機へのトルク指令に基づいて、前記dq軸磁束干渉により生じる前記磁極方向の推定値の誤差である磁束干渉推定誤差を算出し、当該磁束干渉推定誤差に基づいて、前記座標変換に用いる前記高周波電流指令の位相又は前記高周波目標値を補正する定常推定誤差補正部と、
を備える回転電機制御装置。
【請求項2】
前記定常推定誤差補正部は、前記磁束干渉推定誤差に加えて、前記推定dq軸回転座標系における電圧指令の演算周期により生じる前記磁極方向の推定値の誤差である演算周期推定誤差にも基づいて、前記高周波電流指令の位相又は前記高周波目標値を補正する請求項1に記載の回転電機制御装置。
【請求項3】
前記定常推定誤差補正部は、前記電圧指令の演算周期の1.5倍の期間に前記高周波電流指令の角周波数を乗算した位相に応じて生じる前記磁極方向の推定値の誤差を前記演算周期推定誤差とする請求項2に記載の回転電機制御装置。
【請求項1】
突極性を有するロータを備えた回転電機に高周波電流を印加し、前記高周波電流への応答成分として電圧指令に含まれる高周波成分に基づいて前記ロータの磁極方向を推定し、前記回転電機を制御する回転電機制御装置であって、
推定した磁極方向を推定d軸、当該推定d軸と電気角で直交する方向を推定q軸とした推定dq軸回転座標系を設定し、当該推定dq軸回転座標系における前記回転電機への電流指令に前記高周波電流の指令である高周波電流指令を重畳する高周波重畳部と、
前記推定dq軸回転座標系に対して前記高周波電流指令の位相差を有する高周波座標系を設定し、前記推定dq軸回転座標系で表した前記電圧指令を前記高周波座標系に座標変換した値が、初期設定値をゼロとする高周波目標値に近づくように前記磁極方向の推定値を変化させる磁極方向調整部と、
d軸とq軸との一方の軸の電流の変化が他方の軸の磁束に影響を与えるdq軸磁束干渉に関し、前記電流指令又は前記回転電機へのトルク指令に基づいて、前記dq軸磁束干渉により生じる前記磁極方向の推定値の誤差である磁束干渉推定誤差を算出し、当該磁束干渉推定誤差に基づいて、前記座標変換に用いる前記高周波電流指令の位相又は前記高周波目標値を補正する定常推定誤差補正部と、
を備える回転電機制御装置。
【請求項2】
前記定常推定誤差補正部は、前記磁束干渉推定誤差に加えて、前記推定dq軸回転座標系における電圧指令の演算周期により生じる前記磁極方向の推定値の誤差である演算周期推定誤差にも基づいて、前記高周波電流指令の位相又は前記高周波目標値を補正する請求項1に記載の回転電機制御装置。
【請求項3】
前記定常推定誤差補正部は、前記電圧指令の演算周期の1.5倍の期間に前記高周波電流指令の角周波数を乗算した位相に応じて生じる前記磁極方向の推定値の誤差を前記演算周期推定誤差とする請求項2に記載の回転電機制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−90552(P2013−90552A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232067(P2011−232067)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
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