説明

回転電機用ロータ

【課題】簡易な構成でロータ全体を効率良く冷却すること。
【解決手段】回転軸40によってケース30に軸支されるとともに、回転軸40の軸心方向に積層された複数の電磁鋼板12により構成されるロータ本体10と、ロータ本体10の内部に配設される永久磁石11とを備え、ロータ本体10の外面に熱放射塗料70を塗布してある回転電機用ロータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸によってケースに軸支されるとともに、前記回転軸の軸心方向に積層された複数の電磁鋼板により構成されるロータ本体と、前記ロータ本体の内部に配設される永久磁石とを備える回転電機用ロータに関する。
【背景技術】
【0002】
ロータ本体と永久磁石とを備えた回転電機用ロータは、各種回転電機の動力機構として利用されている。
ロータの永久磁石は、回転電機の出力に応じて発熱量が大きくなる。このような発熱が過大になると、永久磁石が減磁して回転電機のトルク低下を引き起こしたり、ロータ本体の電磁鋼板が破損する原因となるため、回転電機においては永久磁石とロータ本体とが冷却される場合がある。この種類の技術としては、例えば以下の特許文献1に記載されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−178243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載される回転電機のロータは、そのロータ本体に回転軸の軸心に沿う方向に貫通した冷媒流路を備えており、冷却オイル等の冷媒が当該冷媒流路を流通することによって、永久磁石が冷却されるように構成される。
【0005】
しかし、上記ロータでは、永久磁石の冷却効果は高いものの、ロータ本体の冷却効果はそれほど高くはなく、ロータ全体の冷却効果を高めるという意味では改善する余地が残されている。この問題を解決するための一つの手段として、さらなる冷媒流路をロータ本体に追加して設けるということも考えられるが、そのための加工コストの大幅な増加や、ロータ本体の強度低下をもたらすこととなるため現実的ではない。つまり、より簡易な構成でロータ全体の冷却効果を高めることのできる技術が望まれている。
したがって、本発明の目的は、簡易な構成でロータ全体を効率良く冷却することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る回転電機用ロータの第1特徴構成は、回転軸によってケースに軸支されるとともに、前記回転軸の軸心方向に積層された複数の電磁鋼板により構成されるロータ本体と、前記ロータ本体の内部に配設される永久磁石とを備え、前記ロータ本体の外面に熱放射塗料を塗布してある点にある。
【0007】
〔作用及び効果〕
本構成のごとく、ロータ本体の外面に熱放射塗料を塗布しておけば、ロータ本体からの放熱が高められるため、ロータ本体の冷却効果が向上すると共に、永久磁石で生じた熱がロータ本体へと移行し易くなるため、永久磁石の冷却効果も向上する。即ち、熱放射塗料を塗布するという簡易な構成でロータ全体を効率良く冷却することができる。
【0008】
第2特徴構成は、前記熱放射塗料を前記ロータ本体の少なくとも両端面に塗布してある点にある。
【0009】
〔作用及び効果〕
熱放射塗料をロータ本体の外周面に塗布してもロータ全体の冷却効果は向上し得る。しかしながら、本構成のごとく、熱放射塗料をロータ本体の少なくとも両端面に塗布すれば、ロータ全体の冷却効果が向上すると共に、ロータ本体とステータとの間の隙間をできるかぎり狭く設定することができ、その上、剥がれた塗料が当該隙間に挟まってロータ本体の回転障害を引き起こすこともない。
【0010】
第3特徴構成は、前記熱放射塗料の塗布面が凹凸形状を有する点にある。
【0011】
〔作用及び効果〕
本構成のごとく、熱放射塗料の塗布面が凹凸形状を有するものであれば、塗布面が平坦である場合と比べて表面積が大きいため、その放熱効果もより一層高いものとなる。
【0012】
第4特徴構成は、前記凹凸形状が、凹凸部を有する前記ロータ本体の両端面に前記熱放射塗料を塗布することによって形成される点にある。
【0013】
〔作用及び効果〕
本構成のごとく、ロータ本体の両端面が凹凸部を有するものであれば、熱放射塗料の塗布面が確実に凹凸形状となる。ここで、熱放射塗料の塗布面は、その膜厚を薄くするほど放熱効果が向上することが知られている。そのため、仮に同じ量の熱放射塗料を平坦面に塗布した場合と比べると、本構成の方が熱放射塗料の塗布面の膜厚を薄くすることができるため、放熱効果もよい高いものとなる。
【0014】
第5特徴構成は、前記凹凸部が、前記ロータ本体の両端面において前記回転軸側から径方向外側に放射状に形成される点にある。
【0015】
〔作用及び効果〕
ロータ本体の両端面では、その外周側の永久磁石が配置される位置での発熱量が多い。しかし、本構成のごとく、ロータ本体の両端面における凹凸部が回転軸側から径方向外側に放射状に形成されるものであれば、外周側で発生した熱が、回転軸側に熱移動し易くなる。その結果、熱が凹凸部の全体に伝わり易く放熱効果がさらに向上する。また、凹凸部がフィンの役割を果たして、ロータ本体の側面の気流がより攪拌されるようになるため、放熱が促進されて、冷却効果が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るロータを備える回転電機の断面図である。
【図2】ロータ本体の端面の正面図である。
【図3】ロータ本体の端面の拡大断面図である。
【図4】ロータの分解斜視図である。
【図5】ロータ本体の端面の別形態を示す斜視図である。
【図6】ロータ本体の端面の別形態を示す斜視図である。
【図7】ロータ本体の外周面の別形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に示した断面図、図2に示した正面図、図3に示した断面図、及び図4に示した分解斜視図に基づいて、本発明に係るロータ9を電動モータ1に適用した場合の実施形態について説明する。尚、図1における破線の矢印は冷媒の流れを示す。
【0018】
電動モータ1は永久磁石型モータであり、ハイブリッド車や電気自動車の駆動源として利用可能なものである。電動モータ1は、回転軸40によってケース30に軸支されるロータ本体10とその内部に配設される永久磁石11とを有するロータ9と、ロータ9の径方向外側に配置され、且つケース30に固定されるステータ20とを備えて構成される。ケース30は、図1において左側部分を構成するケース部材30aと、右側部分を構成するケース部材30bとを接合して構成される。
【0019】
ロータ本体10は、プレス加工により円周方向に等間隔に打ち抜き穴を作製した複数の電磁鋼板12を、回転軸40の軸心に沿う方向に積層させて構成されるものである。ロータ本体10の円周方向には等間隔に複数の冷媒用流路10aが形成される。
【0020】
冷媒用流路10aの径方向外側には永久磁石11が配置されている。これらは、ロータ本体10に接着固定される。冷却オイル等の冷媒が冷媒用流路10aを流れて排出口10bから排出される間に、永久磁石11とロータ本体10の熱が冷媒により回収されるため、永久磁石11が高温により減磁するのを抑えることができる。
【0021】
ステータ20は、ロータ9と同様に、複数の電磁鋼板22を積層させて構成される。ステータ20にはコイル21が配置され、コイル21に通電を行うことにより、ステータ20に磁界が発生して、ロータ9が回転する。
【0022】
回転軸40は、ケース30に設けられた一対のベアリング31を介してケース30に軸支される。回転軸40は、内部空間40aを有する円筒状に構成されるとともに、周方向に複数形成された連通孔40bを有している。回転軸40の一端には、回転軸40と同軸心上に一体回転する出力軸41が接続されている。回転軸40と同様に、出力軸41は内部空間41aを有して円筒状に構成される。図示しないポンプより送られる冷媒は、出力軸41の内部空間41aを経由して、回転軸40の内部空間40aに導入される。尚、回転軸40と出力軸41とを一部材として構成してもよい。
【0023】
ロータ本体10の端面10cにはプレート部材60が取り付けられる。プレート部材60に形成された連通空間60aは、回転軸40の連通孔40bとロータ本体10の冷媒用流路10aとを接続し、冷媒が回転軸40の内部空間40aから冷媒用流路10aに流れることができるよう構成されている。プレート部材60は、ロータ本体10の端面に接着や溶接等の適当な手段で取り付けることができるが、プレート部材60とロータ本体10との間に冷媒漏れを防止する弾性部材等を設けると好適である。
【0024】
図1に示すように、ロータ本体10の両端面10c,10dに熱放射塗料70を塗布してある。これにより、ロータ本体10からの放熱が高められるため、ロータ本体10の冷却効果が向上する。同時に、永久磁石11で生じた熱がロータ本体10へと移行し易くなるため、永久磁石11の冷却効果もさらに向上する。
【0025】
熱放射塗料70は、ロータ本体10の両端面10c,10dだけでなく、より冷却効果を高めるために必要に応じてその外周面10eに塗布してもよい。また、熱放射塗料70の乾燥後の膜厚は特に限定されるものではないが、放熱効果を向上させるためにできる限り薄くした方が良い。
【0026】
本発明に適用可能な熱放射塗料70としては、例えば、Al23,SiO2,TiO2などの金属酸化物セラミックスを主成分とする遠赤外線輻射塗料が挙げられる。しかし、これに限定されるものではなく、全波長域で放射率の良い熱放射塗料を用いることが望ましい。
【0027】
ロータ本体10の両端面10c,10dは平坦であっても良いが、図2〜図4に示すように、ロータ本体10の両端面10c,10dのそれぞれに、回転軸40側から径方向外側に向かって放射状に延びる凹凸部80を形成すると、熱放射塗料70の塗布面が凹凸形状となり、塗布面が平坦である場合と比べて表面積が大きくなるため、放熱効果がより一層高いものとなる。
【0028】
尚、両端面10c,10dの凹凸部80の形状については、図2及び図4に示す放射状に限定されるものではなく、例えば、図5に示すように回転軸40側から径方向外側に向かって渦巻き状に形成されたものや、あるいは図6に示すように回転軸40の軸心を中心として同心円状に形成されたものであっても良い。ただし、図2及び図4のように放射状に形成したものであれば、図5に示す渦巻き状や図6に示す同心円状に比べて、外周側の永久磁石11で発生した熱が回転軸40側に熱移動し易くなる。その結果、熱が凹凸部80の全体に伝わり易く放熱効果がさらに向上する。また、凹凸部80がフィンの役割を果たして、ロータ本体10の側面の気流がより攪拌されるようになるため、放熱が促進されて、冷却効果が向上する。
【0029】
図示しないが、ロータ本体10の両端面10c,10dが凹凸のない平坦なものにおいて、その両端面10c,10dに熱放射塗料70を塗布して乾燥させ、半乾きの状態で凹凸形状を有する型を押し当てて乾燥固化することによって、凹凸形状を形成するようにしても良い。
【0030】
図7に示すように、ロータ本体10の電磁鋼板12として大径の電磁鋼板12aと小径の電磁鋼板12bとを使用し、それらを交互に配置することによって、ロータ本体10の外周面10eに凹凸を形成するようにしても良い。
【0031】
また、図1に示すように、ロータ本体10の両端面10c,10dのうち少なくともいずれか一方に相対する位置に赤外線温度センサー90を設置するようにしても良い。本実施形態では、ロータ本体10の端面10cに相対するようにケース部材30bに赤外線温度センサー90を設けているが、もう一方の端面10dに相対するようにケース部材30aに設けても良いし、無論、両方のケース部材30a,30bに設けるようにしても良い。
【0032】
ロータ9では、熱放射塗料70を塗布することで赤外線の放出が促されるため、赤外線温度センサー90がロータ9から発せられる赤外線を検知し易く、その結果として、ロータ9の温度を非接触で的確に測定することができる。これにより、使用限界温度付近までロータ9を高速回転させることが可能となり、ロータ9の性能を最大限まで利用することができるようになるため、ロータ9を小型化して、製造コストを削減することができる。
【0033】
尚、赤外線温度センサー90の設置位置については、上述の位置に限定されるものではなく、ロータ9の温度と、赤外線温度センサー90の設置位置における赤外線量との相関関係を把握している場合であれば、たとえ熱放射塗料70の塗布面に相対する位置でなくとも設置することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、ハイブリッド車や電機自動車の駆動源となる電動モータ等の回転電機において利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
9 ロータ
10 ロータ本体
10c,10d端面
11 永久磁石
12 電磁鋼板
30 ケース
40 回転軸
70 熱放射塗料
80 凹凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸によってケースに軸支されるとともに、前記回転軸の軸心方向に積層された複数の電磁鋼板により構成されるロータ本体と、前記ロータ本体の内部に配設される永久磁石とを備え、
前記ロータ本体の外面に熱放射塗料を塗布してある回転電機用ロータ。
【請求項2】
前記熱放射塗料を前記ロータ本体の少なくとも両端面に塗布してある請求項1に記載の回転電機用ロータ。
【請求項3】
前記熱放射塗料の塗布面が凹凸形状を有する請求項2に記載の回転電機用ロータ。
【請求項4】
前記凹凸形状が、凹凸部を有する前記ロータ本体の両端面に前記熱放射塗料を塗布することによって形成されたものである請求項3に記載の回転電機用ロータ。
【請求項5】
前記凹凸部が、前記ロータ本体の両端面において前記回転軸側から径方向外側に放射状に形成される請求項4に記載の回転電機用ロータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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