説明

固定具

【課題】吊りボルトに対して任意の取り付け角度でブレース材を固定でき、かつ固定のための操作が容易な固定具を得る。
【解決手段】第1の固定具100は、吊りボルト190と係合する係合部材110と、羽子板ボルトの一部を成す棒状部材160とを備える。係合部材110は、吊りボルト190と係合する基部111と、棒状部材160を支持する第1の棒支持部141とを備える。第1の棒支持部141は、ピン151により回転自在に基部111と接続される。第1の棒支持部141は、1枚の板を90度に曲げたL字型断面を有し、一方の平板である第1の平板143にはピン穴が空けられ、他方の平板である第2の平板144には穴142が空けられる。第2の平板144は、上側の角が直線状に切断される。穴142には雌ねじが切られ、棒状部材160が穴142と螺合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊りボルト等にブレースを固定するための固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
天井の耐震強度を向上させるため、補強ブレースを設置することが一般に行われている。ブレース材としては、例えばCチャンネル、リップ溝型鋼等が使用されており、通常、これらの一端は、等間隔に配置された吊りボルトの天井スラブ付近に固定具を用いて固定され、他端は、隣接する吊りボルトの下部、野縁受け、又はTバー等(以下、野縁受け等という)にねじ等により固定される。
【0003】
固定具は、爪及びねじ穴を有する。爪は、吊りボルトと係合する。ブレース材に固定された羽子板ボルトが穴にねじ込まれ、羽子板ボルトが吊りボルトに突き当たることにより、固定具及びブレース材が吊りボルトに固定される(特許文献1から3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−35960号公報
【特許文献2】特開2008−169607号公報
【特許文献3】特開2003−138688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
互いに角形の断面を有する野縁等とブレース材を確実に固定するためには野縁受け等に対してブレース材の向きを一定にして、互いに面接触させなければならない。しかし、野縁受け等の位置は天井材や吊りボルトとの位置関係により決定されるため、容易に変更できない。そのため、固定具に対してブレース材の向きを変更することにより、野縁受け等とブレース材とを面接触させる必要がある。
【0006】
固定具に対するブレース材の向きは、羽子板ボルトを回転することにより変更可能である。しかし、羽子板ボルトは、回転すると軸方向に進退するため、吊りボルトに突き当たらなくなる恐れがある。羽子板ボルトが吊りボルトに突き当たらないと、吊りボルトに対する補強ブレースの固定強度が不足する可能性がある。補強ブレースが強固に固定されていない場合、災害時などにおいて天井パネルの落下等の被害が生じるおそれがある。
【0007】
本発明はこれらの問題に鑑みてなされたものであり、吊りボルトに対して任意の向きでブレース材を容易に固定できる固定具を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の固定具は、棒体に固定される固定具であって、棒体の側面と係合する第1の係合部材及び第2の係合部材を有し、第2の係合部材は、棒体に向かって進退自在となるように第1の係合部材に取り付けられ、第2の係合部材の側面と第1の係合部材の側面との間に棒体を挟むように棒体と係合し、第1の係合部材は、第2の係合部材の側面及び第1の係合部材の側面とは異なる部位で棒体を挟持する第1の支持部及び第2の支持部をさらに有することを特徴とする。
【0009】
第2の係合部材は棒状部材であって、第1の係合部材は、第2の係合部材が長手方向に進退自在となるように挿入される穴を有し、穴は、第2の係合部材の長手方向における任意の場所で、第2の係合部材が長手方向に移動しないように第2の係合部材を固定し、第1の支持部及び第2の支持部は、第2の係合部材の長手方向と平行な直線上で棒体を挟持することが好ましい。
【0010】
係合部材は、棒体の軸方向に延びて棒体と係合する接触部と、接触部から棒体の外周に沿うように延びる第1の支持部と、接触部から棒体の外周に沿うように第1の支持部と反対方向に延びる第2の支持部とを有することが好ましい。
【0011】
係合部材は、第2の支持部から延びる棒支持部を備え、穴は、その軸が棒体の側面から、棒状部材の軸と側面との距離だけ離間する位置となるように棒支持部に設けられることが好ましい。
【0012】
棒支持部は、棒体の軸に対して直角な回転軸に対して回転可能に設けられてもよい。
【0013】
棒状部材が穴に挿入されたとき棒状部材の軸が回転軸と交わらないように、穴が設けられることが好ましい。
【0014】
接触部において、棒体と接触する面に、棒体の軸に対して略直角を成す溝が設けられてもよい。
【0015】
第1の支持部から延び、棒状部材を棒体との間に挟持する棒押さえ部を有することが好ましい。
【0016】
棒押さえ部の下部には、棒体の長手方向に対して所定の角度を成すように切り欠き部が設けられることが好ましい。
【0017】
第2の係合部材は、その伸びる方向に対して直角に突出するピンを有し、第1の係合部材は、ピンが遊嵌する長穴を有することが好ましい。
【0018】
第1の係合部材は、棒体と係合する第1の係合部材の側面から棒体の直径の長さだけ棒体の軸に対して直角方向に離間するキー穴を有し、第2の係合部材は、その先端から突出してキー穴に嵌合可能なキー部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、吊りボルトに対して任意の取り付け角度でブレース材を固定でき、かつ固定のための操作が容易な固定具を得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1の実施形態による第1の固定具の斜視図である。
【図2】第1の固定具の左側面図である。
【図3】吊りボルトに固定された第1の固定具の側面図である。
【図4】天井スラブ、吊りボルト、第1の固定具、ブレース材、野縁受け、及び天井材を取り付けた状態を示す図である。
【図5】第2の実施形態による第2の固定具の斜視図である。
【図6】第3の実施形態による第3の固定具の斜視図である。
【図7】第3の固定具の左側面図である。
【図8】第4の実施形態による第4の固定具の斜視図である。
【図9】吊りボルトに固定された第4の固定具の側面図である。
【図10】第4の固定具を吊りボルトに固定する手順を示す図である。
【図11】第5の実施形態による第5の固定具の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。図1は、第1の実施形態による第1の固定具100を示す斜視図である。
【0022】
第1の固定具100は、表面に雄ねじが切られた吊りボルト190にブレース材を固定するために使用される。以下、吊りボルト190は、図1の上側において天井スラブに固定され、下側において隣接する吊りボルトの下部、野縁受け、又はTバー等に固定されているとして説明する。以下、吊りボルトの下部、野縁受け、又はTバー等を野縁受け等という。
【0023】
第1の固定具100は、吊りボルト190と係合する第1の係合部材110と、羽子板ボルト161(図4参照)の一部を成す棒状部材160とを備える。
【0024】
羽子板ボルト161は、板状部材から雄ねじが切られたボルトが延びる、いわゆる羽子板のような形状であって、ボルトが棒状部材160を成す。羽子板ボルト161の板状部材にブレース材、例えばCチャンネル等が取り付けられる。第1の固定具100、羽子板ボルト161、及びブレース材が補強ブレースを形成する。
【0025】
第1の係合部材110は、吊りボルト190と係合する基部111と、棒状部材160を支持する第1の棒支持部141とを備える。第1の棒支持部141は、ピン151により回転自在に基部111と接続される。
【0026】
基部111は、円筒を軸方向に2等分して得られる第1のボルト係合部113と、L字型断面を有する柱状体である棒押さえ部120と、直方体の2つの角が切断されて成る第1の軸支持部131とを有する。吊りボルト190の軸方向において、第1のボルト係合部113、棒押さえ部120、第1の軸支持部131の高さは互いに等しい。
【0027】
第1のボルト係合部113の内周面には、吊りボルト190と係合する第1の接触部116、第1の支持部117、及び第2の支持部118が形成される。第1の接触部116の一部には、棒状部材160の表面に形成された雄ねじに対応する雌ねじが形成される。第1の接触部116の軸方向における両端部に雌ねじが設けられ、中間には雌ねじが設けられない。この雌ねじは、プレス加工により設けられる。吊りボルト190の雄ねじが第1の接触部116の雌ねじと係合するため、棒状部材160は軸方向に移動しにくくなる。
【0028】
第1の支持部117は、第2の支持部118と対向する平行な面であって、第1の支持部117及び第2の支持部118は、第1の接触部116に連設される。
【0029】
棒押さえ部120は、第1の支持部117に連設されて所定の距離だけ延び、90度の角度で曲げられる。そして、曲げられた部位から第1の接触部116の内径と同じ長さだけ延びる。この曲げられた部位において第1の接触部116と対向する面が棒押さえ面121を成す。棒押さえ面121から第1の接触部116においてもっとも離間した部位までの距離は、吊りボルト190の直径と棒状部材160の直径とを加えた長さに略等しい。
【0030】
棒押さえ部120において、下側の角が弧を描くように丸められ、切り欠き部122が形成される。これにより、第1のボルト係合部113に吊りボルト190を挿入しやすくなる。
【0031】
第1の軸支持部131は、板状の直方体であって、吊りボルト190の軸に対して直角に第2の支持部118から延びる。言い換えると、第1の軸支持部131は、第2の支持部118から90度の角度で延びる。第1の軸支持部131の上側の角は直線状に切断される。また、下側の角は弧を描くように丸められる。
【0032】
第1の軸支持部131にはピン穴が空けられ、ピン151がピン穴に遊嵌する。ピン151は、第1の棒支持部141に空けられた穴と嵌合することにより、第1の棒支持部141に固定される。このピン151により、後述する第1の棒支持部141と第1の軸支持部131とが接続される。
【0033】
第1の棒支持部141は、1枚の板を90度に曲げたL字型断面を有し、一方の平板である第1の平板143にはピン穴が空けられ、他方の平板である第2の平板144には穴142が空けられる。第2の平板144は、上側の角が直線状に切断される。穴142には雌ねじが切られる。雌ねじのピッチ及び径は、棒状部材160のピッチ及び径に対応する値である。これにより、棒状部材160が穴142と螺合する。
【0034】
図1及び図2を参照して、第1の平板143について説明する。
【0035】
第1の平板143は、下側の角が直線状に切断されて第1の角度規制部145が形成される。第1の平板143は、ピン151を軸として図2における時計回りに回転するとき、第1の角度規制部145がボルト係合部113に突き当たるまで回転可能である。このとき、吊りボルト190の軸と棒状部材160の軸とが成す角度θが約30度となる。約30度は、通常用いられる吊りボルト190の間隔及び長さを考慮することにより定められる。他方、第1の平板143が同様にして反時計回りに回転するとき、頂部146がボルト係合部113に突き当たるまで回転可能である。このとき、吊りボルト190の軸と棒状部材160の軸とが成す角度θが約90度となる。これにより、第1の棒支持部141は、ピン151の軸廻りに30度から90度の範囲で回転する。
【0036】
穴142に螺合した棒状部材160の軸がピン151の軸よりも下方となるような位置に穴142が設けられる。すなわち、穴142に螺合した棒状部材160の軸は、ピン151の軸と交わらない。これにより、穴142から棒押さえ部120までの距離が短くなる。この距離が短くなれば、棒押さえ部120に突き当たるまで棒状部材160を回転するために必要な回転数を少なくすることができる。
【0037】
次に、図3及び4を用いて、第1の固定具100を用いた補強ブレースの設置手順について説明する。
【0038】
まず、施工者が、羽子板ボルト161にCチャンネルの一端をタッピングねじで固定する。そして、羽子板ボルト161の棒状部材160を穴142にねじ込む。このとき、棒状部材160は穴142よりもわずかに突出する程度までねじ込まれる。
【0039】
次に、施工者は、羽子板ボルト161が取り付けられていないCチャンネルの端部を保持して、吊りボルト190の天井スラブ付近に固定具を運ぶ。このとき、施工者が立つ床スラブから天井スラブまで約3m程度の高さがあるため、施工者は2m弱の長さのCチャンネルを保持しながら、天井スラブ付近に固定具を運ぶ。そして、第1のボルト係合部113に吊りボルト190を挿入する。棒押さえ部120には切り欠き部122が設けられているため、吊りボルト190が容易に第1のボルト係合部113内に進入できる。また、吊りボルト190の軸方向における第1のボルト係合部113、棒押さえ部120、第1の軸支持部131の高さが等しいので、吊りボルト190の挿入が容易となる。
【0040】
次に、施工者はCチャンネルを回転させて、棒状部材160が棒押さえ部120に突き当たって回転しなくなるまで、穴142にねじ込む。棒状部材160が棒押さえ部120に突き当たると、棒状部材160の側面は、吊りボルト190の側面及び棒押さえ面121と接触する。補強ブレースが設置された後、Cチャンネルから引っ張り・圧縮力が伝えられると、吊りボルト190廻りのモーメントが発生する。棒状部材160の側面が棒押さえ面121と接触することにより、モーメントにより棒状部材160が吊りボルト190から離れてしまうことがなく、第1の固定具100は吊りボルト190の周方向に回転しない。
【0041】
そして、棒状部材160が回転しなくなると、施工者は棒状部材160を逆方向に回転させて、Cチャンネルが野縁受け等と平面同士で接触するように、Cチャンネルの角度を調整する。その後、Cチャンネルを野縁受け等と結合させる。これにより、補強ブレースの設置が完了する。
【0042】
第2の実施形態による第2の固定具200について図5を用いて説明する。第1の実施形態と同様の構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0043】
本実施形態では、第2の棒支持部241は基部111にピン151を介さずに直接接続される。
【0044】
第2の固定具200は、吊りボルト190と係合する第2の係合部材210と、羽子板ボルト161の一部を成す棒状部材160とを備える。第2の係合部材210は、吊りボルト190と係合する基部111と、棒状部材160を支持する第2の棒支持部241とを備える。
【0045】
基部111は、円筒を軸方向に二等分して得られる第1のボルト係合部113と、L字型断面を有する柱状体である棒押さえ部120とを有する。吊りボルト190の軸方向において、第1のボルト係合部113、棒押さえ部120の高さは互いに等しい。
【0046】
第2の棒支持部241は、1枚の板を90度に曲げたL字型断面を有する。L字型を成す一方の平板である第3の平板243は、吊りボルト190の軸に足して直角に第2の支持部118から延びる。言い換えると、第2の棒支持部241は、第2の支持部118から90度の角度で延びる。第2の棒支持部241の上側の角は直線状に切断される。他方の平板である第4の平板244には穴142が空けられる。棒状部材160が穴142にねじ込まれる。このとき、吊りボルト190の軸と棒状部材160の軸とが成す角度が約30度となるような台形断面を第3の平板243が有する。約30度は、通常用いられる吊りボルト190の間隔及び長さを考慮することにより定められたものであり、設計に応じて、約30度から90度までの範囲における任意の値を選択しうる。
【0047】
本実施形態によれば、第2の固定具200は簡易な構成と成るため、安価に製造可能であり、ブレース材からの圧縮・引っ張り力に対する耐力が向上する。
【0048】
第3の実施形態による第3の固定具300について図6及び7を用いて説明する。第1の実施形態と同様の構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0049】
第3の固定具300は、吊りボルト190と係合する第3の係合部材310と、羽子板ボルト161の一部を成す棒状部材160とを備える。第3の係合部材310は、吊りボルト190と係合する基部111と、棒状部材160を支持する第3の棒支持部341とを備える。基部111は、円筒を軸方向に二等分して得られる第2のボルト係合部313と、L字型断面を有する柱状体である棒押さえ部120と、直方体の2つの角が切断されて成る第2の軸支持部331とを有する。吊りボルト190の軸方向において、第2のボルト係合部313と第2の軸支持部331の長さは等しいが、棒押さえ部120の長さは、第2のボルト係合部313及び第2の軸支持部331よりも短い。
【0050】
第2のボルト係合部313の内周面には、吊りボルト190と係合する第2の接触部316、第3の支持部317、及び第4の支持部318が形成される。
【0051】
吊りボルト190の軸方向において、第2の接触部316、第3の支持部317、及び第4の支持部318の長さは、第1の接触部116、第1の支持部117、及び第2の支持部118の長さよりも各々長い。そのため、第1の実施形態よりも吊りボルト190と係合する面積が大きい。接触部の一部には、第1の実施形態と同様に、棒状部材160の表面に形成された雄ねじに対応する雌ねじが形成される。第2の接触部316、第3の支持部317、及び第4の支持部318における他の構成は、第1の接触部116、第1の支持部117、及び第2の支持部118と同様であるため、説明を省略する。
【0052】
第2の軸支持部331は、板状部材であって、吊りボルト190の軸に足して直角に第4の支持部318から延びる。言い換えると、第2の軸支持部331は、第4の支持部318から90度の角度で延びる。第2の軸支持部331の上側の角は直線状に切断される。切断される角度は第1の軸支持部131よりも緩やかである。
【0053】
第3の棒支持部341は、1枚の板を90度に曲げたL字型断面を有し、一方の平板である第5の平板343にはピン穴が空けられ、他方の平板である第6の平板344には穴142が空けられる。
【0054】
図7を参照して、第5の平板343について説明する。
【0055】
第5の平板343は、吊りボルト190の軸と棒状部材160の軸とが成す角度が約30度となるように、下側の角が直線状に切断され、第2の角度規制部345が形成される。穴142の軸方向に対する第5の平板343の長さは、第1の平板143よりも長い。
【0056】
本実施形態による第3の固定具300は、吊りボルト190と係合する面積が第1の実施形態よりも大きいため、確実に吊りボルト190を保持できる。
【0057】
第4の実施形態による第4の固定具400について図8から10を用いて説明する。第1の実施形態と同様の構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0058】
図8を参照すると、第4の固定具400は、吊りボルト190と係合する第4の係合部材410と、羽子板ボルト161の一部を成す棒状部材160とを備える。第4の固定具400、羽子板ボルト161、及びブレース材が補強ブレースを形成する。
【0059】
第4の係合部材410は、吊りボルト190と係合する基部111と、棒状部材160を支持する第1の棒支持部141とを備える。
【0060】
基部111は、円筒を軸方向に2等分して得られる第1のボルト係合部113と、L字型断面を有する柱状体である棒押さえ部120と、直方体の2つの角が切断されて成る第1の軸支持部131とを有する。第1の軸支持部131にはピンスライド穴432が空けられ、ピン151がピンスライド穴432と遊嵌する。
【0061】
ピンスライド穴432は、への字形状の長穴であって、上側に凸となるように第1の軸支持部131に開口する。ピン151は、ピンスライド穴432に沿って移動可能である。ピンスライド穴432において基部111に最も近い端部の位置は、第1の実施形態においてピン151が設けられる位置と同じである。
【0062】
図8及び9を参照すると、第1の軸支持部131において第1の平板143と接する面から突起433が突出する。突起433は、円筒形状を有し、第1の軸支持部131に開口した突起穴434に嵌合して固定される。
【0063】
次に、図8及び10を用いて、第4の固定具400を用いた補強ブレースの設置手順について説明する。
【0064】
まず、施工者が、羽子板ボルト161にCチャンネルの一端をタッピングねじで固定する。そして、羽子板ボルト161の棒状部材160を穴142にねじ込む。このとき、棒状部材160は穴142から十分に突出するようにねじ込まれる。
【0065】
次に、施工者は、羽子板ボルト161が取り付けられていないCチャンネルの端部を保持して、吊りボルト190の天井スラブ付近に固定具を運ぶ。このとき、施工者が立つ床スラブから天井スラブまで約3m程度の高さがあるため、施工者は2m弱の長さのCチャンネルを保持しながら、天井スラブ付近に固定具を運ぶ。このとき、ピン151は、ピンスライド穴432の端部のうち、基部111からもっとも離れた一端に置かれる。
【0066】
図10のステップS1では、施工者は、第1のボルト係合部113の内側下部に吊りボルト190を引っかける。ピンスライド穴432において基部111からもっとも離れた一端にピン151が置かれるため、棒状部材160を穴142にねじ込む長さを他の実施形態より長くしても、第1のボルト係合部113に吊りボルト190を容易に引っかけることができる。
【0067】
そして、ステップS2では、Cチャンネルを手前に引っ張る。Cチャンネルを介して引っ張られる第1の棒支持部141は、さらに、ピン151を介して第4の係合部材410を引っ張る。これにより、第4の係合部材410は、第1のボルト係合部113の内側下部を中心に回転して、第1のボルト係合部113の内部に吊りボルト190が納まる。
【0068】
次のステップS3では、施工者は、Cチャンネルを第4の固定具400に向けて押す。すると、ピン151がピンスライド穴432に沿って移動する。第1の平板143がピン151と共に移動すると、第1の平板143の一部が突起433に衝突する。これにより、第1の平板143の進行方向が、ピンスライド穴432に沿うように変えられる。
【0069】
ステップS4では、施工者が、ピン151がピンスライド穴432の他端に突き当てる。そして、Cチャンネルを回転させて、棒状部材160が棒押さえ部120に突き当たって回転しなくなるまで、穴142にねじ込む。棒状部材160が棒押さえ部120に突き当たると、棒状部材160の側面は、吊りボルト190の側面及び棒押さえ面121と接触する。そして、棒状部材160が回転しなくなると、施工者は棒状部材160を逆方向に回転させて、Cチャンネルが野縁受け等と平面同士で接触するように、Cチャンネルの角度を調整する。その後、Cチャンネルを野縁受け等と結合させる。これにより、補強ブレースの設置が完了する。
【0070】
本実施形態によれば、他の実施形態より長く棒状部材160を穴142にねじ込むことができる。これにより、ステップS4においてCチャンネルを回転させる数を減らすことができ、施工を容易にし、かつ施工時間を減少させることができる。また、突起433を設けることにより、ピンスライド穴432にピン151が容易に沿って移動する。
【0071】
第5の実施形態による第5の固定具500について図11を用いて説明する。第1の実施形態と同様の構成については同じ符号を付して説明を省略する。
【0072】
第5の実施形態では、羽子板ボルトを使用せずに、L字断面を持つ可動片560を使用する。図11を参照すると、第5の固定具500は、吊りボルト190と係合する第5の係合部材510と、棒状部材を成す可動片560とを備える。第5の固定具500、可動片560、及びブレース材が補強ブレースを形成する。
【0073】
第5の係合部材510は、円筒を軸方向に2等分して得られる第5のボルト係合部513と、平板である棒押さえ部520と、台形柱形状である第5の軸支持部531とを有する。吊りボルト190の軸方向において、第5のボルト係合部513、棒押さえ部520、及び第5の軸支持部531の高さは互いに等しい。
【0074】
第5のボルト係合部513の形状は、第1のボルト係合部113の形状と同様であるため、説明を省略する。
【0075】
棒押さえ部120は、第5の支持部517に連設されて所定の距離だけ延びる平板である。第5の支持部517の略中央には、その厚さ方向に貫通するスリット521が設けられる。スリット521は、第5の支持部517から直方体を除去した形状であって、その長手方向が吊りボルト190の軸と平行に延びる。スリット521から第5の接触部516においてもっとも離間する部位までの距離は、吊りボルト190の直径と略等しい。
【0076】
第5の軸支持部531は、板状の直方体であって、吊りボルト190の軸に対して直角に第5の支持部518から延びる。言い換えると、第5の軸支持部531は、第5の支持部518から90度の角度で延びる。第5の軸支持部531の上側の角は直線状に切断される。また、吊りボルト190の軸と平行な側面532は、後述するように、可動片560の回転に沿って弧を描くように丸められる。
【0077】
第5の軸支持部531において可動片560と接する面から第1のガイド突起535がわずかに突出する。第1のガイド突起535は、円柱形状であり、後述するガイド穴564の周方向に沿って円柱の上部が斜めに切断される。第5の軸支持部531には、ピンスライド穴432が空けられ、ピン151がピンスライド穴と遊嵌する。
【0078】
可動片560は、全体にわたり同じ厚さである平板部561と、平板部561に取り付けられたフランジ562とを有する。
【0079】
平板部561の先端付近にはピン穴534が設けられ、ピンスライド穴432を貫通したピン151がピン穴534と嵌合して平板部561に固定される。これにより、可動片560は、ピン151により回転自在に第5の軸支持部531と回動自在に接続される。ピン151の軸を中心とした弧を描くガイド穴564がピン穴534の下側に設けられる。ガイド穴564に第1のガイド突起535が遊嵌する。
【0080】
平板部561の先端は、ピン151の軸を中心とした弧を描くように形成され、その一部分からキー563が突出する。キー563は、その先端がピン151の軸を中心とした弧を描くように形成された略台形形状を有し、スリット521の幅よりもわずかに小さい厚さを有する。
【0081】
平板部561において第5の軸支持部531と接する面から第2のガイド突起565が突出する。第2のガイド突起565は円柱形状であり、第5のボルト係合部513に最も近い端部にピン151が置かれたとき、側面532と係合する。
【0082】
フランジ562は、平板部561の長手方向に延びるように、平板部561の片側の側面に取り付けられる。
【0083】
次に、第5の固定具500を用いた補強ブレースの設置手順について説明する。
【0084】
まず、施工者が、可動片560にCチャンネルの一端をタッピングねじで固定する。そして、可動片560が取り付けられていないCチャンネルの端部を保持して、吊りボルト190の天井スラブ付近に固定具を運ぶ。このとき、ピン151は、ピンスライド穴432の端部のうち、第5のボルト係合部513からもっとも離れた一端に置かれる。また、キー563は、スリット521に挿入されていない。
【0085】
次に施工者は、第5のボルト係合部513の内側下部に吊りボルト190を引っかける。そして、Cチャンネルを手前に引っ張る。Cチャンネルを介して引っ張られる可動片560は、さらに、ピン151を介して第5の係合部材510を引っ張る。これにより、第5の係合部材510は、第5のボルト係合部513の内側下部を中心に回転して、第5のボルト係合部513の内部に吊りボルト190が納まる。
【0086】
次に施工者は、Cチャンネルを吊りボルト190に向けて押す。すると、ピン151がピンスライド穴432に沿って移動する。そして、ピン151がピンスライド穴432の他端に突き当たる。このとき、キー563はスリット521に挿入され、第1のガイド突起535は、ガイド穴564に遊嵌し、第2のガイド突起565は、側面532と係合する。ガイド穴564及び第2のガイド突起565により、可動片560は滑らかに回転する。
【0087】
そして施工者がピン151の軸廻りに可動片560を回転させると、スリット521の底面から天井面に向けてキー563が移動し、ガイド穴564に案内されて第1のガイド突起535が移動し、第2のガイド突起565は側面532と係合しながら移動する。
【0088】
その後施工者は、Cチャンネルが野縁受け等と適切に係合する位置まで可動片560を回転させ、Cチャンネルを野縁受け等と結合させる。このとき、スリット521から第5の接触部516においてもっとも離間する部位までの距離は、吊りボルト190の直径と略等しいため、可動片560において第5の軸支持部531と接する面が吊りボルト190と係合する。可動片560は、キー563がスリット521に係合することにより、ピン151の軸方向に対する変位が制限される。そのため、可動片560は、吊りボルト190が第5のボルト係合部513から外れることを防止する。
【0089】
本実施形態によれば、Cチャンネルを回転することなく吊りボルト190に固定することができるため、施工を容易にし、かつ施工時間を減少させることができる。
【0090】
なお、接触部の軸方向における全長に渡って雌ねじが設けられてもよい。
【0091】
また、図1、5及び6においては、第1から4の支持部に雌ねじが切られていないが、雌ねじが切られてもよい。
【符号の説明】
【0092】
100 第1の固定具
110 係合部材
111 基部
113 ボルト係合部
116 第1の接触部
117 第1の支持部
118 第2の支持部
120 棒押さえ部
122 切り欠き部
131 第1の軸支持部
141 第1の棒支持部
142 穴
143 第1の平板
144 第2の平板
145 第1の角度規制部
151 ピン
160 棒状部材
161 羽子板ボルト
190 吊りボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒体に固定される固定具であって、
前記棒体の側面と係合する第1の係合部材及び第2の係合部材を有し、
前記第2の係合部材は、前記棒体に向かって進退自在となるように前記第1の係合部材に取り付けられ、前記第2の係合部材の側面と前記第1の係合部材の側面との間に前記棒体を挟むように前記棒体と係合し、
前記第1の係合部材は、前記第2の係合部材の側面及び前記第1の係合部材の側面とは異なる部位で前記棒体を挟持する第1の支持部及び第2の支持部をさらに有する固定具。
【請求項2】
前記第2の係合部材は棒状部材であって、
前記第1の係合部材は、前記第2の係合部材が長手方向に進退自在となるように挿入される穴を有し、
前記穴は、前記第2の係合部材の長手方向における任意の場所で、前記第2の係合部材が長手方向に移動しないように前記第2の係合部材を固定し、
前記第1の支持部及び第2の支持部は、前記第2の係合部材の長手方向と平行な直線上で前記棒体を挟持する請求項1に記載の固定具。
【請求項3】
前記係合部材は、前記棒体の軸方向に延びて前記棒体と係合する接触部と、前記接触部から前記棒体の外周に沿うように延びる第1の支持部と、前記接触部から前記棒体の外周に沿うように前記第1の支持部と反対方向に延びる第2の支持部とを有する請求項2に記載の固定具。
【請求項4】
前記係合部材は、前記第2の支持部から延びる棒支持部を備え、
前記穴は、その軸が前記棒体の側面から、前記棒状部材の軸と側面との距離だけ離間する位置となるように前記棒支持部に設けられる請求項2に記載の固定具。
【請求項5】
前記棒支持部は、前記棒体の軸に対して直角な回転軸に対して回転可能に設けられる請求項4に記載の固定具。
【請求項6】
前記棒状部材が前記穴に挿入されたとき前記棒状部材の軸が前記回転軸と交わらないように、前記穴が設けられる請求項5に記載の固定具。
【請求項7】
前記接触部において、前記棒体と接触する面に、前記棒体の軸に対して略直角を成す溝が設けられる請求項3に記載の固定具。
【請求項8】
前記第1の支持部から延び、前記棒状部材を前記棒体との間に挟持する棒押さえ部を有する請求項3に記載の固定具。
【請求項9】
前記棒押さえ部の下部には、前記棒体の長手方向に対して所定の角度を成すように切り欠き部が設けられる請求項8に記載の固定具。
【請求項10】
前記第2の係合部材は、その伸びる方向に対して直角に突出するピンを有し、前記第1の係合部材は、前記ピンが遊嵌する長穴を有する請求項1に記載の固定具。
【請求項11】
前記第1の係合部材は、前記棒体と係合する前記第1の係合部材の側面から前記棒体の直径の長さだけ前記棒体の軸に対して直角方向に離間するキー穴を有し、
前記第2の係合部材は、その先端から突出して前記キー穴に嵌合可能なキー部を有する請求項1に記載の固定具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−12887(P2012−12887A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152263(P2010−152263)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(510184748)株式会社パーツ工房 (2)
【Fターム(参考)】