説明

圃場走行装置

【課題】 機体の重心を低くすることができ、走行時の安定性を向上させることができるようにする。
【解決手段】 本発明の圃場走行装置1は、圃場に植設された農作物Cの列を跨ぐ門型に形成された機体フレーム2と、該機体フレーム2の両側部に設けられた一対のクローラ3と、該各クローラ3にそれぞれ駆動力を供給する一対の駆動部4とを備えている。各駆動部4は、それぞれが駆動対象とするクローラ3におけるクローラベルト17の内周空間Kの中に配設されている。クローラベルト17を駆動する駆動輪16は、クローラベルト17の周回軌道に最高の頂点を形成させるように配設されており、該駆動輪16と、該クローラベルト17の内周空間Kの中に配設された駆動部4とが一体的に上下位置調節可能に、機体フレーム2の側部に装備されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水田や畑地等の圃場内を走行することにより圃場内の除草、中耕及び病害虫駆除を行うことが可能な圃場走行装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
背景技術としては、本発明と同様に、農薬を用いない除草、病害虫防除、そして中耕作業を行なうことを可能とし、農薬を用いない有機栽培による農作物の栽培を容易にする圃場走行装置の提供を目的とする特許文献1記載の圃場走行装置を例示する。
【0003】
この圃場走行装置101は、二枚の板部106a,106b及び、板部を支持する四本の支持柱110を主に有する装置本体103と、装置本体103の両側面に設置されるクローラ102と、クローラ102に駆動力を供給するモータ107a,107bと、モータ107a,107bに接続され、種々の制御を行なうコントロール部130と、コントロール部130に接続され、圃場走行装置101の周辺に存在する農作物等を検出するセンサS101,S102と、モータ107a,107b、センサS101,S102及びコントロール部130に電力を供給する電池108とを主に具備し、予めプログラムされた走行経路に基づいて自立走行可能に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−198604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、圃場走行装置101の全重量の中で大きな割合占めるモータ107a,107bや電池108が、装置本体103の高位置に支持された板部106aや106bに配設されているため、重心が高くなって走行時の安定性に欠けるという課題がある。例えば、軟弱地では走行の反力で機体の進行方向前方が持ち上がったり、クローラ102が圃場面の凸部や凹部を通過するときに機体が傾いたりして、バランスを崩し転倒し易いという課題がある。特に、生長した農作物に対応して板部106a及び106bを高位置に調整した状態における走行時の安定性に課題がある。
【0006】
また、農作物の上方を通過するように支持された板部106aにモータ107a、107bが配設されるとともに、該モータの軸にクローラ102のクローラベルトを駆動する駆動輪が取り付けられているため、農作物の生長に応じて板部106a(及び106b)の配設高さを調節すると、クローラベルトのテンションを調節し直さなければならず、手間がかかるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の圃場走行装置は、
圃場に植設された農作物列を跨ぐ門型に形成された機体フレームと、
該機体フレームの両側部に設けられた一対のクローラと、該各クローラにそれぞれ駆動力を供給する一対の駆動部とを備えた圃場走行装置であって、
前記各駆動部は、それぞれが駆動対象とする前記クローラにおけるクローラベルトの内周空間の中に配設されている。
【0008】
この構成によれば、機体の全重量の中で大きな割合を占める前記駆動部を前記内周空間の中に配設したので、機体の重心を低くすることができ、走行時の安定性を向上させることができる。
【0009】
前記圃場走行装置としては、
前記クローラベルトを駆動する駆動輪は、該クローラベルトの周回軌道に最高の頂点を形成させるように配設されており、
該駆動輪と、該クローラベルトの前記内周空間の中に配設された前記駆動部とが一体的に上下位置調節可能に、前記機体フレームの側部に装備された態様を例示する。
【0010】
この構成によれば、前記機体フレームの側部に装備された前記駆動輪及び前記駆動部を一体的に上下位置調節することにより、該駆動輪及び該駆動部に対応する前記クローラベルトのテンションを調節することができる。また、該駆動輪及び該駆動部は、前記機体フレームの両側部にそれぞれ設けられているので、該両側部の前記クローラベルトのテンションを個別に調節することができる。また、前記クローラベルトのテンションを調節するためのテンションローラを別途設ける必要がなく、これによりローラ数を減少させることができるので、損失の少ないクローラベルト支持構造が実現できる。また、前記機体フレームの前記門型における横架フレーム(農作物の上方を通過する部位)の配設高さを、農作物の生長に応じて上下位置調節可能に構成する場合でも、該横架フレームに前記駆動輪及び前記駆動部が支持されていないので、該横架フレームの上下位置調節と、該駆動輪及び該駆動部の上下位置調節とを互いに独立して行うことが可能な構成を容易に実現できる。
【0011】
前記圃場走行装置としては、
前記駆動部に電力を供給する電池が前記内周空間の中に配設された態様を例示する。
【0012】
前記電池の配設態様としては、次の態様を例示する。
(1)前記電池は、前記各駆動部に対応して備えられており、該各電池は、それぞれが電力供給対象とする前記駆動部と同じ前記内周空間の中に配設された態様。
(2)前記電池は、前記両駆動部に共通して備えられており、一方の前記クローラの前記内周空間の中には、該電池が配設され、他方の前記クローラの前記内周空間の中には、該電池の重量に対応する重量のバランサが配設された態様。
【0013】
これらの構成によれば、前記駆動部と同様に、機体の全重量の中で大きな割合を占める前記電池を前記内周空間の中に配設したので、機体の重心をさらに低くすることができ、走行時の安定性をさらに向上させることができる。
【0014】
前記圃場走行装置としては、
前記クローラは、前記クローラベルトの内周面を前記駆動輪とともに転動する複数の従動輪を備え、
前記クローラベルトは、その内周の全周に渡って列設された突起からなる突起列を備え、
前記複数の従動輪は、該突起列の列長さ方向に互いに位置をずらして、該突起列の両側に交互に配置された態様を例示する。
【0015】
この構成によれば、前記突起列の列長さ方向の同一位置において該突起列を両側から挟持するように前記従動輪を配設する場合と比較し、前記従動輪同士の泥や土の抱え込みや溜め込みを低減することができ、泥や土の抱え込みや溜め込みにより機体重量の無用な増加を防止できる。
【0016】
前記圃場走行装置としては、
前記機体フレームは、機体幅方向に延びる横架フレームと、該横架フレームの両側部を支持する一対の支持フレームとにより前記門型に形成されており、
該各支持フレームの下側部は、それぞれに設けられた前記クローラベルトの幅方向における内側から前記内周空間に入り込むように形成された態様を例示する。
【0017】
この構成によれば、前記支持フレームと農作物との距離に余裕を持たせることができ、機体が圃場の凹凸等により蛇行してしまった場合でも、該支持フレームの無用な接触による農作物の損傷の発生を低減することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る圃場走行装置によれば、機体の重心を低くすることができ、走行時の安定性を向上させることができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を具体化した一実施形態に係る圃場走行装置の側面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図1のIII−III線断面図である。
【図4】従来の圃場走行装置の正面図である。
【図5】同圃場走行装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1〜図3は本発明を具体化した一実施形態の圃場走行装置1を示しており、各図において、矢印Fは機体前側を指し示している。この圃場走行装置1は、圃場に植設された農作物Cの列を跨ぐ門型に形成された機体フレーム2と、該機体フレーム2の両側部に設けられた一対のクローラ3と、該各クローラ3にそれぞれ駆動力を供給する一対の駆動部4と、機体の前方及び後方の状態をそれぞれ検出する一対の検出手段としてのセンサ5と、該センサ5により検出された状態に基づいて両駆動部4を制御する駆動制御部6と、駆動部4及び駆動制御部6に電力を供給する電池7とを備えている。
【0021】
機体フレーム2は、機体幅方向に延びる横架フレーム11と、該横架フレーム11の両側部を支持する一対の支持フレーム12とにより前記門型に形成されている。農作物Cの上方を通過する部位である横架フレーム11は、農作物Cの生長に応じて上下位置を調節できるように、支持フレーム12への取付高さが上下に調節可能に構成されている。また、両側の支持フレーム12の下側部は、後述するクローラベルト17の幅方向における内側から内周空間Kに入り込むように形成されており、この構成によれば、支持フレーム12と農作物Cとの距離に余裕を持たせることができ、機体が圃場の凹凸等により蛇行してしまった場合でも、該支持フレーム12の無用な接触による農作物Cの損傷の発生を低減することができる。
【0022】
クローラ3は、支持フレーム12の下端部に列設された複数の従動輪14,15と、該複数の従動輪14,15の上方に配設された駆動輪16と、該複数の従動輪14,15及び駆動輪16に巻き掛けられたクローラベルト17と、従動輪14,15、駆動輪16及びクローラベルト17が農作物Cに接触することを防止する左右一対のガード19とを備えている。複数の従動輪14,15の上方に配設された駆動輪16は、クローラベルト17の周回軌道に最高の頂点を形成させるようになっている。また、従動輪14,15、駆動輪16は、クローラベルト17の周回軌道が機体の側面視で前後対称となるように配設されており、これにより、前進・後進ともに同等の走行性能を持たせるように構成している。
【0023】
クローラベルト17は、その内周の全周に渡って列設された突起18aからなる突起列18を備え、支持フレーム12の下端縁に沿って圃場面と平行に列設された複数の従動輪14は、該突起列18の列長さ方向に互いに位置をずらして、突起列18の両側に交互に配置されている。この構成によれば、突起列18の列長さ方向の同一位置において該突起列18を両側から挟持するように従動輪14を配設する場合と比較し、従動輪14同士の泥や土の抱え込みや溜め込みを低減することができ、泥や土の抱え込みや溜め込みにより機体重量の無用な増加を防止できる。なお、従動輪14より上方に配設された前後の従動輪15については、従動輪14よりも泥や土の抱え込みや溜め込みが発生し難いので、クローラベルト17の支持の安定性の確保を優先し、突起列18を挟持するように構成している。
【0024】
駆動部4は、モータ21と、該モータ21の軸21aの回転を出力軸22aに伝動する伝動機構22とが駆動部フレーム23に装備され、クローラベルト17の内周側に形成された内周空間Kの中に配設されている。モータ21は防水型を採用するか、防水型でない場合は本体が防水ケースに格納されることが好ましい。駆動部フレーム23は、支持フレーム12に対して上下位置調節可能に取り付けられている。駆動部4の出力軸22aには、駆動輪16が取り付けられており、これにより、駆動輪16と、該クローラベルト17の内側に配設された駆動部4とが一体的に上下位置調節可能に、機体フレーム2の側部に装備されている。
【0025】
本例の電池7は、同一仕様を有する一対の蓄電池からなっており、各駆動部4に対応して備えられており、それぞれが電力供給対象とする駆動部4と同じ内周空間Kの中における駆動部4の下方に配設されている。電池7は防水ケースに格納されている。
【0026】
次に、本発明の圃場走行装置1を水田で走行させる方法について説明する。まず、門型に形成された機体フレーム2が、圃場に植設された農作物Cの列を跨ぐように、圃場走行装置1を圃場面に設置し農作物Cの列の列長さ方向へ向けて発進させる。すると、駆動制御部6が、センサ5を介して機体前方及び後方の状態を検出し、この検出された状態に基づいて駆動手段を制御することにより、機体を前進、後進、右折、又は左折させながら農作物Cの列に沿って圃場内を走行させる。
【0027】
圃場走行装置1が圃場を走行することによる作用効果は、従来例と同様であり、下記の通りである。下記の作用効果により、農薬等を使用することなく農作物Cを良好に生育させることができる。
(1)クローラ3により、圃場の表面を軽く掻き起こして農作物Cの根に酸素を送ることができる。
(2)走行経路に生育する雑草及び病害虫を、クローラ3等によって圧迫し、押し倒したり、土壌に押し付けたり、土壌に埋没させたりする。これにより、雑草については、その生育を阻害したり、枯死させたりすることで、農作物Cへの日当たりや風通しが雑草に遮られたり、土壌中の養分が雑草に吸収されたりすることを防止できる。また、病害虫については、弱らせたり、圧死させたりすることにより、繁殖を抑制することができる。
(3)機体が農作物Cに接触することにより、農作物Cを振動させ、農作物Cの茎葉に生息する病害虫を農作物Cから落下させたり、露及び降雨等により農作物Cの茎葉に付着した水滴を落下させることができる。農作物Cに発生する病害の多くは水を媒介として伝搬するため、このように農作物Cに付着した水滴を落下させておくことは当該病害を防ぐために有効である。
【0028】
以上のように構成された本例の圃場走行装置1によれば、機体の全重量の中で大きな割合を占める駆動部4及び電池7を内周空間Kの中に配設したので、機体の重心を低くすることができ、走行時の安定性を向上させることができる。
【0029】
また、機体フレーム2の側部に装備された駆動輪16及び駆動部4を一体的に上下位置調節することにより、該駆動輪16及び該駆動部4に対応するクローラベルト17のテンションを調節することができる。また、該駆動輪16及び該駆動部4は、機体フレーム2の両側部にそれぞれ設けられているので、該両側部のクローラベルト17のテンションを個別に調節することができる。また、クローラベルト17のテンションを調節するためのテンションローラを別途設ける必要がなく、これによりローラ数を減少させることができるので、損失の少ないクローラベルト17の支持構造が実現できる。また、機体フレーム2の横架フレーム11に駆動輪16及び駆動部4が支持されていないので、該横架フレーム11の上下位置調節と、支持フレーム12に取り付けられた駆動輪16及び駆動部4の上下位置調節とを互いに独立して行える構成を容易に実現できた。
【0030】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
(1)電池7は、両駆動部4に共通して備えられており、一方のクローラ3の内周空間Kの中には、該電池7が配設され、他方のクローラ3の内周空間Kの中には、該電池7の重量に対応する重量のバランサが配設された態様とすること。
(2)機体自身の状態(例えば、機体の内部状態や、GPS(Global Positioning System)による機体の位置情報等)を検出する検出手段や、機体の前方及び後方以外の機体外部情報(例えば、機体側方における農作物Cの状態、機体上空の状態、機体下方の圃場面の状態等)を検出する検出手段を設け、これらにより検出された情報を駆動部4等の制御に利用すること。
(3)本発明を水田以外の他の圃場(例えば、畑、果樹園等)を走行する圃場走行装置1として実施すること。
(4)中耕作用を増大させるための構成(例えば、農作物Cを振動させることを目的とした構成、圃場表面を撹拌することを目的とした構成等)を適宜追加すること。
【符号の説明】
【0031】
1 圃場走行装置
2 機体フレーム
3 クローラ
4 駆動部
5 センサ
6 駆動制御部
7 電池
11 横架フレーム
12 支持フレーム
14,15 従動輪
16 駆動輪
17 クローラベルト
18 突起列
18a 突起
19 ガード
21 モータ
21a 軸
22 伝動機構
22a 出力軸
23 駆動部フレーム
C 農作物
F 機体前側
K 内周空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場に植設された農作物列を跨ぐ門型に形成された機体フレームと、
該機体フレームの両側部に設けられた一対のクローラと、該各クローラにそれぞれ駆動力を供給する一対の駆動部とを備えた圃場走行装置であって、
前記各駆動部は、それぞれが駆動対象とする前記クローラにおけるクローラベルトの内周空間の中に配設された圃場走行装置。
【請求項2】
前記クローラベルトを駆動する駆動輪は、該クローラベルトの周回軌道に最高の頂点を形成させるように配設されており、
該駆動輪と、該クローラベルトの前記内周空間の中に配設された前記駆動部とが一体的に上下位置調節可能に、前記機体フレームの側部に装備された請求項1記載の圃場走行装置。
【請求項3】
前記駆動部に電力を供給する電池が前記内周空間の中に配設された請求項1又は2記載の圃場走行装置。
【請求項4】
前記電池は、前記各駆動部に対応して備えられており、
該各電池は、それぞれが電力供給対象とする前記駆動部と同じ前記内周空間の中に配設された請求項3記載の圃場走行装置。
【請求項5】
前記電池は、前記両駆動部に共通して備えられており、
一方の前記クローラの前記内周空間の中には、該電池が配設され、
他方の前記クローラの前記内周空間の中には、該電池の重量に対応する重量のバランサが配設された請求項3記載の圃場走行装置。
【請求項6】
前記クローラは、前記クローラベルトの内周面を前記駆動輪とともに転動する複数の従動輪を備え、
前記クローラベルトは、その内周の全周に渡って列設された突起からなる突起列を備え、
前記複数の従動輪は、該突起列の列長さ方向に互いに位置をずらして、該突起列の両側に交互に配置された請求項1〜5のいずれか一項に記載の圃場走行装置。
【請求項7】
前記機体フレームの下側部は、機体幅方向に延びる横架フレームと、該横架フレームの両側部を支持する一対の支持フレームとにより前記門型に形成されており、
該各支持フレームは、それぞれに設けられた前記クローラベルトの幅方向における内側から前記内周空間に入り込むように形成された請求項1〜6のいずれか一項に記載の圃場走行装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−239894(P2010−239894A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91647(P2009−91647)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、経済産業省、地域イノベーション創出研究開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000100469)みのる産業株式会社 (158)
【出願人】(391016842)岐阜県 (70)
【Fターム(参考)】