説明

土壌の処理方法

【課題】土壌の改良方法において、六価クロムを外部に溶出させない方法を提供することにある。
【解決手段】セメントミルクを還元剤で処理した改質セメントミルクと土壌とを粒状核物質の存在下に混合する、材令7日に六価クロムの溶出試験に適した土壌の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントを用いる土壌の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメントを用いて地盤改良等の土壌の改良工事が行われている。しかしながら、セメントを用いて土壌の改良を行った場合、セメント中の六価クロムが周辺の土壌中に漏出し、土壌を汚染する等の問題があった。
【0003】
そこで、近年これらの土壌汚染について、建設省は、セメントおよびセメント系固化材により土壌改良を実施した改良土から、六価クロムが0.05mg/L以下であることを土壌環境基準と定めた。
特に建設省所管の建設工事の施工にあたっては、前記土壌環境基準を守ることが求められている。
【0004】
コンクリ−ト構造物やセメントを用いて製品製造する際に、セメントと骨材と水を混練すると、水分を保有し難い骨材の砂・砂利・鉱物スラグ・フライアッシュ等は六価クロムを含有したブリ−ジング水を多く排出する。ダム、橋梁橋脚、基礎コンクリ−ト杭、消波ブロック、ケ−ソン護岸等の現地作業が伴う構造物等は、排出されるブリ−ジング水中に、環境基準値を越えた六価クロムが含有しており、自然環境が汚染される。
前述特許公報は、第一鉄塩や還元剤等でセメント中の六価クロムを、三価クロムに変換して、排出されるブリ−ジング水中の六価クロムを無害化する技術である。繰り返し重ねて述べたのは、セメントを使用する場合、組合せ、対象固体、量、時間、試験期日などで効果の有無が分かれるからである。
同様に、地盤改良等の土壌の改良工事にセメント並びにセメント系固化剤を使用する場合は、対象固体、量、期間、配合等の問題で公害対策効果が大きく変り、土壌中に六価クロムを拡散する要素を孕む人為汚染となる。
土壌中には、水分が多く含まれており、初期の固化強度を阻む要素が多くある。
しかし爾後の経過は長く、固化強度を増加させるには、水分が必要であるなど、相反する作用がある。
【0005】
この水の相反する作用を有効に利用するには、初期の固化時に水分を少なくし、持続的に保水するために、増粘剤、保水剤や付着製固体等で一時的に保水し、爾後の経過は長く暫時的に、水分を溶出する要素が求められる。
地盤改良等の土壌の改良工事において、土壌とセメントの混合時に還元処理を行ったにも拘らず、土壌中の各種成分や土壌の量に対して、セメント量が少ない場合、三価クロムが酸化されて六価クロムに、再変換してしまう欠点があった。
これは、セメントスラリ−中の六価クロムを還元処理した後、固化開始以前に固化封じ込めるセメントスラリ−の条件がポイントになる。
【0006】
これらの欠点を解消するためには、セメントに水を添加した直後から、終結10時間以内に三価クロムとして保持・固化される状態にすることが重要である。
従来材齢7日後の溶出試験で六価クロムが検出されない要因としては、対象土質が砂質や岩石等の透過性の良い場合は初期にブリ−ジング水と共に漏出して排出されてしまう為、材齢7日後の溶出試験で検出されない場合が多く、初期に排出された六価クロムは環境汚染の原因と成っている。
【0007】
また対象土質が土壌においては、セメント量を多量に使用する場合、土壌が六価クロムを含んだブリ−ジング水を保持したまま固化するために、材齢7日後の溶出試験で検出されなかった。
しかし、セメントを使って構造物を構築する場合でも、初期に六価クロムを含んだブリ−ジング水が出るように、地盤改良等の土壌の改良工事であっても、対象土質が砂質や岩石等の場合は、セメント量に関係なく初期に六価クロムを含んだブリ−ジング水を漏出する。対象土質が土壌の場合は、初期に六価クロムを含んだブリ−ジング水を土壌が保水して排出されない場合が多く、環境汚染とはなりにくいが、セメント量が少ないと、セメント固化強度が弱く材齢7日後の溶出試験で六価クロムが検出される欠点があった。
また、夏場等の気温が高い場合、セメント凝結の始発が早まり、途中で加水して凝結を遅らせているが、セメントの固化強度が低下し材齢7日後の溶出試験で検出される欠点があった。
【0008】
従来、これらセメント中の六価クロムを漏出させない方法としては、種々の提案がなされている。例えば生コンクリ−ト製造またはセメント製品製造においてセメント、骨材および水の練り混ぜに際し、使用水に所要の第一鉄塩溶液を添加する、廃水中にクロムイオンを生じさせないセメント製品の製造方法(特許文献1)。また、コンクリ−ト構造物を作る際にセメント混練時に還元剤を存在せしめて六価クロムを放出させない、セメント混練方法(特許文献2)等が知られている。即ち、コンクリ−ト構造物やセメントを用いて製品を製造する際に、型枠から排出するブリ−ジング水中に六価クロムが存在するので、第一鉄塩あるいは還元剤を用いて、一時的に三価クロムに変換させてセメント固化中に封じ込め再溶出させない、セメント中に含有される六価クロムの処理方法である。
【0009】
【特許文献1】特開昭50−43123号公報
【特許文献2】特許第2876441号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
【0011】
そこで、本発明者は、セメントを用いる土壌の処理方法において、土壌中に六価クロムが溶出しない方法について種々研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、セメントミルクを還元剤で処理した改質セメントミルクと土壌とを粒状核物質の存在下に混合することを特徴とする、材令7日に六価クロムの溶出試験を行うに適した土壌の処理方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明方法によれば、セメントあるいはセメント系固化材を用いて土壌を処理しても六価クロムによる土壌の汚染を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の処理方法は、地表からかなりの深さまでの区間をセメントおよびセメント系固化材等と原地盤土とを、粉体噴射攪拌、高圧噴射攪拌、スラリ−攪拌等によって強制的に攪拌混合したり、地盤中にセメントミルクを注入したりする固結工法;表層土壌にセメントおよびセメント系固化材を混入する表層安定処理工法;路床上にセメントおよびセメント系固化材を混入して路床の支持力を改善する路床安定処理工法;下層路盤あるいは上層路盤とするための、現地発生材、地域産材料またはこれらに捕足材を加えたものを骨材とし、これにセメントおよびセメント系固化材を添加して処理する舗装工法;地中に連続した壁面等を構築し、止水壁および土留擁壁とする工法のうち、ソイルセメント柱列壁等のように原地盤土と強制的に混合して施工する地中連続壁工法(柱列式)等の種々の工法に適応できる。
【0014】
本発明の処理方法のセメントミルクに用いられるセメントおよびセメント系固化材とは、セメントを含有成分とするものであり、これらのものとしては、普通ポルトランドセメント、セメント系固化材、セメント系混合材、石灰系固化材等が挙げられる。
【0015】
本発明方法に用いるセメントミルクの調製法とは、セメントおよびセメント系固化材等に水を加えてミルク状にしたものである。
【0016】
調製されたセメントミルクは、還元剤等を添加し、セメントミルク中の六価クロムを三価クロムに変換させて改質セメントミルクを調製する。
この還元処理に用いられる還元剤としては、第一鉄塩、第一錫塩、第一バナジウム塩、第一銅塩等が挙げられるが、なかでも硫酸第一鉄が好ましい。
また還元剤の添加時期は、セメントおよびセメント系固化材と水とを混合する際でも、また土壌に注入する直前のいずれの時期にも添加することもできる。
【0017】
本発明の土壌改良に用いられる還元剤の使用量は、セメントミルク中の六価クロムを三価クロムに還元するに充分な量を使用すればよく、一般的には、セメントミルク中の六価クロム量に対し50〜400倍の当量を使用することが好ましい。
【0018】
また本発明の処理方法には、粒状核物質を添加することが必要である。この粒状核物質が存在することによって、六価から三価に変換した化合物をこの粒状核物質に付着結合させて硬化度を向上させ、クロム化合物を固定することができる。
【0019】
本発明に用いる粒状核物質としては、高炉スラグ、フライアッシュ、製鋼スラグ、銅スラグ等が挙げられる。この粒状核物質の比表面積は3300〜9200cm/gの範囲のものが好ましい。この粒子の比表面積が3300cm/g以下では付着結合が弱く、また9200cm/g以上では同様に結合力が弱くなる。この粒状核物質の化学成分として酸化マグネシウム、三酸化硫黄の含有量が酸化マグネシウムでは1〜6%、三酸化硫黄は2〜4%含有されていることが望ましい。
【0020】
この粒状核物質は、例えば処理する土壌中に前記範囲の比表面積の粒子が存在すれば、粒状核物質に代替することができる。
またこの粒状核物質の使用量は、通常セメントに対し、40〜150質量%の範囲が好ましい。
【0021】
粒状核物質の添加時期としては、セメントミルクを調製する時に添加してもよいが、少なくとも改質セメントミルクを土壌と混合する時に存在していれば充分である。
【0022】
さらに本発明方法には、水分活性調整材を添加すると六価クロムとして周辺の土壌中に漏出させることなく、処理した土壌中に三価クロムとして保持することができ、またセメントの中和反応に必要な水分を漏出することがないので、セメントミルクに水分活性調整材を添加したときから終結約10時間以内に六価クロムを強固に固化させることができる。
【0023】
水分活性調整材は、セメントミルク中の粘性や保水性、固体表面に付着し固化しやすいなどの効果を得ることによって、セメント中の重金属等の漏出防止とセメント固化に要する保水性を高める等多目的機能を有することを目的としている。
【0024】
この水分活性調整材は保水性に優れ、経時によって徐々に放出することできる粘性体並びに固体粒子体等が好ましい。尚、経時によってセメントは強度が増すが、その過程で水が少なくなると強度の増加が上がりにくくなるので、水分活性調整材が保水した水を放出してセメント中に加水を行い、強度の増加を図ることができる。
【0025】
水分活性調整材は、セメントミルク中に水分活性調整材を添加してから凝結固化の終結までに、セメントミルク中の水や土壌中の水を保水したまま、土壌中に六価クロムを含有した水を戻さない働きをしている。更に、セメント固化体に水を与えることで強度を強固にすることができるが、セメントを用いた地盤改良等の土壌は、後から水を与えることができないので、水分活性調整材に保水された水を徐々に放出することで改良する土壌の強度を強固にすることができる。
【0026】
水分活性調整材は、セメントミルク中に加えることで、砂質や岩石等の場合においても、初期の六価クロムを含んだ漏出水を外に出さずに保水するので、環境汚染を防止する働きを有し、セメントを使って構造物を構築する場合にも、六価クロムを含んだブリ−ジング水を出さないので、利用できる。
【0027】
また、夏場等の気温が高い場合においても、水分活性調整材を加えることで、途中で加水することなく、水分活性調整材から水を徐々に放出するので、セメント凝結の始発が早まることがない。
【0028】
水分活性調整材としては、澱粉、小麦粉、蛋白質(グルテン等)、フスマ、アラビアガム、カラヤガム、トラガントガム、グア−ガム、ロ−カストビ−ンガム、タマリンドガム、寒天、アルギン酸、カラギ−ナン、ペクチン、キサンタンガム等のガム類、単糖類、2糖類、多糖類等の糖類、セルロ−ス、カルボキシルメチルセルロ−スナトリウム、ポゾリフ、ソルビト−ル、マルチト−ル、キシリト−ル、グリセリン等の多価アルコ−ル等が挙げられる。
他に、カキガラ、ホタテガラ、阿古屋貝等の粉砕した物やパルプパウダ−、古紙、紙、わら、竹等が挙げられる。
【0029】
水分活性調整材の使用量は、セメントミルクに対して0.00001〜0.1質量%添加することが好ましい。
【0030】
次に本発明を実施例を掲げて説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
実施例
セメント155kgに水155kgを加えて、セメントミルクを調製し、このセメントミルクに硫酸第一鉄500gを添加した後良く攪拌し、その後粒状核物質(高炉スラグ)155kgを添加して良く攪拌して改質セメントミルクとし、これを土壌1,570kgと混合し7日間放置した。
この材令7日目の土壌を用いて下記の方法により分析した。
【0031】
検液の作成
(1)土壌の取扱い
i)採取した土壌はガラス製容器等に収める。
(2)試料の作成
ii)採取した土壌を風乾し、中小礫、木片等を除き、土塊、団粒を粗砕した後、非金属性の2mmの目のふるいを通過させて得た土壌を十分混合する。
(3)試料液の調製
i)試料(g)を溶かし、純水に塩酸を加えてpHを5.8〜6.3としたもの(mL)とを1:10(W/V)の割合で混合する。
ii)混合液が500mL以上となるようにする。
(4)溶出
i)常温(おおむね20℃)常圧(おおむね1気圧)で振とう機(振とう回転数毎分200回、振とう幅4〜5cm)を用いて6時間連続振とうする。
(5)静置
i)溶出した試料液を10〜30分程度静置する。
(6)ろ過
i)試料液を毎分3,000回転で20分遠心分離した後の上澄み液をメングランフィルタ−(孔径0.45μm)を用いてろ過してろ液を取り、検液とする。
【0032】
この検液を用いてフレ−ム原子吸光法(JISK0102の55.2、54.2、65.2.2)により分析した結果、土壌中の六価クロムは、0.02mg/Lであった。
【0033】
また前記実施例に水分活性調整材(フスマ)を0.000155Kg用いた以外前記実施例と同様に行った。このものを前記と同様に分析した結果土壌中の六価クロムは0.01mg/L未満であった。
【0034】
本発明の土壌の処理(改良)法は、地盤改良による改良土、再利用を目的とした建設発生土を改良した改良土、再利用を目的として建設汚泥を処理した改良土等に好適に用いることができる。
【0035】
また、本発明の処理方法は、予め土壌をサンプリングし、本発明を実施することによって、セメントミルクと土壌の混合割合、還元剤、粒状核物質、水分活性調整材の使用量を決定することができるので、施工前に施工方法が決定できるので、確実な施工ができ、工期を短縮することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントミルクを還元剤で処理した改質セメントミルクと、土壌とを粒状核物質の存在下に混合することを特徴とする、材令7日に六価クロムの溶出試験を行うに適した土壌の処理方法。
【請求項2】
粒状核物質の比表面積が3300〜9200cm/gである請求項1記載の土壌の処理方法。
【請求項3】
さらに水分活性調整材を添加する請求項1または2のいずれか1項記載の土壌の処理方法。

【公開番号】特開2007−162444(P2007−162444A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−381023(P2005−381023)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000229162)日本ソリッド株式会社 (39)
【Fターム(参考)】