説明

土壌処理方法及び同方法に好適な農作業機

【課題】 十分な深さの土壌を有効に加熱することができ、しかも過大な推進動力を必要としないマイクロ波を用いた土壌処理方法及び土壌処理方法に好適な農作業機の提供を行うこと。
【解決手段】 回転爪を有する耕耘具の後段に整地具を備え、原動車により牽引され又は内蔵原動機により自走可能な農作業機であって、前記耕耘具による耕耘後、前記整地具による整地前の未だ土塊の残された土壌に対してマイクロ波を照射するマイクロ波放射器が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を用いた土壌処理方法及び同方法に好適な農作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波を用いた土壌処理方法及び同方法に好適な農作業機としては、例えば、実開昭57−20882号公報に記載されたものが知られている。この方法は、トラクタにて牽引されるトレーラの後部に、圃場表面へ向けて下向きにマイクロ波放射器を取付け、これを移動させながら、土壌の表面に対して真上からマイクロ波を放射しつつ、誘電加熱を利用して、土壌を加熱するものである。このような誘電加熱によれば、加熱された土壌が昇温することによって、土中に含まれる線虫類を死滅させ、また種子類の発芽を促進させるなど、様々な有益な作用をなすことができる。
【0003】
一方、他の土壌処理方法及び同方法に好適な農作業機としては、例えば、特開2004−298026号公報に記載されたものが知られている。この方法は、マイクロ波放射器を地中に潜行させながら進行させることによって、その潜行深さに対応する土壌を直接にマイクロ波放射によって加熱させるものである。
【特許文献1】実開昭57−20882号公報
【特許文献2】特開2004−298026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前者(実開昭57−20882号公報)に記載された方法及び農作業機にあっては、実際にマイクロ波の放射を行ったところ、十分な温度に昇温するのは、地表から僅か10cm程度が精々であって、根菜類の植え付けに適した深さ、即ち、20〜30cmもの深さになると、殆ど加熱効果をなし得ず、退いては十分に根菜類に有害な線虫類を死滅させることができないという問題点がある。
【0005】
一方、後者(特開2004−298026号公報)に記載された方法及び農作業機にあっては、マイクロ波放射器それ自体を地中に潜行させるため、その潜行深さを適切に設定すれば、その深さに存在する土壌をマイクロ波の直接照射によって有効に加熱できるという利点がある。
【0006】
しかしながら、このような従来の方法及び農作業機にあっては、マイクロ波放射器それ自体を地中に潜行させる必要から、これを前方へ推進させるために、比較的大きな動力を必要とし、未だ実用に供するに到っていない。
【0007】
この発明は、このような従来の問題点に着目して為されたものであり、その目的とするところは、十分な深さの土壌を有効に加熱することができ、しかも過大な推進動力を必要としないマイクロ波を用いた土壌処理方法及び同方法に好適な農作業機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の技術的課題は、以下の構成を有する土壌処理方法及び同方法に好適な農作業機により解決することができる。
【0009】
即ち、この土壌処理方法は、回転爪を有する耕耘具の後段に整地具を備えた農作業機を前進させて圃場を耕耘しつつ、耕耘具による耕耘後、整地具による整地前の未だ土塊の残された土壌に対してマイクロ波を照射することを特徴とするものである。
【0010】
ここで、『回転爪』とは、一般に耕耘機や砕土機に備えられた直線状、湾曲状、さらにねじれの入った等々の形状を有する刃具のことであり、材質は一般的には鋳鉄製のことが多い。回転爪の大きさ乃至長さは、目的とする耕耘深さとの関係で設定され、一般的には、10cm〜60cm等様々な設計例が従来より存在する。
【0011】
また、『整地具』とは、耕耘又は耕起された土壌表面の凹凸を滑らかとするものであって、その構造としては、例えば、スカート状あるいは熊手状のスクレイパとして構成されることが多い。
【0012】
このような耕耘具、整地具を備えた典型的な農作業機としては、耕耘機や砕土機などの農作業機を挙げることができる。
【0013】
本発明は、このような耕耘具及び整地具を備えた農作業機において、耕耘具による耕耘後、整地具による整地前の未だ土塊の残された土壌に対してマイクロ波を照射する。ここで大切なことは、マイクロ波が照射される土壌は未だ土塊が残されたものでなければいけないという点である。その理由は、マイクロ波の照射により土壌を昇温させる場合、誘電加熱の原理から、照射された土壌の温度を効果的に昇温させるためには、誘電率が大きくなければならない。しかし、十分に耕耘しすぎた土壌は、土塊の崩壊が進行して、土壌は砕土化されてしまい、空気の混入によって、全体としての誘電率が著しく低下してしまう。その結果、これにマイクロ波を照射した場合、余程の照射パワーを上げない限り、対象となる土壌の温度を、線虫類の死滅等に必要な摂氏60度近傍の温度に昇温することは極めて困難となる。
【0014】
ここに、本発明の意味があるのであって、本発明によれば、耕耘具による耕耘後、整地具による整地前の未だ比較的大きな土塊が残された土壌に対してマイクロ波を照射するため、照射された土壌の誘電率は高いままに維持され、その結果マイクロ波による誘電加熱効果を有効に発揮して、対象となる土壌の温度を短時間で高い温度に昇温させることができるのである。
【0015】
以上述べた本発明の原理からすれば、耕耘具に含まれる回転爪の回転速度については、通常の農作業時に必要とされる回転速度よりも十分に低速としなければならないであろう。即ち、通常の耕耘作業の場合、耕耘具に含まれる回転爪は極めて高速で回転するため、耕耘された土壌は砕土化乃至粒状化が進んでしまい、目的とする密度が高く且つ誘電率の高い土壌を確保することができないからである。
【0016】
本発明者等が、実際の圃場で確認したところでは、回転爪の回転速度が30回/分〜100回/分の時、実用上十分な温度に土壌を加熱することができた。ここで、回転数が30回/分以下であると、通常の走行速度においては、一回の回転爪による土壌かき上げ量が多すぎて、回転爪に無理な負荷が掛かり、走行に支障を来す虞がある。一方、回転速度が100回/分よりも高いと、回転爪によるかき出される土壌は微細化乃至粒状化してしまい、十分な密度を維持できずに、空気の混入によって、誘電率が低下してしまう。
【0017】
また、本発明者等が、実際の圃場で確認したところでは、回転爪による耕耘は、回転爪の回転を継続する耕耘期間と回転爪の回転を停止する休止期間とを交互に有する間欠運転により行われる、ようにしてもよいとの知見が得られた。これは、例えば、5秒間回転させたのち、20秒間回転を休止する、と言った動作を繰り返すのである。
【0018】
このような構成によれば、回転数が100rpm以上であっても、対象となる土壌を効率よく加熱できることが確認された。これは、回転爪の高速回転で微細化された土壌であっても、その後、地面に堆積させた状態で比較的に長時間にわたりマイクロ波照射を行えば、十分な温度にまで昇温できることを意味している。
【0019】
さらに、本発明においては、整地具による整地前の未だ土塊の残された土壌に対してマイクロ波を照射することに加えて、さらに整地直後の土壌に対してもマイクロ波を照射するようにしても良い。このように、整地後の土壌に対して、重ねて、マイクロ波を照射すれば、既に最初のマイクロ波照射による余熱の上に、整地によって密度が高まった土壌は、さらにマイクロ波照射で加熱され、一層の昇温効果を得ることができる。
【0020】
なお、本発明においては、回転爪の回転により掻き上げられた土壌のみならず、回転爪の回転による土壌掻き上げにより、その跡に生じた穴の底部乃至内部にも、さらに、マイクロ波を照射すれば、一層の土壌昇温効果を発揮させることができる。
【0021】
すなわち、回転爪が回転すると、その回転軌跡内にある土壌は進行方向後方へと掻き上げられ、その跡は穴として残され、換言すれば、深部の土壌が穴の底面乃至内面に露出する状態となる。したがって、この穴の底面乃至内面に向けてマイクロ波を照射すれば、回転爪の長さに対応する深部の土壌をマイクロ波誘電加熱の原理により直接的に加熱することができ、その後、その穴の中にはさらに前方から掻き上げられ、かつマイクロ波照射で昇温された土壌が堆積するため、進行しつつ以上の動作が繰り返される結果、深さ方向に亘って均一な土壌加熱が行われて、深さ方向に亘り均一な温度分布が得られる。
【0022】
以上述べた本発明の方法は、具体的に一定の構造を有する農作業機として実現することができる。このような農作業機としては、次のような構成を採用することができる。
【0023】
即ち、本発明の土壌処理用の農作業機は、回転爪を有する耕耘具の後段に整地具を備え、原動車により牽引され又は内蔵原動機により自走可能な農作業機である。ここで、『原動車』とは、所謂トラクタ等と称するものを採用すれば良く、また『内蔵原動機により自走可能な農作業機』としては、キャタピラを備えて自走するタイプの農作業機などを広く採用することができる。
【0024】
尚、例えば耕耘機等に本発明を適用する場合、第1のマイクロ波放射器は、回転爪先端が描く軌跡円の後部斜め上方に位置し、その放射中心軸は、前記軌跡円の円周上の0〜90度の範囲の領域に対して指向させるのが好ましい。ここで、『0度〜90度』とは、幾何学上の角度定義を意味するものであって、0度が水平方向、90度が垂直上向きとして理解されるべきである。
【0025】
また、このような耕耘機等に本発明を適用する場合、整地前の未だ土塊の残された土壌に対してマイクロ波を照射する第1のマイクロ波照射器に加えて、整地後のある程度高密度化された土壌に対してマイクロ波を照射する第2のマイクロ波照射器を設ければ、一層の効果を達成することができる。
【0026】
また、このような耕耘機等に本発明を適用する場合、回転爪の回転による土壌掻き上げにより生じた跡となる穴の底部又は内部にもマイクロ波を照射する第3のマイクロ波照射器を設けてもよい。この場合、好ましくは、マイクロ波放射器は、回転爪先端が描く軌跡円の前部斜め上方に位置し、その放射中心軸は、下向き又は後方斜め下向きへと指向されている。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、耕耘具による耕耘後、整地具による整地前の未だ土塊の残された土壌に対してマイクロ波を照射する構成のため、マイクロ波は密度の高い土壌、即ち空気が余り混入しない誘電率の高い土壌に対して照射されるため、誘電加熱効果が有効に発揮されて、必要な時間内に目的とする土壌を最適な温度まで容易に昇温することができる。しかも、目的とする深さは、耕耘具の回転爪によって掘り起こされたものであるため、地面を真上からマイクロ波で照射する場合のように、昇温深さに制限を受けることがなく、またマイクロ波放射器それ自体を地中に潜行させる場合のように、推進のために大きな動力も必要としない利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、この発明に係る土壌処理方法及び同方法に好適な農作業機の一実施形態を添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
本発明の実施に好適な農作業機の一実施形態の側面図が図1に、同農作業機の正面図が図2に、図1におけるIII−III線断面図が図3に、同農作業機の平面図が図4にそれぞれ示されている。
【0030】
これらの図から明らかなように、この農作業機100は、チャネル材やパイプ材等を四角形に組み合わせてなるベースフレーム1を主体として構成される。即ち、このベースフレーム1は、進行方向へ伸びる互いに平行な左右のサイドバー2,3と、進行方向と直交する方向へ伸びる前後のサイドバー4,5とを四角形状に組み上げて構成される。尚、1a,1bはベースフレーム1を補強するためのリブである。
【0031】
ベースフレーム1を構成するフロントサイドバー4には、1本の上部リンク部材6と、2本の下部リンク部材7,8とが固定されている。これら3つのリンク部材6,7,8は、上部リンク部材6を頂点として、その下に左右のリンク部材7,8が配置する3点支持構造として構成されている。後に詳細に説明するように、これらのリンク部材6,7,8は、原動車として機能するトラクタのためのヒッチ部材として機能する。
【0032】
ベースフレーム1を構成するフロントサイドバー4の左右両端部には、垂直下向きに延びる左右の脚部材9,10が設けられ、それらの脚部材9,10によって、定規輪11,12が回転自在に支持されている。
【0033】
次に、耕耘部の構成について説明する。耕耘部は、所謂、サイドドライブ方式の駆動機構を採用している。即ち、当業者には良く知られているように、ベースフレーム1の中央部下方には、ギヤボックス14が設けられる。このギヤボックス14からは、左方向に延びる固定シャフト15と、右方向へ延びる第2シャフト16と、前方へ延びる第1シャフト13とが設けられる。固定シャフト15はギヤボックス14と左サイドバー2との間にあって、回転しない。一方、第2シャフト16は、ギヤボックス14と右サイドバー3との間にあって回転自在に支承される。そして、原動車から第1シャフト13に与えられる回転力は、ギヤボックス14の作用によって、第2シャフト16へと伝達される。固定シャフト15は、その中間部をリブ1aによって、支持され、第2シャフト16はその中間部をリブ1bによって支持される。
【0034】
図2に示されるように第2シャフト16の下には、これと平行に第3シャフト17が回転自在に設けられている。この第3シャフト17は、その両端を、図示しない軸受を介して、左右のサイドバー2,3により支持されている。そして、第2シャフト16から得られる回転力は、右サイドバーに取り付けられた回転伝達ユニット18を介して、第3シャフト17へと伝達される。尚、このようなサイドドライブ方式の駆動機構については、この種の農作業機において良く知られたものであるから、詳細な説明は省略する。
【0035】
第3シャフト17は、耕耘作業に供される回転爪19を駆動する。即ち、第3シャフト17の長手方向複数箇所には回転フランジを介して回転爪19が固定される。回転爪19の隣接間隔および取付個数については、目的とする耕耘幅並びに耕耘密度等を考慮して適宜に設定することができる。この例にあっては、第3シャフト17の全長に対して、6個の回転爪19が取り付けられている。尚、図では図面を複雑なものとしないために、その内の2本だけが代表的に示されている。
【0036】
尚、長手方向の各取付位置を含む垂直面内において、何本の爪を取り付けるべきかは、回転爪19の回転速度並びに対象となる圃場の性質(固さ、粘度等々)を考慮して決定すれば良い。この例にあっては、さほど固くもない圃場を対象としているため、回転爪19の同一平面内における個数は1本とされている。このような構造を採用すれば、回転数をさほど低下させずとも、比較的荒くゆっくりと圃場を耕耘することができ、その結果、耕耘により生ずる土塊の大きさは比較的大きなものとして維持され、後述するように、空気のさほど混入しない誘電率の高い土塊を得ることができる。
【0037】
また、図1に示される例にあっては、回転爪19として適度のねじりが入った湾曲状の回転爪を示しているが、回転爪19の形状としては、なた爪、普通爪、L型爪、花形爪、正逆転兼用爪等々公知の形状を適宜に採用することができる。
【0038】
さらに、回転爪19の長さ及び幅については目的とする耕耘深さ乃至処理深さを考慮して決定すれば良く、通常の圃場を想定した場合、その長さとしては、10cm〜60cm程度が採用される。
【0039】
このように、この実施形態においては、耕耘具として、サイドドライブ方式により回転駆動される回転爪19を備えたものが採用されている。尚、周知のように、この回転爪19は、図1に示される状態において、反時計回りに回転する。
【0040】
耕耘具20の後段には、耕耘された土壌を整地するための整地具21が設けられる。図示の整地具21は、適度の重量を持たせて、地表をかきならすスクレーパとしての機能を有する。この整地具21は鋳鉄或いはステンレス等の比較的重量の大なる金属素材で形成されており、その内面側(下面側)には、耕耘された盛り土と当接する第1案内面22、第2案内面23、及び第3案内面24が設けられている。第1案内面22は、後方へ向かうに従いなだらかに下方へ傾斜するものであり、第2案内面23は、第1案内面よりさらに鋭く傾斜するものであり、第3案内面24は、ほぼ水平状態に維持されている。
【0041】
これにより回転爪19によって掘り起こされた土塊は、第1案内面22、第2案内面23に案内されつつ、第3案内面24と地表との間に潜り込み、これにより整地作業が為されることとなる。尚、第3案内面24の後端には、下方に傾斜させたスクレーパプレート24aが配設され、これによって整地後の土壌が第2マイクロ波ユニット27と干渉しないよう処置が施されている。
【0042】
また、整地具21は、シャフト支持部材15a,16aに支持されたアーム29,30との間に配置されたダンパー31,32によって、耕耘後の土壌を整地しながら圧接することで耕耘後の土壌密度を高めている。
【0043】
次に、本発明の要部の構成について説明する。本発明の農作業機にあっては、耕耘具20による耕耘後、整地具21による整地前の未だ土塊の残された土壌に対してマイクロ波を照射する為の第1のマイクロ波放射器が設けられる。このようなマイクロ波放射器を実現するためには、図1の例にあっては、第1マグネトロンユニット26と第1マイクロ波放射ユニット25とが採用される。第1マグネトロンユニット26は、当業者には良く知られているように、マイクロ波発生源として機能する。
【0044】
マグネトロンの励起電圧は、電源トランス41と電源回路部42から構成される電源供給部40によって提供され、図4に示すように、マグネトロンユニットに対応した電源トランス41と電源回路部42が整備用ハンドル40aを設けた平板上に配設されている。図例では、6台のマグネトロンユニットに提供する電源供給部40を前後2列に配設しており、これらはベースフレーム1の最上段に搭載される。尚、励起電圧生成の電力は、フロントサイドバー4に設けられたケーブルホルダ33aに支持されたケーブル33を介して外部から供給される。
【0045】
第1マイクロ波放射ユニット25の詳細が図8に示されている。同図に示されるように、第1マイクロ波放射ユニット25は、断面長方形状を有する所定長さの角筒状導波管部25bと、この角筒状導波管部25bの先端部に取り付けられる底の平坦な円形椀状放射部25aとから構成されている。角筒状導波管部25b並びに円形椀状放射部25aの素材としてはステンレス(SUS)が使用される。角筒状導波管部25bは幅W並びに高さHからなる断面形状を有する。円形椀状放射部25aは深さD2を有し、且つ底部の平坦な椀状外形を有する。また、円形椀状放射部25aの直径は、角筒状導波管部25bの幅Wよりも大径とされている。円形椀状放射部25aの内周の一部は角筒状導波管部25bとの接続のために切り欠かれる。角筒状導波管部25bの先端部は、接続対象となる椀状放射部25aの周側面の曲率に合わせて切断される。こうして予備加工された角筒状導波管部25bと円形椀状放射部25aとは切り口を整合させて溶接により結合される。尚、図において、25cは取付用ブラケットである。
【0046】
こうして得られた第1マイクロ波放射ユニット25によれば、導波管に沿って伝播されたマイクロ波を、導波管の先端部から直角方向に曲げて外部に放射することができ、しかも導波管先端で反射して戻るマイクロ波が極めて少なく、マイクロ波を効率良く放射することができる。尚、整地具21を構成する上面板には、第1マイクロ波放射ユニット25のマイクロ波放射部に対応して、円形孔が開口されており、この円形孔(孔自体は、好ましくは、マイクロ波の透過を妨げないテフロン(登録商標)板で塞がれている)を通して、マイクロ波は耕耘直後の未だ土塊を残した土壌に対して照射される。
【0047】
このとき重要なことであるが、図6に示されるように、第1マイクロ波放射ユニット25のマイクロ波放射部25aは、回転爪19の先端19aの回転により生ずる軌跡円の外側にあって、且つその放射中心軸25cは、回転軌跡円の0度〜90度の範囲内(θ)に指向される。即ち、図6の例にあっては、マイクロ波放射部25aの中心軸25cは、回転軌跡円のほぼ45度の位置に向けて照射される。
【0048】
このような構成を採用すると、図6に示されるように、回転爪19の回転に連れて、地中より掘り起こされる土塊は、回転爪の回転速度が遅いこともあり、また土塊の適度の粘度によって、回転爪の上にへばりつくようにして、軌跡円上の0度〜90度の範囲(θ)のいずれかの位置まで持ち上げられた後、地上へと自然落下する。このとき、マイクロ波放射部25aが図示の位置にあると、マイクロ波放射部から照射された強烈なマイクロ波は、回転爪の作用で持ち上げられた比較的大きな土塊の間近に位置するため、比較的短時間で、密度が高く、且つ誘電率の高い土塊に対してマイクロ波が照射されて、誘電加熱効果が効率よく発揮され、その結果土塊の温度を急激に目標となる温度まで上昇させることができる。
【0049】
そして、このように、マイクロ波放射部25aを、回転爪先端19aが描く軌跡円の後部斜め上方に位置し、その放射部中心軸を軌跡円の円周上の0度〜90度(θ)の範囲の領域に対して指向するようにすれば、耕耘部と整地部との間に距離が確保できない場合にも、回転爪を避けて、マイクロ波放射部を配置することができ、装置全体をコンパクトに構成できるという利点もある。
【0050】
また、特に、この実施形態においては、耕耘部と整地部との間のみならず、さらにその後段の整地部に迄、別のマイクロ波放射器が設けられている。即ち、図1に示されるように、このような目的のために、第2マグネトロンユニット28と第2マイクロ波放射ユニット27とが設けられる。これらのユニットの基本的な構成については、図8を参照して先に説明されたものと全く同一である。
【0051】
即ち、図6に模式的に示されるように、整地具21を構成する第3案内面24には、円形の開口が設けられており、この開口に合わせて、第2マイクロ波放射ユニット27のマイクロ波放射部27aが位置決めされている。なお、この円孔についても、好ましくは、マイクロ波の透過を妨げることのないテフロン(登録商標)板により塞がれる。
【0052】
その結果、第2マイクロ波放射ユニット27のマイクロ波放射部27aから放射されたマイクロ波は、平坦に整地された土壌をその真上から照射する。その結果、第1マイクロ波放射ユニット25からの放射により加熱状態にある土壌は、整地されて密度が高まった後、さらに第2マイクロ波放射ユニット27のマイクロ波放射部から発せられるマイクロ波により照射される結果、それらの相乗効果によって、対象となる土壌の温度を一層効率良く加熱することができる。
【0053】
即ち、第1マイクロ波放射ユニット25によるマイクロ波照射は、比較的大きな土の塊に対して有効に作用するのに対し、第2マイクロ波放射ユニット27からのマイクロ波照射は、それらの土塊が整地され、全体として均一に密度が高い状態でその真上から照射される結果、最終的に得られる土壌は、均一に高い温度に昇温され、これにより土壌に含まれる線虫の駆除或いは発芽促進作用等に有効に寄与するのである。
【0054】
加えて、この実施形態の農作業機にあっては、第3のマイクロ波放射器として機能する2つのマイクロ波放射器71a,81aが設けられている。これらのマイクロ波照射器71a,81aは、回転爪19の回転による土壌掻き上げにより生じた穴60bの内部にもマイクロ波を照射するためのものであり、回転爪先端が描く軌跡円の前部斜め上方に位置するものである。それらのうちで、マイクロ波放射器71aの放射中心軸73は下向きに指向され、マイクロ波放射器81aの放射中心軸83は後方斜め下向きへと指向されている。
【0055】
マイクロ波放射器71aを含むマイクロ波放射ユニット71はマグネトロンユニット72へと接続され、マイクロ波放射器81aを含むマイクロ波放射ユニット81はマグネトロンユニット82へと接続されている。これにより、マイクロ波放射器71aからほぼ垂直下向きに放射されるマイクロ波と、マイクロ波放射器81aから斜め後方下向きに放射されるマイクロ波によって、回転爪19の回転による土壌掻き上げにより生じた穴60bの表面に露出する深部の土壌に対して直接的にマイクロ波加熱が行われ、穴60bの表面乃至表層に位置する土壌が集中的に昇温される。
【0056】
一方、回転爪19の回転による土壌掻き上げにより生じた穴60bの内部には、農作業機の進行に連れて、回転爪19により掻き上げられ、かつ第1及び第2のマイクロ波放射器25a,27aによるマイクロ波放射で加熱された土壌が堆積されて埋められる。
【0057】
すると、穴60bの内部に堆積された土壌は、深部については第3のマイクロ波放射器71a,81aにより加熱昇温されたものとなると共に、表層から深部へ至る部分については第1、第2のマイクロ波放射器25a,27aにより加熱昇温されたものとなるため、深さ方向への均一な高温の温度分布が得られることとなる。
【0058】
次に、本発明に係る農作業機の作用、即ち本発明の土壌消毒方法について説明する。図5に示されるように、以上説明した農作業機100はトラクタなどの原動車200によって牽引される。この牽引に際しては、先に説明した3つのリンク部材6,7,8を使用した3点支持構造が採用される。加えて、回転爪19の回転速度は、原動車200から与えられる可変の回転速度を、第1シャフト、第2シャフト、第3シャフトへと伝達することにより行われる。
【0059】
このとき、第3シャフト17の回転速度は、特に重要である。即ち、この第3シャフト17の回転数が高すぎると、回転爪19により掘り起こされる土壌は、細かな粉状乃至粒状の状態となり、地中の誘電率が著しく低下する。その結果、これにマイクロ波を照射しても、誘電加熱効果が有効に作用しなくなり、土壌の温度を目的とする高温にまで達成させることができない。そこで、この発明にあっては、原動車200の側において、適宜手動で速度制御を行うことによって、農作業機100に対して与える回転速度を、通常の耕耘時の回転速度よりも十分に低下させる。
【0060】
即ち、一般にこの種の耕耘機によって、土壌を耕耘する場合、回転爪19の回転速度は、100回転/分以上とされるのに対し、本発明による土壌処理方法の場合、回転爪19の回転速度は30回転/分〜100回転/分程度の範囲とされる。
【0061】
このような低速回転で耕耘を行うと、耕耘対象となる土壌は、比較的大きな(例えば、5cm以上の直径)土塊を生成する。このような土塊は、元々の地層成分を残した極めて密度の高い土塊であるため、これにマイクロ波を照射した場合、誘電加熱効果は有効に作用し、短時間で昇温させることができる。
【0062】
即ち、このような低速で回転爪19を回転させながら、土壌60を耕耘乃至耕起しつつ前進すると、回転爪19の後段においては、回転爪19にへばり付くようにして、比較的大きな土塊群60aが持ち上げられ、それが0度〜90度の範囲で溢れ落ちる寸前に、それに近接して配設されたマイクロ波放射器25aから強烈なマイクロ波が照射され、土塊は効率良く加熱される。
【0063】
こうして、マイクロ波放射器25aにより加熱昇温された土壌60aは、図6に示されるように、回転爪19による掻き上げにより生じた穴60b内へと堆積され、さらに、この堆積層50は、マイクロ波放射器27aから放射されるマイクロ波により重ねて加熱昇温される。
【0064】
その結果、この農作業機による耕耘が完了された地層は、図6に示されるように、表面乃至表層が、第3のマイクロ波照射器(71a,81a)により、加熱昇温された耕耘前のもともとの地層60の上に、全体的に、第1及び第2のマイクロ波照射器(25a,27a)により、加熱昇温された耕耘後の地層50が堆積されたものとなり、その結果、深さ方向へ均一な高温を呈する温度分布が得られることとなる。
【0065】
かくして、この農作業機が通過した後の圃場においては、もちろん、回転爪及びその後段の2台のマイクロ波放射器の左右の近接密度にもよるが、比較的均一且つ高温に土壌は加熱され、その結果、マイクロ波の照射によって土壌の消毒或いは作物の生育に適した環境を提供することが可能となるのである。
【0066】
尚、このとき、マイクロ波の放射パワーとしては、例えば、幅20cm当たり3kw〜6kw程度が好ましい。この程度のマイクロ波放射出力であれば、農作業機100に搭載された電源トランス41から容易に給電でき、この種の土壌処理を実現することが容易である。
【0067】
最後に、本発明者等が行った実験の結果について、図7を参照して説明する。同図において横軸は回転爪19の回転数、縦軸は土壌の温度を表している。図から明らかな様に、回転数が100回転/分以下の場合、土壌の温度は線虫が死滅するのに十分な60℃以上まで上昇し、土壌に含まれる線虫は高い率で死滅することが期待される。これに対し、回転爪19の回転速度が100回転/分を越えると土壌の温度は上がりにくくなり、マイクロ波による加熱が有効に機能しないことが解る。このため、線虫の死滅率も低下しているものと予想される。
【0068】
一方、回転爪19の回転数が30回転/分以下の場合には、回転爪19から受ける圧力が増加し、耕耘作業に支障をきたすことも解った。このようなことから、回転爪19の回転数については30回転/分〜100回転/分の範囲が好ましいとの知見が得られた。尚、図7の例は、農作業機を2〜3m/分程度の速度で走行させた場合の例である。
【0069】
このように、本発明による農作業機並びに同農作業機を使用した土壌処理方法によれば、対象となる土壌を効率良く加熱することができ、しかも耕耘爪19により耕耘しつつ土壌の消毒を行うため、耕耘前の土壌を真上からマイクロ波で照射するようにする場合の様に、加熱深さに制限を受けることがなく、また土中に潜行しつつマイクロ波を照射する場合のように、大なる推進力を必要としない等の利点がある。
【0070】
尚、以上の実施形態においては本発明方法及び同方法を利用する農作業機として、原動車により牽引されるものを示したが、本発明の適用はこれに限定されるものではなく、例えばキャタピラを備えて自走するタイプの農作業機等にも広く応用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、耕耘具による耕耘後、整地具による整地前の未だ土塊の残された土壌に対してマイクロ波を照射する構成のため、マイクロ波は密度の高い土壌、即ち空気が余り混入しない誘電率の高い土壌に対して照射されるため、誘電加熱効果が有効に発揮されて、必要な時間内に目的とする土壌を最適な温度にまで容易に昇温させることができる。しかも、目的とする深さは耕耘具の回転爪によって掘り起こされたものであるため、地面を真上からマイクロ波で照射する場合のように、昇温深さに制限を受けることなく、又、マイクロ波放射器それ自体を地中に潜行させる場合のように、推進のために大きな動力も必要としない利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係る農作業機の側面図である。
【図2】本発明に係る農作業機の正面図である。
【図3】図1におけるIII−III線による断面図である。
【図4】本発明に係る農作業機の平面図である。
【図5】作業車に原動車を連結した状態を示す平面図である。
【図6】本発明による作用を示す説明図である。
【図7】回転数と土壌温度との関係を示すグラフである。
【図8】マイクロ波照射ユニットの構成図である。
【符号の説明】
【0073】
1 ベースフレーム
1a,1b リブ
2 左サイドバー
3 右サイドバー
4 フロントサイドバー
5 リアサイドバー
6 上部リンク部材
7,8 下部リンク部材
9,10 脚部材
11,12 定規輪
13 第1シャフト
14 ギヤボックス
15 固定シャフト
15a シャフト支持部材
16 第2シャフト
16a シャフト支持部材
17 第3シャフト
18 回転伝達ユニット
19 回転爪
19a 回転爪先端部
20 耕耘具
21 整地具
22 第1案内面
23 第2案内面
24 第3案内面
24a スクレーパプレート
25 第1マイクロ波放射ユニット
25a マイクロ波放射部
25b 導波管部
25c 取付用ブラケット
26 第1マグネトロンユニット
27 第2マイクロ波放射ユニット
27a マイクロ波放射部
27b 導波管部
28 第2マグネトロンユニット
29,30 アーム
31,32 ダンパー
33 ケーブル
33a ケーブルホルダ
40 電源部
40a ハンドル
41 電源トランス
42 電源回路部
50 土壌処理後の土壌(地層)
60 処理前の土壌(地層)
60a 土塊群
60b 穴
71 マイクロ波放射ユニット
71a マイクロ波放射器(第3のマイクロ波放射器)
72 マグネトロンユニット
73 放射中心軸
81 マイクロ波放射ユニット
81a マイクロ波放射器(第3のマイクロ波放射器)
83 放射中心軸
100 農作業機
200 原動車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転爪を有する耕耘具の後段に整地具を備えた農作業機を前進させて圃場を耕耘しつつ、耕耘具による耕耘後、整地具による整地前の未だ土塊の残された土壌に対してマイクロ波を照射する、ことを特徴とする土壌処理方法。
【請求項2】
前記回転爪の回転による土壌掻き上げにより生じた穴の内部にもさらにマイクロ波を照射する、ことを特徴とする請求項1に記載の土壌処理方法。
【請求項3】
前記整地具による整地の直後の土壌に対してさらにマイクロ波を照射することを特徴とする請求項1又は2に記載の土壌処理方法。
【請求項4】
前記回転爪の回転速度を通常耕耘時の回転速度よりも十分に低速とすることにより、土塊の崩壊を抑制しつつ耕耘を行う、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の土壌処理方法。
【請求項5】
前記回転爪の回転速度が30回/分〜100回/分である、ことを特徴とする請求項4に記載の土壌処理方法。
【請求項6】
前記回転爪による耕耘は、回転爪の回転を継続する耕耘期間と回転爪の回転を停止する休止期間とを交互に有する間欠運転により行われる、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の土壌処理方法。
【請求項7】
前記回転爪の回転数が100rpm以上である、ことを特徴とする請求項6に記載の土壌処理方法。
【請求項8】
回転爪を有する耕耘具の後段に整地具を備え、原動車により牽引され又は内蔵原動機により自走可能な農作業機であって、
前記耕耘具による耕耘後、前記整地具による整地前の未だ土塊の残された土壌に対してマイクロ波を照射する第1のマイクロ波放射器が設けられている、ことを特徴とする土壌処理用の農作業機。
【請求項9】
前記第1のマイクロ波放射器は、前記回転爪先端が描く軌跡円の後部斜め上方に位置し、その放射中心軸は、前記軌跡円の円周上の0〜90度の範囲の領域へと指向されている、ことを特徴とする請求項8に記載の土壌処理用の農作業機。
【請求項10】
前記整地具による整地の直後の土壌に対してさらにマイクロ波を照射するために、第2のマイクロ波照射器が設けられている、ことを特徴とする請求項8又は9に記載の農作業機。
【請求項11】
前記第2のマイクロ波照射器は、前記整地具を構成する水平な整地板に放射中心軸を下向きにして組み込まれている、ことを特徴とする請求項10に記載の土壌処理用の農作業機。
【請求項12】
前記回転爪の回転による土壌掻き上げにより生じた穴の内部にもマイクロ波を照射する第3のマイクロ波照射器がさらに設けられている、ことを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載の土壌処理用の農作業機。
【請求項13】
前記第3のマイクロ波放射器は、前記回転爪先端が描く軌跡円の前部斜め上方に位置し、その放射中心軸は、下向き又は後方斜め下向きへと指向されている、ことを特徴とする請求項12に記載の土壌処理用の農作業機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−148207(P2009−148207A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329369(P2007−329369)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、農林水産省、「先端技術を活用した農林水産研究高度化事業」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(503005331)セルテック・プロジェクト・マネージメント株式会社 (2)
【Fターム(参考)】