説明

土留壁の止水構造及び止水構造の構築方法

【課題】 土留壁の隣接するエレメント間の繋ぎ目を止水する止水構造を提供する。
【解決手段】 芯材3を備える複数のエレメント2を横方向に並べてなる土留壁1の隣接するエレメント2、2間を止水する土留壁1の止水構造7であって、隣接する一方のエレメント2bの端部の芯材3aに取り付けられる一方の継手部材11と、他方のエレメント2cの端部の芯材3bに取り付けられるとともに、前記一方の継手部材11と相互に噛合する他方の継手部材15と、前記一方の継手部材11と前記他方の継手部材15との噛合部分に介装されて、該噛合部分を水密にシールするシール部材20とからなる止水手段10を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土留壁の止水構造及び止水構造の構築方法に関し、特に、土留壁を本体構造物の地下外壁等として利用する際に、土留壁の隣接するエレメント間を止水するのに有効な土留壁の止水構造及び止水構造の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、地中に構築した土留壁を本体構造物の地下外壁等として利用する場合、土留壁側から漏れ出た雨水や湧水等が本体構造物に作用し、本体構造物の耐久性に影響を与えるのを防止するため、土留壁の壁面及び土留壁の隣接するエレメント間に止水構造を施し、土留壁からの漏水が本体構造物に作用するのを防止している。
【0003】
このような土留壁からの漏水を防止する止水構造の一例として、例えば、土留壁の完成後に、土留壁の前面側の地盤を開削して土留壁の前面側を露出させ、この露出させた土留壁の前面側に防水シートを貼り付けることで、土留壁の壁面及び隣接するエレメント間からの漏水を防止するように構成した止水構造が知られている。
【0004】
また、他の例の止水構造として、特許文献1には、土留壁の隣接する一方の芯材のフランジの端部に雌継手を設け、他方の芯材のフランジの端部に雄継手を設け、一方の芯材の雌継手と他方の芯材の雌継手とを互いに係合させ、雌継手と雄継手との係合隙間に水膨張止水材を設け、水膨張止水材を水膨張させることにより雌継手と雄継手との間を止水し、土留壁からの漏水を防止するように構成した止水構造が開示されている。
【0005】
さらに、他の例の止水構造として、特許文献2には、土留壁の隣接する一方の芯材のフランジの端部に係合手段を設け、他方の芯材のフランジの端部に係合手段を設け、一方の芯材の係合手段と他方の芯材の係合手段とを相互に係合させることで、隣接する芯材間を止水するように構成した止水構造が開示されている。
【特許文献1】特開2001−164563号公報
【特許文献2】特開平11−200361号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような各種の止水構造のうち、土留壁の前面側の地盤を開削して土留壁の前面側に防水シートを貼り付ける止水構造は、開削工事及び防水シートの貼付け工事に非常に手間がかかる。
【0007】
また、特許文献1に記載されている止水構造は、雌継手と雄継手との係合隙間の全体に水膨張止水材を充分に行き渡せることが困難な場合があり、そのような場合には雌継手と雄継手との係合部から漏水が生じることがある。また、芯材のフランジの端部に雌継手又は雄継手を設けて、雌継手と雄継手とを相互に係合させているため、土留壁として所定の強度を得るためには、芯材のフランジと雌継手又は雄継手との連結部の強度を高めなければならない。
【0008】
さらに、特許文献2に記載されている止水構造は、隣接する一方の芯材のフランジの端部に設けた係合手段と、他方の芯材のフランジの端部に設けた係合手段とを相互に係合させているだけなので、両芯材間を完全に止水することができず、土留壁からの漏水の原因となる。さらに、隣接する一方の芯材の係合手段と他方の芯材の係合手段とを係合させる作業に非常に手間がかかる。
【0009】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、土留壁の隣接するエレメント間を容易にかつ確実に止水することができる土留壁の止水構造及び止水構造の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような課題を解決するために、本発明は、以下のような手段を採用している。
すなわち、請求項1に係る発明は、芯材を備える複数のエレメントを横方向に並べてなる土留壁の隣接するエレメント間を止水する土留壁の止水構造であって、隣接する一方のエレメントの端部の芯材に取り付けられる一方の継手部材と、他方のエレメントの端部の芯材に取り付けられるとともに、前記一方の継手部材と相互に噛合する他方の継手部材と、前記一方の継手部材と前記他方の継手部材との噛合部分に介装されて、該噛合部分を水密にシールするシール部材とからなる止水手段を備えていることを特徴とする。
【0011】
本発明による土留壁の止水構造によれば、止水手段の一方の継手部材と他方の継手部材とを相互に噛合させることにより、両継手部材の噛合部分にシール部材が介装され、シール部材によって両継手部材の噛合部分が水密にシールされることになる。
従って、一方のエレメントと他方のエレメントとを構築する際に、同時に両エレメント間の繋ぎ目を止水する止水構造も構築することができるので、止水構造の施工に要する手間、時間、及び費用を削減することができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の土留壁の止水構造であって、前記一方の継手部材には略コ形状の継手部が設けられ、前記他方の継手部材には前記継手部と相互に噛合する略コ形状の継手部が設けられ、前記両継手部の噛合部分に前記シール部材が介装されていることを特徴とする。
【0013】
本発明による土留壁の止水構造によれば、一方の継手部材の略コ形状の継手部と他方の継手部材の略コ形状の継手部とが相互に噛合され、両継手部の噛合部分にシール部材が介装され、シール部材によって両継手部の噛合部分が水密にシールされることになる。
この場合、略コ形状の継手部と略コ形状の継手部とが相互に噛合しているので、土留壁の構築完了後に両継手部の噛合状態が解除されるようなことはなく、長期に亘って隣接するエレメント間の繋ぎ目を止水し続けることができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の土留壁の止水構造であって、前記シール部材は、水膨張ゴム弾性材からなり、前記両継手部の噛合部分に設けられたスペーサ部材によって変形方向が規制されていることを特徴とする。
【0015】
本発明による土留壁の止水構造によれば、水膨張ゴム弾性材からなるシール部材は、両継手部の噛合部分に設けられたスペーサ部材によって変形方向が規制されることにより、両継手部の噛合部分にきつく充満され、両継手部の噛合部分が水密にシールされることになる。
従って、両継手部の噛合部分をシール部材によって確実にシールすることができることになり、両継手部の噛合部分が水路になるようなことはなく、隣接するエレメント間の繋ぎ目を確実に止水することができる。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項1から3の何れかに記載の土留壁の止水構造であって、前記一方のエレメント及び前記他方のエレメントの端部の芯材はH型鋼からなり、前記端部の芯材の一方のフランジに前記一方の継手部材及び前記他方の継手部材が取り付けられていることを特徴とする。
【0017】
本発明による土留壁の止水構造によれば、土留壁の山側の面の隣接するエレメント間を止水手段によって止水すればよいことになるので、止水構造の施工に要する手間、時間、及び費用を削減することができる。
【0018】
請求項5に係る発明は、芯材を備える複数のエレメントを横方向に並べてなる土留壁の隣接するエレメント間を止水する土留壁の止水構造の構築方法であって、隣接する一方のエレメントの端部の芯材に一方の継手部材を取り付け、他方のエレメントの端部の芯材に他方の継手部材を取り付ける工程と、地盤に設けた一方のエレメント用の溝内に端部の芯材を含む複数の芯材を建て込み、該一方のエレメント用の溝の端部に端部の芯材を配置する工程と、端部の芯材に継手防護板を取り付け、この継手防護板によって一方の継手の周囲を包囲するとともに、継手防護板の外側に形成される空間内に砕石を充填する工程と、一方のエレメント用の溝内にコンクリートを打設する工程と、前記空間内から砕石及び継手防護板を取り除き、地盤に設けた他方のエレメント用の溝内に端部の芯材を含む複数の芯材を建て込み、該他方のエレメント用の溝の端部に端部の芯材を配置する工程と、前記他方のエレメント用の溝内にコンクリートを打設し、該コンクリートを該溝から一方のエレメントとの繋ぎ目に回り込ませる工程とを備え、複数のエレメントに対して前記一連の工程を繰り返し行うことにより、複数のエレメントを一体化した土留壁を構築し、隣接するエレメント間を止水することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上、説明したように、本発明の土留壁の止水構造及び土留壁の止水構造の構築方法によれば、止水手段の一方の継手部材と他方の継手部材とを相互に噛合させることにより、両継手部材の噛合部分にシール部材が介装され、シール部材によって両継手部材の噛合部分が水密にシールされることになる。
【0020】
従って、一方のエレメントと他方のエレメントとを構築する際に、同時に両エレメント間の繋ぎ目を止水する止水構造も構築することができるので、土留壁の構築完了後に改めて隣接するエレメント間の繋ぎ目の止水構造を構築する必要はなく、止水構造の施工に要する手間、時間、及び費用を削減することができる。
【0021】
また、一方の継手部材の略コ形状の継手部と他方の継手部材の略コ形状の継手部とが相互に噛合されているので、土留壁の構築完了後に両継手部の噛合状態が解除されるようなことはなく、長期に亘って隣接するエレメント間の繋ぎ目を止水し続けることができる。
【0022】
さらに、水膨張ゴム弾性材からなるシール部材は、両継手部の噛合部分に設けられたスペーサ部材によって変形方向が規制されているので、水分を吸収することによって両継手部の噛合部分にシール部材をきつく充満させることができ、両継手部の噛合部分を確実にシールすることができ、両継手部が水路になるのを防止できる。
【0023】
さらに、土留壁の山側の面の隣接するエレメント間を止水手段によって止水すればよいので、施工に要する手間、時間、及び費用を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図6には、本発明による土留壁の止水構造及び止水構造の構築方法の一実施の形態が示されていて、図1は土留壁の止水構造の全体を示す概略図、図2〜図6は止水構造の構築方法を示す説明図である。
なお、本実施の形態においては、土留壁が地中連続壁の場合について説明しているが、SMW連続壁に適用することもできる。
【0025】
本実施の形態に示す地中連続壁1の止水構造7は、図1に示すように、地中連続壁1を本体構造物の地下外壁等として利用する際に適用され、地中連続壁1を構成する隣接するエレメント2、2間を止水し、隣接するエレメント2、2間からの漏水が本体構造物に作用するのを阻止するのに有効なものであって、地中連続壁1の隣接するエレメント2間を止水する止水手段10を備えている。
【0026】
地中連続壁1は、例えば、地盤45に平面視長方形状の溝46を所定の深さで掘削し、この溝46内に複数の鋼製の芯材3を所定の間隔ごとに建て込み、溝46内にトレミー管を用いて充填材としてのコンクリート41を打設することにより溝46の形状に合致した壁体状のエレメント2を構築し、このようなエレメント2を地盤45に連続して複数構築し、隣接するエレメント2、2間の繋ぎ目にコンクリート41を打設して、隣接するエレメント2、2間を一体連結して構成しており、この地中連続壁1を本体構造物の地下外壁等として利用している。
【0027】
本実施の形態においては、図1及び図6に示すように、地中連続壁1の各エレメント2を構成する芯材3にH型鋼を用い、各芯材3のフランジ4の表面4aがエレメント2の壁面2aに沿い、リブ5がエレメント2の壁面2aと直交するように、複数の芯材3を各エレメント2の内部に所定の間隔ごとに埋設している。
【0028】
止水手段10は、地中連続壁1の本体構造物とは反対側(山側)の面の隣接するエレメント2、2間に設けられ、一方のエレメント2b(先行エレメント)の端部の芯材3aに取り付けられる一方の継手部材11と、他方のエレメント2c(後行エレメント)の端部の芯材3bに取り付けられるとともに、一方の継手部材11と相互に噛合する他方の継手部材15と、一方の継手部材11と他方の継手部材15との噛合部分に介装される継手部シール部材20とを備えている。
【0029】
一方の継手部材11は、図2に示すように、端部の芯材3aと同一長さの長方形状の鋼板を幅方向の略中央部から二つ折りに折り曲げて全体を略コ形状に形成するとともに、幅方向の一端部を更に略直角に折り曲げてその部分を略L形状に形成したものであって、略コ形成の部分によって継手部12が構成され、略L形状の部分によって取付け部13が構成されている。
【0030】
一方の継手部材11は、略コ形状の継手部12の開口部が内側(一方のエレメント2bの内部方向)を向くように、かつ、継手部12の表面12aが端部の芯材3aのフランジ4の表面4aと略平行となるように、取付け部13が一方のエレメント2bの端部の芯材3aのフランジ4の側部4bに溶接により一体に連結されている。
【0031】
一方の継手部材11の継手部12の表面には、一方の継手部材11と同一長さの2つの丸棒状のスペーサ部材14が所定の間隔をおいて溶接により一体に連結され、このスペーサ部材14によって一方の継手部材11の継手部12と後述する他方の継手部材15の継手部16との噛合をスムーズにするとともに、両継手部12、16間にガタが生じるのが防止される。
【0032】
端部の芯材3aの両フランジ4にはEVA樹脂等からなるシート状の側部シール部材22が取り付けられ、この側部シール部材22により、一方の継手部材11の継手部12と後述する他方の継手部材15の継手部16との噛合が完了するまでの間、継手部材11の周囲にコンクリート41、砕石40等が回り込むのが防止される。
【0033】
なお、図1及び図6に示すように、側部シール部材22は、一方の継手部材11の継手部12と他方の継手部材15の継手部16との噛合が完了した後に、一方のエレメント2bと他方のエレメント2cとの繋ぎ目に打設されるコンクリート41内に埋設されることになる。
【0034】
他方の継手部材15は、図2に示すように、一方の継手部材11と同様に、端部の芯材3bと同一長さの長方形状の鋼板を幅方向の略中央部から二つ折りに折り曲げて全体を略コ形状に形成するとともに、幅方向の一端部を更に略直角に折り曲げてその部分を略L形状に形成したものであって、略コ形成の部分によって継手部16が構成され、略L形状の部分によって取付け部17が構成されている。
【0035】
他方の継手部材15は、略コ形状の継手部16の開口部が外側(他方のエレメント2cの外部方向)を向くように、かつ、継手部16の表面16aが端部の芯材3bのフランジ4の表面4aと略平行となるように、取付け部17が他方のエレメント2cの端部の芯材3bのフランジ4の側部4bに溶接により一体に連結されている。
【0036】
他方の継手部材15の継手部16の表面16aには、他方の継手部材15と同一長さの2つの丸棒状のスペーサ部材14が所定の間隔をおいて溶接により一体に連結され、このスペーサ部材14によって他方の継手部材15の継手部16と一方の継手部材11の継手部12との噛合をスムーズにするとともに、両継手部12、16間にガタが生じるのが防止される。
【0037】
継手部シール部材20は、図2に示すように、水膨張ゴム弾性材からなる帯板状をなすものであって、他方の継手部材15の継手部16の2つのスペーサ部材14間に貼着され、一方の継手部材11の継手部12と他方の継手部材15の継手部16とを相互に噛合させることにより、両継手部12、16間に全長に亘って介装される。
【0038】
継手部シール部材20は、地中連続壁1の山側の面に作用する雨水や湧水等の水を吸収して膨張することにより両継手部12、16間を水密にシールし、隣接する一方のエレメント2bと他方のエレメント2cとの繋ぎ目から本体構造物側への漏水を防止する。
【0039】
継手部シール部材20は、2つのスペーサ部材14によって幅方向への変形が規制され、主として厚み方向に変形することになるので、両継手部12、16間にきつく充満されることになり、両継手部12、16間が確実にシールされることになる。
なお、本実施の形態においては、継手部シール部材20にアデカウルトラシール(商品名:株式会社ADEKA)を使用しているが、これに限定することなく、水膨張する性質を有する弾性体であれば使用することができる。
【0040】
そして、上記のような構成の止水手段10によって隣接する一方のエレメント2bと他方のエレメント2cとの間の繋ぎ目が止水され、山側から地中連続壁1に作用する雨水、湧水等の水が両エレメント2b、2c間の繋ぎ目から本体構造物側に漏れるのが防止される。
【0041】
次に、上記のように構成した土留壁1の止水構造7の構築方法について説明する。
まず、図2に示すように、一方のエレメント2bの端部の芯材3aの一方のフランジ4の側部4bに一方の継手部材11の取付け部13を溶接により一体に連結し、他方のエレメント2cの端部の芯材3bの一方のフランジ4の側部4bに他方の継手部材15の取付け部17を溶接により一体に連結する。
【0042】
次に、一方のエレメント2bの端部の芯材3aの両フランジ4の表面の中央部に、フランジ4の全長に亘る長さの平鋼からなる支持板21を、その板面がフランジ4の表面4aに対して直交するように溶接により一体に連結し、この支持板21の一方の板面のフランジ4側の縁部にフランジ4の全長に亘る長さの水膨張ゴム弾性材からなる接合部シール部材23を貼着し、この接合部シール部材23によって支持板21とフランジ3との接合部をフランジ3の全長に亘ってシールする。
【0043】
なお、本実施の形態においては、接合部シール部材23にアデカウルトラシール(商品名:株式会社ADEKA)を使用している。
【0044】
次に、各支持板21の一方の板面のフランジ4と反対側の縁部に側部シール部材22を取り付け、2つの側部シール部材22間に端部の芯材3aの右半部、一方の継手部材11、及び後述する中央部ガイド29を位置させる。
【0045】
側部シール部材22は、EVA樹脂等からなるシート状をなすものであって、端部の芯材3aの全長に亘る長さに形成されるとともに、一方の継手部材11の全体を外方から所定の間隔をおいて覆う幅に形成されている。
【0046】
側部シール部材22は、幅方向の一端部の縁部を支持板21の縁部(フランジ4と反対側の縁部)に重合させ、この状態で一端部の縁部の上部に平鋼からなる押え板24を重合させ、押え板24の外側から押え板24、側部シール部材22の縁部、及び支持板21にボルト25を貫通させ、ボルト25にナット26を螺合させて締め付けることにより、支持板21に取り付けられる。
【0047】
次に、端部の芯材3aの両フランジ4の表面4aの中央部よりも右側寄りの部分に、端部の芯材3aの全長に亘る長さのL型鋼からなる側部ガイド27を配置し、この側部ガイド27の一端部を溶接によりフランジ4の表面4aに一体に連結し、側部ガイド27とフランジ4の表面4aとの間に後述する継手防護板31を支持する溝28を形成する。
【0048】
次に、端部の芯材3aのリブ5の中央部に、端部の芯材3aの全長に亘る長さの一対のL型鋼からなる中央部ガイド29を所定の間隔をおいて対向配置し、両中央部ガイド29の一端部をリブ5の表面5aに溶接により一体に連結し、両中央部ガイド29間とリブ5の表面5aとの間に後述するH型鋼からなる支柱32のフランジ33を支持する溝30を形成する。
【0049】
次に、図3に示すように、端部の芯材3aの全長に亘る長さの鋼板をコ形状に折り曲げて形成した継手防護板31の両端部を両側部ガイド27の溝28内に挿入し、継手防護板31の内面側の中央部に溶接により一体に取り付けたH型鋼からなる支柱32のフランジ33を中央部ガイド29の溝30内に挿入し、継手防護板31の内面側で一方の継手部材11の周囲を包囲する。
【0050】
そして、上記のような端部の芯材3aに対する作業が完了した後に、地盤45に設けた一方のエレメント用の溝46a内に複数の芯材3(端部の芯材3aを含む)を所定の間隔ごとに建て込み、端部の芯材3aを一方のエレメント用の溝46aの端部に配置し、端部の芯材3aの両側部シール部材22の先端を一方のエレメント用の溝46aの内面に当接させ、溝46aの内面と両側部シール部材22の内面と継手防護板31の外面とによって囲まれる部分に空間34を形成し、図4に示すように、空間34内に砕石40を投入して充填する。
【0051】
そして、空間34内に砕石40を充填した状態で一方のエレメント用の溝46a内にトレミー管によって充填材としてのコンクリート41を打設し、コンクリート41内に複数の芯材3(端部の芯材3aを含む)が所定の間隔ごとに埋設された壁体状の一方のエレメント2bを構築する。
【0052】
次に、図5に示すように、空間34内に充填した砕石40を取り除き、端部の芯材3aから継手防護板31を取り外し、地盤45に設けた他方のエレメント用の溝46b内に複数の芯材3(端部の芯材3bを含む)を所定の間隔ごとに建て込み、端部の芯材3bを他方のエレメント用の溝46bの端部に配置する。
【0053】
この際に、端部の芯材3bの他方の継手部材15の継手部16を一方のエレメント2bの一方の継手部材11の継手部12に上方から噛合させ、両継手部12、16間に継手部シール部材20を介装させる。
【0054】
この場合、両継手部12、16には、それぞれ2つのスペーサ部材14が設けられているので、これらのスペーサ部材14によって両継手部12、16がスムーズに噛合されるとともに、噛合後に両継手部12、16間にガタが生じるのが防止される。
【0055】
また、両継手部12、16には、一方のエレメント2b及び他方エレメント2cの壁面2a方向に多少の遊びを有しているので、一方のエレメント用の溝46a、他方のエレメント用の溝46b等の寸法に多少の誤差があっても、両継手部12、16を容易にかつ確実に噛合させることができる。
【0056】
そして、図6に示すように、他方のエレメント用の溝46b内にトレミー管によって充填材としてのコンクリート41を打設し、そのコンクリート41を他方のエレメント用の溝46bから砕石40を取り除いた後の空間34内に回り込ませる。
【0057】
このようにして、コンクリート41内に複数の芯材3(端部の芯材3bを含む)が所定の間隔ごとに埋設された壁体状の他方のエレメント3bを構築するとともに、一方のエレメント2bと他方のエレメント2cとをそれらの間に打設したコンクリート41を介して一体に連結する。
【0058】
そして、上記のような一連の作業を複数のエレメント2に対して繰り返し行うことにより、複数のエレメント2を一体化した地中連続壁1を構築することができ、地中連続壁1の隣接するエレメント2間の繋ぎ目に一方の継手部材11、他方の継手部材15、及び継手部シール部材20からなる止水手段10を介装させることができ、この止水手段10によって隣接するエレメント2間を止水することができる。
【0059】
なお、地中連続壁1の高さが芯材3の規定長さを超える場合には、図7及び図8に示すように、複数の芯材3を上下方向に繋ぎ合わせるとともに、複数の一方の継手部材11を上下方向に繋ぎ合せる。この場合、上下方向に隣接する一方の継手部材11、11間に水膨張ゴム弾性材からなる繋ぎ目用シール部材35を介装させ、上側の一方の継手部材11の下端部及び下側の一方の継手部材11の上端部にそれぞれ環状のガイド部36を一体に設け、この上下のガイド部36、36間に丸棒を略L型状に屈曲させて構成した連結棒37を挿着させる。
なお、図7及び図8においては、一方の継手部材11のみを示しているが、他方の継手部材15も同様の方法によって繋ぎ合せる。
【0060】
また、図9及び図10に示すように、本体構造物の底盤部50と地中連続壁1との間を完全に止水するために、地中連続壁1の本体構造物の底盤部50に対応する部分に防水シート38を貼り付け、この防水シート38を底盤部50の表面に敷設した防水シート39に接合するようにしてもよい。
【0061】
具体的には、地中連続壁1の前面側を砕石均し深さまで開削し、本体構造物の底盤部50に対応する地中連続壁1の前面側を削って芯材3のフランジ4の表面4aを露出させ、この状態で地中連続壁1の前面側の本体構造物の底盤部50に対応する部分の全体に防水シート38を貼り付ける。この場合、防水シート38の上端部を糊付けせずに折り曲げておく。また、この際に、防止シート38を地中連続壁1の前面側に確実に接合するために、地中連続壁1の前面側をモルタルによって平滑に仕上る。
【0062】
そして、この状態で砕石55を所定の厚さで敷設し、砕石55の上部に捨てコンクリート56を所定の厚さで打設して底盤部50を構築し、底盤部50の表面に防水シート39を敷設し、この防水シート39に地中連続壁1側の防水シート38の上端部を重ね合わせて接合する。
【0063】
上記のように構成した本実施の形態による土留壁1の止水構造7及び止水構造7の構築方法にあっては、地中連続壁1の隣接するエレメント2、2間に一方の継手部材11と他方の継手部材15と継手部シール部材20とからなる止水手段10を設け、止水手段10の一方の継手部材11の継手部12と他方の継手部材15の継手部16とを相互に噛合させて、両継手部12、16間に継手部シール部材20を介装させるように構成したので、隣接するエレメント2間の繋ぎ目を確実に止水することができ、山側からの水が繋ぎ目を介して本体構造物側に漏れ出るのを確実に防止できる。
【0064】
また、一方の継手部材11の継手部12と他方の継手部材15の継手部16とを相互に噛合させる際に、両継手部12、16に設けたスペーサ部材14によって両継手部12、16をスムーズに噛合させることができるとともに、噛合後に両継手部材12、16間にガタが生じるのを防止できることになる。
【0065】
さらに、一方の継手部材11の継手部12及び他方の継手部材15の継手部16は共に略コ形状に形成されているので、噛合完了後に両継手部12、16の噛合状態が解除されるようなことはなく、長期に亘って隣接するエレメント2の繋ぎ目を止水し続けることができる。
【0066】
さらに、両継手部12、16は、一方のエレメント2b及び他方のエレメント2cの壁面2a方向に多少の遊びを有しているので、一方のエレメント用の溝46a、他方のエレメント用の溝46b等の寸法に多少の誤差が生じても、両継手部12、16同士の噛合作業を容易にかつ確実に行うことができる。
【0067】
さらに、隣接するエレメント2の山側の面のみに止水手段10を設ければよいので、止水手段の取付け作業に要する手間、及び費用を削減することができるとともに、工期を短縮することもできる。
【0068】
さらに、地中連続壁1の構築が完了した後に、地中連続壁1の本体構造物側の地盤45´を開削する際に、地中連続壁1の隣接するエレメント2間の繋ぎ目に防水シート等を貼付ける止水工事が不要となるので、これによっても工費を削減できるとともに、工期を短縮することができる。
【0069】
なお、本実施の形態においては、土留壁1が地中連続壁1の場合について説明したが、土留壁1がSMW壁、SMW連続壁の場合にも適用可能であり、その場合にも同様の作用効果を奏する。SMW壁又はSMW連続壁に適用する場合には、ソイルセメント壁体がエレメントに相当することになる。
【0070】
なお、前記の説明においては、一方の継手部材11の継手部12の開口部が内側を向き、他方の継手部材15の継手部16の開口部が外側を向くように構成したが、一方の継手部材11の継手部12の開口部が外側を向き、他方の継手部材15の継手部16の開口部が内側を向くように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明による土留壁の止水構造の一実施の形態を示した概略図である。
【図2】止水構造の構築方法の説明図であって、一方のエレメントの端部の芯材に一方の継手部材を取り付け、他方のエレメントの端部の芯材に他方の継手部材を取り付けた状態を示した説明図である。
【図3】一方のエレメントの端部の芯材に継手防護板を取り付け、継手防護板によって一方の継手部材の周囲を包囲した状態を示した説明図である。
【図4】継手防護板の外側の空間内に砕石を充填し、一方のエレメント用の溝内にコンクリートを打設した状態を示した説明図である。
【図5】一方の継手部材と他方の継手部材との噛合させた状態を示した説明図である。
【図6】他方のエレメント用の溝内にコンクリートを打設し、一方のエレメントと他方のエレメントとを一体化した状態を示した説明図である。
【図7】一方の継手部材の変形例を示した説明図であって、上下方向に隣接する一方の継手部材の接合部の平面図である。
【図8】図7のA−A線に沿って見た断面図である。
【図9】本体構造物の底盤部と土留壁との間の止水方法を示した説明図であって、土留壁側に防水シートを貼り付けた状態を示した説明図である。
【図10】土留壁側の防水シートを本体構造物の底盤部の防水シートに接合した状態を示した説明図である。
【符号の説明】
【0072】
1 地中連続壁、2 エレメント、2a 壁面、
2b 一方のエレメント、2c 他方のエレメント、3 芯材、
3a 端部の芯材(一方のエレメント)、3b 端部の芯材(他方のエレメント)、
4 フランジ、4a 表面、4b 側部、5 リブ、5a 表面、
7 止水構造、10 止水手段、11 一方の継手部材、
12 継手部、12a 表面、13 取付け部、14 スペーサ部材、
15 他方の継手部材、16 継手部、16a 表面、17 取付け部、
20 継手部シール部材、21 支持板、22 側部シール部材、
23 接合部シール部材、24 押さえ板、25 ボルト、26 ナット、
27 側部ガイド、28 溝、29 中央部ガイド、30 溝、
31 継手防護板、32 支柱、33 フランジ、34 空間、
35 繋ぎ目用シール部材、36 ガイド部、37 連結棒、
38 防水シート(土留壁側)、39 防水シート(底盤側)、
40 砕石、41 コンクリート、45 地盤、45´ 本体構造物側の地盤、
46a 一方のエレメント用の溝、46b 他方のエレメント用の溝、
50 底盤部、55 砕石、56 捨てコンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材を備える複数のエレメントを横方向に並べてなる土留壁の隣接するエレメント間を止水する土留壁の止水構造であって、
隣接する一方のエレメントの端部の芯材に取り付けられる一方の継手部材と、他方のエレメントの端部の芯材に取り付けられるとともに、前記一方の継手部材と相互に噛合する他方の継手部材と、前記一方の継手部材と前記他方の継手部材との噛合部分に介装されて、該噛合部分を水密にシールするシール部材とからなる止水手段を備えていることを特徴とする土留壁の止水構造。
【請求項2】
前記一方の継手部材には略コ形状の継手部が設けられ、前記他方の継手部材には前記継手部と相互に噛合する略コ形状の継手部が設けられ、前記両継手部の噛合部分に前記シール部材が介装されていることを特徴とする請求項1に記載の土留壁の止水構造。
【請求項3】
前記シール部材は、水膨張ゴム弾性材からなり、前記両継手部の噛合部分に設けられたスペーサ部材によって変形方向が規制されていることを特徴とする請求項2に記載の土留壁の止水構造。
【請求項4】
前記一方のエレメント及び前記他方のエレメントの端部の芯材はH型鋼からなり、前記端部の芯材の一方のフランジに前記一方の継手部材及び前記他方の継手部材が取り付けられていることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の土留壁の止水構造。
【請求項5】
芯材を備える複数のエレメントを横方向に並べてなる土留壁の隣接するエレメント間を止水する土留壁の止水構造の構築方法であって、
隣接する一方のエレメントの端部の芯材に一方の継手部材を取り付け、他方のエレメントの端部の芯材に他方の継手部材を取り付ける工程と、
地盤に設けた一方のエレメント用の溝内に端部の芯材を含む複数の芯材を建て込み、該一方のエレメント用の溝の端部に端部の芯材を配置する工程と、
端部の芯材に継手防護板を取り付け、この継手防護板によって一方の継手の周囲を包囲するとともに、継手防護板の外側に形成される空間内に砕石を充填する工程と、
一方のエレメント用の溝内にコンクリートを打設する工程と、
前記空間内から砕石及び継手防護板を取り除き、地盤に設けた他方のエレメント用の溝内に端部の芯材を含む複数の芯材を建て込み、該他方のエレメント用の溝の端部に端部の芯材を配置する工程と、
前記他方のエレメント用の溝内にコンクリートを打設し、該コンクリートを該溝から一方のエレメントとの繋ぎ目に回り込ませる工程とを備え、
複数のエレメントに対して前記一連の工程を繰り返し行うことにより、複数のエレメントを一体化した土留壁を構築し、隣接するエレメント間を止水することを特徴とする土留め壁の止水構造の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−46853(P2009−46853A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212989(P2007−212989)
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】