説明

圧電ファン及びそれを用いた放熱装置

【課題】簡単な構造で、圧電素子の駆動によって支持体に生じる振動を低減できる圧電ファンを提供する。
【解決手段】圧電ファン1は、支持体3と、長さ方向一方端が支持体に固定支持され、長さ方向他方端側が自由端とされた振動板2と、振動板の固定端側の表裏面の少なくとも一面に貼り付けられた圧電素子4とを備え、圧電素子の駆動により振動板の自由端側を板厚方向に励振させて空気流を発生させる。振動吸収板2b及び錘6とで構成され、圧電ファンの駆動周波数と同一又はその近傍の固有振動数を持つ振動吸収部材5を、振動板の反力による支持体の振動方向と同一方向に振動するように支持体3に固定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は振動板を圧電素子により振動させることにより、空気流を発生する圧電ファンにおいて、その振動を低減するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型の電子機器では小型化と部品の高密度実装化に伴って、電子機器内部で発生する熱の放熱対策が課題になっている。このような電子機器を効率よく放熱させる手段として、圧電ファンを用いた放熱装置が提案されている。
【0003】
特許文献1には、図14に示すように、支持体201に金属薄板よりなる振動板202の長さ方向一端部を固定し、この固定端近傍の両面に圧電素子204を貼り付けると共に、振動板202の長さ方向他端部に複数に分割されたブレード(送風部)203を形成した圧電ファン200が開示されている。支持体201は一対のアーム205を介してヒートシンク206の両側面に固定されている。ブレード203はヒートシンク205のフィン207間に斜めに挿入されており、圧電素子204を駆動することによりブレード203を励振させ、フィン207間の暖気を排出することができる。
【0004】
前記構造の圧電ファン200においては、振動板202が振動すると、その反動により振動板202を支持している支持体201も振動し、支持体201の振動がヒートシンク206に伝わり、騒音の原因になると共に、他の装置の誤作動の原因になるという問題がある。もし、支持体201をゴム等の弾性体を介してヒートシンク206に固定すれば、ヒートシンク206への振動の波及を緩和することは可能であるが、支持体201の支持剛性が低くなるため、ブレード203の振幅が極端に小さくなってしまい、所望の風量が得られなくなる。
【0005】
一般的な振動低減方法として、図15に示すような動吸振器300がある。すなわち、基体301の上にばねK及び減衰器Zを介して主系302を支持し、主系302の上にばねk及び減衰器zを介して動吸振器300を配置する。主系302の質量をM、変位をXとし、動吸振器300の質量をm、変位をxとすると、外力を受けて振動する主系302を、動吸振器300の積極的な振動で打ち消すものである。このような動吸振器300を、主系302である圧電ファン装置(圧電ファン及び圧電ファンが設置されている筺体)に取り付けて周波数を調整する場合には、取付作業が煩雑になり、装置全体が大型かつコスト高になる欠点がある。
【0006】
特許文献2には、図16に示すように、同じ振動特性を有する複数の圧電ファン400を並列して支持体402に支持するとともに、これら圧電ファン400を矢印で示すように逆位相で駆動することで、支持体402の振動を打ち消す構造の装置が提案されている。この場合には、圧電ファン400自体が互いに振動を吸収し合うので、動吸振器のような別の装置を設ける必要がない。しかし、この場合には、複数のファン400を同一周波数でかつ位相を反転させて駆動する必要があるため、駆動回路や個々の圧電ファン構造が複雑になると共に、コスト上昇を招く欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US2007/0037506A1
【特許文献2】WO2009/119431A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、簡単な構造で、圧電素子の駆動によって支持体に生じる振動を低減できる圧電ファン及びそれを用いた放熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、支持体と、長さ方向一方端が前記支持体に固定支持され、長さ方向他方端側が自由端とされた振動板と、前記振動板の固定端側の表裏面の少なくとも一面に貼り付けられた圧電素子とを備え、前記圧電素子の駆動により前記振動板の自由端側を板厚方向に励振させて空気流を発生させる圧電ファンにおいて、前記圧電ファンの駆動周波数と同じ又はその近傍の固有振動数を持つ振動吸収部材を、前記振動板の反力による前記支持体の振動方向と同一方向に振動するように前記支持体に固定したことを特徴とする圧電ファンを提供する。
【0010】
本発明は、ファンを駆動した時に支持体に加わる振動を、支持体に取り付けた別の部品(振動吸収部材)を共振させることで打ち消し、支持体の振動を抑制するものである。つまり、支持体が振動すると、それに伴って振動吸収部材も振動するが、振動吸収部材の固有振動数は圧電ファンの駆動周波数と同じ又はそれに近いので、振動吸収部材の振動の位相は自動的にファンの振動の位相とほぼ逆位相となり、支持体の振動をキャンセルできる。追加した振動吸収部材は、圧電素子等を用いて積極的に振動させる訳ではなく、ファン駆動の反力により固有振動数で振動するだけであるから、簡易な構造となる。また、ファンと一体化しているため、ファンをヒートシンク等に取り付ける際の調整が不要である。そのため、大型化やコスト上昇を最小限に抑制することができる。また、圧電ファンの振動が外部へ波及するのを抑制できる。
【0011】
振動吸収部材は、一端部が支持体に固定され、他端部が振動板と平行に延びる板ばねと、当該板ばねの他端部に固定された固有振動数調整用の錘とで構成するのがよい。板ばねのみで固有振動数を調整することもできるが、板ばねが大型化する可能性がある。これに対し、板ばねの自由端に錘を取り付ければ、板ばねを大型化させずに固有振動数の調整を容易に行うことができる。振動吸収部材は、振動板と平行に延びる板ばねであるため、支持体の振動方向と同一方向に振動させることができる。
【0012】
振動吸収部材は、振動板と対面するように、振動板を固定した支持体の反対面に固定してもよい。この場合には、振動吸収部材と振動板とが同じ方向に延びるので、振動吸収部材による圧電ファンの長さ方向寸法の増大を抑制できる。
【0013】
振動板の自由端から長さ方向中間部に向かってスリットを形成することにより、複数に分割されたブレードが形成されており、圧電素子は、ブレードの根元部より振動板の固定端側の領域に貼り付けられている構造としてもよい。この場合には、一枚の振動板に複数のブレードを形成することができ、これらブレードを1つの圧電素子で同時に駆動することが可能であり、さらに風量を増大させることができる。
【0014】
振動板の長さ方向中間部に直交方向の折り曲げ部が形成されており、振動板の自由端から折り曲げ部に向かってスリットを形成することにより、複数に分割されたブレードが形成されており、圧電素子は、折り曲げ部より固定端側に貼り付けられている構造としてもよい。この場合には、振動板をくの字状に折り曲げることで、圧電素子の振動方向に対してブレードの先端部を直交方向に振動させることができ、圧電ファンの配置の自由度を高めることができる。
【0015】
本発明にかかる圧電ファンと、間隔をあけて並設された複数の放熱フィンを有するヒートシンクとを備えた放熱装置であって、圧電ファンの振動板は、ヒートシンクの放熱フィンの間に、振動板の励振方向が放熱フィンの側面と平行になるように挿入され、支持体はヒートシンクに固定されている構造としてもよい。この場合には、圧電ファンとヒートシンクとの位置関係が安定するので、圧電ファンの振動板と放熱フィンとが接触せず、放熱フィン間に存在する暖気を効率よく外部へ排出することができる。
【0016】
支持体の長さ方向中央部に振動板と振動吸収部材とが固定され、支持体の長さ方向両端部がヒートシンクに固定されている構造としてもよい。この場合には、振動板の励振によって支持体の中央部が最も大きく振動するが、その振動部分に振動吸収部材が固定されているので、ヒートシンクへの振動の波及を抑制しながら、支持体の振動を効果的に打ち消すことができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、振動板を支持する支持体に、ファンの駆動周波数と同じ又はその近傍の固有振動数を持つ振動吸収部材を、支持体の振動方向と同一方向に振動するように固定したので、動吸振器のような格別の駆動源を必要とせず、簡単な構造で支持体の振動を打ち消すことができる。また、振動吸収部材はファンと一体化されているため、ファンをヒートシンク等に取り付ける際に調整不要であり、大型化やコスト上昇を最小限に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る圧電ファンの第1実施形態の側面図である。
【図2】図1に示す圧電ファンの作動原理を説明するための振動モデル図である。
【図3】図1に示す圧電ファンの加振力Fの周波数ωと支持体の変位X1の関係を表すグラフである。
【図4】本発明に係る圧電ファンの第2実施形態の平面図及び側面図である。
【図5】本発明に係る圧電ファンの第3実施形態の平面図及び側面図である。
【図6】本発明に係る圧電ファンの第4実施形態の平面図及び側面図である。
【図7】本発明に係る圧電ファンの第5実施形態の側面図である。
【図8】本発明に係る圧電ファンの第1実施例をヒートシンク、基板と組み合わせた放熱装置の側面図である。
【図9】図8に示す放熱装置の斜視図である。
【図10】図8に示す放熱装置の平面図である。
【図11】図8に示す放熱装置の分解斜視図である。
【図12】本発明に係る圧電ファンを用いた放熱装置と、比較例の放熱装置との側面図である。
【図13】図12に示す圧電ファンの各部の寸法を付した斜視図、正面図、平面図、側面図である。
【図14】特許文献1に示された圧電ファンの一例の分解斜視図である。
【図15】動吸振器の適用例の原理図である。
【図16】従来の圧電ファンの他の例の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明に係る圧電ファンの第1実施形態を示す。圧電ファン1は、厚み方向に屈曲変位自在な振動板2と、振動板2の長さ方向中間部を固定支持する支持体3と、振動板2の表裏面に貼り付けられた圧電素子4,4とで構成されている。支持体3に対する振動板2の固定方法は、接着、溶接、ねじ止め等任意である。振動板2は、例えば金属製の板ばねで構成されており、支持体3から長さ方向一方側に延びる部分が送風部(ブレード)2aとなっている。圧電素子4はこの送風部2aの根元部(固定端側)に貼り付けられている。この例では、圧電素子4を振動板2の表裏面に貼り付けてバイモルフ型圧電ファンを構成しているが、振動板2の片面にのみ貼り付けたユニモルフ構造であってもよい。支持体3は、図示しない固定部(例えばヒートシンクやケース本体)に固定されている。支持体3を間にして、振動板2の送風部2aと逆方向に振動吸収部2bが延長されており、その先端部に錘6が固定されている。振動吸収部2bと錘6とで振動抑制部5が構成される。振動抑制部5は、振動板2の送風部2aと同じ振動方向、つまり上下方向に振動することができ、その固有振動数は圧電素子4の駆動周波数と同じ又はその近傍に設定されている。ここでは、振動板2の送風部2aと振動吸収部2bとが同じ部材で一体形成されているが、別部材で構成し、それぞれ支持体3に固定してもよい。
【0020】
圧電素子4,4に振動板2を一次共振させる周波数の電圧を印加すると、破線で示すように振動板2の送風部2aが上下に大きく振動し、矢印A方向の空気流を発生させることができる。ファン1を駆動した時、その反動として支持体3に上下方向の振動Bが加わり、その振動が支持体3を固定したヒートシンクやケースに伝達される。しかし、本発明では支持体3の振動によって、当該支持体3に固定された振動抑制部5が共振し、その振動の位相がファン1の振動と逆位相となるので、支持体3の振動を自動的に打ち消すことができ、ヒートシンクやケースへの振動波及を抑制することができる。なお、振動抑制部5を追加することにより、ファン1本来の特性(ファン駆動周波数、送風部2aの振幅)に影響を及ぼすこともない。
【0021】
ここで、図2を参照して本発明における圧電ファンの振動低減の作動原理を説明する。図2において、M1は支持体の質量、K1は支持体の取付剛性、M2,K2は振動抑制部の質量と剛性、X1は支持体の変位、F(=Fsinω)はファンの送風部が振動して発生する加振力、ωはファン駆動周波数、ω1,ω2はそれぞれ支持体の固有振動数と追加した振動系(振動抑制部)の固有振動数であり、ω1=√(K1/M1)、ω2=√(K2/M2)である。
【0022】
図2のような2自由度の振動モデルにおいて、加振力Fの周波数ωと支持体の変位X1の関係をグラフに表すと、図3のようになる。つまり、ω=ω2のとき、X1は最小となることがわかる。したがって、ω2がファン駆動周波数(ω0)と一致するように、M2,K2の値を調整すれば、ファン駆動時の支持体の振動を小さくでき、ひいてはファンの支持体を取り付けているその他の装置への振動の波及を抑制できる。なお、図2では、説明を簡単にするために減衰のない系で考えたが、減衰を含んだ系においても同様の効果が得られる。その場合、減衰の影響により、X1が最小となる振動数はω2よりやや高くなると考えられる。振動抑制部の固有振動数をファン駆動周波数よりやや低くすることで、最大の振動低減効果が得られる。
【0023】
〔第2実施形態〕
図4は、本発明に係る圧電ファンの第2実施形態を示す。この圧電ファン10は、厚み方向に屈曲変位自在な振動板11と、振動板11の長さ方向一端部を固定支持する支持体12と、振動板11の固定端側の表裏面に貼り付けられた圧電素子13,13とを備えている。振動板11の自由端には送風部(ブレード)11aが設けられている。支持体12には、振動板11と逆方向に延びる振動吸収板14の一端部が固定されている。振動吸収板14の他端部に錘15が固定され、振動吸収板14と錘15とで振動抑制部16を構成している。
【0024】
この実施形態では、振動吸収板14と振動板11とが別部材であるため、振動吸収板14として任意の特性を持つ材料を選定することができる。例えば、振動板11とヤング率の異なるばね板や厚みの異なるばね板を使用することで、振動抑制部16の固有振動数を圧電素子13の駆動周波数に合わせ込むことができる。なお、振動板11と振動吸収板14とを支持体12に対して一列に並べて固定する必要はなく、例えば振動板11の上に振動吸収板14を重ねて支持体12に固定してもよい。
【0025】
〔第3実施形態〕
図5は、本発明に係る圧電ファンの第3実施形態を示す。この圧電ファン20は、厚み方向に屈曲変位自在な振動板21と、振動板21の長さ方向一端部を固定支持する支持体22と、振動板21の固定端側の表裏面に貼り付けられた圧電素子23,23とを備えている。支持体22には、振動板21と逆方向に延びる振動吸収板24の一端部が固定されている。振動吸収板24の他端部には錘が固定されておらず、振動吸収板24だけで振動抑制部を構成している。
【0026】
この実施形態では、振動吸収板24が振動板21より薄肉なばね板で構成されているため、振動板21より短い長さで固有振動数をファンの駆動周波数に合わせ込むことができる。この場合には、錘を必要としない分だけ部品数を削減できる。
【0027】
〔第4実施形態〕
図6は、本発明に係る圧電ファンの第4実施形態を示す。この圧電ファン30は、厚み方向に屈曲変位自在な振動板31と、振動板31の長さ方向中間部を固定支持する支持体32と、振動板31の支持体32近傍部分の表裏面に貼り付けられた圧電素子33,33とで構成されている。振動板31には、支持体32から一方側へ延びる送風部31aと、送風部31aと逆方向に延びる振動吸収部31bとが一体に形成され、振動吸収部31bの自由端には幅広部31cが形成されている。この実施形態は、第1実施形態に比べて、錘に代えて、幅広部31cが形成された点を特徴としている。
【0028】
この実施形態では、振動吸収板31bの幅広部31cが錘として作用するので、送風部31aより短い長さで、固有振動数をファンの駆動周波数の近傍にすることができる。この場合、錘を必要とせず、振動吸収部31bが送風部31aと一体に形成されているため、部品数を削減できる。なお、振動吸収部31bを送風部31aとは別体で構成し、支持体32に対して個別に固定してもよい。
【0029】
〔第5実施形態〕
図7は、本発明に係る圧電ファンの第5実施形態を示す。この圧電ファン40は、厚み方向に屈曲変位自在な振動板41と、振動板41の長さ方向一端部を固定支持する支持体42と、振動板41の固定端側(支持体42近傍部)の表裏面に貼り付けられた圧電素子43,43とを備えている。振動板41の自由端には送風部(ブレード)41aが設けられている。支持体42の下面、つまり振動板41を固定した上面と逆側の面には、振動吸収板44の一端部44aが固定されており、振動吸収板44の他端は振動板41と同一方向に延び、その自由端に錘45が固定されている。この実施形態では、錘45は振動吸収板44の自由端の上面、つまり圧電素子43と対向する位置に固定されている。
【0030】
この実施形態の場合も、振動吸収板44と錘45とで構成される振動抑制部46の固有振動数をファンの駆動周波数の近傍にすることで、ファン40の駆動に伴う支持体42の振動によって、振動抑制部46を共振させることができ、支持体42の振動を打ち消すことができる。この実施形態では、振動吸収板44を支持体42に対して振動板41と同一方向に固定したので、圧電ファン40の長さ寸法を抑制できると共に、振動吸収板44を振動板41に対して支持体42の厚さ方向反対側に配置し、かつ錘45が振動吸収板44の上面に固定されているので、圧電ファン40の高さ寸法も抑制できる。
【0031】
〔第1実施例〕
図8は、本発明に係る圧電ファンを用いた放熱装置の第1実施例を示す。この放熱装置は、基板100と、基板100の上に固定されたIC等の発熱素子110と、発熱素子110上に固定されたヒートシンク120と、ヒートシンク120上に固定された圧電ファン130とで構成されている。圧電ファン130としては、第5実施形態(図7)に係る圧電ファンと同様に振動板と振動吸収板とを支持体の上下面にそれぞれ固定すると共に、振動板の送風部を直角に折り曲げた構造を有する。
【0032】
圧電ファン130は、図9〜図11に示すように、角柱状の支持体131と、支持体131の長さ方向中間部の上面に一端部が固定された振動板132と、振動板132の固定端側の表裏面に固定された圧電素子133とで構成されている。支持体131の長さ方向中間部の下面には、振動吸収板134の一端部が固定され、振動吸収板134の自由端部上面に錘135が固定されている。振動吸収板134と錘135とによって振動吸収部136が構成されている。錘135を含む振動吸収部136の固有振動数は、圧電素子133の駆動周波数の近傍に設定されている。振動板132は、その長さ方向中間部が下方へ垂直に折り曲げられており、自由端から折り曲げ部132aの近傍位置までスリット132bを形成することにより、複数のブレード(送風部)132cに分割されている。圧電素子133を駆動すると、折り曲げ部132aは上下方向に振動し、ブレード132cの先端部は折り曲げ部132aより大きな振幅で水平方向に振動する。振動吸収板134は支持体131に対して振動板132と同じ方向に延びており、その長さは、振動板132の固定端から折り曲げ部132aまでの長さより短い。そのため、振動吸収板134の自由端が振動板132のブレード132cと接触することがない。また、錘135の厚みは支持体131の厚みより薄いので、振動吸収板134が振動板132の振動に伴って共振しても、錘135が振動板132(圧電素子133)と接触することがない。
【0033】
ヒートシンク120は、間隔をあけて並設された複数枚の放熱フィン121を有しており、ヒートシンク120の底面は、発熱素子110の上面に熱的に結合された状態で取り付けられている。したがって、発熱素子110から生じる熱はヒートシンク120に伝導され、各放熱フィン121間の空気は熱せられる。ヒートシンク120の隣接する2つのコーナ部の上面には、一対の凸状の取付座122が形成され、これら取付座122の間には凹部124が形成されている。取付座122にはそれぞれネジ穴123が形成されている。ブレード132cをその変位方向が放熱フィン121の側面と平行になるように各放熱フィン121の間に挿入し、ネジ125を支持体131の両端部に形成したネジ挿通穴131aを介して取付座122にネジ止めすることで、圧電ファン130はヒートシンク120に固定されている。放熱フィン121の間に挿入されたブレード132cが放熱フィン121の側面と平行に変位するため、放熱フィン121間の暖気がブレード132cでかき取られ、暖気はブレード132cの長さ方向に排出される。また、この実施例では、ブレード132cがヒートシンク120の中にその底面に対して垂直方向に挿入されているので、ブレード132cによって引き起こされた空気流がヒートシンク120の最も高温の底面に垂直方向に当たり、ヒートシンク120の熱をより効果的に排出できる。その結果、放熱効果に優れた放熱装置を実現できる。
【0034】
この実施例では、振動板132と振動吸収板134とが、支持体131の長さ方向中間部の上下面にそれぞれ固定されており、支持体131の長さ方向両端部がネジ125によってヒートシンク120の取付座122に固定されている。したがって、支持体131の長さ方向中間部とヒートシンク120との間には、凹部124による高さ方向の隙間が存在する。圧電素子133の駆動によって圧電ファン130が振動すると、その反動で支持体131が上下に振動する。支持体131の振動に伴って振動吸収板134が共振するため、支持体131の振動が打ち消され、ヒートシンク120への振動伝播が抑制される。振動吸収板134が上下に大きく共振しても、支持体131とヒートシンク120との間に隙間が存在するため、振動吸収板134がヒートシンク120と干渉するのを防止できる。
【0035】
なお、圧電ファン130をヒートシンク120に固定する構造は、前記実施例のように支持体131をヒートシンク120の取付座122に直接ネジ止めする構造に限定されるものではなく、例えば特許文献1のように、ヒートシンクの両側面にアームを介して支持体を固定してもよい。
【0036】
ここで、本発明における圧電ファン(振動吸収部付き)と比較例の圧電ファン(振動吸収部なし)とを用いた放熱装置における振動比較実験の結果を示す。ここでは、本発明の圧電ファン130’として、振動吸収板134を振動板132と逆向きに支持体131に固定したものを使用した。比較例は、本発明に対して振動吸収板134と錘135とを除外したものである。これら圧電ファンを図12に示すように、放熱装置に適用し、ファン駆動による基板の振動(振動加速度)を測定した。測定は、基板の最も振動の大きい部分の振動加速度を測定したものである。圧電ファンの各部の寸法は図13に示す通りである。
振動板:厚さ0.1mmのSUS304
振動吸収板:厚さ0.1mmのSUS304
錘:重さ3gの樹脂
支持体:樹脂
基板:Micro−ATXボード(250mm×250mm×1.5mm)
発熱素子に代えてプレートヒータ(金属):10mm×10mm×1mm
ヒートシンク:50mm×50mm×30mm
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示すように、本発明と比較例とを比較すると、ファンを同じ周波数で駆動した場合に、ファンの先端振幅がほぼ同じでありながら、基板に伝わる振動が比較例に比べて1/2以下に低減されたことがわかる。よって、本発明の振動低減機能を有する圧電ファンの有効性が確かめられた。
【0039】
第1実施例では、振動吸収板134を振動板132と同方向に延びるように支持体131の下面に固定したが、振動吸収板134を振動板132と逆方向に延びるように支持体131の下面に固定してもよい。支持体の構造は、実施例のように角棒状に限るものではなく、任意の形状を持つことができる。また、振動板によって発生する支持体の振動を外部に波及させずに振動吸収板で打ち消すことができるように、支持体に対する振動板及び振動吸収板の固定位置と、支持体をヒートシンクなどに固定する固定位置とが長さ方向に離れている方が望ましい。
【符号の説明】
【0040】
1 圧電ファン
2 振動板
2a 送風部(ブレード)
2b 振動吸収部
3 支持体
4 圧電素子
5 振動抑制部
6 錘
100 基板
110 発熱素子
120 ヒートシンク
130 圧電ファン
131 支持体
132 振動板
133 圧電素子
134 振動吸収板
135 錘
136 振動吸収部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、長さ方向一方端が前記支持体に固定支持され、長さ方向他方端側が自由端とされた振動板と、前記振動板の固定端側の表裏面の少なくとも一面に貼り付けられた圧電素子とを備え、前記圧電素子の駆動により前記振動板の自由端側を板厚方向に励振させて空気流を発生させる圧電ファンにおいて、
前記圧電ファンの駆動周波数と同一又はその近傍の固有振動数を持つ振動吸収部材を、前記振動板の反力による前記支持体の振動方向と同一方向に振動するように前記支持体に固定したことを特徴とする圧電ファン。
【請求項2】
前記振動吸収部材は、一端部が前記支持体に固定され、他端部が前記振動板と平行に延びる板ばねと、当該板ばねの他端部に固定された固有振動数調整用の錘と、で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の圧電ファン。
【請求項3】
前記振動吸収部材は、前記振動板と対向するように、前記振動板を固定した支持体の反対面に固定されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の圧電ファン。
【請求項4】
前記振動板の自由端から長さ方向中間部に向かってスリットを形成することにより、複数に分割されたブレードが形成されており、
前記圧電素子は、前記ブレードの根元部より前記振動板の固定端側の領域に貼り付けられていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の圧電ファン。
【請求項5】
前記振動板の長さ方向中間部に直交方向の折り曲げ部が形成されており、
前記振動板の自由端から前記折り曲げ部に向かってスリットを形成することにより、複数に分割されたブレードが形成されており、
前記圧電素子は、前記折り曲げ部より固定端側に貼り付けられていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の圧電ファン。
【請求項6】
請求項1に記載の圧電ファンと、間隔をあけて並設された複数の放熱フィンを有するヒートシンクとを備えた放熱装置であって、
前記圧電ファンの前記振動板は、前記ヒートシンクの放熱フィンの間に、前記振動板の励振方向が前記放熱フィンの側面と平行になるように挿入され、
前記支持体は前記ヒートシンクに固定されていることを特徴とする放熱装置。
【請求項7】
前記支持体の長さ方向中央部に前記振動板と振動吸収部材とが固定され、
前記支持体の長さ方向両端部が前記ヒートシンクに固定されていることを特徴とする、請求項6に記載の放熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−77678(P2012−77678A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223399(P2010−223399)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】