説明

地盤における応力可視化方法

【課題】地盤に作用する応力を、可視化することで簡単に知ることができるようにする。
【解決手段】破壊強度が異なる複数種類のマイクロカプセル6に、染料或いは顔料を封入すると共に、該マイクロカプセル6が破壊強度別に区分されて配された感圧発色体3を形成し、該感圧発色体3を地盤に埋設して、地盤に作用する応力に応じて前記マイクロカプセル6が破壊されることで染料或いは顔料が発現した区分により、地盤に作用する応力を可視化するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、盛土等の地盤における応力可視化方法の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄道、道路のようなものを施工する場合、例えば盛土をしたうえに施工するようなことがあり、この盛土のような地盤に実際にどのような応力が作用するかを知ることは、地盤の崩壊等を予測するために必要である。そしてこのような地盤に作用する応力を知るために、地盤の変位等に起因して発生する(または破壊する)音(AE(アコースティックエミッション)、即ち微小弾性波)を測定して地盤の変位を観測するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−83685号公報
【特許文献2】特開昭64−39580号公報
【特許文献3】特開平8−68672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前記アコースティックエミッションを測定するには、専用のセンサーを土中に埋設し、これをモニタリングして測定することが要求されるため、装置全体が複雑で大型化するだけでなく、地盤に応力が作用した場合に、該応力の伝播状態については観測できないという問題がある。
そこで、地盤が礫や砂のように粒径が大きいものについては、これらに電子タグを取付け、応力が作用したときの変位を測定することが提唱されるが、地盤が泥土や粘土のように粒径が小さいものについては電子タグを取付けることはできないため測定することができず、ここに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、地盤に作用する応力を可視化する方法であって、地盤に、破壊強度の異なる複数種類のカプセルに染料或いは顔料を封入すると共に該カプセルを破壊強度別に区分して配した感圧発色体を埋設して、地盤に作用する応力に応じて前記カプセルが破壊されることで染料または顔料が発現した区分により、地盤に作用する応力を可視化することを特徴とする地盤における応力可視化方法である。
請求項2の発明は、請求項1において、感圧発色体は、カプセルの破壊強度別の区分が破壊強度順に配されていることを特徴とする地盤における応力可視化方法である。
請求項3の発明は、請求項2において、感圧発色体は、カプセルの破壊強度別の区分が並列状に配されていることを特徴とする地盤における応力可視化方法である。
請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れか一項において、感圧発色体には、カプセルの破壊強度の数値が記載されていることを特徴とする地盤における応力可視化方法である。
請求項5の発明は、請求項1乃至4の何れか一項において、感圧発色体を、地盤の水平方向及び垂直方向に複数埋設することを特徴とする地盤における応力可視化方法である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明とすることにより、地震等により地盤に応力が作用した場合には、該地盤に埋設された感圧発色体の染料或いは顔料の発現区分により、 地盤に作用した応力を可視化できることになり、而して、地盤に作用した応力を、極めて簡単且つ明瞭に知ることができる。しかも、この方法は、アコースティックエミッション測定用センサーのような複雑で大型の装置を必要としないばかりか、地盤がどの様な大きさの粒子の地盤であっても採用することができて、汎用性に優れる。さらにこのものは、染料或いは顔料が発現した区分によって応力の大きさが可視化されるものであるから、感圧発色体に染料或いは顔料が発現した後に時間経過等により色濃度が薄くなってしまったような場合であっても、発現か未発現かを判別できれば濃度に関係なく応力の大きさを正確に知ることができると共に、色濃度計を用いて色濃度を測定したりする手間も必要なく、極めて簡単に応力の大きさを知ることができる。
請求項2の発明とすることにより、染料或いは顔料が発現した区分を視覚的に見つけやすく、よって、より簡単且つ迅速に応力の大きさを視認することができる。
請求項3の発明とすることにより、染料或いは顔料が発現した区分を視覚的に見つけやすいと共に、感圧発色体を製造するにあたり、カプセルの破壊強度別の区分のレイアウトが容易になる。
請求項4の発明とすることにより、地盤に作用した応力の大きさの数値が一目で判ることになり、よって、より迅速且つ正確に応力の大きさを測定できる。
請求項5の発明とすることにより、地盤に作用した応力の方向や分布、伝播状態も可視化できることになる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】感圧発色体の埋設状態を示す図である。
【図2】(A)は感圧発色体の平面図、(B)は(A)の一部拡大断面図である。
【図3】他例における感圧発色体の一部拡大断面図である。
【図4】(A)、(B)は他例におけるカプセル層の配設を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1において、1は鉄道線路2の路盤となる盛土(本発明の地盤に相当する)であって、該盛土1には、盛土1に作用する応力を可視化するための手段として、感圧発色体3が埋設されている。
【0009】
前記感圧発色体3は、図2に示す如く、基材4と、該基材4上に塗布されるカプセル層5から構成される。上記基材4は、シート状、フィルム状、或いは板状のものであって、例えば、紙、合成紙、プラスティックフィルム等から形成されている。
【0010】
また、カプセル層5は、染料或いは顔料が封入された多数のマイクロカプセル(本発明のカプセルに相当する)6を含有する層であって、該カプセル層5には、異なる破壊強度を有する複数種類のマイクロカプセル6が、破壊強度別に区分された状態で配設されている。
【0011】
つまり、カプセル層5は、前記図2に示すように、区分された複数のカプセル層5A、5B、5C・・・5Nから構成されると共に、これらカプセル層5A、5B、5C・・・5Nには、各カプセル層5A、5B、5C・・・5N別にそれぞれ異なる破壊強度のマイクロカプセル6が含有されている。この場合、カプセル層5A、5B、5C・・・5Nは、含有するマイクロカプセル6の破壊強度順になるように並列状に配設されていて、一端側(図2において左側)に配設されたカプセル層5Aに含有されるマイクロカプセル6の破壊強度が最も小さく、他端側に向かって順次段階的に破壊強度が大きくなり、他端側(図2において右側)に配設されたカプセル層5Nに含有されるマイクロカプセル6の破壊強度が最も大きくなるように配されている。例えば、測定する応力(kN/cm)を、10kN/cmから250kN/cmまでの範囲に設定した場合、各カプセル層5A、5B、5C・・・5Nに含有されるマイクロカプセル6の破壊強度は、カプセル層5Aに含有されるマイクロカプセル6が応力10kN/cmで破壊され、カプセル層5Nに含有されるマイクロカプセル6が応力250kN/cmで破壊されるものとし、カプセル層5Aからカプセル層5Nまでの間は、例えば、10kN/cm或いは20kN/cm刻みに順次段階的にマイクロカプセル6の破壊強度が大きくなるように配設される。尚、前記各カプセル層5A、5B、5C・・・5Nは、本発明の区分に相当する。また、カプセル層5には、マイクロカプセル6の保護材料として、アラビアゴムやゼラチン、でんぷん粒子等が配合されている。
【0012】
さらに、基材6には、前記各カプセル層5A、5B、5C・・・5Nに含有されるマイクロカプセル6の破壊強度の数値が記載される破壊強度記載欄7が設けられている。これにより、後述するようにマイクロカプセル6が破壊されて染料或いは顔料が発現した場合に、該染料或いは顔料が発現したカプセル層5のマイクロカプセル6の破壊強度の数値を、一目で確認できるようになっている。尚、
本実施の形態の破壊強度記載欄7には、各カプセル層5A、5B、5C・・・5N毎にマイクロカプセル6の破壊強度が記載されているが、これに限定されることなく、例えば50kN刻みに数値を記載し、その間は目盛をふるようにすることもできる。また、この様な破壊強度記載欄7は必ずしも設ける必要はなく、別途準備した資料によって、各カプセル層5のマイクロカプセル6の破壊強度の数値を確認できる構成にすることもできる。
【0013】
前記マイクロカプセル6に封入される染料としては、例えば、キサンテン系、チアジン系、フェニルメタン系、インジゴイド系、アゾ系、クマリン系、アジン系、ポリメチン系、シアニン系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ピラゾリン系、スチルベン系、キノリン系等の化合物やこれらの混合物を使用することができ、また、顔料としては、例えば、黄鉛、亜鉛黄、鉛丹、酸化鉄赤、ウルトラマリン青、フェロシアン化鉄カリ、カーボンブラック等の無機顔料、或いはアゾ系、フタロシニアン系、インジゴイド系、アントラキノン系等の有機顔料を使用することができるが、本実施の形態では、白色以外の染料或いは顔料が使用されている。
【0014】
また、マイクロカプセル6の膜壁は白色不透明であって、マイクロカプセル6の破壊前に、封入されている染料或いは顔料の色が透けないようになっていると共に、破壊されたマイクロカプセル6から放出された染料或いは顔料の色と明確に識別できるようになっている。この様な白色不透明のマイクロカプセル6は、例えば、ポリ尿素樹脂、尿素−ホルムアルデヒド樹脂、メラニン−ホルムアルデヒド樹脂、飽和ポリエステル、ポリウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等を用いて形成することができる。また、破壊強度の異なるマイクロカプセル6の製造については、既に周知となっているため説明は省略するが、マイクロカプセル6の粒径や膜厚を異ならしめることによって破壊強度を調節することができる。尚、本実施の形態では、マイクロカプセル6の膜壁を白色とし、マイクロカプセル6に封入される染料或いは顔料の色を白色以外としたが、これに限定されることなく、マイクロカプセル6の膜壁の色と封入される染料或いは顔料の色とが異なっていれば、つまり、マイクロカプセル6の破壊前と破壊後とを明確に識別できるならば、マイクロカプセル6の膜壁を白色以外の色にし、封入される染料或いは顔料の色を白色にしても良い。
【0015】
そして、前記マイクロカプセル6は、破壊強度以上の応力が作用することにより破壊され、これによりマイクロカプセル6に封入された染料或いは顔料が発現することになるが、前述したように、感圧発色体3には、破壊強度の異なる複数種類のマイクロカプセル6が、破壊強度別に各カプセル層5A、5B、5C・・・5Nに区分された状態で破壊強度順に配設されているため、作用する応力以下の破壊強度のマイクロカプセル6が含有されたカプセル層5の区分の染料或いは顔料の色が発現することになり、而して、染料或いは顔料の色が発現したカプセル層5の区分によって、感圧発色体3に作用した応力の大きさを可視化できるようになっている。この場合、感圧発色体3には、前述したように、各カプセル層5A、5B、5C・・・5Nに含有されるマイクロカプセル6の破壊強度の数値が破壊強度記載欄7に記載されているため、染料又は顔料の色が発現したカプセル層5のうち、最も破壊強度の大きいマイクロカプセル6を含有するカプセル層5の破壊強度を破壊強度記載欄7で確認することによって、作用した応力の大きさを一目で測定できるようになっている。
【0016】
そして、前記感圧発色体3を用いて盛土1に作用する応力を可視化するにあたり、前記図1に示す如く、盛土1の土中に、水平方向及び垂直方向に複数埋設しておき、そして、例えば地震が発生したような場合に、感圧発色体3の埋設箇所を掘り起こして、染料或いは顔料が発現したカプセル層5の区分を視認する。これにより、盛土1に作用した応力の大きさや方向、分布、伝播状態等を可視化できるようになっている。尚、図示しないが、感圧発色体3は、例えば軟性樹脂材等からなる透明なフィルム状の保護被膜で被覆されており、これにより、土中に含有される水分や物質等によって感圧発色体3が変質したり劣化したりしないように保護されている。また、個々の感圧発色体3には埋設箇所を特定するためのマーキング(図示せず)がされており、これによって、盛土1に応力が作用したときに感圧発色体3が変位したとしても、変位前の感圧発色体3の埋設箇所を特定することができるようになっている。
【0017】
叙述の如く構成された本形態において、盛土1に作用する応力を可視化する場合には、前述したように、盛土1の土中に、感圧発色体3を水平方向及び垂直方向に複数埋設しておくが、該感圧発色体3は、破壊強度の異なる複数種類のマイクロカプセル6に染料或いは顔料を封入すると共に、該マイクロカプセル6が破壊強度別に区分して配設されたものであり、而して、盛土1に応力が作用した場合には、該作用した応力に応じてマイクロカプセル6が破壊され、該破壊されたマイクロカプセル6を含有する区分の染料或いは顔料が発現することになり、これにより、盛土1に作用した応力の大きさや方向、分布、伝播状態等が可視化されることになる。
【0018】
この結果、例えば地震が発生したような場合には、感圧発色体3の埋設箇所を掘り起こして、該感圧発色体3において染料或いは顔料が発現した区分を視認することによって、盛土1に作用した応力の大きさや方向、分布、伝播状態等を、極めて簡単且つ明瞭に知ることができることになる。しかも、この方法は、アコースティックエミッション測定用センサーのような複雑で大型の装置を必要としないばかりか、盛土1がどの様な大きさの粒子の地盤であっても採用することができて、汎用性に優れる。
【0019】
さらにこのものでは、染料或いは顔料が封入されたマイクロカプセル6を破壊強度別に区分し、そして、染料或いは顔料が発現した区分によって応力の大きさを可視化するものであるから、感圧発色体3に染料或いは顔料が発現した後に時間経過等により色濃度が薄くなってしまったような場合であっても、発現か未発現かを判別できれば色濃度に関係なく応力の大きさを正確に測定することができると共に、色濃度計を用いて色濃度を測定したりする手間も必要なく、極めて簡単に応力の大きさを測定できることになる。
【0020】
そのうえ、前記感圧発色体3において、破壊強度別に区分されたマイクロカプセル6を含有する各カプセル層5A、5B、5C・・・5Nは、破壊強度順に並列状に配設されているから、染料或いは顔料が発現した区分を視覚的に見つけやすく、よって、より簡単且つ迅速に応力の大きさを視認することができる。また、感圧発色体3を製造するにあたり、カプセル層5A、5B、5C・・・5Nのレイアウトも容易になる。
【0021】
さらに、前記感圧発色体3には、各カプセル層5A、5B、5C・・・5Nに含有されるマイクロカプセル6の破壊強度の数値が記載される破壊強度記載欄7が設けられているから、盛土1に作用した応力の大きさの数値が一目で判ることになり、よって、より迅速且つ正確に応力の大きさを測定できることになる。
【0022】
尚、本発明は、上記実施の形態に限定されないことは勿論であって、カプセル6に封入される染料としては、例えばロイコ染料のように、顕色剤と反応することにより発色する染料前駆体を用いることもできる。この場合には、例えば図3に示す如く、基材4の上に顕色剤層8が塗布され、該顕色剤層8の上に、染料前駆体が封入された破壊強度別のマイクロカプセル6を含有する各カプセル層5A、5B、5C・・・5Nが塗布される。そして、このものにおいては、応力に応じて破壊されたマイクロカプセル6から放出される染料前駆体と顕色剤とが反応して発色したカプセル層5の区分により、地盤に作用する応力が可視化されることになる。
【0023】
また、感圧発色体3にマイクロカプセル6を破壊強度別に配設するにあたり、上記実施の形態では、破壊強度別のマイクロカプセル6を含有する各カプセル層5A、5B、5C・・・5Nを並列状に配設したが、これに限定されることなく、例えば、図4(A)に示す如く、各カプセル層5A、5B、5C・・・5Nを放射状に配設したり、図4(B)に示す如く、同心円状に配設したりしても良い。尚、図4中、7は各カプセル層5A、5B、5C・・・5Nに含有されるマイクロカプセル6の破壊強度の数値が記載された破壊強度記載欄である。
【0024】
さらに、上記実施の形態では、カプセルとしてマイクロカプセルが用いられているが、これに限定されることなく、nm(ナノメートル)やmm(ミリメートル)の領域の大きさのカプセルを用いても良い。また、同一の破壊強度を有するカプセルの数量についても限定されることなく、小さなカプセルであれば数万個以上、また大きなカプセルであれば一個でも良く、要は、カプセルが破壊された時に発現する染料或いは顔料の色が確実に視認できる数量であれば良い。
さらにまた、本発明は、鉄道線路の路盤となる盛土だけでなく、道路や宅地などの種々の地盤に作用する応力の可視化方法として実施できることは、勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、盛土等の地盤に作用する応力の大きさ、分布、伝播状態等を可視化する場合に利用することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 盛土
3 感圧発色体
5 カプセル層
6 マイクロカプセル
7 破壊強度記載欄

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に作用する応力を可視化する方法であって、地盤に、破壊強度の異なる複数種類のカプセルに染料或いは顔料を封入すると共に該カプセルを破壊強度別に区分して配した感圧発色体を埋設して、地盤に作用する応力に応じて前記カプセルが破壊されることで染料または顔料が発現した区分により、地盤に作用する応力を可視化することを特徴とする地盤における応力可視化方法。
【請求項2】
請求項1において、感圧発色体は、カプセルの破壊強度別の区分が破壊強度順に配されていることを特徴とする地盤における応力可視化方法。
【請求項3】
請求項2において、感圧発色体は、カプセルの破壊強度別の区分が並列状に配されていることを特徴とする地盤における応力可視化方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項において、感圧発色体には、カプセルの破壊強度の数値が記載されていることを特徴とする地盤における応力可視化方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項において、感圧発色体を、地盤の水平方向及び垂直方向に複数埋設することを特徴とする地盤における応力可視化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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